曇り空が何処までも広がって
見えなくなるまで此処に座っている。”目的”を失った者が来るのだろうか。ここに?
時間が知りたくなって人を探したら、黒い影が見えた。自分の懐中時計は壊れていたので。
「すまない、今何時だろうか」
そいつは初め無感動に、こっちの顔を見たら驚いたように時間を言った。
「10時10分ですが、貴方はここで何をしているんですか。待ってる人が沢山いますよ」
やばい奴に声をかけたか?内心後悔しながらも、俺は返事をした。
「ああ、すぐ行くつもりでね。時間までと思って休んでたんだ。行くよ」
黒い影ー黒衣の男は、大体5分暗いこちらを見ていただろうか。やがて興味を失ったみたいに持っていた帽子を被り直してこう言った。
「空は心地よかったですか」
何故知っているのだ。確かに俺は飛行機に乗るように建物の上から外を眺めていた。-鳥になった気がして・・・。
「別に僕はあんたが遅れようとそうでなかろうとどうでもいいんです。ただ舞台を待つ人が気の毒だと思っただけでね」
「貴方はー有名舞台俳優だったんですから」
俺の頭の中でカアテンが開かれて、熱いほどのライトがかかっている舞台に立っていた。観客が歓声を上げ、俺の名を連呼する。手を上げ観客に答える。さあ。SHOWの始まりだ!
曇り空も何もそこにはない、ライトとバック音楽すべてが祝福してくれている!夢のような空間だ!
「遅れて悪かった!さあやるぞ!!」
いくつかの時間がたったろう。観客は拍手し、ライトは落ちていった。落ちるたびに観客の目が冷たくなってしまう・・・。どうして・・・。ーいや、
その理由を一番知っているのは俺ではないか?場末の女に手を出した、それがばれてしまった・・・・?
だが、たった一人拍手を続ける客がいた。
時間を聞いた、黒衣の男だった。
舞台が暗転するまで拍手は続いて、そして・・・。
あくる日の新聞は『号外』と騒がしかった。人々は有名俳優の死を早すぎる死を悼んだ。
「公演の前日、建物から飛び降りたんですって」
「一体なぜだったんだろうなぁ。人気もあるし、金に困ってた風もなかったんだろ?」
「めぐまれていたのになー、あたしなら絶対死なないよ、金も名誉もあったら」
口々の人々の声。号外を手にした黒衣の男は、新聞を半分に裂き空へ飛ばした。空気に溶けていくだろう・・・・。
「・・・遅れようとそうでなかろうと構わないといったはずだが。生きてる間の栄光など、死んだら持って行ける物でもないのに。好きに生きればよかったんだ。自分らしく」
夢幻魔実也はそういって空を仰いだ。紙が飛び、男の下へ行くかな?彼はくすりと笑った。
了
Tweet |
|
|
1
|
1
|
追加するフォルダを選択
”目的”を失った舞台俳優が見た幻想とは一体・・・。ナビ役は魔実也さんです。