第38-4話 日常
ユージオSide
僕とアリスが同棲生活を始めて五ヶ月が経ち、もう少しで半年になろうとしている。
二人での生活にも慣れて、でもアリスは今も偶に初々しい反応を見せることがあるのはご愛敬だ。
営みに関係したことでは特に反応するけど、僕もそっちに関しては余裕が無いのを隠すので精一杯だね。
だけどキスには慣れた、というよりも照れたり恥ずかしがるアリスを見ていると嬉しくなるのが大きい。
だから僕も照れてはいるけど、嬉しさとかを前に出すようにしている。
それにしても、これまでの生活に慣れる間も色々とあったなぁ。
―――セルカと氷華と雨縁
氷華と雨縁がやってきた翌日。
やっぱり、そして早速この事態が起きたかぁと呑気に考えた僕はもうこういう事態に慣れているせいだということにした。
その事態というのが…。
「ね、ねね、姉さまっ!? ユ、ユ、ユージオっ!? そ、外に竜がっ!?」
氷華と雨縁が訪れたことを知らなかったセルカが家にやってきて、外に居る二頭を見て混乱しているんだ。
まぁ当然の反応か、いきなり飛竜が二頭も居ればね。
「セルカ、大丈夫よ。彼女達はわたしがお世話をさせていただいた娘とユージオに懐いている娘だから」
「二頭共優しい娘達だから。ほら、セルカらしくありのままで彼女達の前に立てば、彼女達は応えてくれるよ」
先に僕とアリスが外に出て、氷華と雨縁に声を掛けてから彼女達の喉元を撫でてあげれば、心地良さそうに鳴き声をあげた。
やや怯えながらもセルカは家の陰から出てきて、アリスの後ろに隠れた。
二頭を窺うように顔を覗かせると氷華がゆっくりとセルカに顔を近づけた。
硬直したセルカを気にせず、彼女を見つめてから氷華はセルカの身体に頭を擦りつける。
固まっていたセルカだけど、氷華が何もしないことに気付いてゆっくりと頭を撫でた。
「クルルゥッ」
「あ…あたし、セルカ。えっと…」
「この娘は“氷の華”で氷華だよ。アリスに懐いている娘が“雨の縁”で雨縁。どちらも女の子なんだ」
「そうなの……よろしくね、氷華、雨縁」
セルカの言葉を理解したのか、二頭はセルカに懐いたかのように頭を擦り寄せている。
誇り高い竜の性質を抑え、整合騎士の支配下に置くための神聖術は解けた。
それでもここに居て、こんな風に接することができるのは彼女達の元々の性格なのかもしれない。
それにセルカ自身の性格とか、あとはアリスに似ていること、僕達と一緒に居ることとかも関係しているのかな?
竜達は賢い生き物らしいからね。
「普段は気ままに自由行動をさせるからもしかしたら空を飛んでいる姿を村の人達が見るかもしれないの。
その時は公理教会からわたしとユージオが預かっていることを伝えておいてもらえるかしら?」
「分かったわ、姉さま」
ここから離れることはないと思うけど、彼女達の行動を抑制するつもりもない。
賢いこの娘達なら下手な行動は取らない、大人しいからね。
特に氷華は教会の設立時から生きているほどで、教会にいる飛竜達の中では最高齢でもある。
「あぁ、でも注意しておいてほしいことがあるの。
彼女達は竜族だから誇り高いことも当然で、この娘達が嫌がることはしないでね。
ちゃんと話しかければ是にしても否にしても応えてくれるから。あとは撫でる時には“逆鱗”には気をつけて」
「“逆鱗”?」
「竜の弱点であり、同時に触れると怒る場所だよ。喉元にあるんだけど、喉元を撫でられるのが好きだから注意が必要なんだ」
「うん、覚えておくわ」
セルカに必要なことを伝えて僕達は一時の間、氷華と雨縁と触れ合った。
―――セルカの料理教室
「姉さま、いくらなんでもこれは酷いと思うわ」
「やっぱり、酷いのよね…」
「ほとんど初めてだから仕方が無いと僕は思うんだけど…」
セルカの一言に意気消沈するのはアリスで、僕はそんな彼女を慰めるようと言葉にしたけど落ち込んだまま。
「公理教会ではお料理を教わっていなかったのね」
「ええ。そういったことは専門の方々がやってくれていたから…」
周囲への設定上ではアリスはあくまでも治療の為の公理教会への滞在、
その間に神聖術や剣術を磨いたということになっているから誤魔化しきれる。
実際にはそれらを容赦無く叩きこまれ、掃除等もさせられていたらしいけど。
しかし、料理に関しては専門の人物がしていたことは本当らしく、
掃除等は自分の部屋や罰としてやっていたことなので家事は大丈夫とのことだ。
記憶が戻ったいま、村に居た頃にリアッカさんの料理を手伝ったこともあるから覚えているのではと僕は思った。
だけど本当はそうじゃなかった。
確かに村の記憶を取り戻してお母さんの料理を手伝ったことも思いだしたらしいけど、あくまでも記憶であり思い出。
料理そのものの経験が足りなく、出来なかった時間があまりにも長過ぎた為に料理の出来が良くないということ。
キリトが言っていたけど、経験と試行錯誤を繰り返してようやく調理というのは身につくらしい。
多くはない経験と長過ぎた調理不足はアリスの調理技術は0に戻ってしまったみたいだ。
「でも、戻ってきてユージオと暮らす以上はこんなのダメよ!
恋人同士で最高司祭様にも認めていただいているということは、成人したら結婚もするのよね?
姉さま、ユージオに逃げられちゃうわよ!」
「に、逃げっ…!?」
セルカの言葉に絶句して固まったアリス。
いや、僕は逃げないし、アリスを逃がすつもりもないから。
別に料理が出来ないことくらい僕は気にしないのに、そう思ったからこそ言おうとしたら先にセルカが話しだした。
「好きな人に料理を作ってあげて、それを美味しいって言ってもらえたら嬉しいはずよ。
ユージオも姉さまに作ってあげて、美味しいって言われて嬉しかったよね?」
「それはそうだよ。うん、簡単な物しか作れなかったけどアリスが美味しいって言ってくれたのは嬉しかった」
そうだ、それほど手が凝ったものじゃない料理しか作れないけど、アリスに喜んでもらえたことは嬉しい。
「姉さまだってユージオに美味しい手料理を作ってあげて食べてもらって、喜んでほしいでしょ?
ユージオも姉さまの手料理、食べてみたくない?」
「わたしの手料理を、ユージオに………良い///」
「それは、まぁ食べてみたいよ。キリトも好きな人に作ってもらう料理は凄く良いって言っていたし」
アリスが料理を作って、食べてという光景を想像してみれば、かなり心に響くものがある。
彼女が言うように凄く良い気がするかも…。
「お願い、セルカ。わたしに料理を教えて!」
「ええ、あたしに任せて、姉さま!」
どうやらアリスがセルカに料理を教わることが決まったみたいだ。
「姉さま。包丁で切る時はそうじゃなわ! 指は前に出さないように丸めるようにして食材に添えるの。
力を込め過ぎて抑えてもいけないわ、食材が動かないくらいでいいの。あと包丁を持つ手の人差し指は包丁の背に乗せてね」
「こ、こうかしら?」
「うん、それでいいわ」
「だから熱素で焼いたらダメって言ってるでしょ! ちゃんと火の熱を通していけば出来るんだからね!」
「ご、ごめんなさい…」
「火を使っている時は目を離さないようにね。焼き過ぎとか煮込み過ぎは焦げさせちゃうし、大事になったら火事にもなっちゃうから」
「火事…そうね、しっかりと覚えておくわね」
「調味料の入れ過ぎだけは絶対にいけないからね。適量を入れて完成した味を知って、好みの味付けを見つけていけばいいの。
それと隠し味とかは料理が上手になってからよ、人に食べてもらうんだから下手な味付けはダメだもの」
「分かったわ。美味しくできるようになって、他の味を探せるようになったらでいいのね」
「盛りつけも大事なことなのよ。味や香りもだけど見た目も美味しそうだったらもっと美味しく感じるわ。
だけどこれもまずはちゃんと料理を作れるようになって、時間に余裕が出来たらでいいかも」
「まずは味、香り、そして盛りつけね。時間に余裕が出来てから…」
「料理は少しずつ教えていくけど、基本が作れるようになれば姉さまならすぐに上達するわ。
あとは食材によって調理の仕方も変わるけど、元々上手だからきっと出来るようになるわ」
「ありがとう、セルカ。わたしもっと頑張るわね」
アリスはセルカの時間が空いた時に色々な調理の仕方と料理を教わって、セルカの言う通りすぐに上達していった。
パンやパンケーキ、炒め物や焼き物、スープにサラダなど、味も盛りつけも最初と比べると格段に上手になったよ。
毎日作っていれば特に、だね……まぁ僕も手伝うし、一緒にやったから僕も少しだけ上達した。
二ヶ月も過ぎる頃にはセルカが見なくても大丈夫になり、いまでは独学で色々と挑戦しながら腕を上げている。
「ユージオ、今日のスープ新しい味付けにしてみたのだけど、どうかしら?」
「うん、この前のよりかすっきりしていて、暖かい日にはこっちの方がいいよ。勿論、味も美味しいよ」
「よかったぁ……あ、ユージオ。あ~ん///」
恋人の料理が美味しくなって幸せです…///
―――村で逢い引き?(Sideアリス)
わたし、アリス・ツーベルクがユージオと二人暮らしを始めて二ヶ月以上が過ぎた。
村に住めるようになるのは残り十ヶ月が経たなければならないけど、ユージオが付いていれば村に入ることは許可されている。
それでも村の中で出来るのは買い物と教会での礼拝だけ。
個人的にはそれで構わない、セルカや両親と暮らせないのは寂しいけれど、
最近ではこのままユージオと二人暮らしでもいいかもしれないと思っている…///
「アリス、村に行く準備は出来たかい?」
「え…は、はい、いま行くわ///!」
居間で待っていたユージオが扉の前に来て声を掛けたことで意識が引き戻された。
うぅ、あんなことを考えてしまうなんて、これも彼を好きになったからね…///
これ以上考えても仕方が無いわね、折角のユージオとの買い物だから急がなくちゃ。
急ぐといってもそれはわたしの準備であって、むしろ村に向かう道中はゆっくりとしてる。
買う物がそれほど多いわけでもないから、ユージオとの時間を堪能したいのが本心。
それに歩調を緩やかにしていれば、彼も合わせてゆっくり歩いてくれる。
隣を歩くユージオ、空いているその右手がわたしの目に映る。
手、握ってもいいのかしら…。
そう思いながら、ほんの少しの間だけ揺れる彼の手を見ていたら、動いてわたしの手を握った…って///!?
「ユ、ユージオ///?」
「あれ、違ったかな? アリス、僕の手を見ていたからこうかなって思ったんだけど、嫌だった?」
「う、ううん…嫌じゃないわ、嬉しい///」
浅い握り方から指を絡める繋ぎ方になって、ゆったりとした歩調で村に向かう。
村に着いて、幾人かの衛士達に良い目で見られないのもいつものこと。
それでも気になることはなくなって、いまではユージオと一緒だからこそだからどうしたとすら思える。
そもそも、村のみんなの私達への感情は簡単にわけるとすれば二種類、歓迎的なものと排他的なもの。
どちらも浅いものから深いものまであるけど、彼と暮らし始めてからというもの別段気にすることはなくなった。
だからこうやって、いつもどおりにユージオと村の中を回る。
「ユージオ、アリスちゃん。今日は村に来る日だったのかい?」
「こんにちは、小母さん。礼拝とかちょっとした買い物を済ませようかと思って」
「そうかい。あ、今日は街から果物を仕入れておいたんだよ。よかったらどうだい?」
「美味しそうですね、それなら二つ買います」
「はいよ、アリスちゃん。帰りにでも味の感想を聞かせておくれよ」
果物の販売を営む小母様から今朝取れて仕入れたばかりの果物を買って、礼拝のあとでユージオと食べることにする。
他にも、いつも野菜を買っているお店のお爺様やお肉や牛乳を売ってくれる小父様、小さな子供達や同期の子達が声を掛けてくれる。
それに応えて村の中を進んで、教会にやってきた。
最早わたしとユージオには公理教会への関心はほぼ無い。
あるとすれば、それは同じ教会に属する同胞やカーディナル様への尊敬の念だけだから。
だからわたし達が礼拝に行くのは日頃にお世話になっている人達や食物への感謝、
そして“公理教会に祈っていますよ”という風を装っているため。
それが終われば教会でセルカとシスター・アザリヤ、子供達と話をしたりする。
そういえば、村に帰ってきて少しした時だけど、ユージオが学院の教官であったアズリカ先生の話をすれば、
シスター・アザリヤと姉妹であることが分かった。名前も似ているし、顔立ちも似通った部分があるわね。
おっとりとしつつ芯があり優しいシスターと厳しくもしっかりとして優しさもあるアズリカ先生、確かに似ている姉妹ね。
礼拝を終えれば、わたしとユージオは余っている食材で夕食を考え、必要そうな食材を買っていく。
小母様から買った果物が美味しかったから帰り際に感想を伝えて、食後のデザートにとまた二つを買い、
野菜を売ってくれるお爺様のところで食材を買う。
「それにしても、ユージオ君とアリスちゃんを見ておると嬉しくなるわい。
幼かった二人がこうして帰ってきて共に暮らし、逢い引きをしながら買い物をするとはのぉ」
「あ、逢い引きって、そんな…///」
「やっぱり、そういう風に見えますよね…///」
特にそんなつもりじゃなかったのに、逢い引きだと思われていたのね///
ユージオはそう意識していたようだけど、改めて他の人に指摘されると照れるみたいで、それはわたしもよ。
「二人とも自然に見えるからの、しかしまぁ初々しい限りじゃ。仲良くするのじゃよ」
「「はい///」」
お爺様はからかうつもりはなくて、純粋にわたし達の様子にそう思ったのね。
お蔭で帰りはユージオのことをかなり意識したけど、わたしも彼も指を絡めた手の繋ぎを止めることはしなかった///
―――仕事と報酬
「仕事、ですか?」
「うむ。天職というわけではなく、毎回報酬を払う。個人の依頼を斡旋して二人が受けてもいいものを受けるということだ。
報酬は金銭や食糧、物々ということなのだが、どうだろうか?」
アリスと一緒に村に来た時、村長のガスフトさんに呼び出されて話をしてこのことを話した。
学院で次席になった僕と教会で鍛えられたアリスの実力や生活を聞いたうえでの相談だった。
僕とアリスは現在、カーディナルさんから渡された資金で生活をしている。
だけど渡されたとはいえ、無駄遣いはできないから私用にはほとんど使っていない、ほとんどが食材に使われているからだ。
僕もアリスも本を読み、最初に買って以降は購入していない。私用に使えるお金ができるのは有難い。
今回この話が出てきたのには理由があった。
かつて僕とキリトが倒した『ギガスシダー』の樹、アレが倒れたことによって先祖からの悲願であった土地の開拓が始まった。
当初は特に問題はなかったけど、養分を吸い上げていたギガスシダーがなくなり他の木々が養分を十分に得られるようになったことで、
成長が促進、最近になって開拓が進みにくくなったという。
二大農家のバルボッサさんとリダックさんが主導で開拓を進めているようだけど、自然の前には思うようにいかない。
そこでかつてギガスシダーを倒したことのある僕にと、話が回ってきたわけか。
僕もアリスも断る理由がないし、報酬がもらえるなら十分だから受けることにした。
僕達が村に行った時かセルカが事前に伝えに来ることになった。
それにしても、バルボッサさんもリダックさんも現金なものだなぁと思ったのは仕方が無いか。
最初の開拓仕事の日。
僕達は一定の決めごとをしたけれど、今回は初めての仕事だということでバルボッサさんとリダックさん、
双方がそれぞれ進めている開拓場所の木で厄介なものだけを二本だけ倒すことになった。
「ではユージオ、頼むぞ」
「はい…ですが、この仕事は僕達二人で引き受けたので、アリスからどうぞ」
「それじゃあ、お先に」
カーディナルさんから預かってきた予備の騎士剣をアリスが抜き放ち、指定された樹に近づいた。
バルボッサさんが止めようとするけど僕が手で制し、
集まっていたリダックさんや男性陣は嘲笑や呆れの表情を浮かべ、笑いを込めて遊び半分の野次まで飛ばす。
セルカやアリスの両親、僕の家族とか他にも二十人以上は見に来ている。
興味を抱くのはいいけど、自信を失っても知らないよ……衛士は、ね…。
そして、アリスが美しいほどの構えを見せた瞬間、周囲がみんな息を呑んだように静まり返った。
「ハァッ!」
一閃、踏み込みながら剣を振り抜き、優雅な動きのままに剣を納めた。
樹に変化はない、そのことに笑いが出てきた時、樹が少しずつずれていき、大きな音を立てて倒れた。
呆然とする周囲に僕は笑いを押し殺し、アリスは反応を気にも留めずにもう一本の指定された樹へ向かい、再び一閃で切り倒した。
「さすがだね、アリス。切った時の風圧でそのまま樹も倒すだなんて」
「ありがとう、ユージオ。さぁ、今度は貴方の番よ」
アリスとは違うもう一本の騎士剣を腰に据えたまま僕はリダックさんに指定された樹の許に近づいた。
アリスとは違い離れていなくて並ぶように二本の樹がある、アレを試すか…。
腰に据えた剣の柄を持ちながら集中、シンッと静まる周囲。
「フッ!」
一点に集中し、意識が固まった瞬間に抜剣、振り抜いた剣を流れるように鞘に戻していく。
アリスの時と同様で樹に変化はないが、みんなが何も言わない。そのままリダックさんの許に戻り、告げる。
「すみません、リダックさん。少し失敗してしまいました」
「え、あ、あぁ……あんなこと、早々できるものじゃないからな「いえ、違います」は?」
みんなも今度こそ笑いだすかというところで僕が剣を鞘に納め、音が鳴った時にそれは起こった。
並ぶようにあった二本の樹とその奥にあった一本の計三本がほぼ同時に倒れた。
「同時には切れたのですが、力を込め過ぎたみたいで。一本余計に切ってしまい、その奥の樹の幹にも切れ目を入れてしまいました」
アリスの時以上に全員が息を呑み、絶句して一部は戦慄している感じがする。
「やっぱり貴方の方が凄いじゃない。わたしではあそこまで出来ないもの」
「キリトから直接学んでいたからね。キミより強くなくちゃ、守れないから…」
っと、あまりしんみりするとあの手紙のことを気付かれちゃうな、話しを変えよう。
「バルボッサさん、リダックさん。これでよろしかったですか?」
「す、素晴らしい!実に見事な腕前だぁっ!今後とも是非頼む!」
「月に一度、決まった数だけだが大助かりだとも!」
二人は報酬を渡すとすぐさま部下に指示を出して仕事に戻った。
銀貨を2枚、リダックさんが3枚渡してきたのは倒してよかった樹を一本倒したからか。
そのあとは大喝采が起きて僕もアリスも驚いた。何人かは居心地悪そうにしていたけど、まぁ自業自得だ。
「アリス姉さま、ユージオ! 二人とも凄かったわ! 教会の剣術や学院の次席って本当に凄いことなのね!」
「あはは、まぁね」
「それじゃあ他の仕事も済ませちゃいましょうか」
このあとも天職の範囲外の仕事などの手伝いという依頼をこなし、次の時までのお金や物を稼いだ。
「ねぇユージオ。今日の樹の切り倒し、ワザと人が集まらない処置をしなかったのよね?」
夜、ベッドに入っていると髪を梳いているアリスから声がかかった。
「というと?」
「いまのわたし達はあまり目立たない方がいい。
だけど貴方はお父様にもあの人達にも敢えて何も言わず、人が集まるように仕向けた。
答えは一つ、わたしの実力をみんなに見させて何も言えなくさせるため……よね?」
「さて、ね…うわっ」
「誤魔化さないで」
笑みを浮かべてアリスから視線を逸らしたら、髪を梳き終えたアリスがベッドに上がると僕の上に乗った。
やや強い口調、視線を絡めてから今度は僕がアリスの髪を優しく梳く。
「その通りだよ。今回はこの仕事を利用させてもらった感じだね」
「そう、そうよね」
アリスはそのまま僕の胸に頭を預けるようにしてきた。
「何も言わないのかい?」
「それじゃあ、ありがとうユージオ。わたしのために手回しをしてくれて」
「……そうきたか。はは、キミには敵いそうもないな」
「ふふ、それはお互い様よ」
彼女は僕を責めなかった。ガスフトさんの依頼もみんなも利用した、アリスへの風当たりを弱めるために。
少しでもどうにかしたかったから、こんな弱い手段を取るしかない僕にそれでもアリスはありがとうと言ってくれた。
抱きついてくる彼女の温もりがとにかく嬉しい。
「もう眠りましょう。さすがに今日は疲れたわ」
「そうだね。一時の間は仕事も入っていないし、明日はゆっくりしよう」
アリスはちゃんと布団に入りなおして、もう一度僕に抱きついてきたから抱き締めかえす。
「おやすみ、アリス」
「おやすみなさい、ユージオ」
今日もまた、新しい出来事と共に僕達の一日が終わった…。
―――イチャイチャするのは恋人同士の特権だ(笑) byキリト
「ユージオ、今日は森の方に散歩に行きましょ」
今朝、鍛錬の後に氷華と雨縁と馬二頭の世話をして、アリスの作った朝食を食べている時に彼女がそう言いだした。
こういうことはいつものことで、基本的にその日の行動が決まっていない僕達はその日のその時になって行動を決める。
街や村に買い物へ行くこともあれば、色々な場所へ出向くこともあって、氷華と雨縁と遊ぶこともあれば、
セルカや子供達と触れ合うこともあり、家でゆっくりとすることだってある。
そして今日の行動は森を主とした散歩となり、アリスは機嫌良く作った弁当をバスケットに詰め、僕と共に歩いている。
「陽射しが温かいなぁ」
「そうね。ここは北側だから他の地域に比べて寒いけれど、今日は晴れていて陽射しも少し強い感じかしら」
「段々と寒くなってきているから、そろそろ温かい装いも用意しないといけないね」
なんでもない、ただ普通のことを話しながら手を繋いでゆっくりと歩いていく僕達。
途中、ウサギや小鳥が木々の間を駆け、飛んでいく光景を見てはアリスと顔を見合わせて笑みが浮かべ合う。
こんな小さなことでも、これまでの自分達のことを思えば心が温かくなる。
しばらく歩いていくと何度も足を運んだ泉にきた。湖ではないし、池というほどにも深く広いわけじゃない。
せいぜい僕達の脛の半分辺りまでの深さしかない、とても澄んだ泉だ。
その傍で腰をおろして、休憩にする。そこでアリスが靴と靴下を脱ぎ、スカートの裾を少しだけ上げながら泉に入った。
「ユージオもどう? 冷たいけど気持ち良いわよ」
「それじゃあ僕も。あ、これは確かに冷たいかな」
靴と靴下を脱いでズボンが水に濡れないくらいに捲り上げてから泉に入ると、
アリスの言うように冷たくも歩いて熱くなった足には丁度いい気持ち良さを感じた。
泉を歩く彼女に視線を向けると、まるで絵画に描かれているような光景を目の当たりにした気がする。
「ユージオ?」
「え、あ、なに?」
「なにって、貴方がわたしの傍まで来たのよ?」
そこで自分が立っていたところからアリスのところまで移動していたことを察せた。
無意識で移動とか、重傷だな僕は…。顔が熱くなり、アリスから顔を逸らしたらアリスが僕の両頬を手で優しく挟んできて…、
「「んっ…///」」
口付けてきた。咄嗟のことに驚いたけど、すぐに離れたこともあって逆に落ち着いた。
アリスは悪戯が成功したかのように頬を紅く染めながら笑顔を浮かべていて、僕もつられるように笑いだした。
泉から上がって、丁度いい頃合いだと判断してアリスが作ってきた弁当を食べた。
食事は焼いた肉と野菜、卵で作ったサンドイッチと飲料用の道具に入ったスープ、村で買った果物だった。
お腹が膨れると少し眠気が襲ってきたのは言うまでもない。
「ユージオ。良かったらどうぞ」
「なら、お言葉に甘えて…」
アリスが頬笑みながら膝を示してきたので、そこに頭を預けた。
上を見れば彼女の顔がある、その温もりが確かにそこにある。
そう思いながら僕の意識は落ちていく。
ただ、唇になにかが触れたような気はした…。
目を覚ましたのは日が少しだけ傾き始めてきた頃、だいぶ眠っていたと思った。
アリスはというと傍に本が置かれたまま座って眠っていた、無理な体勢をさせちゃったなぁ。
頭を上げてアリスが起きないように優しく寝かせ、今度は僕が膝枕をする。
「男の膝枕ってどうなんだろう? キリトはアスナさんが喜ぶって言っていたけど…」
呟いてみたけれどアリスから反応は無い、ただ気持ち良さそうに眠っているから少なくとも寝心地が悪いってことはなさそうだね。
アリスが読んでいた本を今度は僕が手に持ち、読み進める。
日が傾いた頃にアリスが身動ぎし、目を覚ましたことに気付いた。
「やぁ、アリス。よく眠れたかい?」
「あれ、ユージオ…? わたし……え、あ、これって…///!」
「やっぱり寝心地悪かったかな?」
「そ、そんなことないわ/// ぐっすり、眠れたもの///」
それなら良かった。そう言ってから立ち上がり、アリスに手を差し出して立ち上がるのを手伝う。
バスケットを持って帰ろうとした時、空に雲がかかっていることに気付いた。
「アリス、雨が降るかもしれないから急ごう」
「そうね。急いで帰りましょう」
家からやや離れていることもあり、僕達は足早に家路を急いだ。ただ、雲の移動も速い。
案の定、雨に降られた。服は濡れてしまい、家の中で乾かしている状態。
先に風呂に入ることになり、熱素と凍素を利用して温度を調節している。
アリスに先に入るように言ったけど、聞き入れてくれなくて僕が先に入ることになった。
だから、どうしてこうなったのかを知りたい。
「ユージオ、痒いところはないかしら///?」
「だ、大丈夫、特に無いよ///」
身体を洗っている途中にアリスが入ってきました、しかも裸に大き目の布一枚の姿で///!
扉越しに湯加減を聞いてきて、そしたら布擦れの音がして、扉が開いて、アリスが入ってきて、僕の背中を洗い始めた。
それに、背中になんだか柔らかい感触が…///!
「あの、アリス。背中に、さ…当たって…///」
「あ、当てているのよ…//////」
……考えるのをやめよう、無心になるんだ…。
そうこうしていると背中を洗い終わったのか、僕は湯船に浸かり、アリスが身体を洗い始めたので目を瞑る。
湯をかける音がしたあと、名前を少し呼ばれてから彼女は僕の体に包まれるように腰をおろしてきた。
「「……………//////」」
お互いに沈黙が続く。そこでアリスが深く息を吐き、僕に体を預けてきた。
完全に密着、少しずつは慣れてきたつもりだったけど、こういうのは初めてだから対処しきれない///
「ユージオ……迷惑、だった…///?」
「そ、そんなことはない、けど……いきなりで、アリスにしては珍しいと思ったから///
一緒に入るのも、そういえば初めてだからさ…///」
そう言うとアリスは真っ赤にした顔で振り返った。
「わたしだって、すごく甘えたい時くらいあるわ…//////」
潤んだ瞳と艶めかしい表情で僕に寄りかかるアリスは一糸纏わぬ状態、それでもなぜか僕は冷静に口を開けた。
「加減しないよ」
「加減、しないで…//////」
そう返されて、しばらく湯船でゆっくりしたあと、ベッドで肌を重ね合った。
その時、雨上がりの雲間の先、浮かんでいたのが満月だったことを僕達は知らない。
ユージオSide Out
To be continued……
あとがき
一日遅れての投稿になってしまいました、書いている内に書きたいことが増えてしまいまして……特に最後の話w
結構ギリギリな内容にも思えますが第1シリーズの黒戦のキリアスに比べたら可愛いものかw
今話こそ本当に日常回に出来たと思います、だから短編的な扱いになったのですが。
月は女性を現すことが多く、各神話や物語でも女神や女性が主役だったりすることが多く、
概念的なものですが満月というのは男性もですが女性にも影響を大きく与えるそうです。
次回から原作15巻入りを果たします、戦闘はまだですが入りの部分になる感じです。
キリアスはまだまだ出ません、UW決戦編の主人公はあくまでもユージオ&キリトで主体はユージオですから。
ただダークテリトリーとの戦闘に入ると基本的にさくさくと進み、原作と変わらない場所は説明のみで済ませます。
ユージオが介入することで変化するシーン、オリジナルのシーンなどは手を込めて書きたいですので。
それでは次回もお楽しみに~・・・。
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一日遅れましたが第4話目です。
今回は日常回、ほのぼの、シリアル、イチャイチャなどですねw
では、どうぞ・・・。