No.824669

リリカルなのはZ第二十三話

たかbさん

第二十三話 傷だらけの守護神

2016-01-12 22:20:14 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1791   閲覧ユーザー数:1671

 新たな使徒の襲来にNERVもエヴァのパイロットであるシンジとレイはエヴァに乗り、出撃準備を行っていた。とは言っても空を呼ぶ巨大輸送戦闘機の中でエヴァに乗るだけ。何よりも自分達ではなく自衛隊のコクボウガーが隣の輸送機で運ばれているからこそ落ち着いていられるシンジは同時に現れた使徒と応龍皇。使徒の周りに生み落される現れたケルビム兵という怪物の群団にも余裕を持っていられた。それはNERV本部で彼等を見守っていたミサトたちにも見て取れていた。

 

 「レイとシンジ君のバイタルは比較的に安定しています」

 

 エヴァが輸送されている映像と一緒に彼等のバイタルサインを映し出すモニターを見ながらミサトはひとまず安心した。使徒だけでなく使徒から生まれたケルビムも相手にするというのに彼の精神が乱れることなく維持できているのは素直に喜ばしい事だった。

 

 「管理局。例の魔法使い組。フェイト・テスタロッサ・ハラオウン。クロノ・ハラオウンの二人も合流しました」

 

 「二人だけ?」

 

 ミサトは管理局から着た援軍が二人だけなのに違和感を持ったが、使徒及びケルビムの攻撃に対処できるレベルの魔導師は今のところこれだけしかいない事を知らされる。

 

 「確認されている魔導師。八神はやてさんとその守護騎士達は未だに回復しきっていないので今回の作戦には参加できないそうです」

 

 「まあ、使徒の攻撃を受けて死んでいないと言うだけでも儲けものよ。それよりガンレオンは?」

 

 『ガンレオンはホッカイドオに今向かっている。あそこには青い龍がいるからな』

 

 戦闘輸送機に乗り込んだ魔導師のうちの一人、クロノがミサトの隣に並び立つリツコに答えた。見た目は日本人じみた彼だが北海道彼に言われたように今、ガンレオンは炎の翼を生やし猛スピードで北上している映像が見えた。

 

 「使徒よりあのドラゴンを優先して倒すというの。こっちには北海道よりも多くの人や物資があるというのに…。出来ればあれの戦闘データもほしいところだったのに」

 

 『ですけどそこにも人がいる。町がある。彼は、いえ、彼等はそれも守りたい。だからこそ私達に足止めを頼んでいきました。・・・とても苦しそうな顔で』

 

 『・・・』

 

 フェイトの言葉を聞いたシンジは何処となく嬉しそうな表情を作った。

 最初は高志達、ガンレオンがこちらに来ないという報せを聞いた時は焦ったが彼等は二つの怪物を倒すつもりであるという事。そして自分が信頼。憧れにも似た人から頼りにされている事が嬉しかった。

 

 『子どもに頼るのはよくない。そう言った彼だからこそ本来なら僕一人で来るべきだった。だけど、あの怪物は、使徒は『子どもの手も借りないと倒せない』』

 

 クロノは悔しそうにしていた彼の表情を思い出す。ガンレオンで飛び出していく前に高志と通信で話したクロノは自分にとても辛そうに頭を下げる彼の姿に尊敬の念を抱いていた。

誰よりも危険な場所に出向いている彼の後姿はまさに自分が憧れていた男の背中ではないのかと。そう思わざるに入られない大人の背中だった。

 

 『NERVと自衛隊の皆さんにはあの怪物。使徒の足止めを。自分の命を最優先で戦ってください。彼が、ガンレオンが来るまでの間足止めを…』

 

 『何なまっちょろい事を言ってんのよ!エヴァは使徒を倒すために作られた最強の兵器なのよ!』

 

 クロノが作戦の提示をしようとした時、突如割り込んできた通信。それはフェイト達と同い年の少女の声だった。赤みのある金髪はアリサ・バニングスを髣髴させる少女だった。

 

 「アスカ?!あなたドイツにいたんじゃ…」

 

 『ハァイ、ミサト。ちょっとこっちもこみ様でね、ドイツ支部から本部に持っていけるだけの人材と物資。勿論、二号機も一緒よ』

 

 割り込んできた通信にクロノが少し慌てたクロノが質問してきた。言った君は誰なのかと。

 

 『私は惣流・アスカ・ラングレー!エヴァンゲリオン二号機のパイロット。本物のエヴァの操縦者よ!』

 

 『・・・ほ、本物?』

 

 『そうよこの七光り。あんた達がしっかりしないからドイツ支部の開発費がゴリゴリ削られて日本の支部と合併することになったんだから!』

 

 『な、七光り・・・』

 

 『あんたもよ、えこひいき!初号機から零号機に移されたからって活躍しなさすぎ!お蔭でかなりの手続きをやる羽目になったんだから!』

 

 『・・・』

 

 ガンレオンの活躍で明るみになったNERVの内情。確かに自分達のお給料も先月に比べてかなり差っ引かれた。

 

 『でももうそんな事にはならないわ!本物のエヴァとそのパイロットが来たんですからね!』

 

 『ちょ、ちょっと待て!本当に君がそうなのか!君みたいな子どもが!』

 

 『仕方ないでしょ、エヴァは選ばれた人間にしか動かせないのよ。そう言うあんたの隣にいる奴も子ど、も?じゃない』

 

 『ちょ、何で言いよどむんですか!』

 

 アスカが何か言いよどむようにフェイトの姿を見た。中学生にしては発育しすぎな体つき。それはバリアジャケットというには余りにも体のラインが出まくるものだった。

 

 『え、あ、ごめんなさい。お姉様から聞いた話だと私と同い年なのよ、ね?』

 

 『誰から何を聞かされたかは知りませんけど私も中学二年生です!』

 

 嘘ぉ?!とNERVやその連絡をしていた自衛隊のコメントを貰ったフェイトはさらに涙目になりそうだった。

 

 『まあいいわ!えーと、あんたはお姉様のお気に入りの~、フェイトだっけ?あんたは七光りとえこひいきの援護しなさい。防御力はあんたが一番ないんでしょ』

 

 「ね、ねえアスカ。お姉様って、誰?」

 

 言葉の端々でてくる言葉でアスカが言う事はないだろう単語を何度も聞いたミサトは気になっていた。自立心が強く妥協もしない性格だった彼女がお姉様という人物を彼女は知らない。

 

 『・・・お姉様はお姉様よ。私がこの世界で二番目に尊敬する女性よ。それじゃあもうすぐ使徒が見えるポイントよ。総員戦闘準備!』

 

 「待ってアスカ!迂闊に使徒を刺激しても被害を大きくするだけよ。それに初号機と〇号機にはまだ水中戦を想定とした武器は持ていないわ!使徒が上陸したところを狙い撃ちなさい!」

 

 ミサトが今にも飛び出しそうなアスカに言い聞かせる。そして、最高司令のゲンドウに目を配らせると彼は静かに頷いた。

 

 「作戦変更!エヴァ初号機と零号機は二号機の援護を、魔導師組と自衛隊の皆さんはこぼれ落ちたケルビム兵を迎撃!攻撃時間は使徒が地上に足を運んだ瞬間、魔導師、および自衛隊の遠距離攻撃を行い、一分後エヴァで突撃を行います!」

 

 自衛隊や魔導師組は子どもが乗っているエヴァはもちろんフェイトにも出撃してほしくなかったがやむを得ないと思った。ミサトの単純な作戦も一番被害が出ない方法だろうと考えたからだ。

 意外な事にアスカもミサトの制止を振り切ることなく言うことを聞いている。以前のアスカなら止めても無駄だったが彼女が言う『お姉様』によって人の言う事をよく聞くように言われているのか・・・。

 アスカの言う通り使徒はもうすぐ傍だが、水中装備を積んでいないとロクに動かない機動兵器。それは空中戦を得意とする魔導師組。自衛隊のコクボウガーもそうだ。むしろ盾を持って動き回る。文字通り壁になるしかないコクボウガーは海に入れば沈んだままになる。

 海面から少しだけ顔を出した使徒の顔が見えた。海上自衛隊は使徒の反撃を恐れて、かなり離れた場所から使徒から零れ落ちるように生まれたケルビムに長距離射撃を行っている。使徒自体には砲撃はしていない。ここで攻撃しても無駄死にすることが分かっているからだろう。

 使徒が荒れ地と化している丘へと上がろうとした瞬間にアスカと二号機を乗せた輸送機は使徒の真上を通過すると同時に使徒が日本列島に足を踏み入れた。

 

 「攻撃開始!」

 

 ミサトの合図とともに自衛隊と魔導師組の砲撃が放たれ使徒を中心に爆発。光と轟音。噴煙が立て続けに生じる。それは時間にして一分。と、同時に二号機は巨大な機械弓のような物を手にして落ちていく。その弓を持って連射すると幾つもの細長いそれでも十メートルはあろう鉄の杭が撃ちだされる。

 多方向からの砲撃を受けた使徒は全方位にATフィールドを展開していたのでその鉄の杭もそのまま受け止める。周りにいたケルビム兵は皆藻屑となって辺りに散らばっていた。だが、鉄の杭を受け止めたフィールドに突き刺さった杭の矢尻の部分に後から連射した杭が続くようにぶつかっていく。杭は奥へと進もうとATフィールドに食い込んでいくがどうしても勢いが足りないのか押し留まる。だが、それを予見していたのかダメ押し言わんばかりに落ちてきた二号機の蹴りが入る。

 

 『これでぇっ、消えろぉおおおおお!』

 

 二号機の重量を受け、杭はATフィールドにどんどん食い込んでいくがそれと同時に二号機と使徒との間にあった鉄杭が壊れていく。一本二本、三本と杭が潰されていき、全ての杭が踏み潰される直前にATフィールドは破られ半ば折れ曲がった鉄杭と二号機の蹴りが叩き込まれた使徒は体の中心に合ったコアらしきものを蹴りちぎられ、ビクビクと打ち震えていた。誰もがやったかと思ったその時だった。

 

 『危ない!』

 

 二号機に遅れて降りてきた初号機の中からシンジは使徒の顔にあたる部分が開くとそこから幾つもの触手が伸びて二号機に襲い掛かるのを見た。それは先程のお返しだと言わんばかりに先が鋭いものだった。足を振り抜いて背中を見せていた二号機を守るように初号機が前に出てそれを防いだ。使徒にあるようにエヴァにもATフィールドはある。だが、シンジが操縦する初号機のフィールドは弱かったのかいとも簡単に破られる。体のあちこちを穿たれた状態だったが、それでも二号機を何とか守り通した。

 

 『碇君っ』

 

 『七光り!あんた、どうして・・・』

 

 『・・・僕だって、僕だって男なんだっ。僕はあの人みたいに強くなるんだ』

 

 自衛隊と魔導師達の砲撃に腰がすくみ、アスカが使徒を倒してくれたことに単純にうれしかったシンジ。だが、本当に自分はそれでいいのかと思った。守られているだけでいいのかと。そんな事であの人に追いつけるのかとそう思っている時に使徒が二号機を攻撃しようとしているところを見て考えるより先に体が動いた。

 

 『あの人みたいに、強くなるんだぁあああああっ!!』

 

 自身に突き刺さった鋭い触手を掴み自分の引き寄せる。二号機の攻撃を受けた後なのかダメージが残っていたのか初号機の前に引き寄せられる使徒。その使徒とは逆に拳を固めたエヴァが使徒の顔面殴り、そのままの勢いで押し倒した。殴り倒されると同時にのしかかろうとした初号機だったが使徒は遅れてATフィールドを張る。初号機はそのまま押し飛ばされそうになった踏ん張り再び使徒を押し倒そうとする。

 

 『フィールド全開!』

 

 自分のATフィールドで使徒のATフィールドを中和する。それによって初号機の拳は再び届くことになる。だが、初号機のだけではパワーが足りない。そんな時シンジとは逆。使徒を挟んで向こうがから零号機もやってきてATフィールドを中和していく。

 エヴァ二体の中和行動により身動きが取れない使徒を見逃すほどアスカも甘くはない。先程潰したコアらしきものが急所はではない。それは何処なのか?見当もつかない。ならば目に入るものを全て潰そう。

 二号機の肩の部分から備え付けられたナイフを両手に持ち大きく跳躍。まずは顔らしきもの部分に突き立て二号機の重量そのままに叩き切る。それはさながら三枚に下ろされる魚のような物だ。いくら急所ではないとはいえそれだけのダメージを負った使徒にATフィールドを張る余力はない。

 

 『ジエータイ!撃てるだけのミサイルを私達に叩きこみなさい!』

 

 『っ!しかし君達は』

 

 『エヴァには特殊装甲が何万枚も使われているのよアンタらの攻撃なんが屁でもないわ!』

 

 少女が使うには下品な言葉を使うアスカ。子どもに向かってミサイルを撃ち込むなど彼等の信条に反するのだろうか少しためらっている様子だったが、エヴァの稼働限界はあと一分を切ったところだ。本来なら背中につけられたケーブルで電力を供給して稼働を保っているのだが空からの急襲という事もあってそれはない。

 使徒が大ダメージを負っていても致命傷では無いようだ。このままではこのダメージも回復してATフィールドも使えるまでに回復すればこちらが負ける。そう考えるまでに時間はかからなかったがミサイルというものは準備していてもそう簡単に撃てるものではない。

 

 ・・・だが、魔法はその限りではない。

 

 『ミサイルほどではないがこちらの全力だ!スティンガーレイ・フルパワー・オールレンジ!』

 

 『バルディッシュ!カートリッジフルロード!サンダーレイジ!』

 

 予め最大出力を想定した準備をしていたクロノ装束を纏った兄妹の魔法がエヴァと使徒を包み込んだ。

 

 『『フルバースト!!!』』

 

 青と黄色の閃光が使徒を中心に炸裂した。

 使徒のATフィールドを中和している初号機と零号機はもちろんナイフを手放し二機に同調した二号機もその攻撃を一身に受ける。

 エヴァが受けたダメージはパイロットにも伝播する。それはATフィールドを展開・中和するシンクロ率が経駆けれ高い程ダメージも上がる。

 シンジ・レイ・アスカの三人は苦痛の声を必死に食いしばる。だが、そこから逃げようとはしなかった。逃げれば使徒の侵攻を許してしまう。それだけは駄目だ。

 

 『嬢ちゃん達、よく頑張った!だがここからが本番だ!』

 

 『御託はいいわよじゃんじゃん撃ち込みなさい!』

 

 『はっ!死ぬんじゃねえぞ!魔法使いの二人はすぐにそこから引け十秒後にありったけのミサイルが飛んで来るぞ!』

 

 自衛隊の隊長からの通信を聞いたアスカは早くぶち込めと急かす。クロノとフェイトは少し離れた所にいた盾を持ったコクボウガーの後ろに回り込みコクボウガーごと自分達を守るバリアを展開した。ミサイルが着弾したのはそれから一秒にも満たない時だった。

 

 

 「使徒の反応消失!エヴァ及び自衛隊。管理局の全員の無事を確認!ケルビム兵の存在もありません!」

 

 オペレーターのマヤの言葉を聞いてミサトはガッツポーズを取った。

 様々な人達の手を借りてだが使徒を討つことが出来た。ミサイルの学振値を見ればエヴァの三機がもみくちゃの状態で重なり合っていたが勝ちは勝ちだ。

 

 「・・・東京はどうにかなったけど北海道はどうかしらね?」

 

 ふとリツコが手元にあったコンソールに指を走らせると画面が切り替わる、そこには鋼鉄の獅子に襲い掛かる高志が知るゲームの世界でアルトアイゼンと呼ばれる『鋼鉄の弧狼』。『白い堕天使』と呼ばれたヴァイスリッターが乱戦を繰り広げておりヒット&ウェイを繰り広げながら、その二つがガンレオンから距離を取ると応龍皇の咆哮等共に放たれた強烈なビームがガンレオンを包んでいた。

 

 「ちょ?!ちょっとシャレにならないくらい追い込まれているじゃない!」

 

 その戦闘の激しさはシンジ達に比べるのもはばかれるくらいに苛烈だった。

 ガンレオンは応龍皇の攻撃を受けてもなお動いてたがアルトアイゼンに足止めを食らっていた。アルトから潰そうとすればすかさずヴァイスが遊撃し、大きな隙が出来れば応龍皇のビームに焼かれる。

 

 「・・・正直、ガンレオンだけに集中してくれて助かったわね」

 

 『何言っているんですか!すぐに援護に向かわないと』

 

 「・・・無駄よ。私達が行っても足手まといよ」

 

 『っ』

 

 ミサトの言葉にフェイトは噛みつこうとしたがすぐに辞めた。

 ガンレオンは鈍重に見えるがエヴァよりも早く動けて頑丈だ。フェイトはそれよりも早く動けるが今の映像を見る限り下手すれば攻撃が当たる。そして魔導師の中で誰よりも防御力が低い自分が攻撃を受ければ死ぬ。いや、応龍皇はもちろんアルトやヴァイスが放っている弾丸の流れ弾でも死ぬだろう。それでも、それでも自分はあの人達を、自分の大切な人達と町を守る彼等を助けたい。

 

 『私が長距離砲撃で援護を・・・』

 

 『駄目よ。あなたの砲撃が届く距離は奴等の有効射程範囲だから』

 

 今まで黙っていたグランツ研究所で通信を行っていたプレシアが口を開いた。プレシアはプレシアでガンレオンの状況を把握していた。これはNERVや管理局だけで対処できるものではないという事を。

 

 『貴方が言ってもただ死ぬだけ。だから馬鹿な真似はやめなさい』

 

 『っ、貴女は、貴女はあの人達を見捨てるというの!そんなの、そんなの』

 

 『黙って見ていなさい。別世界とはいえあなたの姉と将来の義兄になる人間がそう簡単にやられると思うの』

 

 プレシアの言葉にフェイトは伏せがちだった顔をあげて自身の目の前に浮かび上がったガンレオンの戦っている画面を見る。

 

 『痛い痛い痛いっ!』アルトの攻撃を被弾。

『痒い痒い痒いっ』ヴァイスの攻撃を被弾。

『『熱い熱い熱いぃいいいい!!』』応龍皇の攻撃に直撃。

 

 高志とアリシアの悲鳴が交互に聞こえる。どう見てもピンチにしか見えない。

 

 『・・・あの』

 

 『・・・まあ見ていないさい。こっちはこっちで援護をする手はずだから』

 

 フェイトだけでなくこの映像を見ている全員から疑いの目で見られるプレシアは言葉を濁す。

 

 『アリシア、大丈夫?タカ、もうちょっとしっかりしなさい!アサキムとの戦闘がしばらくなかったから感覚が鈍っているとでもいうの!』

 

 『もうちょっと俺にも優しくしてくれ!』

 

 『あなたにはこれぐらいがいいでしょ。むしろ足りないと思っているんじゃない?』

 

 『俺は『どMの獅子』になった覚えはねえ!…まあ、確かにあのころに比べたら、あちゃああああああ!?』

 

 『しっかりしてよ、お兄ちゃあだだだだだ!』

 

 プレシアとのやりとりをしている間に応龍皇のブレスにヴァイスの放った散弾を受けたガンレオンから聞こえた悲鳴だがどこか余裕を見せる場面だった。ヴァイスの散弾はシグナムの連結刃以上。アルトのパイルバンカーはヴィータのギガント。応龍皇のブレスはなのはのスターライトブレイカークラス。そんな攻撃を受け続けているにもかかわらずガンレオンが何故動けているのか。それは・・・。

 

 『・・・緑の光?』

 

 『あれって回復魔法?』

 

 ガンレオンがを薄く包む緑色の光が一瞬だけ強くなるとガンレオンの装甲についていた傷が消え、まるで新しくしたような装甲に仕上がっていた。

 

 『下手に攻撃できない時はああやって回復しているから』

 

 「・・・非常識だわ。これだから魔法ってのは」

 

 『だからといってあれじゃあなぶり殺しじゃ』

 

 『言ったでしょ。援護は出したって』

 

 プレシアがそう言うとNERVの警戒信号が鳴り響く。

 

 「高エネルギー反応を感知!東京から北北東に何かが発射されました!」

 

 「何かって何?!弾道ミサイルかなにか?!」

 

 「いえ、これは・・・。パンチです!大きなオレンジ色に光るパンチが撃ちだされました!」

 

 「パンチィ?!」

 

 「軍事衛星からの画像を送ります!」

 

 マヤがコンソールをいじると日本列島を映し出した映像に一本の線が北に向かって伸びている。更に操作するとそれは巨人の拳を思わせるものだった。

 撃ちだされた拳はただ真っ直ぐに飛んで北海道の大地に突入した。それの機動を見るとそれはガンレオンが戦っている場所へと飛んでいく

 

 「・・・これも、魔法なの?」

 

 『残念だけどこれは化学よ。人が死ぬほど頑張れば到達できる領域だけど』

 

 グランツ研究所に併設されている避難所。いや、ほぼコンサート会場のようになったそこにはユーリを始めとするディアーチェ一家にアミタ・キリエがコクボウガーのテーマ曲として出している『ガーディアン』を歌っていた。そして伴奏のあいだにセンターで歌っていたユーリが可愛らしく拳を作って鼓舞をしていた。

 

 『皆さん!もう一度一緒にいきますよ!輝く拳の名のもとに!我等の魂が真っ赤に燃えるぅ!絶望を打ち砕けと轟き叫ぶぅ!』

 

 プルプルと震えさせながらその拳を天高くつき上げた。

 彼女に一瞬だけおくれて避難場所にいた避難民たちが拳をたかく突き上げる。

 

 『『『今、必殺のぉおおおお!無限ッッパァアアアアアアアアンチ!!!』』』

 

 するとグランツ研究所全体が赤く光ると同時にD・エクストラクターが安置されている場所から巨大な拳が発射された。あの空飛ぶ拳はD・エクストラクターから生み出されたエネルギーが拳という形になって飛び出した物だった。

 

 「なんでパンチ?」

 

 『あなた達のエヴァのATフィールドもそうでしょ。イメージがそのまま形になるのよ。ATフィールドが拳になって飛んで行った。それだけよ』

 

 確かに相手の攻撃を拒絶しようとすればするほどATフィールドも強くなるが、いくらなんでもこれは・・・。

 

 『世界には絶望や苦難はあるかもしれない。だけどそれを気合と努力でねじ伏せる。それは幾万以上の道を作る力。それが根性という奴よ』

 

 『感情論でどうにかなるはずが・・・。それにこれは立派な兵器じゃ』

 

 『避難会場にいる全員が心を一つにしないとこんなことできないわね。老若男女の心を一つにすることなんて難しいわね。少しでも思いが違えばあれは形にならない。それこそ『英雄』に憧れ、力になりたい、支えたいという気持ちが無いと動かない。あれはそういうものよ』

 

 兵器としての使用方法があまりにも限られている。まさに皆に支えられて物だ。ああ、だからか、だから歌という人の感情に訴えやすい手段でみんなの心を一つにして武器にしているのか。

 そして、巨大な目標物とはいえ超遠距離攻撃を当てる技術力にリツコは改めてプレシア。グランツ研究所の技術力に舌を巻いた。

 

 「む、無限パンチ!ドラゴンの背中に着弾!」

 

 無限パンチなる物がドラゴンにあたるとドラゴンはそのパンチの勢いのまま地面に押し付けられた。無限パンチは応龍皇を抑え込んでいる間にどんどん小さくなっていく。

アルトとヴァイス。応龍皇との連携がきれたところを見計らったガンレオンはまずアルトを右手で掴み上げると左手にライアットジャレンチを召喚し、その矛先を開けてアルトを改めてジャレンチ掴みと搭載していたパイルバンカーを何度も打ちつけた。

 ヴァイスも自身が持つランチャーで何度も攻撃してそれを中断させようとしたが応龍皇のブレスが来ないとわかったガンレオンには余裕が出来、その余裕を全てアルトを潰すことに費やした。ヴァイスの攻撃はどうにか無視できる攻撃だ。ならば虫をして潰すことにしよう。

 何度もバンカーを討たれたアルトは自分の代名詞といえる武器によって爆散。直後に放たれたスパナとスパナを強靭なワイヤー繋げたブンマースパナに絡め取られるとガンレオンの元に引き寄せられて抱きしめあげられる。アルトとは違い華奢な見た目をしたヴァイスはそのまま引きちぎれるまで抱きしめられた。世界が違えばそれは『ジークブリーガー』と呼ばれる捌降りに似たロボットの技だった。

 二発目の無限パンチを遅れてやってきて最初のパンチ同様に応龍皇にあたり抑え込もうとしたが応龍皇が咆哮を上げると同時に体全体を電で覆いつくし消えかけていた一発目の無限パンチと共に消し飛ばした。が、負けじとガンレオンも咆哮を上げる。それは決してここから先には行かせないと体全体で示している様だった。

 獅子と龍のにらみ合いが一分ほど続いた。

 お供のアルトとヴァイスがやられ、自分が感知できない距離からの攻撃に何を思ったのか応龍王は一声あげると猛スピードで大空へと飛んで行った。

 高志とアリシアは追撃も考えたが連続したマグナモードによる飛行とスフィアの力。『回復機能』を使い続けていたため疲れ切っていた。追えば勝てるかもしれないが負けるかもしれない。それを考えるとわざわざ逃げてくれる応龍皇を追撃しようとは思わなかった。

 

 「・・・未確認生物。パターンオレンジ。索敵エリアより離脱しました」

 

 「とりあえず撃退という事でいいわね」

 

 使徒の撃破。そして応龍皇の撃退にNERVだけでなく管理局、そして一般人を含めたグランツ研究所の人々は喜びの声に溢れた。

 

 『…さすが、お姉様が認めた人間ね』

 

 「ね、ねえ、アスカ。貴女の言うお姉様って、・・・だれ?」

 

 電力切れで動かなくなったエヴァ二号機の中でそう呟いたアスカにミサトは質問した。アスカという少女がそこまで信頼する人物を知らないからだ。このままでは気になりすぎて夜も眠れそうにない。アスカという少女はそれほどまでに自立心の強い少女だからだ。

 

 『・・・リニスよ。リニス・テスタロッサ。私がこの世界で二番目に信用する強くて美しい女性よ』

 

 その言葉が新たな波乱を生むことになる。だが、それは二つの脅威を退けた興奮が収まるまではくすぶり続けるのであった。

 


 
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