No.823252

恋姫外史医伝・華陀と一刀 五斗米道の光と影 第9話

アキナスさん

一つの終わりと始まり

2016-01-05 22:28:48 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:3598   閲覧ユーザー数:2912

黄巾の乱も終わりが近付いていた。

 

本隊を殲滅するために着々と集まりつつある諸侯たち。

 

一刀と趙雲は、その戦場となるであろう場所へと歩を進めていた。

 

「それで、こんなところまでやってきてどうなさるおつもりで?」

 

「ん?いや、ここでは間違いなく大量の負傷者が出るだろうからな。医者としては一人でも多くの人間を救うべきだと思ったわけだ」

 

「・・・・・・」

 

「戦いたいか?」

 

「ええ・・・一刀殿は反対ですかな?」

 

「いいや。好きにすればいい。お前がどうしようと、俺は俺のやるべき事をやるだけだ」

 

「・・・・・・」

 

「さて、円滑に医療活動を行うためにも、できればどこかの軍に同行したいんだが・・・・・・」

 

そうこう言っている間に目的地に着いた二人。

 

「ここから一番近いのは・・・あそこか」

 

一刀は趙雲を引き連れて、近くで陣を張っていた軍隊へと向かった。

 

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

 

「華琳様」

 

「どうかした?秋蘭」

 

「いえ、我が軍で働きたいと言う者がやって来ておりまして・・・」

 

「どんな人間かしら?」

 

「一人は医者を名乗る北郷と言う男、もう一人は武芸者を自称する趙雲という女です」

 

「そう・・・いいわ。人手が多いに越した事は無いもの。働かせてあげなさい」

 

「はっ!」

 

 

 

こうして趙雲は先陣の一部隊に、一刀は医療関係者の詰め所へと案内される事となった。

 

 

 

 

そして時を置かず、戦端は開かれた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

前線において、趙雲は鬼神の如き戦いぶりを見せていた。

 

「趙子龍の槍捌き!その身にとくと味わうがいい!!」

 

手にした槍の一突き一突きで、敵兵の命を次々と奪っていく。

 

その姿は味方からは憧憬、敵からは畏怖を持って受け入れられた。

 

武人として最も輝く時とも言うべき戦場の空気に、趙雲の心は高揚感に満たされていた。

 

その時ふと、一刀の顔が脳裏をよぎった。

 

「好きにすればいい。お前がどうしようと、俺は俺のやるべき事をやるだけだ」

 

無表情で口にした一言。

 

 

 

 

「・・・私がどれだけ戦果をあげようと、貴方は決して喜んではくださらぬのでしょうな・・・・・・」

 

 

 

 

高揚感で埋まっていた心の片隅に、寂しさにも似た感情が生まれ出た趙雲だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一刀もまた、もう一つの戦場の只中にいた。

 

次から次へと運ばれてくる負傷者たち。

 

「痛い!痛い痛い痛い痛い!」

 

「それだけ叫ぶ余力があるなら大丈夫だ」

 

「ぐ・・・・・・」

 

針麻酔でおとなしくさせ、傷の治療に入る一刀。

 

素性の知れぬ一刀に対し、衛生兵たちは当初疑いの目を向けていたが、いざ治療が始まると一刀に頼りきりの状態となっていた。

 

軍医は他にもいたが、治療のスピードが段違いなのだ。

 

他の軍医が一人治療を終えた時、一刀は三人は治療している。

 

「北郷殿!新たに二人来ました!」

 

「・・・そっちの方が危ない!こっちに運んで来い!もう一人の方は・・・」

 

「手が空いた!私が診よう!」

 

「頼む!」

 

他の軍医と連携しながら負傷者への対応を行う一刀。

 

 

 

「死にたく・・・ねえ・・・」

 

 

 

「・・・・・・だったら最後まで諦めるな。お前が諦めた時点で、俺にはどうすることも出来なくなるんだからな」

 

 

 

患者の気持ちを奮い立たせながら、一刀は治療を続けていった・・・・・・

 

 

 

 

戦いは黄巾党の敗北によって幕を閉じた。

 

戦場跡には数え切れないほどの死体の山が築かれている。

 

曹操軍の本陣では、いの一番に帰還した夏侯惇が曹操の下へ戻ってきていた。

 

「華琳様!ただいま戻りました!」

 

「お帰りなさい春蘭。報告は受けているわ。良く働いてくれたようね、ご苦労様」

 

「もったいないお言葉です!」

 

「本当にもったいないわ・・・いいわよね。脳筋は何も考えずに武器を振り回してればいいんだから・・・・・・」

 

「何だと桂花?武器一つまともに扱えないくせにえらそうに・・・」

 

「武器しか扱えない人に言われたくはないわ」

 

「馬鹿にするな!武器が無くとも拳が使えるぞ!」

 

「・・・本当に馬鹿ね」

 

「何!?」

 

「その辺にしておきなさい。桂花、無闇に人をけなす行為は自らを貶める事になるわ。私を失望させないで」

 

「は、はい・・・申し訳ありません・・・・・・」

 

曹操の言葉に肩を落とす荀彧。

 

「心配せずとも、今回の戦に関して私は貴女もちゃんと評価しているわ」

 

「華琳様・・・・・・」

 

あっというまに気を取り直す荀彧だった。

 

「桂花!おま・・・」

 

「その辺にしておけ姉者」

 

いつのまにかやってきていた夏侯淵が待ったをかけた。

 

「お帰りなさい秋蘭」

 

「ただいま戻りました華琳様」

 

「・・・そういえば秋蘭。出陣直前にやってきたと言う二人は?」

 

「その事も報告しようと思っていた所です。まず趙雲ですが、兵たちの話ではずいぶん活躍していたようです」

 

「ああ、趙子龍と言う奴か?私も前線で見たが、あれは強いな。一度手合わせしたいくらいだ」

 

「春蘭も認めているのね・・・」

 

「あと北郷と言う男ですが・・・ここに来る前に少し様子を見てきました。見事な腕前です。連れてきた軍医たちの誰よりも優秀だと私は見ました」

 

「ふうん・・・正直男の方はあまり気にしていなかったけど・・・興味が湧いて来たわ」

 

曹操は部下に二人を連れてくるよう命令した。

 

少しして、部下は趙雲のみを連れて戻ってきた。

 

「北郷とやらは?」

 

「それが・・・治療が終わっていない負傷者が残っているのでこちらには来れないとのことで・・・・・・」

 

「それは仕方が無いわね。いいわ。北郷に関しては後回しにしましょう。・・・それで、貴女が趙雲?」

 

「はっ!」

 

「見事な活躍だったようね。それに中々の美しさ。どう?このまま私の下に留まるつもりは無い?実力に見合った地位は与えるつもりだけど」

 

「ふむ・・・少し時間をいただけませぬか?一刀殿にも相談したいので」

 

「一刀?」

 

「北郷一刀です」

 

「ああ、北郷の名前なのね。いいわ、ゆっくり考えなさい」

 

「お言葉に甘えさせていただきます」

 

そう言って、趙雲は曹操に一礼するとその場を立ち去った・・・・・・

 

 

 

 

 

趙雲はその足で、一刀が治療を行っている天幕へとやってきた。

 

「失礼する」

 

「ん?趙雲か。お帰り」

 

「ただいま戻りました。治療はまだ終わりませぬか?」

 

「ああ、この軍の大将が呼んでるんだったな」

 

「北郷殿。もう残っているのは比較的軽傷のものばかりですから後は我々と衛生兵に任せて・・・・・」

 

軍医がそう提案するも、一刀は首を横に振る。

 

「軽傷だとか関係ない。ここは俺たちの戦場だ。戦いが終わっていないのに逃亡できるわけないだろう?」

 

「頑固ですな・・・なら、私も手伝いましょう。一刀殿と旅をしている間に多少の看護のやり方は学びましたからな」

 

「お前も戦場帰りで疲れているだろう」

 

「そういう一刀殿こそ疲れているのでは?」

 

そんな趙雲の言葉に、衛生兵の一人が肩を竦めながら答えた。

 

「そうでしょうな。他の軍医の方は交代で休憩を挟んでいるのですが、北郷殿は休み無しで働いておりますから」

 

「何と・・・」

 

「ああ。心配せずとも治療に支障はきたしてない」

 

「そうではなく・・・」

 

「口より先に手を動かせ」

 

「は、はぁ・・・」

 

何か言いたげな趙雲だったが、とりあえず治療の手伝いをすることにしたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

結局、一段落ついた時には深夜になっていた。

 

「一応行ってみるか。寝てたら日が昇ってから改めて行けばいいんだからな」

 

趙雲を連れて曹操の下へ歩みを進める一刀。

 

流石に疲労が溜まっているようで、時折ため息を漏らしている。

 

「一刀殿」

 

「ん?」

 

「実は、曹操殿にこのまま正式に配下にならないかと言われましてな」

 

「そうか・・・で?どうするつもりだ?」

 

「正直決めかねています」

 

「ふうん。まあ、悩むだけ悩めばいいんじゃないか?すぐに答えを出さなくてもいいんだろ?」

 

「ええ」

 

「じゃ、頑張って考えな」

 

「・・・そうですな」

 

そうこう言っている間に、曹操のいる天幕が見えてきた。

 

「では一刀殿。私はここで」

 

「ああ」

 

一刀に背を向ける趙雲。

 

「・・・一刀殿」

 

「ん?」

 

「貴方は、私が戦場で戦果を上げた所で喜びはしないのでしょう?」

 

「ああ」

 

当然の即答だった。

 

「うん・・・やはりそうでしょうな」

 

自嘲気味に笑ってその場を去ろうとする趙雲。

 

そんな背中に一刀は声をかけた。

 

「だがな」

 

「?」

 

「お前が無事に帰ってきてくれたことは喜んでるよ」

 

「・・・・・・」

 

「当然だろ?」

 

「・・・ええ。それではまた」

 

「おう」

 

 

 

趙雲はゆっくりとその場を立ち去った。

 

 

 

 

ほんの少し、柔らかい笑みを浮かべて・・・・・・

 

 

 

 

天幕までやってきた一刀は、とりあえず見張りの兵士に曹操へ取り次いでもらうことにした。

 

「曹操様。北郷と名乗るものが来ておりますが」

 

「少し待たせておきなさい」

 

・・・数分後

 

「入りなさい」

 

許可をもらって天幕へ入る一刀。

 

そこには曹操と、一刀を睨む夏侯惇の姿があった。

 

「どうやら邪魔をしたようだな。日が昇ってから来ればよかったか?」

 

「別に構わないわ」

 

「そうか・・・それで、俺に何の用が?」

 

「話は簡単。私と共に来る気はない?」

 

「・・・何故?」

 

「腕のいい医師がいると、何かと便利だからよ」

 

「なるほど。単純明快だ」

 

「華琳様。私は反対です」

 

「どうして?」

 

「もしも華琳様がご病気になったとしたら、こいつが診る事になるのでしょう?」

 

「そう言う事になるわね」

 

「肌を見せたりもするのでしょう?」

 

「・・・そうね」

 

「それが嫌なんです!どうせこの男、治療にかこつけて華琳様をいやらしい目で見たり、診察と偽りいやらしい手つきで華琳様のお体に触れたりするに決まって・・・」

 

「それは絶対無いから安心しろ」

 

きっぱりと言い切る一刀。

 

「何故そんな事が言える?」

 

「医者が異性を見るたびそんな色事考えてて仕事になるわけないだろう」

 

「しかし、華琳様のような美しい方なら・・・」

 

「美しかろうが醜かろうが関係ない」

 

「うぐ・・・」

 

またもやきっぱりと言い放つ一刀に言葉を詰まらせる夏侯惇。

 

「まあ医者なら当然ね。この子の言う事は気にしなくてもいいわ。答えを聞かせてもらえる?」

 

「・・・考えさせてくれ」

 

即答を避け、一刀は天幕を後にする。

 

「春蘭。私が病気になったとして、治せる腕のいい医者が来てもそれが男だったら追い返すの?」

 

「それは・・・・・・」

 

「私だけじゃないわ。私達の大切な人間がいつ病に倒れるかもしれない。そんな時でも貴女はこだわるの?」

 

「・・・も、申し訳ありませんでした。考えが足りませんでした・・・」

 

「分かればいいのよ」

 

 

 

夏侯惇を諭す曹操。

 

 

 

 

そんな曹操の頭の中に荀彧の姿が浮かんだ。

 

 

 

 

「あの子にも言っておいた方がよさそうね・・・・・・」

 

 

 

 

 

「さて、どうしたものか・・・・・・」

 

外で一人ごちる一刀。

 

そんな一刀の目に留まったものがあった。

 

「そろそろ休むとしようか」

 

「せやな。目がしぱしぱするわ」

 

「沙和ももう眠いの~~」

 

風変わりな三人の少女。

 

そのうちの一人、李典に一刀は声をかけた。

 

「そこの大槍をもっている君」

 

「ウチか?」

 

「その槍。もしかして回転するのか?」

 

「せやで」

 

実際にキュイーーン!と回してみせる。

 

「いったい何処でそんな物を手に入れたんだ?」

 

「いや・・・ウチの自作やけど・・・・・・」

 

「自作!?」

 

身を乗り出し、李典の真近に顔を近づける一刀。

 

「ちょ、近い近い!」

 

「おっと、すまん。柄にも無く興奮してしまった」

 

「何やのもう・・・・・・」

 

「というか、お兄さんは誰なの?」

 

「ああ、申し遅れたな。俺は北郷一刀。医者だ」

 

「お医者様ですか・・・私は楽進と申します」

 

「于禁なの」

 

「李典や」

 

「さて、自己紹介が済んだ所で・・・李典だったな」

 

「ん?」

 

「その槍の他にも作っている物があるのか?」

 

「あるで?」

 

「実に興味深い。良ければ話を聞かせてもらえないか?」

 

「ホンマか!ええで!いくらでも語ったるわ!」

 

「ありがたい」

 

「ほなとりあえず、ウチらの天幕に・・・ええか?」

 

「あ、ああ・・・沙和はいいか?」

 

「う~ん・・・悪い人じゃなさそうだし・・・」

 

 

 

「決まりやな!」

 

 

 

「楽しみだ」

 

 

 

一刀と李典はすぐに意気投合した。

 

李典の発明品のどれにも興味深そうに耳を傾ける一刀。

 

「真桜。私達はもう寝るぞ」

 

「おやすみなの」

 

「おやすみ」

 

それだけ言うと、すぐに李典は一刀との話に戻った。

 

そして・・・・・・

 

「真桜。少し相談したい事があるんだ」

 

短時間で真名を預けるまで親しくなった二人だった。

 

「何や?」

 

「ちょっと待っててくれ」

 

そう言うと一刀は一度天幕を出て、紙と筆を持って戻ってきた。

 

「・・・こういう物は、作れると思うか?」

 

そして一刀が描き出した物を見て、真桜は目の色を変えた。

 

「こ、こんな物思いつくやなんて・・・あんたいったい・・・」

 

「どうだ。出来そうか?」

 

「もっと詳しく仕組みとか分からん事にはなんとも・・・ただ、この辺りの物なら何とか・・・・・・」

 

「挑戦してみてくれないか?真桜に出来なかったら、おそらく他の誰にも出来ない。お前だけが頼りなんだ」

 

真桜の両肩を力強く掴み、熱い視線で見つめる一刀。

 

「え、ええと・・・」

 

顔を赤らめて視線を逸らす真桜。

 

「・・・ああ、すまん」

 

パッと手を離す一刀。

 

「では改めて・・・やってくれるか?これらがあれば大勢の人間を助ける事が出来るんだ」

 

「ん・・・せやけど予算が・・・」

 

「俺が何とかする!任せてくれ!」

 

「・・・・・・分かった。やってみるわ」

 

「ありがとう!」

 

ガシッと真桜の手を両手で握り締める一刀。

 

「ま、参ったな~~。まだ出来ると決まったわけやないんやで?」

 

照れくさそうな真桜。

 

医療の未来を担うゴールデンコンビの誕生であった。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

「凪ちゃん。真桜ちゃんに春が来たの・・・」

 

「う~ん、ちょっと違うような・・・・・・」

 

天幕の隅で興奮気味の于禁と、良く分からないと言った感じの楽進だったとさ・・・・・・

 

 

 

 

結局一刀は、曹操の下で医師として働く事となった

 

 

 

それが影響したのか、趙雲も同じように曹操の配下となる

 

 

 

 

これから一刀がどのような道を歩むことになるのか?

 

 

 

 

それは誰にも分からなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

どうも、アキナスです。

 

あちこち放浪していた一刀君でしたが、どうやら華琳の所に落ち着くようですね。

 

そして真桜がどうやらメインの一角に食い込んでくるようです。

 

どうなるんでしょうね?本当。

 

では次回・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 


 
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