【 宣言 の件 】
〖 司隷 洛陽 郊外の原野 にて 〗
原野に突如発生した炎は、軍勢を取り囲みながら勢いを増す。 紅蓮の炎は、瑞瑞しい草木を簡単に舐めつくし……更に強大化して広がる。
苦渋の表情を浮かべる川内に、鬼灯は笑顔で語る。
ーー
鬼灯「万が一に備えて………配下に『伏地衝天雷』なる罠………仕掛けるように命じたのよ……」
川内「『伏地衝天雷』って────今、急に現れた野火の事っ!?」
鬼灯「……近代兵器に……身を固めたお前達には……このような兵器など玩具なれど……使い方次第……お前達を苦しめる事ができる! ……ふふ、ふふふっ!!」
★☆★
伏地衝天雷
本来は、大陸の明代に発明された起動式火薬トラップ。
詳細は不明だか、敵兵が興味を引く物を地面に刺して置き、それに点火装置を準備。 引き抜くと、その武器に連結している絡繰りが作動して点火、地面に埋没している導火線に移り、複数に仕掛けた罠が爆発するという優れ物。
それを、鬼灯は少し改良して広域に作動する発火装置として使用。
具体的には、漆塗りの箱を複数、導火線を繋ぐ竹筒、墨で黒くした油紙で巻いた導火線を用意、預けられた配下達に預けて待機していた。
その漆塗りの箱には、破裂後に四散して辺りを延焼させるよう、中に火薬と海獣類の脂が調合された物が挿入済み。 この時期は、草木が青々としているので、火が点火しにくいため、このような仕様をしてあるのだ。
その後、鬼灯に点火準備できたとの連絡を送り、指示を仰いだ結果だ。
次いでに説明すると───
先程の爆風の混乱の中で、闇に紛れた別働隊が頭目達を救出、その後に装置の準備を行う。 ただし、救出されるのは頭目達のみであり、他の賊達は自力で逃げるしかない。
元々……末端の者に大事な案件を伝えていない。 危うくなれば、とかげの尻尾よろしく切り捨てる。 それが、組織の維持に役立つ極意だからである。
ーーー
勿論、先の戦艦棲姫の砲撃が成功すれば、必要は無い。
では、配下の者に……どのような説明をするのか?
鬼灯としては、賊達に……損失より利益を上がる事を説明。
具体的には、失われた仲間の命より強敵の喪失を喜ばせる。 あの攻撃で消えたのは、間違いなく後の世で頭角を現す諸侯。 それに、曹操には痛い目を遭わされているのだ。 充分な言い訳になる筈。
そこまでの影響も考えて……この攻撃を行った鬼灯である。
★☆★
川内「あのくらいの野火程度………って、何であんなに火が廻るのが早いのよ!? 速攻で倒して救援にいかなきゃ……! でも──大人しく離脱させてくれる訳ないんでしょう………特にアンタなんか………!」
離島棲鬼「オメオメト………逃ガスト思ウカ……? オ母サマノ仇………取ラセテ貰ウワヨ………!!」
ーー
早く火災の現場に駆けつけたかったのだが、川内と対する鬼灯と離島棲鬼を警戒して、その場を離れる事が出来ない。 特に……離島棲鬼の鬼気迫る姿、その戦闘力の高さに、轟沈も覚悟をしなければならない。
大体、あの恐れられた戦艦棲姫を、川内の一撃で倒せたのは──僥倖!
『夜戦に生き、夜戦で死す』──そんな戦歴を持っていた彼女だからこそ、成し遂げれた偉業かも知れない。 闇に紛れ、酸素魚雷を艤装に突っ込む──正に敵の意表を突いた攻撃だからこそ、戦艦棲姫を撃破した出来たのだから。
その川内だけ……性能が戦艦棲姫を下回ると言えど、離島棲鬼を単独で轟沈させることなど不可能に近い!
───しかし!
ーー
神通「そうは……いかせません!」
那珂「ぶー! センターは那珂ちゃんの位置なんだよっ!!」
夕立「ニューバージョンした夕立の力………しかと受け止めるっぽい!」
磯風「戦とは……双方対峙した時に、命を失う覚悟が決まっている。 だからこそ、恨み言など笑止。 挑むなら自分の命を捨てる覚悟で来い! 私達は、生きて帰ると提督達に誓っている身だ。 易々と轟沈など──しない!」
ーー
川内の側にも神通達が集り、砲撃態勢を取りつつ、鬼灯達に対峙した。
互いに、次の手を繰り出す意思は持つが、攻撃する覚悟が無い。
ーーー
川内「─────くっ!」
川内側では、炎に依る包囲で、味方への危惧を案じている。
此処からでも判断できた火災の規模。 人の手での鎮火は、無理な範囲で広がり見せている。 『人の身のようで人とは違う艦娘なら、被害を抑えられるのに──』と唇を噛む。
ーーー
鬼灯「……………………」
鬼灯側では、味方は離島棲鬼のみ。
それに──鬼灯、いや『南方棲戦鬼』の装甲は僅か『10』しかない。 流れ弾さえ、致命傷になりかねない。 だから、戦闘を仕掛ければ、負ける可能性は
充分ありえる。
双方睨み合う中───川内が鬼灯へ、疑問に思っていた事を問い掛けた。
ーー
川内「………アンタ……何様のつもりなの!」
鬼灯「簡単な事………お前達に敵対する……ただの深海棲艦………」クスッ
川内「そんな判りきった事じゃない! 私が言いたいのは、提督や私達に肩入れする者達を狙うのなら……まだしも! ──自分の仲間達を道連れにしてまで爆撃するなんてぇ……どういう事か聞いているのよっ!?」
ーー
川内に指摘され、鬼灯……いや『南方棲戦鬼』は、さも意外な事だと目を丸くし、それからクスクスと嗤った後、その理由を語る。
ーー
鬼灯「………お前達には理解できないのか? 奴ら『人間』は……我らを創造し、互いに争わせ、冷たい海底に轟沈させ………再び顧みるどころか一瞥もしない愚物共!! そんな奴らを仲間だと思う方が……可笑しいではないか!!」
川内「─────!」
鬼灯「───奴らは……我らを捨てた。 あれほど……我らに笑顔と羨望の眼差しを見せた民、『国の命運を預けた』と、我らに名誉と期待を背負わせ、華々しく勇敢に戦わせた、国の宰相や官僚達……!」
川内「………………」
鬼灯「それが……轟沈した事により変わる……我らの扱い! 我らに乗り込んだ者が見せる絶望、口々に叫ぶ呪詛の叫び声を浴び……未だに引き揚げられぬ……我らが亡き骸! あれほど奮戦し………戦い抜いた我らがだぞ!?」
川内「……………」
鬼灯「───今も……轟沈した我らは………遥か光も射さぬ深海で……上を見上げるしかない。 …………そんな……我らが……復讐こそ誓えばこそ………人間などを仲間と思うか!? そんな世界など……粉々に砕かれてしまえばいい!!」
川内「──じゃあ、私達艦娘は……絶対に護り抜く! アンタ達の好き勝手なんかさせない! アンタ達と同じように轟沈した艦娘は多いけど、私達は……それでも護り抜くわ! それが『大和魂』ってもんでしょ?」
神通「さすが……姉さん。 …………その通りかと」
那珂「あはっ! いい名台詞……那珂ちゃんも言い回ししたいなぁ~!」
磯風「………フッ」
夕立「……っぽい?」
ーー
川内は、ニッと笑い堂々といい放ち、二人の妹が姉の言葉に声援を送る!
磯風が微笑し静かに頷き、夕立の頭に『?』が浮かぶ。
しかし、鬼灯は……川内の言葉を全く意に介さず、全然違う事を語り出す。
ーー
鬼灯「……………あの男か……………? あの男の仕業か…………!」
川内「な、何よ! あの男って、誰の事を言うの!?」
鬼灯「…………北郷一刀………貴様らの……指揮官………だ!」
川内「───なっ! なんで、提督の名前が出てくんのよっ!?」
夕立「ふ~ん……何それ? 提督さんに興味持ってる……ぽい?」
鬼灯「北郷一刀………奴は危険だ。 世に……艦娘の指揮官は……多い。 しかし……深海棲艦を……しかも……警戒心が強い港湾棲姫、我らを率いていた空母水鬼を思慕させる……恐るべき男は………奴一人!!」
磯風「………よく解っているではないか。 ああ言う提督だからこそ、私達は護りたいのだ。 この身体が例え砕けようが、爆発四散しようがな………?」
川内「そう……私達の尊敬する一刀提督だからよ! ちょっとぐらい小言いわせて貰いたい気分だけど。 でも……敵対してるアンタから言わせる気なんて……全くないんだからね!?」
鬼灯「………………文句など言わぬ。 逆に言えば、北郷を……どうにかすれば………我らの勝利は確実。 ………行くぞ、離島棲鬼! 一度……退く!」─スッ
離島棲鬼「───ヤ、ヤダ……ヤダヤダヤダ………」─スッ!
川内「────待ちなさいっ!!」
――
鬼灯がそう言うと、離島棲鬼を無理矢理引っ張り──闇の中に潜り込む。
離島棲鬼は全体に黒いから、闇に溶け込み易い。 しかし、鬼灯は全体的に白い服装だから目立つ筈なのに、何故か分からない!
川内達が駆け出そうとしたが、闇より一言だけ言葉が聞こえ……足が止まる!
『…………北郷一刀……かの者の命数さえ………絶てば………フフフ……』
――
川内「誰がそんな事──! 提督を殺させるもんかぁ!!」
磯風「川内──気持ちは分かるが……今は戻ろう! 提督や私達に関わりを持った者達の身が心配だ。 それに───提督も側に入れば、同じように命じると思うぞ? 一刀提督は……そういう御人だからな!」
――
磯風が急いで羽交い締めで止めると、闇より笑い声が微かに聞こえ、足音が遠ざかって行く。
――
川内「提督は──絶対に死なせないからぁ!! 覚えておきなさぁいぃぃぃ!!!」
神通「私達も──必ず、提督を守り抜きます!!」
「「「 ───コクッ! 」」」
――
残りの艦娘達も、静かに頷き………炎で苦しむ軍勢を救いに急いで立ち去った!
◆◇◆
【 救助活動 の件 】
〖 洛陽 郊外の原野 にて 〗
イク「────あ、あれっ? 提督………何か燃えてるなの?」
一刀「こ、これは───!?」
イクが一刀が到着してみれば、一刀の背丈程もある炎が壁となり、諸侯達を取り囲んでいる!
付近には、多くの兵士達に依る消化活動が行われているが、思ったより進んでいない様子!
――
白蓮「か、かか、一刀──良い所に来た! この火災が急に起きて、延焼が収まらないんだ! いや、それもあるけど………この中には諸侯や多くの兵士も巻き込まれているっ! 何か助ける方法はないのかっ!?」
一刀「………とりあえず延焼を防ぐ為、炎の周りにある燃える物を、全部切ってくれ! それと、何処かに水源はないか? 水源があれば……兵士の上着を水に入れて濡らして地面に乗せ、脱出路を数ヵ所作り誘導するんだ!!」
白蓮「解った、残りの軍勢に全員に命じるよ! たまたま……私のすぐ側を火炎が走り抜けたと思ったら、急に火の手が上がったんだ。 ………まったく、私は運が良いのか悪いのか………すまない、私は命じてくるから!!」
――
白蓮は、一刀に礼を述べて走り去る。
そして前後して、赤城が率いる艦隊、鳳翔が率いる艦隊、川内率いる艦隊が一刀に合流した。
――
赤城「て、提督──っ! この状態は、いったい何なのですかっ!?」
鳳翔「提督──御無事で何より! ……皆さんも!」
川内「提督、大丈夫ぅ!? い、生きてるよねぇ!?」
一刀「皆、無事で良かった。 特に川内……お前には事終わり次第、事情を聞かせて貰うぞ………」
川内「あ、あははは…………」
其々の無事な顔を見て喜ぶ一刀だが、まだ自分達を助けに来てくれた諸侯達の救出が……終わっていない!
一刀「今、改めて任務を命じる! 目の前の火災を鎮火するように努めてくれ! 各自が持つ、粉末消火剤も使用も許可する! 白蓮から人命救助の要請あれば、そちらを優先で頼む!」
「「「────はっ!」」」
一刀「それから……島風! 俺の行う事を手伝ってくれ!」
島風「──うんっ! しまかぜに任せて貰えば、パァーとやっちゃうよ! だって速いもん!!」
明命「か、一刀様──私も手伝います!」
イク「イクも───なのっ!」
一刀「明命は、道案内を行う役目だから、既に任務は済んでいる。 それに、イクは、赤城達と共に───!」
明命「私の属する軍勢は、炎に包囲され連絡も出来ません! ですから、このまま一刀様の指揮下に入り、指示に従いますっ!」
イク「イクも着任したばかりだから、よく分からないなの。 だから、提督に付いて動きたいなのねー?」
一刀「……………分かった! それじゃ………俺の手伝いを頼むよ!!」
イク「 了解なの! 」
明命「───はいっ! よろしくお願いします!!」
――
こうして、一刀達は二手に別れ……消火活動を始めた。
★☆☆
白蓮達が、一刀より教えて貰った方法で行うが………効果が少なかった。
理由は、水源地が無かった…………という訳では無く、旱魃に因る水不足で、井戸の水が干し上がっていたのだ。
白蓮「………という訳なんだ。 一刀にも相談したかったんだけど……既に他の場所へ向かったようで居なかったんだよ。 後、他に頼りになりそうなのが………」
桂花「私だった………という事ね。 他の諸侯の軍師に策を頼るなんて、全く馬鹿馬鹿しいけど、今回は華琳様や春蘭達も、あの戦場で巻き込まれているから。 いいわ………知恵を貸してあげる!」
翠「あたしも手伝うよ。 本当は、桂花の次策の準備で待機してたんだけどさ、敵が退却したから、策も不要になっちまった!」
白蓮「そうか──助かるよ! ありがとう!!」
桂花「礼なら現状を打破してからよ。 まずは………一刀が水を使用して、消火活動を頼んだようだけど……不可能。 この付近は、慢性的水不足で作物が育ち難い場所。 敵も知って、この策をしてきたようだわ……」
白蓮「あ、後……一刀より『防火帯』とか言うのを教えて貰って……実行してさせているが………」
翠「へえ………ご主人様やるじゃねえか! あたしらも火災が起きた場合、そうやって広がるのを防いできたんだよ。 ただ、飛んで来る火の粉が怖いんだよな。 それに、此処じゃ……自然に鎮火を待つ事も出来ねえか………」
桂花「そうね………ある物で火を消すしか無いでしょう? 私やアンタ達が踏みつけている『コレ』を使うしか………」
翠「え~と…………草?」
白蓮「それじゃ燃えるだろう! そうか……土を被せろって事だな! 分かった全員に命じてくる。 だけど………華琳達の方は?」
桂花「それこそ杞憂だわ。 彼処には左慈、于吉の得体の知れない奴が居るから心配ないわよ。 それに──春蘭も居るわ。 春蘭に任せれば、苦もなく火の壁を破って出てきてくれるわよ!」
白蓮「春蘭が……か?」
翠「アイツの力…………まさかっ!?」
◆◇◆
【 救いの手 の件 】
〖 洛陽 郊外の原野 にて 〗
曹操軍も火に包囲され、徐々に火勢が近付いて来る様子が見て取れる。
春蘭「くそぉ! このような事を行い、私から逃れるとは──卑怯で諦めの悪い男だ! 後もう少しで───叩き斬ってやったものを!!」
天上よりの謎の爆発と圧力、そして閃光で、対戦相手から逃げられた事を悔やむ春蘭。
しかし、曹操軍の指揮官である華琳に取っては、些細な事。 勝利を目前とした戦いが、掌を返すが如く、一挙に不利な状態へ持ち込まれた今の状態を、どう対処しようか……思い悩む。
周辺を見渡せば……三方を包囲していた曹操軍は、戦闘の被害こそ大きいが天からの被害は僅か。 孫策軍では軍師である周公瑾が負傷、董卓軍では、華雄なる将が倒れて意識不明。
華琳は、この炎の包囲網を逃れる為に知恵を巡らせるが、先程の得体の知れない爆発、今回の炎の罠で考えが纏まらない。
だから………春蘭に声を掛けた。 秋蘭は、目を閉じて必死に考えている様子が分かる。 それなのに、春蘭は逃げた敵相手を悔しがるだけ。
そう……半ば(なかば)八つ当り気味で問うたのである。
――
華琳「春蘭! 逃がした栄光より、眼前に迫る厄災を払い、皆を救う事が私達上に立つ者の役目! この窮地、如何に逃れる事ができるか……全力で考えなさい!」
春蘭「──華琳様、その事でしたらお任せ下さい! この夏侯元譲が居る限り、このような児戯に等しい物など──簡単に破ってやりますっ!」
華琳「…………………えっ?」
秋蘭「ま、待てぇ姉者! この炎は、かなりの範囲に燃え移っているぞ? 姉者の力を持ってしても、可能な事と不可能な事が!!」
――
春蘭の返事に唖然とする華琳、慌てて華琳との中に入り、春蘭を宥める秋蘭!
しかし、春蘭は火勢より少し離れた場所に移動すると、七星餓狼を構え……消火活動に準じる兵士達に向かい怒鳴りつけた!
――
春蘭「そこの兵達、その場から早く退けぇ! この夏侯元譲が、炎を裂いて道を造る! 退かなければ巻添いを喰らうぞぉ!! ハァアアアア───ッッッ!!!」
華琳「しゅ、春蘭っ!?」
秋蘭「あ……姉者の七星餓狼が───赤く巨大化していく……だと!?」
兵士「「「 おおぉぉぉ───っ! 」」」
――
春蘭が気合いを入れると、七星餓狼に氣が急速に集まる。 紅蓮の氣が剣に宿り、春蘭の身長より遥かに高く、強大な巨剣を形成していく!
――
春蘭「曹操軍や他の兵士達に告ぐ! 我が名は、夏侯元譲! 曹孟徳様に仕える将だ! 私が今から………炎の壁を吹き飛ばすっ! その間に外に向かって走り出せ! ────秋蘭、華琳様の事を任せたぞ!!」
華琳「春蘭っ!」
秋蘭「姉者───っ!!」
春蘭「行くぞぉおおおっ!! 『剣魂一如……荘厳苛烈豪奢………先鋭猛氣凛冽剣閃烈波──七星餓狼闘神圧砕』───っっっ!!!!」
━━━━━━━━\\ ★☆★ //
華琳「きゃあぁあああ───っ!」
秋蘭「ぐぅ───っ!!」
「「「 ─────!?!? 」」」
――
春蘭が、紅蓮の巨剣を勢いよく振り下ろすと──熱く燃え盛る炎の壁が吹き飛び、幅四丈(約10㍍)の地表が現れていた。
ーーー
ーーー
雪蓮「ちょっ──何よあれっ!? あの将って………本当に人なの!?」
冥琳「…………見事だな、爆風で炎の壁を切り裂いたか………。 雪蓮、何をしている! 曹操軍が道を開いてくれたんだ! 私達も直ぐに抜け出すぞ!」
祭「しかしの……かの将は曹孟徳に仕えし者、後で借りを請求されて、理不尽な要求をされても困るのぉ?」
穏「大丈夫ですよ~! かの将『夏侯元譲』は、曹孟徳に仕える忠義の士ですが、性格は明朗快活にして剛胆……自分の武に自信を持っている人です~! だから、今回の件で貸し借りなどと申すような人ではありません~!」
冥琳「それに、曹孟徳は………覇道を目指す将。 敵味方……誰が見ても納得する勝敗を知らしめせて上を臨む者だ。 このような暁光など歯牙にも掛けないさ!! 雪蓮、今は早く──ここから脱出する事だけ考えろ!!」
雪蓮「分かったわ! じゃあ、兵士達を呼び集め直ぐに脱出するわね!!」
思春「………相変わらずの馬鹿力だな。 まあ……今回は此方も助けて貰うのだ。 文句は言わんでおいてやる………春蘭」
ーーー
ーーー
ーーー
月「────華雄さん、しっかりして下さい!!」
詠「華雄……何時まで寝てるのよ? いつもの様に……さっさと起きなさい!! ほらぁ……華雄!!」
華雄「…………………………」
――
董卓軍では、華雄が昏倒し、月と詠が心配して寄り添う。 華雄は、上空で起きた爆発の衝撃波から月達を庇い、倒れている。
鳳翔の攻撃で、物理的破壊は相殺されたものの、一部の衝撃波が地上に降り注ぎ、冥琳を負傷させ、華雄の意識を奪い取ったのだ。
――
霞「月、賈駆っちぃ──何しとるぅ!? 早う逃げんとぉ!!」
恋「炎………来た! 早く………逃げる!」
――
月達の異変を感じ取った恋とねね、霞が急いで月の傍に集まる!
――
月「恋さん! 霞さん! ねねちゃん! 華雄さんが……華雄さんがっ!!」
詠「アンタ達、兵士達の指揮はどうしたのよっ!?」
霞「心配しなさんな、ウチの小隊長達は優秀さかい……脱出を任せたんや! それより……華雄、どないしたぁ? あの頑丈な奴が……」
月「分かりません………! 天から急に轟音が鳴り響くと……華雄さんが私と詠ちゃんに覆い被さり、気が付いたら華雄さんが───っ!!」
恋「華雄………動かない?」
ねね「恋殿──華雄に意識が無いのです!」
――
集まった霞に状況を説明する月、華雄の様子を確認し恋に説明するねね。
───だが、火の廻りは待ってはいない。
今は、春蘭の切り開いた脱出路がある。 しかし……後少しで……その場所以外が燃え上がり、脱出路が消えるのだ。
一刻も早く──脱出しなければ……取り残される事に!?
――
恋「大丈夫………恋が運……!?」
ねね「どうしたので───恋殿っ!?」
霞「……………見慣れん顔やな。 何しに来やった?」
月「───あ、貴方達は!?」
詠「何しに来たのよ! 冥琳から聞いてるけど………ボクはまだ信じてないんだからね! さっさと此処から出て行きなさいよぉっ!!」
――
皆が皆……火炎の包囲網より逃れようとしている時、月達に近付く者が現れる。 白い服を来た者……先程まで『北郷一刀』を名乗っていた者。
それは───
――
于吉「───おっと………警戒しないで下さい。 今の私達は……貴女達に力を貸す存在ですよ?」
左慈「…………ふん!」
港湾棲姫「…………………」ペコリ
北方棲姫「…………………」コソコソ
――
その変わった組み合わせに、霞、恋も警戒し出す。
――
霞「………ウチのツンツン軍師が、えらい警戒してんのに『はいそうでっか』──て言うと思ってんのか!?」
于吉「ですが………今、その将を救える者は……私の頼りになる左慈だけです。 それに、そちらの軍師は……私の事情を御存知だと申していますよ?」
詠「……………………」
于吉「信じて貰えませんか? 私達は貴女方の力が必要なんですよ。 この場所で死ぬ事は、双方望んで居ない筈です。 どうか、お願いします……左慈に治療をさせて下さい!」
月「え、詠ちゃん!」
詠「──────」
月「──詠ちゃん!!」
詠「~~~~~~~~わ、分かったわよ!! それじゃあ、さっさと治療して頂戴! だけどねぇ、もし華雄を殺したら──アンタ達も、ただでは済まさないわっ!!」
于吉「───承りました。 では、左慈──あの将を診てくれませんか?」
左慈「……………………」ザッ!
恋「─────通さない!」バッ!
左慈「───そこを退け、呂布! 俺は、その女を治療するだけだ。 それに……お前達全員を此処から脱出させてやる。 不本意だが……これも目的の為だ! お前達には生きて貰わないと──困るんだ!」
恋「……………………」
詠「恋………心配なのは分かるわ。 たけど………お願い、通してあげて……」
港湾棲姫「ア、アノ……大丈夫……。 コノ人達………一刀……私達……助ケテクレタ………!」
北方棲姫「…………オ姉チャン……信ジル! ホッポ………信ジル!」
――
恋は、港湾棲姫と北方棲姫をジッと見詰めると………構えていた方天画戟を収めた。
――
恋「…………分かった。 だけど………華雄……殺す………恋………許さない!!」
于吉「…………左慈、それでは………」
左慈「───ふん!」
――
左慈は、華雄に近付き……頭に掌を近付け治療する。 左慈の掌が光輝き……華雄の頭に優しく注がれる。
昏倒して血の気が無くなった顔が……少しずつ顔色が良くなり、荒かった呼吸も穏やかな寝息に変わる。
――
華雄「う…………うぅ…………ここは……?」
月「───華雄さんっ!!」
詠「華雄───っ!!」
――
華雄が意識を取り戻したのは、この後──間もなくの事である。
ーーーーーーーーー
ーーーーーーーーー
あとがき
最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
今回で、この話を終わりにしようとしたのですが………何時もの倍の文字数になったため、諦めました。 へたすると三万文字数……大分書きましたが、文章に編集しないと物語にならないので、連続投稿は無理ですね。
それから、作者の急な事情で……三週間ほど投稿が止まる可能性があります。
休載だけで、停止では無いですので……気長にお待ち下さい。
時間があれば、早めに投稿したいと思っていますが………
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