第十三話「悲しき、冬との戦い」
タダオとの戦いの中で落ち着きを取り戻したザイルは彼等の説得に応じ、春風のフルートを返そうとしたが、突如現われた雪の女王によってフルートは奪われ、氷の中に封じられてしまった。
「じょ、女王様……な…んで?」
『子供だと思って手を抜いたのが失敗でしたね。やはり魂の奥底まで邪気で染め上げておくべきでした』
倒れているザイルを冷やかに見下す雪の女王をセイは鋭い目線で睨みながら叫んだ。
「雪の女王よ!やはり貴女は邪に魂を売り渡したのか!?」
『売り渡すとは人聞きの悪い。魂を委ねたと言ってもらえますか』
「……委ねた…だと?」
『ええ、それにあのお方は決して邪ではありませんよ。冬の素晴らしさを分かってくださるお方です。貴方達も見たでしょう、純白に彩られた美しき素晴らしい世界を』
赤く染まった虚ろな目で、まるで作り物の様な笑顔でそう言う雪の女王を見てセイは悟った。
此の者も、ザイル同様に操られていると言う事に。
『さあ、もはや語る事などありません。貴方達は氷の彫像にしてこの館の永遠の住人にして差し上げましょう』
そして彼女の眼は赤一色になり、凄まじい形相をして襲い掛かって来た。
セイは雪の女王より放たれた冷たい息を「フバーハ」で防御をし、タダオはその隙にザイルを柱の影に移動させホイミで治療をする。
「雪の女王、もう話通じない」
「雪の女王、もう駄目」
「雪の女王、もう敵」
「雪の女王、もう戦うしかない」
「「「「やあーーーーー!」」」」
「お、お前達…」
「アイツはワイらに任せてかくれとけ!」
ザイルはそう言ってセイ達の所に戻って行くタダオの背中を見ながら立ち上がり、斧を掴み取る。
「そんな訳に行くか、馬鹿野郎!」
「はい、はい、はい、はいーーーーっ!」
「ガアアアーーーーッ!」
攻撃呪文を持たないセイはフバーハやスクルトなどの補助系呪文を使いながら龍牙による連続の突きを入れて行き、タマモやピエール達もチームワークを生かし次々と攻撃を加えて行く。
しかし、周りの冷気が雪の女王に味方しているのかいくら傷を付けてももたちまちの内に回復して行く。
「コ、コン、コンコン!」(な、何よコイツ、切りが無いじゃない!)
「雪の女王はその名の通り雪の精霊なんだ。だから周りに冷気がある限りはきっと不死身なんだよ」
「ならばどうする!?」
「ピイ~~」
「どうするも、闘うしかないやんかーーっ!」
『ぐっ!この…人間風情が!』
セイ達が雪の女王の不死身さに悩んでいると、タダオが駆けて来て雪の女王に斬りかかる。
するとタダオが付けた傷はセイ達が付けた傷とは違い中々回復せず、そしてそれを見逃すセイでは無かった。
「タマモ、今タダオ殿が付けた傷に火の息を!」
「コンッ!」(了解っ!)
『お、おのれ!』
セイの合図でタマモは雪の女王に付けられた傷に火の息を吐く、そしてそれはセイの狙い通りに傷口を広げていく。
「まだまだやーーっ!」
タダオは続けて雪の女王に斬りかかろうとするが、その攻撃を避けた雪の女王は冷気で作った剣をタダオに振り下ろした。
だがそれはタダオに届く事は無く、ザイルの斧に受け止められていた。
「サンキュー、ザイル」
「助けられてばかりじゃ爺ちゃんに怒られるからな。騙されたお返しだ、俺も闘うぞ!」
「ヒーも戦う、リュカ守る」
「ファイも戦う、リュカ助ける」
「プリーも戦う、リュカ大事」
「マーも戦う、リュカ友達」
「「「「やーーーーー!」」」」
『何故、何故邪魔をするのですか!私はこの世界を汚れの無い雪で白く染めようとしているだけなのに』
「ワイも冬は好きや」
『ならば何故!?』
「でもこのままじゃ嫌いになるで。ワイだけやない、みんなが冬を嫌いになる。雪合戦したり、雪だるま作ったり、そんな風に楽しめるのは春や夏や秋があるからや、だから冬も好きになれるんや!」
『…春や夏や秋があるから……』
タダオの言葉に雪の女王の体は動きを止め、その目はタダオを捉えたまま話さなかった。
「タダオ殿の言う通りだ、四季の移り変わりがあるからこそ人々はそれらの季節一つ一つを愛するのだ。それは例え春のみでも、夏のみでも変わりは無いであろう」
「(私……私は……しかし最早この体はもう…)…問答、無用です」
「(女王よ、貴女は…)やはり言葉は届かぬか」
ザイルが加わり、闘いは一気に攻勢に転じた。
雪の女王はタダオの攻撃だけではなくセイ達からの攻撃をも回復しきれなくなって来た。
それだけでは無く、雪の女王の目からザイル同様に邪気が消えている事にセイとスラリンだけが気付いていた。
そして何を為すべきかも二人は気付いている、例えその事がどれ程タダオの心を傷つける事になろうとも。
だが、やるしかなかった。春を呼び戻す為にも、雪の女王を“救う”為にも。
タマモが火の息を吐き、怯んだ隙をついてタダオは雪の女王に剣を向けて駆けていく。
そんなタダオを雪の女王は受け入れる様に笑顔で両手を広げ……
「え?……」
そしてタダオの剣は雪の女王の体を深々と突き刺した。
「こ、れで…やっ、と……」
雪の女王はタダオの頬を優しく撫で、微笑みながらゆっくりと倒れていく。
その姿をタダオは呆然としながら見つめていたが、気を取り戻すと倒れた雪の女王を抱き上げる。
「何でや!何でワザと倒されたんや!?」
「わ…たしの体は…既に、魔王の魔力によっ…て、支配されてました。…でも貴方の力…が、心が、魂の奥…底に閉じ込められていた、わた…しの心を呼び覚まして…くれました」
タダオに抱えられた雪の女王は息も絶え絶えながらも答え、そんな彼女の言葉をセイやタマモ達も神妙な顔で聞き入っている。
「だったらザイルみたいに闘いを止めれば良かっただけやないか」
「いえ…ザイルとは…違い、私の…魂は魔王の…邪気に…染められきってました。その呪縛から…逃れるには…この方法しか…ありませんでした」
「そめられて……、そまりきる…」
そこでタダオは依然スラリンに教えられた事を思い出した。
魔王の魔力に染まりきった魔物は最早元には戻れないと言われた事を。
「そんな…そんなん、あんまりやないか」
潤んで行くタダオの瞳を見て、雪の女王は微笑みタダオの頭を、頬を撫でていく。
「優しい子ですね。悲しむ…事はありませんよ。貴方は…わ…たしを、助けてくれた…のですから」
「ワイが、助けた?」
「ええ、あの…ままでしたら世界は…冬の寒さによって…人々は…冬を憎み…ながら…滅んでいたでしょう。それは私に…とって、何よりも…耐えがたい事。でも、貴方のおかげで」
そんな雪の女王の体はきらめきながらゆっくりと消えていく。
「ありがとう、これからも…冬を、好きでいて……」
そして後には何処までも透明な水溜りと、青く澄んだクリスタルが残されていた。
セイは溶けた氷から解放されたフルートを手に取ると、タダオの元に歩いて行く。
スラリン達やヒー達に囲まれているタダオの肩に優しく手を置いてやり、声を掛けようとするとタダオが手を付けている水溜りにポツポツと零れる涙が波紋を広げていた。
「なあ、セイねえちゃん」
「…はい」
「ワイ、いい事をしたんかな?」
「何故そう思いなさる?」
「だって、だって……雪の女王は悪い奴にあやつられていただけやないか。それなのにワイは」
セイはそんなタダオを抱きしめ、背中を優しく擦ってやる。
タダオはセイにしがみ付いて小さな声で泣き始め、タマモ達やヒー達も心配そうに擦り寄って行く。
ザイルはそんな光景を見て、俯きながら「ゴメン」と小さな声で呟く事しか出来ないでいた。
「タダオ殿、貴方は間違いなく良い事をしたのですよ。雪の女王も言っていたではありませんか、「ありがとう」と」
「でも、でも…」
「今は泣きなされ。笑う者も咎める者も此処には居りません」
「うっうっ、セ、セイ姉ちゃぁ~~ん。うわあぁぁ~~~~ん!」
泣き続けるタダオをセイはずっと抱きしめていた。
=冒険の書に記録します=
《次回予告》
春風のフルートは取り戻したけど、雪の女王はかわいそうやった。
ホンマは悪い人やなかったはずやのに…
でも、これで春が来るんや、早くお城に戻らんと。
次回・第十四話「訪れた春」
「また会おうで、約束や!」
( ;ω;)雪の女王はミルドラースによって操られていたと言う事にしました。
タダオに成長を促せる為とはいえ、辛い想いをさせてしまいましたね。
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スクエア・エニックスのRPGゲーム「ドラゴンクエストⅤ~天空の花嫁~」を独自設定の上、キャラクターを他の作品のキャラをコラボさせた話です。
それが駄目だという方にはお勧めできません。
コラボするキャラクター
リュカ=タダオ(GS美神・横島忠夫)
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