No.81930

オリキャラ恋姫 悪タレ青葉とカタブツ紅花 ―第二章―

引き続きオリキャラ作品・第二話目です。

やっぱりオリキャラをメインにすると ほとんどオリジナルですね、タグに『恋姫』って入れるのに勇気がいります。

それでも読んでくださる方が楽しんでくれることを目標に、

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2009-07-01 02:42:25 投稿 / 全11ページ    総閲覧数:4720   閲覧ユーザー数:3853

 

 このお話のみに登場するオリキャラの紹介。

 

 1、潘璋(はんしょう)

 真名:青葉(チンイェ)

 呉軍に所属する武将。貧民街の悪ガキが徴兵に応じた不良将校で、ガラが悪い。何よりも まず手柄を狙い、命令に服する気がない。巨乳。

 

 2、朱然(しゅぜん)

 真名:紅花(ホンファ)

 呉の名門出身お嬢様、これまで勉強漬けの真面目一徹で、軍に入ってからも他人との折り合いを知らない。それでよく青葉とは衝突している。全身鎧を常にまとっているためプロポーション不明。多分巨乳、もしくは貧乳。

 

 二人ともまだ一刀に真名は呼ばせていません。

 

 それでは本編をどうぞ。

 

 

 前回までの あらすじ

 俺こと北郷一刀ボーイは祭さんに頼まれて、錬兵の時に ゆうこと聞きやしない問題児二名、――潘璋、朱然の更正を任されてしまいました。

 この二人を説得して、錬兵の時にちゃんと言うことを聞くようにしろ、と言わはるんです。

 

 厄介なことを押し付けてくれやがって、チクショーッ。

 

 しかしまあ私とて日頃から呉の方々に世話になっている身、役に立つのも やぶさかではありません。

 そこで まず俺は、問題児コンビその1・潘璋の説得に向かってみました。

 

 そして いきなり後悔しました。

 

「……あ~ん?」

 

 ギロリ、と鋭く輝く瞳。その眼光はさながら獲物を狙う猛禽のよう。

 俺はその瞳に見据えられて、一歩も身動きが取れません。まさにヘビに睨まれたカエルです。助けてママン。

 

「悪ぃな天の遣いさんよ、もぅ一ッペン言ってみちゃくんねえか」

 

 潘璋さんは口に含んだ濁り酒を、そのままペッと床に吐き捨てました。無論 無作法な行為ですが、潘璋さんのヤクザッぷりが怖くて誰も注意できません。

 俺は震えながら答えました。

 

「ははは、はい……、ですので、錬兵中、もうちょっと、皆と調子を合わせてみては………」

 

「お前に そんなこと言われる筋合いがあるのかよ……?オレッちだってな、ここに来たばっかで手柄らしい手柄も取れずに焦ってんだ……。昨日のアレだって、そーいう焦りの表れだって言われなきゃわかんねーのかよテメーは?」

 

「はいっ、わかります!すいませんでした!スミマセンでした、ハイ!」

 

 もう諸手を上げて降参、俺にはダメです、もうダメです。

 

「でもな、……オレッちだって聞き分けのねえガキじゃねえんだ。条件次第によっちゃ心を入れ替えてアンタの言うとおりにしてやってもいいんだぜ?」

 

「えっ、ホント?」

 

「オレッちを将軍にしてくれよ。そうすりゃセコい手柄を狙わずに済むからな」

 

「しょ、将軍ッ?…イヤでも それは、ちゃんとした功績でもないと……」

 

「だから、オレは その功績が欲しくて毎日毎日頑張ってんだろ。わかってんのか?」

 

「そそ、そうですね、わかりました、わかりました!」

 

「わかったんなら出直してこいや。オレッちを将軍にする権限もないくせに、偉そうに説教しにくんじゃねッ!」

 

 後はもう、空になった酒瓶やなんかと一緒に部屋を叩き出された俺でした。

 うう、やっぱダメだよ俺なんか。川藤先生のマネなんかできるわけないじゃない。あと余談だけどドラマ版、ニコガク野球部のメンバー全員イケメンとかありえません。

 そんなわけで問題児その1、潘璋さんの説得に見事 失敗した俺は途方に暮れるしかなかった。

 

「だからといって ここで やめるわけにもいかないからなぁ…」

 

 きっと失敗しましたって帰ったって祭さんは聞いちゃくれない。負けて帰る道は俺には残されていないのだ。

 とすれば残っている道は唯一つ、説得を続けるしかない。潘璋さんのほうはダメだったが、もう一人の問題児、カタブツの朱然さんの説得が残っている。

 朱然さんは前情報によると イイとこの お嬢様、ちょっと勉強のしすぎでおカタいところはあるけれど、優等生キャラというなら不良の潘璋さんより話しの通じるかもしれない。

 俺は一縷の望みを掛けて朱然さんのところへ向かった。事前の情報が確かなら、彼女は今 兵舎で待機任務中のはずだ。

 

 

 

「……こっ、これは天の御遣い様ッ!ようこそ おいでくださいましたッ!」

 

 と気持ち慌てた様子で俺を出迎えてくれたのは、問題児その2、朱然さん。問題児などというレッテルは何処へやら、礼儀正しく俺を出迎えてくれる その態度は現時点で百点満点。

 

「恐縮です、このような場所へご足労頂くとは…!何もありませんが、ただいま粗茶の用意をいたしますので しばらくお待ちください!」

 

「いやいや、いいんだ朱然さん、俺の方から勝手に押しかけたわけだから、おかまいなく……!」

 

 と俺は制したが、彼女は既に小間使いに命じて厨房にお茶をとりに行かせた後だった。

 ああ、何と言うよく出来た娘さんだ。こんな子が問題児だなんて世の中間違っている。

 

「御遣い様は、我が呉軍が誇る参謀の一人として、孫権様や冥琳様とも入魂の御方、粗略な扱いはできません!」

 

 朱然さんは大真面目に言い切る。

 その いでたちは少女らしさの残る可憐な顔立ちに黒髪のショートカット。その下は、首から爪先まで真紅の鎧に覆われていた。…これから天下分け目の いくさに出かけようかというほどの重装備だ。

 

「……………」

 

「あの…、御遣い様、どうかなさいましたか?」

 

「いや、その鎧、どうなのかな?と思って」

 

 今 彼女が就いているのは待機任務。

 敵の急襲や不慮の事故に備えて、いつでも対応できる兵を用意しておく任務だ。その間は何処かに出かけたり、酒を飲んだりして対応力を落としてはいけないが、さりとて常時鎧を着けておくほど緊張はしなくていいはず。

 ただ歩くだけでも大いに体力を使う全身鎧。日常生活まで身に着けていたら拷問だろうに。

 

「いいえ御遣い様、私は、栄えある呉軍に入隊した その日から、この鎧を脱いだことは一日たりともありません」

 

「一日もッ?休日とかはッ?」

 

「休日も、鎧は着用しています」

 

 なんでそんな苦行みたいなことをッ?

 

「それは、この鎧姿こそが武人の基本だからです。武人は鎧を着込んで戦場に出ます、その時の心構えを一時たりとも忘れぬように、若輩者の私は常に鎧を身に着けているのです」

 

 ……前言撤回、やはり この子も いくらか改めるべき点があるようだ。

 いくら気を緩めないためでも、始終こんな いかめしい鎧を着られたら周りの人だって息苦しいだろう。

 

「……まあ、ところで朱然さん、今日俺が来たワケだけど………」

 

「お待ちください御遣い様、その件、言わずとも私には わかります」

 

 え?そう?

 

「潘璋のことですね」

 

 ……………。

 

「彼女のことで、先日は醜態をお見せしてしまいました。…あの軍紀を塵とも思わぬ潘璋の乱行、同期の者として恥じ入るばかりです。それを心配された御遣い様が、冥琳様や黄蓋様に代って打診に来られたというわけですね」

 

「……えーと」

 

 アナタも問題児にリストアップされてますよー、とはメント向かって言えない。

 

「ですがご安心ください。この朱然、名門・朱家の末席を汚す者として、また孫呉に大恩ある者として、あのような無法者は すぐさま修正し、孫家に易ある鋭兵として仕立て直してご覧に入れます。それがダメなら私が責任をもって あの者を呉軍から叩き出してやりましょう」

 

「いやいやいやいや……」

 

 俺は慌てて反論しようとしたが、彼女の瞳は反論を許さぬほどにキラキラと輝きに溢れていた。

 …イカンこの子、自分のやっていることに一片の疑いもない。彼女にとっては軍紀、というか上から言われたことが すべてで、それ以外の正義はあるはずもないと言わんばかりだ。

 やはり彼女とも よく話しあう必要があるかも。

 

「…ま、まあ少し話でもしようか。潘璋さんのこととかも含めて、君の意見をよく聞いておきたいからね」

 

 とにかく話をしないことには何も進まない。俺は腹を括ることにした。

 しかし対する朱然さんは、さも申し訳なさそうに。

 

「…申し訳ありません御遣い様、私は今 待機任務中なので、任務外のことに気を取られるわけには行きません」

 

「アレ?でも待機任務って所定の位置から離れさえしなければ いいんでしょ。有事に備えて待機するだけの任務だし」

 

「はい、待機中には、孫子呉子の書取りをみずからに課しています。今日の分は、まだ終わっていませんので……」

 

 と朱然さんがちらりと視線を送る先には、広げてある書きかけの竹簡が。

 うわ~……、他の待機中の将校さんたちはカオスオンラインの恋姫無双デッキでカードゲームなんかしてるぐらいなのに、この真面目ッぷり。

 しかし、俺とて このまま引き下がるわけにもいかない。

 

「でで、でも朱然さん!そういわずに少しでいいから俺の話を聞いてくれないかッ?ホラ、お土産に饅頭ももってきたんだ!」

 

 と俺が懐から出したのは、蜀の国から直々に取り寄せたベヘモット饅頭。なんでも南蛮遠征中に はわわ軍師 諸葛孔明が、川神の怒りを鎮めるイケニエの代わりに人の頭に似せて作ったという曰くつきの饅頭だ。

 饅頭の衣に浮かぶ苦悶の表情に、中身は甘い小倉あん。

 女の子ならきっと甘いものには目がないはずと、あらかじめ用意しておいたものだが……。

 

「……饅頭、ですか?」

 ピキッと、朱然さんの表情に深刻さが増した。

 

「あれ?」

 

 どうしたんだろう、俺の見間違いだろうか?どうも朱然さんが怒っているような気がするんだが。

 でもなんで?なんで怒るの?

 任務中にお菓子なんて勧めたから?神聖な勤務時間に何を出しとるんじゃい、とかそんな感じ?

 はっ、まさかッ!お菓子を差し出したことが賄賂と受け取られた?別に山吹色の菓子じゃないけど真面目一徹な朱然さんなら充分考えられる!

 

「イヤあの君、これは別に、俺のホンの気持ちというか………!」

 

 違法な献金がばれた政治家のように しどろもどろになりながら弁明する俺。それにたいして朱然さんは、

 

「いいえ、違うんです御遣い様」

 

 え?

 

「私だって、人からの贈り物を無碍にするほど、そこまで頑固者ではありません。………むしろ私、甘いものが大好きで」

 

「へ?そうなの?」

 

「昔から改めようと思っているんですが……。前に実家で偉い儒者の方をお呼びして講義をつけてもらっていた時、袖の中に忍ばせていた落雁を どうしても我慢できずに講義中に食べてしまって、見つかって大目玉を貰ったりとか……」

 

「ぷっ」

 

「ああッ、笑わないでください御遣い様!」

 

 イヤそれは、これまでのカタブツ朱然さんからは考えられない面白エピソードだ。人間カタブツだ鉄面皮だなどと言っても やっぱりどこか くだけたところはあるもんだなあ。

 ……アレ?じゃあなんで饅頭を見せたときに難しい顔をしたの?

 

「あの、それはですね…」

 

 朱然さんが しどろもどろに説明する。

 

「じつは今日、城下の菓子店で、珍しいお菓子が売り出されることになっていまして……」

 

 ふむふむ。

 

「それが、南蛮のとっても珍しい果物を材料にしているので、滅多に出回らないお菓子なんです。今日はそのお菓子で飲茶をしようと思ったので、……それに向けて、お腹をすかせておこうと……」

 

 それで俺の出した饅頭をためらったわけか。

 その城下で売り出されている珍しい菓子を美味しく食べるためにも、お腹はすかせておきたい。しかし断ったら、差し出した俺への失礼になる。そういう葛藤が真面目な彼女の中でせめぎあっていたということか。

 

「よしよし、そういうことなら この饅頭は仕舞っておくことにしよう。その南蛮フルーツのお菓子のためにお腹をすかせておかないと………」

 

「で、でもッ!」

 

「?」

 

「その孔明饅頭も、なかなかの珍味なんですよね……?」

 

 アレ?もしかして朱然さんの葛藤は、100%食欲?

 しかも饅頭の名前変わってなくね?

 

「孔明饅頭……、イケニエとして捧げる生首を模して作られたという そのお饅頭は、あまりに精巧に作りすぎたために期待以上の効果を発揮し、川神の怒りを鎮めるどころか 勢い余って『神の手』とかいう別の荒神まで召喚してしまい、危うく蜀の兵全員がイケニエにさせられるところだったとか……」

 

 孔明、何そんな危険なものを発明してるんだか。

 

「つまり、それほど伝説のお饅頭なんですよ!」

 

 朱然さんが力説する。

 

「そんなお饅頭を せめて一口……。血のようなアンコ、断末魔のごとき歯ごたえ……」

 

「落ち着くんだ朱然さん!君はその限定販売のお菓子を狙ってるんだろう!初志を曲げてはダメだ!あとその食欲を減衰しそうな表現もダメだ!」

 

「はっ、そうでした」

 

 何とか正気に戻った朱然さん。…ほんとにカタブツキャラなんだよな、この人は。

 

「…ところで朱然さん」

 

「は、なんでしょうか?」

 

「その限定販売のお菓子なんだけど、こんなにゆっくりしてていいの?限定なら早く行かないと売切れてしまうんじゃない?」

 

「何を仰います、お菓子などより重要なのは武人としての任務。この朱然、待機任務を疎かにしてまで我欲に走る愚かさなど持ち合わせていません!」

 

「そ、そうだね」

 

 最初の調子が戻ってきて、なんだか安心してしまう。

 

「それに、そのお菓子の販売は、正午からと予め決められているのです。それまでにお店に到着すれば何の問題もありません」

 

「あ、そうなんだ、なら安心だね」

 

 それなら待機任務が終わってから悠々と買いに行けばいいんだ。真面目で規則に厳しい朱然さんでも折り合いのつく理想的なスケジュール。

 

「それで、朱然さんの待機任務が終わるのは、いつ?」

 

「はい、正午です」

 

 え?

 

「………もう一度聞いていいかな、その限定のお菓子が販売されるのは、何時から?」

 

「正午です」

 

「……朱然さんの仕事が終わるのは?」

 

「正午です」

 

 質問を変えても同じアンサーが返ってくるぞ?

 おいおいおい、それはいくらなんでも無茶だろう。限定菓子の販売スタートと、朱然さんの仕事上がりが同時刻、販売される菓子屋の場所を尋ねてみると、どんなに急いでも三十分はかかる距離だ。真面目に上がりを待ってると確実に売切れてしまうぞ?

 

「いいえ、大丈夫です」

 

「いやいや、いくらなんでもムリだって!そうだ、俺が先に行くよ。俺はどうせ元から暇人だしさ、先に行って朱然さんの分のお菓子を確保しておけばいいじゃん」

 

「なっ、…ダメです!私事のために御遣い様を煩わせるなどできません!」

 

「そんなこと言っても……」

 

「ダメといったらダメです!この朱然、この程度のことに規則を破るなどありえません!」

 

 

 

 というわけで、朱然さんは俺をも巻き込み、不動の待機任務を続行することになった。

 

 

 

 呉の兵舎には、大層なことに水時計が設置されている。この時代には珍しい機械仕掛けで、調節されたパイプから一定量の水が流れ出すことで歯車を回し、時計の針を刻む。

 一定時間内に水を注ぎ足さなければならない煩わしさはあるが、その正確さは現代と比べても遜色ないほどだ。

 

 

 その水時計から見て、正午二時間前。

 この頃はまだよかった、机に向かった朱然さんは正面上は平静を保ち、孫子の写し書きに余念がなかった。

 

 

 そして正午一時間前。

「………あの、朱然さん」

「はい?」

「今のところ、書き間違えましたよ」

「あっ!」

 

 

 さらに正午30分前。

「……………」

「朱然さん、…朱然さん!さっきから貧乏揺すりが甚だしいんですが!ホラ机の上の硯から墨が飛んで!読み書きするとかいう段階じゃねえ!落ち着いて、とにかく落ち着いて!」

「な、なんのことでしょう御遣い様、私はいたって平静ですが?」

「ウソつくな!あーもー行こうよ菓子屋に!ちょっとぐらい早く出たっていいじゃない!」

「何を仰います!待機任務の終了は正午きっかりです!それまでは この朱然、一歩たりともここを動くわけには行きません!」

 

 

 てな感じに謹厳実直を装いつつも、動揺しているのがバレバレな朱然さんだった。

 今にも駆け飛んで菓子屋に突入したいという欲望にかられつつも、呉の軍人としての責務を全うしようという生真面目さが それを許さない二律背反。

 

 しかしこの場合もっとも重要なことは、限定お菓子の販売時間と朱然さんの任務終了時間がピッタリ同じということ。ピッタリでは いささか足りない、朱然さんが限定お菓子をゲットするためには待機場所から菓子屋までの移動時間も必要なのだから。

 かてて加えて、彼女の狙っているお菓子は かなり人気の一品らしく、発売されたら飛ぶように売れていくものらしい。

 以上のことを総合して、結果を求めるなら………。

 

 

 

「売り切れてたァーーーーーーーー!」

 

 

 

 当然の帰結と言うべきだった。

『完売御礼』の札の下、崩れ落ちる朱然さんと天を仰いで叫ぶ俺がいた。

 正午になって待機任務が終了した直後、ダッシュで部屋を駆け出す俺と朱然さんだったが、思い返してみれば その時点で状況は絶望的であったのかもしれない。

 重い鎧をガッチョン ガッチョン言わせながら急ぐ朱然さんだったが、動き出してみれば やれ廊下は走るなだの、曲がり角では左右の安全を確認しろなどで遅々として進まず、やっと到着してみれば現場は既に祭りの後。

 店員さんから聞く話によると、例の限定お菓子は開始10分で早々に売切れてしまったらしい。だからギリギリまで兵舎にいた時点で既に勝負は決まっていたというべきだろうが……。

 

「うう、…あんまりですッ。一週間以上前から楽しみにしてたのに………ッ!」

 

 朱然さんは諦めきれないといった様子で店の前で崩れ落ちていた。

 

「…悔しいのはわかるけど、売切れてしまったのはしょうがないよ。潔く通常販売の杏仁豆腐でも買って帰ろう」

 

「杏仁豆腐なんて!もう毎日毎日食べ飽きています!……私が、私が食べたかったのは南蛮の果実をふんだんに使った季節の………!」

 

 朱然さんは いまや駄々っ子と化していた。

 正直めんどい。

 それなら何とかして早く待機任務を上がるなり、色々工夫できることはあったと思うんだが、それをできないのが彼女の『らしさ』なんだろうなぁ。

 そう言いつつも、結局 彼女をどうしたものかと途方に暮れる俺だったが、そんな俺の目に ふと予期せぬものが写りこんだ。

 

「………アレ?」

 

 あの虎の毛皮は……、もしや?

 

「朱然さん、ちょっといい?」

 

 はえ?と涙目で見上げる朱然さん。

 

「一緒に隠れて、……早く!」

 

「え?なんですか、…きゃあ!」

 

 朱然さんを引っ張って物陰に隠れると、間一髪。その場にワイルドな格好をした女性が姿を現す。あちこち欠けたボロ鎧に、左肩だけに虎の毛皮を掛けた左右非対称な その姿。

 

 ……やっぱり潘璋さんだ。

 

 朱然さんと同じ、上官の頭を悩ます問題児の片割れ。

 

(潘璋?なんでここに?)

 

 物陰から覗きながら朱然さんも訝しむ。

 たしかに、彼女が現れたのは、あの菓子屋の中からだ。菓子屋を出て、その手には いかにもな大きさの手提げ袋。

 

(まさか、潘璋さんもお菓子を買いに?)

 

(それこそ まさかですよ。あのヤクザ女が、年頃の娘たちに大人気の菓子を好むなんて ありえません。あの女にお似合いのものと言えば、それこそ どぶろくと乾物辺りが調度いいじゃないですか)

 

 嫌いな相手だけあって朱然さんの言うことは容赦ない。

 しかし本当にそうだろうか?たしかにあの店のお菓子は潘璋さんのキャラクターには合わない気もするが、彼女がもって出てきた あの紙袋、いかにもお買い上げ品という感じがプンプンと―――。

 そこへ いまだ俺たちの存在に気付かない潘璋さんが一人言った。

 

 

「――おっとと、危うく限定販売のお菓子を落としちまうところだったぜ」

 

 

 スゴイ独り言 出たッ!

 

(朱然さん朱然さんッ!やっぱりアレ限定販売のお菓子だよ、きっと朱然さんが狙ってたのと同じヤツだよ!)

(うぬぬぬぬぬ……!)

 

 朱然さんが声を殺して呻く。

 それを余所に潘璋さんは、限定菓子をゲットできた喜びからか、物凄く足取りが軽やかだ。よく見るとスキップまでしている、スキップスキップ……。 

 …え?

 跳んだ?三回転ッッ?

 トリプルルッツッッ!?

 スゴイ浮かれようだ!菓子を買えたのが そんなに嬉しかったのか?

 

「~~~~ッッ!……潘璋ッ!」

 

 感極まったのか、朱然さんが物陰から飛び出して潘璋さんに詰め寄る。突然のことで俺には止める余裕さえなかった。

 

「んなッ?朱然、……それに天の御遣いのダンナ……ッ?」

 

 いきなり出てきた俺たち二人に、さすがの潘璋さんも泡を喰らって鼻白む。彼女もこの不意打ちには驚いたようだ。

 睨みあう二人、奇しくも この街中で、先日の錬兵場の対決が再現されてしまう。

 

「……答えなさい潘璋、アナタが持っているソレは、今日そこのお菓子屋で限定発売された南蛮直送の芒果布甸ですねッ?」

 

 え?芒果……、え?なんて読むのソレ?

 いや それより……。

 

「ちょっと待ってよ朱然さん、いくらなんでもイキナリ潘璋さんに突っかかってちゃダメだよ!わかるでしょ?今日の潘璋さんは お菓子を買ってるだけじゃないか、悪いことなんて一つもしてないよ?」

 

 だから今回ばかりは朱然さんも潘璋さんを責めることはできないはず、そう思っていたが。

 

「……いいえ、御遣い様。ヤツはまたしても軍紀違反を犯しています」

 

「え、まさか?」

 

「間違いありません、潘璋……、アナタは今日は、私と同じく待機任務についていたはずですよね?」

 

「そうなの?」

 

 俺が尋ねると、潘璋さんは決まりが悪そうにボサボサの髪を掻いた、どうやら真実らしい。

 え?待てよ?

 待機任務に就いてたってことは、彼女も朱然さんと同じように正午まで拘束されてたってことだよね?だとしたら おかしくないか、正午きっかりに任務を終えて、正午きっかりに売り出された限定お菓子を買うには、どうしても無理がある。

 事実、生真面目に任務終了まで動かなかった朱然さんは、お菓子を買いそびれているのだ。

 

「ということは……」

 

「そうです、潘璋は待機任務を放棄して途中でお菓子を買いに行った、それ以外に考えられません!」

 

 ズババーン!

 朱然さんの断定が潘璋さんを貫く。それに対し、潘璋さんは不敵な笑みをニヤリと浮かべて、

 

「するってえと察するに、テメーは菓子を買いそびれたクチかい?」

 

「うぐっ」

 

 攻め気に溢れた朱然さんが一瞬にして息詰まる。

 それを見た不良の潘璋さんは、今度は遠慮することなく勝ち誇った笑いをケラケラ漏らした。

 

「ほぅら言わんこっちゃねえ!テメーみてーに規則がどうとか、まだるっこしいこと言ってるから みすみす好機を逃すんだよ!どうせテメーのこった、バカ正直に待機任務いっぱいまで あそこにいたんだろ?」

 

「当然です!それが私たちの任務ではないですか!」

 

「バーカ!それで欲しいモンを手に入れ損ねちゃ話になんねえ。そういう時こそなァ、機を見て敏よ、上手いように動かないとな!」

 

 ところで潘璋さんは どれぐらい前から任務中に抜け出してたの?と俺から質問。

 

「んあ?一刻(二時間)と ちょっと前かな?」

 

「それって俺が訪問した直後じゃん!もしかして、あのとき不機嫌そうに俺を追い出したのは、お菓子を買いに行くためッ?」

 

「おうよ!おかげで三回も並び直して三個も買えたぜ!」

 

「三個ッ?一人限定一個のはずなのに!潘璋、アナタは一体何処まで規則を破れば気が済むんですかッ?」

 

「聞こえんなぁ、負け犬の遠吠えなぞ」

 

「ぐぬぬぅ~~~~~」

 

 悔しげに唇を噛む朱然さん。ペースは明らかに潘璋さんの方に部があった。潘璋さんは戦利品たる限定お菓子を手に、これ以上ないほど勝ち誇っている。

 

「朱然~、だからいつも言ってんだろう。規則ってのはな、人間様の使いやすいように いじくってナンボなんだぜ?規則に使われて、損したら、それほどアホな話はねえだろうが」

 

「ち、違います、規則は人を律して、よい方向へ導くための……」

 

「それでテメーは、菓子を買い損ねたんだろ?」

 

「ぐにゅぅ……!」

 

 朱然さんは、グーの値も出ないご様子だ。

 仕方ない、ここでそろそろ俺が助け舟を出してやることにしますか。

 

「あのー、潘璋さん潘璋さん、相談があるんだけど」

 

「んあ?」

 

「潘璋さんは その限定菓子、三つ買ったんだよね、なら一つでいいんで朱然さんに分けてやってくれないかな?」

 

「はぁッ?」

 

 潘璋さんは「何言ってんのコイツ?」という あからさまな しかめっ面をした。

 

「御遣いのダンナよぉ、アンタ、冗談も休み休み言いな。なんでオレッちが、コイツに、貴重な芒果布甸を恵んでやらなきゃいけないんだよ?」

 

 だからなんて読むの その芒果なんとか、…いや、それはいいや。

 

「ダメかな?」

 

「ダメに決まってんだろ、人に物を頼むにも少しは内容を考えな」

 

「いや、違うんだなぁ。俺は、潘璋さんに頼んでるんじゃなくて、相談してるんだよ?」

 

「は?」

 

「俺には、任務放棄した者がいることを、祭さんに報告する資格がある」

 

「げげッ!」

 

 それを聞いた途端、潘璋さんの勝ち誇った顔が凍りついた。……うむ、計算どおり。

 

「さ…っ、それって あの黄蓋のおばちゃんのことだろ?アイツにチクるって言うのかよ?」

 

「今 祭さんのことを おばちゃん呼ばわりしたことも合わせて報告させていただきます」

 

 さすがの悪タレ潘璋も、宿将・黄蓋は怖いと見える。

 たしかに規則や法律というものは、人が便利に生きられるように作られたもので、それによって人が不便になるというほどバカらしい話はない。

 だがだからこそ、法による便利を守るためにも、法を破った者には罰を与えないとね。

 

「さすがです御遣い様、それこそ規則の真理というものです!」

 

 朱然さんまでもが息を吹き返して やんやの喝采を送る。逆に潘璋さんは息も絶え絶えで。

 

「お、オレを黄蓋に売るって言うのか……?」

 

「別にぃ?ただ俺と朱然さんは?これから潘璋さんに お茶会に招かれる予定だから?その予定がキャンセルされると暇になって、その暇つぶしに祭さんに会いに行くのもアリかなあ、とかね?」

 

「ぐぬぬぬぬぬ……」

 

 もはや潘璋さんは ぐーの音も出なかった。

 祭さんとて、一軍を預かる人として規律に違反した者には超厳しい。このことが彼女に知れれば、潘璋さんは よくて鉄拳制裁、悪ければ独房に何日も閉じ込められることになるだろう。

 もちろん俺だって、そこまでことを大きくしたくない。それなのに こうも強気に出れるのは、もうここにいる皆、落としどころが わかっているからだ。

 

「…あの、御遣い様」

 

 朱然さんが おずおずと話しかけてくる。

 

「御遣い様のお気遣いは嬉しいのですが、やはり黄蓋様に報告した方がよいのでは?結果はどうあれ軍紀違反は裁かれるべきかと……」

 

「まあまあ、それぐらい大目に見ようよ。さっき潘璋さんも言ってたでしょ、規則は人の使いやすいように工夫してこそ、ってさ。俺は潘璋さんが重い罰を受けるのはイヤだし、それで朱然さんも美味しいお菓子を食べられるんなら それに越したことはないじゃない」

 というわけで、話は決まった。

 

 

 

「「「いただきまーーーーす!!」」……す、…くそ、くそッ」

 

 

 

 潘璋さんは まだ未練を引きずっていた。

 菓子屋のある街中から城に戻り、宅を囲んで優雅なお茶会。いくつもの困難を果てに やっと手に入れた限定菓子とやらは、その正体はマンゴープリンだった。

 

「えーと、これが?」

 

「はい!芒果布甸です!」

 

 あー、マンゴーって中国語で書くと『芒果』になるんだ、そしてプリンは漢字で『布甸』になるなんて初めて聞いたよ。

 匙で一掬い、口に運ぶとマンゴーの淡い甘味が口いっぱいに広がって とても爽やか。…なるほど、これは並んででも買いたくなる。

 

「…っくしょー、……本当ならよー、三つとも全部オレのだったのによー」

 

 潘璋さんは まだやさぐれていた。

 

「…しかし、今さらだけど意外だね。潘璋さんが こんな甘いお菓子が大好きなんて」

 

「うっせ、わかってるよ自分でも、ガラじゃねえってことはな。舐められねえ ように舎弟にも秘密にしてたのに……」

 

 ここに来て あっさりバレてしまったというわけか。たしかに潘璋さんの日頃のキャラなら、好みは甘味より辛味の方がしっくりくるけど……。

 

「御遣いさんよ」

 

「ん?」

 

「オレッちの前で辛いとか二度と言うな、今度は殺す」

 

 ……嫌いですか辛いもの、なんか一部の人と とことんソリが合わなそうだね。

 

「あーもー、お前らちゃんと味わって食えよー、オレッちが買ってきた大切な芒果布甸なんだからなー!」

 

「いつまでもブチブチ恩着せがましいことを言わないでください。たしかにお菓子はアナタが用意したものですが、それに代って お茶は私の用意だってことを忘れないでくださいね」

 

 と言いつつ朱然さんが出してくれたのは、ジャスミンぽい冷茶だった。朱然さんが この限定お菓子のために前日から水出しし、竹筒に詰めたものを井戸に沈めて冷やしていたらしい。

 …この世界で、こんなに冷たいお茶が飲めるとは。

 

「……お、うめえ。茶と菓子って案外よく合うのな」

 

「何を言ってるんですアナタは、お茶とお菓子を合わさなかったら、一体何を一緒に食べるって言うんです?」

 

「酒」

 

「お菓子を酒のつまみにするなッ!」

 

 朱然さんが珍しく口調を荒げる。でも案外多いって聞くけどな饅頭で酒飲む人。

 

「うっせえなぁ、こちとら生まれてこの方こんな お上品な食い方したことねえんだよ。…でもま、いいなコレ、こういうのもアリだな」

 

 と潘璋さんはプリンと冷茶を交互に口に運んだ。

 俺はしみじみと言う。

 

「こうして見ると二人って、案外趣味が合うんだな。二人路も甘いお菓子が大好きで、それを元に、これから仲良く……」

 

 

「なれません」

「なれるか」

 

 

 うわお、凄い息ピッタリ。俺の一縷の望みは早々に断たれたわけだが。

 

「勘違いしないでください御遣い様、私はお菓子を賞味したいがために、仕方なく彼女を卓を囲んでいるんです。そうでなければ こんな自分勝手な人と席を同じくするなど ありえません」

 

「オレッちも概ね一緒だな。それより御遣いサンよ、アンタは何か出さないのかよ。オレは菓子を出す、朱然は茶を出す、アンタだけは何もしねえで飲み食いしてんだぜ?」

 

 ……む、そういえばそうだ。ただ御馳走になるのは心苦しいな。

 

「それなら、俺がお茶を酌んでやるってのはどうだ?」

 

「はぁ?なんで茶ぁ酌むだけで、なんか差し出したことになるんだよ?」

 

「ふっ、甘く見るなよ、俺の給仕は蓮華にだって大好評なんだからな」

 

「れんふぁ?誰だよそれ?」

 

 あれ通じない。そうか、真名はフツーの名前ほど膾炙してないんだな。

 

「蓮華は孫権の真名だよ」

 

「へー、孫権の、………ブッ!」

 

 潘璋さんは思い切りお茶を噴出した。

 

「ゴホッ、ゴホッ、……孫権て!この国で一番偉え人じゃねえかよ!ヤベエ、孫権様の真名 断りなく呼んじまった!」

 

「…スゴイ、御遣い様、孫権様の真名を呼べるなんて」

 

 潘璋さんも朱然さんも目を丸くして驚いている。……ううむ、そんなに凄いことなのかな。もう随分前からナチュラルに呼んでることだし ぜんぜん意識してなかったんだけど。

 ……これで その孫権様と三日に一回 同じベッドで寝てますとか言ったらどうなるだろう。…ううん、絶対言わない。

 

「しっかし……、天の御遣いの威気ってのは噂どおりだな。呉主の孫権様を自分の女みてえに真名で呼び捨てかよ」

 

 潘璋さんが なんか言っている。

 

「でも待てよ……、そんだけスゲエ天の御遣いと懇意になっておけば、御遣いと仲のいい孫権様や黄蓋とも懇意になるってことで、その人らの目にも留まりやすいってことだよな。………見えてきた、出世の糸口が」

 

 潘璋さんは、急に意義を改めて、

 

「ゲフンゲフン、…なあ御遣いのダンナ、オレの真名も呼んでみねえかい?」

 

「今スゴイ打算が透けて見えた」

 

「そうですよ潘璋 何を言っているんです!御遣い様のような尊い方に、私たちのような凡将の真名をお呼びいただくなんて恐れ多いにもほどがあります!」

 

 朱然さんが卓を叩いて憤慨する。

 

「んだよ朱然、じゃあ お前はダンナから真名呼んでもらいたくねえのか?」

 

「だから恐れ多いって言ってるでしょうが!」

 

 ううむ、真名ってのは、呼ぶだけじゃなくて呼ばれることにもステータスが伴うものなのか。

 …ん、俺ちょっと閃いた。

 

「条件次第によっては、潘璋さんと朱然さんの真名を呼んでやってもいいよ」

 

 我ながら偉そうな物言いだ。

 

「マジマジ?何でも言ってくれよ、下着ぐらいなら見せてもいいぜ!」

 

「潘璋ぉーッ!」

 

 赤面して叫ぶ朱然さん。

 

「イヤイヤ、そういうのじゃなくて、二つ条件がある。まず一つは、俺のことも御遣いじゃなくて北郷一刀と呼んでくれ、それが俺の名前だから」

 

「お安い御用だぜ!二つ条件があるんだよな、あと一つは?」

 

「二つ目は、潘璋さんと朱然さん、二人も真名を交換することだ」

 

「えっ?」

 

「いっ?」

 

 この条件には、やっぱり二人とも喉を詰まらせた。それはそうだろう、二人は今でも不倶戴天の敵同時、しかしだからこそ孫呉の力となるために仲良くしてもらいたい。その一歩のための真名の呼び合いなのだ。

 

 潘璋さんと朱然さんは、戸惑いながら互いを眺めあう。

 

「…テメーのことはイケ好かねえが、出世のためだしな」

 

「尊い御遣い様のご命令とあれば、私に逆らう権利は…」

 葛藤している、葛藤している。

 

「…ええい、やい朱然!テメーに真名を預ける前に聞きたいことがある!返答次第によっちゃオレッちの真名を預けてもいいぜ!」

 

「なら私からも質問させていただきます!アナタが我が真名を知るに値する者かどうか、試験です」

 

「よし、じゃあ、饅頭に入れる餡の種類はッ?」

 

「こしあん!落雁の形で一番好きなものはッ?」

 

「菊に決まってんだろ!汁粉に白玉は入れるかッ?」

 

「そりゃ入れますよ!……じゃあ最後の質問です、桜餅の葉っぱは……?」

 

「食うッ!!」

 

 ……………………。

 

 ………………………………ひしッ!

 

 少女たちは わかりあった。

 

「でも勘違いすんなよ!テメーとは菓子の趣味が合うだけで それ以外は到底受け入れられそうにねえ!テメーが俺の真名を呼ぶときは、菓子の乗った卓を囲んでる時だけだ!それ以外は許さねえぞ!」

 

「それはこっちのセリフです、いい加減なアナタに戦場で真名を呼ばれたら士気に大きく関わります!真名を呼ぶのは、茶会の中に限ってのことですからね!」

 

 二人ともなかなかに強情だった。

 

 祭さんに頼まれた、二人の更正。そのためにも二人は和解し、揃って孫呉の力となって進んでもらいたい。

 今日のことは、その一歩になっただろうか?

 

「…でさ、肝心の真名のことなんだけど………」

 

 それをまだ教えてもらってなかった。

 

 潘璋は、ニヤリと歯を見せる。

「オレッちの真名は青葉(チンイェ)、よろしく頼むぜ一刀のダンナ」

 

 朱然が、恐縮に震えながら呟く。

「私、真名を紅花(ホンファ)といいます、不束者ですが、末永く よろしくお願いします!」

 

 悪タレ青葉とカタブツ紅花の、初名乗りだった。

 

 続く


 
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