No.821479

魔法少女リリカルなのは~原作介入する気は無かったのに~ 第百四十六話 怒り狂うWA☆KA☆MO☆TO

神様の手違いで死んでしまい、リリカルなのはの世界に転生した主人公。原作介入をする気は無く、平穏な毎日を過ごしていたがある日、家の前で倒れているマテリアル&ユーリを発見する。彼女達を助けた主人公は家族として四人を迎え入れ一緒に過ごすようになった。それから一年以上が過ぎ小学五年生になった主人公。マテリアル&ユーリも学校に通い始め「これからも家族全員で平和に過ごせますように」と願っていた矢先に原作キャラ達と関わり始め、主人公も望まないのに原作に関わっていく…。

2015-12-29 01:03:15 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:9239   閲覧ユーザー数:8434

 ~~まえがき~~

 

 今回はタイトル通り、鉄先輩の超無双回です。

 『無双なんぞしてんじゃねええぇぇぇぇ』と思う方は今回の話は読まない事をお奨めします。

 読む場合は自己責任で。作者である自分は責任を持ちませんのであしからず。

 ちなみに鉄先輩ですが

 

 某神父さん=5%

 某球体状の生物=5%

 某人造人間=15%

 某運命2の狂戦士=75%

 

 の割合でお送り致します。

 

 誰もがその咆哮に怯んで動けなくなったかの様に硬直する中、ゆっくりと一歩を踏み出した者がいる。

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 咆哮を上げた張本人である鉄先輩だ。

 ズシンズシンと歩き、咆哮を上げ、その顔は無表情だったものから殺意のみに染まりきっており、目の前の敵は決して逃がさないという決意が読み取れる。

 

 「……はは、面白いな。怒りで魔力がここまで跳ね上がるなんて」

 

 鉄先輩がターゲットに選んだ相手のリーダー格である金髪の男は何だか笑みを浮かべている。

 

 「この気迫、銀髪なんかよりよっぽど楽しめそうな気がするよ」

 

 俺達と連中の中間地点で立ち止まった鉄先輩は拳を強く握りしめ足を開き膝を曲げた。

 ドラゴンボールでよく見掛ける気を上げたりするときの構えみたいだ。

 

 ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 

 揺れる。地面が揺れまくる。

 

 「あわわ、あわわわわわ……」

 

 揺れる地面のせいでバランスを保つのが必死な遥達。

 

 「……コイツぁ…………」

 

 「むぅ…」

 

 爺さんとマッチョの目が細くなる。

 流石に鉄先輩の実力を肌で感じたか。

 

 「(アッチは鉄先輩に任せよう)」

 

 援護する必要無さそうだし。

 俺の標的は…

 

 「(あの女だな)」

 

 フェイトをここまでやってくれた相手だ。

 女だからって油断はしねえ。手加減もしねえ。

 俺は友達をやられた事に対する怒りを今は抑えつつフェイトと西条を少し離れた場所に運び、レスティアを呼ぶ。

 そしてユニゾン後に修正天使(アップデイト)

 身体中に刻まれた傷が一瞬で消え、血塗れでボロボロだった服も元通り。

 本当に死ぬ寸前だったのかと疑いたくなるぐらい完璧に治癒出来た。

 強制的にユニゾンが解除され、遥達と共にフェイト(あと西条)も護って貰う様、レスティアとサウザーに頼み、フェイトを痛めつけてくれた女に対峙する。

 

 「私の相手はアンタかい?」

 

 「そういう事になるな」

 

 「見た所魔力が消耗してる様だけど、それで私の相手が務まるのかねぇ?」

 

 挑発のつもりなのか俺の消耗具合を見抜いた女が見下す様な笑みを浮かべる。

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 咆哮を上げた後、鉄先輩は構えを解いて棒立ちになる。

 完璧過ぎる自然体。

 全くもって隙が無いのだが、マッチョはそんな事気にしてもいないと言うかのように、勝目㎜から鉄先輩に襲い掛かった。

 

 「グハハハ!!楽しませろよオラァ!!」

 

 マッチョの右腕が鉄先輩の顔面に向かって放たれるが、先輩は避ける素振りも防御する素振りも見せず、真正面から受け止めた。

 ガンッ、と音が響く。

 攻撃を受けた鉄先輩だが

 

 「っ!!効いてねえのかよ!?」

 

 無傷(ノーダメージ)だった。

 拳を突き付けられながらも鉄先輩はニタァと笑い

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 お返しと言わんばかりにマッチョの腹部へパンチを叩き込む。

 

 「ごふぉぉっ!!!」

 

 マッチョは腹部への一撃を受けた瞬間、口から血を吐き出しながら吹き飛ばされた。

 

 「ほぅ…中々の攻撃力だな」

 

 サウザーが感嘆の息を漏らす。

 

 「てか、血吐いたけどアレ大丈夫なの?」

 

 葉月、その質問は野暮ってもんだぜ。血を吐いただけでその威力がどれ程のものなのか推察してみてくれ。

 

 「非殺傷設定を解除しての攻撃?だとしたら管理局員としてマズいんじゃないかしら」

 

 「レスティア。その疑問にはNOとだけ言っておく」

 

 眉を顰めたレスティアの言葉をやんわりと否定する。

 鉄先輩は非殺傷設定を解除してなんかいない。しかしマッチョは血反吐を吐いた。

 何故か?その理由は1つ。

 鉄先輩の放った攻撃が非殺傷設定の許容値を超えてしまったからだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 非殺傷設定。魔導師が犯罪者を殺す事無く全力で取り押さえられるという中々に便利で有用な機能。

 しかしその機能にも限界というものが存在する。

 過剰過ぎる攻撃力を誇る一撃に関しては抑えきれず、非殺傷設定にしてありながらも殺傷攻撃になってしまうというまさかの弊害…。

 なのはのスターライトブレイカーやシュテルの真・ルシフェリオンブレイカー、最強クラスの魔力を持つ椿姫の放つ魔法ですら非殺傷の許容値以内だというのに。

 つまり今の鉄先輩はただのパンチですら上記2つの魔法を軽々と上回る威力なのですよ。

 恐ろしや、鉄先輩。

 ちなみにレスティアは魔力で言えば椿姫以上だが、彼女自体が神様お手製のユニゾンデバイスなので非殺傷の許容値内に充分収まっている。

 

 「……向こうの様子ばかり見てても仕方ないな」

 

 目の前の女を叩きのめす事に集中集中。

 

 「おーおーおー、随分と強烈な敵意をぶつけてくれるじゃないか」

 

 「ぶつけてやる理由があるんでな」

 

 その身に身体強化を施し

 

 「禁猟区域(インポッシブルゲート)

 

 その距離を一気に詰める。

 

 「っ!?ちいっ!!」

 

 ゼロ距離からの一撃は空を切る。

 上空に逃げられたか。

 すかさず俺も空を飛んで追撃を行う。

 一足先に上空に上がっていた女はコチラに向けて大量の魔力弾を放ってくる。

 

 「んなモンでどうにか出来ると思うなよ」

 

 迫る魔力弾はパンチで相殺し、撃ち漏らしたモノや死角から襲いかかってくるモノはダイダロスに障壁を展開してもらって被弾を避ける。

 反撃でアルテミスを10発、逃げ場を奪いつつ足止めをする様に様々な方角から攻め立て、女が迎撃してる間にまたまた距離を詰めて僅かに収束させた魔力を右手に纏わせて

 

 「カラミティエンドォォッ!!」

 

 手刀で振り下ろす。

 

 「あぐっ!」

 

 女が咄嗟に張った障壁で受け止めるがカラミティエンドは容易く障壁を砕き、そのまま振り下ろした手刀は女の左肩に命中する。

 叩き落した女は苦悶の表情を浮かべながらも空中で体勢を整え、地面には激突せず上にいる俺を睨みつける。

 

 「言っとくがその程度で済むなんて思うなよ。フェイトが受けた傷はまだまだあるんだからな」

 

 徹底的にブッ潰す。

 視線で俺が訴えると、女は真っ向から俺の視線を受け止める。

 

 「やれるもんなら……やってみなあっ!!」

 

 今度は砲撃魔法。

 慌てずに砲撃魔法が迫って来るのを見据え

 

 「フェニックスウイング!!」

 

 タイミングを見計らって左手を一気に振り上げた際の高速の衝撃でそのまま女に砲撃を跳ね返す。

 

 「んなっ!?魔法を使わずに!?」

 

 女は目を見開きながらもその場から移動し、自分が放った砲撃魔法を躱す。

 だが躱した先が悪かった。

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 そこは鉄先輩の標的(ターゲット)になる範囲内だ。

 女は鉄先輩の咆哮を聞いて敵意を感じたのかすかさず逃げようとするが先輩の接近の方が早かった。

 そのまま女の脇腹に鉄先輩の剛腕が襲う。

 

 「ガハァッ!」

 

 鉄先輩の拳は女の脇腹を易々と貫き、腕を引き抜くと血が噴き出す。

 そのまま女の顔を掴むと、すぐに上空へ放り投げる。

 鉄先輩は両手を空に向けて翳し、掌に尋常ではない量の魔力が溜まっていく。

 非殺傷設定でありながら非殺傷が効いていないあんな砲撃食らったら跡形も無く消し飛ぶのは確実だ。

 ただ…

 

 「鉄先輩……そのままだと俺も砲撃に巻き込まれるんですが(・・・・・・・・・・・・・・・)……」

 

 地上にいる鉄先輩と空中にいる俺、そしてその間に放り投げられた女はほぼ直線上に並んでいるため、このままだと俺も砲撃に呑まれる。

 

 「ジェノサイドォ……」

 

 聞いちゃいねえ!!?

 慌てて俺は射線上から離れるがその砲撃は放たれる事が無かった。

 

 「僕の仲間に何をする気だ?」

 

 金髪の男が鉄先輩の後頭部を掴むと地面に思いきり叩きつけたからだ。

 叩きつけられた鉄先輩の顔面が地面にめり込む……がすぐに引き上げられ再び叩きつけられる。

 

 ドゴン!!ドゴン!!

 

 一撃一撃が相当の威力みたいだ。

 何度も何度も鉄先輩の顔面を叩きつける度に地面にクレーターが出来、しかも徐々に大きくなっていく。

 一方、宙に放り投げられた女だがアイツ等の仲間の爺さんに回収されていた。

 

 「むぅ…これはいけませんな。相当な重傷だ」

 

 「ぐ……あ……」

 

 爺さんは穴の開いた脇腹部分に手を添え、治療魔法を施し始める。

 あの爺さん治療魔法が使えるのか。けどそれ程得意ではないと見た。

 止血は出来た様だが傷口は中々塞がらない。

 

 「ぐおぉ……クソがあぁ!」

 

 む?

 先程吹き飛ばされたマッチョが飛んで戻ってきた。

 コチラも相当のダメージを受けている様子。女と違って腹パンされて貫かれなかったのを計算に入れると防御力は大したもんだ。

 金髪の男もマッチョが戻ってきたのを確認すると鉄先輩を地面に叩きつけるのを止め、空を飛んでマッチョの側に行き、クレーターの中心に目を向ける。

 そこにはうつ伏せに倒れていた鉄先輩が起き上がろうとしている姿があった。

 

 「ウデガン、同時にやるぞ」

 

 「へい!」

 

 2人が同時に解放した魔力の余波が吹き荒れる。

 地上にいる遥達が踏ん張って耐えている様子が空から見えた。

 逆にサウザーとレスティアは悠然と立っている。この程度では苦にもならないという事か。

 鉄先輩はゆっくりと立ち上がり、魔力の発生源である2人の方に顔を向ける。

 

 「(……目が完全に白眼になっちゃってるよ)」

 

 何つーか……伝説のスーパーサイヤ人を連想させるなぁ。別に髪の毛が逆立って金髪になってる訳でも無いけど。

 しかし何らアクションを見せない鉄先輩に対し、空を飛んでいる2人は徐々に魔力を溜め、鉄先輩の挙動を見逃さない様に睨みつけている。

 そして溜めに溜めた魔力の砲撃を鉄先輩に向けて放つ。

 スウゥ、と息を吸い込んだ鉄先輩。何する気だろう?

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 …………うそーん。

 鉄先輩は先程から発してる咆哮を上げただけだったのだが

 

 「……これは流石に想定外だね」

 

 「俺とディオス様の同時攻撃を咆哮だけで消し飛ばしただと(・・・・・・・・・・・・・)!!?」

 

 魔力の砲撃を簡単に吹き飛ばした。

 俺の脳裏によぎるのは幽助の霊丸を気合だけで掻き消した戸愚呂弟100%のシーン。

 先程の同時攻撃は明らかになのはやシュテルの収束魔法(ブレイカー)よりも威力が上だと判断出来たが、それをいとも容易く…。

 鉄先輩マジパねえッス。

 クレーターから飛び出して少し離れた場所に建つ鉄先輩を見て俺は戦慄していた。

 

 「……ふっ!!」

 

 鉄先輩の背後から女の治療をしてた筈の爺さんが細身の剣で躊躇なく先輩の後頭部を突き刺した……が

 

 「ぬうっ!なんという硬度!私の一突きでも刃先が食い込みすらしないとは……」

 

 一瞬で鉄先輩の間合いまで迫った速さと、そこから穿たれた今の一撃はかなりのものだと理解出来る。

 しかし……その一撃をもってしても鉄先輩には通用しない。

 そして鉄先輩も攻撃されたままで黙ってはいない。

 すぐさま回し蹴りで爺さんに反撃する。

 

 「甘いですぞ」

 

 反撃にも軽々と反応し、その場に屈んで回し蹴りを回避したかと思われたが

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 鉄先輩は回し蹴りの軌道を修正し、垂直に足を振り下ろした(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 回し蹴りから踵落としへと変化した鉄先輩の攻撃に目を見開きつつ、屈んだ体勢から真横に飛び退く爺さん。

 この間、1秒にも満たない出来事である。

 

 「がああぁぁぁぁっっっ!!!」

 

 けど完全に攻撃を回避出来なかった爺さんは右腕が犠牲になった。

 骨が砕けるどころかスパッと斬られたみたいに右肩から腕そのものが胴体から切り離されたのだ。

 同時にその場で新しく出来上がる巨大なクレーター。結界が無かったらどれだけの被害なのやら…。

 

 「オムニポー!!」

 

 「おいジジイ!!大丈夫か!?」

 

 「し…心配は入りませぬ……ぐっ!」

 

 斬り落とされたところへ左手を当て、治療魔法で止血を施す。

 爺さんの顔には大量の脂汗が出ており、顔色も少し悪い。

 仲間の連中も心配してる中、ゆっくりとクレーターから上がって来た鉄先輩の視線は爺さん……ではなく一通りの治療を施され、戦場の隅っこで安置されている女へ……。

 まさか、と思ったのは俺だけでなくこの場にいる全員だろう。

 鉄先輩は人差し指と中指だけを立て、残り3本の指を折り曲げた右手を眉間に当て、バチバチと音を立てながら魔力を溜め始める。

 ……ヤバくね?マジヤバくね?

 

 「意識の無い女を狙うとは男の風上にもおけねえクズ野郎がぁぁっっっ!!!!!!」

 

 マッチョが女と鉄先輩の合間に降り立ち、憤りと共に言葉を吐くが、さっきも言ったが鉄先輩は『女』だからね。

 

 「っ!!?ウデガン、避けろ!!!」

 

 「っ!!?」

た。

 金髪の男が安置されてた女を抱き上げ、マッチョに指示を出すとマッチョも防御しようとしてた体勢から回避行動の体勢へと変え

 

 「魔貫光殺砲!!!!」

 

 眉間からマッチョに向けて突き出された鉄先輩の指先から、螺旋状のエネルギーを纏った細いビームが放たれた。

 かなりの速度でグングン伸びるビームを回避し、その行く先を皆が見つめる。

 結界内のビルをいとも容易く貫き、また貫通先にも並ぶ建物を次々と貫いて、最後に結界にビームが接触する。

 

 「っ!!」

 

 レスティアの表情が一瞬歪み、彼女から更に魔力が解放される。

 しばらくはビームと結界の衝突が続き、やがてビームが収まるとレスティアの表情も戻る。

 

 「……何なの?全力で展開してる結界を貫こうとしてたわよ」

 

 この結果に驚いたのは彼女自身。

 全力展開の結界に加え、更に魔力で魔貫光殺砲と衝突していた結界の側面に強化を施す事でようやく止められた。

 俺ですらその言葉がレスティアから漏れたのが聞こえて唖然としてしまった。

 確かに魔貫光殺砲は速度と貫通性に特化した一点突破技だけど、結界貫こうとまでしてたのかね。神様が作った魔力面最強のユニゾンデバイスが展開してる結界を。

 

 「何て魔法を放ちやがるんだ、あの化け物は」

 

 「はは、面白いじゃないか。管理局に飼い慣らせるとは思えない程の存在だよ」

 

 「笑い事じゃねえですぜディオス様」

 

 「ウデガンの言う通りですぞ。あれ程の実力者、あまりにも危険過ぎます」

 

 爺さんも鉄先輩が魔貫光殺砲を放ってる内に移動し、連中は空中で合流した。

 

 「我等の攻撃は通じず、視界に入る敵を一方的に蹂躙しようとする破壊の化身とも言えるアレは我等にとってこの上ない敵となりますぞ」

 

 「良い事じゃないか。ああいう障害がある方が物凄く楽しめるんだからさ」

 

 嬉しそうに言う金髪を見て『うへぇ…』と言った感じのマッチョ&爺さん。

 あの金髪……フェイトやシグナムさんみたいな戦闘狂(バトルマニア)か?

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 咆哮を上げた鉄先輩が地を強く蹴り、連中に向かって飛ぶ。

 

 「っ!!!!?」

 

 だが、その動きは空中で停まる。

 ……否!空中で拘束されて無理矢理停止させられていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 無数のチェーンバインドが四方八方から鉄先輩に向かって伸び、絡みついている。

 当然の事だが俺でもレスティアでもない。

 

 「やれやれ。嫌な予感を感じて来ちゃったらすんごい押されてるじゃん」

 

 「管理外世界でアルからな。吾輩等の想像を超える生物がいても可笑しくないアル」

 

 「ディオスサマノテキ、オレタチノテキ」

 

 「全く…ウデガン、オムニポー。貴方達が付いていながら…」

 

 「……………………」

 

 そこに現れたのはこれまた新顔の5人。

 元気そうな茶髪の少年、ぽっちゃりちょび髭、カタコトで……コイツはロボットか。丁寧口調で眼鏡の優男、深緑色の髪のロリっ娘。

 順に喋った連中の容姿と特徴だ。ロリっ娘は言葉を発してないが。

 金髪達の方に声を掛けた奴等もいるって事は連中の仲間か?

 

 「(……こりゃあマズいかも)」

 

 金髪を筆頭にマッチョ、爺さん、女、それに新顔に5人の魔力量だがどいつもこいつも尋常じゃない。

 最低でもSSは確実。金髪に至ってはSSSか、もしかしたら西条、椿姫と同等のMランククラスだ。

 魔力量だけが魔導師にとって全てでは無いのは理解しているが、あそこにいる連中全員は間違い無く一騎当千の強者達。

 サウザーとレスティアがいるとしても安心出来ない嫌な感じがどうにも俺から離れてくれない。

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 しかし鉄先輩だけはあの連中を目にしても変わらぬ態度で咆哮を上げ、無数のチェーンバインドを一瞬で砕く。

 

 「……何なのさ?あの化け物」

 

 「ウデガンノダメージトイイ、オムニポーノカタウデガナクナッテルコトトイイ、ヤッタノハアノカイブツカ?」

 

 「いやはや…みっともない姿を晒してお恥ずかしい限りです。ですがアレは一筋縄ではいかないですぞ」

 

 「貴方にそこまで言わせますか」

 

 「ディオス様と俺様の同時攻撃も通用しねえからな。見た目以上にヤバいぜ」

 

 「……マジアルか?」

 

 「マジだぜ。その証拠にディオス様、すげえ楽しそうにしてるしな」

 

 連中が金髪に視線を向け、楽しそうに表情を緩めている金髪を見ると小さく溜め息を吐く。

 だが、溜め息を吐く余裕あるのか?

 目の前には大量の魔法陣を宙で描き、展開している鉄先輩がいる。

 輝きが徐々に強くなる魔法陣。

 

 「(どうやら召喚魔法っぽいけど…)」

 

 『鉄先輩は何を召喚するのだろうか?』と思い、魔法陣から出てくるものを待っている。

 やがて魔法陣から出てきたモノを見て俺は眩暈を起こした様な気がした。

 ソレ(・・)は直径30センチ程の球体に手足と羽を生やした奇怪な生き物。

 しかも俺が前世で観たアニメで登場した生き物であり、多くの視聴者を腹筋崩壊にまで導き『ぶっ壊れたWA☆KA☆MO☆TO』とまで言わしめた存在……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……何故に音速丸(・・・)?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ニニンがシノブ伝』に登場した怪生物だった。

 

 「「「「「「「「「「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 召喚された音速丸の群れも吼え、戦場がWA☆KA☆MO☆TOボイスで満たされる。

 まさにWA☆KA☆MO☆TO大合唱。

 吼えた音速丸の群れだが、何だか球体の身体が少しずつ膨らんでいる。

 そして音速丸の1体が膨らみながら連中の方へ突貫していく。

 対して金髪達の陣営からはぽっちゃりちょび髭の男が飛び出し、突貫状態の音速丸へと迫る。

 

 「ふん、特攻のつもりアルか?だが吾輩がいる限りディオス様には指一本触れさせないアルよ」

 

 ぽっちゃりちょび髭は自分の得物と思われる槍を構え、距離が充分に近付いた所で音速丸に突き刺した。

 球体のほぼ中心部分に槍を刺された音速丸は

 

 ドオオオオオォォォォォォォォォンンンンンンンンンッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!

 

 大爆発を起こし、ぽっちゃりちょび髭を巻き込んだ。

 

 「フッフッフ。コイツ等は少しでも刺激を与えると大爆発を起こすのだぁ」

 

 あ、鉄先輩が咆哮と技名以外で喋ったという事は多少理性が戻ったのかな?

 てか刺激与えたら自爆ってセルの自爆まんまですやん。

 音速丸が動けるという事実を加えたら自爆というよりスーパーゴーストカミカゼアタックにしか見えないが。

 

 「アーマーグ!!」

 

 煙の中から落下していく物体……それは大爆発を超至近距離で巻き込まれ、黒焦げになったぽっちゃりちょび髭だった。

 ロボット野郎が声を掛けるが、ちょび髭は反応せずに墜ちていく。

 

 「……………………」

 

 しかしちょび髭の落下は途中で止まる。

 いつの間にかちょび髭の側へ移動していたロリっ娘が手を翳して浮遊魔法を使い、ちょび髭を受け止めたのだ。

 

 「シャノン。アーマーグは生きていますか?」

 

 「……………………」

 

 優男の問いにロリっ娘は静かに首を縦に振る。

 あの爆発に巻き込まれて生きてんのか。大した生命力だな。

 

 「ご主人様をあんな目に遭わせた貴様等にぃ……貴様等に朝日は拝ませねええぇぇぇぇっっっっ!!!!!!」

 

 その言葉が合図だったのか

 

 「「「「「「「「「「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」」」」」」」」」」

 

 残りの音速丸が一斉に飛び立った。

 その4分の3近くは金髪達に、残りは俺や地上にいる遥達に(・・・・・・・・・・)……って

 

 「ちょ!?鉄先輩!!?」

 

 マジ見境無しやんけ!!!

 

 「にゃわわ!!コッチに迫って来てるよ!!」

 

 「アイツ味方毎攻撃って何考えてんのよ!?」

 

 「……友軍狙撃(フレンドリーファイア)

 

 遥、葉月、表情には出てないもののナインの焦った様子が空から見える。

 

 「サウザー!!ソッチに向かったのは全部迎撃!!レスティアは皆を爆発から護れ!!」

 

 「「御意です!!(了解よ)」」

 

 俺の方にも迫って来た音速丸達は

 

 「蛍火!」

 

 俺の眼前に小さな灯を隙間なく無数に展開し、俺自身は更に後方へ下がる。

 蛍火に触れた音速丸達は例外無く爆発を起こし、散っていく。

 サウザーは南斗鳳凰拳を存分に振るい、爆発に巻き込まれながらも音速丸達を屠っていく。

 あの爆発を浴びても無傷なのは流石聖帝様と言えよう。

 レスティアは障壁を張りつつ暗黒の炎(イビルフレイム)で音速丸達を纏めて焼き尽くす。

 結界の展開及び維持、障壁の展開、そして迎撃に暗黒の炎(イビルフレイム)と2つの魔法と精霊魔術を同時に行使出来るのも彼女がユニゾンデバイスであるが故か。

 てかマジ無差別過ぎ。これじゃあレスティアが遥達やフェイトのついでに護ってなけりゃ鉄先輩の意中の人であるご主人様(さいじょう)も平気で巻き込まれるんだが……。

 金髪達も俺みたいに遠距離から仕掛けて音速丸の爆発に巻き込まれない様にしてるな。

 やがて全ての音速丸を迎撃出来た俺達及び金髪達。

 だがここで止まる鉄先輩ではない。

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 鉄先輩の左右のおさげ髪が金髪達に向かって一直線に伸びていく。

 

 「……って、髪が伸びたあああぁぁぁぁぁっっっっ!!!!!?」

 

 伸びんの!?あのおさげ髪伸びんの!?

 

 「よっと」

 

 茶髪の少年が障壁を張って鉄先輩のおさげ髪による攻撃を受け止める……が

 

 「えっ!?……ぐっ、あああぁぁぁぁっっっっ!!!」

 

 障壁などまるで意味を成さなかった。

 軽々と障壁を貫いた鉄先輩のおさげ髪はそれぞれ左腕、右腕に突き刺さる。

 するとどうだろうか?おさげ髪がゴキュゴキュと音を立て、何かを飲んでいるかの様な動きを見せるではないか。

 逆に何かを吸われている少年の手は徐々に干乾びていく。

 

 「間違い無い……セルの生体エキスを吸収する攻撃だありゃ」

 

 あのおさげ髪が尻尾の役割果たしてんのかい。

 

 「うおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 マッチョがおさげ髪を掴み、引き抜こうと力を込めるがおさげ髪は一向に抜ける気配を見せない。

 

 「クソが!!抜けやがらねぇ!!!」

 

 このまま抜く事が出来なきゃ少年の腕は一生使い物にならなくなるだろう。

 

 「仕方ありません。リロイ、少し我慢して下さいね」

 

 優男が西洋剣っぽい武器を鞘から抜き、素早く振るうと少年の両腕が切断される。

 

 「うぐっ!!ベルガー、お前!!」

 

 「謝罪なら後でします。それよりもシャノン!」

 

 優男と少年の側に転移魔法で現れるロリっ娘。ついでに黒焦げのちょび髭も。

 

 「リロイの治療をお願いします」

 

 「……………………」

 

 「治療魔法はリアラの方が得意だというのは分かりますが、彼女が意識を失っている以上、貴女しか頼れるのがいないのですよ」

 

 「私の治療魔法よりもシャノンの治療魔法の方が効果が高いですからな」

 

 「……………………」

 

 「シャノン、僕からも頼むよ」

 

 優男に爺さん、金髪の言葉を聞いてからロリっ娘が少年を治療し始める。

 てかロリっ娘喋ってないのによく意思疎通出来るな。

 

 「治療魔法なんぞ使ってんじゃねええぇぇぇぇ!!!!!」

 

 ひいぃぃぃぃ!!

 鉄先輩が更に怒っちゃったよ!!

 伸びたおさげ髪を戻し、金髪達の方へ突貫する。

 

 「申し訳ありませんがお呼びではないのでお引き取りを」

 

 優男が剣先を鉄先輩に向ける、鉄先輩の足元に魔法陣が展開され

 

 「っっ!!!?」

 

 そのまま鉄先輩は…………消えてしまった(・・・・・・・)

 成る程……正面からのぶつかり合いが厳しいから鉄先輩を転移魔法で飛ばしてしまう事で衝突を避けたか。

 

 「さて……化け物も追い払った事ですし。ディオス様、我等のアジトに帰還しましょう」

 

 「え~?帰るのかい?僕としてはまだ戦いたい気分だよ。例えば……」

 

 「っ!」

 

 金髪の視線が俺に向けられる。何とも好戦的な笑みを浮かべながら。

 

 「彼は先程の化け物程ではないとはいえ、中々の実力者の様だ」

 

 「……………………」

 

 「体力や魔力をかなり消耗してる様だけど、それでも僕が警戒せざるを得ないナニカ(・・・)を抱えているようだし」

 

 コイツ、俺のレアスキルや宝物庫の中の宝具といった神様に叶えて貰った願いの力を直感で感じ取ったのか?

 

 「僕達の事を最大限警戒してるという点も高評価だね。その証拠に彼は非殺傷設定を解除しているのだから(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 …そこも見抜くか。ますます強敵だと認識させられるな。

 

 「《ユウくん…》」

 

 「《ダイダロス、言いたい事は分かるが正直アイツ等は危険過ぎる》」

 

 鉄先輩に一方的にやられてたとは言え、個々の戦闘力、魔力量は見逃せない程高いし躊躇なく人を殺せる残虐性も見過ごせるレベルではない。

 残虐性に限って言えば他の次元犯罪者の中でも凶悪な奴等と遜色ないとは思うのだが、それでもコイツ等からは何故か同等の筈の残虐性が異常かつ強大に感じる。

 それは俺自身がコイツ等はこの場で殺しておかなければ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)と心の底から思わせる程に。

 だから音速丸達を迎撃し終えたと同時に俺は非殺傷設定を解除した。

 管理外世界では管理局の法は通じない。けど管理局員としている以上何らかの罰は受けそうだな。

 しかし減給にせよ降格にせよ無料奉仕にせよ罰を受ける程度で済み、ここでコイツ等をどうにか……殺してでも止める事が出来れば十分すぎる程の結果になりそうな気がするんだよ。

 だからこそここで宝具の開帳も俺は辞さない。

 流石に消耗してる今では乖離剣(エア)星の聖剣(エクスカリバー)のような神造兵装の類は使えない。

 が、連中のリーダーだと思われる金髪だけでも仕留めるならゲイ・ボルクでいける。

 だがコチラがそれだけの決意を秘めている中、優男は好戦的な金髪を制止する。

 

 「駄目ですよ。御身はまだ目覚められて然程時間が経っていないのですから」

 

 「ベルガーの言う通りですぞ。今はもっとご自愛して下され」

 

 「……分かったよ。確かに僕は目覚めたばかりでロクに力を取り戻せていない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。本来の力が戻っているなら7つの聖遺物(セブンアミュレット)みたいな物を集めるなんていう事はする必要無いからね」

 

 優男と爺さんに諭されて戦意を解いた金髪だが、俺はまだ戦闘態勢を維持している。

 

 「目的の物は手に入れたのでしょう?ならとっとと退くのが賢明ですよ。思わぬ化け物のせいでコチラの被害は甚大ですからね」

 

 「分かった、分かったよ。皆大丈夫かい?」

 

 金髪が自分の仲間達を見渡す。

 無傷なのは金髪、優男、ロリっ娘、ロボ野郎だけ。

 マッチョは五体満足だけどダメージはデカい筈。爺さんは片腕、少年は両腕を失い、ちょび髭は黒焦げ。

 マジギレモードの鉄先輩を相手にして命があるだけでも上々かも。

 

 「アジトに帰ったら治療するからそれまで…」

 

 「ここで逃がすつもりは無いけどな!」

 

 「っ!!」

 

 『剃』で金髪の背後に回り込み、腕を掴むと

 

 「どっせえええぇぇぇぇぃぃぃっっ!!!!!!!!」

 

 一本背負いの要領で金髪を更に上空へ投げ飛ばし、間を置かずに追撃しながらクリュサオルの魔力刃を展開する。

 

 「やるね!予想以上の速さだ!」

 

 「はああぁぁぁっっっ!!!!」

 

 体勢を整えた金髪は自分に身体強化を施し、俺が一閃したクリュサオルを左手で受け止め

 

 「一撃の重さも上々!ますます殺り甲斐がある!」

 

 空いている右手を突き出すが、その攻撃は空しく宙を切った。

 ダイダロスが短距離転移魔法(ショートジャンプ)で俺を金髪から数メートル離れた所へ転移させたからだ。

 今の反撃は流石に躱せるタイミングじゃなかったから、転移魔法を使ってくれた相棒(ダイダロス)には感謝だ。

 

 「おまけにデバイスも優秀…と。ふふ、良いねぇ良いねぇ♪」

 

 「嬉しそうな所悪いがお前はここで仕留めさせてもらう。不意打ちや奇襲も遠慮無く使うが勘弁してくれよ?」

 

 「不意打ち上等!奇襲上等だよ!ここは戦場、強ければ生き、弱ければ死ぬ場所だ。勝てなければ意味は無い!それ等を卑怯と罵る様な奴は戦場では生き残れないさ!」

 

 「…ついでに多対一(・・・)という構成でも文句は言わないで下さいね?」

 

 「っ!!?」

 

 俺の背後に回り込んでいた優男が剣を振るう。

 狙いは俺の首。

 が、その一撃は通さない!

 幸いな事に今の俺は静止状態にある(・・・・・・・)

 

 「鋼鉄乙女(アイアンメイデン)

 

 自らが動いていない状態でのみ使用出来る最強の防御系レアスキル。

 刃先が俺の首に当たった瞬間、ガキンと甲高い音が鳴り、一閃を阻む。

 

 「っ!?斬れない!?」

 

 躊躇無く俺の首を落とそうとした優男の目論みが外れる。

 てかコレ、デバイスじゃねえな。普通の剣だわ。

 

 「……………………」

 

 ドゴン!

 

 鋼鉄乙女(アイアンメイデン)を解こうとした直前に正面からロリっ娘の重い一撃が頭に落とされる。

 ダメージは無いが、真上から叩かれた衝撃で落下したため鋼鉄乙女(アイアンメイデン)を解除してクルッと一回転し、体勢を整える。

 上を見上げたらロリっ娘の手には辞書の様な分厚い本が。

 どうやらあの本で殴られたみたいだ。

 

 「(身体強化の魔法は使ってない……か)」

 

 小柄な体格とは裏腹に攻撃力もかなりある。

 

 「グハハ!!あの化け物ならいざ知らずテメエなら今の俺様でもブッ殺せるぜえぇ!!」

 

 マッチョが横から仕掛けてくる。

 

 「エンジェルアロー!」

 

 「ぐはっ!」

 

 しかしマッチョは下から飛んできた光の矢をまともに受け、飛ばされる。

 今の攻撃は神無月か。

 助かった。さっきのマッチョに対しては迎撃、防御、回避のいずれも間に合うかどうか微妙だったからな。

 

 「チイッ!!あのクソ(アマ)がぁぁ!!」

 

 神無月に憤怒の表情を浮かべ、睨みつけた時だった。

 

 シュン!

 

 「「「「「「「「「「っ!!?」」」」」」」」」」

 

 突然、転移魔法で飛ばされた筈の鉄先輩が再び戦場(ココ)に姿を現したのは。

 

 「ドウイウコトダベルガー!アノカイブツガモドッテキタゾ!」

 

 「私も流石に予想外ですよ!転移先の座標は虚数空間だった筈なのですが……」

 

 あの優男、鉄先輩を虚数空間に放り込んだらしいが先輩は戻ってきた。

 虚数空間に落とされたら魔法は使えないため、転移魔法では戻って来れないのが普通なのだが…

 

 「(鉄先輩のあの姿勢…)」

 

 戻ってきた鉄先輩は魔貫光殺砲使用前の時みたいに人差し指と中指だけを立てた手で眉間に当てていた。

 ただ、魔貫光殺砲の時の様に魔力を溜めてる訳では無かったが、その姿勢と転移してきたという事実で俺は鉄先輩が何をして戻って来たのか察しがついた。

 

 「(瞬間移動か)」

 

 ドラゴンボールで悟空が使ってた技だがセルも後に使用していたな。

 確かにアレは魔法じゃないから虚数空間内で仕えても不思議じゃないけど…

 

 「(あの技は対象となる人物の『気』を見付けなければいけない筈…)」

 

 つまり鉄先輩は虚数空間内からこの場にいる誰かの気を探して戻ってきたって事ですな。

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 「ワレヲネラウカ!?」

 

 帰還早々方向と共に鉄先輩の真後ろにいたロボ野郎に向き直り、襲い掛かる。

 

 「俺の背後に立つんじゃねええぇぇぇぇ!!!!」

 

 いやいやいや!!転移で帰って来た鉄先輩の位置から偶々真後ろにロボ野郎がいただけであって自分から背後に移動した訳じゃないですから!!

 後一人称が『俺』になっちゃってるんですけど!?

 鉄先輩が放つ凄まじい蹴りを掠ったロボ野郎の両足は

 

 「グアアァァ!!!」

 

 膝から下の部分が切断された。

 掠っただけで切断とかおっかねぇぇ…。

 

 「シャノン!今すぐ全員を一ヶ所に集めて下さい!私の転移で撤退します!」

 

 「……………………」

 

 ロリっ娘が足元に大きめの魔法陣を展開すると金髪の連中が一ヶ所に集まる。

 鉄先輩は集合してる金髪達に白眼を向けると魔力をチャージし始める。

 消し飛ばす気満々ですね。

 

 「そこの君」

 

 すると金髪が俺に声を掛けてくる。

 

 「君の名を教えて貰っても良いかな?」

 

 俺の名前だと?何でそんな事を……

 訝しんだ目で見返すと

 

 「ああ、こういう場合自分から名乗るのが礼儀というものかな」

 

 金髪は何か自分の方から自己紹介しようとしてきた。

 が、金髪のフルネーム…姓の方を聞いて俺は更に訝しむ羽目になる。

 

 「僕の名はディオス。『ディオス・エーベルヴァイン(・・・・・・・・)』。世界の破滅を望む者だ」

 

 「っ!!?エーベルヴァインだと!!?」

 

 それは聞き覚えのある姓だった。

 脳裏に浮かぶのは俺の大切な家族の1人であり、今は『長谷川』に姓を変えている金髪の少女。

 

 「(ユーリと同じ姓だな)」

 

 まさかあの野郎、ユーリと何らかの関係がある人物じゃないだろうな?

 ……いや、俺の家族のユーリは平行世界からこの世界に流れ着いた存在だ。関係は無いだろうし、あったとしてもそれはこの世界本来のユーリとだろう。

 ユーリと関係がある事よりも偶々姓が同じだったという可能性の方が高いだろうけど気に留めておくかな。

 それに世界の破滅を望むとか……物騒な。

 

 「そして彼、彼女等は僕の忠実な部下達さ。君から見て順にウデガン、ベルガー、シャノン、オムニポー、リロイ、アーマーグ、ロボテール。で、気絶してる彼女はリアラ。皆、優秀なメンバーで一騎当千の強者だよ。折角だし『七将軍(セブンジェネラル)』とでも名乗らせてみようかな」

 

 「……………………」

 

 ディオスと名乗った男が紹介した人物を見て改めて名前と一致させる。

 つまり……

 

 マッチョ=ウデガン。

 爺さん=オムニポー。

 ぽっちゃりちょび髭=アーマーグ。

 茶髪の少年=リロイ。

 眼鏡の優男=ベルガー。

 ロボ野郎=ロボテール。

 ロリっ娘=シャノン。

 気絶中の女=リアラ。

 

 って事らしい。

 

 「(……七将軍(セブンジェネラル)らしいけど7人じゃねーじゃん)」

 

 8人だよ8人。1人多いっつーの。

 

 「ちなみにリアラはカウントしていない。彼女は僕の秘書的な存在だからね」

 

 ディオスは俺の心中を察したかの様に補足する。

 成る程、それなら7人で合っている。

 

 「…と、まあ名前だけだがコチラの自己紹介は済んだよ。次は君が名乗る番だ。まあここで名乗らなかったとしても勝手に調べさせてもらうけどね」

 

 「……時空管理局地上本部首都防衛隊所属、長谷川勇紀だ」

 

 どうせバレるなら名乗っても問題は無いか。

 

 「ハセガワユウキ……ね。うん、その名前、しっかりと僕の胸に刻み込んで覚えたよ」

 

 俺の名を呟き、満足そうに頷いているディオス。

 

 「エ゛ェェェェェイ゛ィィィィィィィィィメン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 

 鉄先輩はチャージを終えた様だが、ディオス達の足元に描かれた転移の魔法陣も輝きを増す。

 

 「ではユウキ、次に相見(あいまみ)える時を楽しみにしているよ」

 

 「楽しみにされてたまるか!ここで潰えろ!」

 

 もう間に合わないと理解しつつも即座にチャージしたヘパイストスを放つ。

 

 「ジェノサイドブレイバアアアアアァァァァァァァァッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」

 

 鉄先輩も極太の砲撃を放つが、予想通りに向こうの転移の方が早く俺と鉄先輩の砲撃は空振りに終わった。

 そして俺の砲撃はともかく鉄先輩の砲撃が結界に当たり、結界内の風景がグニャリと歪んだ。

 

 「……………………」

 

 レスティアが表情をかなり歪めたが、何とか結界を持ち堪えるのには成功していた。

 

 「……逃げられたか」

 

 俺はディオスとその仲間達に逃げられた事でチッと舌を打つ。

 

 「おい小僧…」

 

 「はっ!!?」

 

 だがその矢先に鉄先輩から声を掛けられた。

 まさか、今の舌打ちを鉄先輩に対してしたんだと思われたのか!?

 いつもだったら『勇紀ちゃん』と呼ばれるのに今『小僧』って呼ばれたしな。

 だとしたら俺オワタになりかねん。誤解を解いておかないと。

 

 「鉄先輩、あのですね…」

 

 「こんな所で長々と何をしているぅ?」

 

 「んん?」

 

 アレ?何でそんな事聞かれてんだ?

 俺がさっきまでこの場にいた連中と相対してたのは俺達より後に現れた鉄先輩もご存じの筈。、

 てかコチラに殺意を向けないで貰いたいですハイ。

 

 「ネズミの様に逃げおおせるかぁ、この場で死ぬかぁ、どちらか選べええぇぇぇぇいいいぃぃぃぃぃ!!!!!!!!」

 

 「全力で逃げさせていただきます!!!!」

 

 俺は最敬礼で鉄先輩に答え、急いでレスティア達の元へ向かう。

 

 「撤収!全員撤収!!」

 

 「にゃっ!?帰るの!?」

 

 そりゃ帰りますよ遥さんや。

 何が悲しくて鉄先輩と一戦交えなきゃならんのか。

 

 「あ、神無月。さっきは援護ありがとな」

 

 「いえ。命中しても相手には効きませんでしたから」

 

 「充分だって。あのままだったら敵の攻撃をモロに受ける事になってたからな。マジ感謝してるさ」

 

 おかげで体勢を整える事が出来たし。

 

 「本当にもう帰って良いんですか?」

 

 「この場で何しろと言うんだテスラ。俺達の本来の目的である7つの聖遺物(セブンアミュレット)は既に奪われたんだ。取り戻そうにも連中の居場所がつかめない事にはどうにもならんよ」

 

 そう…連中の撤退と同時に7つの聖遺物(セブンアミュレット)も持っていかれた。

 ティアラに関しちゃ俺が施した、条件を満たした時に発動する時限式の封印が発動してたが多分解かれるだろう。

 連中も取り逃がし、7つの聖遺物(セブンアミュレット)の奪還も出来なかった。今回は完全に俺達の敗北だ。

 その事実を認識した遥、神無月、葉月は気持ちが沈み、暗くなるが奪われたなら取り返せば良いだけだ。

 ツインエンジェルを励ましていた時だった。

 

 「ユウくん!空から高魔力反応だよ!!」

 

 ダイダロスが警告を発してきたのは。

 何事か、と思い空を見上げてみれば

 

 「今日の俺は紳士的だぁ。一発で仕留めてやるよぉぉ!!」

 

 コチラをロックオンしてる鉄先輩の姿があるではないか。

 

 「ちょっとおおぉぉぉぉぉ!!!?」

 

 10数秒前の選択肢は何だったんすか!?

 

 「ネズミが!身の程を弁えい!!!」

 

 「ぬうっ!!?」

 

 鉄先輩の前に跳躍したサウザーが襲い掛かる。

 

 「悠翔嶽!!!」

 

 サウザーが手刀による鋭い連続突きを繰り出す。

 宙に浮いている鉄先輩はその巨体を地面に叩き落された。

 

 「ふっ、他愛も無い」

 

 華麗に着地するサウザーだが、地面に叩きつけられた鉄先輩にダメージは無い。

 ……もう無敵過ぎだよあの人。

 

 「乙女に後退の二文字は無えぇぇ!!」

 

 『乙女じゃなくて漢女でしょ!』と言いたいツッコミの衝動に駆られるが我慢する。

 言ったら手痛い攻撃が飛んできそうなんだもん。

 

 「ほぅ…聖帝である俺を前にして退かぬか。ネズミにしては度胸のある奴よ」

 

 サウザー、感心すんなって。

 鉄先輩はサウザーに向かい、神速とも言える速さをもってサウザーの懐に飛び込んだ。

 

 「ぬうっ!?」

 

 「今死ね!」

 

 鉄先輩も手刀でサウザーを攻撃。

 振り下ろされた手刀をまともに受け

 

 「すぐ死ね!」

 

 魔力を施した手で手刀から握り拳に変え、そのままサウザーの顎を狙い、アッパーで真上に打ち上げる。

 

 「骨まで砕けろぉぉぉぉ!!!!!」

 

 トドメと言わんばかりの渾身の一撃で地面に叩きつけた。

 サウザーに地面に叩きつけられた意趣返しも兼ねてそうだ。

 そして先輩の背後に『これぞ我が奥義、三連殺』という文字が見えた様な気がした。

 叩きつけられたサウザーはすぐに起き上がるが

 

 「ぐうっ!!まさかこの俺にダメージを与えるとは!」

 

 憎々しげに先輩を睨みつけていた。

 あのサウザーがダメージを受けたという事実に戦慄せざるを得ない。

 いかんね。このまま戦闘を行うのは本意ではないのだ。

 まずは鉄先輩の理性を取り戻させる事が優先事項。

 幸いにもその手段は思い浮かんでいる。

 まずはサウザーの回収だ。

 

 「戻れサウザー」

 

 モンスターボールにサウザーを戻した事により鉄先輩のターゲットは俺達に絞られる。

 すぐ後ろで『ひいっ!』と悲鳴を上げた遥達の声を聞きながら俺は準備する。

 

 「貴様等の死に場所はっ!ここだ!ここだぁぁ!!ここだぁぁぁぁ!!!!」

 

 突貫してくる鉄先輩。

 

 「鉄先輩!コイツ(・・・)で正気に戻って下さあああぁぁぁぁい!!!!!」

 

 俺達と鉄先輩の直線上に現れる転移魔法陣。

 

 「っ!!」

 

 鉄先輩、自らの身体を急ブレーキ。

 転移で現れた存在の眼前で完全に停止する。

 

 「後は頼んだぜ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………西条(・・)

 

 俺が転移させたのは未だに気絶中の自称オリ主(さいじょう)。転移魔法で当人を呼び寄せ、寝そべっていた体勢を、立っている様に浮遊魔法を使って見せかけている。

 音速丸の自爆攻撃時と違い、こうやって目の前に西条を配置して鉄先輩に視認させれば何とかなると踏んだんだが…

 

 「(どうやら俺の考えは正しかったかな)」

 

 あれ程怒り狂っていた鉄先輩が今では静かに西条を見詰めているのだ。

 

 「……………………」

 

 少しずつ、少しずつ西条に近付いて行く鉄先輩。やがて…

 

 「ご主人様あああぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 ガバッと抱き着いた。

 

 「ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 意識の無い西条を抱き締めているが気付いてあげて下さい。

 

 ミシミシミシミシミシ…

 

 彼の身体が悲鳴を上げている事に。

 骨が軋んでこのままじゃせっかく修正天使(アップデイト)の効果で完治させてあげたのに、病院直行になってしまう。

 

 「ご主人様!!ご主人様ぁぁぁ!!!」

 

 「……………………」

 

 あぁ……意識の無い西条の顔色がどんどん青くなって…。

 

 「はっ!!こうしちゃいられないわ!!ご主人様の怪我を治して私が看病してあげないと!!」

 

 いや…怪我は完治させたんですが…。

 

 「ちょうどあそこに休める場所があるわ!!ご主人様、もうちょっとだけ頑張ってねん。ぶるぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

 お姫様抱っこで西条を抱え上げ、俺達の事等目もくれずに走り去っていった鉄先輩。

 ほんの少し間を置いて

 

 ガシャアアァァァァンンンン

 

 硝子が砕ける様な音が聞こえたかと思うと

 

 「結界…砕けちゃったな」

 

 周囲の風景が色付き、あれだけ荒れ果てていた街並みが結界を張る前の状態へと戻っていた。

 唯一変わったのは結界を張る前に倒壊したビルだけ。

 そして何故結界が砕けたのか、誰が砕いたのかは言うまでもないだろう。

 

 「あの人、何処行ったの?」

 

 「…多分あそこ」

 

 ナインの呟きに俺は指を指して答える。

 視線の先にある建物の看板は様々な色が点灯した電球のおかげで目につきやすく、看板には

 

 『HOTEL 武利田似阿』

 

 と書かれていた。

 

 「「「「「「「……………………」」」」」」」

 

 誰も言葉を発さず、静かに看板のある方角を見詰めていた。

 

 「……お~い……」

 

 む?

 俺達の向いてる方角とは真逆の方から声が聞こえた。

 

 「そこにいるの、勇紀じゃねえか~?」

 

 名前を呼ばれたので振り返ると、コチラへ駆け寄ってくる複数の人影らしきもの。

 暗い夜道の中、街灯に照らされた時に

 

 「……キンジさん?」

 

 だと認識出来た。

 それどころか、人影の正体はバスカービルの面子じゃないか。

 何でキンジさん達がここにいるんだ?

 

 

 

 まずは俺達がここに居る事や、成り行き上話さなくてはならない状況だったので遥達の正体とかもキンジさん達に報告した。

 勿論ツインエンジェルやツインファントムの正体を口外しない事を約束して貰った上で。

 

 「…つまりキンジさん達はこの辺りに出現した謎の化け物と戦うために派遣されたと?」

 

 「あぁ…現場はもうちょい離れてんだけど、正直凄惨の一言に尽きたぞ」

 

 「現場にいたお巡りさん皆やられちゃってたんだよ~」

 

 俺はキンジさんから事情を聴いていた。

 何でもとんでもない巨体の化け物がパトロール中の警察官に襲い掛かったらしい。

 更に応援で現場に急行してきた他の警察官達や機動隊の人達も化け物と戦い、皆返り討ちに遭ったそうだ。

 

 「外見的には怪我は無いけど意識が戻らない……ですか」

 

 化け物の外見や特徴はキンジさん達も聞かされていないらしく、ただ巨体の化け物だけと…。

 

 「怪我を負わせずに警察官を襲いかかる理由が読めないッスね」

 

 「あぁ…俺達も気になってる点がそこなんだよ。依頼が舞い込んできた時は負傷がいるって話だったんだが実際には怪我一つ負わせていない」

 

 「意識だけを綺麗に刈り取って、痕跡すら残さずに消えたなんて奇妙な化け物だよねぇ」

 

 俺とキンジさん、理子さんは『う~ん…』と頭を捻って考えるが化け物の意図が読めないでいた。

 

 「けどすんません。俺達全く気付きませんでした」

 

 結界の外で起きてる状況を把握出来てたなら化け物の姿を捉える事も出来たかもしれないのに。

 そこまで手が回る余裕が無かったのも確かだし、仕方ないと言えばそれまでなんだが。

 

 「いや、勇紀が謝る必要無いだろ。そっちも大変だったみたいだし」

 

 「だねー。てか理子りんを呼んでくれたらすぐに駆けつけてあげたのに」

 

 「その気持ちだけで充分ッスよ理子さん」

 

 「……これが他の奴の依頼なら絶対引き受けねーくせに」

 

 「あっはっはー♪何か言ったキーくん」

 

 「いえ何も。ですから勇紀の死角から俺に突き付けてる拳銃仕舞ってくれませんかね?」

 

 キンジさんも理子さんも相変わらずの仲である。

 

 「…そろそろ会話に加わっても良いだろうか?」

 

 と、ここで第三者の声が。

 いつの間にかいた眼鏡を掛けた銀髪のお姉さん登場である。

 この人と俺とは初対面だ。

 

 「ああ、勇紀に紹介しとかなきゃな。コイツはジャンヌ。俺の事務所の社員の1人だ」

 

 「初めまして。長谷川勇紀ッス」

 

 「ジャンヌ・ダルクだ。君の事は遠山や理子から聞いてるし、長谷川泰造の息子だという事も知っている」

 

 お互いに握手。

 年上なのでこの人の呼び方は当然『ジャンヌさん』だな。

 

 「ジー…」

 

 「……何スか?」

 

 「……うむ。初対面の人物に頼み込むのは図々しく失礼で厚かましいいとは思うのだが、恥を忍んでお願いしたい事がある。聞いては貰えないだろうか?」

 

 「俺に出来る事なら検討させて貰いますけど…」

 

 何を頼む気なんだこの人は?

 

 「実はある人物にコレを渡して貰いたいんだ」

 

 スッと差し出してきたのは……何も書かれていないサイン色紙と黒のマジックペン。

 どこから取り出したのか疑問過ぎる。

 

 「???」

 

 俺が首をひねるとジャンヌさんは言葉を続ける。

 

 「君の周囲の人間関係とかは私個人で調べた事があるのだがその中に1人、どうしてもコレを渡して貰いたい人がいたんだ。『仁村真雪』……いや『草薙まゆこ』先生に!!」

 

 ここで何故真雪さん?と思うがその後に出てきたペンネームで察してしまった。

 それと同時に思い出した。この人少女マンガ集める趣味があったんだと。

 

 「…つまりジャンヌさん宛にサインを貰ってきてほしいと?」

 

 俺が確認すると凄い勢いで首を縦に振る。

 

 「ま、別に頼むぐらいなら引き受けますよ」

 

 書いてくれるかは本人次第だけど多分書いてくれるだろう。最悪酒と煙草進呈すればいける。

 依頼を引き受けた時のジャンヌさんの表情と言えば、つい先程までのクール系な表情が完全に無くなり無茶苦茶破顔していたとだけ言っておこう。

 

 「そう言えばキンジさん、現場までバスで来たって言ってましたよね?」

 

 「ん?ああ、観光旅行ツアーとかに使われる大型のバスだ」

 

 大人数でもないのに何故大型バス?まあそれはそれで俺達には好都合だけど。

 

 「折角だし、ウチの連中を海鳴市まで乗せてってくれません?」

 

 皆色々あって肉体的にも精神的にもヘトヘトだから電車の最寄駅まで歩くのも負担掛かりそうだ。

 

 「勿論運賃も払うんで。とりあえずコレぐらいを」

 

 俺は財布から諭吉さんを10枚ほど手渡すと

 

 「武藤には俺から連絡しとくし、安全第一で運転する様に言っておこう。ジャンヌ、バス停めてる場所まで案内してやってくれ」

 

 凄くイイエガオで承諾してくれた。

 海鳴市まで運ぶだけでこの運賃はキンジさん達にとって良い儲けとなっただろう。

 俺は軽く頷いて遥達の方へ行く。

 大方の内容は聞こえてただろうから端折って説明しても良いだろう。

 

 「つー事で海鳴市まで送って貰えるから皆あの人に付いて行ってくれ」

 

 「アンタは?一緒に帰らないの?」

 

 葉月の疑問に俺は答える。

 

 「俺は今回の件の後始末…つーか偽装工作せにゃならんからまだ残る」

 

 倒壊したビルはビル自体が手抜き工事で建てられてた様に偽装すりゃ良いけど、あの瓦礫の中に埋まってる管理局員の死体はどうにかしておかないといけない。

 複数の身元不明の遺体として発見でもされたら世間で騒がれる事は目に見えているのでな。

 

 「ついでだ。海鳴市までの護衛はジャンヌと理子にやらせる。化け物が襲って来た時に対処出来る様にな」

 

 キンジさんが追加で提案してくれる。

 それは有り難いかな。皆消耗してるのに化け物なんかに襲われたらひとたまりもない。

 

 「「えー…」」

 

 指名された理子さんとジャンヌさんは不服そうだが。

 

 「もし護衛を請け負ってくれるなら理子は好きなゲーム1本、ジャンヌは好きな服を1着、ウチの経費で買う事を許してやろう」

 

 「皆!化け物に襲われた時は理子りん達に任せてね♪」

 

 「ああ、だから海鳴市に着くまでは安心してくれていいぞ」

 

 物に釣られる元イ・ウーの構成員。それでいいのか…。

 

 「あ、フェイトは俺が連れて帰るから」

 

 未だに目が覚めないフェイト。

 まあ、直に目を覚ますだろうし目が覚めた後には俺と一緒に本局にでも赴いて貰わないと。

 俺は今回の件で唯一生き残った管理局員に向き直る。

 この人は最初遥達を襲った側の人間だったので、一応魔力の錠で逃げられない様にして拘束してる。

 

 「貴方には今回の件について本局に赴き、洗いざらい吐いて貰います。今回被害者側の俺の友達からも一通り事情は聴いてるんで嘘を吐いて逃れようとは思わない様に」

 

 少し凄んで言うと物凄い勢いで首を縦に振られた。

 これで下手な言い訳とかもしないだろう。

 フェイト以外の面子を見送ってから俺は早速偽装工作に入る。

 工作しつつも脳裏に浮かぶのは今日相対した連中の顔ぶれだ。

 その中でも特に危険だと感じた金髪の男…

 

 「(ディオス・エーベルヴァインか……)」

 

 俺はキレた鉄先輩と戦ってる時のディオスを見ながら大体の戦闘力を予測していた。

 それを仮想敵として脳内で俺と戦ってみるが

 

 「(……マズいなぁ)」

 

 正直、万全の状態であっても勝てるイメージが湧かない。

 ここに宝具の真名解放、それも乖離剣(エア)を追加してみるが

 

 「(勝率1割いくかいかないかって所か…)」

 

 今回鉄先輩との戦いでアイツは全力じゃなかった(・・・・・・・・)

 奴自身が言ってた『ロクに力を取り戻せていない』という言葉が何故か真実だと感じたから。

 

 「(アイツとガチでやり合うには今の俺じゃあ弱すぎる)」

 

 他の転生者、亮太、椿姫、澪、鳴海少将、一応西条の5人をコチラに加えてようやく勝率3割に届くって感じだな。

 けど実際全員でディオスに当たる事が出来るかどうか。

 奴の仲間もいる以上、戦力は分断されて当然と見るべきか。

 アイツは俺の事を評価してくれてたが、それは俺がこれから強くなるのを見越しての事だろうか?

 

 「(……上等だ)」

 

 なら強くなってやる。今よりももっと強く…。

 これが、俺が更に強くなろうと決意を改めた時であり、後にあらゆる世界を巻き込んだ最悪の大事件を引き起こす最強にして最凶、かつ最恐の男、『ディオス・エーベルヴァイン』との出会いの日であった………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あと余談だが西条はギリギリのタイミングで目覚め、貞操を鉄先輩に奪われるのは阻止できたのだとか………。

 

 ~~あとがき~~

 

 何か鉄先輩の活躍を書いてたら20000字オーバーしました。

 途中で区切って2話に分けるか迷ったんですけど結局まとめて投稿する事に。

 増援で現れたオリ敵勢力の皆さんが弱く見えるかもしれませんが実際は強いです。ホント強いです。

 ただ鉄先輩がヤバ過ぎるというだけなので。

 まあ今後鉄先輩がここまでキレる事はもう無いと思います…………多分。

 それと最後にちょっとしたネタバレを。

 オリ敵勢力のディオスですが、この小説全編においてのラスボスとだけ断言しときます。他の面子はラスボスを守護する大ボスといった立ち位置ですね。

 今回はラスボス勢と主人公との顔合わせ的なイベントだったので今後はしばらく暗躍させると思います。

 なので彼等の事を忘れないであげて下さい。

 


 
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