No.839695

義輝記 星霜の章 その三十九

いたさん

お待たせしました。 義輝記の続編です。

2016-03-29 00:52:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1123   閲覧ユーザー数:1049

【 回想1 の件 】

 

〖 司州 河南尹 鶏洛山付近 伊達陣営 にて 〗

 

真桜師匠達が到着したのは、儂らが奇襲に失敗した次の日の昼過ぎ。 儂らは怪我をした者や思春、美以達を陣に残し、師匠達と一緒に三百程の兵を引き連れて……敵が籠る砦に近寄った。 

 

あまり近付き過ぎると気付かれゆえ、一里(約400㍍)ぐらい離れて伏せて様子を探っている。 桔梗達に兵と発車石を預け、儂は真桜師匠、沙和殿、三太夫と共に、砦を見える場所で説明をした。 

 

沙和殿は、初対面の儂にも真名を預けてくれたので、沙和殿と呼称を付けて呼ばせて貰っている。 畏れ多いとか言っていたが、元は肉屋の親父だ。 だから、師匠の友であるなら、そちらを尊ぶと説得したからだ。 

 

偵察の理由は………言わなくても判断できるだろう。 

 

師匠の到着が有無に関係無く、本日夜襲を行う予定でいた事。 こちらの夜襲は昨日に失敗したばかり。 まさか……次の日に夜襲を実行に移すとは思うまい。 敵の油断を突こうと考えていたのでな。 

 

それに、日中だからこそ………辺りの地形、砦の規模を師匠達に教える事も可能。 そして、『ある事』を確認する為にもだ。

 

★☆★

 

《 何進 回想 》

 

〖 兗州 烏巣付近 茨砦内 にて 〗

 

何進「師匠、沙和殿よ! 彼処に見えるのが……攻略対象の砦だ………!」

 

真桜「ほへぇー! ウチも華琳様から話ぐらい聞いてるでぇ? 火矢でも燃えやせん、兵で撃破しようにも茨で邪魔される、虎牢関みたいな砦ってなぁ」

 

沙和「あの砦がそうなの? うん………確かに茨だらけの壁に、大きな鉄の扉が一つだけある。 も、もしかして、入り口って──彼処しかないのぉ? う、嘘ぉ──アレじゃ、扉を閉められたら攻める事なんて無理なのぉっ!」

 

ーー

 

流石に奇天烈な考えを為さる師匠でも、そう思われるか。 傍らに居る沙和殿もコクコクと首を縦に振られる。 真桜師匠と沙和殿が、揃いも揃って驚かれるのも……無理はない。 素直な反応だ。

 

儂は側に居る三太夫に目配せし、この周辺で敵が居ないか確認して貰うよう促す。 三太夫に顔を向けると、ニヤッと笑い一礼して姿を消した。

 

ーー

 

真桜「き、消えおったっ!」

 

沙和「───カ、カッコいいのっ!」

 

何進「あー、三太夫にはな……周辺の確認と砦の周りを探っている。 儂らの予定を今から説明するのでな。 聞かれると………非常に困るのだ」

 

真桜「まあ……当然やな」

 

沙和「………うん」

 

ーー

 

そんな三太夫の反応に驚く二人を前にして、今後の予定を要点だけ纏めて話した。 短時間で意思疎通をしておかないと、何かと休息が取れないのだ。 疲れを溜めたままでは、行動を阻害する嵌めになりかねないからな。  

 

ーー

 

何進「あの砦で昨夜に実行した事の確認。 成功していれば、前方を発石車で、残り三方を別働隊で泥団子を投げ込む。 その後に休息! そして、夜半になり次第、奇襲を仕掛けて──焼討ちを実行する!」

 

真桜「……………本気!?」

 

何進「上に立つ者が戯れ言を申して、どうすされる!」

 

沙和「───だ、だってぇ! 彼処はっ!!」

 

何進「………あの天城が……献策してくれたのだ。 自分が倒れそうだというのに、儂らの為に無理しおってな。 だがら、必ず成功させるのが……儂の役目よ! 絶対に───な!」

 

★☆★

 

政宗「なるほど……小型の発石車を……か」 

 

景綱「しかもだな……運搬にも楽な小型の物で、金の掛かる火薬を使用せずに弾を投げ込めれる。 これは、かなり画期的な物だ。 『大砲』と違い威力は小さいかもしれんが、適所適材なところで使用すれば、戦で有利に──」 

 

政宗「うむ、是非とも伊達家に一つ欲しい………!」

 

何進「ははは……御遣い方も気に召されたなら、真桜師匠も喜ばれよう! しかし、これ等の技術は儂の物ではないからな? 直接ご相談して頂かないと……何度も………」

 

景綱「…………………」

 

成美「ねぇねぇ! それで泥団子はぁー?」

 

綱元「だ、駄目だよ、成美! 今は大事な話をしているんだから!」

 

何進「そうだな……泥団子の使用方法についても……」

 

ーー

 

何進は、そう言うと……少し言葉を選びつつ再び語り出した。

 

 

◆◇◆

 

【 回想2 の件 】

 

〖 鶏洛山付近 伊達陣営 にて 〗

 

あの場所は、天城と凌ぎを削りあった……松永の手で構築された砦。

 

曹孟徳でさえも……攻略に失敗した場所だからこそ、更に思案せねばなるまい。 儂でなくても……火計以外の方法を取るか、火計を工夫して攻略するしかあるまい。

 

だが……火計以外に仕掛ければ………あの藤甲の鎧に身を固めた軍に蹂躙される事は容易に理解できる。 昨日の戦いで藤甲も幾つか駄目になったとはいえ、予備も準備してあるだろうかな。 

 

…………好機と思わせ、逆に包囲する策ぐらい使ってくるのかもしれん。 あの松永の命令を受けた者なら………やりかねん!

 

とは言っても………火計を工夫する方法を取れば、これはこれで難儀だ。 仕掛けを大掛かりにしなければならず、かなりの準備が必要になる。 

 

………それは、曹操軍の話でも理解できるだろう。

 

あの砦の茨は生きている故、大量の水気を帯びている。 それ故に、火勢を強める為の『乾いた燃えやすい物』が、『茨の中』まで入り込まなくて燃えない。 そうまでしなくては、あの茨に火を付けるのは困難だと思うのだよ。

 

だから、工夫と言うのは燃えやすい物を茨の中に突っ込めばいい。 中に行く程、日は来ないため枯れている部分もある。 そこを目掛ければ、中から火が拡がり焼けて、全部の茨が燃え尽きると見ているのだ。 

 

だが、相手も警戒をするのは当然であり、わざわざ油の入った壺や藁など持って行けば、必死に火を付けさせないよう阻止に出る筈。 それに、儂らも重いやら嵩張るわで、行軍等に支障が起きかねない。 

 

それらを踏まえると………『大量の可燃物を運搬』、そして『気付かれないような仕掛け』……これらを少人数で請け負わなくてはならない。 しかも、隠密にだ。 そんな事が三百人で実行できると思うか?

 

しかし、この不可能に近い事を、実行に移したのが………天城の策だったのだ!

 

★☆★

 

《 何進 回想 》

 

〖 烏巣 茨砦付近 にて 〗

 

 

三太夫「何進の旦那! 劉焉の奴等も油断してるぜ! あの砦で、軍を二度も撃退してるから、偵察が出て無いどころか警備まで怠けていやがる! それに、『アレ』も天城の旦那が予想した通りだったよ!」

 

何進「そうか! ならば、儂らは前面の門から発石車で距離を取りつつ、泥団子を投射しよう! そして、桔梗達には我らが動いた後で、各自五十名を引き連れ砦の左右、後方の面に移動し泥団子を投げつけよ!」

 

ーー

 

桔梗「…………この歳になって、童の戦遊びをする事になるとはのぉ」

 

紫苑「ふふふ………そうね。 だけど、考えてみれば……私達が軍に入る切っ掛けは、この戦遊びの延長よ?」

 

桔梗「フッ………『誰よりも強くなり、弱き者を護らん』………か」

 

紫苑「………あの時に、誰よりも強くなりたいと思ったわ。 泣いているばかりでは、世の中は変わらないって……」 

 

桔梗「そうさの……。 原点に帰り、もう一度振り返る事も……大事なのかも知れん。 不思議な事に……お互い負けん気だけは少しも変わらんしなぁ!」

 

紫苑「そうね……そうよねぇ…………」

 

ーー

  

焔耶「よく理由が分かりませんが………命じられるのなら死力を尽くします! ええ……と、そ、その後は………どうすれば………?」

 

何進「…………投げ終わった隊は、儂らが発車石を撤退させる時に、補助として手伝いを頼む。 弓を持つ者は左右に展開し追撃する敵の牽制を任せる! その隙に儂らも撤退を完了させるので、終わった後で退却だ!」

 

ーー

 

三人三様に首肯したのを確認したので、阿貴、迷吾に殿の補助を頼む。 これだけの事をすれば、敵の追撃を鈍らせて確実に撤退ができると考えた訳だ。

 

★☆★

 

何進は、そう語って政宗達を覗き見た。 

 

ーー

 

成美「あれがこうなって、これがぁ………うーん、わかんないよぉ!」

 

何進「…………儂も知らなければ、同じ反応だったろうに………」

 

ーー

 

成美は腕を組みながら考えるのだが、真相に辿り着けず頭に湯気を出しながら、必死に思考を深める。 だが、他の三人には臆測が付いたらしい。

 

政宗がニヤリと口角を上げて景綱に問えば、眉間にシワを寄せて頷く。 綱元も、謎が解けたと言わんばかりに笑みを浮かべている。

 

ーー

 

政宗「景綱………分かったか?」

 

景綱「ああ。 そう言う………政宗は?」

 

政宗「当然じゃないか。 こう言う物こそ、臍を曲げ見方を変えなければ見えないものだ。 大将軍は『機動』と『隠密』……両立した策を提言された。 その方法は……現地で都合を付かせる事が出来るからだろう!」

 

景綱「……………そうだな。 にわかには信じたいが、この策の根底に潜む物がある。 それを三太夫が確認してから………この策を実行したのでないか?」

 

綱元「何となく………兵法で言う『借刀殺人の計』に近いかも………」

 

成美「ど、どう言うことっ!?」

 

ーー

 

その様子を見ていた何進は、一度大きく息を吐くと……呆れたように伊達勢を見渡した。 

 

ーー

 

何進「これだけで、何か掴む………いや、答えが既に解っている様子だな。 全く恐れ入る。 確かに三太夫に調べさせたのは、前夜の劉焉達と戦っている最中に投げ込んだ泥団子の結果だったのだ………」

 

景綱「やはり、泥団子から『芽吹いていた』………と?」

 

政宗「それでは、茨と同じ火計の邪魔になる。 久秀は成長を促す妖術を使っていたんだろう? 颯馬の集めさせた物は──雑草の種。 つまり───」

 

綱元「…………火計の舞台を完了させた……訳なんだよね?」

 

成美「………………???」

 

何進「いや、先に投擲した量では足らない。 それに、天城の策を信用しない訳では無いんだが、駄目なら別の策を考える必要もあった。 先の夜戦で失敗し、あたら惜しい勇士を失わせた身だ。 二度の失敗など赦されぬ!」

 

景綱「しかし………その慎重さと大胆さを持たれる御身、初戦の戦いが負けられた事。 これは、天に感謝せねばなりませぬ。 相手方に驕り(おごり)と油断を引き出し、勝利を導き出した事は僥倖と言えましょう!」

 

何進「その言葉使いは………」

 

景綱「確かに約定では、口調は普段通りと申されましたが、此処は他の目にも触れる場所。 我々が敬えば何進殿の存在意義も高まるかと」

 

ーー

 

景綱に姿勢正しく敬えられると………何進は更に目を見開き、話を続けた。

 

 

 

◆◇◆

 

【 回想3 の件 】

 

〖 鶏洛山付近 伊達陣営 にて 〗

 

まあ、結果は………今の儂らの状態を見て貰えば判るが、砦に投射しても出て来るどころか、劉焉達は追撃さえして来なかったのだ。 

 

これは、後で判明したのだがな。 偵察させた三太夫の話では、儂らが泥団子を投射したので、始めは驚いていたが、形だけの報復処置と捉えていたようなのだ。

 

儂らの目的は茨の砦を抜く事だ。 だが、夜戦で危機的状況に陥り、再度攻めるだけの余力など無い。 だが、このまま攻めなければ……責任を追及されるのは当然の話だ。 

 

だから、何進達は考えて……泥団子を作り投射して『砦を攻めた』と実績を作った。 茨は物理破壊なら元通りになるから証拠が残らない。 これで、再度攻撃を行ったが攻略は無理だった……と。

 

即ち、この射撃は、言い訳の為に行っている演技なのだから、下手に追撃して無駄な損害を出す事を嫌がったらしいのだ。

 

まあ、景綱殿の申される通りの結果よ。 実は陸伯言も同じ予測をしていたのだが、万が一の心配がある故、このような対処を取っていたのだが。 全く、軍師という者は、ある意味神憑っているように見えるわ。

 

そして、その日の夜。

 

儂らは、夜戦を再度行う為に動いた!

 

★☆★

 

《 何進 回想 》

 

〖 烏巣 茨砦付近 にて 〗

 

何進「三太夫! 無事に戻ったかっ!?」

 

三太夫「何進の旦那! 天城の旦那の策は大成功だぁ! もう何て言うか……凄い事になってるよ! 良かった、本当に良かったぁ!!」

 

ーー

 

その日の夜……明るい月夜の中、三太夫が茨砦の偵察から戻った。 今から夜襲を行う手引きになっていた儂は、三太夫が無事に戻ったと知らせを貰い、急いで向かった。

 

たがな……砦の様子を同時に尋ねる前に、三太夫から報告をしてくれた。 まるで……落とした自分の財布が見付かったような笑顔を浮かべてな。 天城の策が上手く行った事を伝えてくれたのだ。

 

その後、三太夫の道案内で、儂、真桜師匠、沙和殿、そして桔梗、紫苑を隊長とした弓兵を四十名程連れて先行、後ろから陸伯言が率いる二百名以上が、完全武装で付いてきている。

 

ーー

 

何進「見よっ! あれこそが、天城颯馬が編み出した茨砦攻略の突破口だ!」

 

桔梗「あ、あれが………!?」

 

紫苑「私達が投擲した………泥団子?」

 

ーー

 

重厚な茨の壁は相変わらず、攻めてを阻む為に緑の障壁として存在している。

 

だが、その中は………前夜に攻めた時には見当たらなかった物、多くの種類の雑草が所狭しと生えていた。 無論、これらは……儂らの投射した泥団子に含んでいた雑草の種から生えた物だ。

 

普通なら、こんなに早く成長する訳は無い。 成長するには少なくても三日ぐらい必要だろう。 しかし、この地は……松永の手により茨を維持する妖術が掛かっている。 

 

その話を聞いた天城は、逆に松永の妖術を逆利用する事を思い付き、雑草の種を泥団子へ混ぜ込み多数製作させた。 雑草の多くは寿命が短いと、お主達も聞き及んでいるだろう。 天城は、その性質を利用したのだ。

 

ーー

 

真桜「………………こないな事………」

 

沙和「………………信じられない……」

 

ーー

 

実際、最初の投擲の結果………芽吹いて枯れていた事を三太夫の偵察で判明している。 そして、儂らが射撃やら投擲した泥団子も御多分に洩れず、急速に成長して枯れて種を作り出し、更なる仲間を増やし続けた。

 

茨に巻き付く物、茨を掻い潜り外へ向かう物、果敢にも上に突き抜けようと成長を志した物。 何れも日照を確保する為に動いた痕跡が見られる。

 

ーー

 

穏「す、凄い~! これなら~!!」

 

阿貴「何と………言う奇策………」

 

迷吾「こりゃあ………デカイ勝ち戦の烽火が上げれるなっ!」

 

ーー

 

結果、膨大な枯れ草の壁を、茨の障壁の中に生み出したのだ! しかも、相手は昨日の夜戦での勝利、日中に起こした攻撃への侮り。 完全に油断している! 今こそが、茨砦攻略への好機だと思い各自に連絡を通す!

 

桔梗、紫苑の部隊には、砦の左右から火矢を射掛ける! 三太夫には後方から火術で放火! 儂らは、前面に待機して逃げ出してくる敵を捕縛、もしくは討ち取るように動く。

 

ーー

 

何進「今から火矢を放つ! 全軍、気を引き締めて行動せよ!!」

 

桔梗「これより開戦の火蓋を開くぞ! 火矢準備、一斉射!」

 

紫苑「的は当て放題、外れる事は無いわ! 放ちなさい!!」

 

ーー

 

このような準備をして、儂は最後の命令を出して実行したのだ!

 

★☆★

 

そう語り終えた何進は、大きく呼吸して改めて政宗達に向き直る。 次の話を期待した成美が、何進に催促を促すが景綱に止められた。

 

ーー

 

成美「そ、それで、どうなったの!?」

 

景綱「…………此処に大将軍が戦勝報告をされているんだ。 勝敗の有無など童でも判ると思うぞ? それに、今は戦況が差し迫っているんだ。 判っている結果を改めて聞いているような余裕など無い!」

 

成美「ええ~っ!?」

 

綱元「うん、そうだよね。 戦が終わった時にでもユックリ聞こうか?」

 

成美「ブウウゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

ーー

 

何進達が茨砦を攻略し壊滅させた時の武勇談は……省略。 政宗は何進に祝いを述べて苦であった働きを労(ねぎら)った。

 

 

◆◇◆

 

【 その後 の件 】

 

〖 鶏洛山付近 伊達陣営 にて 〗

 

政宗「………ふむ、大方の予想通り戦況は動いた御様子。 改めて祝着至極に存ずります。 これも大将軍の力と皆の結束あったからこそかと……」 

 

何進「いや、儂は敗戦の責こそあれば、攻略の働きを表される事など……」

 

政宗「では、後に颯馬や陛下に聞いてでも。 それで、劉焉は………?」

 

何進「ああ………砦が炎に包まれた後、少人数の隊列を組んだ劉焉が扉を破って出て来たのだ。 奴の手に持っていた武器には、大量の血が付いていたのが見えた。 多分……先に逃げ出す者を殺害して、自分の命を優先したのだろう」

 

政宗「…………浅ましい事を………」

 

何進「奴は儂を見付けると、武器を向けて叫びながら迫るが、桔梗と紫苑に射られてな。 命が助からないと判ると、炎渦巻く砦の中に入っていた。 『貴様達の武器では死なん!』と申してな……」

 

ーー

 

そう話し終わると……戦場を俯瞰する。 

 

大勢は少しずつ洛陽側が晋軍を包む込む態勢を作り出し、殲滅する機会を窺うが、未だに決定的な崩しが現れず、このままに至る。

 

何進の目は懸命に、誰かを探しているようだが………大勢の兵に遮られ見当たらない。 自分に献策してくれた、あの軍師は大丈夫かと心配するのだが。

 

ーー

 

何進「天城は………どうだ?」

 

政宗「………私達を突出させた時点で、天城の策が最終局面を迎えた筈。 それなのに………未だに決着が付かないのは……」

 

景綱「これは───想定外の事が起きた……としか」

 

ーー

 

何かあれば、凪が知らせると政宗達は聞いていたが………知らされたのは最終戦術の発動の合図だけ。 他の事で知らせて来た事は、今まで無いと言う。

 

ーー

 

綱元「…………返事が無いのは無事な証拠………なんだけどね」

 

成美「だ、大丈夫だよ! 颯馬は意外と筋肉付いて鍛えているもん! だから、絶対に大丈夫!!」

 

ーー

 

伊達陣営の緒将も、心配している様子が手に取るように理解できる。 ならば、何進として行うべき仕事は、まだ残っているだろう。

 

何進は三太夫を呼び付けると、疾風のように三太夫が前に現れる。 

 

ーー

 

三太夫「呼んだかい? 何進の旦那!」

 

何進「………何度も用事を任して済まぬが、どうしても探って貰いたい事があるのだ」

 

三太夫「そんな事いいって。 お仕事が無いと俺の方が色々と困るんだよ。 この前に貰った御給金、また落としちゃた後だから………」

 

何進「そうか、この戦が無事に勝利すれば……給金は弾むぞ?」

 

三太夫「いやあ──有り難いね! でぇ、どんな事なんだい?」

 

何進「儂も参戦しようと思うてな。 勿論、もう戦をしたくないと言う者も居ろうが、その時は有志を募っての戦況次第になるだろう。 ………儂も、戦を少しでも早く終わらせる為に、手伝いたいのだ!」

 

三太夫「…………………!」

 

ーー

 

ニコニコ顔で話を聞いた三太夫だが、何進からの申し出を聞いて黙り込む。

 

そんな三太夫を訝しげに思いながら、なおも言葉を続けて話す何進。

 

ーー

 

何進「だから、探りを入れ危ない場所を教えて貰いたいのだ! 儂が助けに入り、戦の不利を穴埋めしようと思う! そうすれば、この戦も早く終わ──」

 

三太夫「…………そいつだけは……勘弁してくれねぇかな? 俺は、雇い主を過労死させる為に働いてるんじゃないんだよ? 確かに、こうなった状況を後悔して、粉骨砕身働いてまくっているのは、分かるんだけどねぇ………」

 

何進「──な、何だと……うおっ!?」

 

三太夫「ったく、俺が肩を軽~く突いただけで身体が傾き、脚が震えるなんて、疲労困憊じゃねぇか? 大人しく休んで居たほうが身のためだって!」

 

何進「な、何を言うか! 天城が………あれほど自分の身体を痛め付け、体力や気力を磨り減らし、我らの勝利に貢献してくれているのに! 大将軍である儂が、このような所で休んでなどできる事など!!」

 

ーー

 

三太夫に言われ、思わず言葉を返したが……何進の体力は限界だった。 

 

そもそも……何進の年齢は五十近い。 もう、老人に近い年齢なのだが、それでも……鳥巣攻めの準備やら戦闘やらで徹夜のまま動き回り、火計においても戦陣で指揮を取り参加するという……獅子奮迅の活躍振り。 

 

いや、活躍する事が身体に重い負担を与え、何進の目の周りには隈が黒く浮き出る。 それに、何気無い動きにも動作が緩慢となり、明らかに生彩が見られない。 

 

下手をすれば……戦いの最中に不覚を取る事も充分ありえる程、弱りきっていると言うのに、何進は強硬に戦働きを望む。 何が、そこまで何進を動かしたのかと言えば………天城颯馬の後姿を見て思う………責任感と罪悪感であった。 

 

ーー

 

何進「天城は……大将軍の儂よりも民の平和を願い、仲間の生命を護りつつ戦ったのだぞ? しかも、アイツは軍師! 後方で策を思案して実行すれば良いものを、わざわざ前面に押し出て、自分の身体を痛め付けて行くではないか!」

 

三太夫「そいつは、天城の旦那の性だからねぇ。 昔も今も……全然変わんないよ。 俺を雇って貰った時から………」

 

何進「儂も、天城の御蔭で……どれだけ窮地を救って貰ったか。 それなのに借りを返す事も出来ず、ただ黙って指をくわえたままとは………上に立つ者として、男として、友として、情けないではないかぁ!!」

 

三太夫「…………何進の旦那、粋がるのは良いんだけどさ? ここは戦場だぜ? つまり、死んで後悔しても何にもならねぇんだぜぇ!」

 

何進「何を言いたい! 儂のような肉屋の親父が討死したところで、哀しむ者など───!?」

 

ーー

 

三太夫は、反論する何進を軽く睨み付けると、後ろを見るように促した。 そこには、何進を見守る桔梗達や心服している阿貴達、そして援軍で訪れた魏の真桜達や呉の穏達が佇んでいる。

 

ーー

 

三太夫「何進の旦那……天城の旦那を心配してくれんのは嬉しいけどさぁ、自分の身体も心配してくれないと。 俺達が帰っちまった後、旗頭である旦那がしっかり治めて貰わないと、陛下や他の者が困ちゃうんだぜ?」

 

何進「三太夫…………」

 

三太夫「それに、この戦を無事に乗り越え生きて欲しいって願っているのは、俺達だけじゃなくってね。 天城の旦那や義輝様や姐さん達、そして民達もいるんだぜ? 何進の旦那を必要としているのはさぁ!」

 

何進「だが……………わ、儂などで……いいのか? たかが肉屋の親父だぞ?」

 

三太夫「当然! 逆に代わりを探しても居ないと思うだけどなぁ?」チラッ

 

ーー

 

桔梗「そうですぞ! 我らが認める主は……何進様……貴方だけですぞ? 貴方が漢を盛り立てて下されば、益州や近隣諸国は何も問題なく従うでしょう!」

 

迷吾「頼むよ……何進の兄貴! 俺達には兄貴が必要なんだ! 兄貴に生きて欲しいんだよ!」

 

ーー

 

三太夫が目配せをすると、二人の将が呼び掛けた。 

 

戦場を共に駆け、艱難辛苦を乗り越え、悲喜交々を味わった将達の言葉が何進の心に響く。 肉屋、大将軍、様々な肩書きを無視して、何進と言う男の生を惜しんで望むのだ。

 

勿論、他の将達にも言いたい事はあるだろうが、無言で何進を見つめる事に止まっている。 この地は未だ奇怪な乱戦が続く戦場である故、必要以上に騒げば、味方の集中力を乱す結果になりかねない。

 

だが、この真剣な眼差しは……口で説得するとは違う方法で何進を引き止めた。 それは、眼差しに含む想いを何進が読み取れる程、信頼関係を築いて来たからだ。

 

何進は後ろを振り向き、少しの間だけ呆然とした。 そして、その意味を理解すると………目より涙が頬を伝わり落ちる。

 

ーー

 

何進「……………………!」

 

三太夫「一応言っとくけど……必要か決めるのは何進の旦那じゃなくて、俺達のように関わった者なんだよ? 自分で勝手に頑張って、これ以上の面倒事に頭を突っ込むのは、勘弁して貰いたいんだ!」

 

何進「………………………わかった。 暫く休んでから………此処で指揮を採らせて貰いたい。 政宗殿、宜しいか?」

 

政宗「………問題どころか大歓迎だ! それに、噂によれば……なかなか調理に関しても卓越した才覚を御持ちだ聞いている。 戦が終わった後には、是非とも大将軍直伝の調理方法を教えて頂きたい!」

 

ーー

 

何進は、政宗から手放しに喜ばれ頬を掻く。 来客に自ら調理した料理を勧める政宗だからこそ、何進の参加が嬉しいようだ。 成美も笑顔で応じ、景綱や綱元と頷いた。 桔梗達も嬉しそうな顔で景綱達と挨拶を交わす。

 

ーー

 

三太夫「だけどさ………確かに天城の旦那に何かあったかも知れないから、ちょっと様子を見てくるよ。 政宗の姐さん! 何進の旦那、宜しく頼む!」

 

政宗「分かった! 此方は私達に任せろ! だから、颯馬の事………頼んだぞ!」

 

三太夫「了解! 何か分かれば、直ぐ知らせに戻るってぇ!」

 

何進「三太夫………お前も動き過ぎだ。 くれぐれも無理をするなよ………」

 

三太夫「へいへい………やっぱ、誰かに心配して貰うのは良いもんだよ、何進の旦那! それじゃ、お仕事、お仕事っと!」

 

ーー

 

三太夫は、何進に軽口をたたくと………直ぐに、その姿を消す。

 

何進は………三太夫の消えた場所を……名残り惜しそうに見ていた。 顔に微笑を浮かべながら。

 

丁度、この時………颯馬の傍では、久秀が倒れ伏した時であった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

あとがき

 

最後まで読んで頂き、ありがとうございます!

 

何とか最終話に向かう努力は続けていますので、もう暫く義輝記へのお付き合いをよろしくお願いします。

 

それと……策で使いました『茨の砦』と『砦の攻略方法』は、実は元になった話があります。 三国志の舞台となります向こうの民間伝承(伝説、昔話)で

伝わる《博望坡の戦い》だとか。

 

勿論、策だけ参考にしましたので話は相違します。

 

元の話は、博望坡に砦を構えた夏侯惇に諸葛孔明が対峙、夏頃、趙雲に泥団子を投射する事を命じ、夜戦で三度繰り返させ敵を油断させます。 そして、雑草が枯れ草となった頃合に火矢で燃やし、茨砦を焼き尽くしたそうです。

 

今でも……その時の茨が残っている……とかいうけど……どうでしょうねぇ?

 

 

また、宜しければ読んでください。

 


 
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