船上に、死を呼ぶ鴉の群れが舞い降りる。
放たれたトウの数は十七本、そこから出でた矢の数は実に八百本以上に及んだ。
「づうっ!?」「ぎゃっ!?」「う、ぐっ……!」
甲板を覆う驟雨の如き矢の雨は、今正に敵船を攻撃しようと弓を引き絞っていた劉表軍の大半を飲み込む。
「ぎっ!? ――く、こ、このような!」
辛うじて事態に対処できた張允を始め、彼の周りにいた兵士達もまた少なからぬ矢傷を負っていた。
「私としたことが……。 ! 軍師殿、ご無事ですか!?」
「…………ええ。辛うじて、ですが」
左腕に突き立った矢を引き抜いた張允が蒯越に声を掛けると、そこには兵士に庇われたらしい無傷の軍師が息絶えた兵士を甲板に寝かせている姿があった。
その兵士の目蓋を掌で覆い、静かに閉じた蒯越は腕から血を流す張允を見る。
「してやられましたね、張允殿」
「……解っております。無念ではありますが撤退――」
――撤退の命令を下そうとしたその時。
船の戦に長けている張允の目は董卓軍の旗艦、その中央でこちらを見据えている八の字眉毛の少女を捉えた――いや、捉えてしまった。
「次弾発射」
冷酷とも取れる平坦な声で、号令を発した少女――荀攸――の瞳を。
――次の瞬間。
『うおおおおおおおおおおおおっ!!!??????』
船体が大きく揺るぎ、甲板上にいた兵士の何人かが江に投げ出された。
「くっ!? 踏蹶箭ですか!」
「いかん! 舵を切れ! すぐにこの水域から離脱するぞ!!」
先ほど寒鴉箭を撃ち出さなかった三基の床子弩が、矢というよりも大型の銛のような箭を撃ち出す。
それは寒鴉箭とは違い直線に打ち出され、張允の船の船底近くに突き立った。
浸水の危険をすぐに察知した張允は負傷した腕を突き挙げ、檄を飛ばす。
◆――
「――くっ! まずい! 全体っ! 散開しろ!」
幔を貫き、降り注ぐ鉄の群れを必死で切り払う高幹。
しかし、その体には既に数本の矢が突き立っており、剣を振るう腕もまた血に染まっていた。
(――ぬかった――!!)
腕と右足に刺さる矢の痛みに歯を食いしばる高幹は次々と倒れ行く兵士達に檄を飛ばす。
(関の前に陣取る先陣は黒山賊の兵力を際立たせるための布石、そして――)
思考を巡らせながら、高幹は右腕から鮮血を迸らせ、関へと殺到する黒山賊の歩兵部隊を睨みつけた。
(黒山賊もまた布石――! 本命は、踏蹶箭に釣られてここへ密集した我等に対してのコレ、か……)
黒い雨が収まった後の惨状を見た後、踏蹶箭に鉤縄を引っ掛けて登攀を始めた敵軍の姿を見た高幹は自身の中で心が折れる音を聞いた。
(こちらの手勢は辛評に送った隊を合わせても二千に満たぬ……加えて麗羽姉の援軍も今日中には間に合うまい……)
「――潮時、か」
「高幹様……」
屈辱に歪むどころか、いっそ清々しい顔で高幹は大きく息を吐き出す。
僅かに生き残った兵士達はそんな大将の様子に何かを悟った。
「――皆の者、よく聞け! 壺関は間も無く落ちる!」
その言葉に辺りはしん、と静まり返る。
「敵軍に使者を送れ。――遺憾ではあるが、我らは漢に降る」
黄金の鎧を纏う者達の手から、次々に剣が、槍が落ち、それが終結の音色となった。
「撃てっ!!」
「――っ!? 来たわね……ひるむな! 撃ち返せっ!!」
夏口に築かれた砦。
物見櫓より降り注いできた矢の雨を前に雪蓮の檄が飛び、赤い鎧の兵士たちは即座に砦に対して矢を射掛け始めた。
「間断なく矢を射掛けろ! 敵に射掛ける隙を与えるな!」
雪蓮の傍で檄を飛ばす冥琳もまた、自ら弓を取り砦に矢を放つ。
「思春、上陸の用意は?」
「出来ております蓮華様。――明命!」
「いつでも行けます!」
雪蓮が乗艦する大型の楼船のすぐ後ろで、蓮華、思春、明命らが上陸戦に備えて機を図っていた。
「慌てないでくださいね~。合図を待ってから接岸を~」
「弩兵隊、身を伏せて次の準備を! ――今です! 弓隊、一斉射撃!」
その蓮華達の側面で穏と亞莎は雪蓮ら主力船団の援護に当たる。
「むぅ」
戦端が開かれてしばし、応酬される弓矢の嵐に身を晒していた孫家、漢連合軍の内、二人の将があることに気付いて首を傾げた。
「――ほっ、と。ちと手緩いのぅ」
一人はぎん、と鈍い音を立てて幾本もの矢を手甲で叩き落とす朱儁。
「――はっ! ……ふむ、儁殿もそう思われますか」
もう一人は的確に鉄鞭を振るって矢を落としながら、隙あれば矢を射掛ける祭。
「それと分からぬくらいには装っておるがの」
「同感ですな。以前、堅殿と共に戦うたことはありますが……黄祖の備えはこれ程に甘くはありませなんだ」
「流石によく見ておるな黄蓋。ふむ、黄祖は何を考えておるやら……」
「……なにやら策を講じておりますかな?」
「――いえ、そうとも限らないのでは」
「む?」
老将、いや戦巧者同士の会話に口を挟んだのは戦が始まってからはひっそりと佇んでいた(とはいっても矢は満遍なく降って来てはいたが)桓階だった。
「桓階……殿、それはどういう?」
「正面より劉表に当たっている董卓殿の刃がそれほど遅いとは思えませんが」
「!」
「……」
問う祭に桓階は淡々とそう口にする。
祭はその言葉を聞きはっとした表情を見せ、朱儁は黙したまま。
「歴戦の黄祖と違い、戦の経験が少ない江陵の部隊は董卓の水軍を舐めて掛かるのでは?」
「――ふむ、成る程のぅ。つまるところ、黄祖には援軍のアテは無いということか」
桓階の言葉通りならば今頃は董卓軍が江夏の東、江陵を攻めているだろう。
それを察した祭は目を細めて江陵がある西の方角を見つめた。
「桓階」
「はっ」
黙していた朱儁が不意に、桓階へと視線を向ける。
その視線を文官の少女は、正面から発止と受け止めた。
「……誰が読んだ?」
「仲達殿ですが」
「――はっ。あの若造め、言うだけのことはあるか」
真顔のままに遠く離れた地の戦況を読み切っていた少女の姿を脳裏に思い浮かべ、朱儁は忌々しそうとも取れる表情で苦々しく笑みを浮かべる。
それを見て祭は首を傾げ、桓階はまるで表情を変えることなく上司を見据えていた。
「李厳さん、孟達さん、報告は以上かな?」
「「はっ!」」
「ん、お疲れさま。じゃあ二人とも、今日はゆっくり休んで」
「「有難きお言葉」」
成都城、玉座の間には慌ただしく人間が出入りしており、出て行く者は皆竹簡や書簡を携えている。
そして入室する者達もまた同じように何かしらの文書を携えていた。
玉座に座り、正面に文机を配した一刀は筆を執る手を止めることなく、矢継ぎ早にもたらされる報告に耳を傾ける。
明け方から既にかなりの時が経っており、太陽は間も無く中天にかかろうとしていた。
きれいな姿勢で礼をした二人の将軍達を退出させた一刀は、大きく伸びをすると傍らに控える少女に目を遣る。
「……風?」
「何ですかー?」
普段の眠たそうな様子からは信じられないくらいの速さで書類関係の取りまとめをしていた風は、半眼のまま一刀を上目遣いに見た。
「気のせいかもしれないけど…………機嫌悪い?」
「そんなことはないのですよー」
「とてもそうは見えないんだけど」
一刀の問いに即座に答える風。
……が、声の調子は素っ気無く、よくよく見れば眉も少しばかり吊り上がっていた。
ふぅ、と小さく息を吐き出した一刀は風の傍に腰掛ける。
「……もしかして、星のこと?」
「……なんのことやらー」
ポーカーフェイスを変えないまま返答する風だが、声を出すまでに僅かに空いた間が図星であることを如実に示していた。
つい最近大きな転機を迎えた友人かつ好敵(恋愛的な意味で)に対して先を越されたと思わなくもないが、風は彼女なりに納得し、また祝福もしている。
が、それと感情はまた別物。
稟と同盟を組んでいるため風は彼女に先んじるつもりはなく、二人で同時に攻勢をかけるつもりでいた。
故に、稟が不在のこの状況ではこうして思い人に半眼を向けているぐらいしかできぬ。
別に星がうらやましいとか、自分のほうが先に一刀と口づけ(頬にだが)したんですよー、とかは思っていない……思ってないったらないのだ。
(……それにしても、なんだってこういう時に限ってお兄さんはー)
妙に勘が鋭いのか。
風だけでなく、桔梗や紫苑、鷹など普段からそれとなく(もしくは直接的に)好意を露にしている面々が迫ってる時にはドがつく程鈍いくせに。
(でもまあ……)
何か神妙な顔してますねー、と風は一刀の表情をうかがう。
こういった場面では困ったような顔をして弁解にもなってないような言い訳というかノロケを語るのが常の少年なのだが、今はどういう訳かえらく表情が硬い。
「…………ごめん、風」
「っ、何がですかー?」
真剣な声色でいきなり謝罪してきた少年に、僅かな驚きの色を隠して風は尋ね返した。
「解ってるつもり――いや、解らないといけないんだけど、自分でもまだ踏ん切りが着かないんだ」
「?」
いきなりの独白。しかも意味がとんと解らない。
困惑する風を他所に一刀は語り続ける。
「星にも叱られたんだけどね…………でも、想夏や星以外の女の人に手を出すなんてことは――」
「――!」
「本当は星と、その、えっと…………してしまった時には想夏に泣かれてでも、星も好きだって気持ちを伝えなきゃって……。その上でどちらかはっきりと決めなきゃいけないんだって考えてた」
(――――)
「でも、星に言われたんだ。”一刀、お前は誰か一人だけを愛することはもう出来ない立場なんだ”って――」
(――――星ちゃん)
「正直、俺自身は無理だと思うんだ」
(――――)
「――だけど、俺はもう四人で旅をしてたあの頃には戻れない。”天の御遣い”として、陛下に次ぐ立場になった者として――いや、自分で選択した以上は」
「――お兄さん」
「戦場に立つことや政治の場に立つことだけじゃない。そういったものも含めて色んな事を受け入れて行かなきゃいけなんだ、って」
――だから風。
自らの裡で対話していた少年は、気付けば再び風と目を合わせていた。
「風の気持ち、なんとなく」
「む……なんとなくー?」
「いやすみませんはっきりとでしたほんとすみません!」
ちょっとばかり睨んだだけなのに凄まじい勢いで頭を下げる一刀に、風は頬を膨ませる。
「で、なんなんですかー?」
解ってる筈なのに、その言葉を彼自身から一刻も早く聞きたくて風は少年を急かした。
「うん、その、俺は風が好きだ」
「――」
ややしどろもどろになりながらも「好き」の部分だけははっきりと目を合わせて告げた一刀に、風の頬がぷすー、と音を立ててしぼんでいく。
そうしていつもの風に戻ってしばし、いまだ目を合わせたままの少年の瞳に映る自分の姿をまばたきして見つめた後。
「…………やっぱり、お兄さんは女誑しなのです」
自分でも気づかないほどに紅潮した顔を僅かに少年から背けて、風はそう呟いた。
「ふはっ! ははははははは! どうですか蔡瑁殿! 私の言う通りだったでしょう!」
「あ~ハイハイ、そうだね~すごいね~」
――江陵より南、張允と荀攸がぶつかり合う戦場から東の江に浮かぶ船の上にて。
高笑いする長身痩躯の男の言葉に、水色の髪を河を渡る風に靡かせ、桃色の瞳を半眼にした少女――蔡瑁――は適当に相槌を打っていた。
「くくくくく、王威殿率いる一の矢が駄目でも張允殿率いる熟練の水軍が相手では馬上の戦闘しか知らぬ田舎武者では敵いますまい!」
「そだね~多分無理だろね~…………まぁ、その推察が合ってればだけどね~」
最後の言葉だけは上機嫌の男に聞こえぬようにぼそりと呟き、蔡瑁は内心溜め息を吐く。
「しかも長沙に向かった呂布と徐晃は江夏の黄祖殿らがいる以上、動けない!」
「うんうんそだね~そのとおりだね~」
「これで我ら主力は悠々と南下でき、董卓の居城を直接叩けるという訳です!! くく、主だった武官を全て出払わせるとは――賈文和は軍師としては三流ですなぁ!!」
(というかここまですんなりと渡河できてることになんで疑問を抱かないかね~この男……たしか、
袁紹との同盟が成立した際に使者としてやって来たこの男は、美辞麗句を並べ立てる舌と『必勝の策』とやらを劉表に気に入られて今回の大戦の軍師に抜擢された。
本人は元々そのつもりだったらしく、口では「主の元へ早く帰って公孫賛との戦の指揮を執らなければ!」とか言っていたのに、劉表が開いた酒宴と多くの儒者からの賛辞を受けてふんぞりかえらんばかりに胸を張っていたのを蔡瑁は思い返す。
そうして軍師となった郭図は一晩ほど劉表と密談を交わした翌日、南より渡河して董卓を攻めるとだけ蔡瑁に告げ江夏へと共に赴き、黄祖配下の文聘に何かを告げると蔡瑁には船団の支度を任せて文聘の後を付け、帰って来たと思えばすぐに出航の命を下したのである。
当人曰く、「これで戦の趨勢は決した」との事だったが、蔡瑁はこの威勢だけは立派な男を好いてはいなかった。
「で、郭図殿。上陸戦も含めると武陵まではそう容易く行かないのでは~?」
「ふふふ、心配召さるな蔡瑁殿。輜重は我等の後にすぐ進発しておりますゆえ補給の懸念はありませぬ」
やる気のない蔡瑁の様子には毛ほども気づかず、郭図はふん、と鼻を鳴らすと背丈と同様にひょろりと生えている顎鬚をしごく。
「また、長沙や武陵の主だった敵拠点にはこちらを気付かせぬよう手配しておりまする……くくく」
(ま~た山賊とか流賊とか江賊とか、まぁろくでなし連中を金で釣ってけしかけたんだろ~な。この陰険ヤローは)
蔡瑁も馬鹿ではなく、文聘が調査へと向かった際にはちゃんと一部始終を見させている。
その顛末を知っている蔡瑁は、この男がそういった”扇動”を今回も使っているのだろうとあたりを付けた。
「これで董卓は丸裸も同然……ふ、ぅふふふふ」
(うわ、キモっ!)
目を血走らせ、今にも涎を垂らしそうな郭図の様相にドン引きする蔡瑁。
「ふふふふふ。ぅ~ふふふふふ…………さ、蔡瑁殿、間も無く着きますぞ」
「わかってますよー軍師殿ー。あ、それ以上はこっちに寄らないでくれますかねー」
気味の悪い笑みを浮かべたまま、見えてきた対岸を指さす郭図から距離をそれとなく空けて蔡瑁は腰に下げた剣を鞘の上から一撫でする。
「総員上陸準備! 視界良好、なれど警戒怠るなー。歩兵部隊から行くからねー!」
『ははぁっ!!!』
(さってっとぉ、コイツにどこで見切りをつけますかね~?)
自分が先陣に立つわけでもないのに鼻息を荒くしている郭図を、蔡瑁は乾いた瞳で見つめていた。
「一の陣、突破されました!」
「敵歩兵、すでに二の陣まで迫っています!」
「ご苦労、二の陣には手筈通りと伝えよ」
「はっ!」
矢継ぎ早に飛び込んでくる伝令に落ち着いたまま命を下し、黄祖は眼下の戦いを見下ろす。
長江の岸に築いた一の陣は、既に上陸した朱色で埋め尽くされていた。
そこから伸びる朱色の槍は、一の陣より高所に築いた二の陣へと今にも突き刺さろうとしている。
(流石は江東の虎の子、と言ったものか。……速い)
後方に見える漢軍の赤を置き去りに、孫家の朱色は猛火の如き疾さで進む。
その勢いは激しい、だが、それは黄祖の予測の範疇に収まっていた。
(……だが、まだ若い。故に)
二の陣へと雪崩れ込む朱色の鎧の群れ、恐らくはその戦闘で剣を振るっているであろう女傑の姿を想起しながら老将は巌のようなその面に冷厳な色を浮かべる。
「その速さが命取りよ」
そして、戦場に銅鑼の音が鳴り響いた。
「随分と歯応えがないっ――わねっ!」
「ぐああっ!」
槍を手に突進して来た兵に対して逆に突進しながら切り捨てた雪蓮は、続いて来る敵兵に向かい刀を構える。
「雪蓮様! あまり前には!」
「露払いはわたし達がしますので――って、ああっ!? 思春殿、雪蓮様行っちゃいましたー!」
返り血を浴びて深紅に染まっていく主君を追って斬り込む思春と明命はその勢いについて行くのがやっと。
「ふむ、分かっておったがちと拙いのぅ」
「じゃが黄蓋よ、今のアレは少しずつではあるが文台に近づいておる。――もちっとやらせておけ」
その少し後ろ。
残敵を確実に討ち取りながら進む二人の老将、祭は雪蓮の勢いに懸念を示し、朱儁は油断なく辺りに視線を走らせながらその懸念を無用とばかりに手甲を打ち鳴らす。
「しかしですな儁殿。相手は守りにおいては手堅い黄祖、しかも彼奴の居所はまず間違いなくあの高台に築かれた砦にある筈。こちらの戦況は手に取るように見えておるでしょう」
「で、あろうな。……だからよ、黄蓋」
ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた朱儁を見て、祭はその背後に”あの時の炎”を見た。
「小僧っ子共の道は儂が開いてやるわい。――
――今再び、炎が煉獄より解き放たれる。
あとがき
お待たせしました、天馬†行空四十七話です。
またも投稿の間隔が空いてしまい申し訳ありません。
今回で対袁紹戦の西方面は終了、後は麗羽の元へ司馬懿、華琳、白蓮の誰が早く辿り着いて決着を付けるかになりました。
そして雪蓮&朱儁対黄祖戦、開幕。戦況はどう動くか?
そしてそして、劉表戦では恋に潰された賊の扇動者がやっとこさ登場し、ここより月の領内での戦が始まろうとしています。
さて、郭図の作戦は上手く行くのか!? 蔡瑁のやる気メーターがほとんどゼロでのスタートだが大丈夫か!?
待て次回!
超絶小話:鍛錬中! その二
「俺と? 華雄さんが?」
「ああ。お館、お願いする」
「ん……星?」
「構わんぞ。たまには私以外に稽古をつけて貰うのも良い経験だ」
「だから星のは稽古とは言わないんだってば……」
始まってから秒単位で地に伏せるのを果たして鍛錬と言うのだろうか、と一刀はかなり真剣に首を傾げる。
「……焔耶、正直華雄さんがなんで俺を指名したのかは解らないけど」
焔耶と正面から向き合い、一刀は少し長めの木刀を正眼に構えた。
「全力で、相手になるよ」
「有難うお館。――いざっ!」
剣で言うところの脇構えを取り、焔耶は一刀の一挙動すら見逃すまいとする。
始まりは焔耶から。
「せぁあっ!!」
横薙ぎの一閃……と見せかけての上段からの振り下ろし。
以前、華雄に掻い潜られてからというもの焔耶は単純な攻め手だけでなく、こういったフェイントも交えるようになっていた。
とは言え重量のある金棒の軌道を無理に変化させれば使い手に負担が掛かる上、素早く繰り出さねばフェイントの意味もない。
華雄を相手にした時、焔耶はまだ自分がその域に達していないと分かっている。
が、これからの戦を考えれば攻め手を増やす――それに伴う自身の錬磨は望むところだった。
(さあ、どう出る――お館!)
フェイントではあるが焔耶の横薙ぎは、一刀の胴に鈍砕骨一本分の距離まで振られている。
これに釣られて構えを乱せば、本命の一撃への対処は確実に遅れる筈。
無論、模擬戦であるし、主君でもあり天子に次ぐ貴人に当てるつもりは毛頭ない。
故に焔耶は上段からの本命を寸前で止めるつもりでいた。
風を切って唸りを上げる横薙ぎ、それは牽制に見える偽りの手、それに対し――。
「――」
少年はちらりとも視線を向けず、ただ焔耶の瞳を見つめていた。
(――っ!?)
視線を外さず――いや、一刀の黒に捉われたまま焔耶は本命へと動きを変化させる。
腕だけでなく、腰や脚、それこそ全身の筋肉を連動させ、焔耶は自身でも最高速と思える切り返しを見せた。
(――しまった!?)
だが思ったよりも速すぎる! これでは寸止めどころか当ててしまう!
「――ほぅ、アレを見切ったか」
「――ッ!??」
――いつの間にか、視界から黒が消えていた。
(どこに――っ!?)
先ず、フェイントの横薙ぎ――ここで焔耶の視線は鈍砕骨振り上げる動作へと移行する一瞬、己が腕で(右目だけだが)遮られる。
そして本命の振り下ろし――この時点での視界は良好、標的を定めただ一心に力を籠めるのみ。
――誰が予想するだろうか。
初手が繰り出された方向へと、僅かに身を屈めながら滑り込むなど。
一歩間違えば致命傷。
しかしながら焔耶が相対するは自身の師の一人たる張任の狙撃を予測し、正確に目視した上で防いでみた人間。
戦場に立ち、剣を振るうところを見たことがない焔耶は少年の全力を侮っていた。
――結果。
「――そこまで! 勝負あったな」
首に突き付けられた木刀。
再び自分を捉えて離さない黒い瞳。
「――」
僅かな死角を突いて、息がかかるほどの場所に立っていた少年に、
(これがお館の眼、か。――綺麗だな…………って、何を考えてるんだワタシ!? わわ!? ち、近い近い!?)
「ままま参ったお館! 有難う御座いました!」
顔どころか首筋まで真っ赤に染めて焔耶は飛び退り、慌てて一礼するとそのまま駆け出して行く。
「――っはぁ、緊張したぁ。……って、ん? どしたの星?」
「……いや、また一人増やしおってとか思ってないぞ、うん」
「何かは知らないけど思ってるじゃない……」
張りつめていた空気が弛緩し、止めていた息を吐き出す一刀とジト目で溜め息を吐く星がその場に残された。
も一つ超絶小話どころか殆ど一言
「――はっ!」
「どうしたの稟ちゃん?」
梓潼で政務に当たっていた稟は、突然竹簡を繰る手を止めると窓の外に顔を向ける。
ただならぬ稟の様子を見て、向かいに座っていた紫苑は顔を引き締めた。
「いえ何でしょうかこれは……? 何か、同盟破棄というか抜け駆けされてしまったような気がして」
「?」
腕を組んで思案する稟、ハテナ顔の紫苑。
――ちなみにこの瞬間に風が一刀の告白を受けていたりするのだった。
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真・恋姫†無双の二次創作小説で、処女作です。
のんびりなペースで投稿しています。
一話目からこちら、閲覧頂き有り難う御座います。
皆様から頂ける支援、コメントが作品の力となっております。
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