「はぁ、はぁ、はぁ…!!」
とある次元世界、とある大自然。その自然豊かな森林の中で、魔導師と思われる一人の男が必死な形相をしながら走っていた。何かに追われているのか、その男性の表情は恐怖の感情に満ち溢れていた。
「ち、畜生…ッ…!! 何でだよ……何で俺が、こんな目に遭わなきゃいけねぇんだ…!! 人がせっかくリリカルなのはの世界に転生して、なのは達を惚れさせてハーレムを作ろうと思ってたってのに…!!」
この男の正体は不正転生者だ。彼を事故死させた下級神様が自分のミスを隠す為に転生させ、彼はその転生先として『リリカルなのは』の世界を指定し、転生前に見ていたアニメや漫画の能力を授かってからハーレムを築き上げようと画策していた……のだが、その計画が成功する事は無かった。
何故ならば…
『見つけたぞ』
「!? ひぃ…ッ!!」
ある意味で不正転生者以上にイレギュラーな存在―――黒騎士によって、その命が今にも刈り取られようとしている状況だからだ。
「や、やめろ、死にたくない!! 分かった、俺が悪かった、もう二度となのは達を狙ったりしない!! だからやめてくれ、お願いだ…!!」
『放て、
恐怖で尻餅をついた男が情けない顔で命乞いをするも、黒騎士はそれに構う事なくボウガンを取り出し、上空目掛けて一本の矢を発射。放たれた矢は赤いエネルギーを纏いながら上空で無数に分裂し、まるで血の雨のように男のいる地面へと降り注いでいく。
「い、嫌だ…嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!??」
男の叫びも空しく、赤い矢の雨は一斉に地面に降り注いだ。当然、男がそんな状況で無事で済む筈も無く、全身が矢に貫かれて肉が弾け、骨が砕け、一瞬にして男はバラバラの肉塊に成り果ててしまうのだった。
『…他愛の無い』
黒騎士は仕留めた男に対して見向きもせず、ボウガンを納めてその場を立ち去ろうとした……が、彼は即座に鞘から剣を引き抜いた。
その瞬間…
-ガギィンッ!!-
『ッ…!!』
何処からか飛んで来た斬撃が、黒騎士の剣と衝突した。その衝撃で黒騎士はほんの少しだけ後退させられるも、力ずくで剣を振り払い斬撃を掻き消す。
「逃がしはせんぞ、黒騎士殿」
そして黒騎士の前には、黒コートの女性が長い金髪を靡かせながら姿を現した。その身に纏っている黒コート、右手に持っている大鎌、そしてフワフワと宙に浮いているその姿はまるで死神を彷彿とさせており、黒騎士は興味深そうに呟いた。
『…死神、クリス・
「旅団の皆が迷惑を被っているのでな。貴様には悪いが、ここで仕留めさせて貰う」
『…!』
死神のような黒コートの女性―――クリス・
『死神、それも第二級の者ばかりか……旅団ナンバーズですら撃破には手こずると言われるほどの…』
「ナンバーズの面々が敗北したとなっては、こちらもあらゆる手段で仕留めにかかるまでの事。それとも、怖気付いたか?」
『ほぉ? 怖気付いた、か……逆に聞かせて貰うが』
『こんな雑魚共で、この俺を追い詰めたつもりか?』
「!! 何…ッ…!?」
一瞬だった。
黒騎士が剣を真横に振るったその瞬間、クリスの部下達はその身から血飛沫が舞い上がり、一斉に地面へと倒れ伏したのだ。自分の部下達が一瞬で全滅させられた事に、クリスは驚きを隠せない。
『さぁ、どうする?』
「ッ…貴様の命、何としてでも刈り取らせて貰う!!」
≪デッド!≫
『ほぉ…』
地面に着地したクリスは、自身の黒コートのボタンを開いてからバッと広げ、腰に装着していたロストドライバーを露わにさせる。そして“死”の記憶を司るデッドメモリを取り出し、スイッチを押してからロストドライバーに装填する。
「変身!!」
≪デッド!≫
そしてクリスの全身が黒いエフェクトに包まれていき、その姿を仮面ライダーへと変えてみせた。仮面ライダージョーカーにも似る姿だが、右の赤い複眼に対する左の黒い複眼、欠けた左側の角、左半身を包み込んでいる黒いマントが特徴的で、より一層不気味な雰囲気を醸し出している戦士―――“仮面ライダーデッド”はデッドサイズと言われる大鎌を両手で構え、黒騎士に特攻を仕掛けた。
「仮面ライダーデッド、参る!!」
『良いだろう、かかって来い…!!』
黒騎士も剣を構え、デッドに向かって突貫。互いの刃がぶつかり、その火花を散らすのだった。
「またアイツが…?」
「えぇ。どうやらまた、我々より先に不正転生者を始末した模様です……あの黒騎士が」
「これで、何人目だ?」
「今月でちょうど三十人目です。三日前は次元世界フロリアにて
「…そうか」
デルタが見据えている報告書には、OTAKU旅団がターゲットに指定していた不正転生者達の名前と顔写真などが詳細に載せられていた。既に仕留められた不正転生者の顔写真には×印が刻み込まれており、それが上から下まで三十人分がズラリと並んでいる。
「まるで意図が読めませんね。何を目的に奴は、我々みたいに不正転生者を狩って回っているのか……これまで監視役を何人も送りましたが、その全員が黒騎士に存在を気付かれ、病室送りにされています」
「死亡者は出ているのか?」
「いえ、今のところは……ですが、非常に迷惑極まりない存在である事に変わりはありません」
「…足掻いているのか」
「はい?」
クライシスの発言に、デルタは一瞬だけ眉を顰める。
「この次元世界において、奴は異端な存在だ。仲間など誰一人おらぬ中、奴は孤独でありながらも運命に抗い続けている…」
「いきなり何ですかクライシス。腐った果実でも食べて頭がイカれましたか?」
「…お前の毒舌も久々だな」
クライシスは小さく苦笑しつつ、更に言葉を続ける。
「奴は知っているのだろう。我々がこの先やろうとしている事を…」
「…“アレ”の存在を、奴が知っているとでも? 馬鹿馬鹿しい」
「可能性は無しきに非ずだろう?」
「仮にそうだとすれば、黒騎士は相当な愚か者でしかありませんね。今更何をしたところで、この世に“アレ”に対抗出来る者など存在しない。あまりに愚か過ぎて哀れに思えるくらいですよ」
「人間は元から愚か者しか存在せんよ。当然、この私達もな…」
自虐とも取れるようなクライシスの発言に、デルタは特にこれといった反応を見せない……本来なら
「…何にせよ、このまま黒騎士を放置している訳にも行きませんね。奴が何か動きを見せるたびに、我々旅団は甚大な被害を被っているのですから。ロキさんや二百式さん、げんぶさんはどうやら奴へのリベンジに燃えているようですが、ハッキリ言って彼等では勝ち目は薄いでしょうね」
「そうか……早いところ、オピウコスを引き入れた方が良さそうだな」
「? 何か言いましたか」
「いや、何でもない」
「? まぁ、何でも良いですが……ところでクライシス。先程の発言からして、あなたはもしかしてご存じなんじゃないですか? 黒騎士の正体を」
「…その通りだ。素性なら、既に“アレ”を通じて把握している」
星空を見ていたクライシスは振り向き、デルタと目線を合わせる。
「黒騎士の正体は―――」
「雷神剣……!!」
「!? ぬ、ぐぅぅぅぅぅぅぅぅ…!!」
場所は戻って森林内部……と言っても、この二人が戦っている影響で既にここは森林とは言えず、焼け野原同然の状態と化していた。周囲の木々が焼き焦げ、地面のあちこちにクレーターが出来ている中、黒騎士は剣と全身に電流を纏わせたまま目に見えない速度でデッドに接近し、連続突きを繰り出してデッドのボディにいくつもの損傷を与えていく。
「答えろ!! 貴様の目的は何だ……何を理由に、我々旅団を付け狙う!!」
『教えたところで意味は無い。少なくとも貴様のような、何も知らされていない末端の者にはな』
「ッ……言ってくれるな、死神である私に対して!!」
高い地位にいる死神としての誇りがあったのだろう。末端扱いされた事にデッドは苛立ちを露わにし、黒騎士の剣をパワーで押し返し、二人は互いに距離を取ったままジリジリ構え直す。
「既に分かっているぞ、貴様の中身がカラッポである事は…!!」
『フン、流石は死神と言ったところか……が、どうせ意味はあるまい』
「ほぉ、それはどうだろう……な!!」
『!!』
今度はデッドが目に見えない速度で接近し、黒騎士に向かって何度も斬撃を浴びせ始める。しかしこちらは先程とは違い、黒騎士が冷静に全攻撃を見切っている為に、ダメージは全くと言って良いほど与えられていない。
『弱いな。やはり口だけか?』
「これで倒せるとは思っていない!!」
≪デッド・マキシマムドライブ!≫
『何を…ッ!?』
「ッ…うぅぅぅぅぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
連続で攻撃を繰り出す中、デッドは抜き取ったデッドメモリをデッドサイズのスロット部分に装填。デッドサイズの刃にエネルギーが充填されていくのを見て、黒騎士は素早く後退して距離を離しにかかる。
『何だ、その力は…?』
「貴様のその魂を、
『!! チィ…!?』
その言葉を聞いた途端、黒騎士は焦ったように駆け出し、急いでデッドを仕留めようとその剣に高圧電流を纏わせ始める。それと同時にデッドも跳躍し、エネルギーの充填が完了されたデッドサイズを落下しながら振り下ろす。
『雷神剣……
「デッドブレイク!!!」
両者共の得物から巨大な斬撃が放たれ、ぶつかると同時に大爆発を引き起こす。そして爆風の中から、更に二発目の斬撃が飛び出す。
『何…!?』
「まだだ!!」
自分の寿命を縮ませるような攻撃が連続で飛んで来るとは想定していなかったのか、一瞬だけ気を取られた黒騎士は構えた剣を弾き飛ばされてしまい、そこへデッドがデッドサイズを構えて再び斬りかかる。
≪デッド・マキシマムドライブ!≫
『三発目だと……貴様、正気か…!!』
「正気も正気!!」
『おのれ…ッ!?』
更に繰り出される三発目の斬撃。それは黒騎士の構えたボウガンを斬り裂き、そして……黒騎士の胴体を、斜めに一閃してみせた。
『な、に―――』
「輪廻に還れ、黒騎士殿」
斬られた黒騎士はガシャンと音を立てながら地面に倒れ、兜のスリット部分から赤い目のような光が消失。倒れた黒騎士はそのまま、ピクリとも動かなくなった。
「…やった、のか……う、ぐぅ!?」
黒騎士を倒した事を半信半疑に思いつつ、デッドは変身を解除してクリスの姿に戻る。直後、クリスはすぐにその場に膝を突いたまま動けなくなる。
(三発も繰り出せば、これだけの負担も当然か……どれだけ寿命が縮んだだろうか…)
「それよりも、早く負傷者の手当てをせねば…」
『死神の癖に、何かと脇が甘いのだな』
「―――え」
その時だった。
クリスの胸元から、鋭利な剣が飛び出したのは。その剣は、黒騎士が装備していた物だった。
『少しやられたフリをしてやっただけで、こうも隙だらけになるとはな』
「ッ……ごは、ぁ…!?」
クリスはゆっくり後方へと振り返る。彼女の視線の先には、何事も無かったのように仁王立ちしている黒騎士の姿があった。黒騎士はクリスの背中から剣を引き抜き、貫かれたクリスの胸元から黒い瘴気のような物が噴き出していく。
「馬鹿な…!? 確実に、魂を殺した、筈…」
『攻略法としては悪くない……が、残念だったな。その手の能力ならいくらか
「な、に…」
『疑問に思った事は無いか? どんな相手でも確実に倒す能力。どんな攻撃でも確実に防ぐ能力。その矛盾でしかない二つの能力がぶつかり合った場合、一体どちらが勝つのかを……ちなみに、答えは至ってシンプル』
『より“力”の強い方が勝つ、それだけだ』
-ザンッ!!-
「―――ぁ」
クリスは目撃した。自身の右腕が切断され、宙に舞う光景を。
『消滅とまではいかん。精々、己の無力さを悔いながら地に伏せるが良い』
そこから更に左腕も切断され、クリスはいよいよ立っている気力も失い地面へと倒れていく。そこへ黒騎士は追い打ちをかけるかの如く、放った斬撃が地面を走るようにクリスへと向かう。
(すまない、皆……夜深……)
『飛べ、地走り』
決着は、あっという間に付いた。
「クリス、しっかりしてくれ!! クリス!!」
その後、黒騎士に敗れたクリス逹はライオトルーパー部隊によって
「医療班、治療を急いでくれ!! いくら死神でもこの傷では命が危うい!!」
「分かってる!!」
「蒼崎さんは外でお待ち下さい!!」
「ッ……クリス…!!」
すぐさまクリスは手術室まで運ばれていき、蒼崎は手術室の前で待たされる事となった。そんな医療室の慌ただしい様子を、デルタと竜神丸は呑気に眺めていた。
「どうやら、また黒騎士の仕業みたいですねぇ」
「死神の力を持ってしても倒せないとは……黒騎士が強いのか、それともあの死神逹が単に弱かっただけか…」
「しっかしまぁ、その黒騎士さんも不正転生者をまた一人ほど仕留めたようで。いやぁ、こちらの仕事が減るという意味では大助かりですね」
「感心してる場合ですか……そういえば竜神丸さん」
デルタは話題を変え、竜神丸に問いかける。
「クライシスから聞きましたよ。あなたとガルムさんも、黒騎士の正体はご存じなのでしょう?」
「…おやま。それを聞くという事はデルタさん、あなたも既に知っておられて?」
「えぇ……まぁ流石の私も、聞いた当初は驚きましたよ」
「恐らく、他の皆さんが聞いても驚くでしょうねぇ……まさか黒騎士の正体が“彼”だったなんて」
某次元世界、とある雪国…
「……」
吹雪の中にポツンと存在する小さな小屋。そこで白装束の少女―――エリスは毛布に身を包んだまま、暖かいスープを飲んで暖まっていた。薪が放り込まれている暖炉は、火がパチパチと激しく燃えている。
『エリス、いるか』
「!」
その時だ。小屋の扉が開き、黒騎士が小屋の中へと入って来た。その姿を見たエリスはすぐさま彼の傍へと駆け寄り、吹雪で被ってしまった黒騎士の鎧の雪をせっせと両手で払っていく。
「おかえりなさい。ご無事で何よりです」
『不正転生者相手に遅れは取らんさ……最も、旅団の連中も絡んで来たから、そちらも返り討ちにしてやったが』
「! …そう、ですか」
それを聞いた途端、エリスはしゅんと沈んだ表情になる。黒騎士はその表情に気付いていないのか、被った雪を払い終えてから小屋の中のソファに座り込む。
『追手の方はどうだ』
「…あれ以来、まだ気付かれた様子はありません」
『そうか』
「…あの、黒騎士さん」
『?』
「…やっぱり、旅団の皆さんと協力する事は―――」
『無理だな』
エリスの伝えようとする言葉を、黒騎士はスパッと容赦なく切り捨てる。
『俺は既に、旅団に対して被害を与え過ぎている。今更、奴等と和解する事などあり得ん』
「ですが、このままでは旅団にも不幸が訪れます! そうなってしまえば彼等は―――」
『言っておくが、俺はあくまで俺の目的の為に動いているだけだ。一応お前を助けはしたが、他の全員まで助けられるほどの力は俺には無い。あまり高望みをされても困る』
「ッ……だけど…」
『本郷耕也の事だろう?』
「!」
げんぶの名を聞いた途端、エリスの肩がビクッと震える。それに構わず、黒騎士は続ける。
『残念だが、既に耕也の仲間達は半分以上狩られていっている。こんな早いペースなんだ、俺が介入したところでもう間に合わんだろう』
「!! そん、な…」
黒騎士の残酷な発言に、エリスは青ざめた表情で床に座り込む。
『エリス、お前の父親も既に“アレ”の支配下に置かれた。この意味が分かるか? 耕也の未来は既に、お前の手にかかっているという事だ。これ以上事態を悪化させたくないのであれば、今は何もせず大人しく隠れてろ。俺の手間をかけさせるな』
「…分かりました。黒騎士さん……いや」
「榊、一哉さん…」
END…?
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闇に生きる凶刃
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