私が曹操こと華琳さんに出会ってから、数日が過ぎた。
私はこの世界の右も左も解らなかったので『保護』という形で華琳さんのお世話になっている。
城にいる人たちはとてもいい人たちばかりで、私もすんなり打ち解けることが出来た。
今では、神聖で親しい者にしか呼ばせてもらえない筈の『真名』を呼ばせてもらえる様になった。
ある時、華琳さんは「何かしら働け」と言ってきた。
どうやら、彼女はタダ飯を食わせるつもりはないようだ・・・。
兄さんも保護された当初、似た様な事を言われたらしい。
『働かざる者、食うべからず』か。・・・上等!
まぁ私も暇だったし、この世界のことを知るいい機会と思い、朝から昼に掛けては警邏隊の手伝い、昼から夕方に掛けては文官の手伝い、さらに夜はこっちの文字のお勉強をしている。
警邏隊は兄さんが隊長を務めていたという事もあり、解らない事は隊員の人たちが教えてくれた。
文字は多少難しいが、文官の人たちの教えもあり、一応簡単な物なら読み書きができるようになった。
今、私は警邏隊の小隊長の一人である楽進こと凪ちゃんと一緒に街を見回っていた。
一夜「凪ちゃん、凪ちゃん。後、どのくらい見回るの?」
凪「この区画で最後です、一夜様。」
年も近いというのに、なんとも堅苦しい喋り方だ。
彼女は出会った当初から、私に敬語を使っている。
聞くと、彼女は警邏隊『北郷隊』の所属・・・。つまり、兄さんの部下だそうだ。
たぶんこの子は私のことを『隊長の妹』としてみているのだろうか?
一夜「・・・凪ちゃん、もしかして緊張してる?」
凪「ふぇ!?そ、そんなことは・・・。」
明らかに緊張してますね。
一夜「敬語じゃなくてもいいよ。私も、気軽に『凪ちゃん』って呼びたいし。」
凪「しかし・・・。」
一夜「私は、凪ちゃんと友達になりたいなぁって思っているんだけど・・・だめ?」
凪「・・・わかった、一夜。」
ようやく私に笑顔を向ける凪ちゃん。
凪「じゃあ、次の角を曲がった辺りで一区切りつく。そこまでにしよう。」
一夜「うん!!」
私たちは笑いながら、またウキウキした気分で角を曲がった。
だが、私たちに目に飛び込んできたのは、我が目を疑うような光景だった・・・。
沙和「あ、凪ちゃーん、一夜ちゃーん、お疲れなのー。」
真桜「おつー。」
そこには、こちらで言うオープンカフェの様な茶屋で、呑気に雑誌を読みながらお茶をしている沙
和ちゃんと机の上のガラクタをいじくっている真桜ちゃんの二人がいた・・・。
一夜(あれ・・・?二人とも、今の時間は西の区画の見回りじゃなかったっけ?)
私がそう考えていると、凪ちゃんが口を開いた。
凪「お前たち・・・、いったい何をしている・・・?」
沙和「えーっと、お茶してるのー。ねー真桜ちゃーん。」
真桜「おー。」
沙和ちゃんは雑誌片手にお茶を飲みながら、適当な返事を返した。
真桜ちゃんに至ってはガラクタに夢中で、まともな返答をしてこない。
凪「お前たちはこの時間、西の区域の見回りじゃなかったのか・・・?」
沙和「だーかーらー、『今』はお茶してるだけなのー。」
・・・サボっている。間違いなくサボってるよ、この子!
沙和「二人もお茶しに来たの?このお店ねえ、杏仁豆腐が美味しいって評判なんだよ。ホラホラ、今月号の阿蘇阿蘇で再特集してるの。」
沙和ちゃんはそう言うと、手元の雑誌を広げて見せてくる。
雑誌にはこの茶屋の他に、様々なお洒落な服やアクセサリーの記事が書かれている。
沙和ちゃんは流行りを追っかけるのが好きなのだろうか?そんな外見してるし・・・。
一夜「・・・真桜ちゃんは何してるの?」
私は、何か作業をしている真桜ちゃんに声をかけた。
真桜「うちは、からくり夏候淵将軍の改造してんねん。うちの理論上では、全身が人間みたいに稼働することが可能や。」
一夜「・・・ふ、ふ~ん。そーなんだー。」
真桜「あ、ちなみにこの作業、部品細かいから神経使うねん。・・・机揺らしたら殺す
で・・・。」
真桜ちゃんは物凄い真剣な表情で、机の上の『からくり秋蘭さん』を覗き込む。
その顔は、誰が見ても『彼女の邪魔をしてはいけない』と一目で解る程だ。
きっと、からくりをいじる事が、真桜ちゃんにとって生きがいなのだろう・・・。
彼女たちも年頃の女の子だ、仕事より趣味を優先したいのも無理はない。
自分の趣味に没頭することは悪いことではない・・・。
私は、そう(無理矢理)納得することにした・・・。
その時・・・
凪「お前たち、いい加減にしろ・・・。」
一夜「ふぇ?」
沙和「凪ちゃん?」
凪「もう我慢も限界だ!!」
ドゴーーーーーンッッッ!!
凪ちゃんの燃えたぎる拳が、沙和ちゃんと真桜ちゃんのちょうど真ん中のテーブルに突き刺さった。
テーブルは見事なまでに木っ端みじんに砕け散り、周囲は阿鼻叫喚の図へと変わっていく。
ちなみに、『からくり秋蘭さん』も一緒に砕け散っていった・・・。
沙和「ふぇぇぇ~、服に杏仁豆腐が~。」
真桜「ああああーー!夏候淵将軍―!?将軍―!?」
凪ちゃんは怒りのオーラを身にまといながら、沙和ちゃんと真桜ちゃんに迫っていく。
一夜「な、凪ちゃん、目が据わってるよ・・・。」
凪「正式な隊員ではない一夜が真面目に仕事をしているのに、小隊長であるお前たちが仕事を怠け
ているとはどういう事だ・・・!」
沙和「な、凪ちゃーん・・・怒っちゃヤなのーー・・・。」
凪「・・・うるさい。」
沙和「ヒィ!?」
凪「警邏の続き、するのか!?しないのか!?」
沙和「う・・・うんうん!沙和もね、もうそろそろお仕事しなきゃなーって思ってたところな
の!」
真桜「あああああぁぁぁぁ・・・。」
顔面蒼白になった沙和ちゃんは、抜け殻になってしまった真桜ちゃんの手をひいて・・・
沙和「い、いってきまーーーーーーすっ!!」
・・・逃げるように(もとい、逃げて)担当区域の西の地区へ走り去っていった・・・。
凪「はぁ・・・まったく、あの二人はいつまでたっても成長しない・・・。」
凪ちゃんはため息をついて、愚痴をこぼす。
一夜「アハハ・・・凪ちゃん、お疲れ様・・・。」
思わず私は凪ちゃんに労いの言葉をかけてしまった。
おそらく、凪ちゃんはいつもこんな役回りをしているのだろう・・・。
凪「さて、一夜。」
一夜「ふぁ、ふぁい!?」
突然声をかけられ、思わず声が上擦ってしまった。
凪「私たちは休憩しよう。」
一夜「・・・え?いいの?」
凪「ああ、警邏は怠けていた二人に任せて、少し休憩するのもいいだろう。」
凪ちゃんはそう言うと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
一夜「・・・フフッ、そうだね!二人には怠けてた罰として、しっかり働いてもらおっか!」
私たちは茶店を片づけてから、椅子に向かい合って腰掛け、美味しいと評判の杏仁豆腐を注文した。
凪「ところで・・・。」
一夜「?どうしたの?」
凪「い、いや・・・。一夜から見た隊長は一体どんな人物だったのか、聞いてみたくてな・・・。」
一夜「なーんだ!それくらい教えてあげるよ!その代わり、兄さんはこっちの世界ではどんな感じだったか教えてね!」
凪「ああ。」
こうして、私たちは兄さんの話をしながら、しばらくの間お茶を楽しんだ・・・。
沙和「・・・?なんだかさっきの出来事、前にもあった様な気がするの?これが隊長の言ってた『でじゃ・びゅ』って奴なの?」
真桜「うぅぅぇぇぁぁぁーーーーー・・・。夏候淵将軍――――・・・。」
・・・続く
あとがき
【苦肉の策】
苦し紛れに考え出した計略
(『三○堂監修 現代国語辞典』より抜粋)
セイン「いやはや、なんともかんとも・・・。やっとできた・・・。」
黒づくめ(第1章参照)「よう。やっと出来たみたいだな。」
セイン「アレ?お前なんでここにいるの?お前の出番はまだまだ先だぞ。」
黒づくめ「いや、暇だから来て見たんだが・・・、これはどういう事だ?」
セイン「?何がよ?」
黒づくめ「前からかなりの時間が経って、ようやくこれだけか・・・。しかも『前編』だろ?」
セイン「し、仕方なかったんだって!資格の勉強と試験もあったし、今回はなかなかネタが浮かばなかったし・・・。」
黒づくめ「コー○ットアームズ・・・。」
セイン「ギクッ!!」
黒づくめ「稲妻11、T○H、マク○スエースフロンティア、ソウル○ャリバー3・・・」
セイン「ドキドキッ!!」
黒づくめ「・・・ずいぶんと余裕だな?」
セイン「ち、違うんです!け、決して『ネタも良いのが浮かばないし、気晴らしに再プレイでもするか!』とか思って、そのままズルズルとハマってしまって、結局数週間が経ってしまった訳ではありません!」
黒づくめ「今回、話を分けたのも・・・。」
セイン「け、決して『このままじゃあ、ヤバいなぁ・・・。・・・そうだ話を分けて、時間を稼ごう!』とか思ってません!」
黒づくめ「・・・まあ、反省はしてるんだな?」
セイン「・・・はい、今度からは無い知恵捻って頑張ります・・・。スイマセン。」
黒づくめ「・・・悪いとは言わないが、ネタ考える時はあんまり他の事に集中するな。更新ペースが大幅に遅れる事になるから。」
黒づくめ(でないと、俺の出番が来ないもんなぁ・・・。)
セイン「・・・わかった・・・。」
黒づくめ「解ればいいんだ、解れば・・・。」
セイン「・・・さて!コイツのお小言も済んだ事だし、今度はT○Iの再プレイを・・・。」
黒づくめ「するな!」
・・・次回が『第四章(後編)』になりますように・・・。
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