外史を駆ける鬼・春恋*乙女編 プロローグ
注意事項;春恋世界での時系列は少し改変させていただきます。フランチェスカ学園の男女共学化を少し早めました。
男性登場人物それぞれの入学動機として、一刀は一年時より剣道特待とし、その他のメイン登場人物に関しては共学化特別編入制度です。
よって早坂章仁の妹・羽未(羽深)やその友達のソーニャなどはまだ入学していない設定となり、一刀が恋姫世界に飛ばされた時期は、二年次の冬ではなく、一年次の冬となります。
「もう嫌だ!!こんなことなんて!!」
豪雨が荒む中、一つの豪邸があり、その豪邸は現代の洋式のような造りでは無くどちらかというと、瓦作りの和式であり。屋敷の屋敷の造りは大きく((御殿空間|ごてんくうかん))と
その玄関の掛軸には『大神』と書いてある。
「待って昌人!!こんな雨の中で家を出れば風邪をひくわ!!」
玄関より飛び出そうとした少年を追って、一人の少女が呼び止める。
背丈からいって少年の身長より高いので、恐らくは年上の子だろう。
「もう嫌だ!!やれ勉強、習い事。……飼っていたカメも捨てられた。父さんのやり方にはもううんざりなんだ!!」
少年は玄関を開けて、勝手口より雨の中を走り抜けて出て行く。
少女は必死に少年を呼び止めるが、少年は少女の言葉に耳を貸すことなく、やがて少年の姿は雨の中に消えた。
「帰ろう、愛紗。この世界に俺の家があるか分からないけど……でもきっと、愛紗と出会ったあの時のように、どうにかなると思うから」
少年は少女の手を取る様に促し――
「ええ、二人一緒なら――――――――」
少女はそれに応えて、少年の手を取る。
「行きましょう、ご主人様。二人で共に歩き、新しい物語を作るのです」
そうして少年は愛しき人の手を取って、少女と歩き始めた。
朝の閑散としている空気、肌を刺すような風に、葉の全く着いていない木々が立ち並ぶ並木道。しかし朝の眩し過ぎる日差しのおかげで少しは暖かさが取り戻せるであろうか。
そんな道を二人歩く男女がいた。
「愛紗。こっちに俺が住んでいる寮があるはずだから」
一人の少女の手を引く耳まで延びた茶色交じりの髪の少年は、長い黒髪が眩しい少女の手を引っ張りながら進んでいく。
「はいご主人様」
自らが率先されていることに嬉々としているのか、黒髪の少女は笑顔で答える。
やがて着いた場所は二階建てのプレハブ式の小屋。いや、厳密には寮と言うべきなのだろうが、その造りはあまりにも質素な物であり、寮と呼ぶにはいささか度が過ぎるというものだ。
しかし材質といい、造りといい、あまりにもお粗末な物である。その構造は突貫で造った物である事が伺え、建物が古くなれば、恐らく少し大きな地震でもあれば倒壊する雰囲気さえ伺える。
少年は辺りを見渡し、人の気配が伺えないことを確かめると、少女を先導しもって二階に進む階段を音も無く上っていく。
少女の履いている靴の材質が革であった為か、彼女が足を踏み入れた瞬間に少し大きな音が漏れてしまう。
咄嗟に少年は後ろ振り向き、動揺した少女を落ち着かせて、なんとか階段を上りきった後に、部屋の扉が並ぶ廊下が静寂であることを確かめた後、またもや物音を立てずに、身を屈めて廊下の一番奥に向かう。
廊下の一番奥の部屋に続く扉にたどり着くと、そこには『北郷』と記された木造りの掛札があり、少年はそれを慣れた手つきで取り外し、また取り付けなおした。
少年が掛札から取り出したのは鍵であり、その鍵を扉のドアノブに刺し込み、やがて鍵が解除されると、その鍵はその扉の鍵であることが証明され、掛札の慣れた動作から見てもその部屋の主であることは伺える。
少年は少女を部屋の中に招きいれ、やがて扉を閉めると、奥の部屋のカーテンを開ける。
「ホント、懐かしいな。……またこの部屋に戻ってこれるとは――」
少年は改めて自分の部屋を見る度に、帰郷の念が篭った頷きを繰り返してしまう。
「ここが……ご主人様の世界」
対して少女の目は、あらゆる見る物に対し興味をそそられて、戸惑ってもいるのか、未だに玄関に立ちすかしたまま辺りを見渡す。
「愛紗。そんな所に立っていないでこっちにおいでよ」
彼は少女を手招きすると、少女は畏まりながら靴を脱いで部屋の中にあがって行く。
それから暫くすると、少年は自ら入れたお茶を少女に渡して、少女はそのお茶を啜る。
この時の少年の格好はラフに黒いシャツと黒い長ズボン。
少女は少し大きめのカッターシャツを着ており、明らかに丈が合っていないところを見ると、少年が寄越した自分のシャツであろう。
「さて、これからのことを話し合わなければね」
そろそろこの二人の自己紹介をして良いであろう。
少年の名は北郷一刀。
某都内にある
何故彼が将来的な話題を振るかには理由がある。
それは彼がこの世界より消え、異世界へと飛ばされて、またこの世界に戻ってきたことに理由があった。
彼はいつものように学業を終えて、部活に勤しみ、やがてこの寮と言う名のプレハブ小屋に戻る時の事である。
出された課題の為に、悪友と共に学園内にある歴史資料館にて文献や資料を探っていた時の事。
彼は資料館で見かけた一人の少年に気がいった。
やがて資料館での調べごとを終えて、自室にてのんびりして、いつものように外に出て剣道の自主トレに励んでいると、資料館で見かけた少年を見つけ、興味本位で少年の後を追った。
少年を追いかけると、少年は資料館より、展示物で見かけた鏡を盗み出していたのだ。
それに気づいた一刀は、少年を捕まえようと試みたのだが、少年と対峙することとなり、突然の殺しが始まった。
その騒動の最中に、少年が持っていた鏡が落ちた瞬間に、突然の閃光が起こり、一刀はその閃光に包まれた。
光が収まった時に、一刀が見た光景は、辺り一面広がる荒野であった。
それからの話はより簡略化するが、一刀が来てしまった場所は三国志の世界であり、その世界で始めて出会った人物はなんと関羽と張飛であり、なんとそれが女の子だと言うから驚きだ。
一刀は様々な忠実の三国志で起こった戦争に介入し、その度に諸葛亮や馬超といった仲間を増やしていき、見事に数年で中華大陸を統一したのだ。
だが闘争はそれで終わりでは無く、その忠実とは異なった三国志を管理する管理者との戦いを繰り広げることとなった。
彼らはその世界を「外史」と呼び、ひいては外史と、それを作り出した北郷一刀の排除にかかった。
一刀達は仲間達と共に、世界を統制する管理者との戦いに望んだが、結果は敗北。
………いや、その結末を敗北と受け止めてしまうのかは、判りはしないのかもしれない。
外史を肯定するものは言った。
「外史とは、正史の中で発生した想念によって観念的に作られた世界」だと。
誰かがその世界を必要としたからこそ作られ、やがて必要に無くなったから壊れていく。
結局のところ、一刀の向かった外史は最終的に終焉を迎えて壊れてしまった。
しかし、その外史の記憶は、誰かに継がれている筈である。
現に、その外史を生きた一刀の記憶には残っている為に、また新たな一刀の記憶を頼りにしたその物語の”続き”が何処かで生まれているかもしれないからだ。
そしてその一刀の隣にいる少女の名は関羽雲長。
正史では『美髯公』や『軍神』などと知られている者であるが、彼女は女性であり、先程述べた外史が作り出した物語の人物の一人である。
ちなみに彼女の真名は『愛紗』と呼ぶ。
真名とは三国志の外史特有の習慣であり、その人物の真の名前を表すものである。
自らが心を開いた人物にしか預けてはならない。相手の許しなくその名を呼んでしまうと、殺されてしまいかねない非常に神聖な習慣である。
彼女は三国世界を一刀と共に駆け抜けて、外史の終焉の際に、一刀は愛紗と共に生きることを選び、彼女も仲間の後押しと共に一刀と生きることを選んだ。
それにより、一つのイレギュラーという奇跡が起きて、本来であれば三国外史の消滅と共に消える筈である外史の住人の愛紗は、今こうして一刀の世界にて形とした存在を残したのだ。
二人がこの部屋に着いた後、愛紗は緊張の糸が解れてしまったのか、一刀の胸を借りて泣いてしまった。
自らが積み上げてしまった物、仲間の消失、これからの不安、なにより自らは作られた借物の存在である事実。
一刀はそんな愛紗を強く抱きしめた。
彼には泣いている暇など無かったのだ。
外史にて愛紗に助けられたように、今度は自分がしっかりしなければならないのだから。
まず一刀が行なった事は情報を集めることだった。
今はいったい何年の何月何日であるか。
自身は外史にて数年の時を過ごしたのであるから、この世界が外史と平行に進んでいるのであれば自身はいったいこの世界に何年いないことになるのか分からないからだ。
それと併用してここは自分の世界であるかだ。
外史の管理者は、世界はいくつも存在していると言っていた。
なれば、この世界は自分と全く無い世界で、この世界に別の北郷一刀は存在するのではないのかということ。
だがその事実は直ぐに解決した。
理由はいくつかある。
ただいまの時刻は午前6時。
学校に向かうために自身の起きる時刻は午前7時である為、もし自分がもう一人いるならば既に眠っているからだ。
他にも冷蔵庫の中身がそのままであることや、部屋に入ったときに感じた蒸し暑さから、外史に飛ばされた時より暖房がつけっ放しであることが判る。
そしてなにより決定的であったのが、彼が九州の実家に帰っている可能性を考えてみても、
掛札の裏に鍵を隠す行為を、長期留守にする身で行なうはずが無いのだから。
よって自分と同じで自分と異なる存在に関しては心配の種が無くなった。
そして現在の世界の日付に関しては、自身が転界してより5日程しか立っていない事実が判明し、全くとは言いがたいが、少し安心した気になった。
またそしてこれが最後の問題となる。
この世界に確立してしまった愛紗の存在についてだ。
彼女に関しては国籍も無ければ、頼れる人物と言えば自分のみ。
これからの生活において、如何にして彼女を支えていくか必死に頭を巡らせていると、そんな時に愛紗と一刀は目があってしまう。
「………?ご主人様?」
可愛らしく首を傾げた愛紗を見て、一刀は自分に叱咤激励をかける。
【しっかりしろよ、一刀!!お前は目の前の女の子を守りぬくと誓った筈だろう。だったら何を迷う必要がある!!】
一刀は顔を引き締め愛紗の隣に座る。
「………愛紗――」
彼女は突然一刀に手を握られ、また顔は鼻が付くか付かないかの距離であり、愛紗は咄嗟に狼狽した後に返事した。
「愛紗、君は俺をあの世界で最初に救ってくれた恩人だ。俺の支えにもなってくれた。だったら今度は俺が愛紗を支える番だ。………不安もあると思うけれども、どうか俺に付いてきてくれるかい?」
一刀は決して愛紗の瞳から目を離さず、そう言って彼女の言葉を待った。
彼女は緊張で赤らめていた顔をひかせて、真面目に答える。
「愚問です。私の身も心も貴方の物。貴方が死ねと言えば死ぬ覚悟は常にあります。そんな私が、どうして貴方の言葉を無碍に出来ることでしょうか――」
「それは武将『関羽雲長』の言葉?それとも一人の女の子『愛紗』の言葉?」
「え!?あ、いや、その……」
「ほら……答えて」
彼は決して視線を逸らさずに、愛紗を見続け、愛紗はまた顔を見る見る赤くして少し俯いた。
「………ぃじわるですぅ。ご主人様―――」
少し間を置いた後に、彼女は上目使いで一刀の顔を見て答える。
「………女です。……一人の女として、貴方様をお慕いしております。……一刀様――」
その言葉が切られた瞬間、一刀は愛紗名を一つ叫んだ後に、直ぐに体を抱きしめる。
愛紗の手から開放されたカップは、周りに入っていたお茶が毀れながら転がっていく。
しかし、今の二人にはそんな現象など蚊が止まるより些細なことであった。
二人の空間の中で、また一刀が愛紗に言う。
「愛しているよ、愛紗」
「………私もです。一刀様」
抱き合う二人の唇は、やがて自然と触れ合わさろうとした………その時――。
「おっはよーう、かずピー!!なんや、帰ってるんやったら、一言言ってくればええのに」
勢い良く玄関の扉が開かれると、四角いレンズでツルが黒の眼鏡をかけた男子が我が物顔で入ってくる。
眼鏡の男子は勢い良くドアを開けた体勢のまま固まってしまっている。
現在部屋には、抱き合う二人の男女と玄関の入り口で固まった男子一人と奇妙な光景が展開していた。
背中に流れる変な汗を一刀は噛み締めながら固まっていたが、その緊張は来訪者の咆哮により断ち切られた。
「裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
現在の時刻は午前7時。
学校に行き始める全国の学生諸君はそろそろ置き始める時刻であろう。
寮の北郷室の部屋の片隅にて、先程の来訪者は部屋の隅にて三角座りになって血涙を流していた。
「うぅ~。学園の特別休日の間を過ぎても戻って来えへんかずピーを心配しとったのに、その心配を余所にかずピーは女を連れこんどるとは………」
「い、いや、及川。これはな、違うんだ」
及川と呼ばれた男子生徒は、血涙を流したままで一刀に吼えた。
「違うことあるかいな!!現にさっきかてちゅ~でもしようとしたやんけ!!それに――」
及川は愛紗の顔を見ると、彼女は血涙の男の顔に自らも引きつってしまうが――
「めっちゃ可愛いやんけーーーー!!」
再び及川は血涙を流しだし、じわじわと床に血が滲んでいき、それだけを見れば何か事件が起こったのかと錯覚してしまうことであろう。
それから一刀は多くの虚構を混ぜながら愛紗について説明した。
まず彼女の名は『
三国外史から来た愛紗だ。
まさか関羽と説明するわけにもいかず、また真名を名前として使っても、真名の習慣の無いこの世界にいきなり愛紗が合わせる事は無理がある。
もしうっかり他者が普通の名前と思って「愛紗」と呼んでしまうと、彼女の体が反応し相手を斬り殺してしまい兼ねなく、また一度ついた習慣を矯正するにも多くの時間を要する為、無理にこちらの習慣を押し付ければ愛紗にとって大きなストレスになることは違いないだろう。
次に彼女は一刀の遠い親戚に当たると設定し、少し複雑な事情により今話すことが出来ないとごまかした。確かに複雑な事情があることはあるのだが、「三国志の世界に行ってました」などと言っても信じられるわけがないからだ。
「にしても、かずピー、なんか雰囲気変わりおったなぁ」
「なんかって、一体なんだよ」
「……いや、何処となく顔つきといい、体付きといい、大人びた感じやわ」
まじまじと細めで一刀のことを確かめる及川。外史での数年の年月で彼は、仕事をし、恋をし、涙を流し、仲間と苦難を乗り切り、それは一刀を大きく変えるものであったことは間違いない。
「………まぁええけど、それでもあきちゃん達にも話は通し時や。話によれば
あきちゃんというのは、一刀達の悪友の一人で早坂章仁といい。不動というのは一刀が在籍していた剣道部の部長である。
「そうか………わかった。ちゃんと謝りに行っておくよ」
「それとかずピー、帰って来たんやったら、重田さんにも一声かけんとあかんで………」
「………誰?」
一刀のその反応に、及川は目を丸くする。
「………何を寝ぼけとんねん。重田さんやないか。重田昌人さん。ウチの学園の風紀委員長やないか」
その様に言われても、一刀にはなんのことか皆目検討もつかなかったのだ。
そもそもフランチェスカ学園は元々超が付くほどのお嬢様学校であり、一刀がそんな学校に入学出来た理由としては、それ以前に通っていた学校が経営破綻により潰れてしまった。
そこで男女共学化を進めようとしていたフランチェスカ学園は、一刀の様な生徒に声をかけて本学への進学を薦めた。
無論その選抜方法は簡単な物では無く、普段の生活態度や素行、成績などで厳格に判断される。しかしその狭き門を通り抜けた際に待っている物は、試験的特待制度というもので、生活費以外の費用は全て学校持ちにて入学出来るのだ。
最高の施設が揃った場所で運動が出来、最高の教育環境が整った場所で勉学に励むことが出来る。さらに言えば、乙女だらけのハーレムに飛び込むことが出来る。これほどのおいしいチャンスを当時の一刀は見逃す筈もなく、当たって砕ける思いで試験に臨み、見事その栄光を勝ち取ったのだった。
話を戻そう。そのようなお嬢様学園にそもそも風紀委員など必要なのかと思い、一刀は記憶から重田という名前を必死に思い起こしていたが、それでも分からず。そうこうしていると、プレハブ小屋の階段より足音が聞こえてくる。
「噂をしとったらやな。かずピー、生きて帰れよ」
「――え?あ、おい」
及川は颯爽と部屋を出て行き、部屋には残された一刀と愛紗。
彼が出て行った後の部屋に妙な空気が流れた後、北郷室の扉が再び開かれた。
「北郷君。戻っているのであればキチンと連絡しなければならないじゃないですか」
そこに現れたのは、身長180以上はあろう背広が広い眼鏡をかけた優男であった。
恐らくこの者が及川の言っていた風紀員であろうが、一刀の記憶を手繰り寄せてもこの様な人物がいたかと真っ先にそれを考えた。
すると重田らしき人物は、愛紗に目をつけた瞬間に、急に固まった。
「いや、あの、ですね……」
一刀が如何にして言い訳を取り繕うとしていた時に、風紀員の優男は冷たい声で一刀に告げる。
「北郷君。今すぐその子を連れて風紀員塔に来なさい」
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春恋をやり終えた時に作ってみたもの。
プロローグを作ってみたけれども、もしかしたら企画倒れになる可能性もあります。
書き続けたいとは……まぁ思います。
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