第七話「倒す強さ、許す強さ」
心配しながら見送ってくれた幽霊達に手を振りながらタダオとリアスは先を進み、親分ゴーストは再び玉座の間に戻って来た二人を睨み付けるが恐れもせずに睨み返してくる二人相手に正直怯えていた。
『ば、馬鹿め!お前達の様な子供が儂に勝てるとでも思っているのか?』
「その子供相手にあんな姑息な罠を使ったのは誰よ?」
「言うとくけどワイらは怒っとんやからな、覚悟せえや!」
『身の程知らずめ、ギラ!』
「うわっ!」「きゃあっ!」
先制攻撃は親分ゴースト、いきなりギラを放って来るがここまで闘って来た魔物の中にも呪文を使って来た相手はいたのでそれほど慌てずにかわす事が出来た。
逆に親分ゴーストは先制攻撃をかわされた事で動揺し始めた。
魔族は人間よりは強い体と魔力を持ってはいるが、親分ゴースト自身はそれほど強い訳では無かった。
武器を持っても攻撃力は高くなく、呪文も強力な攻撃呪文は持っていなかった。
つまり、親分ゴーストは生者が居ないこの城だからこそボス気取りの出来たいわゆる「張り子の虎」であったのだ。
そんな彼の一番の武器でもあったギラもあっさりとかわされ、今度はタダオ達が呪文攻撃をかけて来た。
「バギ」
「メラ」
『ぎゃああーーーーっ!』
タダオのバギに引き裂かれ、リアスのメラに燃やされ、のた打ち回りながら服に燃え移った火を消す為に転げまわる。
そんなあまりにも無様すぎる親分ゴーストを見て、二人はただ呆然とするしかなかった。
「……あ、ありゃ?」
「何なのよコイツ。少し弱すぎるんじゃない?」
『ひいぃ~~~、助けてくれい。わ、儂が悪かった…勘弁してくれ、許してくれぃ~~~~!』
親分ゴーストはひぃひぃと泣き、床に頭を擦り付けながら二人に許しを請うてくる。
二人は顔を見合せながらどうしたらいいのか分からなくなって来た。
何しろ強敵との一大決戦を覚悟してやって来たというのに、呪文を二発当てただけで泣き喚きながら謝って来るのだから。
「と、とにかく!許してほしいのならまず王様達を苦しめている呪いを解きなさい!」
『は、はい!今直ぐに!』
親分ゴーストは両手を上に上げ、何やら聞き慣れない呪文を唱えると、城の中に漂っていた嫌な感じがゆっくりと薄れて行った。
『これでこの城に浸透させていた儂の魔力は消えました。城の中に残っていた魔物達にも立ち去るように命じておきましたからじきに元の静かな城に戻る筈です。こ、これで許してもらえますよね?』
親分ゴーストは相も変わらず土下座をしているが、そんな彼の前にタダオは立ち、睨みつけながら見降ろす。
くすぶっていた怒りが再燃して来たらしい。
「まだ話は終わってへんで!何でこんな事をしたんや!」
「そうね、許すか許さないかはその事を聞いてからの話ね」
『はい!話します、話します。実は……』
そして彼は語り始めた。
彼は元々魔界の辺境で小さな集落を作り、魔物や若い魔族達と共に村長(むらおさ)として暮らしていた。
そんなある時、今までに無い強力な魔力を持つ大魔王「ミルドラース」が魔界全土を掌握した。魔物達や魔族達はその強力すぎる暗黒魔力の波動を受け、より強力な魔物や魔族へと変貌していった。
だが何故か自分だけは大魔王の影響を受けずにいた。
やがて、集落に住んでいた者達は大魔王に仕える為に村を離れて行く。行かないでくれと頼んでみても見下した目で冷ややかに見返して来るだけで次々と去って行く。
従えていた筈の魔物達も自分よりも強力な力を得て、逆に攻撃を仕掛けてくる始末だ。
同じ様に大魔王の元に行ったとしても下手をしたら魔王軍の一員では無く魔物の一匹として扱われるかもしれない。
彼なりの小さな誇りがそれを許さなかった。
完全に行き場を失った彼は未だ大魔王の影響下に無い人間界に逃げる事にし、旅の果てに辿り着いたのが此処レヌール城だった。
その後はタダオ達の知っている通り、王様気取りで城に君臨していた訳だ。
「……随分とまあ、身勝手な話ね」
「いくら行く所なくなったからって、死んだ人苦しめてええわけあるかい!!」
『ひいいっ!ゴメンなさい、ゴメンなさい!』
あまりの身勝手さにリアスとタダオが茨の鞭とブーメランを振り上げた時、扉の方から声が聞こえて来た。
『小さな勇者達、もう其処までにしてあげなさい』
『それ以上は退治では無く虐めじゃ』
その声に二人が振り向いてみると、其処にはレヌール王と王妃が立っていた。
「王様に王妃様、何で止めるの?」
「せやで、コイツのせいで王さまたちは苦しんだんやないんか!」
怒りが治まらないといった感じの二人に王と王妃はゆっくりと近づいて行き、王はレイコの、王妃はタダオの頭を其々優しげに撫ると二人の怒りも徐々に落ち着いていく。
「王様?」
『儂等の為に怒ってくれるのは嬉しいし、正直儂等も此の者の行いは許し難い。だがな小さな勇者達よ、それでも「許す」という強さは必要だと儂は思うのじゃ』
『此の者が誤ってしまったのは力と心が弱かったから。此の者をこのまま倒すのは「力」の強さ、しかし私達はあなた達に此の者を許すと言う「心」の強さを持ってほしいのです。その強さはいずれあなた達が大人になった時に正しい道を示してくれるでしょう』
レヌール王と王妃がタダオ達に語りかける言葉を聞きながら、親分ゴーストはその瞳から涙を零していた。
こんなに大きな心を持つ二人に比べて自分は何と小さな存在だったのだろうと。
頭を下げ続けながら涙をボロボロと零す親分ゴーストを見ながら、タダオとリアスもその怒りを霧散させていった。
「もう、悪い事はしないわね?」
「やくそくするんなら許したるで」
「約束します!二度と悪事は働きません、王様達の心に答える為にも頑張ってやり直してみます!」
「……そんなら仲直りや」
タダオはバツが悪そうにそっぽを向きながらも親分ゴーストに手を差し伸べる。
彼はその手を両手で包み込む様に握り締め、泣きながら何度も「ありがとう、ありがとう」と繰り返し、その体はタダオの手から零れて来る光の粒に包まれていた。
夜明けも間近に迫って来て、親分ゴーストは精神修行の旅に出ると言い、城を立ち去ろうとしていた。
レヌール王と王妃は心を入れ替えたのならこの城に留まって良いと言ったのだが彼は、
「いえ、ワシがこの城に留まっておると貴方様方はともかく、ワシが苦しめていた臣下の方々が安らかに休めぬでしょう。それにワシも世界を見て回りたいのです」
と言い、王やタダオ達も快く見送る事にした。
「おっと、そうじゃ。実は以前、この様な宝玉を見つけたのじゃが」
彼は懐に手を入れて弄ると、手の平大の黄金色に輝く宝玉を取り出した。
「これは王様達の持ち物では無いですかの?」
『いや、我が城に伝わる物では無いな』
王と王妃もその宝玉を眺めて見るが心当たりのある物では無かった。
「ふむ、ではどうするか……。そうじゃ、タダオ殿がもらってはくれまいか?」
「ワイが?」
「うむ。ワシの様な者が持っておるよりもタダオ殿が持っておる方がふさわしいじゃろう」
「そうね、タダオも頑張ったし私もそれがいいと思うわ」
そして宝玉を受け取ったタダオは大事そうに袋の中に仕舞うのだった。
「じゃあ、ワシはそろそろ行くとしよう。王様、それに王妃様、色々とすみませんでした。タダオ殿にリアス殿もお元気で」
『うむ、今度こそ道を誤らない様にな』
『新たな道を進み始めた貴方に神の御加護があらん事を』
「今度悪さしたら何処までも追いかけて行くからね」
「ははは…肝に銘じておきますじゃ」
「じいちゃんも元気でな」
「タダオ殿、ワシの名は「マーリン」と申します。何時か再び出会えた時、貴方のお力になれる様に頑張りますじゃ」
歩き出した親分ゴーストに手を振りながら別れを告げるタダオ。
そんなタダオを振り返りながら彼は眩しいモノを見る様な目で自分の本当の名を告げたマーリンは笑顔で手を振りながら朝焼けの中に旅立って行った。
「とにかく、これで約束のオバケ退治は終了ね。これで猫ちゃんも……」
そこまで言ったリアスの顔は段々と青くなって行き、ダラダラと汗も滝の様に流れて来た。
「ど、どうしたんやリアス姉ちゃん?」
「あ、あはは、あはははは……、どうしようタダオ?もう朝よ、ママやパパスおじ様達も起きている時間よ」
「あーーーーーっ!しもうたーーっ!すっかりわすれとったーーっ!」
リアスがそこまで言うとタダオもようやく理解出来た様で同じ様に青くなり、汗を流しまくる。
『これを使いなさい』
そんな二人にレヌール王が両手を差し出したと思ったら、その手の中には光と共にキメラの翼が現れた。
『アルカパの町の教会には私達がお告げと言う形で今回の事を伝えておきます。少しは怒られるかもしれませんがそれ程酷く責められる事は無いでしょう』
「ありがとうございます王様!」
「かんしゃかんげき雨あられや!」
二人は王妃に抱き着いて涙ながらに感謝をする。
王と王妃もそんな二人の頭を『いいんですよ、助けられたのは私達なのですから』と愛おしそうに撫でながら笑顔で告げる。
「王様ーー、王妃様ーー!ゆっくりと休んでねーーー」
「王さまに王妃さまーー!バイバイーー、おやすみなさいやーー!」
タダオとリアスは王と王妃に別れを言いながらキメラの翼を使い、飛び去って行く。
王と王妃もそんな二人を見送りながら朝の日差しの中に消えて行く。
アルカパへと飛んで行く二人がふと振り返って見ると、暗雲に包まれていたレヌール城はその戒めから解き放たれ、その白亜の姿を取り戻していた。
さて、アルカパに戻った二人だが、王妃の言う通りレヌール城が二人の活躍により解放された事は村中に知れ渡っていて、町の入口にはマミヤとダンカン、そしてパパスが二人の帰りを待っていた。
その足元には例のいじめっ子兄弟が頭に大きめのタンコブを着けて正座をさせられていた。
どうやらこの騒動の大元が彼等だと言う事がばれ、キツイお仕置きを受けた様だ。
その傍に居たキラーフォックスはタダオの姿を見つけると「コン、コーーンッ!」と駆け寄って飛び付くとタダオの顔を舐めまくる。
「わはははは!こら、くすぐったいやないか」
「コンコンコーーン♪」
一連の騒動がようやく落ち着き、タダオ達もダンカンの宿屋へと戻っている。
約束通り、キラーフォックスはタダオ達に渡され今はタダオの膝の上で丸くなっている。
「良かったわね、猫ちゃん。さっそく名前を付けてあげなきゃね。え~と、ゲレゲレは「グルルルル」…嫌みたいね。じゃあ、意外な所でシロとか「シャアアアアーーーーッ!」な、何よ?そんなに嫌がらなくてもいいじゃない」
リアスが色々と名前の候補を上げるがどれも気に入らないらしく中々決まらず、ウ~~と唸っている彼女(調べてみたらメスだった)をタダオがなだめるとその腕の中でゴロゴロと甘えて玉の様に丸くなる。
そんな彼女を見て思い付いたのか、タダオが「タマモはどうや?いい名前やろ」と、言うと彼女も気に入ったらしく更にじゃれまくる。
「さてと、名前も決まった事だしそろそろ」
パパスはそう言いながら徐にタダオを抱え上げると膝の上に乗せ、リアスもまた、同じ様にマミヤの膝の上に乗せられている。
「と、父ちゃん?」
「マ、ママ?…どうしたの?」
膝の上に乗せられた二人はこれから何をされるのか薄々感づいた様で青い顔をしていた。
「お前達のした事は確かに立派だ。…だがしかしっ!夜中に勝手に抜け出し私達に心配かけた事も事実だ。よって」
そこまで言うとパパスとマミヤは自分の子供達のパンツを捲り、お尻を剥き出しにする。
「ちょ、ちょっとママ、何をするの?やめてーー、お尻がタダオに丸見えじゃない!」
「父ちゃーーん、それだけはカンベンや、せめてゲンコツにしてくれやーーっ!」
「二人共いい加減に覚悟を決めなさい」
「其処まで嫌がるからこそ罰になるのだ」
そして、振り上げられたその手は……
「え~~ん、ゴメンなさいママーー!」
「かんにんや~~、かんにんや~~!」
アルカパの町にパーン、パーンとお尻を叩く音が暫く響いていたとか。
後、ついでにいじめっ子兄弟の家からも……
=冒険の書に記録します=
オマケ
「なあ、父ちゃん」
「ん、何だタダオ?」
赤くなったお尻を擦りながらパンツを穿くタダオはパパスに気になる事を聞いてみた。
「その顔の引っかき傷はどうしたんや?」
「ああ、これか。……どうやら名前が気に入らなかった様でな。ははは…」
「??」
《次回予告》
サンタローズに帰って来たワイらやけど相も変わらず寒いままや。
そんなある日村で変なイタズラがあちらこちらで起こるんや。
そして出会った女の子、妖精?春を呼ぶ?勇者を捜してる?
よっしゃ!ワイに任せんかい!
次回・第八話「来ない春、イタズラ妖精はメンマがお好き」
でも、お尻ペンペンはもうカンベンやで。
(`・ω・)と言う訳でアルカパレヌール城編終了です。
ここでまた設定変更、レヌール王が魔物退治を依頼するのではなくタダオ達が自分達から率先して退治に行きます。呪文習得も王の助言で使えるようになりました。
親分ゴーストは最初はあのまま魔界に帰ってジャハンナで人間になっての再会を考えていたんですが途中から「このキャラ、勿体ないな」と後のマーリンへとフラグを立てました。
そしてタマモが正式に仲間に、擬人化?当然しますとも、ただし当分先になりますけどね。
次回予告にある様にベラ役は恋姫の「星」にしました。
盗み食いされる物を試しにメンマに変えてみたらビビッ!と来たもので。
(・ω・)ノシ ではまた次回。
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スクエア・エニックスのRPGゲーム「ドラゴンクエストⅤ~天空の花嫁~」を独自設定の上、キャラクターを他の作品のキャラをコラボさせた話です。
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コラボするキャラクター
リュカ=タダオ(GS美神・横島忠夫)
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