No.824301

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-第一章・三話

月千一夜さん

改訂版、一章の三話です
キョウイさんの服装が、大きく変更されてるのが地味にポイント
以前のだと、太守なのに軽装すぎた気がしたので

では、どうぞ

2016-01-10 23:32:29 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2623   閲覧ユーザー数:2346

「そんな・・・まさか」

 

 

薄暗い玉座の間

私の声が、小さく響いていった

その呟きに答えるよう、私の目の前にいる男は静かに頷く

 

 

「これが・・・ここまでが、俺の話せることだ」

 

 

この言葉に、その場にいた皆が息を呑んだ

中には、大きく体を震わせる者もいる

私も・・・微かな震えを、抑えることが出来ない

 

 

「なんということだ・・・」

 

 

隣にいた姉者が、小さく声を漏らす

無理もない

そう思い、私は苦笑した

 

結果的に言えば、我々が得た情報は少ない

それこそ、未だ眠る主のことについては何一つわからなかった

ましてや姉者達が言う“もう一人の華琳様”については、理解すら追いつかない

しかし、たった一つ

たった一つの事実が、ここまで私たちを驚かせ・・・また、微かに“希望”を持たせていたのだ

 

 

「そう・・・か」

 

 

呟き、天井を見上げる

色褪せた天井を見つめたまま、私はグッと拳を握りしめた

暗闇の中に放り出されたような錯覚の後

見つけた“光”に・・・淡い期待をよせながら

 

 

 

 

 

 

「帰ってきたのか・・・北郷」

 

 

 

 

 

絞り出すように、こぼれ出た名前

愛しい、一人の男の名前

 

私の目の前に、白き光が灯った気がした・・・

 

 

 

 

 

 

 

≪遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-≫

第一章 第三話【散歩日和】

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「一刀、いくぞえっ!」

 

「ん・・・」

 

 

それは“一刀”が美羽達の家で暮らすことになって、数日がたったある日のことだった

この数日の間に、一刀はようやく歩く程度ならば問題がないくらいに回復していたのだ

まだ激しい運動などはできないのだが、それでもこの数日の間にここまで回復したことに四人は驚いた

もっとも、美羽の場合はそれよりも“嬉しさ”のほうが勝っていたのだが

これにより、かねてから思っていたことを実行できるからだ

 

それは・・・

 

 

 

 

「今日は妾が、この街をたっぷりと案内してやるのじゃ♪」

 

「ん・・・」

 

 

これである

美羽は以前から、この街を案内してあげたいと思っていた

だが一刀の体調が万全ではなかったため、今まで実行できずにいたのだ

故に、今日いよいよ案内できると知った彼女は飛び跳ねて喜んだとか

 

 

「美羽様~、お昼ご飯までには帰ってきてくださいよ~」

 

「うむ!

それでは、行ってくるのじゃ」

 

「いって・・・きます」

 

「はい~♪」

 

 

ヒラヒラと手を振る七乃に手を振り返し、二人はゆっくりと歩き出す

目指すは、人で賑わう街の中心

その足取りは、不思議と軽い

 

 

「うはははは♪

ほれ、早う付いて来るのじゃ♪」

 

「ん」

 

 

そんな二人の遥か頭上

空は、心地よい晴れ模様

 

“今日は、絶好の散歩日和だ”

誰に言うでもなく、美羽は一人心の中で微笑んでいた

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

ワイワイと、人で賑わう街の中

一刀の手を引きながら、美羽は笑顔で歩いていた

その足取りは家を出た時同様、いやそれ以上に軽く見える

 

 

「どうじゃ、一刀

賑やかであろう♪」

 

「・・・?」

 

 

歩きながらの、美羽からの問いかけ

一刀はよくわかっていないのか、僅かに首を傾げていた

そんな彼の様子に上機嫌な美羽は気づいていないのか、相変わらず嬉しそうに一刀の手を引き歩を進めていた

 

 

「ここ“天水”の街は、とても良い街なのじゃ

きっと一刀も気に入ってくれるのじゃ♪」

 

 

言って、美羽は一刀に笑い掛ける

その笑顔に対し、一刀はとりあえずコクンと頷いていた

 

 

 

 

 

「あ、美羽ちゃんだ~!」

 

 

そんな感じで街を歩き、しばらくがたったころ

幼い少女の声が、二人の耳に届いた

その声を聞いてすぐ、美羽は振り返る

その視線の先では、幼い少女達と少年達がニコニコとしながら美羽に向かい手を振っていた

 

 

「おぉ、お主らか」

 

 

言って、美羽は笑顔のまま足を止める

それに合わせ、一刀も無表情のまま足を止めた

 

 

「美羽ちゃん、今日は歌わないの~?」

 

「今日は、ちょっと忙しいのじゃ

また明日、歌ってあげるぞえ」

 

「わ~~い♪」

 

 

美羽の言葉に、嬉しそうにはしゃぐ子供たち

その様子を、美羽は優しげな笑顔で見つめている

一刀は・・・その光景に、目を細めていた

 

“歌”

 

この言葉に、何か妙な胸の痛みを感じながら

 

 

「あれ、美羽ちゃん

その人って、誰なの?」

 

 

そんな中、突然話題は一刀のことになった

聞かれた美羽はというと、しばらく腕を組み考えた後

パァッと笑顔を浮かべ、一刀の手を取った

そして、こう言ったのだ

 

 

 

 

「一刀は、妾達の“家族”なのじゃ♪」

 

「っ・・・」

 

 

瞬間、彼は僅かに表情を歪ませる

何事かと、そう思ったのは他ならぬ彼自身

彼は美羽に気づかれぬよう、そっと自身の胸に手を当てた

胸の鼓動は、いつもより・・・早い

 

“何故?”

 

考えるが、答えは出てこない

そんな彼の様子に気づいたのは、一人の幼い少年だった

 

 

「大丈夫?

顔色悪いよ・・・“兄ちゃん”」

 

「っ!」

 

 

 

“兄ちゃん”

 

その一言を聞き、彼はさらに表情を歪ませる

“おかしい”と、彼は自身の胸元で強く手を握り締める

 

“わからない”

だけど、“知っている”

心の中・・・わけのわからない矛盾に、彼は息苦しさを覚えた

 

 

「一刀!?

どうしたのじゃ!?

顔が真っ青じゃぞ!?」

 

「美羽・・・」

 

 

隣にいた美羽が一刀の様子に気づいたのは、それからすぐのことだった

彼女は慌てながら、一刀のことを心配そうに見つめていた

“疲れたのかもしれない”

そう思い、彼女は彼の手をとり歩き出す

 

 

「とりあえず、どこか休めるところへと行くのじゃ!」

 

「ん・・・」

 

 

頷き、一刀は引かれるままに足を進める

その光景を、少年たちは心配そうな表情を浮かべたまま見つめていた

 

 

「ぁ・・・」

 

 

ふと、一人の少女に目がいった

桃色の髪をした快活そうな少女に、彼は“ある姿”を重ねてしまう

 

 

 

 

 

 

『兄ちゃんっ!』

 

 

 

 

 

 

「■■・・・?」

 

 

やがて、絞り出すような声で出たのは・・・いったい、何だったのか

そのことを“忘れてしまった”彼にはわからない

自分が何かを呟いたことすら、彼はもう覚えていないのだから

 

 

 

(“きい”・・・とは、なんじゃ?)

 

 

ただ一人

隣にいた美羽には聞こえていたのだが・・・彼女には、その言葉の意味が理解できないでいた

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

コトンと、筆を置く音が部屋に響く

それと同時に、彼女は思い切り背を伸ばした

しばらく座りっぱなしだったため、体が悲鳴をあげている

彼女は苦笑しながら、トンと自身の背中を叩いた

 

 

「太守様、お疲れ様です」

 

「ええ・・・今日の執務は、これで終わりでしたよね?」

 

「はい

大まかなものは、全て終わりました」

 

 

すぐ近くで竹簡に筆を走らせる男の言葉に、彼女は“そう”と笑みを漏らした

それから、スッと椅子から立ち上がる

 

 

「では、私は少々出かけてきます」

 

「どちらまで?」

 

「友人のところまでです♪」

 

 

彼女の一言に、男は“了解しました”と笑みを漏らした

 

 

「日が落ちるまでには帰ってきてくださいよ?」

 

「わかってます」

 

「あと・・・小さな男の子を見つけても、連れて帰ってこないでくださいよ?」

 

「・・・」

 

「そこは、“わかってます”って言ってくださいよ!?」

 

「それでは、いってきますね♪」

 

「ちょ、太守様!!?」

 

 

ヒラヒラと手を振りながら、彼女は軽い足取りのまま部屋を出ていく

無邪気な笑みを浮かべたまま・・・

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「一刀、大丈夫かえ?」

 

「ん・・・」

 

 

街の外れ・・・木陰の中

心配そうな美羽の声に、一刀はコクンと頷いた

あれからすぐ、ここに来た二人

美羽はひとまず一刀をそこに休ませると、すぐに近くで飲み物を買ってきてそれを飲ませた

そして時間はたち、まもなく昼食の時間帯であろうか

太陽はすでに、二人の真上に来ていた

 

 

 

「そろそろ帰らぬと、七乃が心配するのう」

 

「・・・帰る?」

 

「歩けそうかえ?」

 

「ん・・・」

 

 

頷き、一刀は立ち上がる

それに続くよう、美羽も立ち上がった

そしてさも当然のように、一刀の手をとる

 

 

「ゆっくりでもいいのじゃぞ

無理をせずに、ゆっくり帰るのじゃ」

 

「ん・・・」

 

 

そうして、二人は歩き出した

ゆっくりと、なるべく一刀に合わせるよう

美羽は、気を付けて歩を進めていく

 

 

「ぁ・・・」

 

「?」

 

 

ふいに、一刀が小さく声を漏らした

その声に足を止め、美羽は隣にいる一刀へと視線を向ける

 

 

「“蒼天”・・・」

 

 

視線の先・・・一刀は、空を見あげていた

青く澄んだ“蒼天”を

美羽は、その様子に一瞬言葉を失ってしまう

彼の瞳が、僅かに光を宿している

そう、錯覚してしまったのだ

 

 

「待ってて・・・」

 

 

そんな彼女の様子に気づくことなく、彼は手を伸ばす

遥か頭上、晴れ渡る蒼天に向かって

真っ直ぐと、その手を伸ばしたのだ

 

 

 

 

「必ず・・・“君”を、迎えに行くから」

 

 

 

 

その言葉に、美羽は驚き表情を歪める

 

いったい、どうしたのか?

 

心配のあまり、微かに体が震えてしまう

ソレを、彼女はグッと堪えようと・・・唇を噛んだ

ジワリと、口の中で血の味が広がる

 

 

 

「一刀・・・?」

 

 

それから・・・ようやく出たのは、そのようなか細く小さな声

その声に、一刀は視線を空から彼女へとうつす

 

 

 

 

「・・・なに?」

 

 

だが・・・そこにいたのは、いつもと変わらない彼だった

“不自然”なほどに変わらない、彼の姿だったのだ

これに、美羽はさらに戸惑ってしまう

 

 

「一刀よ・・・どうかしたのか?」

 

「・・・?」

 

 

変わらない

首を傾げるその仕草も、その相変わらずの無表情も

何も変わらない

だけど・・・

 

 

 

 

 

「かず・・・」

 

「あーーーーーーー!!」

 

 

そんな時だった

美羽の言葉を遮り、何やら女性の声が響いてきたのは

 

 

「・・・?」

 

「むぅ?」

 

 

ピタリと、二人の動きが止まる

そのことに気づいたのか、声は再び二人に向かい響いた

 

 

「美羽ちゃ~~~ん♪」

 

「む、この声は・・・“白蘭”?」

 

 

呟き、振り向いた先

そこには・・・一人の女性がいた

黒く長い髪に、白く美しい肌の女性だ

彼女はニコニコとしたまま、美羽に向かい手を振っている

やがて二人のもとへとやって来た女性は、美羽の手をとってニッコリと笑った

 

 

「こんにちわ、美羽ちゃん♪

今日は、絶好のお散歩日和ですね」

 

「うむ、こんにちわなのじゃ」

 

 

挨拶もそこそこに、彼女は嬉しそうに微笑みを浮かべる

どうしたのかと美羽が尋ねる前に、彼女は人差し指をピッと立て笑った

 

 

「今からちょうど、美羽ちゃんのお家に行くところだったんです」

 

「おお、そうじゃったのか」

 

「はい♪

ところで・・・」

 

 

そこで、彼女の視線は彼・・・一刀へと向けられる

一刀は、相変わらず無表情のまま

そんな一刀の様子に苦笑しながらも、美羽は彼の腕をとりニッと笑った

 

 

「一刀は、妾達の新しい家族なのじゃ!」

 

「一刀さん、ですか・・・ああ~、そういえば祭さんが言ってましたね」

 

 

“彼のことだったんですか”と、彼女は笑みを漏らす

それから、彼を見つめスッと頭を下げた

 

 

 

「初めまして、一刀さん

私の名は“姜維”、字は“伯約”と申します

よろしくお願いしますね♪」

 

「ん・・・」

 

 

頷き、スッと見つめた先

そこには、相変わらず笑顔のままの彼女

 

姜維伯約

そう名のった彼女の笑顔

彼はその笑顔を・・・ただ無表情のまま、見つめていたのだった


 
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