No.831975

澤みほSS

jerky_001さん

澤ちゃんとみぽりんの短めのお話をかきました
澤ちゃんいいよね…

2016-02-20 02:43:33 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:4698   閲覧ユーザー数:4681

「と、いうわけで。大洗戦車道チームの副隊長として、澤梓さんを任命したいと思うんですけど、どうでしょうか?」

「ど、どういうわけですか!?」

私は思わず裏返りそうな声で叫んだ。

 

事の始まりは二学期が始まってしばらくした頃。

二度の廃校危機を大学選抜対抗戦での勝利で撥ね退けた私たちは、再び平穏な学園生活を謳歌していた。

既に馴染みとなった戦車道の時間。今日は定期的に行われる、各車長を集めての定例ミーティングだ。

ここでは普段の練習の成果を報告し合ったり、今後の練習方針の議論、ライバル校やその他戦車道界隈の情報交換などが行われる。

そして本日の議題は他でもない、次期副隊長ポジションの選出。

隊長は来年度も西住隊長で問題ないとして、大洗チームの副隊長ポジションは、

今までははっきりと決めた訳では無いものの、河嶋先輩がそれに近いポジションで働いてもらっていた。

しかし、三年生が卒業する来年度以降、新生大洗チームの体制を今のうちに決めておき、ポジション移行に向けた経験を積んでもらおうという意図があるらしい。

そして、第一声で西住隊長から発言希望の挙手が上がり、そこで推薦を受けたのが…

「え!あの!?え!!??わ、私ですか!?ななななななんでどうしてっていうか無理です無理です!!」

全くもって想定していなかった事態に頭の中が混線状態になりながら、必死で拒絶の声を上げる。

「えー?澤ちゃん結構そーゆう役合ってると思うんだけどなー」

会長室の椅子にふんぞり返りながら無責任な言葉を発するのは、生徒会長の角谷杏先輩。呑気に干し芋をかじっている。

「うん、問題ない。」「澤さんなら素行も問題ないしね」「適任じゃないかなー」「澤さんファイト!!」

各車長のみなさんからも賛同の声が次々と上がる。なんだか逃げ道を塞がれているような。

「そ、そもそもなんで私なんですか?私まだ一年ですし、それに戦車道だってまだ始めたばかりの素人ですし…」

「それを言うなら西住ちゃん以外はみんな同じだしねー。」

会長の反論にう、と固まる。

「それにね、澤さんは一年生のみんなを上手く纏めててすごいと思うの。あの手腕を応用すれば、行く行くはチーム全体を率いていく素質も芽生えるんじゃないかって…」

西住隊長が言葉を続ける。その言葉に、西住隊長が私をそんなに高く評価してくれてるんだ、と嬉しくなる。

…って、ちょっと待って。

「へ?チーム全体を、率いる…?ってどういうことですか???」

「あーそれはね?将来的には澤ちゃんに大洗の隊長を目指してもらおうと思ってさ。そのための帝王教育の意味もあっての副隊長職なんだなー」

「た、隊長!?!?へ!?!?」

畳み掛けるように降ってわいた想定外の会長からの任命に、とうとう私の思考は限界を迎え停止した。

 

 

 

 

「ふぅ、お疲れ様でした。」

「お、お疲れ様でした…」

定例ミーティングの終了後、通常通りの練習が始まり、さっそく私は西住隊長の師事の元、車両指揮の練習に放り込まれてしまった。

副隊長任命後最初の練習と言うことで、まずは簡単な隊列指揮だけだったけど、沢山の車両の位置を逐一把握しながら車列が崩れないように指揮を行うのは

想像以上に集中力を必要とし、緊張のせいもあって私は既に疲労困憊状態だった。

 

突然舞い込んだ副隊長任命に、最初はそんな器じゃないと固辞の意を示していたのだけれど、西住隊長から直々に

「大丈夫、わたしが教えられることは出来る限り教えるから!澤さんならきっと、大丈夫だよ!」

と力強く宣言され、結局は根負けしてしまった。

それに、一方では西住隊長から直々に指導してもらえる、という誘惑に負けてしまった面もある。

憧れの西住隊長に…

そうしていざ練習に打って出てみれば、そのオーバーワークの数々に初日から圧倒されてしまうという情けない結果に終わったのだけれど。

 

「すごーい梓、西住隊長みたいだったよー?」

同じチームメイトの優季からの言葉に、普段なら憧れの人と似ていると言われ嬉しくなってしまうところだけど、

今はそんな初々しい反応を返す余裕もなく、曖昧な愛想笑いを浮かべる。

「でも、考えてみれば副隊長って何をするんだろ。」「やっぱり、パンツァー・フォーって言うんじゃない?」「いーねー!ぱんつぁーふぉー!」

「「「ぱんつぁーふぉー!!」」」「…」

あや・あゆみ・桂利奈・紗希が口々に呑気な発言をするので思わずため息をついてしまう。うう、みんな私の気も知らないで好き勝手言ってくれるなぁ。

帰り支度をしながら談笑するみんなを尻目に、私は西住隊長から教えてもらったことを忘れないよう、ノートに書き留め纏めている。

いつもなら帰りはみんなと一緒に帰路に就くところだけど、今日はもう少しノートをまとめるのに時間がかかりそうなので、先に帰ってもらうことにした。

みんなが倉庫の一室を後にした後も、私は一人でつらつらとノートを書き進めていた。

ふと筆を休め、今日一日の事を振り返り思案に耽る。

副隊長、かぁ。わたしなんかにつとまるのかなぁ…

しかも行く行くは隊長に、なんて。いくらなんでも気が早いんじゃ。

でも…今は二年生の西住隊長も、来年には三年生、そしてやがては、卒業…

西住隊長が卒業するころには、私はいったいどうなっているんだろう。みんなが言うとおり、隊長になれるのかな…

それとも、来年くらいには新入生からもっと優秀な人が戦車道に入って来て、あっさりポジションを奪われていたりして。

どちらにしたって、いつまでも西住隊長がいてくれるわけじゃない。私たちがもっと頑張って、大洗の戦車道をこれからも盛り上げていけるようにならないと…

「あれ、澤さん?こんな時間までどうしたの?」

ふいに後ろから声をかけられた。驚いて後ろを振り向くと…

「に、西住隊長!?隊長こそどうしてここに!?」

「会長と一緒に今後の相談をちょっと。あ、今日の練習内容を纏めてたの?偉いなぁ、さすが澤さん!」

隊長から直接褒められて、思わず照れくさくなってしまう。私ってば、我ながら現金だなぁ。

「一年生のみんなは、先に帰っちゃったの?ごめんね、いきなり大変な事をお願いしちゃたせいで、こんな時間まで。」

「そ、そんな!西住隊長が謝る必要なんかないです!私が要領悪いだけですから!」

予期せぬ謝罪に、思わず取り繕って弁解する。

西住隊長から指導を受けられるなんて、これ以上贅沢な事は無い。感謝こそすれど、謝られる筋合いなんて、欠片も無い。

西住隊長に気を遣わせてしまって、むしろこっちが申し訳なくなってしまう。

「そんなことないよ!澤さん、呑み込みが早くって感心しちゃう。これならきっと、副隊長もちゃんと勤まると思うよ!」

「ほ、本当ですか…?」

不安交じりに西住隊長を見つめると、隊長は満面の笑みを浮かべて、うん!と頷いてくれた。

西住隊長が、私の事を認めてくれている。その事実が嬉しくて、副隊長の任を受けて良かった、と少しだけ思った。

「そうだ、澤さん。せっかくだから…一緒にどこか寄って行きながら帰ろうか?」

た、隊長と一緒に、下校!?突然の申し出に、私は思わず心躍った。

「今日の菓子パンは…ふふ、いっぱいあるなぁー♪あっ、皮サクサクメロンパンだって~美味しそう!こっちのチョココロネはチョコ増量だって~、迷っちゃうなぁ~♪」

「(あ、あのっ西住隊長…もうかれこれお店に入ってから結構経ってますよ!そろそろ出た方が…)」

西住隊長と下校がてら、せっかくだからコンビニに寄っていくことになり、最寄りのサンクスに入ったは良いものの。

隊長はまずお菓子コーナーをじっくりと見て回り、ドリンクコーナーをまじまじと見て回り、総菜パンのコーナーを目移りさせながら見て回り、で、この時点ですでに三十分経過。

長い。いくらなんでも長すぎる。あんまり居座ると店員さんから目を付けられちゃうんじゃ。そんな心配が頭をよぎり西住隊長に耳打ちをする。

「えっ?大丈夫だよ~。いつもはもっと長く見て回ってるし。店員さんからも別に注意されたりしたことは無いよ?」

ほ、本当に?ちらり、とレジの方を見やる。確かに、店員さんは特に気にしてないみたいだけど…ひょっとしてもう慣れてる?

沙織先輩からちょっとだけ聞いたことはあるけど、西住隊長のコンビニフリークぶり、まさかこれほどまでとは。

普段の戦車に乗っている姿や、戦車から降りてわからない事を教えてくれる優しい姿とは違う。

ちょっと抜けてて、変り者な、今までに見たことの無い西住隊長の一面。それを見ることが出来て、少しだけ優越感を感じるけど。

このままじゃ買い物が終わるまでに日が暮れちゃう!何とか西住隊長の背を押して、お会計の催促を促すと、西住隊長はちょっと残念そう。

結局お店に入ってから四十分近く粘りに粘って、私はハムとレタスのサンドイッチに野菜ジュース。西住隊長はさっき見ていたメロンパンとコーヒー牛乳を買ってお店を後にした。

 

コンビニから少し歩いた先の、小さな公園。そのベンチに私と西住隊長の二人で腰かける。

レジ袋から二人そろって、パンと飲み物を取り出し、ちょっとゆったり、腹ごしらえ。

植込みの木陰の隙間から、夕日が差して、ニコニコとご機嫌そうな西住隊長の横顔が、なんだか眩しくて。

照れくさくなって思わず視線を逸らす。多分今の私、顔が紅い。

「どうしたの?澤さん。今日はちょっと疲れちゃったかな?」

「あ、いえ!大丈夫です!ちょ、ちょっと夕日が眩しかっただけで…」

照れ隠しの言葉で会話が途切れ、なんだか気まずい雰囲気。会話のきっかけを何とか手繰り寄せようとして…行き着くのはやっぱり。

「あ、あの…本当に、私に副隊長なんて勤まるんでしょうか…」

不安を素直に言葉にする。そうしないと、重圧で押しつぶされてしまいそう。

「わたしは、大洗チームで副隊長に任命するなら、澤さん以外いないって、ずっと思ってたよ?」

西住隊長から、あまりにも意外な、自信満々の返答。そ、それってどういう…?

「最初にも言ったと思うけれど、澤さん、個性豊かな一年生のみんなを上手くまとめ上げてるでしょ?」

「実はそれって、大洗のチームを指揮していくうえで、すごく重要な事だと思うんだ。」

話がよく見えない。私はただ単に、友達として普通の交流をしているだけだと思うけど。続く西住隊長の言葉に、耳を傾ける。

「ほら、大洗って他の学校と違って、戦車を使用国で統一したり、一貫した戦術の方向性がある訳じゃないでしょ?」

「必要に駆られてではあるけれど、性能も得意分野もばらばらな戦車を、状況に応じて臨機応変に運用していく、すごく柔軟性が必要なチームだと思うんだ。」

確かに。使用戦車を統一するのは、練度の平均化や整備性の向上のため、戦術の方向性を決めておくのは、運用を画一化させることで、統率力を高めるため。

そのいずれも、保有戦車や資金力、ノウハウに余裕のある学校でなければできない芸当だ。

変わって大洗では、そもそも戦車自体が売れ残りの余り物戦車ばかり。チームも個性派、しかもほぼ初心者揃い。運用の統一なんて、出来るはずもない。

だからこそそれぞれの戦車の特徴をしっかりと把握し、得意分野を生かして使いこなし、変幻自在に戦術を組み上げる、高度に柔軟な運用を求められる。

現に西住隊長自身が、それを実現し、体現してきた。

「だからね?個性も特徴も千差万別な一年生のみんなを率いて、今までしっかりと戦果を残してこれた澤さんには、それを受け継げるだけの才能が、きっとあるって信じてる。」

西住隊長が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

それは、西住隊長自身が、客観的に下した確かな評価。私自身がいまだ見出すことの出来ない力を、西住隊長が、見出してくれている。

その言葉の数々に、不安に満ちていた私の頭の中が、次第にはっきりと冴えてきて。

あとから浮かんできたその感情は、うすぼんやりとした自信。

「あのね、澤さんが不安に思う気持ち、わたしにもわかるよ?わたしも、黒森峰(むこう)で副隊長に任命された時は、すごく不安だったから…」

飛び出したのは、意外な言葉。黒森峰時代の話題。

「結局、向こうでは最後まで勤まらなくって心が折れちゃって、大洗に転校してきたわけだけど…」

「でもね、それってきっと、私がチームのみんなとの間に勝手に壁を作って、心の内を打ち明けたり、周りの想いを私が理解することから、逃げてたからだって今は思うんだ。」

西住隊長の口から語られる、黒森峰での苦い思い出。そして、振り返っての総括。

赤裸々に打ち明けてくれる西住隊長に、思わず息が詰まる。

「大洗に来て、沢山の友達が出来て、ああ、私に足りなかったのは、きっとこういう事なんだなぁって。」

「チームメイトの事を理解して、私の事を理解してもらって、自分にできる事、みんなができる事をしっかりと把握して、使いこなしてきたからこそ、今まで戦ってこれた。」

「その点で言えば、澤さんには最初から、大洗での戦車道に必要な事が、実践できているから、何も心配することは無いかな、って。」

西住隊長からお墨付きを頂いて、うすぼんやりとした自信は、はっきりとした形をもって現れる。

西住隊長が与えてくれた、この自信を、必ず活かしたい。自身は目標を形作り、目標は原動力となる。

私の心のエンジンが、唸りを上げて動き出した。

「あっあのぅっ!」

ベンチからはね飛ぶように立ち上がり、地声より1オクターブ上がったうわずった声を上げる。

西住隊長は一瞬ぎょっとして身構える。

すぅっと深呼吸をして、一言。

「私に、教えてください!戦車道に大切なこと、すべてを!西住隊長が考える、すべてのことを!」

西住隊長の、大洗の戦車道が、間違っていない事を。西住隊長が戦い抜き、守り通した、大洗流の戦車道を。

私が、受け継ぎたい。

大それた目標だってことは、重々承知している。それでも。

目標は大きい方がいい。目指すだけの甲斐がある。

私の意気込みに西住隊長は、ゆっくりとベンチから立ち上がり。

「…うん。私に教えられることは、全部。澤さんに、託すよ。」

西住隊長から、託される。私が。

ちっぽけな今の私には、あまりにも大きすぎるけど。でも、いつか。

決意を胸に誓いを立てる私と、西住隊長、その背中を、夕日が照らしていた。

この夕日の眩しさを、きっと忘れない。

 

 

 

「お疲れさまでしたー」

「「「おつかれさまでしたー!!」」」

日課の基礎練習が終わり、終業の挨拶。

夕日に決意を誓ったあの日から、既にひと月が過ぎ。

私は副隊長として西住隊長の補佐に付きながら、一方で経験の浅いビギナーとして、基礎的な訓練も同時にみっちりと仕込まれていた。

オーバーワークにはまだ慣れていないけれど、こんなことでへこたれてはいられない。

きっと、副隊長としての手腕をモノにしてみせる。そして、行く行くは…そんなことを思うと、疲れていても自然に背筋がしゃん、と伸びる。

「うんうん、澤ちゃんもだいぶ副隊長らしくなってきたねぇ~西住ちゃん♪」

飄々とした会長の言葉。こういう時は、大抵何かろくでもないことを思いついた時だ。

「はいっ!澤さん本当に呑み込みが早くって、すごく教え甲斐があるんです!」

「うんうん♪そんな澤ちゃんの為にぴったりなお話がありまーす!」

ほら来た。

「実は、この度新人強化を目的とした一年選手主体での練習試合の申し出があった。」

河嶋先輩が続けるように詳細を告げる。つまるところ、新人強化試合ってことかな。

でも、こちらから試合を申し出るんじゃなく、相手校から申し込まれるなんて。大洗も有名になったなぁ。

して、相手校はどこだろう。

「申し込み相手は、何を隠そう聖グロリア―ナ、向こうの一年代表は、ダージリンの側近でもある、オレンジペコだそうだ。」

オレンジペコさん、聞いたことがある。聖グロリア―ナの隊長車、チャーチルの装填手。

一年生にしてダージリンさんの片腕として、栄えあるノーブルシスターズに任命された、正真正銘の才女。

そんなすごい人と、私が…?

畏れ多くも、その申し出に、私はなぜか運命的なときめきを感じずにはいられなかった。

「もちろん、受けるに決まってるよねぇ、西住ちゃん、澤ちゃん?」

わくわくは、止められない。返事は当然、決まっている。

 

「「はいっ!」」

 


 
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