No.823846

遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-序章・一話

月千一夜さん

ご存知の方は、本当にお久しぶりです
初めての方は、始めまして
月千一夜と申します

長らく更新が停止してしまい、まことに申し訳ありません

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2016-01-08 22:17:14 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:4730   閲覧ユーザー数:3846

夢を見る

あの日から・・・何度も、何度も、同じ夢を

 

 

『さよなら・・・寂しがりやの女の子』

 

 

響いてくるのは、とても優しくて

とても、暖かくて

だけど、とても苦しそうな貴方の声

 

その声を聞くだけで、私の胸は強く締め付けられる

 

 

『一刀・・・っ!』

 

 

瞬間、私は叫んでいた

貴方の名を

大切な、本当に大切な人の名を

喉が潰れそうになるくらいに、叫んでいた

 

 

『一刀っ・・・一刀ぉっ!!』

 

 

嫌だ・・・っ!

嫌だいやだイヤダ・・・離れたくないっ!!

 

そんな想いを込め、私は叫ぶ

 

しかし・・・

 

 

 

『さよなら・・・愛していたよ、華琳』

 

 

 

私の声が、彼に届くことはなかった

 

 

 

『あ・・・あぁ・・・』

 

 

振り返ったとき、そこにはもう私が一番欲しかった

あの笑顔はなかった

 

彼は・・・“もういない”

 

その場に、私は一人取り残されてしまった

 

 

『ぅ、ぁぁ・・・』

 

 

力なく、その場に崩れ落ちる

 

体に力が入らない

頭が、うまく働かない

 

私はただ、だらしなくその場に膝をつけたまま・・・泣いた

 

込み上げるものを、抑えきることが出来なくて

溢れ出る想いが、あまりにも多すぎて

 

私は、ただ、ただ・・・泣き続けた

 

 

『ばかっ・・・ばかぁ

ほんとに消えるなんて・・・なんで私の側にいてくれないの・・・っ?

ずっといるっていったじゃない!!』

 

 

頭が、痛む

わかっている

全部、わかっている

私は、全部理解してしまっている

 

ああ、もう・・・彼はいない

私の隣で笑っていた彼はもう、ここにはいないんだ

 

 

『一刀・・・一刀ぉっ!!』

 

 

憎らしいほどに、美しい月の下

私の声だけが響いている

 

涙は、止まらない

止まるはずがない

 

そうだ、私は・・・今さらになって気づいたのだ

 

 

 

『一刀・・・・・・・』

 

 

 

 

この日、私は・・・一番大切なモノを失ってしまったのだと

 

 

 

 

 

 

《遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-》

序章 第一話【歩みを止めた少女】

 

 

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

 

「また・・・あの夢、か」

 

 

目を覚まし、見上げた天井

次第に鮮明になっていく視界

私の心は既に、大分落ち着きを取り戻していた

 

 

「ふぅ・・・ほんとう、嫌になるわね」

 

 

未だに毎日、このような夢を見る

多少なりともは、慣れるというものだ

 

しかし・・・

 

 

「やっぱり、涙だけは出てしまうものね」

 

 

言って、私は目元にそっと触れる

触れた部分は、やはり微かに濡れていた

そんな自分の姿に、思わず苦笑してしまう

 

 

「もう三年も経つというのに、未だにこのザマよ

おかしいでしょう・・・“一刀”」

 

 

呟き、私は寝台から体を起こした

いつもと同じ、体に僅かに残る気だるさに顔をしかめ

私は着替えるために、人を呼んだ

 

 

 

 

そう・・・あれからもう、三年もの月日が流れたのだ

一刀が、天の御遣いである“北郷一刀”が天に還ってから

 

あの日、成都での宴の夜

美しい月に照らされた彼

彼はこの乱世の終わりと共に、その役目を終えたといい

 

天へと帰ってしまったのだ

 

まるではじめから、この世界にはいなかったかのように

その姿は、跡形もなく消えてしまっていたのだ

 

それは、さながら・・・“胡蝶の夢”のように

 

その光景を、私は三年経った今でも・・・こうして、毎晩のように夢に見る

 

だから、忘れることはない

忘れることはできない

忘れるはずがない

 

これは、きっと罰なのだ

私に対する、天からの罰

 

最後の・・・本当に最期の瞬間

 

 

 

『さよなら・・・愛していたよ、華琳』

 

 

 

彼の言葉から目を背けてしまった

そんな愚かな私への・・・罰なのだ

 

 

 

 

「華琳様・・・?」

 

 

ふいに、聞こえてきた声

その声に、私はハッと我にかえる

声の主は、先ほどまで私の着替えを手伝っていた秋蘭のものだった

 

 

「どうかなさいましたか?」

 

「別に、何でもないわ」

 

「・・・そう、ですか」

 

 

言いながら、秋蘭は私から少し離れ頭を下げる

その姿に、私は苦笑した

 

たぶん、彼女は気づいているのだろう

だけど、何も言わない

私も、彼女たちも

 

それが、いつの間にかできていた・・・私たちの中の“決まり”

 

 

皆、彼を愛していたのだ

春蘭も秋蘭も、あの桂花でさえ、きっと

彼のことを、愛していたのだから

あの日誰よりも泣いていたのは・・・桂花だったのだから

 

いや、桂花だけじゃない

皆、泣いた

泣いて、泣いて、泣いて

一日中、三日三晩・・・それこそ、ずっとずっと

 

ただひたすら、泣き続けた

 

だからこそ、わかってしまう

私たちの中にある“この気持ち”に

そのことに気づいても、私たちは絶対に聞いたりはしない

 

そのようなことを繰り返し、この三年間を過ごしてきた

 

 

“不様だ”

 

 

傷は癒えるどころか、ますます酷くなっている

情けない

私たちは、未だに前に進めていないのだ

 

会いたい

だけど、きっと・・・もう会えない

 

もう、二度と

 

 

 

「華琳様・・・」

 

「ぇ・・・?」

 

 

再び聞こえた、秋蘭の声

気づいたときにはもう、私のこの両の目からは・・・とめどない想いが溢れ出していた

 

 

「秋蘭、お願い・・・もうしばらく、一人にしてくれないかしら」

 

「御意

では、しばらくしたら伺いますので」

 

「・・・ありがとう」

 

 

静かに、部屋から出て行く秋蘭

瞬間、想いが弾けた

 

 

「うあぁ・・・一刀

一刀・・・一刀、一刀・・・!」

 

 

膝をつき、ただ泣きじゃくる

 

あぁ、本当に不様だ

三年・・・もう三年も経ったのに

 

私が

覇王である、この私が

 

一番・・・前に、進めていないじゃないか

 

なんて惨めなのだろう

なんて情けないのだろう

 

私は、なんて・・・私は・・・

 

 

 

 

 

 

~貴女は、本当にそれでいいの?~

 

 

 

 

 

「ぇ・・・?」

 

 

ふと・・・聞こえてきた、声

でも、ただの声ではない

 

この声を、私はよく知っている

 

 

「っ・・・!」

 

 

慌てて立ち上がり、見つめるのは部屋の窓

そこに座る人物の姿に、私は言葉を失ってしまった

 

 

『あら、どうかしたのかしら?』

 

 

だが、そんな私の様子に対して

その人物は嘲笑うかのように・・・実際、少しだけ笑みを浮かべながら

そう言ったのだ

 

 

「私は、夢でも見ているのかしら?」

 

『ふふ、そうかもしれないわね』

 

 

ようやく出た言葉

目の前の“少女”は、不気味に嗤う

 

 

「貴女は・・・何者なの?」

 

 

多少のイラつきを覚えながらも、私は彼女にたずねる

彼女はその言葉に、愉快そうに表情を歪めた

 

 

『見てわかるでしょう?

この顔が、この声が、この姿が・・・貴女には、いったい誰に見えるというの?』

 

 

言いながら、彼女は・・・こちらに歩み寄ってくる

私は、その場から動けないでいた

 

目の前の光景に、軽い眩暈まで感じてしまう

 

 

『貴女なら、わかるでしょう?

誰よりも“私を知り”、誰よりも“私を知らない”貴女なら』

 

 

やがて、彼女は私のすぐ目の前で立ち止まり

耳元にそっと、口元を近づけてくる

 

そして、こういったのだ

 

 

 

 

 

 

『ねぇ・・・もう一度、彼に会いたくない?』

 

 

 

 

 

 

「え・・・?」

 

 

時間が、止まってしまったかのような錯覚

 

私の目の前

“私とまったく同じ顔をした彼女”の言葉

 

 

「は・・・はは・・・」

 

 

私は、全身から血の気が引いていくような感覚に襲われた

同時に、“歓喜”する

 

 

 

「は、あはは・・・あはははははははははっ!!」

 

 

 

彼に、また会える?

そう思うと、私は笑みを止めることができなかった

 

 

「ふ、ふふふ・・・・これは、夢なのかしら?」

 

『だとしたら、とても残酷な夢ね』

 

 

言って、彼女も笑う

 

 

『でも、そんなことはもうどうでもいいでしょう?』

 

「ええ、そうね

そんなことは、もうどうでもいいわ」

 

 

そう言って、私は笑った

 

そうだ、忘れていた

私は“覇王”・・・曹孟徳なのだ

一度手に入れると決めたものは、絶対に手に入れてみせる

 

それがたとえ・・・遥か彼方、蒼天の向こうにあるものだったとしても

 

 

 

「聞かせなさい

彼に会う、その方法とやらを」

 

『ふふふ、それでこそ“私”だわ

いいでしょう、聞かせてあげるわ

彼に会う・・・そのための方法を』

 

 

ああ、そうだ

 

ようやくわかった

ようやく理解した

 

私が、やらなくてはならないことを・・・

 

 

 

「私は、絶対に“貴方”を奪い返してみせる!!

たとえ天を、世界を・・・“全て”を、敵にまわしたとしてもっ!!」

 

 

 

部屋の中

響く・・・嗤い

 

“二人の覇王”の嗤い声は、響いていく

 

それは、窓の向こう

今にも雨が降り出しそうな・・・薄暗い雲の向こうにまで

 

不気味に響いていった・・・

 

 

 

 

 

ーーー†ーーー

 

「お~い、遊びにきたで~」

 

 

白い、とても白く清潔感のある部屋の中

一人の男が、そのような声とともに入ってきた

メガネをかけ、笑みを浮かべた一人の青年だ

 

 

「なんや、ま~だ寝とるんかいな」

 

 

言いながら、彼はその部屋の中心にあるベッドの傍まで歩み寄る

それから椅子をベッドの横に寄せ、それに座り込んだ

 

 

「今日は、良い天気やで

絶好のナンパ日和っちゅうんは、こーいうのを言うんやな」

 

 

そして、見つめた先

一人の青年が、眠っていた

長い茶色い髪をした、端正な顔立ちの青年だ

彼はその青年を見つめたまま苦笑する

 

 

 

「はよ起きいや・・・“かずピー”」

 

 

 

呟き、彼はベッドに眠る青年の髪に触れた

長く、茶色がかったその髪に

 

 

「返事くらいせぇや・・・なぁ?」

 

 

そして、見上げた天井

部屋と同じく白く清潔感のあるその天井に向かい、彼は深いため息を吐き出した

 

 

「もう、“五年”も経つんやな

かずピーが、起きんようになって」

 

 

そう、“5年”だ

彼が・・・この“青年”が眠りについてから、もう5年もの月日が流れていたのだ

そのときのことを、彼は今でも鮮明に覚えている

 

突然、行方不明になった親友

その親友の姿を、彼はある日発見したのだ

 

彼らが通う学園・・・その中庭で、涙を流しながら眠る彼の姿を

 

 

 

 

「あれからもう、5年も経つんや

月日の流れってんは、早いもんやなぁ」

 

 

言って、彼は立ち上がる

それから、ゆっくりと歩き出した

 

 

「ほなら、また明日も来るで・・・かずピー」

 

 

そう言って、彼はその部屋を後にした

その場には、ベッドで眠る青年だけ

部屋の中は先ほどまでと違い、完全な静寂に包まれる

 

 

「・・・ん」

 

 

そんな中、ふいに・・・なにか、声のようなものが聴こえた

だがしかし、ここには青年以外は誰もいない

故に、この声に対し疑問に思うものはいないのだ

 

だからこそ、誰も知らない

誰も気づかない

 

 

 

「か・・・ん・・・・・・」

 

 

終わってしまったはずの、“一つの物語”

そのページに、新たな“物語”が綴られようとしていることに

 

今はまだ、誰も気づいていないのだ

 

病室の、その窓の向こう

果てしなく広がる、あの“蒼天”以外は

 

 

 

 

 

「か、りん・・・」

 

 

 

 

遥か彼方、蒼天の向こうへ

その声は、今はまだ届かない・・・

 

 

 

 

 

 

 

《遥か彼方、蒼天の向こうへ-真†魏伝-》

    序章 ~開†幕~

 

 

 

 

 

 

物語は・・・もう間もなく、始まろうとしていた

 

 

 

 


 
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