No.852468

飛将†夢想.10

激突する呂布対反董卓連合。
鬼神が殺戮の演舞を踊る。

再版してます。。。
作者同一です(´`)

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2016-06-10 12:21:54 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:1491   閲覧ユーザー数:1375

 

連合軍・陣営前

 

 

「ひぎゃあッー!!?」

 

 

「ぐへぁっ!?」

 

 

悲鳴や叫び声が響き渡り、

血や体の部位が飛び散る地獄絵図が展開されていた。

 

その中心に立つのは、

鮮血に塗れながら不敵に笑う呂布。

その手に持つ方天画戟と両刃剣からは血が滴り、

零れ落ちた血は紅く染まった大地に同化していく。

 

 

「くっ、やめろ!!」

 

 

「鈴々たちを狙うのだ、鈴々と闘うのだッ!!」

 

 

そこに、

兵士の被害をこれ以上増やさない為、

殺戮を続ける呂布の前に関羽と張飛が再び現れる。

 

だが、

呂布の前に立ちはだかろうとしたのは、

関羽と張飛だけではなかった。

 

 

「関羽ッ、貴様だけに良いところは取らせぬぞ!!夏侯元譲、此処にあり!!敵将よ、我が剣の錆となるがいい!!!」

 

 

呂布の右側からは、

黒髪を靡かせ呂布に向かって走り出す、

曹操配下・夏侯惇。

 

 

「何だか、面白そうね………祭、母様に宜しく言ってて頂戴」

 

 

「ッ、さ、策殿!?」

 

 

呂布の左側からは、

桃色の髪をした褐色の肌の娘…孫策が銀髪の女性の制止を無視すると、

剣を抜き走り始める。

 

 

「浦公英ッ、私も行ってくる、部隊を任せたぞ!!」

 

 

「あ、お姉様、そんな勝手なこ………あぁ、行っちゃった…」

 

 

呂布の後方からは、

銀の槍を携えた茶髪の娘…馬超が、

関羽と張飛の行動に触発されて一戦交わえんと戦場を駆けた。

 

呂布は正面の関羽と張飛に、

横目で確認した夏侯惇と孫策、

背後から感じる馬超の殺気から、

五将が自分に挑んできたことを察知する。

 

すると、

呂布は突然手に持っていた方天画戟を離すとそのまましゃがみ、

下に落ちていた槍を掴むなり、

右手から来る夏侯惇に向かって物凄い勢いで槍を投擲した。

 

その投擲の隙をついて呂布に斬り掛かる関羽と張飛だったが、

関羽の青龍堰月刀は左手の両刃剣で受け止められ、

蛇矛を振るう張飛は左足で腹部を蹴られ吹き飛ばされる。

 

 

「ぐっ!!?」

 

 

そして、

自分に向かって凄まじい勢いと重さで飛んできた槍を何とか剣で弾くことが出来た夏侯惇だったが、

その一撃に腕を痺らせ体勢も崩してしまう。

 

だが、

その間にも孫策と馬超は呂布に迫る。

そして、

 

 

「ハァッ!!!」

 

 

先に呂布の間合いに入った孫策が、

片手で関羽と鍔ぜり合いをする呂布に、

獲物を襲う虎の様に襲い掛かった。

 

これに対して呂布は空いた右手を強く握り締めると、

腰を使って関羽の顔目掛けて拳を振るう。

 

 

「なっ!?」

 

 

関羽は拳を避けるべく自ら後方へ下がる。

それと同時に青龍堰月刀を受け止めていた両刃剣が軽くなると、

呂布は瞬間的にその剣先を孫策に向けた。

 

 

「ッ!!?」

 

 

突然突き付けられた剣を前に、

剣を振り下ろす寸前で身体を固まらせてしまう孫策。

 

 

呂布は攻撃を止める孫策を確認すると、

武器を構え隙を伺う関羽に目をやり、

牽制しながら足を使って地面に落とした方天画戟を蹴り上げるとそれを取ろうとした。

 

だが、

 

 

「取ったぜッ!!」

 

 

次は後方から呂布の首を狙って馬超が飛び掛かる。

 

しかし、

呂布の表情には余裕があった。

 

前を見たまま右手を後ろにやる呂布。

そして、その右手で飛び掛かる馬超の槍の刃を自身の首に突き刺さる寸前で掴むと、

そのまま馬超ごと前に叩き付けた。

 

 

「カハッ!!?」

 

 

勢いよく地面に叩き付けられ、

肺の中にあった酸素を全て出し呼吸困難になる馬超。

 

その真上で蹴り上げ落ちてきた方天画戟を悠々と掴むと、

呂布は動けずにいる関羽たちを見渡し、

 

 

「…人を殺す時は声を発せず殺せ。声を発する暇があれば一度でも多く武器を振るえ」

 

 

微笑しながら彼女たちに教示する。

まるで『また、殺し合おう』と言わんばかりに。

 

呂布の言葉から、

まだ全力を出していない事を察し、

呂布の無敵とも思える強さに衝撃を受ける関羽たち。

だが、震える身体を抑えながら彼女たちは必死にその恐怖に抗い、

再び挑む。

 

呼吸を整えた馬超が機会を見て槍を握る手に力を、

もう片方の手で呂布の右足を掴んだのだ。

 

だが、馬超が呂布の右足を掴んだ瞬間、

呂布の左足は既に馬超の腹部を蹴り上げていた。

馬超は余りの激痛に気絶してしまう。

 

しかし、

その一瞬の出来事を逃さぬ孫策。

呂布の突き出されていた剣をかわすと姿勢を低くしたまま斬り掛かる。

 

呂布は右手に持った方天画戟の長さを活かし、

孫策が斬り掛かる前に槍把の部分で鳩尾を勢いよく突き、

再び攻撃を回避。

鳩尾を突かれた孫策も前のめりで倒れ戦闘不能になってしまう。

 

だが、

関羽も二人が作ってくれた隙を活かさないはずがなく、

前のめりで倒れる孫策を横目に呂布の首を切断せんと青龍堰月刀を横に振るっていた。

 

呂布も関羽が斬り掛かる前提で孫策を攻撃したのだろう、

方天画戟の槍把で孫策の鳩尾を突いた瞬間、

左肩から前に飛び込むように前転しギリギリで青龍堰月刀を避ける。

 

更に自分の足に飛び込む様に前転してきた呂布に、

関羽は足を取られ呂布を飛び越え顔から地面に向かって倒れてしまう。

 

 

「しまっ……うッ!?」

 

 

顔の痛みを我慢しながら、

この状況から脱するべく慌てて立ち上がろうとする関羽だったが、

後頭部に強い衝撃が走ると目の前を真っ暗にして、

意識を失った。

 

倒れ込む関羽の後ろには方天画戟を逆さまに持った呂布の姿が。

呂布は気絶した関羽たちを見下ろすと、

追い討ちはせずにそのまま連合軍の本陣目掛けて走るのだった。

 

 

反董卓連合・本陣

 

“敵将が単騎で味方部隊を突破し、本陣に向かっている”

 

この報は直ぐに連合軍の総大将である袁紹に伝えられる。

これを聞いた袁紹はまさかの報告に唖然。

だが、同じく本営にいた曹操は袁紹の様に驚かず、

一人の男の顔を思い浮かべていた。

 

 

「…呂布、奉先…」

 

 

猛将揃いがいる連合軍の部隊を一人であっという間に突破出来る者はあの男ぐらいしかいない。

 

曹操はそう確信すると、

厳しい表情を浮かべて本営を後にする。

 

本営の外では将兵たちが慌てた表情で走り回っており、

それを見た曹操があの報告は本当であると改めて確信していると、

 

 

「華琳様ッ…」

 

 

彼女の前に深刻な表情をした夏侯淵が駆け寄る。

 

夏侯淵の表情から察したのか、

曹操は目をつぶって自身を落ち着かせる様に呼吸を整え、

口を開いた。

 

 

「……春蘭は生きているの?」

 

 

「命には別状ありません。しかし、今だに腕を痺れさせ剣も持てない状態に………ッ、華琳様、直ぐにでも私に出撃の許しをッ!!」

 

 

「そう…」

 

 

曹操は夏侯淵の言葉から夏侯惇の生存を知ると、

胸に手をやって軽く安堵し、

直ぐにでも姉に怪我を負わせた相手を殺さんと闘志を燃やす夏侯淵、

その後ろに集まった兵士たちに命令を下す。

 

だが、

その命令は夏侯淵の望む内容ではなかった。

 

 

「…いかなる状況でも大局を見誤っては駄目よ、秋蘭。この戦いの勝利に奴の死は関係無い………我が軍はこれより、単騎駆けしている敵将を迂回、そのまま泗水関への攻撃を再開する!!」

 

 

得物である鎌を一振りした曹操は、

そのまま鎌を泗水関に向け高らかに号令を放つ。

 

その号令に兵士は雄叫びを上げて応え、

夏侯淵は主君の命として我慢しながら掌と拳を合わせてこれに応える。

 

その曹操の部隊を近くで見ていた者も、

その行動に呼応しようとせんとしていた。

 

 

「…ほぉ、やはり動くか」

 

 

孫策と同じ桃色の髪頭に、

無駄の無い締まった褐色の身体、

細く鋭い目をした妙齢の女…孫堅はニヤリと笑いながら自身の顎を摩りながら呟く。

 

 

「あの者は大局というものを見抜いておる…」

 

 

と、孫堅の下に孫策を制止しようとした銀髪の将…黄蓋が現れる。

孫堅は黄蓋の言葉に納得する様に頷いた。

 

 

「ああいう将が漢の将としている事は大変喜ばしい。雪蓮にも見習ってもらいたいものだ…」

 

 

「大殿、その策殿なのだが…」

 

 

孫堅の口から出た孫策の名前に、

困った顔をしながら黄蓋が孫堅の顔を伺う。

だが、孫堅は内容知っているかの様に微笑し、

 

 

「私の娘だ。自ら飛び出した戦場で死んでも悔いはあるまい。まぁ、泗水関に向かう時に生きていたら、拾ってやれ」

 

 

黄蓋の肩をポンと叩くと、

そのまま部隊に号令を発した。

 

 

「先頭はこの“江東の虎”孫文台が行く!!親が子に餌を与えるのは当たり前だ、お前たちは我に畏怖し横に逸れて身を護る獲物どもを喰らえ!!剣を抜け、牙を立てろ!!猛虎の戦、天下に知らしめよ!!!」

 

 

号令を発した孫堅はそう言うと、

得物である南海覇王を高らかに掲げ、

先頭を駆ける。

泗水関目掛けて。

 

曹操と孫堅の部隊が本陣から飛び出すと、

殺戮を繰り返す呂布を見つける。

 

呂布も連合軍の兵士を屠りながら二人の部隊に気付くが、

部隊は呂布を遠回りに避けて移動すると、

そのまま無視して泗水関へ向かった。

 

 

呂布も彼女らを無視する。

彼もまた、彼女たちの様に目的を果たそうとしていたのだ。

 

その証拠に勇将たちを倒した今、

簡単に行けるはずの本陣には突撃せず、

その前で敵の部隊を誘い出すかのように周りの兵士しか殺さなかった。

 

 

(…本陣前で暴れれば、あの袁紹のことだ。自分を護る為に全軍を俺に向かわせるはず)

 

 

呂布の狙いは、

泗水関ではなく自身に戦力回すように袁紹を心理的に追い詰める事にあった。

 

そして、

その際に切れ者である曹操が単独で泗水関を攻める事も呂布は予想しており、

その目でそれを確認した時、

呂布は策が成った事を悟る。

 

 

「…俺一人の力でも袁紹なぞ造作もなかっただろうが…」

 

 

呂布はそう苦笑しながら呟くと、

連合軍の兵士が遠巻きに囲まれる中、

地に落ちていた槍を一本拾う。

その呂布の行動に兵士たちは慌てて身構える。

 

 

(投げてくるッ!?)

 

 

誰もがそう考えた。

だが、呂布は誰に投げる訳でもってなく槍を自身の真上、

空に向かって勢いよく投げたのだ。

 

呂布の謎の行動に兵士たちは呆然。

“今まで暴れていた男が何をしているのだろう”

と口を開けて見てしまう。

 

そんな兵士たちの行動を復活させたのは、

余り特徴の無い赤髪の将らしき人物の叱咤であった。

 

 

「何をしているんだ、お前たちッ!?今が好機だぞ、この公孫賛に続けッ!!」

 

 

兵士たちは公孫賛と名乗る女の言葉に我に返ると、

槍を投げ空を見上げながら目を瞑る呂布に向かって飛びかかる。

 

そんな中、

呂布は目を開けようとせず、

ただ耳を澄ます。

彼女たちとのを再会を待って。

 

 

 

 

………ドドドドドドドドッ!!!!!!

 

 

徐々に響き、震え始める大地。

呂布を囲う連合軍がこの事態に呂布への攻撃を止めてしまう。

そして、彼らはその原因を目撃した。

 

 

「ほーうーせーん様ぁッ♪」

 

 

「動揺する敵を殲滅する!!逆落としの威力、その身で味わえッ!!」

 

 

 

崖から落ちるように連合軍目掛けて突撃する数百騎の騎馬隊。

騎馬隊は全員黒の頭巾を頭に巻き、

その先頭にはかつての仲間である張燕と何儀の姿があった。

 

 

「ひ、ひぃぃぃっ!!?」

 

 

突然の奇襲に慌てふためく連合軍の将兵たち。

それを面白いように逆落としの勢いで騎馬隊が蹂躙し、

呂布の周りにいた兵士たちは全滅する。

 

兵士たちの喚声と悲鳴がまだ響き渡る中、

呂布の下へ行く張燕と何儀。

その表情は戦いが終わっていないのにも関わらず歓喜に満ちていた。

 

 

「奉先さ、あぐわッ!!?」

 

 

そして、

その気持ちを押さえ切れなかった何儀が呂布に桃色の気を放ちながら飛びかかる。

だが、それを呂布は掌底で何儀の顎下から撃ち抜き、

これを撃墜。

何儀が顔から地面に落下していく中、

呂布は何事も無かったかのように微笑しながら張燕に顔を向けた。

 

 

「…元気そうで何よりだ」

 

 

「…呂布殿も、お変わりなく」

 

 

張燕も呂布の言葉に笑みを浮かべ、

拱手する。

 

その時、

 

 

「オーホッホホホ!!!さぁ、この袁本初が此処まで出向いたのですから、貴方たちは全軍であの不男を討ち取りなさいッ!!私は此処でそれを見守っていますわ…さぁ、お・は・や・く!!」

 

 

「…物凄い理由だな。しかも、麗羽様は行かないんだ」

 

 

「文ちゃん、それが麗羽様だよ………ぁう」

 

 

本陣に待機していた袁紹が文醜・顔良を傍らに従え、

大部隊を引き連れて現れたのである。

高笑いしながら命令を下す袁紹に、

ハァと溜息をつく文醜と顔良は、そのまま部隊の先頭に立つと呂布に向かって突撃した。

 

連合軍の総力戦の構えに、

 

 

「…全て計画通りだ。張燕、直ぐに泗水関へ戻るぞ」

 

 

呂布はこちらに向かってくる敵部隊を見たまま張燕にそう言うと、

気絶する何儀を小脇に抱えて彼女に乗っていた馬に乗り、

泗水関に向けて走らせる。

 

 

「はっ!!皆、呂布殿に続け!!」

 

 

張燕は呂布の言葉に応えると、

騎馬隊に命令を下し自身も呂布の後を追った。

 

 

その頃、

泗水関では…

 

 

「曹操の部隊が来るだけやなかったんか!?」

 

 

「何なんですか、あの部隊は!?陽炎の部隊が圧されてるのです!!」

 

 

関から霞と音々音が目に映る光景に唖然としていた。

此方に向かってきた曹操たちを牽制しようと部隊を率いて出撃した陽炎が、

孫堅率いる部隊に圧倒されていたのだ。

 

 

「私が出るッ、門を開けろ!!」

 

 

この事態に縄から解放された華雄が出撃しようとするのだが、

 

 

「アホ、そないなことしたら振り出しに戻るやないか!?ねね、撤退の合図出しいッ!!」

 

 

霞がそれを羽交い締めで抑え、

そのまま音々音に伝える。

それを聞いた音々音は頷くと直ぐに兵士に銅鑼を鳴らさせた。

 

更にそれと同時に、

 

 

「あの赤い部隊を狙いッ、撃てぇッ!!」

 

 

そのままの状態で霞が自分の部隊に命令を下す。

部隊は直ぐに反応し、

関より孫堅率いる部隊目掛けて矢の雨を降らせる。

 

 

「チイッ、私に狙いを絞ったか…」

 

 

これには流石の孫堅も雨のように降る矢を剣で払い、

陽炎への攻撃を止めてしまう。

この隙に陽炎の部隊はその場を反転、

何とか泗水関へ逃れることが出来た。

 

 

だが、孫堅の部隊に攻撃を集中させたのが仇になったのか、

この機会に曹操は部隊を泗水関に張り付かせ、工作活動を開始。

梯子を泗水関に掛け関所内に兵士を向かわせる一方、

大きな盾を持たせた兵士に守らせながら衝車を造らせる。

 

 

「敵部隊が張り付いたのです、霞は直ぐに部隊を率いて…」

 

 

「分かっとる!!」

 

 

音々音は泗水関に張り付いた曹操の部隊を退ける為に霞に指示を出そうとするが、

音々音の言葉よりも先に霞は駆けていた。

 

下駄で滑りながら曹操が攻撃する地点に到着する霞。

霞は直ぐに泗水関に掛かった一つの梯子に向かうと、

勢いをつけたままそれを蹴り落とす。

 

兵士を上らせたまま落下する梯子。

それを見た夏侯淵が弓を構えた。

 

 

「我が渾身の一矢、受けるがいいッ!!」

 

 

言葉を終えると同時に霞を狙って矢を放つ夏侯淵。

想像を絶する速度で放たれた矢は空気を裂きながら霞に向かう。

 

 

「ぐげっ!!?」

 

 

夏侯淵の放った矢は霞の横顔ギリギリを通過し、

矢はそのまま霞の後ろにいた兵士を貫き、

兵士は矢の勢いに後方へ吹っ飛んだ。

 

 

「何ちゅう一撃や、あり得へん…」

 

 

夏侯淵の放った矢に霞が冷や汗をかいていると、

更に事態は悪化する。

 

 

「祭、泗水関の弓兵を狙え、戦力を分断させろ!!」

 

 

次は孫堅の部隊が泗水関に張り付いたのだ。

これには音々音も動揺を隠しきれなかった。

 

 

「まさか二つも部隊を張り付けてしまうとは…」

 

 

「…切れ者が二人もいたとはな。これは予想外」

 

 

と、そこにボロボロになった陽炎が泗水関に現れる。

陽炎は音々音を見ると軽くその頭を撫で、

直ぐに孫堅が攻撃する地点へ向かう。

 

ボロボロの身で駆ける陽炎の後ろ姿を見ると、

音々音はその目に涙を浮かべてしまう。

 

その涙の一番の理由は、不甲斐ない自分にあった。

敬愛する者に任された守護騎の総指揮の任を全うするどころか、

他の将が気を使って言われる前に行動をする始末。

 

それに比べて自分は動揺して今もこうして何も出来ない。

音々音は自身への怒りに拳を震わせる。

 

丁度その時、

 

 

「ッ、連合軍の新手が来たぞ!!」

 

 

音々音は泗水関の兵士の一人が遠くを指差し叫ぶのを耳にする。

その言葉に兵士が指差す方向バッと振り向くと、

涙を流す顔に笑顔が戻った。

 

 

「呂布殿です、呂布殿なのですッ!!!」

 

 

飛び跳ねながら言う音々音。

彼女の目には砂塵を巻き起こしながら馬を走らせる呂布を先頭に張燕ら黒頭巾を被った騎馬隊が数百騎が映っており、

その後方を様々な軍旗を持った連合軍の兵士がそれを追撃していた。

 

その光景は、

まるで先頭を駆ける呂布が何十万もの軍勢を引き連れているかのようで、

それを目撃した泗水関の董卓軍の者たちは一瞬錯覚に陥る。

 

 

「来るの遅いで、呂布ちんッ!!華雄、今までの鬱憤を晴らす時や、ウチらの分まで暴れてきぃ!!」

 

 

「無論、そのつもりだ!!」

 

 

呂布の登場に霞はニッと笑ってみせると、

既に部隊を準備していた華雄に出撃を促す。

 

それに対して、

華雄は戦斧を頭上で回転させると“私に任せろ”といわんばかりにビシッと霞を指差し、

泗水関から出撃した。

 

 

「泗水関より再び敵部隊出撃!!敵将は華雄かと!!」

 

 

華雄の出撃を直ぐに曹操に伝える物見の兵士。

最前線にいた曹操はまだ呂布が戻ってきた事を知らないのか兵士の言葉に、

華雄の出撃は泗水関陥落最大の好機、

とニヤリと笑う。

 

 

だが、

そんな曹操の笑みも、

 

 

「ほ、報告ッ!!後方より敵軍が接近!!」

 

 

新たに来た伝令の報告に消え失せ“誤報だろう”と、

目を見開いて伝令に聞き返す。

 

 

「馬鹿な、後方は我らの陣。たとえ敵が来たとしても、あの男だけ…軍勢が来るはずが………ッ!?」

 

 

曹操はそこまで言うと、

自身の過ちに気付いたのか言葉を止めてしまう。

 

 

(私があの男ならば…)

 

 

曹操がそう思い後ろを振り返った時には、

既に敗北がそこにあった。

 

曹操の目に映る、

数十万もの軍勢が此方に向かってくる光景。

同じ光景を目の当たりにした彼女の部隊は死を覚悟する。

 

そして、

呂布が率いる騎馬隊とそれを追撃する連合軍の巨大な人の波は曹操たちを飲み込んだ。

 

連合軍に起きる同士討ち。

この機会を逃さぬ出撃した華雄の猛攻。

 

 

「黒頭巾の者たちと漆黒の鎧を着た呂布殿以外を狙えなのです!!鮮やかな色ばかりを狙えば良いのです!!」

 

 

更に追い討ちをかけるように、

音々音の指揮による泗水関からの駄目押しの一斉射撃が敢行される。

これには名将である曹操と孫堅も成す術がなく、

遂には矢が降り注ぐ戦場を駆け抜けた呂布が泗水関への帰還を成功するのであった。

 

連合軍全体が同士討ちを収拾したのは、それから暫くしてからのこと。

曹操・孫堅の両名が大声を上げ、冷静に少しずつ全体の混乱を収めなければ、

連合軍は壊滅的な状況に陥っていたことだろう。

被害甚大である連合軍は改めて自分たちの危機を察すると、

直ぐに部隊を引き返した。

 

敗走する連合軍を華雄が追撃していくと暫くして泗水関に静寂が訪れる。

泗水関の外は連合軍の屍で溢れていた。

 


 
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