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戦国†恋姫 三人の天の御遣い    其ノ十八

雷起さん

これは【真・恋姫無双 三人の天の御遣い 第二章『三爸爸†無双』】の外伝になります。
戦国†恋姫の主人公新田剣丞は登場せず、聖刀、祉狼、昴の三人がその代わりを務めます。

*ヒロイン達におねショタ補正が入っているキャラがいますのでご注意下さい。

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2016-03-06 02:46:45 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:2029   閲覧ユーザー数:1804

戦国†恋姫  三人の天の御遣い

『聖刀・祉狼・昴の探検隊(戦国編)』

 其ノ十八

 

 

幕間 その一

 

 天下の堅城と謳われた春日山城がその姿を消す時、祉狼と秋子の他にもうひとり涙を流す者が居た。

 それは日の本の城の美しさに心引かれるエーリカである。

 

「あんなにも美しかった城が………」

「まあ仕方ねぇんじゃねえか?持ち主の美空が決めた事だ。」

 

 エーリカの呟きに気の無い返事をしたのは頭上に鎮座する宝譿だった。

 

「宝譿!貴方には滅び行く物を悼む心が無いのですかっ!」

「そんなモンは散々見てきたからな。知った奴が死ねば落ち込むけどよ、さっき目にしたばっかりの城が潰れちまうのまで気にしてたら気が狂っちまうっての。」

 

 宝譿が千年以上も人の歴史を見てきた事をエーリカは思い出し、どれだけの滅びを目にしたのかと想像すると言葉が返せなくなった。

 

「それよりも、エーリカ。なんか見慣れねぇ奴がこっち見てるぞ。」

「越後か信濃の方でしょう。敵意は感じませんからいつも通り気にする必要は有りません。」

 

 好奇の目で見られる事に慣れているエーリカは何もせずそのままにしておく。

 平時であれば天主教の説教でもする所だが今は戦の最中だ。

 

「刀は腰に差してるけど、ありゃ旅装束だぞ。汚れちゃいるが上等な物を着てるな。しかも肩に鷹を乗っけてる。」

「は?」

 

 エーリカが気になって振り向くとそこにはひよ子と同じくらいの年齢の少女が、藪から身を乗り出し目をキラキラさせてこっちを見ていた。

 

「え、ええと………」

 

 最初は藪の陰から見ていたが好奇心から自分が藪から出てしまっている事に気付いていないのだとエーリカにも判った。

 少女の出で立ちは宝譿が言った通りで、衣類は久遠や美空の服に並ぶくらい上等な絹だし、腰の物の拵えも立派で数打物ではないと判る。

 肩に小型の鷹を乗せているが、戦の最中に鷹狩りという訳でもあるまい。

 後、旅の日除け用と思われる麦わら帽子を被っていた。

 

「あの………私はルイス・エーリカ・フロイスと申しますが、ご用がお有りですか?」

 

 少女自身の持つ雰囲気が余りにも純朴そうだったので、エーリカは努めて穏やかに話し掛けた。

 

「……………へ?」

 

 少女は少し間を置いてから我に返る。

 

「あひゃぁああああああ!い、いぐさのさいぢゅうにもうすわげねっすっ!」

 

 少女は顔を真っ赤にしてコメツキムシの様に何度も頭を下げ出した。

 肩に乗った鷹は慣れているのか、少女の動きに合わせて器用に跳ねていて、少女の肩から移動するつもりは無いらしい。

 

「オ、オラ、伊達総次郎輝宗っていうだ!つ、通称は雪菜だぁ!エーリカさまがすんごいべっぴんさんだったで見とれちまってただあ!」

「は、はぁ………あ、ありがとうございます………それで、雪菜さんは見た所旅の途中とお見受け致しますが、何故この春日山に?近隣の村でも鬼の噂は聞いておられましょう。」

 

「あぁあああああああっ!そんだあ!オラ、公方様さ会いに来ただよっ!それに織田の殿様にもっ!」

 

 雪菜の大声に一瞬驚いたが、エーリカは一葉と久遠の名が出た事に少女を見る目が鋭くなった。

 その時近くに居た梅が何事かと走って来る。

 

「どうしましたの、エーリカさん?」

「梅さん、こちらの方が一葉さまと久遠さまに会いに来られたと仰っておられまして………」

「はぁ、成程………」

 

 梅は目の前の女の子が征夷大将軍が如何なる存在か解らない程の世間知らずとは思えない。

 ではこの少女が何者なのかと良く見てみると、服に刺繍された家紋に目が止まった。

 

「その雀に笹の家紋………伊達家の方ですの?」

「んだ♪オラ、伊達総次郎輝宗っていうだよ♪」

 

「え?……………わたくしの記憶違いでなければその御名前は出羽国伊達家御当主と同じなのですけど………」

「そらそうだべ。オラの事だから♪」

 

「「………………」」

 

 エーリカと梅は顔を見合わせた。

 

「(梅さん、この方が嘘を言っている様には見えませんが……信じても良いのでしょうか?)」

「(輝宗様の居城のある米沢は出羽国の南ですけど、この上越からだと堺から越前くらいまで有りますわ。お召し物の汚れ方から見ると頷けますけど………もう少し質問してみるべきでしょうね。)」

 

 梅は雪菜に振り向いて頭を下げる。

 

「申し遅れました。わたくし、久遠さまにお仕えする近江の蒲生忠三郎賦秀、通称を梅と申します。総次郎様のお供の方はどちらにいらっしゃいますか?」

 

 普通に考えれば伊達家の当主が供も連れずにこんな所まで出て来るなど有り得ない。

 

「お供はここに居るだよ♪」

 

 そう言って雪菜は誇らしげに肩に乗せた鷹を指差した。

 しかし、当の鷹は素っ気無くそっぽを向く。

 

「ケッ!」

 

 しかも吐き捨てる様に鳴くという芸の細かさだ。

 

「ひぃいいい!基信丸(きしんまる)!オラを見捨てないでけれぇえええええ!」

 

 小型の鷹に縋って泣く姿はエーリカと梅の憐れを誘った。

 

「あ、あの………他の護衛の方は………御当主が鷹のみをお供に連れて旅をなさるなんて………」

 

 エーリカは鞠という前例が有るのを思い出し、もしや米沢城も駿府屋形と同じ運命を辿っているのではと懸念した。

 

「あはは……オラ、当主っつってもお飾りだでな♪政や戦はおっかあがしてるだよ。」

 

 雪菜は自嘲して言うが、悲観はしていない様子だった。

 

「オラ、戦が苦手でさ。鬼さこらしめるんはおっかあや家のモンに任せて、オラは奥州のみんなさ力合わせて鬼ば倒すべえって言って回るくらいしかできねえだよ。」

「奥州でも連合を組まれるのですね。………もしかしてその助力を求めに上越までいらしたんですの!?」

「んにゃ、奥州はもう纏まっとるで、問題ねぇだよ♪」

「え?それは蘆名家も………ですの?」

「んだ♪初めはけんもほろろのに追い返されたけんど、オラが頭さ下げまくって、何とかひとつに纏まっただよ♪」

 

「まあ♪それは素晴らしい…」

「エーリカさん!ちょっと………」

 

 梅がエーリカを制し、雪菜に背を向けて内緒話を始める。

 

「(エーリカさん!今までの話が全て真実なら、この方は恐ろしい程の外交手腕をお持ちですわよ!)」

「(そうなのですか?)」

「(会津蘆名家は伊達家と奥州の覇権を二分する大名で、その仲の悪さは長尾と武田以上と日の本中に知れ渡ってますわ。)」

「(それをこの少女が和睦させたと…………)」

 

 エーリカがチラリと雪菜を振り返る。

 如何にも純朴そうな田舎娘といった感じだが、何か独特の凰羅を持っていた。

 

「(ああ、やっと思い出したぜ。)」

 

 突然、エーリカの頭の上で宝譿がポンと手を打った。

 

「(あの嬢ちゃん、誰かに似てると思ったら、劉備玄徳に似てんだな♪)」

劉玄徳!?))」

「あのポヤ〜ンとして『みんなで仲良く〜』なんて甘い事言ってるトコなんかそっくりだぜ。胸の辺りはまだ足りねぇけど、歳を考えりゃ数年後は追い着くな。」

 

 エーリカと梅は後半の胸に関する下りは聞いていなかった。

 持っている者の無意識的余裕なのだろう。

 二人が最初に雪菜を見た時も特に気にはしていない。

 むしろ二人が気になるのは雪菜の雰囲気が『劉備玄徳』に似ている事だ。

 祉狼の口からたまに『桃香伯母さん』『香斗姉さん』『桃花姉さん』の名前を聞く事がある。

 その時の祉狼の表情に何処か憧れの様な物を感じていたので、祉狼がこの『伊達輝宗』にどう対応するのかが気になった。

 

「あんのぉ……そちらのお人形さん………言葉さ話すだか?」

 

「え?は、はい!不思議だとは思われるでしょうが…」

 

「ほんえぇええ♪やっぱ南蛮のモンはすんげぇなや♪」

 

 雪菜は宝譿が西洋から来たと思った様だが、エーリカは説明すると長くなりそうなので曖昧な笑顔を返すに留めた。

 梅もこのままでは埒が開かないので、目の前の少女が本物の『伊達輝宗』かを確認する為に話し掛ける。

 

「あの、総次郎様…」

「オラの通称は雪菜だ♪雪菜って呼んでけれ♪」

「で、では雪菜さま。米沢からいらしたと仰いましたが、米沢を出られる時は我々がこの上越に来る事は判らなかったと思うのですが?」

「あ、それは最初の目的が名月ちゃんに会う為だったからだよ♪」

「名月さまに?」

「朔夜さん…あ、北条の氏康さんの通称な♪朔夜さんに様子さ見てきてほしいって頼まれただよ♪」

 

「北条っ!?」

「うひゃぁあああっ!」

 

 梅の上げた驚きの声に、雪菜が更に驚いてひっくり返った。

 

「ああっ!も、申し訳ありませんわ!ですけど、伊達家は北条家とも同盟を結びましたの?」

 

 梅はエーリカと一緒に雪菜を助け起こしながら問い掛けた。

 

「んだ♪こっちからご挨拶するべぇ思っとったら朔夜さんから使いの方がみえられてよ♪優しいお方だぁ♪」

 

「北条から………」

 

 北条が出羽、陸奥と同盟を結び、越後に名月を送り込んだ。

 この事から梅は北条の武田包囲網だろうと推測する。

 

(美空さまがその事を言わないのは、隠しているのでは無く本当に知らないから?そうでなければ武田と同盟を結ぶ事に承諾しないはず………これは早く本陣にお知らせしなければなりませんわ。)

 

「それではこの春日山の状況にさぞ驚かれたでしょう?」

「春日山さぶっつぶれてびっくらこいただが、鬼に春日山さ乗っ取られたのは、ここさ来る間に親切な巫女さん達が教えてくれただよ。」

「巫女?」

「ほれ、御札さ売って回ってる歩き巫女っているべ♪霊験あらたかな御札さ買うと教えてくれんだ♪」

 

 そう言って雪菜は懐から紐で縛った御札の束を取り出した。

 どう見ても五十枚以上は有りそうだった。

 これは武田が意図的に情報を流していると考えるべきなのか、只単にぼられているのか、梅は判断に苦しんだ。

 

「そ、それは親切な方達ですわね………であれば、直ぐに本陣にご案内差し上げてもよろしいでしょうか?」

「まんずありがてぇ♪よろしくおねげえするだよ♪」

 

 梅はこの雪菜が偽物や間者である可能性は低いと判断した。

 もし判断が間違っていた場合は、自分の手で雪菜を斬る覚悟で本陣へ向かう。

 尤も、呑気な笑顔でついてくる雪菜を見ていると、本物であって欲しいと願わずにはいられなかった。

 

 

 

 

「公方さまぁ♪美空さまぁ♪お久しぶりだなや♪」

 

「雪菜っ!?」

「何であんたがここに居るのっ!?」

 

 梅の懸念は一瞬で消えた。

 伊達輝宗の『輝』は偏諱(へんき・かたいみな)で一葉の『義輝』から授与された物であり、熊と同じく雪菜の元服の際に一葉が烏帽子親となっており、雪菜は京を訪れて一葉に挨拶をしていた。

 そして、雪菜は京へ向かう道に北陸道を選び、行きと帰りに美空へも挨拶をしていたのだ。

 

「いんやぁ♪朔夜さんに名月ちゃんの様子さ見てきて欲しいって頼まれたべさ♪オラも名月ちゃんに会いたかったで丁度いいべって思って引き受けただよ♪んだども、越後さ来る途中で歩き巫女さん達から春日山城がすんげぇ事になっとるって聞いてよ!こんなオラでもお役に立てるべって思って急いで来たんだども、直江津さ入る前に名月ちゃんは助け出されて、美空さまが公方さまや尾張の織田様連れて越中まで戻って来てるって聞いただよ。んなら、下手に動かねぇで待つべってって直江津で待ってただ♪」

 

 雪菜の話を聞き終えた一葉と美空は陣幕の中にいる一二三、湖衣、夕霧、零美にジト目で振り向いた。

 それを四人は涼しい顔で視線を逸らしてやり過ごす。

 久遠はこの状況から、北条氏康が雪菜を使って長尾との同盟強化を図り、武田が更に歩き巫女を使って情報操作を行い奥州を味方に付けようと画策していると判断した。

 しかし、今は顔に出さず、久遠は雪菜を労う

 

「遠路遥々、鷹のみを共によくここまで来れたな。苦労。我が織田三郎久遠信長だ。」

「いやぁ~、はずめますてぇ。オラ、伊達輝宗、通称は雪菜いいますだ。よろしゅうたのんます。」

 

 言葉の訛りはキツいが、所作は礼法に則って綺麗な物で、鎌倉幕府の頃より続く歴史ある伊達家の者と実感させられた。

 

「名月の無事を早く確認したいであろう。今、呼びに行かせよう。」

「あ!それはまってけれ。オラ、その前にここに居る皆さまにお願いしたい事があるだよ。」

「ん?願い?」

 

「奥州もこの連合に加えていただきたいだよ!オラをその為の人質としてくんろ!」

 

 雪菜は奥州にも鬼が現れ、鬼に対抗する為に奥州同盟を組んだ事を語った。

 

「奥州が連合へ参加する事に否を唱える者はおらん。人質なども特に必要ないぞ♪」

 

 久遠は微笑んで言ったが、雪菜は困った顔をして言葉を探した。

 

「えっとぉ…………直江津で滞在してる時に、おっかあから手紙が届いただよ。伊達の当主が自ら人質になれば蘆名や他の大名も安心して結束が強まるって………オラ、戦さ苦手だで軍も連れてねぇ………人質って事でこちらにご厄介になるくらいしか役に立たねえだよ…………」

 

「デアルカ………」

 

 落ち込んだ顔をする雪菜に久遠はいつもの一言で応える。

 その目には己の外交能力に自覚の無い雪菜を励ましたいという想いと、雪菜の後ろで画策する雪菜の母伊達晴宗と、更に北条氏康の姿を捉えようとする鋭い光が宿っていた。

 

「奥州の事、そなたの扱い、どちらも皆で吟味するので、今は旅の疲れを癒すが良い。梅、金柑、そなた達に雪菜を任す。」

「「御意。」」

 

 梅とエーリカが雪菜を連れて本陣陣幕を出て行った。

 雪菜が充分離れるまで待ってから、久遠が口を開く。

 

「さてと………説明して貰おうか、夕霧。」

「そう来ると思っていたでやがりますよ。では順を追って説明するでやがります。」

 

 夕霧は居住まいを正して陣幕内の面々を見渡してから話し始めた。

 

「奥州に鬼が現れ始めた頃から雪菜どのは奥州の各地に赴いて見事に鬼に対処する同盟を作り上げやがりました。その能力に目を付けたのが北条氏康でやがります。武田との同盟を蹴って名月どのを美空さまの養子に送り同盟を結んだ後だったので、相越同盟の強化と武田の封じ込めも出来る一石二鳥の策でやがる。」

 

「ちょっと待ちなさいよ!」

 

 口を挟んだのは話題に上った当事者の美空だ。

 

「あのおばさんは鬼の動きを掴んでるって事じゃない!北条から鬼の話なんか一度も聞いてないわよ!」

「でやがりますか。だとすると北条は駿府屋形の現状を掴んでいやがる可能性が高くなったでやがりますな。」

 

 夕霧は北条氏康の性格からそう結論を出した。

 

「恐らく、相模にも鬼が駿河側から入り込んでいやがるのでしょう。ですが自分達から駿河に攻め込む事はせず、我ら武田に鬼の相手をさせ、鬼と武田のどちらが勝っても戦いが終わった後は弱体化するでやがる。そこを狙って攻め込み漁夫の利を得るつもりでやがりましょう。」

 

「しかし、氏康の目論見は春日山城が鬼に乗っ取られた事で修正が必要となってきた訳だ。お手柄だな、美空♪」

 

 久遠は美空に横目で笑い掛けた。

 

「嬉しくないわよっ!」

 

 憤慨する美空を宥めて、久遠は推測を述べる。

 

「雪菜は氏康に利用されて、我知らず草として越後まで来たのだろう。それを武田が歩き巫女を使い雪菜と奥州を味方に引き込む様に誘導した。と言った所か?」

「大方間違い無いでやがります。ですが、それだけでは無いでやがりますよ。」

「まだ、何か有るのか?」

「初めは久遠殿の仰られる通りでやがりました。しかし、次第に雪菜どのがあまりに危なっかしいのでいつの間にか歩き巫女と三ッ者で護衛する方が主となってやがりました………」

 

「それがあの娘の能力、天賦の才というやつじゃ♪」

 

「何で一葉さまが自慢気に言うのよ。」

「余は雪菜の烏帽子親じゃからの♪」

「何十人も烏帽子親引き受けてるんだから偶々でしょう!」

 

「それを理解しているのは雪菜の母もだな。我らの人質となれと言ってくる辺り北条の言いなりにはならんという事だろう………これも仕向けたか?」

 

 久遠の問いに一二三が笑顔で頷いた。

 

「それは私が。美空さまの所に伝えた噂と同じ物を米沢にも♪歩き巫女には雪菜さまに出会った後は米沢へ行く様に指示しておきました♪」

「デアルカ。さて、いよいよ雪菜の処遇をどうするか………一二三、祉狼の事も伝わっておるのだな。」

「はい。伊達晴宗様の狙いは間違い無く、雪菜さまを祉狼さまの嫁にする事でしょう。」

「奥州を丸ごと取り込め、北条氏康に一泡吹かせられるのだから良いとは思う………思うのだが………」

「どうしたのよ、久遠。らしくないわね。」

「雪菜の性格は我らにとって脅威だ。」

「はあ?あの田舎娘が?」

 

「祉狼は元々戦嫌いだ。それだけでも話が合うのに、あの思わず守ってやりたくなる雰囲気は我らに無い魅力だぞ。」

 

 久遠の言葉の意味が脳内に染み込むにつれ、一葉と美空の顔がジワジワと青ざめて行く。

 

「ま、守りたくなる雰囲気ならば双葉の方が上であろう………」

「否定はせんが双葉には将軍家の娘の覚悟が芯に有る。それに双葉はあれで結構人を見る目が肥えているぞ。一葉が影武者にしていた結果であろうな。」

 

 普通に考えれば褒められているのに、今の一葉には焦りしか無い。

 一方、美空はと言えば、家中の者で雪菜に対抗出来る人材を振るいに掛けるが、誰ひとりとして雪菜に対抗出来そうな者が見当たらない。

 そんな中で唯一思い至った人物がいた。

 

「空よっ♪空なら雪菜に対抗出来るわっ♪」

 

「落ち着け、うつけ者が。祉狼が空を子供としてしか見ていない事を忘れるな。祉狼が昴みたいになったらどうするっ!」

 

 美空は空と名月を祉狼の嫁にしたいと思っているが、流石にそれは願い下げたい。

 

「昴どのがどうかしたでやがりますか?」

 

 まだ昴の正体に気付いていない夕霧が、昴の話題だと思い無邪気に問い掛けてきた。

 

「典厩さま。久遠さまは祉狼さまの男らしい所が損なわれるのを気のしていらっしゃるのですよ♪」

「??………夕霧は男性の心の機微と言う物が判ららないでやがるよ…………もっと勉強が必要でやがるな。」

 

 久遠達は一二三が上手く夕霧を誤魔化したので、話題を元に戻す。

 

「連合の中ではひよが一番雪菜に近いのではないか?」

「そうね、武力は無いし、戦略よりも算盤の方が得意だし。小夜叉を前にするとガタガタ震えるし。」

「本人の前では言わんでやってくれよ。あれで結構気にしておるのだ。」

「余もそこまで無神経ではないぞ。それより、結局ゴットヴェイドー隊で面倒を見るのか?」

「それが良いんじゃない?ひよと一緒に居させれば雪菜の個性も目立たなくなるでしょう。」

「ならば双葉もゴットヴェイドー隊の手伝いをさせよう。木の葉隠すは森の中と言うしの。」

「双葉がやるなら結菜も行かせるか。」

「そうね♪結菜が居てくれるなら上手に取り仕切ってくれるでしょうし♪」

 

 正室達の話し合いで雪菜の処遇が決定した。

 結菜と双葉は本陣陣幕でそんな話し合いがされているなど判る筈も無く、今夜本陣となる寺に赴いて四鶴、慶、幽の初夜の準備を進めている。

 祉狼は聖刀、貂蝉、卑弥呼と共に負傷者の手当をする為に、雪菜が来る少し前に前線へ行っていた。

 そして雪菜は、名月が結菜達と一緒に居るので寺へと案内されている

 正室三人は梅とエーリカが結菜に上手く言い含めるだろうと思い、決定事項を伝える使いを結菜達の所へ出した。

 

 

 

 

 雪菜は梅とエーリカに連れられて、名月の居る寺へと向かっていた。

 

「あ、あんのぉ………すまねぇけんどぉ………」

「どうかなさいましたか?」

 

 雪菜が赤い顔でモジモジしている。

 足を内股にしているので用を足したいのだと二人が察した。

 しかし、辺りは鬼の潜伏を警戒して建物を尽く潰してしまった後で、厠も近辺には有りそうにない。

 寺まで行けば厠は有るが、そこまで我慢出来ない状態になったから雪菜も恥を承知で口にしたのだ。

 

「し、仕方ありませんわね………そちらの茂みの陰で………」

「お、恩に着るだ!基信丸!おめもちょっと待ってれ!」

 

 基信丸を空に放つと、雪菜は茂みに向かって内股のまま早足で飛び込んだ。

 

「雪菜さま、あまり奥まで行かないで下さいまし!」

「わ、わかっただあ!」

 

 そうは言っても音を聞かれるのは恥ずかしいので梅とエーリカの姿が見えない所まで入って行く。

 一方、梅とエーリカは雪菜の気配を掴んでいるので姿が見えなくなっても落ち着いていた。

 

「あの基信丸という鷹は賢いですわね♪雪菜さまの周りを警戒して飛んでいますわ♪」

「あら?降りて行きますけど………攻撃態勢ではないですね。どうしたのでしょう?」

 

 二人は鬼の気配も感じられないので、基信丸が獲物になりそうな獣を探しに行ったのかぐらいに思っている。

 そして茂みに入った雪菜は適当な場所を見付け、急いで下着を下ろす。

 しゃがむのとほぼ同時に我慢していた物が解放され、水音が聞こえて来た。

 

「ふひぃ………緊張さ解けたら急にもよおしただよ………やっぱ公方さまも美空さまも、何度お会いしてもべっぴんさんで緊張さするだ……それに久遠さまもべっぴんさんだったなやぁ♪………梅さんにエーリカさんもべっぴんさんだし、噂の薬師如来って言われてるお方はすんげぇかっこいい方なんだべなぁ………やべぇ、また緊張さしてきただ………」

 

 放尿しながら独り言を呟いていると、耳に下草を踏む音が聞こえた。

 

「へ?………………う、兎っ子かなぁ♪………ね、ねずみくらいならまんだ…………」

 

 雪菜は顔を青ざめさせながら天に祈った。

 

「………ん?確かに人の気配がする。お前のご主人さまが怪我でもしたのか?」

「ピィイ!」

 

 その声は祉狼と基信丸の物だった。

 雪菜は願いが聞き届けられなかったと更に血の気が引いていくが、天の御遣いである祉狼が現れたのだから、有る意味願が叶っているのかも知れない。

 

(や、やんだあ!男の子お声でねが!しっこさ止まんねえ!基信丸もなしてこんな所に男の子さ連れて来るだよ!こっちさ来ねえでけれえ!気付いてくんろ!んにゃ!気付かねでけれぇええええ!)

 

 パニックを起こした雪菜は目をグルグル回し、気が遠くなるが放尿は一向に止まる様子がない。

 

「大丈夫かっ!」

 

 祉狼が茂みを掻き分けて現れたのは、あろう事か雪菜の正面だった。

 

「ひっ……………………」

「あ………………………」

 

 祉狼は知らないが、桂花と紫一刀にも似た様な場面があった。

 これも北郷家の血の成せる技なのかも知れない。

 

 

 

「本当に申し訳ない!怪我をして動けなくなっていると思って………」

 

 前線で負傷兵の治療をする為に待機していた祉狼だが、春日山城よりも城下町に潜んでいる鬼を退治して回る部隊の方が怪我をしていると連絡を受けて移動をしていた所だった。

 ついでに林や茂みの中に鬼か、鬼に襲われた人が居ないかを探っていた所で空から基信丸が降りてきて、祉狼の腕に止まって引っ張る様に羽ばたいた。

 基信丸が鷹狩り用の鷹で、脚輪が付いているのを直ぐに気が付いた祉狼は、飼い主の危機を報せに来たのだと咄嗟に判断したのだった。

 そして急いで来た結果が、目の前で泣いている雪菜である。

 

「オラもう嫁っこさいげねぇだぁぁぁあぁ……」

 

 顔を手で覆って啜り泣く雪菜に祉狼はオロオロして、ひたすら頭を下げるしかなかった。

 

「責任は取る!」

 

 雪菜は涙を流しながら祉狼に振り向いた。

 歳は自分とそう変わらないが、強い意志を感じさせる瞳に惹かれる物を感じた。

 

「…………オラの通称は雪菜っていうだ………」

「俺の通称は祉狼だ。」

 

 雪菜は伊達輝宗の名を出せば相手が驚くと思い通称のみを教え、祉狼も同じ理由で姓名を口にしなかった。

 

「したら、四郎さ。オラの事嫁に貰ってもらうだよ………やっぱ無しはダメだかんな………」

「ああ、判ってる。ただ、その………」

「無しダメって言ったべ!」

 

 泣き顔で言われて祉狼は思わずたじろぐ。。

 そのとき、梅とエーリカがいつまでも戻って来ない雪菜を心配してやって来た。

 

「ハニー!?」

「メィストリア!?」

 

「梅!エーリカ!どうしてここに…」

「それはわたくし達の台詞ですわ!」

「メィストリァは前線に行かれた筈ですが…………配置換えですか?」

「ああ。後方で怪我人が出ていると報告が有ったんだ。」

「それにしてもおひとりでなんて!聖刀さまや貂蝉さまと卑弥呼さまはどうなさいましたの!?」

「聖刀兄さんは狸狐を連れてるから別の道で向かった。貂蝉と卑弥呼はザビエルの痕跡を捜しに行ってる。」

「そんな!ハニーはザビエルに狙われていらっしゃるのに!」

「梅さん。あのお三方がメィストリァから離れたという事は、ザビエルの襲撃は無いと判断されたからですよ。それよりも今は………」

 

 エーリカは涙で瞼の腫れた雪菜を見た。

 

「あ、あんのぉ…………三人はどういった関係なんだべか…………」

 

 薄々気が付いてはいるが、雪菜は聞かずにはいられなかった。

 

「ハニー………ちゃんと名乗られましたの?」

「いや………通称しか言ってない。」

「はぁ………ハニーの事ですから雪菜さまを気遣っての事でしょうけど、今回は裏目に出ましてよ。」

 

 梅が祉狼にお説教をしているので、エーリカが雪菜に真実を告げる。

 

「雪菜さま。こちらは田楽狭間の天人衆のおひとりにして、世間では薬師如来の化身と噂される華旉伯元祉狼さまです。」

「…………し、したら…………もしがして………久遠さまと公方さまと美空さまの…………」

「ええ。あのお三方は正室。私と梅もメィストリァ…祉狼さまの愛妾です。」

 

 雪菜はさっきとは違う意味で顔面蒼白となっていた。

 さっきまでは自分が見られて、その責任を取ってもらう形だったが、今は『自分から見せた上に泣いて祉狼を困らせ、脅迫までした極悪人』と言われても反論出来ない状況なのだ。

 戦国の世での強者と弱者の関係が骨身に染みている雪菜は、人質どころか良くて切腹、下手をすれば自分の命だけでは無く奥州全てを連合の敵にしてしまうかも知れないと、目の前が真っ暗になった。

 

「梅、エーリカ、俺は雪菜に人として許されない事をしてしまった。その責任を取らなければいけないんだ!」

 

 祉狼の声には梅にひとりで居た事を怒られていた時よりも深い謝罪と固い決意が有る。

 雪菜はただ唖然となり、梅とエーリカは雪菜がこの茂みに入った理由と現状から何が有ったのかを察した。

 

「具体的には雪菜がおしっ「言わんでけれええええええええええっ!」見てしまったんだ。」

 

 梅とエーリカは推測が間違って無かった事に溜息しか出なかった。

 

「不幸な事故ですわ………と、言ってもハニーは納得されませんでしょうね………」

「梅さんの予想がまさかこんなにも早く、こんな形で現実になろうとは……………ともかく、この裁定は結菜さまに委ねたいと思います。」

「判った。」

「では、ハニーはお仕事に戻って下さいまし。後の事はわたくしとエーリカさんに万事お任せ下さいませ♪」

「済まない。では雪菜、申し訳ないが俺は負傷者の治療に行く。戦が終わったら必ず会いに行くからな!」

「……………(コク)」

 

 返事をしようとした雪菜は、まだ声が上手く出せなかった。何とか首を縦に振る事で返事をすると、祉狼も頷いてその場から走って行ってしまった。

 梅とエーリカは祉狼の後ろ姿が見えなくなるまで笑顔で手を振って見送る。

 

「ひとりで行かせて良かったのか?途中でまた村娘や足軽の娘とぶつるんじゃねぇか?」

 

 宝譿の一言に梅とエーリカの笑顔が引き吊り、頬にひと筋の冷や汗が出る流れた。

 

 

 

 

「それは…………何と言ったらいいのかしら………」

 

 寺の一室で雪菜を迎えた結菜は頭を抱えていた。

 久遠からの伝令を受けて雪菜が来るのを待っていた結菜だが、梅とエーリカから話を聞いて雪菜に掛ける言葉を探した。

 既に自己紹介は済ませてあり、本当なら雪菜を名月と会わせる段取りでいたのに予想外の事態で良い言葉が浮かんでこない。

 

「…………まっこと申し訳ねっす…………」

 

 雪菜も恥ずかしさですっかり萎縮してしまい、久遠達の前で見せた態度が鳴りを潜めている。

 尤も、あれは極度の緊張を越えた開き直りだ。

 今の雪菜は、まな板の鯉状態で項垂れていた。

 

「いえ、雪菜さまが謝る事では有りませんよ!」

「さ、様付とか、久遠様の正室様に呼んでいただくのは恐れ多いべ!よ、呼び捨ててくだせえ!」

「そんな、伊達家の御当主を呼び捨てる訳には………」

「オ、オラ、当主っつってもお飾りの味噌っかすだで………」

 

 このままでは話が進まないと結菜は思って譲歩案を提示する。

 

「では、雪菜さんとお呼び致しますので、私の事も結菜さんと呼んで下さい♪」

「へい………」

 

 雪菜もこれ以上は却って結菜に失礼だと思い同意した。

 結菜は場を少しでも和ませる為に、雪菜へお茶を勧めてから本題に入る。

 

「では、雪菜さん。早速ですが、祉狼には責任を取らせます。雪菜さんの家格から申しますと、久遠、一葉さま、美空さまに次ぐ四番目の正室となりますが…」

 

「ぶへっ!げへっ!げほっ!」

 

 雪菜は口に含んだお茶を盛大に咽た

 

「ま、まってくんろ!公方さまと同格とか、か、勘弁してけれぇ!」

 

 咽せた事も手伝って大量の涙と鼻水を垂らし、情けない顔で哀願する雪菜だった。

 

「それでは私と同じ側室で構いませんか?」

「お願ぇします!それでお願ぇしますだ!」

 

 雪菜はまたコメツキムシの様にペコペコと頭を下げまくる。

 

「では決定という事で♪雪菜さん、これからよろしくお願いしますね♪」

 

 結菜が和やかに微笑むと、雪菜の緊張もかなりほぐれた。

 

「こ、こちらこそご指導よろしくおねげぇしますだ♪」

「身分は雪菜さんの方が上ですけど、私とは通称も似ていますし、なんだか妹みたいな気がします♪」

「身分とか気にしねでけれ。オラも結菜さんの事さ本当の姉ちゃんみたいに思えるだよ♪」

 

 雪菜には実姉が居て、父方の祖母の岩城家に養子に出ていた。

 性格も似ていて外交中心の政策を行い、雪菜が奥州を纏める時にも力になってくれた程で今も関係は良好だ。

 雪菜は姉にこの話をすればきっと褒めてくれると喜んだ。

 

「それで祉狼との婚礼なのだけど、鬼を日の本から一掃するか敵の親玉のザビエルを討伐するまで皆が自粛しているので、雪菜さんも我慢してもらえる?」

「わかりましただ。オラもザビエル倒して鬼さこれ以上増えねえようにしねと、民は安心して暮らせねぇって思ってるだよ。」

「良かった♪雪菜さんがそう思ってくれて♪初夜の方も出来るだけ早くするつもりだけど…」

 

「しょやっ!?」

 

「あら?この話は伝わっていないのね。祉狼に操を捧げて祝言とするのがもう慣例になっているの。これは祉狼をこの日の本につなぎ止める為に始めたのだけど、今は祉狼が鬼を人に戻すのに必要な氣の蓄積量を増幅する修行のひとつにもなっているのよ。」

「そ、そうですか………」

 

 雪菜は顔を真っ赤にして、思わず標準語で答えてしまうほど動揺していた。

 

「ただ、今は順番がつかえていて、今夜も三人、祉狼との初夜が行われるのよ。」

「今夜!?それに三人!?」

「後まだ越後の人達も三人控えているからその後になってしまうのだけど、待ってもらえるかしら?」

 

「か、構わねっす!オ、オラまだ祉狼さまとそんなに話しさしてねぇしてねぇし………」

 

「そう言ってもらえて助かったわ♪でも、祉狼と話をするのも、今日はもう殆ど時間が取れないから甲斐に向かう道中で話をする事になるわ。躑躅ヶ崎館に到着するまでには何とかできると良いのだけど……」

 

 雪菜は急展開する我が身の運命に頭がついて行かず、とにかく首を縦に振るだけだった。

 そこへ襖の向こうから声が掛かる。

 

「あの………結菜さん。ひよが到着しましたので、お通ししてもよろしいですか?」

 

 その声を聞いた雪菜はギョッとなる。

 内容では無く、声の主が双葉だと判ったからだ。

 

「はい、双葉さま♪こちらも丁度話が終わる所でした。」

 

 結菜の返事に襖が開き、双葉が顔を見せると雪菜は慌ててひれ伏した。

 

「ふ、双葉さま!お、お久しぶりでごぜえますだ!」

「え?お、お顔を上げてください、雪菜さん。」

 

 雪菜は双葉の言葉をお達しと捉え、手を着いたまま顔を上げる。

 その顔が緊張で強ばっているのを見て、双葉は結菜に問い掛けた。

 

「あの、結菜さん。雪菜さんは正室ではないのですか?」

「本人の希望で側室と決まりました♪」

「まあ♪では私と同じですね♪」

 

 嬉しそうに答える双葉の言葉を聴いて、雪菜の意識が一瞬飛んだ。

 

「あ、あんのぉ………失礼を承知でお尋ねしますけんど…………双葉さまも祉狼さまの………」

「はい♪側室ですよ♪同い年の方が増えて嬉しいです♪ね、ひよ♪」

「はいっ!?わ、私は愛妾ですから…………」

 

 双葉の後ろに控えていたひよ子は、驚いて声が裏返っている。

 

「そんな………お友達………」

「そ、それは大丈夫です!ひよは何が有っても双葉さまの友達です!」

 

 悲しそうな顔をする双葉に、ひよ子は慌てて宣言した。

 それを目にした雪菜はひよ子に親近感を覚え、内心ホッとする。

 

「あんのぉ、結菜さん………オラ、やっぱり愛妾にしてもらえねぇだべか?」

 

「ええっ!?こ、困りますっ!!」

 

 反論したのはひよ子だ。

 

「身分が一番下の私と伊達家の御当主様が同じ愛妾だなんて有り得ないですよ!」

「オラは飾りで当主さしてるだけのボンクラだで、気にしなくてええだよ!ひよちゃん!助けてけれぇえ!」

 

 互いに涙目になりながら助けを求める姿を見ていた結菜は、確かに久遠が伝えて来た通り二人は気が合いそうだと思った。

 そしてひよ子の更に後ろに居た梅とエーリカも、二人の遣り取りを見て微笑んでいる。

 

「ひよさんは愛妾筆頭なのですから、もっと堂々としてもよろしいのですわよ♪」

「いつの間にそんな事が決まったの!?梅さんっ!!」

「いつも何もゴットヴェイドー隊最初の隊士ですし、ハニーが日の本に来られた日にお会いしているでしょう♪」

「それだったら壬月さまと麦穂さまの方が先ですよ!」

「お二人にもお話ししたら、ひよさんを推薦されましたわよ♪」

「そんな!?なんでぇえええっ!?」

「それはひよさんが愛妾の中で一番最初にハニーの寵愛をいただいたからですわ。」

「そんなあ!やっぱりあの時ころちゃんか詩乃ちゃんに先を譲れば良かったよぉおおおおお!」

 

 梅とひよ子の会話に雪菜の顔は更に赤くなる。

 今、この部屋に居る女性は全員が祉狼の嫁であり、同い年と思われるひよ子も祉狼と男女の仲なのだと思うと、思春期の雪菜はまだ見ぬ男女の睦事を妄想してしまうのだった。

 

「愛妾だけでも今は十六人いるんですよ!今日のお三方を含めれば十九人!更に越後の方も三人予定に入ってるから全部で二十二人!その中でも私は身分が一番下じゃないですか!」

「ハニーの愛に身分は関係有りませんわ♪正にデウスの様な広き愛ですわ♪ねえ、エーリカさん♪」

「ええ♪私もそう思いますよ、ひよ♪」

 

 梅とエーリカが同時に十字を切って祈りを捧げるのでひよ子は更に情けない顔になり、それを見ている結菜と双葉はクスクス笑っていた。

 しかし、雪菜はひよ子の言った人数に愕然となっている。

 その様子に気付いた結菜は雪菜に言っておくべき事が有るのを思い出した。

 

「雪菜さん。祉狼はこれだけ多くの奥さんを娶っているけど、全て私達女の方から妻にして欲しいと言っているわ。」

「全員………ひよちゃんもけ?」

「わ、私は!………その………結菜さまにご助力いただいたけど………」

「わたくしはちゃんと自分の口で伝えましたわよ♪」

「私は………お姉さまが言って下さいましたけど、やはり私からです。」

 

 ひよ子、梅、双葉の順に答え、雪菜の視線はエーリカに注がれた。

 

「わ、私も…………」

「エーリカさんはお頭に告白する前に寝込みを襲った唯一の人です。」

「ひ、ひよっ!」

「事実じゃないですかぁ!私達がご飯を作ってる間にあんな事するなんてずるいですよぉ!」

 

「エーリカさんってもっとお淑やかな人かと思ってたけんど…………南蛮の人ってそうなんだべか?」

 

「ですからあれは心に傷を負ったメィストリァを慰めて差し上げよう思っての行動で!久遠さまにもお許しは頂いておりました!それに私は南蛮人ではなく、ポルトゥス・カレ…ポルトガル人です!」

「ぽるとがる?」

 

 雪菜は一般的な日の本人の感覚なので『南蛮人=西洋人』なのだ。

 しかし、連合内では南蛮人と西洋人は分けて考えるのが普通になっている。

 

「にゃああああああああああああああああああああああああああっ!!」

「ピィイイイイイーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 

 その原因となっている美以の悲鳴が庭から聞こえて来た。

 保護者のエーリカを先頭に結菜、梅、ひよ子、双葉が障子を開けて縁側に飛び出すと、美以が泣きながら走り回り、空を飛んでいる基信丸を追いかけていた。

 

「美以!どうしたのですかっ!?」

「エーリカ!あいつが美以のしっぽをかじったのにゃぁあああ!」

 

 これを聞いた雪菜は怒りの形相で基信丸を睨んだ。

 

「基信丸っ!!おめ、こんなちっこい子になんて悪さするだっ!!降りて((来()っ!!」

 

 基信丸は素直に降りて雪菜の腕に止まる。

 しかし、怒られる事が不服だと言う様に「ケッ!ケッ!」と鳴き、翼を広げて抗議した。

 その様子に今度はエーリカが美以を睨む。

 

「美以。あなたは基信丸さんに何かしましたね。」

「美以はなにもしてないにゃ…………………まだ………」

 

「美・以っ!!」

 

「にゃああああっ!し、しらない鳥があるいてたからつかまえようとしただけにゃ!」

「猫が雀を襲う様な感じでしょうか………」

 

 美以の言い訳に双葉が困った顔で呟いた。

 

「猫ですわね。」

「猫だねぇ。」

「美以は人間にゃっ!」

 

 いつもの遣り取りに結菜は苦笑し、エーリカはやれやれとこめかみを押さえた。

 

「普通の人間には尻尾など生えていません。雪菜さま、この子が南蛮人で私は西洋人です。」

 

 エーリカに冷たく言われて美以は目に涙を溜めて拗ねてしまう。

 そんな美以に雪菜が近付いて優しく頭を撫でた。

 

「美以ちゃんっていうのけ?この基信丸さ、オラの大事な友達だで仲良くしてくんろ♪」

「……………わかったにゃ………」

「うん♪美以ちゃんはええ子だなあ♪ほれ、基信丸も謝って仲良くするだよ。」

「ピィ!」

 

 基信丸は美以の頬に頭を摺り寄せ、「さっきの事は水に流してやる」と言っている様だ。

 

「く、くすぐったいにゃ♪」

 

 今泣いたカラスがもう笑うと例える通り、美以はさっきまでの拗ねていた影はもう無くなってる。

 この雪菜の手腕に結菜は感心して見ていた。

 

(成程、奥州を纏め上げたと言うのも頷けるわね。確かに久遠達が警戒する訳だわ。)

 

 こうして春日山城戦の影で雪菜こと伊達総二郎輝宗が連合に加わったのだった。

 

 そして、結菜達は雪菜に伝え忘れている事がもうひとつ有った。

 ゴットヴェイドーの発音の事を。

 

 

 

 

幕間 その二

 

 越後の国衆で長尾晴景派だった者達も、晴景が鬼と通じた事で全て美空に寝返り恭順の意を示した。

 越後の後事を国衆に指示を出して任せ、連合は甲斐へ向けて出発する。

 先ず目指したのは川中島の近くに在る海津城だった。

 川中島に向かう軍勢を見た民は、いつもならまた美空が武田と一戦交えるのかと思う所だ。

 しかし、今回は先触れを出して鬼討伐の為に越後長尾は甲斐武田と和睦したと伝えて回っている

 初めは疑っていた民も、長尾の九曜巴と上杉の竹に飛び雀紋、そして武田の四つ割菱が並んでいるのを見て驚き、漸く信じたのだった。

 そのお陰もあり道中の民は皆喜んで迎え、中には参戦を願い出る者も多く居た。

 

「ようこそおいで下さった。よもやこの様な形で美空さまをこの海津城にお迎えする日が来ようとは、この婆も夢にも思いませなんだ♪」

 

 一行を出迎えたのは一二三と零美の母で、名を真田一徳斎幸隆、かつての名は真田幸綱と言い、砥石崩れの後に砥石城を攻め落としたのは彼女だった。

 今は零美に家督を譲って隠居の身である。

 

「私もあんたのその顔をまた見るとは思わなかったわよ。次は絶対に卒塔婆か墓石だと思っていたんだけど、憎まれっ子世に憚るとはよく言ったものね。」

「ほっほっほ♪そうやって美空さまが思って下さるから長生きが出来ておりますわ♪武田の家中におると直ぐにもお迎えが来そうで不安になりますでの♪」

 

 美空の嫌味も暖簾に腕押しで躱すあたりは年長者の風格といった感じだった。

 久遠と一葉は呆れながらも当主の務めとして美空に付き合っている。

 他の者達は到着後の確認や指示出しに忙しく走り回っていて、ゴットヴェイドー隊もそれは変わらないのだが、数名が早くも作業を終えて海津城の見学を始めていた。

 

「湖衣さんの普請されたこの海津城……………山城とはまた違った趣が在ってとても素敵です♪」

「そんな………お恥ずかしい限りです、エーリカさん。」

 

 湖衣の案内で大御門から三の丸へ入る所だ。

 案内されているのはエーリカ、雫、詩乃、ひよ子。

 上越で新たに連合へ参加した奥州の雪菜。

 そして、祉狼、昴、聖刀、貂蝉、卑弥呼の天人衆も勢揃いしている。

 祉狼の護衛に小波が付き、聖刀の横には狸狐が従い、昴は美以のお守りを買って出てその手を引いていた。

 

「千曲川を西の外堀に利用して、本丸に至るまでに何重もの水堀で敵の侵入経路を限定していく。理想的な平城ですね。」

 

 播州で城の普請を任されていた雫も目を輝かせている。

 

「これが武田の丸馬出ですか♪話には聞いていましたが、成程これは迎撃に向いた形ですね♪」

 

 久遠達が一徳斎と挨拶をしている真田邸は大御門の外、馬場や演武場広場の横に在り、その広場では兵の宿営準備が進められているのが見える。

 城見学の一行は外から本丸を目指して移動していた。

 

「このお城だと普請に掛かる銭は………」

「ひよは防御力よりも銭勘定の方が気になりますか。」

 

 頭の中で算盤を弾き始めたひよ子に詩乃がクスリと笑った。

 

「あはは♪清洲のお城の時に勘定奉行を任されてたから、つい気になっちゃうんだよね♪」

「その気持ち判りますよ、ひよ♪私も播州の城の普請を初めて任された時は、武士では無く商人になった気分になりました♪」

「久遠さまは次に来るのは商人の時代だってよく仰ってますから、銭勘定はしっかり出来た方がいいよね♪」

「西洋では王侯貴族が既に商業で財を蓄えているとか。そうですよね、エーリカさん。」

 

 話を振られたエーリカは眺めていた海津城の外観から雫に振り返った。

 

「ええ、そうですね♪西洋の貴族は日の本の公家と武家を合わせた性格を持っています。自国を守る為にお金が掛かりますから、お金を集める手段として自然とそうなったのですが………中には手段と目的が入れ替わってしまう方も多く見受けられます。王が大商人に貴族の爵位を与える事も有るのですから武一辺倒では没落してしまいます。」

 

 西洋が日の本と根本的に違う事にひよ子と雪菜は目を見開いて驚いていた。

 

「日の本もいつかそうなっちゃうのかな?だとしたら和奏さまや犬子ちゃんは大丈夫?昴ちゃん。」

「そこは私がやるし、雀ちゃんはあれで結構お金にはうるさいのよ♪スバル隊は時流に上手く乗ってみせるわよ♪でも今は湖衣さんの造ったこのお城をもっと良く見学しましょう♪」

 

 昴の提案にひよ子も頷き再び海津城を見渡す。

 

「湖衣さん、塀が低いのは堀が大きいからですか?」

「ええと………逆でしょうか………塀が低いから堀を大きくしたんです。武田では『人は城』という考え方をしますから躑躅ヶ崎館も塀の高さはこれくらいなんです。ここは前線の砦ですから防御力を高める為に堀を大きくしました。」

「へえ~。」

「……………ひよ。その冗談は寒いですよ…………」

「冗談で言ったんじゃなくて本当に感心してたんだよ!詩乃ちゃん!」

 

 詩乃とひよ子の遣り取りに笑いが起こる中、湖衣はそっと祉狼の顔を見ていた。

 

「ん?どうかしたのか、湖衣?」

「えっ!?い、いえ………」

 

 湖衣が顔を赤くして言い淀むのを見て、昴がニヤリと笑う。

 

「湖衣さんも祉狼の事が気になりますか♪」

 

「ぬぅわんですってぇええええええっ!!」

「むむむ!策士山本勘助ならば海津城の秘密の部屋に祉狼ちゃんを連れ込んで!羨ま恥ずかしい事でもする機会を伺っておったのか!ふんぬぅううううう!」

 

「ち、違いますぅうううううっ!!」

 

 貂蝉と卑弥呼に迫られて、湖衣はマジ泣きしそうになった。

 それを助けるのは意外にもひよ子だ。

 

「貂蝉さま、卑弥呼さま、似た様な事を私にも言ってましたよ。湖衣さんがそんな事する訳ないじゃないですか。」

 

「あら、そ~お?それじゃあ湖衣ちゃんは何で祉狼ちゃんを見てたのかしらぁ~?」

「うむ、忌憚無い意見を述べて貰おうか。」

「そ、その…………実は貂蝉様と卑弥呼様にも関係が有るのですが、稲葉山城を祉狼さまとの三人で落とされた話が有名ですから、この海津城を見た意見を聞かせて頂ければと………」

 

 湖衣が祉狼に期待の目を向けるが、祉狼は困った顔をして首を捻った。

 

「俺は城の普請に関してはまるっきりの素人だから意見と言われても…………むしろ聖刀兄さんの方が専門家なんだが………」

 

 祉狼が聖刀に助けを求めて振り向く。

 

「祉狼、そんなに難しく考えなくてもいいんだよ♪例えば雪菜ちゃんが海津城の本丸に囚われているとしたら、祉狼ならどうやって入り込む?」

「オ、オラだか!?」

「それは堀と塀を飛び越えて行くけど…」

 

「飛び越えるっ!?」

 

「あ、違った。堀の方は水面を走るな♪」

 

「「ええーーーっ!!」」

 

 予想の遥か上を行く答えに、雪菜も湖衣と一緒になって驚きの声を上げた。

 

「お頭、実際にやって見せた方が良いですよ。」

「そうですね。あれは己の目で見ないと理解出来ないでしょう。」

「そうか?よし♪」

 

 ひよ子と詩乃に勧められ、祉狼はまるで地続きででもあるかの様に堀の中に一歩踏み出す。

 水面は祉狼の身長よりも下に有り、祉狼は当然重力に引かれて下に消えた。

 

「きゃぁあああああああああああああああああああっ!!」

 

 湖衣の悲鳴が三の丸に響き渡る。

 堀の縁には通常『逆茂木』や『乱杭』と呼ばれる先を尖らせた木や竹槍を大量に設置する。

 勿論、海津城の全ての堀にも設置されており、雫や詩乃がその事を知らない筈が無いのに何故こんな事をさせたのかと湖衣は二人に不信の目を向けた。

 

「湖衣さん、ちゃんと祉狼さまをご覧になって下さい。」

「今度は悲鳴を上げないで下さいね♪」

 

 落ち着き払った詩乃と、楽しそうに笑う雫。

 二人が何を考えているのか解らず、湖衣は急いで祉狼を助けなければと堀を覗き込んだ。

 

「湖衣、本丸は北で間違い無いよな?」

 

 祉狼が水面の上に立って北を指差している。

 湖衣は絶句して口をパクパクさせる事しか出来ないでいるので、雫が代わりに答えた。

 

「祉狼さま。その塀の向こうに馬出が在り、また堀を挟んで南門、その中が二の丸、更に堀を挟んで太鼓門、その奥が本丸となっています。」

 

 雫が湖衣に見せて貰った縄張り図を思い出し説明すると、祉狼は頷いて北を向く。

 祉狼が水面に立っているのは、墨俣の一件の時に見せたのと同じで水面に浮かぶ木の葉に氣を送り、その上に立っているのだ。

 詩乃、雫、エーリカは越中までの渡河の度に見ているので、すっかり慣れていた。

 

「判った!ちょっと行ってくる!」

 

 ここからの移動方法はやはり墨俣の時と同じで、祉狼は足元から水しぶきを上げて堀を渡って行く。

 対岸近くになった所で跳躍し、一気に塀を飛び越え馬出の中へとその姿を消した。

 湖衣と雪菜は呆然となって完全に言葉を失っている。

 反対に馬出の中では空から降ってきた祉狼に驚く声が上がっていた。

 また直ぐに祉狼の跳躍する姿が見え遠ざかって行く。

 今度は二の丸から祉狼に驚く声が聞こえ、数秒後に本丸でも同じ事が起こった。

 馬出の塀が遮って祉狼の姿が見えなかったが、本丸に在る館の屋根の上に祉狼が現れ手を大きく振った。

 

「祉狼ちゃんったらぁ~。お城の人たちを驚かせちゃダメじゃない~。」

「祉狼ちゃんもまだまだ修行不足だの。どれ、迎えがてらに手本を見せてやるか♪」

 

 そう言って貂蝉と卑弥呼が腰を落とし、一気に跳躍した。

 二人はまるで砲弾の様に放物線を描き、祉狼の居る屋根の上へと降り立った。

 本丸の中は祉狼が現れた時以上に大騒ぎになる。

 漢女二人が空から降ってくれば当然の結果だろう。

 

「あれでご本人方は普通の人だと仰るのですから困ったものです。」

 

 詩乃が深い溜息と共に湖衣と雪菜に愚痴をこぼした。

 

「びっくらこいただ………祉狼さが如来様の化身だ言われるのも納得だべ………」

「あの………稲葉山城もこの様に攻略されたのでしょうか?」

「私はその時清州に居ましたから詳しい事は………この中で直後の様子を知っているのはひよと昴さんですね。」

 

 話を振られひよ子がその時の光景を思い出して苦笑する。

 

「あの時は私もまだお頭があそこまで強いの知らなかったからスゴく心配したけど、稲葉山城に着いたら大手門の門扉が粉々になってて、中には敵の足軽が気絶して脇で山になってたよ………二の門、三の門も同じ状態で、天守なんて一直線に穴が開いてて向こう側が見えたもん。」

「それは………………久遠様のご指示で?」

「違いますよ!お頭は久遠さまが出陣されたので合流する為に稲葉山城に向かったんですけど、今みたいに川も林も田畑も飛び越えて近道しちゃったから久遠さまを追い越しちゃったんです。それに気付かず久遠さまが先に稲葉山城に居ると思って突撃しちゃったらしいです。」

「そんなちょっとドジな所が可愛らしいと思ってしまうのは、惚れた弱味なのでしょうね。」

 

 詩乃がそう付け加えると、ひよ子は勿論、エーリカと雫もはにかんだ笑顔を浮かべる。

 

「はは♪みんなが祉狼の事をそんなに想ってくれて有難いよ♪」

 

 聖刀は詩乃達に笑顔を見せた後、屋根の上の三人に目を向けた。

 

「所で、あれだけの騒ぎになっているのに吾妻衆の人達が誰も出て来ないのはどうしてなんだろう?」

 

「それは吾妻衆には全員末端に至るまであの方を守る事を徹底しているからですよ♪」

 

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 

 エーリカ、ひよ子、詩乃、雫、狸狐、雪菜、そして小波までもが声を聞くまでその気配に気付かなかった。

 声の主は麦穂や壬月くらいの年齢の女性で、物静かな佇まいを見せている。

 しかし、直ぐ彼女には一分の隙も無い事が詩乃や雫にすら判った。

 

「はじめまして♪私の名は戸沢白雲斎と申します。一徳斎さまに吾妻衆の鍛錬を任されている者です。」

「はじめまして♪北郷聖刀です♪見事な隠行術ですね♪」

「北郷様は私の接近に気付いておいでだったではないですか♪お恥ずかしい限りです♪」

 

 小波は聖刀が気付いていたのに自分が気付けなかった事に大きなショックを受けた。

 もしこれが祉狼を狙う敵だったらと思い、もっと鍛錬せねばと心に誓う。

 

「段ぞ…白雲斎殿!このように出歩かれるなんて…」

「大丈夫♪大丈夫♪湖衣ちゃんは心配性だねぇ♪今日はどうしてもご挨拶したい人が居るのよ♪」

 

 そう言って白雲斎が目を向けたのは、今までの騒ぎを全て無視して美衣と遊ぶ昴だった。

 昴と美衣が視線に気付き顔を上げると白雲斎は静かな足取りで近付いて行き、ギリギリの所でしゃがみ込んだ。

 

「こんには〜♪お菓子をあげるからお姉ちゃんとも遊んでくれるかなあ♪」

 

 そう言って白雲斎は懐から黄色くて所々茶色い斑模様になった細長い物を取り出した。

 

「バナナにゃっ♪♪」

「お姉ちゃんの通称は栄子っていうのぉ♪お嬢ちゃんのお名前は?」

「美衣は南蛮大王猛獲にゃ♪バナナくれたら特別に真名を呼ぶこともゆるしてやるじょ!」

 

 美衣は偉そうに言うが、その目はバナナに釘付けだ。

 

「はい、どうぞ♪これでわたしと美衣ちゃんはお友だちね♪」

 

 バナナを受け取った美衣は早速皮を剥き、夢中になって食べ始める。

 栄子はその隙に美衣の頭を撫でまくった。

 美衣の愛くるしい姿を思う存分堪能してから、栄子は昴を見てニヤリと笑う。

 

「どうかしら♪これが戸隠流忍法『幼女と仲良くなりましょうの術』よ♪」

 

 どう見てもやっている事は誘拐犯の手口であり、ネーミングのセンスも雛とどっこいどっこいだ。

 

「フッ、中々やりますね」

 

 昴は不適に笑い返す。

 そして互いに手を差し出して固い握手をかわした。

 どうやら変態同士通じ合うモノが在るらしい。

 傍で見ている詩乃達は呆れているが。

 

「あの………もしや貴女は加藤段蔵…『飛び加藤』殿ではございませんか?」

「あら。もう、湖衣ちゃんがさっき言い間違えたからばれちゃったじゃない。」

 

 雫の問い掛けに、栄子はおどけて見せる事で肯定した。

 但し、ダシにされた湖衣は冗談が通じなかったらしく、本気で落ち込んでいた。

 

「あ、あの、湖衣さんの一言は切っ掛けではありましたけど、むしろ白雲斎殿の行動の方が決め手になりました。美空さまからお話は伺っておりましたので………」

「あっはっは♪今、美空さまに見付かったら三昧耶曼荼羅で八つ裂きにされるでしょうね♪それに夕霧さまからも♪まあ、夕霧さまにには出来ればあの可愛らしいお足で踏んで頂けると嬉しいんですけど♪ああ、実は私、越後を追い出された後、甲斐でご厄介になったんですが、甲斐でも同じ様な理由で追い出されまして♪そこを一徳斎さまが武田の御屋形様に内緒で匿ってくれたんですよ♪それで今は一徳斎さまに恩返しとして吾妻衆に私の術や技を教えているのです♪」

 

 碌でもないカミングアウトをしながら笑う栄子に向ける詩乃達の視線は、昴を見る物と同じだった。

 

「そんな訳で、昴さんと二人きりでお話したいのですけど、宜しいでしょうか?」

「私は構わないけど………良いですか、聖刀さま?」

「行っておいで、昴。あ、そうだ。栄子さんにひとつだけ尋ねたいんだけど。」

「はい、何でございましょう。」

 

「バナナは何処で手に入れたの?」

 

「美衣ちゃんの情報を手に入れたその日に堺まで走って買いに行きました♪」

 

 栄子はバナナを腐らせない日数で買って帰って来たのだ。

 それだけで聖刀は栄子の身体能力の高さを認識した。

 

「ではちょっと行ってきます。」

「皆様、お邪魔いたしました♪」

 

 昴と栄子が美衣を連れてこの場を後にする。

 

「って!ちょっと美衣は置いていって下さいっ!」

 

 エーリカが慌てて美衣を取り返した。

 前科の有るロリコン二人と美衣ひとりを人気の無い場所に行かせるなど、結果は火を見るより明らかだ。

 

「「自然に連れ出せたと思ったんだけどなぁ………」」

 

 人間の屑な台詞をハモる二人に女性陣は盛大な溜息で応えた。

 結局、昴と栄子は二人きりでこの場を後にし、二人の姿が見えなくなった所で詩乃が小波に問い掛ける。

 

「小波さん、あの飛び加藤殿から空さま達を守れますか?」

「正直に言いましてとても難しいです………飛び加藤の噂は三河に居る頃から聞き及んでいましたが、噂以上ですね………私の手の者と軒猿の方達で協力すれば………はっ!」

「どうしたのです?」

「飛び加藤殿は軒猿にも所属していたのですから手の内が読まれています!」

 

 小波の悲痛な声に湖衣も申し訳なさそうに追随する。

 

「同じ理由で吾妻衆と三つ者も栄子殿には翻弄されると思います………」

 

 女性陣が暗い空気に支配された所に祉狼と漢女二人が空を飛んで戻って来た。

 

「お帰り、祉狼♪貂蝉♪卑弥呼♪」

「ただいま、聖刀兄さん♪」

「「た・だ・い・まぁ〜〜〜ん♪」」

「戻ってくるのが遅かったけどどうしたんだい?」

「向こうで驚かせてしまったお詫びに何人か治療をしてきたんだ。」

「ああ、それで途中から聞こえて来るのが歓声に変わったんだ♪」

「まだ治療をしてあげたい人を残して居るからかはやく…………どうしたんだ、みんな?それに昴の姿も見えないが…」

 

 聖刀が暢気に構えているのでそれ程深刻な事では無いのは判るが、流石に急かすのは憚られた。

 

「ご主人さま!どうかこの小波に修行をつけて下さいっ!」

「よしっ!判ったっ!♪」

 

 祉狼は事情が判っていないが、小波の熱意は伝わったので二つ返事で即答した。

 

 さて、一方昴と栄子は周囲に人の気配が完全に無い堀の畔で対峙していた。

 

「単刀直入に言いましょう。私と手を組まない?昴くん♪」

「出会っていきなりですね。栄子さんと組んで私にどんな得があるのかしら?」

「昴くんは空さま、名月さま、愛菜ちゃんを狙っているのでしょう♪その手助けをしてあげるし………」

 

 昴もそれくらいは言って来る事を予想していた。

 栄子の狙いは自分の嫁である和奏達に違いないとも察している。

 和奏達が栄子に取られるとは思っていないが、危険が及ぶなら栄子と敵対する事も辞さない覚悟だ。

 

「近隣諸国の美幼女の情報を教えてあげるわ!」

 

「乗ったっ!!」

 

 脊髄反射の即答だった。

 

「期待した通り良い返事だわ♪それじゃあ、手を組んでくれるお礼に、私の事をもう少し教えてあげる。」

 

 栄子は和やかに話し始める。

 

「私が忍びの術をここまで極められたのは幼女のお陰なのよ。いいえ、違うわね………私が忍びの術を極めようと思ったのは幼女の為っ!」

 

「幼女の為………」

 

「ええっ♪私は幼女を四六時中見守る為に!夜中もこっそり寝床に忍び込んでハァハァする為に忍びの術を磨いたのよっ!!」

 

「そこまで言い切るなんて!私と同じだったんですねっ!!」

 

 変態二人が意気投合した瞬間だった。

 こいつらを通報して投獄したい所だが、生憎この外史にはこいつらを捕まえてくれる警察は存在しない。

 

「正直に言うと、私は昴くんが羨ましかった!可愛い幼女を何人もお嫁さんにするなんて!殺して全てを奪ってやりたいとも思ったわ!……………でもね、気が付いたの。私とあなたが手を組めばもっと多くの幼女とお友達になれるのよ♪先ずは近隣の姫を!駿府屋形を取り戻したら、そこに幼女の楽園を築きましょう♪私は駿河で忍びの里を作りましょう!忍びの里で親を亡くした幼女達を引き取り大事に育てるわ♪」

 

「なんて素晴らしい計画なの♪私の夢とほぼ同じだわ♪」

 

「計画が軌道に乗れば幼女の方が向こうから集まって来るのよ♪…………げへへへへ♪」

「ああ♪幼女の楽園が地上に♪……………ぐひひひひひひ♪」

 

 頭がお花畑になっている変態二人はもう完全に暴走していた。

 

「あ、そう言えば沙綾さんと夕霧ちゃんにはここに居る事は内緒なんでしょ?どうするの?」

「それは私が昴くんに心服して、名前も改めて家臣になったって言えば大丈夫よ♪ここに居続けてもバレた時に一徳斎さまに迷惑掛けるしね。」

「そこまで考えてたんですか。」

「ああ、私は昴くんの家臣になるんだから、私に敬語を使っちゃダメよ♪」

「あ、そっか…………それじゃあ栄子さん♪これからよろしく頼むわよ♪」

「御意に!」

 

 変態二人は手を取り合ってニヤリと嗤う。

 

「では早速だけど、武田家の家中に幼女って居る?」

「高坂弾正昌信さま。通称を兎々ちゃんっていう、舌っ足らずでとびっきりのが居るわよ…いえ、居ますよ♪」

「ほほう♪それは楽しみね♪」

 

 こうして傍迷惑なロリコンコンビが結成されてしまったのだった。

 

 

 

 

 幕間 その三

 

 海津城を後にした連合軍は街道を南下して武田晴信の待つ躑躅ヶ崎館を目指した。

 

「秋子さん、辛くないか?」

「はい、大丈夫です!」

 

 祉狼は馬を駆って隊列の各所で病人や怪我人が出ていないか確認して回っており、今は秋子の直江隊の所にやって来た所だった。

 

「これは父上♪お役目おつかれさまでございます♪母上の事はこの越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続がしっかりとおたすけしてみせますぞ♪どーーーん♪」

「ははは♪愛菜は元気だな♪でも、愛菜は空と名月の事も見てくれているだろう?」

「御大将より授かった名誉ある務めであるからには、そちらも抜かりありません!どや♪…………むむむ!」

「どうした、愛菜?」

「何やら母上は肩がこっておられるご様子。」

「なにっ!」

 

 祉狼は再び秋子を振り返る。

 秋子は祉狼に見つめられて思わず顔が赤くなった。

 

「こ、これくらいはいつもの事ですから、ご心配には及びませんよ!おほほほ♪」

「母上は胸に重たいものをぶら下げておりますから肩が凝りやすいと常日頃…」

「下がってませんっ!まだちゃんと上を向いてますっ!」

「う~ん………そうかな?」

「そんなっ!………し、祉狼さまに垂れていると思われてる………」

「秋子さんは最近俯きがちじゃないか?下を向いて猫背になっているから肩が凝りやすいんだ。」

「え?あ………そっちですか♪」

「胸の筋肉は鍛えているからしっかりと乳房を支えている。姿勢さえ正せばこれ以上は酷くならない筈だ。となると俯く原因は………何か悩みでも有るのか?」

「な、悩みですか?」

 

 秋子の目下の悩みと言えば『いつになったら祉狼との初夜が迎えられるのか』だ。

 勿論、そんな事を言える訳が無く、ただ顔を赤らめるだけだった。

 

「すまん、男の俺には言辛い事だったか?それじゃあ、俺は按摩をして凝りを解してあげるから、悩みの方は誰かに相談してみてはどうだ?」

「あ、按摩を!?してくださるのですかっ♪」

「ああ、行軍中は流石に無理だが、今夜にでも…」

「では結菜さまに相談しに行ってきますっ!!」

 

 宣言すると秋子は馬腹を蹴って飛び出して行った。

 

「隊列を離れてしまったが…………大丈夫なのか?」

「その心配には及びませぬぞ、父上!なにしろこの直江隊には、越後きっての義侠人!樋口愛菜兼続がおるのです!母上の代わりは見事に果たして見せますぞ!どーん!」

「ははは♪そうだったな、愛菜♪任せたぞ!」

 

 祉狼は愛菜の頭を撫でて応援する。

 

「はふぅ♪父上の撫で方は優しくて気持ち良いですな♪」

 

「「おとうさま♪」」

 

 名月と空が『乗物』と呼ばれる立派な駕籠から顔を出した。

 

「わたくしも秋子の代わりを努めますわ♪」

「わたしも頑張ります♪」

「お、そうか♪偉いぞ、名月、空♪」

 

 祉狼は馬から降りて二人の頭も撫でてあげる。

 名月も空も子猫の様に目を細めて嬉しそうだ。

 

「おとうさま♪せっかくですから少しお話をいたしましょう♪」

「わたしもおとうさまの活躍をお聞きしたいです♪」

「ん?そうか?…………小波!」

 

 祉狼が振り向くとそこに小波が現れた。

 

「はっ!仔細承知!句伝無量にてゴットヴェイドー隊の皆様にはお伝えしますので、病人、怪我人が出た場合はこちらに連れて来る様に致します。」

「緊急の場合は俺の方から向かう。その時の為に誰かもうひとりくらい護衛をしてくれる人を回して貰ってくれるか。」

「御意。」

 

 こうして秋子が戻って来るまでの間、祉狼は子供達との距離をまた少し縮めるのだった。

 一方、結菜の下へ喜び勇んで駆けて行く秋子は、今夜の事を想い妄想が膨らんでいた。

 

(按摩をしてくださるって事は身体に触れられるって事よね!しかも夜に!こ、これはもうそのまま初夜にって流れよね!つまりさっきのは祉狼さまからの伽のお下知だわ!ああっ!祉狼さまぁ♪そ、そこは肩ではございませんん!でも、でも!ああぁん♥)

 

 頭の中は妄想で桃色に染まっているが、体は巧みに馬を操り、秋子の生涯で最高の速度で結菜の居る中軍まで街道を駆け抜ける。

 秋子の前に居た部隊は、秋子の発する只ならぬ凰羅に圧倒され慌てて道を開けていった。

 結菜と双葉の乗る輿が見えると急制動で砂煙を巻き上げ、秋子の姿が見えなくなる。

 

「何事か!」

 

 結菜の鋭い声に近侍の少女達が事態を確認しようと急いで動くが、その前に馬から降りた秋子が砂煙を突き破る様に現れた。

 

「結菜さまぁあああああああっ!この直江秋子景綱!祉狼さまに今宵の伽を命ぜられましたぁあああっ!!」

 

「あ、秋子ぉっ!?」

「秋子ったら………そんな大声で………」

 

 近侍以外にも久遠の馬周りや一葉の足利衆が中軍を固めており、秋子の声はかなりの人数に聞かれていた。

 今の秋子にそんな事はまるで頭に無く、ただ結菜から了承の言葉を期待に満ちた目で待っている。

 

「秋子、ちょっとあなた埃まみれじゃない………髪もそんなにボサボサにして………」

「大丈夫ですっ♪床入りまでには身支度を整えますのでっ♪」

 

 またしても周囲に届く大音声で恥ずかしい事を言ってしまう。

 これはもう下手な事を言うと秋子が正気に戻った時に泣くと確信した結菜は、早く了承と言ってあげた方が良いと判断し口を開き掛けたが、言葉を待つ秋子がおあずけをされてご飯を見つめる犬に見えて言葉に詰まった。

 

「………あ、秋子………あなたに祉狼との契りを許可しま「はいっっ!!!」………………」

 

 返事と同時に秋子は満面の笑顔で涙を流し、軽やかにスキップをしながら馬へと戻って行く。

 これを見ていた近侍の少女達は、早く良人を見付けなければ自分もああなると身震いして心に深く刻み込んだのだった。

 

「あの、結菜さん。……旦那さまは本当に自分から秋子に仰られたのでしょうか………」

「どうなのかしら…………あ、小波に句伝無量で尋ねればいいのね♪」

 

 結菜は早速お守り袋を手にして小波に問い掛けた。

 

《秋子殿がその様な…………こちらでご主人さまが秋子殿に仰られたのは………》

 

 小波の話を聞いて、秋子が完全に暴走している事は判った。

 これも自分が待たせてしまった所為だと結菜は反省し、お詫びの意味も込めて温泉の有る宿を手配してあげようと心に決めた。

 

「結菜さん………あの状態の秋子をひとりで旦那さまとご一緒させて大丈夫でしょうか?」

 

 新たな問題点を双葉に示され、結菜は輿の上で突っ伏した。

 

「はあ………これは当初の案の通り松葉と貞子にも…………って、これだと松葉ひとりに秋子と貞子を抑えてもらわなくちゃならないわね…………」

 

 既に貞子の癖は全員の知る所なので、本当は秋子と松葉で貞子を抑える計画だったのだ。

 結菜は五分程考えを巡らせ結論を出した。

 

「越後の事は越後の人に任せましょう!」

 

 

 

 

 こうと決めたら結菜の行動は早い。

 美空の所に自ら馬を駆って赴き、秋子の状態と結菜が考えた事を伝える。

 

「え?それって私と柘榴もって事?」

「はい。いざという時に頭ごなしに止められる美空さまと、力尽くで押し止められる柘榴が居れば万全かと。他家の者が同席するのもどうかと思いますし…………」

「そ、そう?ま、まあどうしてもって言うなら♪」

「不都合が有るのでしたら私と久遠、一葉さまと双葉さま、あとは幽も交えて…」

 

「だ、大丈夫よっ!不都合なんて何にも無いからっ!」

 

 美空にこんな所でツンデレを発揮されては時間の無駄なので結菜は強硬策で話を進めた。

 次に夕霧の下へ馬を走らせ今夜の野営地の近くに温泉の湧く場所が無いか尋ねる。

 

「今日の目的地は諏訪湖でやがりますから、有るでやがりますよ♪」

「実は………」

 

 結菜が事情を話すと夕霧が真っ赤な顔をして驚いた。

 

「行軍中に祝言でやがりますかっ!?」

「私も本当はゆっくり落ち着いてからと思うのだけど……やっぱり駿府での戦を考えると……」

 

 敢えて言葉を濁す事で夕霧の情に訴える。

 結菜の思惑通り夕霧も意を汲んでくれた。

 

「了解したでやがります♪早馬を出して準備をさせるでやがりますので、必要な物が有れば遠慮無く言って欲しいでやがりますよ♪」

「ありがとうございます♪それでは………」

 

 これで場所の確保が出来た。

 細かい事は現地に着いたら自分が指示を出せば良い。

 

「さてと、一番大事な物を確保しに行きますか!」

 

 次に結菜が向かったのは、

 

「祉狼!今日はこれから私が良いと言うまで、ずっと一緒に居る事!」

 

「………………………え?」

 

 祉狼はまだ空、名月、愛菜と一緒に秋子を待っていた。

 秋子が結菜の前からスキップをして立ち去ってから結構な時間が経っている。

 浮かれたまま何処に行ってしまったのかと心配になったが、小波が気を利かせて句伝無量で全員に呼び掛けた所、雹子の所で今夜の事を相談しているのが判った。

 

「小波………雹子から引き離して連れて来てちょうだい!」

 

 雹子ひとりでも祉狼が歪んでしまわないか心配なのに二人に増えられては堪らないと、こちらも強硬手段に訴える。

 

「空さま、名月さま、愛菜。今夜は美空さまが越後の大事な会議をするそうだから、私と双葉さまがご一緒しますよ♪」

「本当ですか♪うれしいです♪」

「お二人にはたくさんおうかがいしたい事がございますの♪」

「はて?母上は確か父上に按摩をしていただく約束をしていたのではありませぬか?」

 

「それは「それは会議が終わった後でするのよ♪ねえ、祉狼♪」………お、おう……」

 

 祉狼は嘘が下手なのでボロが出ない様に結菜が畳み掛けると、祉狼はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 空達を結菜と双葉が預かるのは昴対策でもある。

 

(昴本人は沙綾さんと和奏達に任せるけど、念には念を入れて小波と貂蝉と卑弥呼も配置しましょう!)

 

 全ての下準備を終えた結菜は、諏訪湖に到着すると夕霧が用意してくれた湯治場の宿で支度に取り掛かった。

 人海戦術を使い一気に支度を整え終わった時に、丁度良く美空達が到着したので結菜は美空と奥女中隊に引き継いで空達の所へ向かった

 そして宿に到着した美空達はと言うと。

 

 

 

 

「秋子はずるい。」

「私もそう思う!抜け駆けしようとするなんて!」

 

 松葉と貞子が秋子をジト目で睨んでいる。

 

「抜け駆けしようとした訳じゃありません!松葉ちゃんと貞子の事を忘れてただけです!」

「「そっちの方が酷いっ!!」」

 

 宿の玄関前で言い争う三人に、美空と柘榴が溜息を吐いた。

 

「ほら!早くしないと祉狼が来るわよ!さっさと湯を使って汚れを落としなさい!」

 

 そう言う美空も内心では、突然訪れた数日ぶりの祉狼との一夜に心が逸っている。

 宿に入り湯殿を確認すると結構な広さの露天風呂だった。

 

「これなら空と名月と愛菜も一緒に入れたわね。」

「それはまた次の機会が有るっすよ。甲斐にはかなりの数の隠し湯が在るらしいっすから♪」

「光璃の奴、こんな良い物をたくさん隠し持ってるなんて生意気よ!全部私が入って陽の下に晒してやるんだから!」

 

 そう言うと美空は服を脱ぎ始めた。

 後の四人も美空に続いて服を脱いでいく。

 この光景をひよ子が見たら乳格差社会に打ち拉がれたに違いない。

 巨乳王国越後と呼んでも差し支えのない壮観さだ。

 

「どうっすか、松葉♪祉狼くんが褒めてくれたおっぱいっすよ♪」

「…………………」

「何で黙るんすかっ!!」

「柘榴のおっぱいはどうでいいけど…」

「どうでもよくないっす!!」

「祉狼はおっぱいが好き?」

「へ?………そうっすねぇ、本人は気付いて無いけど揉んだり吸ったり結構好きっすよ。ねえ、御大将。」

「そうねえ♪祉狼がおっぱいを吸ってると無性に可愛く思えて、つい抱きしめちゃうわね♪」

 

「「…………羨ましい…………」」

 

 貞子と秋子が嫉妬の目で美空の乳房をジッと見つめる。

 

「あんた達の無駄に大きなおっぱいも、やっと役に立つわね♪」

「………無駄って………確かに肩こりの原因で苦労しましたけど………」

「無駄じゃありません!肩が凝ったのが切っ掛けで、今この時を迎えているのですから!」

「あんた達二人が祉狼の前で落ち着いていられるならもっと嬉しいんだけど…………でもそうなるとこの状況にもならなかったのね………」

「………私は二人っきりになりたかったですぅ…………」

「やっぱり抜け駆けじゃない!…………とは言え、私も祉狼さまと二人っきりで…………うふふふふふ♪」

 

 貞子が妄想に耽り始めたが、美空達は無視して行軍の汚れを洗い流し始めた。

 我に返った貞子も急いで体を洗い、全員が温泉から上がった時には食事の用意もされていて、祉狼も到着していた。

 

「「し、祉狼さまっ!!」」

「秋子も貞子も驚き過ぎ。祉狼、こんばんは。」

「こんばんは♪温泉はどうだった?ここのお湯は皮膚病や腰痛に効くと聞いたが、湯に浸かると血行が促進されるから肩凝りも楽になったんじゃないか?」

 

 祉狼を前にした秋子と貞子は一瞬で舞い上がりアワアワするだけで言葉が出せなくなっていた。

 貞子は更に刀を抜き差しし始め、シャキシャキンうるさくて敵わない。

 そんな貞子から柘榴が刀を取り上げる。

 

「ああ………」

「今は必要ないっすから預かっておくっすよ。いざという時は直ぐに返してあげるっす!」

 

 貞子を柘榴に任せて、美空が祉狼に答える。

 

「良い温泉だったわ♪でも、秋子も貞子もこの程度じゃまだまだ肩こりが取れてないみたいだから、食事の後でじっくり解してあげて♪」

「判った♪…………うん、浴衣姿も似合っているな♪」

「え?そ、そう♪あら?でも、祉狼は浴衣を見慣れてるの?」」

「俺の母さんも風呂上りや夏には浴衣をよく着ていたんだ。」

「あ!お義母様は日の本の方ですものね♪」

「今よりも四百年以上未来の、こことはまた違う外史だけどね。」

「その話も興味は尽きないけど、今は食事にしましょう♪」

 

 食事の用意も結菜が奥女中隊に指示を出して作らせた物で、祉狼の分には例の強壮剤がしっかりと入れられている。

 食事の最中も秋子と貞子は祉狼に見とれて、機械的に食べていて味などまるで判っていなかった。

 下手に弄ると暴発しそうなので美空、柘榴、松葉は二人を放っておく事にして、祉狼との会話に花を咲かせる。

 

「ここに着いた時に見た間欠泉には驚いたっすよね♪もう!どばーーーーーっ!と吹き上がる姿が見事だったっす♪」

「俺は間欠泉を初めて見たが、あんなに吹き上がる物なんだな♪」

下野(しもつけ)の川俣で見た物の三倍はあったんじゃないかしら?」

「伊豆の熱海にも在るらしいから、駿府の戦が終わったらそっちも見てみたい。」

 

 駿河の戦では春日山城の時に居なかったザビエルも現れるだろうと予測されていた。

 武田信虎に乗っ取られた時からザビエルが準備を始めていたとなれば越前以上に鬼子や上級中級の鬼が居ると予想される。

 松葉はその戦で絶対に生き残るという意思を込めて祉狼に言っているのだ。

 

「ああ!絶対に全員で見に行こう!」

 

 祉狼も強い意思を込めて応えた。

 

 

 

 食事も終わり、布団の敷かれた寝室に移動すると遂にこの時がやって来た。

 

「「ふ、ふふつつつつかものののですがよよよ」」

「二人共落ち着く。不束者ですが、末永くよろしくお願いします。」

「「よろしくお願いしますっ!!」」

 

 松葉、秋子、貞子が三つ指を着いて頭を下げる。

 

「こちらこそ、色々と心配を掛けるとは思うがよろしくお願いします♪」

 

 祉狼も頭を下げて、これで簡単ではあるが夫婦の契が終わった。

 

「さあ♪それじゃあ先ずは秋子の按摩から始めましょう♪ほら、秋子♪浴衣を脱いで布団の上にうつ伏せになりなさい♪」

「ええっ!?私だけ脱ぐんですかっ!?す、凄く恥ずかしいんですけど!」

「昼間に散々恥を晒しておいて、今更何を言ってるのよ。それとも貞子に…」

「脱ぎますっ!!」

 

 ここまで来て貞子に先を越されて堪るかと、秋子は着ていた浴衣を一気に脱ぎ去った。

 

「………ちょっと、秋子………さっきは気付かなかったけど、そんな下着を着けてたの?」

 

 秋子が身に着けていたのは秘所が辛うじて隠れる程度のマイクロビキニだった。

 色は赤で、隠れているとは言っても布が薄く透けていた。

 

「しょ、勝負下着ですからっ!!」

「勝負って………普通、初夜でそんなの着けてたら相手がドン引きするわよ………祉狼………呆れないであげてね………」

「?よく判らないが判った。それじゃあ先ずは肩を揉むぞ♪」

 

 秋子にとって幸か不幸か、祉狼は視覚で欲情しないので秋子のマイクロビキニ姿はマッサージしやすい格好だとしか思われていない。

 美空と祉狼の反応に少し落ち込む秋子が大人しくうつ伏せになると、乳房が潰れて両脇から大きくはみ出した。

 祉狼が秋子の横から肩を揉もうとすると、美空がまた声を描ける。

 

「何だかやりづらそうね。祉狼、秋子の背に乗って構わないわよ。」

「それだと重いだろう。」

「祉狼の体重で潰れる程ヤワじゃないわよ♪ねえ、秋子♪」

「はい。背中に乗られても構いませんよ。」

「そうか?それじゃあ…」

 

 秋子は愛菜に肩を揉んで貰う時はいつもそうしていたし、時には愛菜に腰を踏んで貰っていたので気にしていなかった。

 しかし。

 

(あれ?この背中に当たる柔らかくもコリコリした感覚は……………っ!!)

 

 秋子は背中に当たる物の正体に気付き動悸が早まる。

 

「肩だけじゃなく、背中が全体的に凝っているな………少々荒くなるが構わないか?」

「は、はい!」

 

 秋子は意識を背中に集中していて祉狼の言葉をよく聞いていなかった。

 

「ふんっ!」

「ひぎぃっ!…………………………」

 

 祉狼は秋子の両腕を掴んで引っ張り、上体を反り返らせた。

 指圧では無くストレッチ式のマッサージなのだが、知らない人が見れば関節技に見える。

 実際にやられる方はかなりの痛みを感じるのであまり変わらない。

 痛みに耐える秋子が体を震わせるので乳房もプルプルと揺れていた。

 

「前から見てると秋子さんいやらしいっすよ。」

 

 どんなに痴態に見えても、前述した通り祉狼には効果が無いので意味が無い。

 

「ふぅ………済まない。これをした方が指圧の効果が上がるんだ。」

 

 既に息も絶え絶えになっている秋子は祉狼の声が届いているのか怪しい状態だ。

 しかし、指圧が始まるとその気持ち良さに驚く。

 

「はあぁ♪すごい♪凝りが解れていくのがわかりますぅ♪」

 

 祉狼の指圧は肩から肩甲骨、背筋と降りて腰へと移動していく。

 

「祉狼。例の氣を秋子に送っておいてあげてくれる?」

「ん?秋子は非処女だと結菜から聞いているが………」

「もう何年もしてないから秋子が痛い思いをするわよ。」

「そういうものなのか?………う~ん、女性の体についてまだまだ知らない事がたくさん有るな。」

 

 祉狼は美空に言われた通り、秋子の腰を指圧しながら氣を送り込んだ。

 

「ふぁっ!?」

 

 秋子は突然胎内が熱くなり、股間が痺れた様な感覚に襲われ戸惑った。

 

………………………………

 

………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 秋子は汗だくで髪を振り乱して仰け反る。

 締りの無くなった口からヨダレを垂らして虚空を仰ぎ、絶頂の中で意識を失った。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……ハァ……ふぅうううぅぅ♪」

「おつかれさま、祉狼♪」

 

 美空が祉狼の背中を抱き止め、柘榴達は気を失った秋子を祉狼から引き剥がして布団に寝かせる。

 

「祉狼くんにはいつもの事っすよね♪御大将も初めての時はこんな感じだったじゃないっすか♪」

「わぁあああああああああああっ!!なんてこと言うのよっ!!それを言ったら柘榴だってそうじゃないっ!!」

「そうっすよ♪」

「あっさり認めた!?」

「あのぅ、御大将………」

 

 美空と柘榴の掛け合い漫才に割って入ったのは貞子だった。

 既に浴衣を脱いで下着姿になってモジモジしている。

 

「なに?その下着…………」

「しょ、勝負下着…………」

「だろう事は見れば判るわよ。一体いつそんなの手に入れたのっ!」

 

 貞子の身に着けているのは胸の真ん中に猫の顔型の穴が開いている黒い下着。

 いわゆる『ねこランジェリー』だった。

 秋子と同サイズの爆乳を覆うには布面積が不足で、下乳がはみ出しているのがとてもエロく見える。

 

「この間、海津城に居た時に堺から来た行商人から買いました。何でも今、南蛮で流行っているとかで………」

 

「似合ってるじゃないか、貞子♪うん、可愛いでと思うぞ♪」

 

 祉狼の褒め言葉に、貞子は恥ずかしがりながらもとても喜び、美空と柘榴は愕然となった。

 祉狼が女性の身に着けている物を可愛いと言うなど滅多に無い。美空と柘榴は初めて聞いたので驚くのも無理はない。

 

「(御大将!今度行商人が居たら何としても手に入れるっす!)」

「(そ、そうね!流行っているならきっと仕入れているに違いないわ!)」

「松葉はもう持ってる。」

 

 そう言って松葉が浴衣の胸元を開くと、白いねこランジェリーのブラをしていた。

 

「御大将が一徳斎の婆さんに会ってて、柘榴が綾那と勝負してる時に買った。」

 

 問う前に答えられて美空と柘榴が言葉を失っている間に、貞子が祉狼への奉仕を始めていた。

 

………………………………

 

………………………………………………………

 

………………………………………………………………………………………………………

 

 秋子、貞子に続き、祉狼は松葉との一戦を終えた。

 松葉は初め大人しく冷静だったが、やはり北郷家御家流には鉄壁の松葉も抗いきれず、最後は馬乗りになって激しく祉狼を求め、絶頂と同時に意識を失った。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……ハァ……ふぅうううぅぅ…………」

「し、祉狼………本当に大丈夫?」

「柘榴達は我慢するから、祉狼くんはもう休んでいいっすよ?………」

「いや!奥さんを幸せにするのが夫の務めだと一刀伯父さんたちも言っていた!俺は美空と柘榴の喜ぶ顔が見たい♪」

「もう♪祉狼ったら♥」

「そんな事言われたら、柘榴達もまた乱れちゃうっすよ♪」

 

 仰向けに寝る祉狼に左右から美空と柘榴は寄り添う。

 

「妻の務めとして、早く赤ちゃんを産まないとね♪」

「赤ちゃんっすかあ♪柘榴も早く祉狼くんの赤ちゃんが欲しいっす♪」

「判った♪」

 

 三人はキスを交わして強く抱き合った。

 

 

 

 翌朝、祉狼と美空達五人は目覚めてから朝食の前に温泉に入った。

 

「わ、わたし…………そんな事をしたんですか…………」

 

 信じられないという顔をして秋子は湯に浸かっているのに青ざめた。

 

「覚えてないんすか、秋子さん?」

「祉狼さまの………裸を………見たところまでは覚えてるのだけど…………」

「文字通り我を忘れてたのね…………」

「私も最後の方は無我夢中でよく覚えてないけど、それまではしっかり覚えてるぞ。」

「松葉はちゃんと全部覚えてる。あんなに気持ちいいと思わなかった♪」

 

 露天風呂の湯けむりの中、五人の巨乳美女が昨夜の思い出話に花を咲かせている。

 その横で祉狼は湯の中で足を組んで呼吸を整え、静かに大地の氣を体内に取り入れ、氣の回復をしていた。

 目に映る山々は紅葉もかなり落ちて冬の到来が近い事を教えていた。

 

「(冬になれば風邪を引く人達も多くなるな…………忙しくなるぞ!)」

 

 祉狼の頭は既に仕事へと向けられていた。

 

 

 

 

幕間 その四

 

「今日中には躑躅ヶ崎館に到着するでやがりますよ♪」

 

 夕霧の言葉に本隊が色めき立つ。

 戦場となる駿府はまだ先だが、ひとまずの目的地が目の前という事で険しい山道の行軍も大休止が取れるからだ。

 

「そこでひとつ昴どのにお願いが有るのでやがりますが、よろしいでやがりますか?」

「あら♪夕霧ちゃんからのお誘いなんて、何かしら♪」

 

 和やかに話す夕霧に、昴も笑顔で応えた。

 

「馬での競争をもう一度お願いするでやがりますよ♪あの様な負け方は納得出来ないでやがる!」

 

 そうは言っているが、夕霧の本当の目的は他に有った。

 武田のお膝元と言っても良い場所で、甲斐でもトップクラスの馬術を誇る夕霧を天人の昴が負かせば、武田の将兵に口で説明するよりも解りやすく天人衆の凄さを知らしめる事が出来ると考えているのだ。

 

「少々お待ちを、典厩さま。」

 

 そこに口を挟んだのは一二三だった。

 

「ただの競争では、昴くんは前回と同じ様に走るでしょう。ひとつ賭けをしては如何ですかな♪」

「賭けでやがるか?」

 

 夕霧は一二三が昴のやる気を引き出すつもりなのは理解した。

 

「何を賭けるでやがる?」

「負けた方は勝った方の言う事をひとつだけ聞くと言うのはどうでしょう♪」

 

「乗ったぁああああああああっ!!」

 

 昴の目は既に本気の炎が燃え盛っていた。

 昴の叫びに驚いた夕霧は少し引いている。

 

「(典厩さま、昴くんは勝って典厩さまを嫁に貰う気ですよ♪)」

「(ええっ!?こ、困るでやがるよ!姉上に何の相談も無く嫁入り先を決めるなど…………)」

「(大丈夫ですよ♪典厩さまの幸せを願う御館様なら必ず許してくれます♪)」

「(そ、そうでやがるか?…………)」

 

 夕霧が心密かに昴に惹かれている事を前提に一二三が話しているのに、夕霧は動揺していた為気付いていなかった。

 

「その話、我も乗ろう♪」

 

 久遠が会話に気付き、笑顔で馬を寄せた。

 

「えっ!?久遠さまがっ!?」

 

 昴は久遠に夕霧を取られるのではとかなり焦っている。

 

「安心せい。お前と夕霧の賭けには加わらん。他にも参加者を募り、我が褒美を出す。」

「あ、そう言う事ですか…………あー、びっくりした………」

「勝利条件は夕霧に勝てた者だ。これで夕霧も本気になるであろう♪」

 

 久遠がいたずら小僧の顔でニヤリと笑う。

 久遠は夕霧に連合の将の強さを計らせるのと、夕霧の思惑と一緒で甲斐の将兵に連合の将の技量を見せるのが目的だ。

 

「祉狼!聖刀!貂蝉!卑弥呼!お主達も参加せよ!甲斐の者の度肝を抜いてやれ♪」

「判った!」

「ははは♪競争なんて久しぶりだね♪」

「あぁ~ら、久遠ちゃん。そのご褒美はわたし達ももらえちゃうのかしらぁ~?」

「うむ、そこは重要であるな。」

「貂蝉と卑弥呼には今までとても助けられた。これは褒美を与える口実だとでも思ってくれ♪何なら祉狼と聖刀と一日のんびりと過ごさせても良いぞ♪」

 

 久遠の一言に貂蝉と卑弥呼の目の色が変わる。

 

「ふぅぉおおおおおおおおおおおおおおおっ!!頑張っちゃうわよぅぉおおおおおおおおおっ!!」

「ぬふぅぅううううううううううううううっ!!俄然燃えてきたぁあああっ!!滾るっ!!滾るぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 こうして欲望渦巻く競馬が甲斐で始まった。

 まあ、現代だと競馬は欲望が渦巻くのが当たり前だが。

 集まった参加者は織田家から和奏、犬子、小夜叉、不干、梅。

 浅井家から市。

 長尾家から柘榴、貞子。

 松平家から綾那、歌夜。

 そして足利家からは…………。

 

「当然、余の出番であろう♪」

 

 一葉が名乗り出た。

 

「当然ではありませんっ!現役の公方さまが褒美を出す側ならともかく、参加なさるなど幕府の威信に関わりますっ!」

 

 そしていつも通り幽に怒られる。

 しかし、一葉は引き下がらなかった。

 

「嫌じゃ!余は夕霧に勝って主様と共にゆっくり甲府見物をする権利を得るのじゃ!」

「子供ですか………あれは貂蝉どのと卑弥呼どのへの久遠どのが示した感謝の意でしょうが!」

 

 幽が困り果てているのを見て、久遠はふと閃いた。

 

「幽、別口で賭けを用意するから一葉の参加を認めんか?」

「別口で?…………まさか………」

「褒美は祉狼との逢引権。参加者は各当主でどうだ♪」

 

 久遠はさっきから離れた場所で耳をそばだてていた美空に振り向く。

 

「勝利条件次第ね。夕霧に負ける気は無いけど、どうせなら直接対決にしない♪」

「ふむ、悪くない♪余の馬術を篤と見るが良い♪」

「決まりだな♪」

 

 久遠は更にもうひとりに振り向く。

 

「眞琴!貴様も参加しろ♪」

「ええっ!?ボ、ボクもですかっ!?ボクは側室ですよっ!?」

「我は当主と言ったのだ。馬術が市より劣るという訳ではあるまい♪」

「それは…………そうですけど………他に参加される方は………」

「葵は聖刀の嫁だし、熊は昴の嫁だ。雪菜は………」

 

 結菜や双葉と話をしていた雪菜は、突然話を振られて飛び上がった。

 

「オ、オラ、馬っこさ上手くねえだよっ!勘弁してけろっ!!」

 

「と言う訳だ。気張れよ、眞琴♪」

「うぅ………家臣の手前、みっともない所は見せられないよ…………」

 

 祉狼の預かり知らない所で勝手に話が決まっていく。

 また、当主以外の参加者達も集まって褒美の話をしていた。

 

「柘榴と貞子さんは褒美云々よりも夕霧に勝つ事が目的っす!川中島の決着をこれで着けてやるっすよ!」

「え?私は祉狼さまと一緒に早駆けが出来るから参加したんだけど………」

「貞子は祉狼くんと逢引したくないの?」

 

 市が意地悪く訊くと、貞子は落ち着き無くソワソワし始める。

 

「ほ、褒美って………そういう事をお願いしても良いのでしょうか?」

「市はまこっちゃんと一緒にってお願いするつもりだけど♪ねえ、みんなはどうなの?」

 

 市の問いに梅が自信たっぷりに答える。

 

「お市さま、わたくしと不干さん、歌夜さんはゴットヴェイドー隊のハニーの妻代表ですわ♪わたくし達の誰が勝っても、みんなでハニーと共に過ごす時間をお願いするつもりですの♪」

「詩乃と雫は元より、ひよところも夕霧様相手では勝ち目が有りませんからね。」

 

 苦笑して付け加える不干に市も気安く笑い返す。

 尾張では子供の頃から共に過ごした仲なので、市と不干は気心が知れていた。

 不干の横では歌夜が不安な顔をしている。

 

「夕霧様の馬術は見事ですから、本気で挑まなければ厳しいでしょうね………」

「なんですか、歌夜?始める前からそんな弱気じゃ勝てる物も勝てないですよ♪」

 

 綾那の励ましに歌夜は溜息で応える。

 

「綾那のその自信は、ホントどこから来るのかしら…………綾那は勝ったら何を褒美に貰うの?」

「綾那は次の戦での先鋒、一番槍をお願いするです♪」

「鹿かぶと!それはオレに勝ったらだかんな!」

「綾那!小夜叉!ボクと犬子も居る事を忘れるな!」

「犬子だって一番槍の栄誉は欲しいもんねっ!」

 

 スバル隊は鞠の為に駿府屋形を取り戻すと全員が燃えていた。

 それが判るから梅も余計な事を言わずに小夜叉を見直して微笑んでいる。

 しかし、柘榴はそんな空気が読めてなかった。

 

「柘榴だって先鋒やりたいっすよ!」

「おもしれぇ事を言うじゃねぇか。てめぇとは槍で勝負着けてやんよ!」

「望む所っす♪」

「あーーーっ!それは綾那もやりたいですっ♪」

「勿論お相手するっすよ♪」

 

 安請け合いする柘榴に、貞子が溜息を吐いて肩を叩く。

 

「柘榴はスバル隊の戦いを見てないだろ。本気で強いぞ。」

「見てないから勝負して、その強さを確かめるんじゃないっすか♪」

 

 口で言っても判らない奴だと知っていたのに、何で忠告してしまったのかと貞子は後悔した。

 

 

 

 さて、準備が終わって、遂に勝負が始まる。

 ゴールは躑躅ヶ崎館の手前に在る丘とされた。その先は笛吹川の支流の荒川を越えねばならないので、連合軍の宿営地にも丁度良いと選ばれた。

 街道に用意したスタート地点では夕霧を先頭に昴、祉狼、聖刀が並び、その後ろに久遠、一葉、美空、眞琴。

 更に後ろに和奏、犬子、小夜叉、綾那、梅、市、歌夜、柘榴、貞子が並ぶ。

 貂蝉と卑弥呼は最後尾に居た。

 

「皆様!準備はよろしいですねっ!」

 

 スターターを務めるのは転子だ。

 手にゴットヴェイドー隊の赤十字旗を持って高く掲げる。

 

「用意…………どんっ!!」

 

 転子が勢い良く旗を振り下ろすと各馬一斉に飛び出した。

 いや、二頭だけ動いていない。

 それは貂蝉と卑弥呼だった。

 

「貂蝉さま!卑弥呼さま!どうしたんですかっ!?」

 

 転子が慌てて駆け寄る。

 

「本気を出すからハンデをあげようと思ってねぇ~♪」

「うむ。手を抜いては聖刀ちゃんにも失礼だからの。」

「はんで?」

 

 スタートを遅らせるのは手を抜いていると言わないのかと転子は疑問に思った。

 

「転子ちゃ~ん。危ないからちょ~っとだけ離れててねぇ~。」

「今からわしらの馬を呼び出すぞ。」

「え?馬を呼び出す?」

 

 貂蝉と卑弥呼は跨っていた馬を降りて天を仰ぐ。

 

「黒王ちゃぁああああああああん!」

「風雲再起ぃいいいいいいいいいいいいいいいっ!!」

 

 二人の声が響き渡り、山々に反響して木霊となって返ってくる。

 すると天空に太陽とは別の光が輝いた。

 その光の中から漆黒と純白の二頭の馬が現れ、空を駆け下りて来る。

 この光景に連合軍の将兵は勿論、甲斐の人々も老若男女が空を見上げて言葉を失い呆然と眺めていた。

 やがて大地に降り立った二頭の巨馬、黒王と風雲再起は、貂蝉と卑弥呼の前で嘶いた。

 

「ひさしぶりぃ~、黒王ちゃぁ~ん♪」

「がっはっは♪元気そうで何よりだ♪では、早速お前たちの大好きな聖刀ちゃん達の所に行こうか♪」

 

 二頭は再び嘶く。

 その声は本当に喜んでいると耳にした者は何故か理解が出来た。

 

「「レディィィイイイイ・ゴォオオオオオオオオオオッ!!」」

 

 二つの騎馬は、その巨体から想像もつかない程、静かに、速く、風の様に転子達の前から走り去って行った。

 

「…………祉狼さまが天から降臨された時もあんな感じだったのかなぁ…………」

 

 

 

「聖刀兄さん!さっきのは黒王と風雲再起じゃないかっ!?」

「いや、あんな事を出来る馬が他に居るとは思えないんだけど。」

「聖刀さま、小夜叉ちゃんが普段持ち歩いてる瓢箪には、百段って名前の馬が封印されてるそうですよ。」

「居るんだ………でも、あれは黒王と風雲再起で間違い無いよ。あの二頭はザビエルの結界を越えて来られるって二人が言ってたから。こっちから向こうへは行けないとも言われたけどね。」

 

 聖刀、祉狼、昴の三人は夕霧の少し前を走っていたが、貂蝉と卑弥呼が本気で追走してくると判り、速度を上げる。

 

「くっ!………また離されるでやがりますか…………でも、あの三人の騎乗姿はつい見蕩れてしまうでやがりますな♪」

 

 そう呟いた夕霧の横を久遠が抜き去った。

 

「ええっ!?久遠殿もあんなに馬術が巧でやがりましたかっ!」

 

 夕霧は抜かれたのに不思議と悔しさは湧かず、素直に驚きと感動で久遠の後ろ姿を見ていた。

 しかし、当の久遠は夕霧を抜いた事など頭に無く、ただ祉狼の背中を求めて馬を走らせている。

 次第に小さくなる祉狼の姿を見た時に、言い様のない不安が久遠の心を支配した。

 それは幼い子供が親とはぐれた時の感情と似ていた。

 

「祉狼………」

 

 思わず目を瞑ってその名を呼んでしまう。

 

「どうしたんだ久遠っ!!怪我をしたのかっ!!」

「え………………」

 

 目を開くと祉狼が自分を見て横に並んでいた。

 

「………祉狼…………どうして………」

「久遠が涙を流して俺の名を呼んだから…………」

「涙?…………っ!」

 

 言われて初めて久遠は自分が泣いていたと気が付いた。

 

「こ、これは風が目に入るからだっ!」

 

 照れ隠しに大声でそう言うと、祉狼は大きく安堵の息を吐いてから笑顔を見せた。

 

「久遠♪折角だから俺の馬家仕込みの馬術を盗んでみないか?」

「見て覚えろと言う事か♪」

 

 互の本音は判っていながら、気遣いという『嘘』で包み隠す。

 嘘が下手な祉狼もこの時は自然に言う事が出来た。

 と、その時、後方から白と黒の疾風が二人を追い越して行った。

 

「な、何だ、今のは…………」

「貂蝉の黒王と卑弥呼の風雲再起という馬だ♪」

「今のが馬だとっ!?」

 

 久遠と祉狼を追い越した二騎は、あっと言う間に聖刀と昴に追い付いた。

 

「やあ、黒王♪風雲再起♪久しぶりだね♪」

「「ブルルッ♪」」

 

 二頭は走りながら甘えたそうに小さく鳴いた。

 

「ははは♪判ったよ♪昴、悪いけど先に行かせて貰うよ♪」

「仕方ありませんね。お気を付けて、聖刀さま。」

 

 聖刀の駆る馬は夕霧から先程借りたばかりの馬だが、完全に聖刀と意思の疎通が出来ていた。

 聖刀を乗せた馬はとても楽しそうに軽々と大地を蹴って行く。

 

「聖刀ちゅわぁ~~ん♪ランデブゥウウウゥ~~よぉ~~~♥」

「ゴールまでくっついて離れんぞ♪がはははははは♪」

 

 三騎は昴から見る見る遠ざかって行った。

 

「黒王と風雲再起か………あの二頭、油断するとベロベロ舐めてくるから気を付けないと………」

 

 昴は子供の頃に聖刀と祉狼と一緒にヨダレまみれにされた記憶を思い出し身震いした。

 

 三騎が甲府の街道を走る姿を見た人達は、二頭の馬が先程天から降りてきた馬だと気付き、道の両脇に並んで手を合わせて見送った。

 そんな道を駆け抜けた三騎は、あっと言う間にゴールの丘に到着する。

 

「まだ武田の人達も来てないみたいだね。」

 

 聖刀は馬から降りて周囲を見渡した。

 

「(…………周りに人がいないってコトはぁ~~♪)」

「(チャ~~ンスッ♪)」

 

 貂蝉と卑弥呼が聖刀に擦り寄ろうとすると、黒王と風雲再起が先に聖刀へ頭を寄せて甘え始めた。

 

「黒王ちゃんっ!」

「風雲再起っ!主を差し置いて何をしておるぅうううっ!!」

「あははは♪くすぐったいよ♪」

 

 聖刀も久しぶりに会えた二頭の頭を撫でて喜びを分かち合う。

 しかし、風雲再起は聖刀が仮面を着けているのが不満だったらしく、器用に唇で咥えて取ってしまった。

 

「こらこら、風雲再起♪それが無いと…………」

 

 風雲再起から仮面を取り返そうと手を伸ばした時、ひとりの少女が自分を見て近付いて来るのを見付けてしまった。

 

「あ…………あの…………」

 

 少女は顔を真っ赤にしてモジモジしているが、その目は聖刀の素顔を捉えて離さない。

 

(しまった…………油断したなぁ………)

 

 聖刀が珍しく冷や汗を掻いていた。

 

「田楽狭間の天人衆のおひとり………北郷聖刀さまですよね♪」

「え?どうして僕の名前を………」

「わ、わたしは………」

 

 少女は可愛らしい笑顔でその名を告げる。

 

「武田逍遥軒信廉。通称は薫。夕霧ちゃんの妹です♪」

 

「夕霧ちゃんの………妹………」

 

聖刀は本格的にミスをしたと悔み、引き吊った笑顔を薫に向ける事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

『幕間 その一』

早速新オリキャラの伊達雪菜輝宗登場。

見た目は桃香をイメージして、そこに釣りキチ三平のユリッペ(読んだ事の無い方スイマセン)を足した感じです。

通称の雪菜は米沢の伝統野菜なのでw

歴史上の伊達輝宗は伊達政宗の父親で、外交政策で奥州を纏め、柴田勝家や北条氏康と同盟を結んでいます。

織田信長に鷹を贈ったという逸話も有り、雪菜が鷹を連れているのはそこから来ています。

鷹の名前の基信丸は輝宗の家臣、遠藤基信から貰いましたw

 

 

『幕間 その二』

こちらも新キャラの戸沢栄子白雲斎(飛び加藤)の登場。

モチーフは恋姫†英雄譚の栄華w女の子なのにロリコンと言うと、どうしても栄華が頭から離れてくれませんでしたw

通称の栄子もその影響です。

戸沢白雲斎はご存知、真田十勇士の猿飛佐助の師匠。

架空の人物ですので持って来ちゃいましたw

飛び加藤は果心居士になったという説も有りますが、この外史では戸沢白雲斎ですw

 

 

『幕間 その三』

秋子大暴走www

可愛いからついイジメたくなっちゃうんです、スイマセンw

 

一方、結菜がメイド長の様になってますね。

CVが詠と同じ青山ゆかり大先生なので結菜にもいつかメイド服を着せてみたいです♪

 

マイクロビキニとねこランジェリー

一部の絵師さん達の間で盛り上がりを見せているこの二つ。

ねこランジェリーはエロ可愛いくて自分も大好きですw

絵師様っ!どうか三国戦国問わず、恋姫のねこランジェリー姿をお願いしますっ!!

 

 

『幕間 その四』

最後に武田逍遥軒薫信廉登場!

薫の「おにいちゃん♪」は最強兵器だと思います!

 

 

《オリジナルキャラ&半オリジナルキャラ一覧》

 

・ 佐久間出羽介右衛門尉信盛 通称:半羽(なかわ)

・ 佐久間甚九郎信栄 通称:不干(ふえ)

・ 佐久間新十郎信実 通称:夢(ゆめ)

・ 各務兵庫介元正 通称:雹子(ひょうこ)

・ 森蘭丸

・ 森坊丸

・ 森力丸

・ 毛利新介 通称:桃子(ももこ)

・ 服部小平太 通称:小百合(さゆり)

・ 斎藤飛騨守 通称:狸狐(りこ)

・ 三宅左馬之助弥平次(明智秀満) 通称:春(はる)

・ 蒲生賢秀 通称:慶(ちか)

・ 蒲生氏春 通称:松(まつ)

・ 蒲生氏信 通称:竹(たけ)

・ 六角四郎承禎 通称:四鶴(しづる)

・ 三好右京大夫義継 通称:熊(くま)

・ 武田信虎

・ 朝比奈泰能

・ 松平康元

・ フランシスコ・デ・ザビエル

・ 白装束の男

・ 朝倉義景 通称:延子(のぶこ)

・ 孟獲(子孫) 真名:美以

・ 宝譿

・ 真田昌輝 通称:零美

・ 伊達輝宗 通称:雪菜

・ 基信丸

・ 戸沢白雲斎(加藤段蔵・飛び加藤) 通称:栄子

 

 

Hシーンを追加したR-18版はPixivに投降してありますので、気になる方そちらも確認してみて下さい。

http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=6504305

 

 

さて、次回は遂に光璃が登場します。

 

 


 
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