No.841221

真・恋姫†無双 異伝「絡繰外史の騒動記」第四話


 お待たせしました!

 今回は一刀に助けられた人和が眼を

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2016-04-07 13:36:03 投稿 / 全15ページ    総閲覧数:4760   閲覧ユーザー数:3598

 

 あれから二日経ったが、山の中で倒れていた女の子が眼を覚ます様子はまだ見せな

 

 かった。

 

「もしかしてこのまま死ぬまで眠ったままとかじゃねぇだろうな?」

 

「も、も、もしそうだったらど、ど、どうするんだな?」

 

「そりゃ、そんなのを後生大事に看病する必要なんざ何処にもねぇから、適当な所に

 

 ポイッと…『公達、冗談でもそういう事を言うな』…はいはい、申し訳ございませ

 

 んねぇ」

 

「水は飲んでるんだし(一刀が綿に水を含ませて彼女の口に当てると無意識の内にも

 

 その水を吸っていた)、もう少ししたら眼を覚ますだろうさ。大分衰弱してたよう

 

 だし二日や三日眠る事もあるだろう」

 

 ・・・・・・・

 

(此処は何処?…確か私は姉さん達を追手の眼から逸らす為に一人で逃げて、追われ

 

 ている内に山深くに入り込んで…でも、何処かの家?もしかして捕まったの?)

 

「おっ、どうやら眼を覚ましたようだな」

 

「えっ…きゃあああああっ!?」

 

 女の子が眼を覚ますとそこに覗き込んで来た公達に驚き、悲鳴を上げる。

 

「どうした、どうした!?」

 

「な、な、何かあったのかな!?」

 

 悲鳴を聞いてやって来た一刀と胡車児が見たのは…状況が分からず怯えた表情で寝

 

 台の隅で固まる女の子と頬を赤くした公達の姿であった。

 

「何で俺がこんな目に?」

 

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、助けてもらったのに叩いてしまうなんて…本当にご

 

 めんなさい!」

 

 一刀より事情を聞いた女の子は公達に向かって平謝りで絶賛土下座中だった。

 

「いや、いいんだよ…急に覗き込んだ俺にも責任があるんだから…でも、痛ぇなぁ~。

 

 こりゃ顎の骨とか折れたな、きっと」

 

「顎の骨が折れてたらそこまで普通にしゃべれないだろうが…さて、色々と戸惑って

 

 いるだろう所で申し訳ないのですが、君は一体何者で何故一人であんな山の中にい

 

 たのか教えてもらえますか?」

 

「は、はい…私の名前は、ちょ…張梁です。一人でいたのは…その、盗賊に追われて

 

 無我夢中で逃げている内に…」

 

「へぇ…張梁さん、ですか」

 

 張梁…まさかとは思うが、この世界では荀彧が女性だという事は黄巾党の首領も女

 

 性であっても不思議ではない。おそらく彼女が素直に名乗ったのは、張角以外の名

 

 前があまり知られていない事を知っての上なのだろう…現状では単なる推測に過ぎ

 

 ないが。

 

「張梁、お前さんはずっと一人だったのか?」

 

「い、いえ…姉といたのですが、追われている内にはぐれてしまって」

 

「なるほど、それは大変だな…お姉さんの名前は?もしかしたらこの近辺の村とかに

 

 いるかもしれないし、教えてくれれば捜してあげても良いですけど」

 

「そ、それは…」

 

 公達の問いに張梁は姉がいる事は答えたが、俺が名前を聞いた瞬間に口ごもってし

 

 まう。これはどうやら間違いないと見て良いようだな。

 

 

 

「どうしました?お姉さんの名前を聞いたら何かいけなかったですか?」

 

「い、いえ…ただ、私が賊に追われて姉とはぐれたのは青州での事だったので、この

 

 近辺に姉はいないものと…」

 

「青州からねぇ、よく一人で此処まで逃げて来られたものだ…なぁ、北郷?」

 

「あ、ああ、そうだな。無我夢中だったとはいえ、大したものだな」

 

「お、お、俺だって余裕で、そ、そ、その位…」

 

「お前みたいに体力があり余ってる奴とこの娘を一緒にしてんじゃねぇ!!」

 

 公達の一喝とそれで身を縮こませる胡車児の何時ものやり取りを張梁は半ば呆然と

 

 眺めていた。

 

「このやり取りは何時もの事だから気にしないように」

 

「は、はぁ…」

 

「さて、となると張梁さんは帰る家とか頼れる親戚とかそういう類は無いという事に

 

 なるんですかね?」

 

「…はい」

 

「おい、北郷。まさか彼女もこの家にとか言うのか?」

 

「それこそまさかだよ。此処は男三人暮らし、幾ら行き倒れとはいえ女の子一人同居

 

 ってわけにはいかないさ。俺達も彼女もお互い余計な気遣いをしてしまうだけだ」

 

「そ、そ、それじゃ、どうするんだな?」

 

「とりあえずは村の誰か…出来れば女性が多い家に頼んでそっちにかな?張梁さんも

 

 それで良いかな?それとも何処か他に落ち着き先があればそこまで送るけど?」

 

「いえ…私は姉と一緒に旅芸人をしていましたから、そういう所はまったく…でも、

 

 何故そこまで初対面の私に良くしてくれるんですか?本来なら私のような身元の怪

 

 しい人間なんて眼が覚めたらそこで放り出されても文句なんて言えないのに…」

 

 

 

 張梁さんは嬉しさ半分・戸惑い半分な感じでそう聞いてくる。

 

「行き倒れの女の子を放りだすなんて俺の性には合わないだけ…と言いたい所ではあ

 

 るけど、そもそも俺も君と似たような身の上だからだ」

 

「えっ、それってどういう…?」

 

「俺も行き倒れていた所をこの二人に助けてもらって此処にいるって事だ。二人が良

 

 い人だったから良かったものの、もし人買いの手にでも落ちていたら今頃は奴隷に

 

 でもなっていただろうよ。だから俺は二人には感謝しているし、出来ればこの世の

 

 全ての人…とまで言ったら大げさだけど、少なくとも自分の眼の前にいる人が困っ

 

 ていれば助けてあげたいと思っている、ただそれだけだ」

 

「おいおい、北郷。そう褒められると恥ずかしいじゃねぇか」

 

「で、で、でも、う、う、嬉しいんだな!お、お、俺もほ、ほ、北郷の兄貴がそう思

 

 うのならか、か、彼女を助けるんだな!」

 

「まぁ、そう言われた以上は俺も少々良い人でいてみようか」

 

 二人は少々恥ずかしそうな顔をしながらそう同意してくれる。しかし自分で言って

 

 いて何だが複雑な気分ではあるな…俺の予想が正しければこの娘は黄巾党の首領の

 

 一人なわけだし、本来なら捕まえて役人にでも突き出した方が良いのかもしれない

 

 のだが…俺にはどうしてもこの娘が自分で率先して国を混乱させようとしたとは思

 

 えない。とはいえ、もし事情があったとしてもすぐには答えてくれないだろうから、

 

 彼女の口から事実を話し出すまでは近くに引き留めておく方が良いと思って彼女を

 

 助ける判断をしたと考えてしまっている自分がいたりするのが…まぁ、とりあえず

 

 この村にそうそう官兵が来る事なんて無いし、しばらくは様子見だな。

 

 こうして張梁さんは公達の口利きで村長さんの家に住み込みの下働きとして入る事

 

 となった。村長さんは病気がちで身体が不自由だったので、奥さんがとても感謝し

 

 てくれたのは幸いであった。

 

 

 

 ところが、一月余り経ったある日の事…。

 

「大変だ!兵隊が大勢村にやってきた!!多分、五百はいるぞ!!」

 

 家に駆けこんで来た村の人が告げたのは、何処かの軍が村にやって来たという知ら

 

 せであった。

 

「こんな山奥に五百もだと!?」

 

「村長さんは此処二日程高熱にうなされていて対応どころじゃないし、荀攸さんにお

 

 願いするしかって奥様が…」

 

「分かった、そいつには俺達が対応する。行くぞ、二人とも」

 

「ああ」

 

「わ、わ、わかったんだな」

 

 ・・・・・・・

 

「遅いわよ!!この村の村長は何をしているのよ!!もう私達が来てから半刻は経っ

 

 てるわよ!!」

 

「も、もう少しお待ちください…」

 

 俺達が村に駆け付けると中央の広場で一人の女性が喚きちらしているのが見える。

 

 しかし何だ…古代中国に来て猫耳フードにお眼にかかろうとは思いも寄らなかった。

 

 やはり単なるタイムスリップとは何かしら違うようだ。

 

 しかし、それ以上に彼女の姿を見た途端に公達の顔が苦々しくなっているのが驚き

 

 だった。普段は斜に構えたような表情を崩す事なんて無いのに。

 

「どうした、公達?あの人と何かあったのか?」

 

「あったというか何というか…まあ、とりあえず行ってくる」

 

 公達はそう言ってため息一つつくと意を決したような表情で猫耳の女性の所へと向

 

 かっていったのである。

 

 

 

「お待たせしました。こちらが…『遅いって言ってるのよ!!この私を誰だと思って

 

 るのよ!?』…ひっ!?」

 

 村の人が公達を紹介しようとした途端、猫耳さんはその村の人に偉い剣幕で喰って

 

 かかる。

 

「おいおい、相も変わらずうるせぇ事この上ないな、お前は」

 

「なっ…あ、あんたは…公達!?何であんたがこんな所にいるのよ!?私はこの村の

 

 長を呼んだのよ!?」

 

「随分とご挨拶だな。久しぶりに会った親戚に対する態度か、それが?まあ、良いけ

 

 ど…俺は今この村で世話になっていてな。それに村長は重病で話も出来ない状態な

 

 ので、俺が代理に選ばれた。だから用件は俺が聞く、さっさと話せ、文若」

 

 文若…って、もしかして彼女があの荀彧!?こりゃまた何とも…しかも公達と会う

 

 なり最初から喧嘩腰だし。

 

「…何だか色々と釈然としないけど、まあ良いわ。用件は一つ、この村に怪しい女は

 

 来なかったかしら?」

 

「あやしい女?お前以上に怪しそうなのが他にもいるのか?」

 

「なんですtt…すぅ~っ、はぁ~っ~~~~~、今あんたの軽口に付き合っている

 

 暇は無いの。良いから質問に答えなさい」

 

「怪しい女だけで分かるわけねぇだろうが。もっと特徴的な事は無いのか?凄ぇ胸が

 

 でかいとか背が高いとかいちいち小鳥のさえずりみたいに騒がしくない女とかみた

 

 いな」

 

 公達のその言葉を聞いた荀彧さんの額に青筋が走って見えたのは気のせいではある

 

 まいな、うん。

 

 

 

「あんたって奴は何時も何時も…『何だ、質問より俺との口喧嘩が望みか?』…うぎ

 

 ぎぎ……………すぅ~~~~~~っ、はぁ~~~~~~~~~~~~っ…特徴だっ

 

 たわね。三人組の女よ。旅芸人らしいけど」

 

「そうか、だったら答えは否だ。三人組の女なんか来てたら、こんな山奥じゃ今頃は

 

 お祭りみたいな騒ぎになっているだろうよ」

 

「…本当なのね?言っておくけど、嘘だったらただじゃ済まないわよ?」

 

「ああ、嘘じゃない。なぁ、三人組の女なんか見た事ねぇよな?」

 

 公達がそう問うと、村の人達は一斉に頷きを以て返す。

 

「そう、だったら邪魔したわね。とりあえず今言った三人組の女の旅芸人を見かけた

 

 らすぐに連絡しなさい、良いわね?」

 

「その三人組の女とやらは何かやらかした奴らなのか?」

 

「…確定情報では無いけど、その三人の中に黄巾の頭領である張角がいるらしいわ」

 

「ほほぅ…なるほどね」

 

「だから見つけたら自分で捕まえようとなどと思わずにすぐに連絡しなさい」

 

「ああ、分かった『曹操様』に連絡すれば良いんだな?」

 

「…はっ、あんたみたいなのがいきなり曹操様の所に行ったって相手してくれるわけ

 

 ないでしょうが!私に知らせなさい!!」

 

「そうか、善意の村人の通報を自分の手柄にして曹操様に褒められたいから全てお前

 

 に連絡しろって事だな?よ~く理解したぞ」

 

 …公達もよく荀彧さんに対してあそこまで言えるものだな。此処まで来れば一種の

 

 才能だな。

 

 

 

「あんたねぇ…そんな口ばかり叩くから何度も女に逃げられるのよ!!」

 

「ああ、そうかもしれねぇな。まあ、別にお前にそんな心配してもらわなくても何も

 

 問題はねぇがな」

 

「何ですってぇ~!?何時も何時も私の事をいやらしい眼で見てたのは何処のどいつ

 

 よ!!」

 

「おいおい、やめてくれ。お前なんかにそんな感情抱く位ならその辺の枯れ木の方が

 

 余程抱き心地が良いに決まってるだろうが」

 

 公達のその言葉を聞いた瞬間、荀彧さんから何かキレるような音が聞こえた気がし

 

 た…っていうか、間違いなく聞こえた。

 

「公達…しばらく会わない内に随分と良い度胸になったものね」

 

「別にお前に遠慮しなきゃならん理由は何処にも無いと思うのは気のせいか?それと

 

 も気に入らないからある事無い事を曹操様に報告して俺を罪人に仕立てるか?確か

 

 宮中には賄賂を渡さなかっただけでその相手を罪に陥れた奴がいたって噂を聞いた

 

 けど、お前もそういう奴という事なのか?」

 

 公達がそう言い返すと荀彧さんからはこれ見よがしに歯ぎしりの音が聞こえてくる。

 

「うぎぎ……………ああっ!これ以上あんたなんかに関わっていても時間の無駄!!

 

 良いわね、怪しい三人組の旅芸人の女を見かけたら必ず報告する事!!」

 

 荀彧さんは忌々し気にそう言い残して去っていった…何ともはや、嵐でも通り過ぎ

 

 ていったかのようだったな。半分以上公達のせいだろうけど。

 

「やれやれ、数年ぶりに会ったが相も変わらずやかましい女だな」

 

「…あれだけやかましかったのは、間違いなくお前の方にも原因はあったと思うは俺

 

 の気のせいか?」

 

「ああ、気のせいだろう。あいつは何時もうるさいからな」

 

 俺の問いにあっけらかんとそう答える公達に、俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 

 

「さて…それはそうと、張梁は何処にいる?」

 

「張梁さんは村長さんの看病を奥様としているはずだが…」

 

 俺がそう言うと公達は村長さんの家に向かって駆け出す。

 

「ど、ど、どうしたんだな、そ、そ、そんなに慌てて…『急がねぇといなくなっちま

 

 うかもしれねぇからだ!』…ど、ど、どういう意味なのかな?」

 

 公達の言葉に胡車児は首をかしげるが…どうやら公達も彼女の事について知ってい

 

 た、いや勘付いていたという所か。

 

 ・・・・・・・

 

「…何時から気付いておられたのですか?」

 

 それからすぐに村長さんの家に行ったら張梁さんは普通にいたので(どうやら村長

 

 さんの看護にかかりきりで兵隊が来た事に気付いていなかったらしい。何やら騒が

 

 しいとは思っていたようだが)、奥様に許可を貰って彼女を家に連れていき荀彧さ

 

 んとの一部始終を話した所、彼女からの第一声がそれであった。

 

「張梁、お前さんのその言葉は全てを認めたという事になるのは分かっているよな?」

 

「とぼけた所で押し通せるとは思えませんでしたので」

 

 公達の問いに張梁さんは落ち着いた感じでそう答える。

 

「それじゃ、二人のお姉さん…張角と張宝の居所は知っているのですか?」

 

「えっ!?何故張角姉さんだけでなく張宝姉さんの名まで…」

 

「なるほど…北郷、お前最初から知っていたという事か?」

 

「張梁って名を聞いた時に多分そうだろうと思っただけだが」

 

「それは『知っていた』と世間では言うと思うのだがね…もしかして例の物語とやら

 

 からか?」

 

「まあな」

 

「何かそこまでいくと一種の予言書だな、それは」

 

 公達はそう言って肩をすくめる。

 

 

 

「さて、それはともかく…とりあえず今の北郷の問いに答えてもらおうか?」

 

「それは私にも分かりません。私は追手から姉を逃がす為に一人で囮になってそこで

 

 別れたきりですので」

 

「…嘘をついているって感じはしないな。とはいえ、お前さんをもし官兵どもに引き

 

 渡したらおそらくあいつらはそれを信じないだろうがな」

 

「拷問してでも姉達の行き先を聞き出そうとするって事か?」

 

「ああ、むしろ拷問程度で済めば良いがな」

 

 俺と公達のその会話を聞いた張梁の顔が青ざめる。おそらくというか間違いなく俺

 

 達の会話の意味を悟ったという事だろう。

 

「ああ、とりあえず今はそういうつもりは無いから安心してくれ」

 

「公達…『今は』なんて言ったら余計に不安にさせるだけだろうが」

 

「すまん、すまん、つい思った事をポロッと口にしてしまった」

 

「…一体、私をどうしようというのです?」

 

 公達の真意が掴めない張梁さんはより不安が増したような顔でそう聞いてくる。

 

「とりあえず今日の所は追い返しはしたが、この村に怪しいというか新たに来た女と

 

 いえばお前さんしかしない。皆が『三人組』という言葉に囚われている内は良いが、

 

 そう遠くない内にお前さんが何か関わりのある事なんじゃないかと気付く奴等も出

 

 てくるだろう。よって、その前にこの村を離れようと思っている」

 

 公達のその言葉に俺も含め皆が驚く。

 

「いきなり引っ越しとは突拍子も無い話で少々驚いたけど…このまま彼女を見捨てる

 

 わけにもいかないか」

 

「ふ、ふ、二人がそう言うのなら、お、お、俺はそれで良いんだな!」

 

 

 

「そんな!私なんかの為に皆さんにまで迷惑なんて…私一人が出て行けば済む話のは

 

 ずです!」

 

「お前さんが気にする必要は無い。俺がそうするのはその方が面白い事に会えると思

 

 ったからだ。それに、俺には女性を見捨てるなんて選択肢は元から存在しないんd

 

 …『荀彧さんは良いのか?』…お前にとってはどうかは知らんが、俺の中じゃあれ

 

 は女に入ってないから無問題」

 

 …そこまで言うとは、さっきの事といい公達と荀彧さんの間にはどうやら大きな溝

 

 というか確執というべきものがあるようだ。

 

「まあ、確かに公達の言う通り彼女を一人見捨てても色々後味悪いだけか…でも、い

 

 きなり俺達が彼女を連れて出て行ったら村長さんの世話をする人がいなくなるのが

 

 問題かな?」

 

「ううむ…それを言われると『荀攸さん、大変です!!』…どうした?そんなに血相

 

 変えて」

 

「村長さんが…村長さんがお亡くなりに!!」

 

 そこに駆け込んで来た村の人が告げたその言葉に俺達は驚きのまま固まってしまっ

 

 ていたのであった。

 

 ・・・・・・・

 

 それから三日後。

 

「荀攸さん、本当に行ってしまうのかい?あんただったらこの村の村長を任せられる

 

 と思ってたんだけど…」

 

「そのお言葉は嬉しいが、村長とかは正直性に合わなくてね。元々は亡き村長への恩

 

 返しのつもりでしばらく留まるつもりだけだったし、此処いらが潮時って事さ」

 

 俺達は村長さんの葬儀が終わったのを見届けると、張梁さんを連れてこの村を去る

 

 事にした。奥様始め村の皆には随分と慰留されたが、公達の決心も固い上にあまり

 

 長い事いると張梁さんの身許も洩れてしまう可能性もあって俺達も公達と意見を共

 

 にしたので、最後は村の人が折れ、こうして旅立ちの日を迎える事となったのであ

 

 った。

 

 

 

「ところで北郷さん、これは一体何だい?荷車に木で出来た牛と馬が付いてるけど…

 

 まさかこれが動くとか?」

 

「ふっふっふ、まさにその通り!木牛流馬(もくぎゅうりゅうば)です。此処をこう

 

 すると…」

 

『おおお~~~っ!!本当に動いてる!』

 

 俺が木牛に付いているレバーを引き、ゆっくりと木牛が動き出すのを見た村の人が

 

 驚きに包まれる。

 

「しかし、本当に凄いなこれ…これもお前の国の文物なのか?」

 

「ええっと…何と言えば良いのか、まあ、これに関してはそうかな?」

 

 …そもそも木牛流馬って諸葛孔明が考案した物だったよな?とは言っても実際に孔

 

 明が造った物ってどういう構造か分かってないらしいし、これは現代の人間が試行

 

 錯誤して造ったのを参考にしたやつだから、まあ、俺の国のって事にしておこう。

 

 こっちで孔明に会ったらどうなるか分からないけど…そういえば、荀彧や張梁が女

 

 性だったのなら孔明も女性なのかな?もし女性だったらどういう風な感じなのだろ

 

 うか?三国志のイメージから考えれば、ほっそりとした感じの知的美人とかかな?

 

 ・・・・・・・

 

 ~平原にて~

 

「くしゅん!!」

 

「あわわ、朱里ちゃん、風邪?」

 

「そうじゃないけど…誰か噂してるのかな?」

 

「朱里ちゃ~ん、雛里ちゃ~ん、早くしないと天和ちゃんの歌が始まっちゃうよ~」

 

「はい、桃香様、今行きましゅ…どうしたの、雛里ちゃん?そんな不安そうな顔して」

 

「朱里ちゃん、大丈夫なのかな…天和さんの事。自分からは真名以外名乗らなかった

 

 けど、多分あの人って…」

 

「うん、分かってる。でも、しばらくは様子見かな。今の所、歌を歌う以外何かしよ

 

 うって感じじゃないし」

 

 ・・・・・・・

 

 

 

「よし、此処までは順調に進んでいるな」

 

 村を出発してから十里程進んだが、此処まで木牛は順調に稼働していた。

 

「北郷さんが造ったこれって、本当に凄いですね…こんなに多くの荷物を載せても普

 

 通に動くなんて…」

 

 張梁さんは木牛を見てそう感嘆の声をあげる。女の子に褒められるとなかなかに嬉

 

 しいものなのは世界が変わっても変わる事のない男の真理である。

 

「ふっふっふ…そうでしょ、そうでしょ。でも、これだけ順調なら量産とかしたら売

 

 れるかな?」

 

「量産する前に何処かの金持ちか諸侯に売りつけた方が儲かるかもしれんな」

 

「こ、こ、公達の兄貴には何処か伝手とかあるのかな?」

 

「無い」

 

「そ、そ、そうなのか。だ、だ、だったらこのままど、ど、何処に行くのかな?」

 

「伝手は無いが…まあ、古来より木を隠すのは森の中って相場は決まっているものさ」

 

「それじゃ、もしかして行き先って…」

 

「ああ、洛陽だ」

 

 洛陽…漢の都か。こっちに来て今まで行った一番の都会が陳留だったし、少しだけ

 

 楽しみだな。でも、あまり街中に木牛を持ち込むのは余計な注目を浴びそうだよな

 

 …大丈夫かな?

 

「安心しろ、北郷。木牛が目立たないようにする方法は着くまでに俺が考えておいて

 

 やる」

 

 まあ、公達がそう言ってくれるのであれば、それに期待いたしましょうかね…しか

 

 し、黄巾党の乱が終わった後の洛陽って事はもしかしてあの董卓とかがいたりする

 

 のだろうか?もしかして凄ぇ太った女の人とかだったりして…。

 

 

 

 

 

 

 ~洛陽にて~

 

「くしゅん!!」

 

「どうしたの、月?もしかして風邪?」

 

「ううん、大丈夫…誰か噂してるのかな?」

 

「しっかりしてよね、この大事な時に…さてと、あんたが張宝?」

 

「そうだって何度も言ってるでしょう」

 

「では、張宝さんにお聞きします。何故あなたは『張角の妹』と名乗って私達の前に

 

 現れたのですか?張角という名がどういう意味を持つかは分かっていますよね?」

 

「その位の事は分かってるわよ…でも、私を殺さずに会うって事は少なくとも興味と

 

 いうか利用価値はあると思ったって事でしょ?」

 

「ええ、黄巾党はやり方こそ間違ったと言わざるを得ませんが、あそこまでの人を集

 

 めたのには驚嘆の一言です。もし、その方法の一端でも分かるのであればと思いあ

 

 なたと会う事を決めた次第です」

 

 月と呼ばれた少女がそう言うと、張宝の口の端がにやりと上がる。

 

「ふふ~ん、そこまで言ってくれたのなら教えても良いわよ、この『太平要術』の秘

 

 密をね…」

 

 それが新たなる動乱の始まりになる事をこの時点ではまだ誰も知らないのであった。

 

 

 

                                    続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あとがき的なもの

 

 mokiti1976-2010です。

 

 今回は、張梁と一刀達との出会いから新たなる動乱の

 

 兆しまで至る所をお送りしました。

 

 今回一刀が造った『木牛流馬』については、現代の色

 

 々な人が試行錯誤で造ってみた物を参考に一刀が一か

 

 ら造ったオリジナルという設定です。色々とおかしい

 

 点もあるでしょうが、ご容赦の程を。

 

 次回は、一刀達が洛陽に入った所からお送りします。

 

 地和も洛陽にいるのですが、人和との再会はしばらく

 

 先の話になりますので。

 

 

 それでは次回、第五話にてお会いいたしましょう。

 

 

 

 追伸 天和が何故劉備陣営にいるのかは次回以降改め

 

    てお送りします。

 

 

 

 

 


 
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