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模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第39話![]() コマネチさん 2015-10-20 23:12:57 投稿 / 全6ページ 総閲覧数:779 閲覧ユーザー数:744 |
――あのガンダム作品は駄目な出来だな。主人公にとても感情移入出来ねぇよ!――
――そうだな。セリト君がいうならそうなんだろうな――
――おーそうだぜサブロウタ!――
……
――おい!絶交ってどういうつもりだ!――
――僕が好きなガンダム作品、お構いなしに叩いてたろ?それ意外にも下に見るような発言ばっかり、そんな人と会話したくないよ――
――ま!待てよ!クソッ!裏切りやがって!――
――セリト君、僕は君を裏切らないよ――
――……ありがとよ。サブロウタ――
……
――もう俺につきまとうなよ!サブロウタ!――
――セリト、どうしてそんな事言うの?親が離婚して辛いのは分かるよ。でも俺達は友達だろう?――
――それで母ちゃんの実家に引き取られる事になった。……それで引っ越さなきゃいけないくなった――
――え?――
――仲直りするから大丈夫だって父ちゃんも母ちゃんも、先生もオバちゃんも言ってた。それなのに駄目だ。皆俺を裏切りやがる――
――……俺は裏切らないよ、セリト、ずっと俺達は友達だ……――
……
――おい久しぶり!サブロウタ!この街に戻ってきたぜ!――
――セリト!セリトじゃないか!もう何年ぶりだろう!――
――まだガンダム好きなのか!?俺も相変わらず好きだぜ!――
――当然俺もだよ!あ!そうだ!セリト!お前を誘いたかったんだ!――
――なんだ?――
――俺達ガンプラバトルのチーム!入らないか?!――
「……ん」
眠っていたツチヤは目を覚ます。ツチヤの自室だ。何があったか思い出す。今日の再戦に備え、新作の仕上げが終わった時。机に突っ伏した体勢で寝てしまったらしい。窓から朝日が差し込んでいた。
――そうか……完成した安心感からそのまま寝てしまったんだ……――
顔の下に腕を敷いてた体勢で寝ていた所為か、腕がビリビリする。痺れをこらえながら、机の上の新作をツチヤは見る。両肩と背中にライトニングバックウェポンシステムを取り付けたアッシマーだ。
――俺は、あいつが引っ越した後、ガンプラを始め、入れ違いに理不尽なガンダム作品叩きをしなくなった。叩いてるよりガンプラに没頭してる方が楽しかったからだ……。当然セリトもある程度大人になって、分別がついて叩かない様になったと俺は勝手に思った。……あんな事になるなんて……――
そしてこちらはアイの方
「ぅぅん……ふぁぁ……」
ベッドで寝ていたアイは上半身を起こし、机の上のガンプラを見る。今日のバトルで使うガンプラだ。
「気合、入れていくかな」
そして身支度を整え、服を着替えると、机の引き出しを開けて、小さな箱を取り出す。
「昔を思い出してしんみりしちゃうから、出したくなかったんだけど……。今の私はもう自分のチームを持つリーダーだから……」
箱を空けると中にはヘアゴムがあった。ガンダムのマスコット、『ハロ』とその変種『サイコハロ』のボンボンがついていた。
「だから、気合を分けて、ノドカ……」
誰かの名前を呟くと、アイはヘアゴムをくわえ後頭部の髪を纏めだした。
……
そして昼、対戦すべくアイとツチヤの二人は集まる。周りのアイの仲間は昨日と同じだ。
「あれ?珍しいねアイ、ヘアゴムつけたんだ」
アイの髪型に気づいたナナが指摘する。
「昔の友達にもらったんだ。引っ越すときにね。思い出したからつけてみたの」
「あーそういえばアイって今年の頭に引っ越してきたんだっけ、すっかり忘れてたわ」
と、そうこうしてる内に相手の二人がやってきた。カモザワとコウタだ。
「昨日は不覚をとったが今日は負けねぇ、もうお前らは必要ないって教えてやるぜ」
「その台詞、そっくり返すぞ」
ツチヤとカモザワの二人が対峙し火花を散らす。
「アイさん、今日こそあなたに勝つ!今日の機体なら!あなたとも互角だ!」
「……機体だけ強くしたって、駄目だってもう解ってるでしょ……?」
コウタも同様気合を入れる。反面アイの方は冷ややかだった。
そしてバトルが始まった。宇宙のフィールドにアイの機体が飛ぶ。いつものパーフェクトユニコーンガンダムではない、その機体は……
「来たっ!」
と、相手が撃ったであろう一斉放火が始まる。ミサイル、連射型のビームに高出力の大型ビームが連続でアイめがけて来る。
「この量、一機の砲撃じゃない!でもこの攻撃、どこかで……」
と、Gポッドに警告音が走る。アイも同時に『上から来る!』と判断、機体をバックステップの要領でかわす。
「かわしたか!さすがはアイさん!……何っ!」
「その声!コウタ君!えッ!」
お互いが相手の機体を見て驚いた。なぜなら、
「その機体、俺のシグーダークマターに乗ってるのか?!」
「あなたこそ!私のパーフェクトユニコーンのデータをコピーしたの?!」
「その通り!」
コウタでない声が響いた。別のビルダーだ。同時に攻撃がやむ。そして数機の敵機が集まってくる。アイの敵機は全機、アイが昨日使ってたパーフェクトユニコーン(以下ユニコーン)だった。
アイの使ってた物との違いはボディを走るライン、サイコフレームの色が赤くなっている事だろうか。しかもその数は以前より遥かに多い、コウタ含め12機は見えた。
「数が多すぎる!これで私と戦えと!」
前回同様、一機につき護衛の無人機が二機いた。
「その通りだ!安っぽいシグーだな!」
コウタの仲間の違法ビルダーが乗ってるユニコーンが一斉に前に出る。そして撃ってきた。アイはかわしながら前に突っ込む。
「あなたの仲間のシグーだよ!!」
「だが俺達が乗ってる機体はお前が一番よく知ってるだろう!勝てるわけねぇだろ!!ましてや、そんなのシグーに!」
そう言った違法ビルダーは無人のユニコーンを二体けしかける。無人機はビームトンファーで斬りかかってきた。それをアイはダークマターライフルの、左手首のビームサーベル計二本で受け止める。
「初対面で差別?!」
「ガンプラ作ってバトルなんざ女子供もやってる遊びだって事だ!」
――またこういう奴か――と心で舌打ちするアイ。
と、シグーと無人のユニコーンが鍔迫り合いの最中にユニコーンの背後から、違法ビルダーのユニコーンが、シグーを撃ってくる。
「あっ!」
アイが声を上げる。が、狙い撃ちしたのはユニコーンへだ。無人機だから貫通させてシグーごと葬り去ろうという魂胆だ。ユニコーンの爆発はシグーを包み込んだ。間髪いれずにユニコーンに撃ち続ける違法ビルダー。
「ガンダムはなぁ!戦争を扱った硬派なドラマなんだよ!ガンダムは俺みたいなむせる硬派なファンだけでいいんだ!」
そんな自分に酔った発言が他人によく見えるハズがない。見ていたナナ達7人は不快な気持ちだった。
「自己陶酔じゃん。あれもフーリガンて奴?」
「最近はそういうのも少なくなってきたんだがな」とブスジマ。
「自分が異常だって気づかないのあいつら」
「気付いてないんだよナナ……。ああいうのは自分が気づかないうちになってるんだもの……」
ムツミは淡々とモニターを見ながら呟いた。
「でも呑気だね皆、アイちゃんやられちゃったかもしれないのに」とタカコ
「タカコ……君はアイちゃんがあれ位でやられると思ってたの……?」
「まっさか~」といわんばかりにタカコは呑気な顔で首を横に振った。
「ハハハ!やっぱり機体の性能だけに頼ってた女だったな!」
アイ達が戦ってる遠くでネフィリムに乗ったカモザワが笑っていた。
「そう見えるならやはりお前の目は節穴だな」
「!?」
ツチヤの声だ。どこにいる!と見回すカモザワ、見ると上にツチヤの乗った新型が見えた。『機動戦士Zガンダム』に登場した機体、アッシマー。
妙に厚ぼったい体躯をしているがそれもその筈、変形でパンケーキの様な形状に姿を変える機構を持った機体だ。ツチヤのアッシマーは、背中にライトニングブースターという支援機と合体していた。
「サブロウタァア!!」
「アッシマー・デコレーション!出るぞ!!」
ネフィリムで襲い掛かるカモザワ、そしてこちらもアイのユニコーンのコピー機が随伴し襲い掛かってきた。ツチヤもビームライフルを向け、応戦する、こちらでも戦闘が始まった。
そしてこちらは再びアイの方、爆発が収まるとシグーの姿はなく、違法ビルダー達はもう倒したと思い込んでいた。
「ハハハ!俺みたいな人間が集まってガンプラバトルを硬派に変えてやる!」
「ふーん、じゃあこっちもそれなりの態度で対応しなきゃねぇ」
「!?」
アイの声が聞こえた。それもちょっといつもより冷たい響きで。硬派気取りのフーリガンが声のする方。後ろを見るとアイのシグーが無傷でその場にいた。
「アイさん!」
コウタの安堵した声が響く。
「この!女がぁぁ!!」
またもフーリガンのユニコーンがシグーに向けて全火器を発射する。シグーはそれを掻い潜りながら右手のダークマターライフルを撃つ。距離を詰めながらユニコーンのビームマグナムとビームガン、ガトリング、ビームキャノンは破損、どんどん武器は失われていった。
「こ!この!」
そこへ別の違法ビルダーのユニコーンが救援に来た。
「お!お前ら!ちょうどいい!俺は下がる!後は任せた!」
そそくさと後退しながらフーリガンは違法ビルダー達に命令した。
「戦場の厳しさを教えてやるよ!」
そう言いながらさっきとは別の違法ビルダーの乗ったユニコーン達が撃ってくる。しかしシグーは複数の射撃も難なくかわす。
「……大口たたいておいて射撃全然ヘタクソじゃん」
冷めた口調で呆れるアイ、そして弾幕を掻い潜りながら撃っていた一機のユニコーンに接近、あらかじめ左手に持っていたダークマターブレイドで近かったユニコーンの腹部を一刀両断。ユニコーン一機は爆発。
「弱いね。他もこんなもん?」
――やっぱり商品な所為か、前と違って再生能力はないみたい――そう思いながらアイが呟くと、二機のユニコーンがビームトンファーで斬りかかってくる。
「このアマァァ!!!」
――パワーじゃ適わないけど――
「話しかけないでくれる?汚い言葉で」
まず一機目のユニコーンがシグー目掛けて縦にビームトンファーを振る。しかしシグーは横に回避、すかさずビームサーベルでコクピット目掛けてビームサーベルを突き刺した。一機目はそのまま沈黙。
直後背後から二機目のユニコーンがビームトンファーを横に薙ぎ払う。これでシグーは破壊したと違法ビルダーは思う。だがシグーは身を屈めて回避、アイはそのままシグー本体を横に一回転させる。シグーの背中の右側にはダークマターブレイドがマウントされていた。
――小回りはききやすいんだよね――
ウイング状にマウントしたままとはいえ。武器を振り回す事には変わりない。背中のダークマターブレイドはユニコーンを引き裂く。手に持っていなくとも切れ味は変わらなかった。と、
遠距離からまた複数のユニコーンが撃ってきた。こちらが遠距離攻撃に乏しいと知っているのだろう。すぐさま向かおうとするアイ、しかし後方から別のユニコーンが撃ちながら追いかけてくる。
「邪魔だなぁ」
アイはダークマターブースター先端部(◇の形をした部分)からGNキャノンを発射、シグーに装着している場合は下側をむいてるGNキャノンはユニコーンに真っすぐ向かう。出力は落としてはいたがユニコーンの胸部、コクピットを貫通しユニコーンは爆散。悲鳴を上げるフーリガンだがそれがアイの耳にとって心地いい。
――なんだろう。ゾクゾクしちゃう。きっとバトルの熱だね――
そう勘違いしつつアイは、後ろに目もくれず前方のユニコーンに斬りかかった。冷淡を装いながらも、自分の表情がSっ気全開になりつつある事も知らずに、
「うひょ~、強ぇぜアイちゃん」
観戦モニターを見ていたブスジマが感心した。
「でもアイちゃん……なんかいつも様子が違うよ……」
ムツミがモニター越しのアイの顔を見て違和感を感じる。フーリガンの悲鳴を聞くとき、とても楽しそうなしかし邪悪な笑顔をしていた。
「あ、そういえばあの顔前にもあったじゃない~。あ、これだ」
そう言いながらタカコがデジカメに保存してある写真を皆に見せた。以前アイがバトルで小学生の悪ガキビルダーにセクハラの挑発を受けまくってた時の事だ。キレたアイは相手の股間を爆熱ゴッドフィンガーでヒートエンドしてしまったのだ(第24話参照)その時のアイの表情はまさに今フーリガンを痛めつけてる時と同じ顔だったのだ。
「つまり……アイちゃんは今キレてるって事か?」
上記の説明を受けたブスジマとツクイ、そしてツクイが疑問を口にした。
「うぅん。あれ位じゃアイはキレませんよ。今までだって嫌な相手にも普通に対応してたんだもの」
「多分フーリガン狩りを楽しんでるんだと思います……」
ナナが推測をそしてムツミが予想を口にする。実際その通りだった。
「どSだったんだなアイちゃん。よっぽどフーリガン共が嫌いなのかもしれねぇぜ」
「あれじゃ多分自覚ないですよ~アイちゃん自分の性癖」
目線をアイの戦場に戻そう。
「凄い……あれが俺のシグーの動きなのか」
コウタは攻撃を忘れながら、茫然とシグーの動きを遠巻きに見ていた。あれだけ自分を圧倒したユニコーンをあっという間に殲滅するシグー、それもブースト状態のトランザムシステムを使ってない状態で、だ。敵対してないならこれ程見てて嬉しい事はないだろう。
遠くでシグーが、ダークマターライフルでユニコーンのコクピットを撃ちぬいたのが見えた。
「最初のフーリガンはどっかいっちゃったけど、見えてる限り後はあなただけ」
アイは残りのユニコーン目掛けてダークマターライフルを撃ちながら接近する。
「くっ!アイさん!!」
コウタはダークマターライフルをかわすと両手の武装で撃ち返す。これもアイはかわすが、この時アイは相手がコウタと気づいたようだ。
「!?コウタ君!」
アイの口調と表情が元に戻る。
「さすがだよ!俺のシグーであんなたくさんのユニコーンを殲滅した!」
「これで解ったでしょう?!データの塊じゃ性能高くったって実力を発揮できない!でも心さえ!魂さえあれば!実力を100パーセント以上発揮できる!あなたのシグーだってこんなに強いんだよ!?そしてあなたも!」
「その上から目線を!!やめろぉぉ!!」
激昂したコウタのユニコーンはビームトンファーを大きく振り下ろす。無言のアイは右腕のビームサーベルで受け止めた。
「それだっておごりじゃないか!!こっちがどれだけ苦しんだかもしらないで!!」
パワー自体はユニコーンの方が上だ。シグーの腕がきしむ。
「……そうかもね、私のエゴかもしれない、でも……何度もバトルしてきたあなただもの。私には解るよ!今データに乗ってるあなたが一番弱いよ!」
アイのシグーが赤くなる。トランザムだ。増したパワーでユニコーンを弾き飛ばす。
「ぅあっ!」
大きく飛ばされたユニコーンだが、すぐ体勢を立て直しビームキャノンで応戦。軽くかわすアイ、ビームキャノンは後ろの小惑星に当たり小惑星は爆発、コウタの機体では味わったことのない威力だった。
「あんたは!やっぱり酷い人だ!口ではああ言っておいて!でも自分だけこんな凄い機体に乗って!!」
「それはこのシグーだって同じだよ!自分で動かして確信した!このシグーはさ、あなたのステップアップに応えたくて一生懸命だったんだ!だから強い!」
反撃せず説得しようとするアイ、この間もトランザムは続いていた。
「あなたがもっと強くなりたい、うまくなりたいって意思を続ければ、このシグーだって答え続けてくれるよ!でもそれには時間が必要なの!」
「でも……でも……!もう俺は引っ越す!そしたらもうあんたには会えない!俺はガンプラは好きだけど!……あんたは俺の初恋なんです!」
「え?!!」
コウタの言葉に驚くアイ、なお観戦してる全員にもバッチリその声は聞こえた。
「でもアンタに会えなくなったら強くなっても意味がない!アンタにいい所を見せたかった!アイさんが忘れない思い出を作りたかったんだ!!」
「コ・コウタ君……」
アイは顔を赤らめ、一瞬申し訳なさそうな顔をする。しかしすぐ真剣な表情に戻す。
「このバトル終わったらさ。シグーの調整とかバトルのレクチャー、一緒にやろうよ。私でよければ知ってる事全部教えるから、あなたが忘れなければ、私も忘れないから」
アイだってガンプラをやって嫌な気持ちになってほしくはなかった。アイなりの実力差と思い出の両方を埋める案だった。
「……本当に?忘れないでくれるんですか?」
「うん、だから……」
その時、アイのシグーのトランザムが切れた。そしてペナルティとしてシグーのステータスが大きく低下した。その時だった。コウタのユニコーンがうめき声をあげる。
次の瞬間、コウタのユニコーンのコクピット部からビームサーベルが生えた。コウタのユニコーンが背中から突き刺されたのだ。これによりコウタのユニコーンは撃破扱いとなる。
「コウタ君!!」
「敵と戯れるんじゃねぇよ」
刺したのは最初に武装をつぶしたユニコーンだった。乗ってるのはさっきの硬派言っていた男だ。
「仲間に対して!」
「あぁ?敵と慣れ合った腰抜けを処分しただけだろうが、あのまま続けても呆けてお前を倒せなかったろうよ。なら」
そう言うとフーリガンのユニコーンはコウタのユニコーンの両手の武器を外し自分に付け替えた。
「こうやって武器のスペアになってくれりゃ十分役に立ったぜ。更にお前はトランザムが切れて性能も落ちてるからな!お前を倒せば硬派な俺は有名人だ!!」
「待つ事も戦術だ」そう言いながらフーリガンのユニコーンは新調した両手の武器をアイに向けた。
「あんたは人間のクズだね。最低野郎。いやただの『最低』か」
「あ?」
「……最初の内に片付けとくべきだったよ。いたぶりたかったけど。もういいや」
フーリガンは武器のトリガーを引こうとする。が、その瞬間。アイがダークマターブレイドをユニコーン目掛けて投げる。ダークマターブレイドはユニコーンの右肩の付け根を貫通。ユニコーンの右腕が舞った。
「なっ!!」
たじろくフーリガン、気を取り直しガトリングを撃とうとするがすでにアイのシグーは目の前にいた。直後、左腕の肘から下が舞った。シグーがビームサーベルで斬り裂いたのだ。
「弱いね。常識も勇気も無くて何が硬派?」
「ッ!!貴様!!」
女に馬鹿にされた、それも鼻で笑って。激昂したフーリガンが左肩のビームサーベルで斬りかかってくる。シグーは左手首のビームサーベルで受け止める。だがトランザムの影響でシグーのパワーはさっきより落ちていた。勝てると確信するフーリガン。だがシグーの腕は動かない。パワー負けはしてないのだ。
「な!何故だ!何故パワーで押せない!!」
「負けられないんだよ……。コウタ君のシグーの強さの証明……。負けたら申し訳ないでしょ?」
アイの魂は大きく燃え上がる。シグーはそれを通じ力となっていた。そして右腕のダークマーライフルをユニコーンに向けて連射、ビームは左肩と両足、そして頭部に的確に当たり破壊。
自分で作ったのだ。構造上弱い所ばかり狙うのはたやすい。そして蹴りを入れ、近くの小惑星に落とす。
「ぐぁっっ!!よ!よくも!!」
残ったユニコーンの胸部、コクピットをシグーが踏みつける。フーリガンのGポッドに軋む演出が起こった。
「よ!よくも!!よくも初心者の俺にこんな初心者狩りみたいな事しやがったな!!辞めてやる!お前らが俺みたいな新世代ビルダーの初心者の心を傷つけて!どんどん人口を減らしてくんだ!!お前らの所為でガンプラバトルは終わる!!」
「いなくなるんだ。じゃあ願ってもないね」
アイはためらいもせずに踏んづけた足に力を入れる。アイの表情はとてもいい笑顔だった。そっけないアイの言葉だったが、フーリガンにはアイの全てが恐ろしく感じた。
「ひっ!!や!やめっ!」
「あなたいらない」
プラスチックの砕ける音を立て、ユニコーンは完全に破壊、この近辺はアイのシグーだけが残った。
「ツチヤさんの方は?」
アイはツチヤのいるであろう方向を見る。戦ってるであろうビームと爆発の光が見えた。
「あそこか!」
アイはそのまま飛び立った。
そしてツチヤの方のバトルだ。アイに劣る実力のツチヤとはいえ、フーリガンのユニコーンに遅れは取らない。
「このっ!!」
ユニコーンがアッシマー・デコレーション(以下アッシマー)を撃ち落そうと撃つが、円盤状に変形したアッシマーは軽くかわしユニコーンの目の前に迫る。
「あっ!アッシマーがぁぁ!!」
叫ぶビルダー、直後ユニコーンはライフルに撃ちぬかれ爆散する。
「これで残るはお前だけだ!セリト!」
「馬鹿な!!あれだけの高性能のユニコーンが!」
「諦めろ!!お前のやり方では長く持つもんか!!」
再び人型に変形したアッシマーは左手にをトマホークに持ち替え、ネフィリムに斬りかかる。「おのれ!!」と叫びカモザワは左手のフィールドでトマホークを防ぐ。
「俺を裏切ったお前なんかにぃ!俺を裏切らないって言ったろうがぁぁ!!」
「そうだな!!俺はお前を裏切った!お前と再会し!コンドウさん達との集まりにお前を誘ったのは俺だ!!」
大声でツチヤとカモザワが叫ぶ、お互い溜めた感情を吐き出すかのように、そしてそれはアイや観戦していたメンバーにも聞こえた。
「だがお前は変わっていたなサブロウタ!!」
「俺の方はもっとお前は分別がついてると思ったよ!」
一度離れる二機、ネフィリムはミサイルを撃ち、アッシマーはビームライフルでミサイルを迎撃する。迎撃しそびれたミサイルがアッシマーに向かう。
「チッ!!」
舌打ちするツチヤ、変形すると桁外れのスピードでミサイルから回り込み背中のビームガンで迎撃した。そのアッシマーをifsユニットのビームで撃ち落そうとするネフィリム。アッシマーの側面からビームが迫る。
「甘い!!」
ツチヤが叫ぶとアッシマーの背部が分離、シールドと合体し支援機へと変わる。ライトニングブースターだ。アッシマーとブースター、二機の間をビームが通った。
「アッシマーが!?」
そのままネフィリムに迫る二機、両機とも全火力をネフィリムにさらす。ネフィリムはクローのフィールドで攻撃防ぐも、アッシマーの攻撃を防げば、ライトニングブースターが防御出来ない角度から、ライトニングブースターの攻撃を防げば、アッシマーが防御出来ない角度から撃ってくる。
ツチヤの二機がネフィリムとすれ違う頃にはネフィリムの左手のクローが吹き飛んでいた。アッシマーは再合体。ビームライフルをネフィリムに向け、とどめとばかりに撃った。そのままネフィリムは胸を撃ちぬかれた。
「いい加減!!大人になれよっ!!」
「っ!!」
撃ち抜かれたままネフィリムは沈黙する、もう決着はついた。
「ツチヤさん!」とアイのシグーがアッシマーに寄って来た。援護しようと来たがもう終わっていた。
「ヤタテさん。終わったよこっちも」
「お前だけが……変わっちまった」
「否定しか出来ないのが間違ってると気づいただけだ。お前も……遅くないよ。間違った考えを捨てろよ。コンドウさんに殴られた時、お前も逃げなければもっと早く自分を変えられた筈なのに!」
「今さら……そんな事言うのかよ。俺が殴られた原因!お前がコンドウにチクらなければ!!一人だけ変わって!俺を!俺を置いていくなよ!お!俺をぉぉぉ!!」
カモザワの絶叫と共にネフィリムは爆散。これにより勝者はアイとツチヤの二人となった。
Gポッドから出るツチヤとアイ、皆が二人の周りに集まってくる。その多くがツチヤとカモザワの関係を聞こうとするが
「昔、セリトをコンドウさんのチームに誘ったのは俺だ」
察したのか、はたまた最初から言うつもりだったのか、ツチヤは語り出す。
「でもあいつはあの性格のままだった所為か打ち解けることは出来なかった。俺は打ち解けることは出来たけどそれがまずかったんだろうな。その時、別のチームメイトが二人いたよ。セリトとは馬が合わなかったんだけどね」
「二人?オッサンの他にビルダーが他にいたの?!」とナナが言う。「まぁね」とツチヤは答えた。
『二人のビルダー』というワードはそこにいた多くのメンバーが気になった。聞いた事すらなかったからだ。ヒロも聞いてみる。
「僕も知りませんでした。どうなったんですか。それで」
「教えてやるよ!!俺はな!その二人への不満をサブロウタに話した。言うなって言ったのに!あろうことか俺の抱えていた不満をコンドウにチクった!!昔俺に『何があっても裏切らない』そう約束したのにだ!!」
パイロットスーツから着替えたカモザワがツチヤの話に割って入る。その隣にはコウタともう一人いた。ツチヤはそのまま話を続けた。
「相談のつもりだった!」
「完全にお前の心はコンドウの側に行った!ソウイチにも当り散らした俺はコンドウに追い出された!結果的にサブロウタは俺を裏切ったんだよ!」
「その後ツチヤさんも出て行こうとしたんスけど、コンドウさんから止められたんス。その後に俺が入ってきて現在の『ウルフ』に変わったんス」
自分の含まれた話なのかソウイチも話し始める。
「コンドウのオッサン、いじられ役かと思ったら結構やるわね。そんな過去があったとは……、あれ?でもツチヤさん昔『俺とコンドウさんでチーム始めた』って言ってたような……(第8話参照)」
「鋭いねハジメさん。後者は最初っから言ったらややこしいだろ?」
「で、俺をけなして今の勝利至上主義に変えたのもカモザワさんッス、あんまりしつこかったんでコンドウさんついにキレちゃって、鉄拳制裁したらそのまま来なくなったんスけどね」
「そしてその時、俺はお前との縁を完全に切った」
殴られたカモザワを思い出したのだろう。珍しくソウイチがいたずらっぽく笑う。
「チッ!いいかサブロウタ!女!俺達はこの程度で諦めたりはしない!ガリア大陸は俺達の物だ!!お前らからこの店の地位もガンプラバトルも奪い取る!!それが俺の復讐だ!!」
「お前がその気持ちでいる限り、俺達は何度でも叩きのめす」
悪態をつきながらその場を去ろうとするカモザワ、ツチヤはそれに冷静に返す。
「……おいサブロウタ。最後に聞かせろ。お前は今でも俺を友達と思ってるか?」
「……悪いけど、縁は切ったままだ」
「……そうかい」
そう言いながらカモザワはその場を後にした。そしてもう一人が前に出る。会った事のないヒョロっとした男だ。気が弱いらしくアイに対してオドオドしながら言う。
「さっきはよくもやったな。ヤタテ・アイ。お前ら強いビルダー達はあらかじめネットで俺達新世代ビルダーにお尋ね者として知れ渡ってるんだ。これからお前はどんどん新世代ビルダーに狙われるぜ」
「?どこかでお会いしましたっけ」
さっきのバトルでは話した覚えがない。アイは首をかしげる。
「さっきシグーに踏み潰された硬派ビルダーだよ」
その言葉に全員が凍りつく、三人目がここにいたのか。というツッコミは全員が忘れてしまった。と、ソウイチがフーリガンに掴みかかる。
「言いたい放題言いやがって!!」
「うぉっ!!ぼ!暴力はやめろ!!」
泣きそうな顔で拒絶するフーリガン、
「さっきあんな暴言吐いてて何なんだその落差」とヒロ
「あ、俺が強気になれるのはネットとバトルの中だけだ。普段ネット弁慶な所為か、バーチャルな空間でしか強気になれなくて」
その反応に全員が呆れる。弱気そうだがその分腹の底に色々溜め込んでるのだろう。
「大した腕も無い癖に自慢げに言うなよ!人を散々嫌な気分にさせて!」
「と!とにかくこれで勝ったと思うなよ!!」
そそくさとその場を去るフーリガン。強気になっていようとなっていまいと、性格は悪いらしい。
……
「で、このシグーの腕はダークマターをそのまま移植した物だけど、当然エクシアの武装もつけられるよ」
「アメイジングエクシアの方なら結構その辺も豪華な武装だったんだけどお金なくて」
「私は持ってるよ?じゃああなたの持ってるパーツと交換しない?中古屋で買ったんだけど今は使う目途も立ってないの」
「じゃあ同じく使う目途の立ってないプロミネンスブレイドとブレイクニルブレイドで」
そしてその後、アイは工作室でシグーの改造をしていた。アイは自分に出来る限りの事をコウタに教えていた。お互い忘れない思い出になる様に、アイは全力で教え、コウタは全力でそれを吸収していた。そして遠巻きにそれを見るナナ達、ガラス張りの工作室は店の方からでもよく見える。
「おーおー、熱いね」
「ひと段落ついて良かったよ……」
「ヤタテさん、そういえば前に言ってたッスね。ガンプラが好き、全力で遊ぶ形で『好き』って気持ちを表現する。それが自分なりのフーリガンや違法ビルダーへの対抗する気持ちだって。今が正にそうッスね」
「そうだねソウイチ君~。……ねぇツチヤさん」
タカコがツチヤに問いかける。何か思った様だ。
「違法ビルダーが来れば悪い人も来るだろうけど、いい人だってたくさん来るって言ったけど、やっぱり間違っていたのかな。あたし」
今日見たフーリガンの傍若無人ぷりを見るとそう思ってしまう。
「……間違ってるとは言い切れないよ。色んな人が気軽にガンプラバトルにさわるきっかけになるなら、それ自体は悪い事じゃない。ただそれでやり込むならっていうのもあるけどね
少なくともああいう奴らばかりになるなら、戦わなくちゃいけない」
「なんか昨日と言ってる事違くない?」
「物事にはなんにだっていい所と悪い所があるって気付いただけさ」
「そういえばツチヤさん、さっきの話、出て行ったビルダーが二人いるって聞きましたけど、その出てった二人はどうなったんですか?」
今度はヒロがツチヤに話しかける。
「ん?まだガンプラ続けてるとは言ってたけど、俺とは会いたくないって言われてたから、コンドウさんを通じてしか様子は解らなかったよ。コンドウさんとだけは会ってたみたいだから」
「今度の選手権、会えますかね?」
「解らない。大会とかは避けてたみたいだし、でもコンドウさんの口からヤタテさんの事は聞いてたかもしれない。もし、ヤタテさんに興味が沸いたとしたら……」
同時刻、ガリア大陸以外のガンプラバトルが出来る店では同じく違法ビルダーが徒党を組み暴れまわっていた。しかしその日、それでガンプラバトルのコーナーが乗っ取られることはまずなかった。何故ならガリア大陸同様、強豪ビルダーが迎撃をしていたからだ。そしてこの店でも……
「ひっ!ひぃぃっ!!」
深夜の市街地を再現したステージで二機の量産型ビギニングガンダムが逃げ惑ってた。建物の影に身を隠す2機
「なんなんだあの化け物は!!50機はいた仲間がいつの間にか壊滅だ!!」
「はぐれたもう1機が心配だ。早く合流しなきゃ」
その時、何か物音がした。ビギニングガンダムが見ると同じ型のビギニングガンダムが見えた。はぐれた3機目らしい。「無事だったか!」と再会を喜ぼうとする違法ビルダー、しかし次の瞬間。
ズルッ……ドサッ……
合流したビギニングガンダムの体は縦に真っ二つに裂け、その場に倒れた……。裂けたビギニングの後ろには巨大なチェーンソーを持った、熊のシルエットが見えた。
『ぅ!!うわあああああああ!!!!』
違法ビルダーの絶叫が響く。しかしすぐに叫びはチェーンソーの爆音にかき消され、2体は斬り裂かれその場に倒れた。市街地には破壊されたビギニングが何機も横たわってた。さっきの熊のシルエットがやったらしい。熊に乗ったビルダーが声を漏らす。
「きひっ!きひひっ!笑っちゃうよねぇ。散々ムカつく事ばっか言って口先ばっかなんだからさぁ」
女らしい、違法ビルダーを全機破壊した事に満足げな笑いを上げる。
「アタシどころかアイにも適いやしないよ」
アイの名を上げた所でフッと表情が暗くなる。
「……そういやもう半年位か……アイ……会いたいよ……」
この声の、熊の持ち主がガンプラバトル選手権、県内予選を大いに盛り上げる事を、アイはまだ知らなかった。
県内予選まで、あと3週間。
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第38話 「変わった友、変われなかった友」(後編)
かつてコンドウに追い出されたビルダー、カモザワ・セリト、彼は違法ビルダーとなって戻ってきた。
行き詰った少年ビルダー、コウタを連れて……、アイ達はバトルで対決し、勝利するもコウタを救う事は出来なかった。
そしてカモザワはツチヤの過去を一部話しながら翌日の再戦を取り付けたのだ。