No.849632

英雄伝説~菫の軌跡~

soranoさん

第5話

2016-05-26 00:01:50 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:943   閲覧ユーザー数:889

~グリムウッド法律事務所~

 

「―――失礼します。」

「おお、君達か。お疲れさま。頑張っているようだね。」

ロイドの声に気付いた事務所の中にいた男性――――イアンは書物の整理を止め、ロイド達に近づいて笑顔を見せた。

「はは………先生こそ。」

「相変わらずお忙しくしてらっしゃるみたいですね。」

「はは、もう慣れっこだよ。それはそうと………どうかしたのかね?何やら相談事があるような顔つきをしているが。」

「………驚きました。」

「はは、やっぱわかるもんスかね?」

イアンの言葉を聞いたティオは驚き、ランディは苦笑しながら尋ねた。

「まあ、そういった依頼人をそれこそ山ほど見ているからね。仕事も一区切り付いたところだし、相談くらいには乗れると思うよ。」

「先生………ありがとうございます。」

「それではお言葉に甘えさせていただきます。」

そしてロイド達はレンをイアンに紹介した後、事情を説明した。

 

「なるほど………アルカンシェルに脅迫状が。そして”銀”という差出人とルバーチェとの関係か………」

ロイド達の事情を聞いたイアンは考え込み

「何か………心当たりでも?」

イアンの様子を見たロイドは尋ねた。

「いや、あいにくそれらを結びつける情報は知らないが………”銀”という名前ならば心当たりがないわけではない。」

「え………!」

「本当ですか………?」

「ああ、同じ人物を指しているかどうかはわからないが………それでも構わないかね?」

「ええ、もちろんです!」

「今は少しでも手掛かりが欲しいところッスから。」

「ふむ………前に出張で共和国に行った時なんだが。奇妙な都市伝説を現地の人に聞かされてね。”銀(イン)”と呼ばれている伝説の凶手がいるらしいんだ。」

「銀(イン)―――いわゆる東方読みね。」

(やっぱりか……となるとレンは何か知っているんじゃないのか……?)

「その”凶手”というのは……?」

イアンの話を聞いて静かな表情で呟いたレンをロイドは真剣な表情で見つめ、ティオは疑問に思った事を口にし

「確か刺客とか、暗殺者って意味だったはずだ。主に東の方で使われてる呼び方らしいが。」

ティオの疑問にランディが答えた。

 

「ふむ、よく知っているね。まあ、優秀な傭兵のことを”猟兵(イェーガー)”と呼ぶのと似たような習わしなんだろう。」

「しかし………その都市伝説というのは?」

「ああ、どうやら本当に実在しているのかどうかわからないらしくてね。噂では、仮面と黒衣で身を包み決して素顔を見せないという。影のように現れ、影のように消え、狙った獲物は絶対に逃がさない………そんな亡霊のような存在として噂されているみたいだね。」

「亡霊………」

「ずいぶんと荒唐無稽な話だな………」

「なるほど………だから都市伝説ですか。ですが、その伝説の刺客がどうしてイリアさんに脅迫状を?」

イアンの説明を聞いたロイドは呆け、ランディは目を細め、ティオは納得した様子で頷いた後尋ねた。

 

「………そうね。すぐには繋がらないけれど………もしかして………”黒月(ヘイユエ)”?」

一方エリィは考え込んだ後すぐにある事に気付いてロイドに視線を向け

「ああ………俺もそれは思った。」

「まあ、東方関係で思いつくとしったら真っ先にそっちよねぇ。」

視線を向けられたロイドは頷き、レンは苦笑しながら同意した。

「ふむ………確かに”黒月”はカルバードの東方人街に一大勢力を構えている組織だ。伝説の凶手と何らかの関係があっても不思議ではないが………」

「なるほど………あの若頭が反応した理由が何となく見えて来たな。”ルバーチェ”と”黒月”は現在、この街で対立している………その”黒月”と”銀”ってのが結びついているとしたら………」

「ルバーチェと無関係でありながら彼らが強く意識している存在―――ロイドさんの推測を裏付ける事にはなりそうですね。」

イアンが考え込んでいる中、ランディとティオはそれぞれ考えた事を口にした。

 

「ふむ………興味深いな。しかし―――その”銀(イン)”がどうしてアルカンシェルの大スター、イリア・プラティエを脅すのかね?」

「それは………確かにそうですね。」

「イリアさんとルバーチェの会長が酒の席でトラブルを起こした件………それが関係している可能性は?」

「ううん………どうやら大した話ではなかったみたいだし………ルバーチェの対立相手が彼女を脅す理由にはならないわ。」

ティオの推測にエリィは首を横に振って答えた後、真剣な表情で答えた。

「だな………となると、脅迫状の”銀”ってのは全くの別人って考えた方がいいのかね?」

「いや………これだけ符号が揃っているんだ。全く関係がないと切り捨てるのは早計だろう。―――なあ、みんな。さっきの今で何だけど………一度、”黒月(ヘイユエ)”も訪ねてみないか?」

そしてランディの話を聞いたロイドは答えた後、意外な提案をした。

 

「ええっ!?」

「おいおい……またしてもいきなりだな。」

「考えてもみてくれ。あの”ルバーチェ”に警戒されているほどの勢力だ。そんな相手がこの街に進出して裏社会の覇権を奪おうとしている………場合によっては、ルバーチェより危険な組織かもしれない。」

驚いているエリィ達にロイドは説明し

「それは………」

「……なるほど。これを機会に確かめるわけですね。」

「―――問題は”黒月”が”どう出る”かね。黒月はルバーチェと違って、誰がトップなのかもわかっていないし。」

ロイドの話を聞いたエリィは考え込み、ティオは納得した様子で頷き、レンは真剣な表情で指摘した。

 

「ふむ………”黒月貿易公司”の支社長だが実はこの前、会ったばかりでね。」

するとその時イアンが意外な事を口にした。

「え……!?」

「本当ですか……!?」

「クロスベルでの商取引について法的に問題ないか監査を依頼してきたんだ。違法なところは無かったから結局、引き受ける事になったが………その時に、その支社長と会ったんだ。」

「そ、そうだったんですか……」

「……その……どういった人物でしたか?」

「ふむ……一言で言うと『キレ者』だね。まだ若いのに、飄々とした言動で相手を絡め取っていくというか……とにかく一筋縄ではいかない頭脳の持ち主だと感じさせられたよ。」

「頭脳派、ね。ルバーチェよりそっちの方が厄介そうね。」

「なかなか厄介そうな相手だな。そんなキレ者にわざわざ面会を申し込むのか?」

「ああ……せっかくの口実もある事だしね。どうかな?」

ランディの忠告に頷いたロイドは仲間達を見回して訊ねた。

 

「ハッ……面白そうじゃねぇか。」

「わたしも……少し興味があります。」

「勿論レンも賛成よ。」

「私も”ルバーチェ”についてはある程度は知識があるけど”黒月”はほとんど知らないから……確かにいい機会かもしれないわ。」

「決まりだな。―――イアン先生、お話ありがとうございました。これで何とか捜査を続けることが出来そうです。」

「そうか……ふふ、そうしていると少しガイ君の事を思い出すな。」

「……あ……」

「…………」

イアンの指摘を聞いたロイドが呆けている中レンは真剣な表情でイアンを睨んでいた。

「相手は一応、真っ当な貿易会社を装ってはいる。その意味で、訪ねるだけであればそこまで危険はないだろうが……だが、彼らの本体は巨大な勢力を誇る犯罪組織だ。くれぐれも気を付けたまえ。」

「はい……!」

「ご忠告、感謝します。」

その後法律事務所を後にしたロイド達は”黒月貿易公司”を訪ねる為に港湾区にある”黒月貿易公司”の建物に向かった。

 

~港湾区・黒月貿易公司~

 

”黒月貿易公司”の建物の前に到着したロイド達が扉を開けようとしたが、扉には鍵がかかっており『”黒月貿易公司・クロスベル支社”※ご用命の方はノックしてください』という事が書かれてあるメッセージプレートが付いていた。

「ここか……」

「どうするの?」

建物を見上げて呟いたロイドにエリィは尋ね、エリィに尋ねられたロイドは扉をノックして声をあげた。

「――――すみません!いらっしゃいますか!?」

「………どちら様でしょうか?」

ロイドが扉に向かって声を上げると少しすると足音が聞こえ、そして扉から男の声が聞こえて来た。

「………クロスベル警察、特務支援課に所属する者です。とある事件に関してこちらの支社長さんの話を聞かせて頂ければと思いまして。」

「………………少々、お待ちください。」

ロイドの話を聞いた男の声は少しの間黙り込んだ後返事をし、そして足音を立ててどこかに向かった。

「さてと……」

「鬼が出るか、蛇が出るか……」

「扉が開いてみてのお楽しみね♪」

少しの間待っていると扉が開き、東方風の男が出て来た。

「―――お待たせしました。支社長が会われるそうです。どうぞ中へ。」

「ど、どうも。」

「……失礼します。」

男の言葉を聞いたロイド達は会釈をした後、中に入り、入口にいた男の案内によってある部屋に通された。

 

「やあ、よくいらっしゃいました。」

ロイド達が部屋に入ると眼鏡をかけた東方風の青年がロイド達を見つめた後、椅子から離れてロイド達の前に来た。

「初めまして……クロスベル警察・特務支援課のロイド・バニングスといいます。」

「ふふ……こちらこそ、初めまして。”黒月貿易公司”クロスベル支社を任されているツァオ・リーといいます。ロイドさんにエリィさん、ランディさん、ティオさん、レンさんでよろしかったですか?」

ロイドの自己紹介に口元に笑みを浮かべて頷いた青年―――ツァオは自己紹介をした後ロイド達を見回し、なんと初対面のロイド達の名前を全て言い当てた。

「な……」

「ど、どうしてそちらも私達の名前まで……」

「ふふ、タネを明かしますとクロスベルタイムズを愛読していまして。あなた方の記事を読んでファンになってしまったんです。それで失礼ながら、色々ツテを使ってお名前を調べさせてもらったんですよ。」

「そ、そうだったんですか……」

(おいおい……いきなり先制パンチかよ……)

(頭脳派のキレ者……納得です。)

(うふふ、しかも今日配属したばかりのレンの事まで知っているなんてさすがは”黒月”ね。)

ツァオの話を聞いたロイドは戸惑った様子で頷き、ランディとティオはそれぞれツァオを警戒し、レンは感心した様子でツァオを見つめていた。

 

「いや~、私としては皆さんにお会いできて光栄なんですが……本日はどのようなご用件で?もしや、当社の営業活動に何か問題でもあったのでしょうか?」

「……いえ、そういう訳ではないんです。実は、自分達は現在、”アルカンシェル”に関係する事件を調べていまして……」

「”アルカンシェル”………ああ、あの有名な劇団の事ですね!いや~、クロスベルに来たからには私も一度は見ておきたいんですが忙しくてなかなか時間が取れなくて。そういえば今度、新作が発表されるそうですね?」

「え、ええ……」

「……実は、その新作の公演についてちょっとした問題が起きていまして。その捜査の一環としてこちらに伺わせてもらったんです。」

「ふむふむ……何か事情がおありのようですね。わかりました、詳しい話を聞かせていただきましょう。」

エリィの話を聞いて頷いたツァオはロイド達にソファーに座るよう促し、ソファーに座ったロイド達は事情を話した。

 

「ふむ………”銀(イン)”ですか。」

事情を聞き終えたツァオは考え込み

「こちらの貿易会社は、カルバード共和国の東方人街に本社がおありだとか………もしかしたら、名前くらいご存知ではないかと思いまして。」

「ふふ……なるほど。まるで私達がその”銀”なる犯罪者と関わりがあるかのような仰られようですね?」

ロイドの話を聞き、口元に笑みを浮かべて尋ねた。

「いえ、とんでもない。正直情報が少なくて………こうして藁にもすがる思いでお訪ねしたというだけなんです。」

「ふふ、いいでしょう。あくまで一般的な情報ですが………”銀”についての、もう少し詳しい伝説についてご披露しましょうか。」

「………お願いします。」

「―――”銀”という名前は、共和国の東方人街では非常に有名です。仮面と黒衣で身を包み素顔を見せない凶手……影のように現れ、影のように消え、狙った獲物は決して逃がさない………そして……ここが肝心ですが、どうやら不老不死という話なのです。」

「ふ、不老不死?」

「それはどういう……」

ツァオの話を聞いたロイドは戸惑い、エリィは真剣な表情でツァオを見つめた。

 

「どうやら”銀”は、百年以上前から凶手として活動を続けているそうです。百年前といえば、カルバード共和国が民主化された直後くらいの事ですね。そして、その時の記録を調べると確かに”銀”の名前が頻出するそうです。動乱期の最中、要人を次々と葬った黒衣に身を包んだ謎の魔人としてね。」

「……ますますもって荒唐無稽な話ですね。」

「やっぱり、ただの言い伝えで実在はしてないんじゃねえのか?」

「いえ――――実在しますよ。」

銀の存在について否定的な意見を口にしたティオとランディの意見を否定するかのようにツァオは笑顔で答えた。

「っ……!?」

「なにぃ……!?」

「東方人街の裏側において”銀”はただの伝説ではありません。正体不明ではありますが条件さえ合えばミラで雇える最高の刺客にして暗殺者……あらゆる暗器と符術を使いこなす、神速の迅さを秘めた闇の武術家………そんな存在として認知されています。噂では、とある組織に重宝され、よく仕事を任されているのだとか………」

「………………………」

「……その組織というのは………」

(ちなみにどこかの誰かさんは”とある組織”よりも早く長期契約を結んだけどね♪)

ツァオの説明を聞いたエリィはツァオを睨み、ティオは尋ねている中ツァオの口から出た人物と協力関係であるレンは表情に出さず、ただ黙って様子を見守っていた。

 

「ああ、そうそう。その”銀”ですが………噂では最近、東方人街から姿を消してしまったそうですねぇ。何でも、その組織から大きな仕事が入ったらしく………とある自治州に向かったのだとか。」

「あんた………」

不敵な笑みを浮かべて明確な答えを言わないでおきながらも、明らかに誰でもわかるような話を口にしたツァオをロイドは睨んでいた。

「ふふ、どうしました?その組織が何という名前なのか、私はまだ申し上げていませんよ?その自治州が何処なのかもね。」

「くっ……」

「……どうやら貴方方も”ルバーチェ”と同じようですね。」

「ふふ、たかが地方組織ごときと同じにしないで頂きたい……と言いたいところですが。彼らは彼らで、この特異な街に抜け目なく適応しているだけはある。なかなか手強く、私も手こずらせてもらっています。」

「おいおい………」

「………ぶっちゃけましたね。」

「ふふ、あくまで”ビジネス”の競争相手としての話ですよ。クロスベルは自由な競争が法によって保障されている場所……何か問題でもありますか?」

自分の話を聞いて目を細めているランディやジト目のティオにツァオは笑顔で答えた後尋ねた。

「………………………一つ、聞かせてください。そのルバーチェとの競争の中にアルカンシェルは入っていますか?」

「ほう……?」

そしてロイドの質問を聞き、意外そうな表情をした。

 

「以前、ルバーチェの会長は、アルカンシェルに対して帝都興行を持ちかけたそうです。同じようなことをお考えになってらっしゃるとか?」

「ふふ、確かに共和国の方ではそういった動きもあるようですが………あいにく、私どもの会社は芸能方面には関わっておりません。―――私としても不思議なのですよ。どうして、その脅迫状の最後にそんな名前が書かれていたのかがね。」

「………なるほど。」

ツァオの答えを聞いたロイドは頷いた後立ち上がった。

「―――色々と参考になりました。どうも、ありがとうございました。」

「あら、もういいのかしら?」

ロイドの行動を見たレンは意外そうな表情で訊ねた。

 

「これ以上、ここにいても得られるものは無さそうだ。色々と忙しいみたいだし、そろそろ失礼させてもらおう。」

「……そうね。」

「ふふ、お気遣い感謝します。―――ああそれと、ロイドさん。」

「……なんでしょうか?」

ツァオに視線を向けられたロイドは表情を厳しくしてツァオを睨んだ。

「ふふ……そう恐い顔をしないでください。先程も言ったように……私があなた方のファンというのは本当のことなんですから。」

「え……」

「今回の一件……なかなかに興味深い。いちファンとして、あなた方がどのように解決してくれるか………楽しみにさせていただきますよ。」

その後ロイド達は”黒月貿易公司”のビルを東方風の男と共に出た。

 

 

 


 
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