「……男子が二人になったからあぁなるのね。やっぱ」
「どうしたのいきなり」
「いや……ハハハ」
諦めた感じで笑いジャガイモと玉ねぎの味噌汁をすする。うん、美味しい。
三人が転入してきた翌日。二人目の男子の話題で盛り上がり、先日の襲撃なんてなかったかの様なIS学園。朝の食堂で僕は日替わり定食、ごはん、味噌汁、もやしサラダ、だし巻き卵、鯖の照り焼きを食事中。他にデュノア君、ケントン、のほほんさんに相川さん、谷本さんがいる。
「ねーねーこーくん。男の子二人って、どんな感じ?」
「それ聞く……?」
そういう系の質問はやめてくれ。
デュノア君が来たことで男子が二人になり、僕は教員部屋から寮の部屋にお引っ越しになったのだ。いつまでも生徒が一人、空きといえど教員の部屋にいてはよくない、生徒は学生寮に、との事で。
その1024室にてデュノア君と同室となった。
理屈は通っているし分かる。けど僕にとっては死活問題だ。何せトラウマと重なる人物が近くにいることになったのだから……。
「止めてくれ!」と抗議したけど、寮長の織斑先生に阻まれ拳骨まで落とされた。どうしようも出来ない。
「どうって言われても……」
苦手な人物との暮らし、しかもまだ一日目。どう説明しろと言うんだ……?
「な、なんかゴメンね? もしかして僕、光牙に何か悪い事した?」
僕を見たデュノア君が、悪い事をしたみたいな風に聞いてきた。同じ男子だからと名前呼びを許してもらってるけど……ゴメン。名字で勘弁して。
「いや、デュノア君が悪い訳じゃあないんだけど……」
「何か理由があるの?」
はい、大有りなんです相川さん。
黙ってるのも悪いし……全部は無理だけど説明するとしますか。
「実は、僕の知ってる人にデュノア君とそっくりな人がいてね」
「僕とそっくりな?」
「あぁ。そいつと……まぁ色々あって。デュノア君見ると重なっちまうんだ」
肝心なとこを言わないのはズルいと思う。けどコレに関してはホントにえらいので勘弁して……いやマジで。
聞いた皆は理由が何か気になっている感じだけど。
「そっか……。うん、分かった。なら聞かない」
「デュノア君?」
「光牙が言いたくないなら無理には聞かないよ。誰だって、踏み込んでほしくない部分はあるから」
おぉ……デュノア君。君は聖人か。
こんなことを言った僕を気づかってくれるなんて。『アイツ』とは大違いだぁ。
「皆も良いよね?」
「うん。デュノア君がそう言うなら」
「気になるけど仕方ないよね」
「おっけーなのだー」
「私もです」
しかも皆にまでフォローを。ありがたやありがたや……。
「すまん。恩に着る」
「いいよ。でも露骨に避けたりはしないでね」
デュノア君にっこり。
――ゾックゥ!!
「…………うん。そうする」
「え、今の間は何?」
間は気にしないで。
ただちょっと重なって思い出しただけだから。
はぐらかさんとご飯と鯖を口へ運ぶ。いや魚と米の相性はいいねー。
そう思っていると……。
「ふむ。では滝沢、今度一緒にISの訓練をしましょう」
ケントン(名前は互いに名字)が提案してきた。ISの訓練?
「はい。ここにいるメンバーで」
……はい? ここにいるメンバーで、だと?
「口では説明しましたけど、デュノア君に対しまだ固いですよ」
「そ、そう?」
「はい」「「「「うん」」」」
え、マジで?
「でもなんで訓練?」
「一緒に訓練すれば互いの為になるでしょう。それに、苦手とする人物を避けるだけでは、克服なんてできやしませんよ」
「うっ!?」
「あー、それ言えてるかもね」
「苦手だから向き合えってヤツ?」
「そういうことです」
ケントンの提案に相川さん達が乗っかっていく。
いやいやいや、ちょっと待てよオイ。
「つまり、これってこーくんの苦手克服かぁ。うん、私もいーよー」
げ、のほほんさんまで。
これでのほほんさん、相川さん、谷本さんの仲良し四人組(勝手に命名)がケントン側になってしまった。ちなみに最後の一人は鷹月さんだ。
だ、だが忘れているぞ。肝心のデュノア君がまだいるぞ!
本人という最後の砦。それの許可なしじゃ簡単に……。
「僕もいいけど」
アレェ!?
「同じ男子の悩みには答えてあげたいからねー」
思わずずっこけてしまったぞオイ! 陥落ではなく裏切った……だと。
というかその変な棒読みはなんだデュノア君!
「ルームメイトでもあるしね〜」
にっこり再び。
僕は君に裏切られる事をしたのか?
※しました。
「では決まりですね」
「いや勝手に決めないで!?」
「いーじゃん。私達もいるんだし」
「それにこーくんと訓練するの初めてだし」
「見せて貰いますよ。男性操縦者の力量というものを」
「と言う訳で光牙。よろしく」
「………………」
「良かったね。皆も協力してくれるから」
三度目のにっこり。
逃げ場が……ない。というか皆、その怖い笑顔は止めてくれ。某エンタメデュエリストが叫びだしそうだ……。
「……で。こうなったのよね」
「誰に言ってるの?」
これを見ている方々に決まっているだろう。
結局あの笑顔包囲網から逃れることなんてできず、ケントン提案『こーくんの苦手克服大作戦(命名のほほんさん)』はその週の土曜日に実行された。
土曜日の午前中だけは座学があって午後からが自由。全開放されたアリーナの第三にてあのメンバーが集結だ。
「じゃあ始めましょうか」
「こーくんの苦手克服大作戦、開始〜」
それは決定なのかのほほんさん。
仕切るのは提案者のケントン、なんでも日本の研究所のテストパイロットらしく専用機を持っている。ISスーツも黒の赤の二色のやつでちょっとカッコいい。なんだっけ研究所、きで始まる名前だった気がする。
専用機はデュノア君もで、フランスの大企業の息子で代表候補生。知識も凄いらしく僕がぶっ倒れてた時の実習では山田先生だ使用した第二世代機『ラファール・リヴァイヴ』についてスラスラ説明してたそうだ。P.S.のほほんさん談。
そんなこんな僕らの始まった訓練。僕のベーオはこないだのメカザウルスとの戦いで破損し修理中。なので訓練機の『打鉄』を借りて使用している。
この訓練機申請と言うのが思ったより面倒だった。何、申請書類というあの紙束。書き方を相川さんらに教わりながらどうにか提出し、今日借りれたわけ。頭と手の痛みが報われた気がしたのですよ。
その訓練機、侍みたいな打鉄を装着し起動。慣らしてから専用機持ちのデュノア君、ケントンと軽く模擬戦。
「貴方はメチャクチャな戦い方をしますね」
「うん」
で、今は振り返り。いきなり戦った二人からダメ出しを食らう。
「武器投げたりとか銃で殴ったりは普通しないよ……」
「……そ、そう?」
「非固定ユニットまで投げた貴方が何を言いますか」
ISには非固定ユニットっていう機体と接続されてないパーツがあり、打鉄は肩当て型のシールドがそれに当たる。武器が手元になかったから取って振り回したり蹴っ飛ばしたり投げしただけなんだけど、何故に驚かれるかな?
ちなみに回収してきたから武器とシールドは全部ある。
「だから普通はしませんって」
「ふーん」
「こーくんちょっと使い方荒いよー。ISのことも考えなきゃ」
ぬ、左の方にいるのほほんさんからも言われてしまった。同じ気持ちなのか相川さんと谷本さんも頷いてるし。
確かにメチャクチャだったかもしれない。気を付けよう。
その僕の模擬戦、ISの操作は件のレバガチャでやりにくかったけどなんとか慣れてきた。ただ二人の優勢でどちらも終わってしまったんだけども。
「光牙は近接格闘の割合が多かったから、格闘の方が得意?」
「そ、そうだな」
「型破りですが確かに凄まじかったです。格闘に関しては置いておきましょう。本題はそれに入るまで、です」
それに入るまで、とな。
「はっきり言って乱暴です。回避しながら突っ込んでいくのには驚きましたが、射撃中の相手に自ら突っ込んでいくなんて自殺行為ですよ。射撃武器の特性、理解してます?」
「懐に飛び込めば無力化できるんじゃないのか」
「「………………」」
答えるとひきつった顔の二人。あれ、なんかまずった? のほほんさん達も同じなんだけど……。
「い、いい? 確かに遠距離を攻撃して近距離では取り回しづらくなるよ。でも他にもちゃんと理解してないと困るよ?」
「格闘型なら余計に、です」
「それは確かに。相手を知れば戦いやすくなるからな」
「じゃあまずは射撃武装を展開して、一通り撃ってみて下さい」
「分かった。焔火」
説明に納得するとアサルトライフルの焔火を呼び出す。
ベーオにも拝借している見慣れたライフルを手にして展開された的へ向け、引き金を引く。
――ドドドドッ!!
火薬の炸裂音が連続で響き、銃口から飛び出した弾丸が的を穴だらけにしていく。
「次は単発で」
言われた通りにモードをオートから単発に変え別の的を狙う。
バンッ! バンッ! バンッ!
断続的に音が炸裂する。
「感想は?」
「何て言うか、速いね。撃った直後に的が割れてら」
「そう、速いんだ。光牙も……あの動きは速いけど、弾丸は面積が小さいからより速い。軌道予測があってれば簡単に命中させれるし、外れても牽制になる」
「滝沢は更に自分から突っ込んできますからね。あの変な機動を除けば格好の的、という訳です」
ふーむ、成る程。さっきの戦いでも一方的に追い込まれる場面があったが、そういう事だったのか。
……ただケントン? 段々と言葉がキツくなってるのは気のせいか。
「あれはおかしいと凄いを通り越して変態ですよ。あの戦いっぷり」
「失礼な!」
「あとまだデュノア君に対して固いですね。少しずつでも克服しましょう」
なんかついでのダメ出しと注意を食らったんだが……。ひ、比較的マシなんだよこれでも?
「まあまあ〜落ち着いて。ねぇでゅっちー、そろそろ変わっていい?」
「あ、そうだね」
借りた打鉄は一機。だから使い回しだ、僕は打鉄をしゃがませ装着解除。グラウンドに飛び降りると、のほほんさんが打鉄に乗る。ISの動きまでのほほんさんみたいにのほほ〜んとなったぞ、なんだありゃ。
「そう言えば、デュノア君のISってラファールなの? 似てるけど」
それを見ていると谷本さんがデュノア君に聞いていた。言われてみれば確かに。教科書で見たラファールはネイビーグリーンでもうちょっとゴツい感じ。
対しデュノア君が纏ってるのはオレンジでカラーリングされ、全体的にスマートな感じになっている。
「僕のは専用機だからかなりカスタムされてるんだ。正式名称は『ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ』。基本装備(プリセット)を幾つか外してて、その上で拡張領域(バススロット)も倍にしてあるんだ。今の装備は二十位だね」
「えぇ! そんなにあるの?」
「でゅっちーすごーい!」
二十か、そりゃ凄いや。ゲッターロボの全形態の武器を全部乗せしてるみたいだ。
皆も驚くのも無理ないよな、でものほほんさん。射撃しながらこっち向くのは危ないぞ。今のとこ誰にも当たってないからいいが……。
「武器が多数装備すれば、それだけ多くの状況に対応できる。使いこなす力量があればですが、装備しているのなら何かあるのでしょうね」
ケントンはテストパイロットっぽくデュノア君を分析。二十の武器を持つデュノア君、ただ者ではないのは一回戦っただけでも分かる。
そしてそれは、ケントンにも言えることだ。
纏う紺のIS。『ディープ・アイ』というその機体。全体的に細く、シャープなパーツやアーマーで機体を構成していて機動力が高い。
主武装はサブマシンガンとピストル。肩に内蔵された小型ミサイル、近接用ナイフ。それに牽制と近接を兼ねた針、ピックが複数。剣やナイフよりも遥かに細い『点』の攻撃を関節や首の後ろといった急所を的確に狙ってくる。機体の腰や脇、足といった各部にはピックやナイフが収納されていて、それも用いて思わぬ急襲をかけてくるのだ。
変わったコンセプトの機体。急所を狙って一気に倒す。
……ぶっちゃけるならアレよ。チャララ〜♪ってメロディが流れたら相手をズバッと倒すアレ。仕人。
とにかく珍しい機体だと記憶しとこう。
そんな二人やISを見てて考える。ゲッターの武器をつけたらどうなるか、と。
時々他のISを見て思ったりしたんだけど、打鉄、ラファールにはマシンガンやレールガン。デュノア君は複数の武器を装備してるから、さっき考えたみたいにゲッターロボ全形態の武器全部乗せもありなんじゃないかと思う。
強化されて、メカザウルスが来ても大丈夫じゃないかな。
ケントンのは……ちょっと分からん。内蔵式のゲッタービームとか?
「ねえ、アレ見て……」
「うわ。ドイツの第三世代型じゃん」
「まだ本国でトライアルの段階じゃなかったの?」
ん? 何やら周りが騒がしくなってきた。確かにこの第三アリーナには休日だからと、僕ら男子がいるとかで人が多いが、なんだなんだ。
「………………」
視線をざわつきの元に移動させると、そいつは佇んでいた。
確か、ラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生で専用機持ちと聞いてる。
その身に纏っているのは漆黒のIS。右肩にある大砲らしきパーツが目を引き、まるで城塞の様な印象を受けた。
彼女の事はよく知らない。ぶっ倒れてから、デュノア君、ケントンとは少し話してるが、はっきり言って会話もしてない。
「……おい。滝沢光牙」
その筈だが。ボーデヴィッヒはいきなりフルネームで僕を名指すと、フィールドに降り立ってきた。
……何故だろうか。片方だけのその瞳は僕を睨んでる様にもみえる。
「何?」
「貴様も専用機を持っているそうだな」
「今は修理中だけど」
「ならば訓練機でもいい。私と戦え」
なにを言ってるんだお前は。
「いきなり何よ。悪いけど、戦う理由がない」
「貴様になくても私にはあるのだ。……あの人に何をした」
「あの人って誰?」
「織斑千冬殿に決まっている!」
飛び出してきたのは織斑先生の名前。いきなり何故に?
「織斑先生に何かした覚えはないんだが。だから戦う理由はないよ」
「貴様……」
不満気なボーデヴィッヒだけど言った通り。何があったか知らないし戦う理由がない。
立ち去ろうとすると、ガコン、と重厚な音が聞こえてきた。振り返ると、ボーデヴィッヒのISの大砲が……こちらを向いていた。
「ならば、戦わざるを得ない様にしてやる」
ドォンッ!
刹那、爆裂音と共に大砲が火を噴く。なっ、ヤバ――。
ガギィン!
「うわっ!」
弾丸は阻まれ届かなかったが、火花と衝撃に尻餅をついてしまう。
「滝沢君!」「大丈夫!?」
「あ、あぁ。ちょっとびっくらこいただけ」
駆け寄ってきた相川さん達に大丈夫だと言う。しかしボーデヴィッヒ……アイツ何考えてる!
こっちは生身なんだぞ!
「ドイツの人は沸点が随分低いんだね。こんな密集空間で戦闘を始めようとするなんて」
「しかも生身の相手に。殺人未遂ですよ」
「貴様ら……第二世代機もどきとテスト機の分際で邪魔を」
立ち塞がる様に守ってくれたのは、デュノア君とケントン。割り込んだデュノア君がシールドで大砲を防ぎ、右腕にアサルトカノンを。ケントンは指に挟む様にピック三つを両手で、計六つを構え戦闘態勢をとっている。
いつの間にそこまで……二人とも、全く見えなかった。
『そこの生徒! 何をやっているか! 学年とクラス、出席番号を言え!』
睨みあいが続いているとスピーカーより響き渡る声。先生のものだろうか。
ボーデヴィッヒにも聞こえた様で「ふん……」と武器を下ろす。
「今日は引いてやる」
戦う気が薄れたのか、機体を解除しボーデヴィッヒはアリーナのゲートへ消えていく。
いつの間にか息を止めていた僕は、はぁぁ、と大きく息をついた。
「滝沢、大丈夫ですか」
「あ、ありがとうケントン。デュノア君も……」
「無事なら良かったよ」
デュノア君は人懐っこい笑顔でそう言ってくれる。
こんな僕にも……。苦手と避けてたってのに。
「そろそろ上がろうか。もうすぐアリーナも閉館時間だしね」
「デュノア君、今日はありがとうね」
「さっきも守ってくれたし。ケントンさんもありがとう」
「いえ、こちらこそ」
「こーくんの苦手克服、第一回終了〜」
そうだ。これはデュノア君への苦手克服も含めてたんだ……。デュノア君は守ってもくれたのに。
僕は、何か克服出来たのかな。
「戻ろっか。あ、打鉄戻さないと」
「僕がやるよ。借りたの僕だし」
一番に名乗り出る、当たり前だ。僕が借りたんだから。
「じゃあ僕らは先に行ってるね」
「ちゃんと戻して下さいよ」
「分かってる」
着替えに戻る皆と別れ、専用のカートを借りてきてISを運ぶ。
動力? そんなもんはないから重い。スーパーロボットもパワードスーツも動かなきゃ鉄の塊にかわりない。
重いし動かしにくいのだが……デュノア君を始め今日一緒に訓練してくれた。
……『アイツら』とは違う。そんな皆に答えたい、せめて力仕事は一人でやってやる。
僕だって……変わりたい。
「よい、しょぉ!」
格納庫の元あった場所に打鉄を戻しカートも片付ける。
さて、戻りますか。
そう思い格納庫から出ようとして――。
「ちょっと待ちなさい」
見知らぬ女子生徒に引き止められたのは、その時だった。
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第十八話です。