No.811767

艦隊 真・恋姫無双 84話目

いたさん

……合戦開始です。

2015-11-04 01:46:59 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1028   閲覧ユーザー数:943

【 桂花の考え の件 】

 

〖 司隷 洛陽内 広場 にて 〗

 

時は少し前に巻き戻し、一刀達が出撃した直後。

 

洛陽の広場で、ある『物』を藁で包み袋に詰めるようにと、桂花は兵に厳命をしていた。

 

円形の形をした板状の『その物』は、金属製の為に落としても割れるような事は無い。 しかし、傷を付けると策の効力が著しく弱まるので、厳重に保管しなくていけなかった為である。

 

桂花「いいこと? この準備は、策の八割を決める重大な事よ! だから、その物を落として傷つけたり、割らないように気を付けて運びなさい!」

 

曹兵「はっ!」

 

数百人規模で以上の作業を行った曹操軍の兵士達は、荷物を馬車に積み込み、急ぎ諸侯達の兵が待つ──洛陽の外へと向かった。

 

桂花の役割は、あの『話し合い』の後に、自分が提案した策の要になる物を洛陽の要人から借り受け、各陣営で丁寧に磨かせ、目的地まで運ばせる事。

 

桂花は、荀家の人脈を使い、洛陽の要人達より集める。 そして、その持ち主と物を記録して、各陣営に割り当ての枚数を送るように手配している。

 

勿論、君主である華琳にも報告済み。

 

華琳は桂花より報告を受けると、『その行為が私の益になるか?』とだけ聞いてきた。 桂花は、先日の反乱での貸しを返す事が出来る旨を伝えると、その言葉に納得して、全ての指揮を任せたのだった。

 

華琳「───準備は順調なようね、桂花?」

 

桂花「………はい。 ですが、策が完全に発動できなければ、この策自体が無意味です。 それまで………緊張感は一切拭えません!」

 

華琳「だけど……この策の発案者が貴女だと聞いたわ。 このような、高価な物を策に利用するなど……普通の軍師では発想は無理よ。 桂花だからこその策、あの時……貴女を手に掛けないで良かった………」

 

桂花「策の発案は確かに私です。 しかし、この策も……『ある男』から聞いた……策の元になる話を聞いて流用したまでの事! 驚かれる事も賞賛される事もありません! 」

 

華琳「…………桂花、貴女は勘違いしているわ」

 

桂花「…………えっ?」

 

華琳「知識を得て、人に自慢気に語る事は誰にも出来る。 それは、ただの物語、噂の類に過ぎない『非実現性な物』よ。 それなら、記録して竹簡に残せば、それで充分。 軽く目を通して、頭の片隅にでも置いておくわ」

 

桂花「…………」

 

華琳「だけど……貴女は、話という『無用』から勝利に導く『有用』に変えた! その策に転用できる運行法──それが出来る。 それは、大きな才能でなくて!?」

 

桂花「───ですが、私以外にも……この話以上の事を聞き及んでいる者も、大陸各地に存在しています! 諸侯の軍師になっている者も……」

 

華琳「あらっ、そうなの? だけど、他の諸侯からは……目新しい策を利用した風聞さえ来ないわ。 伏竜のように、野望を秘めているなら別だけど……」

 

桂花「───それは……」

 

華琳「いい……桂花? 貴女の才は諸侯の軍師より、遥かに上回る! 相手に知識があっても、応用を知らねば私の方に利はあるわ! そうすれば、覇王として、どんな困難でも越えられると思うのよ!」

 

桂花「───!?」

 

華琳「貴女の進言は可能な限り叶える! だから、お願い! 私に──覇王として大陸を制覇するだけの策を、これからも献じて欲しいの!!」

 

華琳は、桂花の両手を握りしめ……桂花の目を見つめた。

 

桂花は、久しぶりに感じる華琳の体温を感じ、身体が熱くなるのを自覚する。

 

────しかし、今はそれどころでは無い。

 

準備をしなければ、一刀達が危険に陥る可能性があるのだ。

 

桂花は……両手をユックリと下ろし、華琳に進言する。

 

『ならば──もう一つの策を献策したいと思います………。 しかし、これは華琳様のお考え次第。 どうぞ、お決めになって下さい!』

 

 

◆◇◆

 

【 冥琳の謀 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 別室 にて 〗

 

冥琳が、自分の手勢だけを思春に命じて、洛陽の外で滞在する他の諸侯の軍勢に合流させ、雪蓮に独断で動いていた事を侘びつつ………報告する。

 

冥琳「───という訳だ。 雪蓮には申し訳ないが……意識が無かったので、私の独断で行動した。 司徒王允の命令には反するが、我らだけでも……」

 

雪蓮「───冥琳! 本当に良いのぉっ!? 私も戦に参戦しても!?!?」

 

穏「きゃあああ───っ!!」

 

祭「おっと………そうやって起きられると、堅殿を思い出しますな………」

 

今まで、寝台で白目を剥いて寝ていた雪蓮の身体が、急に上半身だけ起き上がり、顔が冥琳の方に向いて一声を発した。

 

一緒に控えていた穏は、声が無い叫び声を出して尻餅を着き、蔡は少し驚くと『堅殿も……よく同じ事をしていた』と懐かしそうに笑う。

 

冥琳も叫び声を上げたかったが………このような状態にしたのは、自分と于吉である為、深くは言えず……冷静な対応で応じた。

 

冥琳「う、うむ………さっきまで屍のように寝ていた者とは、思えん元気の良さだな。 だが、言っておくが……これは孫家としての独断だ。 もしかすると、袁術や司徒王允から追究の手が廻って来るかも知れんぞ?」

 

雪蓮「大丈夫、大丈夫! 私の勘が『心配ない!』って言ってるんだもん! たぶん………冥琳や穏が何とかしてくれるんでしょ?」

 

穏「う、うえっ~? そ、そうなんですかぁ~冥琳さま~!?」

 

雪蓮の言葉に穏が反応して、半泣きの顔で冥琳に迫る!

 

『軍略の師でもある冥琳様でも、洛陽の重鎮や厄介な大国の君主を、相談も無しに敵へ回すような真似は慎んで貰いたいですよ~!』

 

───────そう顔に書いてあった。

 

冥琳「…………心配するな。 今回は私一人の独断的な物だ。 『あいつ』を救う為には、やむを得もない………」

 

祭「ほう………あの堅物の冥琳がのぉ? 頬を染めて『あいつ』呼ばわりするとは………これは、また面白い事が起きたわい!」

 

祭がおどけて言うが、冥琳の真面目な顔を見て、皆の視線が集まる。

 

冥琳「天の御遣いが少人数で出動すれば、間違いなく敵が動く。 そうすれば……例の『深海棲艦』とやらも同調して牙を向けて来よう! これで、天の御遣いが全滅すれば……我らに勝ち目など無い!」

 

雪蓮「私は良いわよ! 誰かさんの御蔭で鬱憤が溜まっちゃてね? 何かで発散したかったの! それに、半信半疑な『深海棲艦』って敵、実際に相手が出来れば……于吉の言うことを七割ぐらい信じられるわ!」

 

于吉『────やれやれ………』

 

雪蓮「─────!?」

 

于吉『七割とは失礼な………全部本当の事ですよ。 この時代の者達では、深海棲艦に傷一つ付ける事も難しいのですが。 まあ、これも経験ですかねぇ?』

 

主要な将が集まる中、部屋から于吉の声が響き渡る。

 

しかし、幾ら捜しても……于吉の姿は見えない。

 

雪蓮「ちょっと、アンタねぇ~! こんな大事な会議しているのに、声だけ響かせるのは失礼じゃないの!?」

 

于吉『これは失礼……しかし、我が主君より《アンタの顔なんか見たくない!》と言われば、顔を隠す事も当然かと……』

 

雪蓮「うぐぅ………冥琳みたいに口がへらな『──誰がだ?』じゃなくってぇ! さっさと出て来なさい! アンタみたいな奴にも相談したいの!」

 

于吉『…………やれやれ、我が儘な主君だ。 しかし………客将を望んだのは私ですからね。 仕方ありません、今……現れますよ!』

 

─────!

 

音も無く現れた于吉。 だが──注目するのは、そこでは無い。

 

冥琳「于吉………その頭はなんだ?」

 

于吉「ジャック・オー・ランタンという『南瓜のお化け』ですよ。 顔を見たくないそうですから、作って被ってみましたが……結構、重いですね?」

 

于吉の訳の分からない行動に、強制的に慣れてきた孫呉の将達だが……ハロウィーンという西洋の行事を……急に持って来られても、理解できないし分からない。

 

まあ……冥琳は、前の世界で教えて貰ったので、知っているにしても……だ。

 

「「「────────!!?」」」

 

于吉の行動は、歴戦の将達を驚愕させるだけの……モノを持っていたのは事実。 この後、大騒ぎになり………皆が皆、冥琳に叱られるオチが付いた。

 

そして、冥琳は……于吉に頼む。

 

『………于吉、左慈に連絡は取れるか? 今度の策に、私の考えを合わせて行いたい! 桂花の策を補強するには、二人の力が必要なのだ!』

 

于吉と左慈を捲き込んだ策を説明し、左慈の協力も仰ぎたいと説明した。

 

それを聞いた于吉は──

 

『なかなか面白い策ですね? 左慈の嫌がる顔が見えるのなら、喜んでお手伝いしましょう!』

 

と、満面の笑みを浮かべ協力を約束したのだった。

 

 

◆◇◆

 

【 予想外 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 郊外の原野 にて 〗

 

 

賊1「カァ───ッ!」

 

不知火「…………沈めっ!!」

 

賊1「───ぐぼぉっ!」

 

――

 

賊2「チョア───ッ!」

 

如月「えーい!」

 

賊2「───☆*§♪†♭」

 

如月「あら……いやだ。 変なとこ当たっちゃった?」

 

――

 

賊3「ガァ───ッ!」

 

菊月「──甘いっ!」

 

賊3「……………グォォォォ……」

 

菊月「この菊月と対するとは………運が悪かったな……!」

 

――

 

白波賊が数人で立ち向かい……不知火、如月、菊月が相手をするが、鎧袖一触で沈められた。 相手が素手ゆえ、三人も素手で対抗したのだが……一人だけ股を押さえて悶絶している。

 

三人とも、そのまま置かれると邪魔になるらしく、仲間に引き摺られながら運ばれた。 二人は手加減してあるので死んではいない。 もう一人の……『息子』さんの被害は………何とも言えないが。

 

その様子を……笑いながら見ていた李楽は、賞賛の言葉を掛けながら次の計を行う合図を発す。

 

李楽「流石は……天の御遣いの従者……それなりの武力はある。 だが……今の事は小手調べ。 ────これなら……どうだ!!」

 

───残り一つ焚かれていた……篝火を消させた!

 

―――

 

人の目は、暗闇や光のある場所を見る際、網膜の感光度を変化させる事を『明暗順応』と呼ぶ。 そして、状況が……暗闇→明るいを『明順応』、明るい→暗闇を『暗順応』と分ける事ができる。

 

ところが、明順応を行う時は約二分で済む。 暗順応だと調節に一時間ぐらい掛かる。 網膜内にある組織に、視紅なる物質が合成されて、組織内で活発化するのに時間が掛かる為の行動だからだ。

 

―――

 

だから──人体に近い身体を持つ艦娘も、同じような事が起こる!

 

如月「きゃあっ!」

 

不知火「────これでは!?」

 

磯風「慌てるな! 神通が夜戦用に、探照灯と照明弾を所持してくれている! すぐに明りが照射される────!?」

 

磯風が言い終わらない内に、強烈な光が辺りを照らす!

 

神通「今です! 私が照らしますから───」

 

胡才「おらっ! これでもぉ喰らいなぁあああ────っ!!」

 

神通「きゃあ───っ!?」

 

神通が探照灯で照らすと、胡才が固い『何か』を投げつけた!

 

───!

 

胡才が投げつけた物は、探照灯に当たり音を立てて………粉々に崩れて落ちた。

 

川内「考えが甘いねぇ! 神通の持つ探照灯は強化ガラスだよ! 石如きで壊れる品物じゃ───あれっ?」

 

神通「───だ、駄目です! 探照灯が……探照灯がぁ! 薄暗く斑尾模様になっちゃいました!! これでは、照射ができません!!」

 

胡才「ギャハハハハハッ! 誰が、そんな不確実な事するもんかぁ!! 一回直に触って確かめて見やがれぇ!!」

 

探照灯から照射される筈の光の帯は、半球形のガラス面に黒い何かが張り付き、照射を邪魔をする! 探照灯は……さっきの闇を切り裂く明るさは無く、斑尾模様を浮かばせる、影絵の投射器のように薄暗い器具に成り下がる。

 

慌てて探照灯を手で擦れば……黒い液体がネチョリと付いた!

 

神通「こ、これってぇ………い、いやぁ! 何か……ネバネバしてるぅ!?」

 

胡才「それはなぁ──墨だ! しかも、元々の墨に木炭や山芋とか入れて、粘度も調節した特別性なんだぜぇ? 拭いさる事なんてぇ……無駄無駄無駄ぁあああっ!!」

 

胡才が投擲した物は、鶏卵より数倍大きい壺に入った『墨』! 壺は割れたが、中身が飛び散り──探照灯の照射を阻止!

 

自慢気に話す胡才の声が響き、川内は舌打ちして仲間に命じる!

 

川内「ちっ………提督の救援には私が行く! 神通、急いで照明弾を発射して! 那珂と夕立は、横から突っ込み挟撃してくれぇ!!」

 

神通「───はいっ!」

 

那珂「那珂ちゃん、センター入りますっ! 可愛いからって手加減すると、痛い目見るからねぇ!」

 

夕立「夕立、突撃する! 提督さんから、いっぱい褒めて貰うっぽい!!」

 

左右の両翼が───川内の指揮の下、各々動き出した!

 

 

◆◇◆

 

【 深海棲艦の強襲 の件 】

 

〖 洛陽 郊外の原野 にて 〗

 

場所は変わり……一刀達を見守る赤城、加賀達も前方の様子が奇異に見えた!

 

赤城「今──探照灯の照射が!?」

 

加賀「照射が直ぐに消えるなんて──!? これは、何かあったようだわ! 私達、一航戦が掩護に向かう! 貴女達は待機して───」

 

瑞穂「て、敵艦!? 発見いたしました!」

 

「「「「 ──────!? 」」」」

 

瑞穂の急な『敵艦見ゆ』の情報に、その場の艦娘が息を呑む!

 

??「大層ナ迎エ……御苦労サマ。 私ニデキル事ナド……タカダカ知レテイルガ……敢エテ言オウ! コノ地デ……沈メ!!」

 

敵艦は一隻……港湾棲姫に似た姿。

 

しかし──より妖艶に、より凶悪した容姿、鉤爪状の艤装を着用、純白のドレスを風に靡かせ……深海の令嬢とも謳われる『中間棲姫』が現れた!

 

山城「………こんな所で敵艦に出会うなんて……ね? だけど、今度ばかりは……貴女が不幸みたい。 艤装を外したまま、私達の前に現れるなんて……無謀を通り越して自殺行為よ! ────砲戦、用意して!」

 

中間棲姫の目立つ艤装は、浮遊砲台だけ。 艦娘を攻撃出来そうな武装も艤装も……何故か装備していない。

 

山城でなくても、『勝機は此方にあり!』──と考えるだろう。

 

赤城、加賀も………戦の不得意な瑞穂を連れ、中間棲姫より距離を開けて待機。

 

扶桑も……初撃を妹に任せ、連撃を加える為に準備をしていた。

 

山城は、自慢の35.6cm連装砲を中間棲姫に向け、号令一下で放とうとした!

 

山城「──主砲、よく狙ってぇ! はな──」

 

扶桑「ま、待ちなさい──山城!!」

 

山城「────えっ!?」

 

ところが───敬愛する姉の扶桑より、まさかの待ったが掛けられたのだ!

 

驚いた山城が扶桑を見ると……扶桑が必死に指で『とある場所』を示している! 中間棲姫の後方、その延長先に──奮戦している一刀達が居る事を。

 

――

 

扶桑は、艤装を外して此方に向かう中間棲姫に……違和感を感じていた。

 

扶桑姉妹とは言えば……欠陥戦艦とか言われている。 しかし、火力の強さに関しては、かなりの知名度があるのに、中間棲姫の姿と余裕のある態度。

 

その扶桑の頭に過るのは、何時も重装備の艤装を心配して、気に掛けてくれる提督の優しき姿。

 

『───も、もしかしてっ!?』

 

急いで弾着点の確認すれば……砲弾予想弾着点の延長先には──薄暗い明りが照射されている!

 

『敵艦に爆撃できれば支障は無いわ。 だけど、もし……砲弾を躱されたら──!! 最悪………皆が大破、普通の人である一刀提督は──死ぬっ!?』

 

扶桑は、中間棲姫の狙いに気付き、急ぎ山城を止めたのだ。

 

――

 

中間棲姫が、艤装を外している理由……『攻撃、防御力を犠牲にした行動の高速化』……つまり、回避能力が飛躍している事を意味している。

 

もし、山城が狙いを定めて砲弾を放ち、『確実に』当たれば中間棲姫と言えど、ただではすまない。 中破ぐらい狙える火力を誇る扶桑姉妹だから。

 

ところが──もし、外されれば、流れ弾となり一刀達の傍へ落ちる可能性が高い! いや、回避能力が強化されている中間棲姫なら、難なく避けれる事は、間違いだろう!!

 

そうなれば…………一刀達の命は無い!!

 

それが、中間棲姫の狙いの『一つ』だが、この狙いは他にもある。

 

――

 

中間棲姫「…………アト少シデ……悔ヤミ切レナイ後悔ニ……身ヲ委ネルトコロダッタモノヲ。 マア……イイ。 ソノ……慢心シタ報イ……コノ場デ悔メ!!」

 

中間棲姫は、その華奢な指先を重ねて貫手に変え、普段より数倍速く距離を縮め、山城へと突撃する!

 

その速さは、島風に匹敵するほど!

 

瑞穂は勿論……加賀、赤城、近くに居た扶桑さえも反応が鈍い!

 

瑞穂「─────っ!?」

 

赤城「な、何ですか!? あの速さは──!!」

 

加賀「………まんまと……出し抜かれたわ!」

 

扶桑「山城、逃げてぇ───っ!」

 

重き艤装は足枷、長き得物は懐に入られれば……手は出せない!

 

中間棲姫の真の狙いは、『遠距離攻撃を得意とする戦艦、空母に肉薄し、近距離より打撃を与える事!』

 

狙いは……左胸の心臓部!

 

山城「─────!?」

 

山城も反応するが──艤装が重装備、尚且つ砲筒が巨大化している為、急な転回も出来ず避けられない! それでも、必死に足掻く山城だが、中間棲姫の顔に微笑と思える目の動き、口より発し出された絶望の言葉が吐き出された!

 

中間棲姫「……遅イ……既ニ捉エテイルゾ……! ソノママ……誘爆シテ……シズンデイケェ……!」

 

山城「きゃ……きゃああああっ!!」

 

ーーーーーー!!

 

中間棲姫の貫手が……山城に接触し……非情にも──貫いた──!!

 

 

◆◇◆

 

【 絶望と希望 の件 】

 

〖 洛陽 郊外の原野 にて 〗

 

全体を墨を流したように暗く、前方どころか周りが見えない中………艦娘達は奮戦していた。

 

不知火「───ちっ! そんなんで、この不知火は沈まないっ!」

 

如月「あぁ~ん! そこはダメぇぇ~~!!」

 

菊月「ぐっ……この程度で! 泣き言など──言わん!!」

 

島風「目標が分からないと、幾ら早くても追い付けないよ!」

 

普通なら……話にならない程の実力差がある艦娘と白波賊。 しかし、状況を窺えば……圧倒的不利に追い込まれている。

 

ーー

 

川内「このぉ──っ! 痛いじゃない! さっさと……倒れろ!!」

 

賊4「ぐはっ! 」

 

川内「もうっ! 幾ら私が夜戦好きでも、こんな苦戦を楽しむ余裕なんか──無いんだからねぇ!! 一刀提督──何処に居るのよ!?」

 

ーー

 

理由の一つが、夜という特殊状況、酔拳という……変則自在な奇拳を併せた李楽の策術に翻弄されている。

 

李楽の配下である賊は……『暗視の術』を心得ている為、闇の中でも自在に動く事が可能である。 暗闇を利用して視覚を奪い、盗みを働くのは、白波賊にとっては必須の行為。

 

そして、李楽は……『酔拳』という拳術を悪用、『暗視の術』を会得した白波賊に習わせて、この策術を完成させた。

 

酔拳を見た方なら分かるが、酔客の動きで相手を惑わす動き……実に痛快で楽しい。 酔っぱらた振りをした者が、滑稽な動きで薙ぎ倒す。 弱者が強者を倒す姿は──実に好感を持つ物だ。

 

しかし、李楽がこの拳を好み、策術に取り入れた利点は……もう一つ。

 

この拳が………地面に伏せて戦える『地躺拳系』の武術だったから。

 

★☆★

 

『地躺拳』……地功拳ともいう拳であり、普段は通常の拳と同じ様に戦闘を行うが、対戦相手の意表を付いて倒れたりして、寝ながら戦う拳法。 一説に因れば、足場が悪い所で適応した拳だとも。

 

寝ながらだから、楽な拳法だろうと思う方は……甘い。 地面に倒れる方法、拳や蹴りを出す方法、身体の移動方法は、結構ハードである。 ちょっことだけ行った事がある……作者の体験から。

 

★☆★

 

この状況と合わせると、闇の中で伏せりながら、下半身、主に足を執拗に狙う……非常に戦い難い戦術になるのだ。 武器を持つ者なら、足を斬り相手が立てなくなったところで、止めを刺す事もできる。

 

攻撃される方は、何処から攻撃されるのか……精神負担が高まり、此方は、地面に転がるか伏せて、相手の足に集中して攻撃。

 

受ける相手は、闇の中からの攻撃だから……その恐怖感は尋常ではない! 攻める相手は、伏せれば相手の動向が分かるし、狙い易い。

 

これで──どちらが有利なのか分かる筈だ。

 

しかし、艦娘も、ある程度の刃物の攻撃には耐えられる。 だが……無傷とは行かず、傷も大なり小なり負う事になるが……。 彼女達の肉体は鋼では無く、身体も心も暖かい……人と同じ様な存在なのだから。

 

そして──その艦娘達を救いたいと──声を枯らして指揮するのが、漢中鎮守府を纏める北郷一刀だった!

 

★☆☆

 

一刀「何とかしない──ふんっ! 邪魔だ、どけぇえええっ!!」

 

下より攻撃してくる賊の攻撃を、帯びていた刀を引抜き、自分の前に盾のように立てた! 少しして、鞘に当たる音が響き──驚愕する賊の声が聞こえた。

 

賊5「────っ! 馬鹿なぁ……何故……貴様は『見える』!? 散々……篝火を見ていた筈なのに──ブホォオオオッ!!」

 

一刀の眼帯は、この時……既に外していた。

 

天龍より借りた眼帯は、ポケットに突っ込んである。 既に一刀の眼帯の謎を解明した提督も居らっしゃるが、その理由を説明しなければなるまい。

 

『暗順応は時間が掛かる』………これは、どうしようもない人間の構造である。

 

しかし、逆に考えれば……普段より片目を隠せば……即対応が可能。 夜戦になるのは分かっている。 ならば………厳密に片目を隠せばいい。

 

それが役に立ち、一刀を辛うじて戦場に立たせている。

 

一刀「邪魔だと言っただろう! ───皆、下からの攻撃に気を付けろ! 奴らは下からの攻撃を得意とする! 奴らの攻撃は………全部が地面に伏せて行っているか──!?」

 

賊6「大将首、貰ったぁああああ───」

 

一刀「───でやぁああああっ!!!」

 

賊6「ゲェエエエエ───ッ!?!?」

 

最初の敵には、顔を蹴り上げて吹き飛ばし、指揮している途中から仕掛けた者には、鞘の先端で胸を突く!! 突かれた相手は、口から血を吐き倒れた。

 

一刀は……命を奪うのは嫌いである。 それは、今も同じであるが……艦娘と白波賊の命が同じとまでは、考えておらず……必要とあれば殺める覚悟もあった。

 

しかし、やはり……心の何処かで抵抗があるらしく……攻撃が甘い。

 

明命「か、一刀様! 大丈夫ですか!! お怪我は──っ!?」

 

一刀「し、心配……無用だ! ハァハァ……ハァ、それより……皆は……?」

 

陣が崩され……乱戦に次ぐ乱戦。 気がつけば……一刀の傍には明命しかいない。 明命は俯きながら事情を説明する。

 

何故なら……戦場から徐々に離れるように明命が撹乱、艦娘達も一人、また一人と離れ、一刀に気付かれないように、戦場の中央へと向かって行く。 主要戦闘場所を少しずつ移動させ、一刀を逃す為である。

 

明命「彼方で、皆さんが満身創痍で戦っています! ですが……皆さんが……貴方を連れて逃げるようにと───」

 

一刀「俺を……陣形からワザと外し……皆が囮になったのか! 俺の指揮が……誤ってしまったばかりに! 責任は俺にある! 誰が逃げるものかぁ──!! 俺は行く、今、助けに行くぞ───!!」

 

明命「駄目です! 絶対に駄目です!! 皆さん──貴方に生きて貰いたい為に、命を捨てて向かっていたんですよ! あ、貴方が、一刀様が生きてくれなきゃ………あの方達の志を無にするつもりなんですか!?」

 

一刀「う………うぅぅ………うおぉおおおお───っ!!!」

 

ーーー

 

一刀は……今度の戦は『夜戦』という事を踏まえ、夜戦に精通している川内型の三姉妹を要にして戦術を組み、神通に探照灯と照明弾を準備して、この戦に臨んだ。

 

一刀が持っている……情報と装備、仲間達の力を結集した戦術だった。

 

ところが──探照灯は墨で消され、最後の頼みだった照明弾も……発射して辺りを照らした直後、白波賊後方より撃ち落とされ、粉々にされた!

 

しかも、照明弾が僅かに照らした原野に、黒装束の兵が浮かび上がる! 頭に黄色の鉢巻き、衣服を闇に溶け込むように黒色にして、周辺を埋め尽くしている。 その数………凡そ数千!!

 

一刀達を狙い………包囲するように移動している事がわかった!

 

ーー

 

一刀は、真っ暗になった戦場で、急ぎ眼帯を外して状況を確認! 陣形の有無、敵の正確な人数、退避場所等を再度見直し………皆に伝えた。

 

この時、一刀は………対人砲撃も許可した。

 

『天の御遣い』という肩書きの為、不殺を貫いて来たが……今回は、どう考えても……殺めなければ勝てないと考えたからだ。

 

だが……これには皆が反対する。

 

『私達は艦娘……人を守る為に再度身体を得て、提督の下へと降り立ちました。 ならば、最後の最後まで……この手を再度……殺めて血で染める事無いよう……砲撃などさせないで下さい』

 

───代表して、鳳翔が一刀に伝えた言葉である。

 

しかし、懸念は当たり………一刀を守るため、艦娘達は奮戦をする。

 

鳳翔は内緒で持ってきた一刀の予備の上着を着て、身代わりとして指揮。 周りには、如月達がボロボロになりながらも戦う!

 

川内「提督───って、あれ……鳳翔さん?」

 

鳳翔「提督は──無事に逃がしました。 私達は殿を務めるため、此処に残っています。 川内さんも、早く退いた方が───」

 

川内「………そっか! 提督は無事に逃げれたんだね! なら、この川内の最後の夜戦、パァーッと大輪の華を咲かせるよ! ちょっと活躍する舞台が小さいけど、この『川内型 1番艦 』の夜戦を特と御覧あれ!!」

 

鳳翔「川内さん………!」

 

川内「この川内は……活躍するのも、轟沈した時も夜戦だった。 なぁ~んて言われたいの。 だけど……提督には、私の事……覚えて貰いたい。 他の川内が一刀提督の下に着任しても……提督を愛した私を……忘れないで欲しい……な」

 

鳳翔「大丈夫ですよ、あの一刀提督ですもの………あら? どうやら……提督が嘆いてくれているようですよ? 物悲しい叫び声が………」

 

川内「…………ぐすっ……提督の馬鹿。 人が決意したのに……決意を鈍らせてどうすんのよ。 ごめん、鳳翔さん! 私、行くよ!」

 

鳳翔「御武運を……私達も後で追い付きますね……」

 

二人は、笑い合い──最後の敬礼を交わす。

 

川内は知らなかった事であるが、鳳翔の傍に那珂と夕立、神通、磯風の姿が見えない。

 

白波賊の別働隊が動いたことに気付いた夕立と那珂は、二人して増援の白波賊に突っこみ、獅子奮迅の活躍を見せ防いでいる。

 

神通は自責の念により、磯風は二人を掩護するため、飛び込んでいる!

 

しかし……多勢に無勢……何時しか四人も飲み込まれるだろう。

 

★★☆

 

───川内と鳳翔が別れを交わしている時。

 

白波賊の後方に居て、満面の笑みを浮かばせるのは……白波賊に加入した鬼灯。 いや──『南方棲戦鬼』

 

鬼灯「夜戦での手は……全て潰えた。 これで、貴様らと言えど──終わりだ! 我が宿敵共、そして───北郷一刀よ!!」

 

白波賊に夜戦に対抗する智識を教え、援軍を派遣、そして自らも加勢して、一刀の策と動きを潰した。 そのため、レベルが高い艦娘が軒並み轟沈し、自分達の勢力は、かなり延びるだろうと……ほくそ笑んだ。

 

白波賊の行動、泊地棲姫の活躍が──大陸に混沌を生み出し、深海棲艦の力を強くさせ、大陸を世界を……崩壊に導かせる事ができる!

 

 

 

だが───世界は、外史は許さなかった!!

 

暗闇の世界に、光の帯が一条、二条と延び……数多の数となり戦場を照らし出す! 光の源に居るのは──曹操軍軍師『荀文若』!!

 

桂花「今よ! あの戦場を照らして敵の姿をハッキリと現しなさい!!」

 

数十ある井桁状になった材木の櫓に、焔が踊る!

 

そして、傍には───磨き抜かれた銅鏡が多数の兵士に持たれ、戦場を眩い光を当てて、まるで昼間のように、人や物を判断できるように照らし出していた!!

 

 

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あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

『艦娘が、賊なんかに殺られるわけないじゃねえか?』と、考えられる提督や司令官もいらっしゃると思います。

 

作者も、そう思いますが……艦娘が食事をする等……どうも人間っぽい描写が多いので、こんな話になりました。 賛否両論あると思いますが……作者なりの外史ということで……納得していただければと。

 

 


 
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