= カルデア サロン =
「…そういえば、今日は先輩の誕生日でしたね」
唐突に思い出したマシュは湯呑に口をつけて話を切り出す。
それを聞いた牛若丸と清姫は互いに抜けた声で反応し申し訳なさそうに思い返す。
「ああ…それで主どのは今日…」
「私としたことが…妻として旦那様の生誕の日を忘れてしまうとは…」
(単に清姫さんは強引すぎたと言わないのが優しさでしょうか…)
いずれにしても、大切な人の誕生日を忘れるというのは死活問題だ。
特に彼女たちサーヴァントであれば必須でないにしても誕生日は祝うべき。そう思うと今日の彼の機嫌にも少し納得がいった。
やさぐれていた時が多く、特にロマン相手には容赦なくその姿を見せて彼のメンタルを傷つけたので彼女たちもなにかあったのかと考えていたが、それが誕生日を祝えてもらえないと言う事から無意識に起こったことなんだと直ぐに理解した。
「ですが、私たちすっかり忘れてしまってましたし何も用意していませんね…」
「ええ。もう少し早く思い出していればよかったのですが…さてどうしたものか…」
「こうなれば、旦那様のために私が人肌夜の営みを――」
「「それは却下です」」
「妙案だと思ったのですが…」
「黒髭さんが喜ぶだけです」
それだけは全力で却下する清姫は仕方なく18指定一歩手前の行為を諦め、別の案を模索することにした。
別にそれでなくても彼を喜ばせればそれでいい。マシュの言葉に三人は頭を働かせて考えるが中々良い考えが思いつかない。
「………なかなか…」
「思いつきませんね…」
「どうしましょうか…」
その時だ。
「君たち、ココで何をしている。ブリーフィングに行っていた筈では?」
「あ、アーチャーさん」
赤い外套を外し、黒い服だけとなったアーチャーが彼女たちに近づき、ここに居るのはおかしいだろうと疑問を投げかける。
確かに少し前まで彼女たちは作戦会議に呼び出されていたが、それはもう過去の話だ。
「ええ。確かにそうでしたが、時間よりも早く終わったのでこうして時間をつぶしていたんです」
「…ふむ。そうか。ならいいのだが――」
「あ…アーチャーさん」
「ん?何かね」
「実は…」
自分の考え違いだったとあっさり認めてその場を後にしようとする彼にマシュが呼び止め、振り返ると彼の後ろには困り顔の三人の姿があり、それには何かあったのかと無意識に反応してしまった。
そして彼はマシュの口から彼も忘れていた事を聞くこととなった。
「…なるほど。確かにそれは私も不甲斐なかったな。一応私も彼からいつが誕生日かを聞いていた。なのに、マスターのそれを忘れるとは…」
「はい。それで今日、先輩はグレちゃってたんです…」
「…そんなしょうもない理由で…とは言うにも言えんが…仕方あるまい。この事を知っているのは?」
「私たちだけです。アーチャーさん…エミヤ先輩に話したのが最初ですから」
「………。」
ため息を吐くと、アーチャーこと英霊エミヤはどうしたものかと頭を悩ませる。
が、時間も何もないとなれば精々おめでとうと言うのが精一杯。普通ならそれでいいのだろうが、今の彼にはそれで済ませるというのも彼らにはどうしても気が引けてしまう。
せめて僅かな時間だけでも。
そう思うと彼の考えることは一つだった。
「…彼、まだ食事は済ませてないな」
「あ、はい。主どのは疲れたと言ってそのまま部屋に…」
「多分今もぐっすりとお休みでしょう」
「…まさかエミヤ先輩…」
「別に卑猥な事はせん。というかそんなことをして何になる?彼の誕生日をトラウマにでも?」
「それは流石に…」
「なら。誕生日、という日で連想すればいい。それですべて解決だ」
エミヤは笑みを見せてそういい、彼女たち三人の頭の上に疑問符を浮かばせる。
誕生日といえばと思う彼らにとって、特に西洋の文化に疎い牛若丸と清姫にとってはコレは難題だが、ただ一人マシュは気付いた様子で「あ…!」と声を漏らした。
「準備に時間はない。だが手を抜くつもりもないのでな。その間、君たちには彼を呼んで来てもらいたい」
「…はいッ!」
「………?」
「マシュ、一体なにをする気で…」
「大丈夫です。先輩を祝うやり方を思い出したんです!」
今日に限って気分の乗らないBlazは一人カルデアの廊下を歩き眠気覚ましにと辺りをうろつく。
睡眠をとってある程度の疲労は回復したが、それでも気分だけはどうしても晴れず気晴らしにと、こうして歩いていたのだ。
「………。」
何故ここまで気分が晴れないのか。
無意識にしているだけで本当は彼もわかっていた。
単なる子供みたいな理由。今日が自分の誕生日であることに誰も祝ってくれないという事。
現状が現状なため彼もあまり贅沢は望まないが、せめておめでとうの一つぐらいは言ってほしい。そう思うとどうしても気分が下がってしまう。
「…たかが祝ってもらえないだけだってのに…なに我が儘言ってんだか…」
自分の身勝手さに呆れ、頭を掻くBlazはやはり気分が晴れないと直ぐに部屋のほうに戻っていく。このままじゃどうしようもない。
そう思っていた時だ。
「あ、先輩!」
「ッ…マシュ。それに二人も…」
探し回っていたのか走って近づいてきたマシュたち三人にどうしたんだ問う。
どうやら急ぎのようか何かで自分を探していたようだと思えるが、それに対しマシュは理由も言わずに彼に言う。
「ええっと…ちょっと、来てください」
「…は?」
「理由は後でご説明を。今は…どうか」
「旦那様。ここは黙ってお聞きになってください。でなければ私の炎が怒りで狂ってしまいます」
「………まぁ別にいいケド…」
彼から許可をもらったマシュはでは早速と言って彼の腕をつかむと、彼の部屋がある方へと走り出す。
一体どこに向かうんだ?この先は俺の部屋だけだぞ?
他に宛てのない彼は一体彼女たちが何を考えているのかと疑問に思っていたが、彼女たちの目的地は当然、彼の部屋に他ならなかった。
たった五人で行われた小さな小さな祝いの場。
そんな事が用意されていたとは、この時彼は思いもよらず、ただ嬉しそうに自分の前を走る彼女たちに付いて行った。
尚。この後、他のサーヴァントたちもあとで気付いたらしいが唯一ロマンだけは本当に忘れていたようで気付いたのが一週間後だったりする。
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…もう過ぎてしまったんですが一応と思って…