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十六話 仲間
一刀たちは長旅の末、ようやく洛陽に到着した。月たちに再会できて早速国政の見直しを始める事にした。
とは言うものの、ほとんど詠が一人で大体の事をやってしまっていた。悪徳文官たちの解雇や、能力のある者の採用、城の修理や、法律の再制定、税金の見直し、警邏隊の育成、等々。
一刀たちが戻ってくるのに約一ヶ月かかったが、すでに詠は一ヶ月の間に一刀が行っていた国政の骨組みを完成させていた。恐るべき詠である。
「あんたが来る前に大体の事をやっておいたから、あとは任せるわ。僕たちは一度帰郷してこっちに持ってくる物とか向こうでいろいろ準備してくるから。」
入れ替わりのように月たちは一度自分たちの領土へと戻ろうとした。そんな月たちを一刀たちは見送っていた。
「じゃあな、あとの事はやっておくから。」
「ええ、僕たちも一カ月くらいで戻ってこられると思うから。………気を付けなさいよ。悪政を行っていた文官たちはみんな免職にして、警備隊の育成も順調だけど、やっぱり民たちの士気はかなり低いわ。……何か問題を起こさなきゃいいけど……。」
詠は懸念を示した。詠たちが行った政策によって間違いなく良い方向に行っているはずだ。だが、今までが今までだったためにそう簡単に民たちの信頼は取り戻せない。
「大丈夫だよ。なんとかするから。」
一刀は自分を心配してくれる詠に礼を言った。詠は相変わらずぶっきらぼうに答えたが。
「じゃあ、行ってまいります。ご主人様。」
「ああ、気を付けてな。」
「はい。」
そう言って月たちは自分たちの領土へと戻って行った。
「さてと、神楽に会いに行くか。」
一刀は神楽に会いに玉座の間へと向かった。彼女にも帰ってきたことを報告しなければならない。だが神楽は玉座にはいなかった。
「どこに行ったんだろう?」
一刀は近くにいた文官に聞いてみた。すると神楽はここ一ヶ月ほど部屋から一歩も出ず、ずっと引きこもっているらしい。何でも国政の見直しに忙しいとか。
文官たちは素晴らしい帝だと褒め与えながら帰って行った。
「一体何やっているんだ?あいつ。」
一刀は依然連れてこられた彼女の私室へと足を運んだ。彼女の部屋の前まで来た。だが何か威圧感のような、違和感のようなものが扉越しに感じた。
「な、なんだ、この感じ!?一体、あいつは部屋で何をしているんだ!?」
一刀はおそるおそる扉をノックした。
「劉協様、俺です。一刀です。居たら返事をしてもらえますか?」
一刀は劉協に真名を許されていたがどこに誰の耳があるか分かったものじゃないから彼女と二人っきりと確信した時に真名で呼ぶことにしている。
返事が返ってこない。一刀はもう一回ノックをしてみた。だがなにも返ってこなかった。一刀は留守かと思ったのだが何かがいる気配を感じ取り、扉に耳を当てて中の様子を探ることにした。
「……う………う~ん……」
何かうめき声のようなものが聞こえてきた。これはただ事では無いと思い一人は扉を思いっきり開けた。
「神楽!?」
一刀が許可もないまま扉を開けたらその部屋は混沌と化していた。
「………何?これ?」
その部屋はとてもカビ臭く、ジメジメしていて、まるで何日も掃除していないみたいだった。そんな中、神楽は床に倒れ込んでいた。
一刀はすぐさま駆け寄った。
「神楽!神楽しっかりしろ!いったい何があったんだ!?」
一刀は神楽を抱き上げ、揺さぶった。神楽は唸り声をあげていた。どうやら意識はあるみたいだ。
「か……一刀…か……?」
「ああ、そうだよ!いったい何があったんだ!?」
「……う……くう……!」
神楽はかなり衰弱していた。もしかしたら何者かに襲われたのかもしれない。だが、部屋を見る限り襲われた形跡はない。とその時、
ググ~~!!!!
部屋に響き渡る腹の虫が聞こえてきた。決して一刀のものでは無い。ならば残っているのは……
「……………神楽?」
「……………言うな……。」
神楽は顔を真っ赤にしながら空腹を訴えていた。一刀はいったい何なのか理解できず、ただただ呆けていた。だが神楽の腹の虫はおさまらず、その音でようやく我に帰った。
「………とりあえず………何か作ってきてやるよ。」
「…………すまぬ……。」
そうして、一刀は厨房へと足を運んだ。
(え~と……料理人たちは……よし!居ないな。)
一刀は料理人たちがいないことを確認すると早速調理に取りかろうとした。本当は料理人たちに頼みたかったのだが、飯時でもないのに料理を作れなんておかしいと怪しまれる可能性があったからだ。
「え~と……ご飯はある………うわ~ロクなもんがないな。本当にここは宮殿か?……おっ!卵と鶏肉を発見!他にも探せば結構あるな。………よし、これだけあれば!」
一刀は決して料理のうまい方では無いが、一般的なものなら簡単に作れるのだ。
「…………よし!かんせ~い!一刀特製、半熟玉子の親子どんぶり!」
一刀は周りに誰もいないのに、出来上がった親子丼を誇らしげに天に掲げていた。早速、劉協の部屋へと引き返した。
部屋に戻った一刀は驚愕した。まだニ十分そこらしか経っていなかったのに神楽はすでにムンクの叫びのようにやつれていた。神楽はピクリとも動かない。
「神楽!おい、しっかりしろ!死ぬんじゃない!」
神楽は口をパクパクして死にかけの魚のように虚ろだった。一刀は作ってきた親子丼を神楽に渡した。
「ほら!お前のために作ってきてやったんだ。これを食べてしっかりしろ!」
神楽は親子丼を目の前にし、鼻をひくつかせ、思いっきりかぶり付いた。丼ぶりを掻き込む神楽は相当腹を空かせていたのだろう。
「うまい!こんなうまいものは余は初めてだ!」
一刀は自分が作ったものを旨そうに食べてくれる事に少しだけ感動していた。何となく料理人の気持ちが分かるような気がする。
「で、何があったんだ?」
親子丼を幸せそうに食べている神楽に対し、いきなり核心を聞いてきた。
「モグモグ………ゴックン!ああ、その事なのだが………モグモグ……」
「………ごめん。先に食べていいよ。あとで聞くから。」
口に物を含みながら喋る劉協様。本当にこの人帝なのか?あの時はものすごくカリスマあふれた素晴らしい君主だったというのに…………でも、結構可愛いかも………
ようやく食べ終わった神楽。その顔は満足そのものだ。
一刀は、劉協に熱いお茶を差し出した。
「ズズ~!………実に美味であった。そなたは料理まで作れるとはな!あれは何という料理なのだ?」
「あれは親子丼と言って、俺の世界では結構ありきたりな料理だよ。」
「何と!天界の料理であったのか。それならばあの美味さも納得がいく。」
実に満足そうな顔で納得する神楽。親子丼とはお金のない貧乏大学生の強い味方である事を黙っていよう。
「で、いったい何があったのか、そろそろ説明してよ。一体どうしたんだ?ムンクになるまで腹を空かせてたし、部屋はこんなにも臭いし。………言っちゃ悪いが……お前もかなり臭うぞ。」
神楽の体からは、何とも言えない汗臭さというか、カビ臭さというか何とも混沌とした臭気を放っていた。
「むんく?なんだ、それは?」
「う~ん………俺もよく分んない。ただ自然と出てきた。」
「ふむ……おそらく天の国の何かであろうな。……おっと、お主の質問に答えておらなんだな。」
神楽は教えてくれた。一刀たちが建業に戻って行った時、国政は月たちに任せて、自分は帝としての仕事をこなそうとしたらしい。だが、帝の仕事がどのようなものなのか、まだ理解できなかった神楽は何人かの文官に自分の父が普段していた事を聞いたそうな。
聞いた時の神楽は非常に落胆したらしい。何でも帝というのは、酒宴を開いたり、歌をうたったり、豪華な食事を食べたり、女を囲ったりと前帝の父親はやっていたらしい。そして、それこそが帝の仕事だとその文官は言ったそうな。
神楽は怒りを通り越して呆れたそうな。余談だがその文官たちは、詠に『無能』の烙印を押され、首にされたらしい。
神楽は、月に聞いたそうな。帝とは一体何をするべきなのかと。
「そ、そうですね。よく分かりませんが、やはり民たちの模範であるべきなのではないかと。」
実に月らしい回答であった。神楽はさっそく皆の模範となるべく行動したのであった。
まず神楽は、食事面を考える事にした。いつも料理人たちは食べるのは自分一人だというのに大食卓のテーブルでそれはもう贅をつくした絶品を並べられたそうな。実際、食べるのはその内の少しだというのに。何でも見た目が大切だ何だと、要は見栄のため食べられない量を並べているのだ。
民たちは今も飢えに飢え、自分だけがこんな贅沢をする訳にはいかないと、宮殿のみんなに質素倹約の命令を出したそうな。みんなを諌めるため、自分がまず行動を示したそうな。いつか必ず、皆が付いて来てくれるのを信じて。
そして神楽はこの一ヶ月、ロクな物を口にしていないそうな。
話を大体聞き終わった一刀は、呆気に取られていた。
(………だから保管庫にロクな食料がなかったのか……)
「…………極端すぎだろ。」
一刀は呆れてそれしか言えなかった。
「何を言うか!余の質素倹約の心根を愚弄する気か?」
「……いやさ、質素倹約は立派だと思うけど、お前はもう少しで餓死するところだったんだぞ。」
神楽は口ごもってしまった。その通りだ。一刀が現れなければ神楽は本当に危ない状況だった。
「自分の言った質素倹約のために餓死したなんて、後の世にある意味伝説として語り継がれるぞ。」
「だが……」
「それに帝は健康を維持するのも立派な仕事なんだから、ちゃんと食べて体を丈夫にしなくちゃ。」
一刀は思った。神楽はとても真面目な子だ。だがいかんせん真面目過ぎる。その真面目な思考が暴走して、本末転倒な事態を巻き起こすのかもしれない。
(もしかして神楽って………ドジッ娘の属性を持っているのか?)
神楽は俯いたまま何も言わなくなった。おそらく、自分のやってきた事が一刀に否定され、悲しくなったからだろう。
「でもさ、自分がみんなの模範になろうなんてとても立派だと思うぜ。」
一刀は、神楽の頭をなでまくった。ところどころノミが跳ねていたがそんな事は気にしていなかった。神楽も一刀に立派と言われ、とても喜んだ。
「………で?今のお前のその体は一体何なんだ?」
ものすごい臭いを立ち込めていた神楽。
「ああ、実はだな………湯に浸かる事が出来ないんだ。」
…………は?
「どうして?風呂だったら普通にはいる事が出来ると思うけど……」
一刀は疑問に思った。神楽の体臭は間違いなく一日二日、風呂に入っていない者の匂いでは無かった。
「余だって、湯に浸かりたいのだ!だが……」
神楽の話ではこうだった。神楽が湯につかろうとすると決まって数人の侍女たちも一緒に入ってくるのだ。何でも皇族は一人で入らないらしい。そして、侍女たちに体を洗ってもらったり、マッサージをしてもらったりとするのだ。
(ああ~……よくマンガであったな、そんな光景が。本当に皇族って一人で入らないんだな。)
「なるほど、理解できた。」
神楽の正体は美少年では無く美少女なのだ。そしてその秘密を知っているのは一刀一人のみ。もしこの事がばれてしまったら、いろいろと面倒臭い事になる。
「ちなみにお前、いつから入っていないんだ?」
「………そなたが帰郷して以来だ。」
「………え?
「だから、そなたが帰った時から、余は風呂に入っておらぬのだ!」
「…………」
神楽は顔をはずかしめながら大声で言った。
(汚ね~!!つまり一ヶ月も風呂に入っていないのか。)
一刀は危うく口にする所であったが、さすがにまずかったので自重した。
「何か、良い方法はないのか?」
「方法って言っても………さすがに帝を無防備になる風呂に一人で入れさせるのは……」
一刀と神楽は悩んだ。悩みに悩んだ。
「だが、余は限界だ!とにかく体を洗いたくて洗いたくてたまらんのだ!」
さすがの真面目な神楽もこればかしは、我慢の限界だったのだろう。体中にノミを飼っている状態なのだから。そんな神楽だったから、頭がどうにかなっていたのだろう。突然、とんでもない事を言ってきた。
「そうだ!要は、誰かと一緒に入れば問題がないのだろう!?」
「………え?神楽。何を言っているんだ?それが出来ないから………」
神楽は一刀の反論を許さず、言葉を結んだ。
「そなたと一緒に入ればよいのだ!」
………………………………
突然、時が止まったかのようだった。一刀は神楽の言っている事が理解できなかった。
「………………は?」
神楽は顔を赤くしながら付け足した。
「か、勘違いするでないぞ!これでも余も女子だ。だから、言っている意味を理解しているつもりだ!………だ、だが、もう限界なのだ!」
どうやら神楽は崖っぷちの心境だったらしい。一刀は呆けたまま神楽に手を引っ張られて浴場へと向かった。
(………どうして、こんな事になったんだろう。)
一刀は湯に浸かりながら耽っていた。
(………これはあんたらの仕事だろ。何で俺に渡すんだよ。)
一刀は、昔の洗面用具を侍女たちに渡されていた。なぜか侍女たちの顔は真っ赤に染め上がっていたが。なぜなんだろう?
洗面用具と言っても今のシャンプーやボディーソープなんて便利な物は存在するはずがない。シャンプーの代わりに小麦粉を水に溶かし、柑橘系の果汁を入れた簡易シャンプー。そしてボディーソープの代わりは香油だ。
これで汚れが取れるなんて、さすがは中国四千年だと一刀は思った。(まだ四千年もたっていないけど……)
とにかく、神楽が風呂の用意をしろと命令を出し、それと同時に侍女たちも動き出した。神楽は要らないと言ったのだが、それで分かりましたとはいかない。神楽もそれを理解していた。そして神楽は一刀と一緒に入るから問題ないと言ったのだ。
文官たちは黄巾党を収めた英雄が一緒なら問題ないだろうと考え、神楽の要望に応えたのだ。だが、侍女たちは顔を赤く染め、こちらを変な眼で見てくる。だから、何で?
そんなこんなで、一刀と神楽は脱衣所に来たわけだが、一刀を先に入らせ、自分は後から入ると言ってきた。一刀が脱衣している最中、目を両手で覆っていたが指の隙間から見ていた事は一刀は知らない。そして今にいたっているというわけだ。
戸が開く音がする。どうやら神楽も入ってきたようだ。
「よ、よいか!絶対にこちらを見てはならぬぞ!もし振り返ってでもしたら………その時は打ち首だからな!」
「わ、分かったよ!」
そう言いながら神楽は、体を流し湯で汚れを落としてから湯につかった。ポジション的に一刀と背中合わせで入っている状況だ。
「う~ん!いい気持だ。こんなに気持ち良いのは久しく思うぞ!」
神楽はとても幸せそうな声で言う。無理もないだろう。風呂に入ろうとすれば神楽が女である事がばれてしまう可能性が高くなってしまう。
「なあ神楽。」
「ん?なんだ?」
一刀たちは背中越しに話をしていた。
「これ以上は無理なんじゃないかな?おまえが女の子だって秘密にしておくの。」
一刀は思ったことを口にした。だが実際にその通りだ。帝になれば人とあまり会わなくて済むというのは神楽たちの妄想にすぎなかった。実際のところ、謁見者たちと毎日顔を合わせる必要があるし、酒宴の席にも参列する必要がある。他にも新しい政策を行う際には必ず帝に許可をもらう必要がある。
「確かにそうだが………」
神楽も口を濁していた。実際のところその通りなのだから。自分の秘密を隠しておくことには限界があった。何かいい方法がないものか、と神楽は思慮していたのだ。
神楽side
神楽はとても緊張していた。風呂に入りたいあまり一刀と一緒に入る事になった。そこまではいい。だが、落ち着きを取り戻すと、何をしているのかという事に気づいた。一刀は男で自分は女である。裸同士で一緒に湯に浸かるという行為はどうだろう。かなり問題があるのではないだろうか?
「どうしよっか?…………神楽?」
神楽は一刀の声に我を戻した。
「あ、ああ!そ、それは後で考えるとしよう。」
何の話をしていたのか忘れてしまっていた。それほどまでに緊張しているのだ。
神楽は一刀の方へ視線を移した。一刀はこちらに背を向けていた。自分が決して振り向くなと言った言葉をちゃんと守っていたようだ。
(………宦官のジジイ共や文官の肥え太った体と違ってとても綺麗な体をしているな。)
神楽は一刀の体をマジマジと見ていた。なんだかんだ言って、神楽もいい年頃の女の子だ。異性の体に興味を覚えるのは当然というものであっただろう。
(なぜだろう?一刀の体を見ていると、心臓の鼓動が速くなる。)
神楽はドキドキしていた。そして一刀に気付かれないようにゆっくりと近づいて行った。近くで見た一刀の体は予想以上に美しかったらしい。神楽の鼓動は速くなるばかりだった。
(……くっ!………なんだ!?一刀を見ていると頭がボ~としてくる。)
神楽は一刀の体に触れてみたくなってしまい思わず触れようとした。もうばれるという問題ははどうでもよくなってしまったらしい。
一刀side
(う~ん………何かいい方法はないだろうか?)
一刀は湯につかりながら考えていた。神楽の正体を守りつつ、仕事に何の影響も出さない方法を。
と、その時、後ろから誰かに抱きつかれた。
「な、何だ!?」
この風呂場には一刀と神楽の二人しかいない。一刀は振り向くと神楽が抱きついてきているではないか。
「か、神楽!?」
もちろん二人は真っ裸である。神楽は色っぽい艶のある眼で一刀を見つめていた。
「か、かかか神楽!い、いったい何をしているんだ!?」
突然の出来事に一刀は混乱していた。お湯に浸かっていた神楽は顔を赤く染め、目は虚ろになっており、とても色っぽかった。神楽は一刀の顔に自分の顔を近づけていった。あまりの色気に、一刀は何もできなかった。魅入ってしまったからだ。
「…………か、一刀……………」
もうすぐ、唇と唇が重なり合う。神楽はとても色気のある声で一刀の名を呼んだ。こうなったら一刀の方も我慢できるはずがない。一刀の理性は飛んでしまおうとしていた。だが、
「……………きゅ~……」
力の抜けたように一刀に倒れ込んだ。一刀は突然の事に理性を取り戻す事が出来た。
「お、おい。神楽、神楽!」
呼んでも神楽は起きなかった。一刀の声は聞こえたようだったが彼女の意識は遠くへ飛んでいってしまった。
一刀は急いで神楽を湯から出し、脱衣所へと運んだ。
「こ、これは緊急事態だからしょうがないよな………えい!」
一刀は、目をつむりながら神楽の体を拭きだした。何か柔らかいものに触れているような気がしたが、今の一刀はそんな事全く気にしていなかった。体が拭き終わったのを感じ、急いで服を着替えて神楽を布に包んで見えないようにして彼女の部屋へと直行した。
運よく誰にも見つからずに神楽の部屋に行くことが出来た。一刀は神楽をベットに乗せ、うちわで彼女を扇いでいた。
(湯あたりするくらい湯に浸かるなんて………やっぱりドジッ娘かも。)
神楽side
何だか風がとっても気持ちがいい。だが、何で風が吹いているんだろう?
…………………ま、いっか。
「よくな~い!!」
神楽は元気いっぱいに起きだした。
「おっ、起きたのか。」
一刀は神楽の事を扇子で扇いでいた。それはいい。だが、神楽は今までの事を思い出していた。
(え~と………確か、一刀を見ていたらだんだん頭がボ~としてきて、一刀に近づいて、そのまま………)
どうやら神楽はすべて思いだしたようだ。途端に顔を赤くして一刀に枕やら書物やら手にろ届く物を投げ飛ばした。
「お、おい!何すんだよ!」
「うるさい!うるさい!うるさ~い!」
神楽は恥ずかしさの余り、何かに当たらなくては気が済まなかった。だから近くにいた一刀に当たったのだ。
「そ、そなたはみ、みみ見たのだろ!?よ、余のは、裸を!?」
恥ずかしかった。湯あたりした事などでは無く、一刀に裸体を見られてしまったことが。
「見てないって!目を閉じながら体をふいたし!」
「嘘をつくでない!」
「本当だって!信じてよ!」
一刀は必死に弁解した。あまりにも必死だったので神楽も徐々に怒りを納めて行った。
「ほ、本当なのだな?」
「本当だって!」
嘘を言っているようには見えなかった。ようやく神楽は落ち着きを取り戻し。冷静になっていた。
「………すまぬ。」
「いいって……それにしても湯あたりするくらい湯に浸かっていたなんて……」
「そ、それは違うぞ!余は湯あたりでは無く、そなたのせいで……」
「え、何で俺のせいなの?」
「そ、それは………」
顔を赤くしながら口を閉じてしまった神楽。一刀はまだ湯の熱が冷めきっていないのだろうと思っていた。
それから数日が経った。一刀は政務を行いながら神楽の世話を焼いていた。
一刀は理解したのだ。神楽は真面目だ。だがあまりにも真面目すぎていつも空回りしてしまっている。オマケにドジッ娘だ。神楽には歯止めになるような存在が必要だった。だから、神楽の正体を知っており、尚勝信頼のできる一刀が世話をすることになったのだ。
今、一刀は美羽の部下であると同時に神楽の付き人になっていた。最初、美羽は反対したのだが相手が帝なら反対など出来るはずがなかった。悔しかったが、周りの人間たちに『良い部下をお持ちだ』などと褒められたために調子に乗ってしまった。美羽は上機嫌になりながら、一刀に神楽の付き人を命じたのだ。
それと同時に、付き人になれば神楽の秘密をある程度守りやすくなる。そういう意味でもよいと考え、一刀はこの命令を受けたのだ。
美羽side
「最近、一刀は忙しそうじゃの?」
「そうですね。お嬢さまのお守りに加え、劉協様の付き人までやっているんですから。政務だってあまりサボっていないみたいですし………お体を壊さなければいいのですが……。」
美羽は不機嫌という訳では無かった。一刀は時間が空いたらちゃんと会いに来てくれるし、遊び相手にもなってくれている。仕事の合間を縫って時間を作るなんてとてもうれしいことだった。
「ところで、七乃?なんだか最近、宮殿の様子がおかしいのじゃ。」
美羽は思った。一刀が帝の付き人になって以来、宮殿の様子というかなんというか…………とにかく違和感を感じていた。
「そうですね。それは私も思っていました。」
どうやら七乃さんも宮殿内の異変に気付いていたようだ。
そこに、一刀がやってきた。お茶をしている二人に近づいて行った
「よっ!二人で何の話をしているんだ?」
一刀は途中までの話を聞いていたみたいだ。
「あっ、一刀さん。実は最近、宮殿内の様子が変だとお嬢さまとお話していたのです。
「様子が変?」
「はい、時期的に一刀さんが劉協様の付き人になった時からなのですが………」
一刀は少し身に覚えがあった。何せ自分は部外者でありながら今では帝の付き人だ。もしかしたら、何かしらの因縁とかつけられるているのかも、と一刀は思った。人の嫉妬というのは馬鹿に出来ないものと知っていたからだ。
「どんなふうに変だった?」
一刀は神妙になって七乃さんに聞いた。下手をしたら自分だけでは無く、美羽たちにも危害が及ぶと懸念したからだ。
「そうですね~………何と言うか………周りの感じが桃色というか……百合色というか……」
七乃さんも確信がないように言う。
「も。桃色?」
「はい。最近、宮殿内の様子がそんな感じなんです。大雑把な言い方ですけど……それしか言えません。」
「美羽もか?」
「う~む……確かにそんな感じじゃ。なぜかは分からんがな。」
どうやら悪意ある様子では無いようだ。一刀はホッと胸を下ろした。
「そんな感じなら大丈夫だな………そろそろ仕事に戻るよ。」
「はい。がんばってくださいね。」
一刀はこの時、美羽や七乃さんが感じた違和感をもっと考えておくべきだったと後悔することになる。
それからまた数日が経った。
美羽は少し退屈だった。最近、一刀が忙しく、ロクに遊んでいないからだ。一刀が政務で忙しいのは知っているが、いつも帝と一体何をしているのか気になっていた。
「これ、七乃や。一刀と劉協の奴は一体、何をしているのかの~?」
「そうですね~………きっと天の話をしたり、これからの事を考えたりしているんですよ。」
「む~………それなら良いのじゃが………」
「どうかしたのですか?お嬢様。」
「うむ、何か嫌な予感がするのじゃ。」
「嫌な予感………ですか?」
「うむ………そうじゃ!七乃や、ちょっと一刀たちの様子を探って参れ!」
「え~!!嫌ですよ。もし見つかったら私、打ち首になっちゃいます。」
当然だ。理由もなく帝を探るなんていきなり斬りつけられてもおかしくない。
「大丈夫じゃよ。一刀もおるし。それに七乃は軍で一番偉いのじゃろ?」
そう言えばそうだった。七乃さんは美羽が相国になると同時に大将軍の位をもらっていたのだから。それに一刀もいるのだから大事にはならないだろうと思っていた。
「う~ん………分かりました。じゃあ、ちょっと様子を見てきますね。」
「うむ♪頼んじゃぞ!」
そう言って、七乃さんは自分の部屋に戻りいろんな準備をした。間諜が好んで使うとされる盗聴器のような物を持ち他にもいろいろと準備している。
七乃さんは準備を整え、さっそく行動に移る事にした。
七乃さんは帝の私室の前まで来た。するとそこには数人の侍女たちが扉の前で聞き耳を立てているではないか。よく見たら、恋とねねも侍女たちに混ざって壁に耳を当てていた。
「何をやっているのですか?呂布さんに陳宮さん。」
声をかけられ二人はビクっと体を強張らせた。
「お、驚かすでないです!」
「………………驚いた。」
二人の顔はとても赤くなっていた。よく見ると二人だけでは無く、周りにいる侍女たちも顔を赤く染めていた。
「一体何をしているんですか?みんして。」
「…………………中、何か変。」
「変…………ですか?」
「静かにするです!よく聞こえないです!」
ねねはかなり興奮していた。主従の関係にある呂布に静かにしろと言ったのだ。これには七乃も驚いた。
「…………………ごめん。」
恋も謝った。七乃さんも壁に耳を当てることにした。すると、中から一刀と神楽の声が聞こえてきた。
…………………………………
……………………
……………
「か、神楽………………い、入れるぞ。」
「う、うむ。………出来れば………優しくしてくれ。」
「出来るだけ優しくするさ。でも痛かったら、痛いって言えよ。」
「う、うむ。」
「……うう……………痛!」
「大丈夫か!?神楽!」
「よ、余は平気だ。……………続けてくれ……」
「あ、ああ。じゃあ、続けるぞ………」
「…………はあ、はあ、…………あうっ!………」
「お、奥まで入ったぞ。……………大丈夫か?神楽。」
「……………う、うむ。…………余は大丈夫だ。」
「…………じゃあ、動かすからな。」
「う、うむ………………ああ!…………うあ!……」
「気持ちいいのか?神楽。」
「ち、ちが……………あう!………」
「素直に気持ちいいって言えよ。」
「うう………そ、そんな所を………こ、擦られたら……余は……はあ!……」
「ここがいいのか?」
「……ああ!…………うぐ!………い、痛!………ああ!!」
「そろそろ抜くぞ。」
「あう!……はあ……はあ………お、大きいな………こんなものが余の体の中に入っておったのか。」
「気持ち良かったか?」
「………うるさい。この無礼者。」
「ははは♪」
………………………………
…………………
………
何やら行為が終わったようだ。
皆は、顔を真っ赤にしながら呆けていた。中には鼻血を出す侍女の姿も。七乃さんも恋もねねも顔を真っ赤にしながら呆けていた。
途中、警備の者に見つかり、叱りを受けまいとみんな一目散に逃げて行った。七乃さんも恋もねねもつられて逃げ出していった。
一刀side
「ずいぶんと大きいのが取れたな。」
「う、うるさい!」
神楽は顔を赤くしていた。
「全く、耳掃除が一人で出来ないなんてな………ふふふ。」
「笑うでない!無礼者!」
「はいはい、ほら。もう片方の耳も貸して。」
「う、うむ。」
「何と!それは本当なのかや!?」
七乃さんは恋たちと共に美羽に報告をしていた。
「はい、この耳でしかと聞きました。」
「まちがいないのです!」
「…………………コク。」
みんなの報告に美羽は驚きを隠せなかったようだ。
「さすが一刀じゃな。それでこそ妾の部下じゃ!うはははははは!」
予想外の展開にみんな目を点にしていた。
「あ、あの………いいのですか?お嬢様。」
「うん?何がじゃ?」
「いやだって………一刀さんを寝取られちゃったんですよ。」
七乃さんは当り前の疑問を口にする。
「何を言っておるのじゃ?劉協は男じゃぞ。じゃから、大丈夫なのじゃ。」
どうやら相手が女でなければいいらしい。美羽らしいと言えば美羽らしいが。
七乃さんの疑問はすぐに無くなった。
「これで帝も妾の思うがままじゃ!うはははははは!」
どうやら、美羽は一刀を利用し、帝を操る算段をしているらしい。だが、美羽の言う事ももっともだ。『天の御遣いと肉体関係になる』というのは世間にばれたら帝の威信は丸つぶれだろう。これで弱みを握ったことになる。
「でも、どうやって帝を操るんですか?弱みを握ったとはいえ、知らぬ存ぜぬで返されたら逆に我らの首が飛びますぞ!」
ねねは疑問に思ったことを口にする。美羽は口を結んでしまったが、それは七乃さんが答えた。
「大丈夫です。それは私が何とかします。任せてください。陳宮さん、手伝ってください。」
七乃さんは自信満々に答えた。
「うむ、七乃にすべて任せるのじゃ!」
そんなこんなで美羽たちは行動を起こした。
「で、いったいどういう策なのですか?」
乗り気では無いが、ねねは七乃さんに聞いてきた。
「この策は『噂』を利用します。」
「『噂』…………なるほど、理解したです。張勲もなかなか悪どいですな。」
「いえいえ、それほどではありません。」
何とも怪しい二人だ。そんな二人を美羽と恋は応援していた。
「さてと。……では、さっそく行動を移しましょう。」
「はいです!」
「私が絵を描きますから陳宮さんは文章の方をお願いします。」
美羽と恋は二人が何をやっているのか理解できなかった。
七乃さんは二人に教えてあげた。この策の全貌を。
この策は人の噂を利用する。噂というのは止める事の出来ない怪物のようなものだ。だが、ただ口にするだけではただの物笑いの種だ。だから、本を書き、その内容を今回の事に似せて作るのだ。その本を見た人は、この人はもしかして……と思いこみ噂を流す。噂は一度流れれば止める事は出来なくなる。本が売れればお金も入るし、一石二鳥である。
七乃さんは以前、一刀に教えてもらった『マンガ』という書き方を参考にしていた。絵本とは違い、一文一文に挿絵が含まれている。確かにこれなら想像もしやすいし、文字の読めない人も何をしているのか分かるはずだ。
七乃さんは、一刀と劉協の淫らに交わっている絵を描き、ねねが文章を書き、美羽と恋は応援していた。何とも見事なチームプレイだ。
一刀side
「なあ、神楽。いい加減、お前の秘密を守るのは無理なんじゃないか?」
「そんな事は分かっておるが…………」
「確かに、信用のない人間に教えるのは危険だ。この秘密を脅しの道具にするかもしれない。」
「だったら!」
「でも、信用のおける仲間がいればこれってないほど強い味方になる。」
「い、居るのか?そんな人間が?」
「いるさ。少なくても美羽たちと月たちは信用できる。」
「あの者たちか…………確かに信用のできる者たちだとは思うが……少し、考えさせてくれ。」
「ああ。」
数日後
……チュン……チュンチュン!………
時はすでに太陽が昇ろうとしているところだ。美羽と恋はすでに眠っていたが、七乃さんとねねはずっと起きていた。
「で、出来たです!」
「は、はい。やりましたね、陳宮さん。」
「ねねの事は真名で呼んでくださって結構ですぞ。張勲どの。」
「なら私の事も七乃とお呼びください。ねねさん。」
「はいです!七乃殿!」
七乃さんとねねの前には一冊の本が置いてあった。ついに出来上がったのだ。二人の最高傑作であり、なおかつ歴史上ではじめての本。『マンガ』が!
「ん~………まだ起きておったのか?」
途中、美羽と恋が起きだした。
「あ、ちょうどいい時に起きてくれましたね。ようやく完成したんです。見てくださいませんか?」
七乃さんは起きたての美羽と恋に出来上がった本を渡して読ませた。
………………………
「こ、これは………凄すぎなのじゃ!七乃!凄いのじゃ!目を離す事が出来んぞい!////」
「………………コクコク!/////」
起きたばっかりで頭がまだ覚醒していないというのに、この本を見せたら二人はあっという間に覚醒した。そして、顔を赤くしながら本をマジマジとみている。こういう事に疎い二人がこれほどまでに見居られるほどのものなのだ!この本は!
七乃さんとねねは確かな手ごたえを感じ、お互いに熱い握手を交わしあった。
原本が出来ればもうこっちのものであった。あとは数に頼り、増刷していくだけであった。美羽たちはお互いの資産を潰し、この本の増刷を助長した。それにより、ものすごいスピードで大量生産していったのだ。
数日が経った。ついにこの本が出版されることになった。出版されるや否や、飛ぶ鳥を落とす勢いで本は売れまくった。七乃さんがある程度、情報操作していたらしい。『見目麗しの皇帝陛下と天の御使いの情事』という噂を。
評価はものすごい高評価であった。今までにない書き方と文字の読めないものも楽しめる挿絵つきの本と大絶賛だったのだ。そして、あっという間にどの店でも完売してしまったのだ。
噂は噂を呼び、更に量産するとこれまた完売。そして、本を欲しがるあまり暴動が起きてしまうこともあったそうな。これに対し、七乃さんたちは大陸中の書店に協力を要請した。大陸中の職人たちが書き、売って行った。その勢いはとどまる事を知らず、大陸中に広まっていったのだ。
建業では
「うっ!…………バタン!」
「しっかりして思春!ちゃんと見るのよ!」
「し、しかし、蓮華さま………これは………おぐう!」
「お姉ちゃん!次、私にも見せて!一刀そっくりなんでしょ!?」
「ああ、一刀!皇帝陛下様とあんなことやこんな事を………」
「何を見ているのですか?…………これは、一刀様!………はう~!!」
「どうしたんですか~、みんなして顔を真っ赤にして~…………むむむ!そ、それは今噂の『皇帝陛下と天の御使いの情事』ではないですか!ああ~ん!」
…………………
「雪蓮!これを見ろ!」
「うん?何、冥琳?………これは……一刀と劉協様!」
「おそらく間違いないだろう。書店に最後の一冊が置いてあってな。買ってきたのだ。」
「どうして、買ってきたの?」
「……………………」
某国では
「お~い、しゅうら~ん!もうすぐ、軍議だぞ~!いったい何をしているんだ。」
「あ、姉じゃ!………う、うむ!すぐに行こう。」
「ん?秋蘭、いったい何を隠したのだ?」
「な、何も隠してなどおらぬ!」
「え?だって今…………」
「隠してなどおらん!」
「うっ………す、すまない!秋蘭!」
某国では
「お姉さま!伯母さまが大量の血を!」
「なんだって!」
ドタドタ!
「お母様!………はっ!お母様!しっかりしてくれ!」
「うっ…………翠か…………?」
「そうだよ!こんなに血を吐いて…………ん?これは……鼻血?」
某国では
「やっと届いたよ。雛里ちゃん、一緒にみよう。」
「うん………こ、これは………しゅしゅしゅしゅ朱里ちゃん!こ、これは!」
「お、おおお落ち着つつついて!雛里ちゃん!ま、まだ最初の方だよ!」
「う、うん!」
「…………はわわ!御遣いさまはこんなにも優しく、皇帝を包み込んでくれている!」
「…………あわわ!皇帝は目に涙を浮かべながら御遣いさまのすべてを受け入れようとしているよ!」
「…………………はわわ!」
「…………………あわわ!」
某街でも
「…………………ぷーーーーーーーーー!!」
「おお!いつも以上に鼻血を出しましたね、稟ちゃん。はーい、トントンしましょうね。トントーン!」
と、こんな感じであった。
「おお、これで妾たちも大金持ちじゃ!うははははは!」
「はい!これで好きなだけハチミツが買えますね!お嬢様。」
「うむ、よくやったのじゃ!七乃。」
「恋殿~、これでお金の心配はなくなりましたぞ~!美味しいものをたくさん食べれますぞ!」
「…………………ねね、好き。」
「れ、恋殿~♡」
皆は当初の目的を忘れていた。帝は衆道(男色)を好むという噂を流すはずだったのに、あまりにも売れるものだから、本を売る事に精を出していたのだ。
一応、噂は広まった。しかし、方向があまりにもいい方向で。醜い男同士の絡み合いであったなら威厳は地に落ちたであっただろう。だが、劉協の容姿は絶世の美少年(美少女)だ。そして、一刀もまた、容姿だけなら一般水準のそれを大きく上回る。
なので、民たちはこれを『純愛』と勘違いしてしまっていた。結ばれたくても結ばれない。ならばせめて体だけでも…………と言ったように勝手な解釈を付けたしていたのだ。
中には、二人を結ばせろという声も少なくはなかった。
いずれにしろ、本はとてつもなく売れ、宮殿を建てられる位のお金が出来上がったのだ。
「「「かんぱ~い!!」」」
「………………乾杯。」
四人は大満足だった。今は美羽の部屋で祝杯をあげていた。
「いや~、七乃殿の挿絵には皆が食いつくようにすばらしいものでありました。」
「いえいえ、それを言うならねねさんの文章力が人を引き付けるのですよ。」
お互いにお互いを褒めちぎっていた。
「ところで、何でこの本を書こうとしたんでしたっけ?」
七乃さんの問いに他の三人は何も答えられなかった。
「う~ん、忘れてしまったのです。」
「………………ねねに同じ。」
「すぐ忘れるようなことじゃろ。きっと大した事では無かったのじゃ!」
三人ともものの見事に目的を忘れていた。噂を利用し、帝を意のままに操ろうという策を。
「う~ん………確かにお嬢さまの言う通りですね。じゃ、今日は飲みまくりましょう!」
「「お~!!」」
「……………お~。」
四人は幸せの絶頂であったが、このあと絶頂から地獄まで落とされることになる。
一刀side
最近、神楽の様子がおかしい。声をかけてもいつも上の空だ。今日も神楽の様子を見に行こうとしていた神楽。彼女の部屋の前まで来た。いつもはノックしながら入っていたがここ最近はそんな事していなかったため、今日はノックをすることを忘れていた。
「神楽、入るぞ。」
ノックもせずに神楽の私室に入った一刀。神楽は慌てて持っていたものを枕下に隠した。
「か、一刀か!?な、何だ、突然!?いつものように戸を叩かずに入ってきよって!」
明らかに動揺していた。一刀はかくしたものを何かとは分からなかったが、本のようなものだと思った。
「神楽、いったい何を隠したんだ?」
「な、何を言っていおるのだ!?よ、余は何をも隠してなどおらぬぞ!」
突然の事で動揺を隠しきれなかった神楽。一刀の不信感は大きくなった。
「なあ、神楽。俺の事が信用できないか?おまえがどうしても見せたくないっていうなら別にいいけど………」
「ち、ちがう!そんな事ではないのだ!」
一刀は自分が信用されていないのだと勘違いをし、暗くなってしまった。それを見た神楽は思いっきり訂正したのだ。
「その本は何?」
「む、むう…………最近、宮殿内でとても流行っている書物なのだ。今までにない書き方でとても面白いのだが………」
「なんだ、そんなものか。」
もっと、重要な物だと思っていたらしい。
「興味があるな、どんな本か見せてよ。」
「う、うむ………これなのだが………」
神楽に本を渡された一刀。内容を見た時の彼の表情は描写出来ないほどのものだったらしい。
神楽side
(う~む……一刀がマジマジと見ている。あの主人公が一刀に似ているとは言えん。)
神楽は顔を赤くしていた。
(余も、一刀と一緒にあんな風に…………い、いかん!余は一体何を考えておるのだ!)
一刀side
(何これ?BLのマンガ?でも、受け手の少年ってどう見ても………神楽そっくりだよな?)
一刀は驚いた。この書物がマンガである事に自体、驚いた事なのだが、それよりも話に出てくるキャラクターが神楽そっくりなのだ。攻め手のキャラクターは誰だか分からないがかなりのイケメンだ。
題名は『皇帝と御遣いの情事』と書かれていた。
(著者は………『美しき羽の使いたち』………ペンネームか何かかな?)
「ま、まさか!」
美しき羽…………美羽?
(確かにそうだ。マンガの事を知っているのは美羽たちしかいいない。だが、この絵や文章は美羽に書く事が出来ないはず……使いたち……七乃さんか?だが、七乃さんだけじゃ足りないはずだ。他にも協力者が?)
一刀は思ったことを推理していった。この推理は間違いないだろうという確信もあった。
(あいつら何を考えているんだ?これってどう見ても皇族批判じゃないか!)
一刀は恐る恐る神楽の方に目をやった。神楽は顔を真っ赤にしていた。おそらく怒っているのだろうと勘違いをしていたのだ。
一刀はすぐさま、神楽を王の間へ連れて行き、美羽たちを呼び出した。神楽の前で土下座をしてなんとか許してもらうためだ。
「何じゃ、一刀?妾達は忙しいのじゃ!」
「そうですよ。私たちはとても忙しいのに呼び出すなんて横暴ですよ。」
二人はプンスカ文句を言っていたが、一刀は恐怖で固まってしまっていた。なんとかして許してもらわなくちゃ美羽たちはみんな打ち首だ。一刀はもし許してもらえなかったら自分の命も賭ける覚悟だった。緊張が走る。
神楽が帝の正装を身に纏い、玉座に腰掛けてきた。神楽も一体何が起きるのか全く理解していなかった。
「一体何の用なのだ?一刀。余は何も知らぬぞ。」
神楽は要件を聞いてきた。ここからが本番である。
一刀は美羽と七乃さんの頭を掴み、無理やり土下座をさせた。
「申し訳ありません、劉協様!」
突然の事で、美羽も七乃さんも神楽もとても驚いた。
「こ、これ、何をするのじゃ!一刀!離すのじゃ!」
「そうですよ!いきなり頭を掴むなんて痛いじゃないですか。」
美羽と七乃さんは文句を垂れたが、一刀のものすごい形相に何も言えなくなってしまった。正直、今の一刀は自分の命を賭け、愛する者たちを救おうと必死だったのである。
「なっ!………一体何をしておるのだ!?こ奴らが何かしでかしたのか?」
神楽も状況を理解できなかったようだ。神楽は一刀に理由の説明を命じた。
………………………
「はい、実はこの本を書いたのはここにいる美羽たちなのです!」
一刀は神楽の持っていた本を見せ、まっすぐに答えた。七乃さんとねねは一刀の必死さがようやく理解した。美羽は相変わらず、何も思い出さなかったようだが。
七乃さんとねねは理解した、というより思い出したのだ。当初の目的を。それは帝の弱みを掴み、帝が衆道を好むという噂を流していた事に。帝にどういう経由で本を手に入れたかは知らないが、売る事に専念していたため、すっかり失念していたのだ。帝にばれるという事を。
七乃さんとねねは顔がとても青くなっていった。これは、皇族批判だ。下手をしなくても打ち首ものであった。彼女たちは恐怖に怯えてしまった。
相変わらず、美羽と恋は全く理解していなかったが………
一刀の直訴を聞いた神楽は驚いて言った。
「なんと!あの本を書いたのはそなたたちであったのか!?」
「劉協様、どうかこの者たちを許してやってください。お願いします。」
一刀は床に頭を擦りながら謝った。
「うん?そなたは何を言っておるのだ?」
「え?」
「余は何も咎めてなどおらぬぞ。」
「えっ?な、何で!?だってこの本『皇帝と御遣いの情事』って書かれてるんだよ!これって、どう考えても皇族批判じゃないのか!?」
神楽の冷静さと一刀の暑苦しさのギャップに、ついに一刀は敬語ですらなくなった。
「一刀、これは本だ。架空の世界であり現実では無いのだ。現実と架空を一緒にするのはあまり関心せんぞ。」
どうやら神楽は何にも感じていないようだ。もしかしたら、似ているのもなんかの偶然だったのかもしれない。何にしろ、一刀の緊張は解けたのだ。
「袁術よ、見事な作品であった。そなたのような部下を持てて余は嬉しく思うぞ!」
「うははははは!妾にかかればこんなもの簡単なのじゃ!」
帝に褒められ、美羽は有頂天だ。七乃さんも、ねねもほっと胸を下ろした。
「一刀よ。そなたの言う通りであった。この者たちは信用のおける存在かもしれぬ。」
「……………え?…………神楽?」
一刀は数日前に言った秘密を共有することのできる人間に美羽たちを押した事を思い出した。
「袁術!そして、その方らに余の秘密を教えても良いかもしれぬ!」
「秘密?」
「うむ、これは一刀しか知らぬ秘密だ。そして、この漢王朝の歴史を揺るがすような事なのだ。」
神楽は大げさに言ったつもりだが決して大げさなどでは無い。神楽の真剣な表情を見てさすがの美羽も生唾を飲んだ。
「実はだな……………」
「う、うむ!」
「余は、女なのだ。」
周りの空気が凍り付いた。
「なっ!おおおおおおおおお女じゃと!」
「そうだ。今まで一刀に助けられてきたがな。一刀だけではもう限界であったのだ。」
神楽はとうとう自分の秘密を話してしまった。皆が驚くのは無理はないだろうと思われた。
「か、一刀………」
美羽は肩を震わせながら一刀を呼んだ。
「お、お主は知っておったのか?」
「まあな。でも、秘密が秘密だったもんだからお前たちにも言う事が出来なかったんだ。」
「そ、それでは……お主は、ず、ずっとこ奴の傍におったのか?」
「え?当り前じゃないか。俺は今は神楽の付き人なんだから。」
美羽は肩をワナワナと震わせていた。
「か、一刀の……」
「み、美羽?」
「一刀のアホんだら~!!」
バキ!!
「うぎゃ!」
いきなり回し蹴りを喰らわせられた。倒れ込んだ一刀を踏みつけという追い打ちをかける美羽。
「雪蓮だけでは無く、帝も手を出すとは~!!」
バキ!ドカ!ベキ!
「そうですよ!男同士だからこそ萌えたというのに!裏切ってくれましたね、一刀さん!」
バキ!ドカ!ベキ!
七乃さんも美羽の足蹴に混ざってきた。
「この変態チ●コ!お前は…………お、おおおおお前はあの時、部屋で皇帝と何をしていたのですか!?」
バキ!ドカ!ベキ!
ねねも混ざってきた。
「……………ご主人様、ひどい。」
バキ!ドカ!ベキ!
恋も混ざってきた。
四方から足蹴にされ、一刀の意識はそこで途絶えたのだ。あまりの雰囲気のため、神楽は恐ろしくて止めることが出来なかった。どうやら彼女たちにとって、帝が女である事よりも一刀とずっと二人でいたという方が許せなかったらしい。
数日が経った。一刀はいつものように復活をしていた。さすがは主人公である。美羽たちは神楽が女である事などどうでもいいらしい。問題なのは一刀といつも二人っきりで生活していた、という事だけなのだ。なので、美羽は、神楽の付き人をクビにし、いつもと同じポジションに一刀を置いたのである。
「美羽、今日こそ一刀を余に貸すのだ!」
「げっ!神楽!い、嫌に決まっておろう!今日は一刀は妾と寝るのじゃ!」
「むむむ~!よ、余は帝だぞ!」
「一刀は妾の部下じゃ!」
二人は秘密の共有者としてお互いに真名を交換したのだ。似た年齢なのだから仲良くやっていけると思ったがいつもケンカばかりしている。
「はいはい、今日はみんなで寝よう。それなら文句はないだろう?」
今日も、美羽と神楽はケンカばかりしている。だが、お互いを真名で呼び合っているために何処となく平和に見える。
「う、うむ!一刀がそう言うなら………」
「神楽は聞き分けの良い、いい子だな。」
一刀が神楽の頭をなでると彼女は一刀に抱きついてきた。どことなく、くすぐった感じがする一刀であった。
「く~!!おのれ~!!か、一刀!お、お主がどうしてもというのなら、わ、妾もそれで良いぞ!」
「はいはい。ありがとな、美羽。」
美羽にも撫でてあげると不機嫌を治してくれた。
最近、神楽はとても明るくなった。秘密を共有できる人間が増えた事によるものだろう。秘密を守るという意味では美羽は心強い味方だろう。口は軽いが、何が秘密なのかを理解できないからだ。要は馬鹿なのだ。
「あはは♪、お嬢様ったらあんなに顔を赤くして………本当に可愛いですね。」
「全く、あのチ●コは一体何人の女に手を出せば気が済むのですか!?」
「……………美羽と神楽……いいな。」
実にほのぼのとした光景を傍から見ている三人であった。
今日も洛陽は平和であった。この平和がずっと続きますように………
続く
あとがき
酔った勢いだったんです。申し訳ありませんでした。今は反省しています。
どうだったでしょうか?今回の本編は。相変わらず長い。皆さんを疲れさせてしまうかもしれないというのに。
今度からもうちょっと自重して、短くします。
実は、私の名前が、王冠獲得ランキングに乗っていいたのです!
とてもうれしいです。これからもご支援よろしくお願いします。みんなの支援がオラのパワーになる。
ということで、次回もゆっくりしていってね。
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こんばんわ、ファンネルです。
・・・・・・長い・・・・・また調子に乗って40キロバイト以上書いてしまった。
とても長いので最後まで見てくれるとうれしいです。
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