No.809031

艦隊 真・恋姫無双 82話目

いたさん

白波賊戦に入る前の話です。

2015-10-20 00:31:37 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1137   閲覧ユーザー数:970

【 王允の謀 の件 】

 

〖 司隷 洛陽 都城内 謁見の間 にて 〗

 

 

諸侯が洛陽に滞在して3日、急に都城内へ収集が掛けられた。

 

用件は伏され──それでも問えば『ただ、お集まり頂くようにと……王允様の思召しで御座います』と答える使いの弁である。

 

到着すれば、直ぐに謁見の間に案内され、正面の玉座に劉辯皇帝、右に司徒王允、左に大将軍何進が立つのが分かる。

 

諸侯は……華琳、雪蓮、月、翠、白蓮、美羽、一刀達が畏まり礼を取る。 今回は、緊急の収集ゆえ、頭になる者だけ呼ばれた。

 

王允と何進は、二人とも対になり並ぶが……王允は露骨に嫌がり、顔を別の方向へと向けた。 何進も、王允の様子に溜め息を吐きながら、劉辯の様子を見て苦笑したり、一刀の様子を伺う。

 

劉辯は……一刀の方を見ては下を向き、頬を染めながらチラ見していた。

 

皇帝陛下としての自分を見てくれる一刀に対して、まだ抵抗と恥じらいがあるのか? 諸侯たちと一緒に並んでいる事に……若干嫉妬しているのか? もしかしたら、両方の可能性もあるのかも知れない。

 

王允「…………ゴホン!!」

 

皆が集まった様子を確認した王允は、咳払いを一回して、辺りの気を引き締めてから、挨拶に入り……それから語りだした。

 

★☆☆

 

王允「よくぞ、顔を見せてくれた諸侯よ──いや、漢王朝に忠義を尽くす者達よ! 先の十常侍捕縛、執金吾の反乱において、そなた達の働き誠に比類無き事!! 皇帝陛下は元より……三公、大将軍共々──大変喜んでいるぞ!」

 

王允は、そう言葉を紡ぐと……双眸より泪を流す!

 

そして高祖より始まった漢の歴史を延べ、高祖に尽くした忠臣を讃え、王莽による簒奪を怒り、中興の祖である光武帝を賞揚した!

 

………ここでは、かなり短縮した要点だけ記載したが、この話はニ刻(約4時間)の長きに渡り語られた。

 

そのため、雪蓮の鬱憤が溜まりに溜まり、帰って直ぐに大酒を呑み始めたそうである。 当然……于吉の告げ口により、再教育される結果になった。

 

王允「───ここまで、長きに続く漢王朝を救ってくれたのは、そなた達の力だ! そなた達、忠臣が居なくては……漢王朝も終わっていた! 亡き霊帝も、天より働きを御覧になり……皆を褒め称えてくれようぞ!」

 

華琳「恐れながら、我等は我等なりに人事を尽くしたまでの事。 それに、我等の力は微力にしかならず。 多大な貢献をされた……益州州牧『北郷一刀』様のお力添えと……衆目一致している次第であります!」

 

何進「だが、北郷の技術と諸侯の力は別物。 どちらも漢王朝に必要な物であり、諸侯が奮戦した事は、陛下や私が目撃している! そこまで卑下する話では無い。 ───陛下、この者達の働き……如何で御座いましょうか?」

 

劉辮「諸侯、皆尽力『見義不為無勇也』、是朕満足也!」

 

(訳 諸侯は『 義を見て為さざるは勇無きなり 』と頑張っていた事、私は満足しています!)

 

華琳「───はっ! 大変勿体なき言葉、諸侯を代表して曹孟徳、謹んでお受け致します!!」

 

劉辯より賞賛されると、華琳は頭を更に下げて礼を述べる。 劉辯も満足そうに頷き、何進も笑みを浮かべながらも……別の事を考えていた。

 

王允が二人に告げ、諸侯を集め謁見を開いたのは───今、洛陽で問題になっている白波賊を、諸侯に討伐して貰う命令を発する為である。

 

それが、余りにも長々とした論功行賞を始めた為、不信に思ったのだ。

 

王允「うむ、良き事だ。 ──さて、そんな忠臣である諸侯を招いた理由は、そなた達を賞賛するだけでは無い! 既に存じていると思うが、白波賊の襲撃の件で、洛陽の民は甚だ迷惑を被っておる!」

 

月「はい……私も聞き及び……心を痛めていました! 司徒王允様……どうか、この董仲穎に御命じ下さい! 必ずや白波賊を討伐して御覧にみせます!」

 

翠「いえ、私に………御命じ下さい!!」

 

華琳「精強な我が軍ならば、必ず敵を撃ち破れましょう! 私にこそ、御命じ下さい!」

 

王允は諸侯からの申し出に、満足そうに頷く。

 

勿論、諸侯も義憤だけで申し出た訳ではない………相手は得体の知れない行動をしてくる白波賊。 まともに立ち向かえば、何苗達と同じ結果になる!

 

───だが、此方には『天の御遣い』が居るのだ!

 

一緒に進撃すれば、必ず敵を壊滅できる……そう腹積もりも、入れていたからだ。

 

ところが、王允が渋い顔をして難色の顔を浮かばせた!

 

王允「うむ……皆の気持ちは有り難い! しかし、しかしだな………?」

 

王允は、顎に手を当て……悩む振りをして言葉を発した。

 

王允「──敵は、我が軍の精兵さえも歯が立たぬ。 されど、このような忠義溢れる諸侯達を死地に追い込む事、漢王朝の屋台骨を失うに等しい!!」

 

何進「ならば……どうするつもりだ?」

 

意外な物言いを出した事に驚いた何進は、王允に尋ねる。

 

すると、王允は────きっぱりと断言した!

 

王允「決まった事、先の戦いで圧倒な武力を誇った……益州州牧『北郷一刀』に任せればいい! 異論など──ありはしまい!!」

 

「「「「「 ──────!? 」」」」」

 

王允の言葉に、何進が気色ばみ王允に詰め寄る!

 

何進「──気は確かかっ!? 北郷の手勢は数人だけで、兵は一人も居ない! それなのに、白波賊へ向かわせるつもりなのかぁ!?」

 

王允「ふん! 陛下の御前だ──慎んで貰うか? それに、北郷殿の配下は文字通り一騎当千! 先の活躍振りを考えれば、妥当と言えるのではないか?」

 

何進「だが、北郷──御遣い様に、もしもの事があれば……どう責任を取る気──」

 

王允「簡単な事ではないか………『御遣いは偽者だった』と触れを出せばいいのだ。 だいたい……天の御遣いならば、地に住む人如きに、遅れを取る事などあるまい! そんな事になれば、即ち北郷達は……偽者の御遣いだ!」

 

何進「──────!?」

 

王允「世を欺く者は死罪……これが漢王朝の定めた決り事! 武官最高位が知らぬ筈が無いであろう!!」

 

何進「ぐうぅぅ─────っ!! ならば、私が軍勢を率いて───」

 

王允「何を馬鹿な事を。 天の御遣い『北郷』を連れて来たのは……何進、貴様だ! 貴様が北郷の手伝いなどすれば、お前も連座制により反逆罪で確定。 死刑は免れないぞ? まあ……どのみち北郷が死ねば……同じ結果だがな!!」

 

何進「───!!?」

 

言い負かされた何進は………退かざるえなかった。

 

また、これを聞いた月、翠、白蓮は顔色を変えるが……とりあえず皆と相談しようと心に決める。 各諸侯の名軍師が集まるのだ、必ず良き知恵が浮かぶだろうと、信じるしかない!

 

そして──当の一刀は、王允の要求を甘んじて受け容れるのだった。

 

 

◆◇◆

 

【 恋姫の相談 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 別室 にて 〗

 

 

桂花「何よぉ、それぇえええ!? 余りに理不尽じゃない!!!」

 

白蓮「わ、私に言うな! 決めたのは王允だ!!」

 

ーーー

 

王允からの呼び出しがあった後、桂花達は緊急の会合を開く。

 

議題は『北郷を如何に手助けするか?』である。

 

勿論、自分達の主に断りを入れてだ。 本当の事は言えないため、それぞれ理由を付けて、君主、軍師が主な顔触れが集合していた。

 

相手は、自分達より10倍以上の敵を……二度も壊滅させた白波賊。

 

それに対するは──北郷一刀と率いる軍勢……僅か17名。

 

先の争乱では、耳目を疑う活躍をしたが……率いる軍勢は全員入れ替り、これまた力は未知数。 どんな方法で戦うのか、先の者と同じでいいのか……見当がつかない。

 

ただ、軍勢の中に……彼女達が懐かしいと思う顔が二人。

 

雛里と紫苑の事だが………心做し紫苑が若くなっている様子に、事情を知らない者は驚きと不審を持ち、この場で何人か発言。

 

冥琳が、報告を受け事情を理解していたので説明……事なきを得る。

 

だが、孫呉の宿老が記憶を取り戻した際、如何なる事になるかと……皆が皆……涙を禁じ得る事が出来なかった事を追記しておこう。

 

ーーー

 

詠「だけど、王允は何を考えているの!? アイツは……現皇帝陛下を擁立し、執金吾の企みを阻み、洛陽の蜂起を防いだ功労者なのに! それが───なんで、少人数で危険な場所へ……討伐なんか行かせる愚を犯すのよ!?」

 

白蓮「その事には同感だ。 まるで……露骨に一刀が邪魔だから亡き者にしたいって言ってるもんじゃないか! 私も悔しくて反論したかったが……何も思い付かないんだよ! 一刀に……あれだけ世話になったのに!!」

 

月「それを言われれば──私だって同じです! 御主人様が詠ちゃん共々……私達を危険を冒して匿ってくれた恩、忘れてなんかいませんっ! 私の力が、もっとあれば………御主人様を守れたかも知れない!」

 

冥琳「二人の気持ちは理解できるが……話を聞く限り、司徒王允の狙いは──『北郷の命を奪う』が目的! 理由までは、流石に不明だが……例え、私や詠、桂花やねねが居ても、この考えを覆すことは不可能だっただろう!」

 

ねね「そうですな……。 それに反論しても、権力で強制的に実行するのは、あの反董卓連合で分かっている筈なのですよ?」

 

ーーー

 

王允の話は既に決定事項。 一刀も承諾しているので、白波賊の発見の報が入れば、向かわなければならない。

 

今の時刻は昼の15時。

 

残された刻限も……準備等を入れば後少し。 白波賊は夜に出ると言うから、策を行うなら日中の内に準備したい。

 

だが、敵の編成、攻撃内容も一切不明。 人数さえも……僅か50名だけというのも怪し過ぎる。 何から何まで手詰まりの状態だったのだ!

 

ーーー

白蓮「う~~ん、何か手を打ちたいんだけど……私達の援軍さえ禁止されているんだよな? 内緒で駆けつけようか言っても……一刀から笑顔で遠慮されるし……」

 

詠「王允からの命令……アイツの手勢のみで戦えっていう話でしょ? 悔しいけど……ボク達が勝手に助けたら、アイツやボク達に罪科を与え、更に動きを拘束してくるでしょうね! そうなれば、王允の思う壺になるわ!!」

 

翠「だがよ? 幾ら御主人様が強いと言っても、あまりにも危険過ぎるぜ! 何か手助けできる方法は無いのか!?」

 

蒲公英「だけど……御主人様……蒲公英達に手助け……求めていないんだよ!?」

 

ーー

 

月「私達が弱い為に……御主人様に御迷惑を………」

 

桂花「それは違うわ。 寧ろ、一刀達の力が理不尽な程……強かった為に狙われたのよ。 王允が狙う理由………それしか考えらない!」

 

詠「──そうね。 ボクの手許の情報網には……益州成都の民達、『北郷一刀こそ天の御遣い』と信じて疑わないわ! あの劉焉の反乱者を、首謀者以外を罰せず、全員生きて戻した手腕を高く評価している証拠よ!」

 

ーーー

 

各々が意見を交える中、桂花が急に語り出した。

 

その顔は、普段の勝ち気な顔ではなく、少々青ざめながら……されど決心した表情を崩さず、前の世界での一刀の事を思いだしながら、口にしていた。

 

ーーー

 

桂花「………魏に居た一刀は……貴女達の一刀のように上へ立つ事は少なかったわ。 華琳様に拾われ、春蘭より酷い目に遭わされ、私から罵倒されて、魏の暮らしに馴染み生活していったわよ。 今考えれば……惨い仕打ちよね………」

 

「「「「「……………………?」」」」」

 

桂花「だけど、だけどねぇ、仲間を救う為、華琳様に進言し秋蘭や流琉を助け、赤壁で勝利に導き、大陸統一に尽くしたのは一刀だった! ……自分の命も省みずによ! それを知った私は──深い謝罪の念で押し潰されそうだった!」

 

「「「「「 ─────!! 」」」」」

 

桂花「後に、華琳様から………『一刀は、私達のした仕打ちを赦し、尚且つ心配までしていた』と聞いて一晩中泣き明かし……華琳様と共に最期まで待ち続けけたわ。 一刀が………帰ってくるかも知れない………って信じていたから!」

 

ねね「………桂花殿」

 

桂花「だから──私はね? もう二度と……そんな一刀の想いを蔑ろになんかしたくない! 私は必ず一刀を救う! だから、皆、お願い! 私の出来る事なら何でもするから──この策に力を貸して頂戴!!」

 

「「「「「 ──────!? 」」」」」

 

桂花の独白を聞かされ、部屋は静寂になるが………突如一人だけ……笑う者の声が響いた。

 

冥琳「ふ……ふふふっ………」

 

桂花「な、何がおかしいのよ、冥琳!?」

 

冥琳「いや……前の世では、あれほど華琳に執着していた桂花が、まさか……毛嫌いして北郷に、ここまで言うようになったとはな……」

 

桂花「ふ、ふん! 外の時間だって朝、昼、晩! 季節も色々と移り代わるものよ! ならば、人である私だって……想いが代わるのも当然なんだから!!!」

 

冥琳「すまん……ついつい驚いてな。 前の世で、雪蓮が一刀を連れて来た時は、何と厄介な者を思っていたのだが──桂花の独白を聞くと、あの時の自分を思いだして……恥ずかしくなる。 全く……北郷らしい話だ」

 

桂花「それより──どうなのよ!? 協力してくれるかハッキリと──」

 

冥琳が、桂花の真摯な協力要請に、結論をはぐらかしながら喋るので、顔を近付けて睨みつけた!

 

冥琳「───真面目な話、その謀、聞かせて貰えないか? この大陸屈指の軍師が集まっている中、その策を煮詰めて準備したい! 勿論、私は全面協力するぞ!! ───北郷救援のためだ、貸し借りなどいらん!!」

 

―――

 

詠「月……良いよね? 只働きになるけど………」

 

月「──うん! 桂花さん! 御主人様を救えるのなら、私達も協力します!」

 

ねね「勿論、ねねもですぞ! 恋殿も心配しておりましたからな!」

 

―――

 

翠「おいおい──当然、あたし達も数に入れてくれよな?」

 

蒲公英「わぁ―い! 頑張るぞぉ!!」

 

―――

 

白蓮「……私は言われなくても協力するぞ! 最初からそのつもりだったんだから! ───ん? 一刀に協力するとの連絡だな。 分かった、必ず伝えるからな!!」

 

―――

 

こうして、纏まった為……策を煮詰めて、各々が準備に走った!

 

北郷一刀救援への謀が、こうして始動した。

 

 

◆◇◆

 

【 その頃の一刀 の件 】

 

〖 洛陽 都城内 一刀の部屋 にて 〗

 

 

部屋に一刀が入室すると、そこには加賀、赤城達の艦娘、紫苑達恋姫が待っていた。

 

一刀「………………どうしたんだ?」

 

赤城「どうしたも、こうしたもありません! 提督が……すぐお帰りになると聞いて……私達……待っていたんです!! 待っていたんですよ!!!」

 

赤城が珍しく血相を変え、一刀に詰め寄る!

 

後ろを見れば、何時もの無表情の加賀なんだが……何か違う。 よく確認すれば、顔の頬が少し膨らんでいたりしている。

 

非難するような顔をしているが、余りにも可愛いので、頬をつつきたくなる衝動に駈られてしまう。 しかし、それをやれば……間違いなく怒られるので自制した。

 

他にも……川内、神通、那珂が何か言いたげに見詰めていたり、如月が涙を溜めて睨んでいたり、島風が露骨に連装砲ちゃんと遊んでいたりと様々。 皆と離れた場所には、扶桑が山城に泣き崩れていて、山城が怖い顔で睨んでいる。

 

他の艦娘達と雛里は、ただ唖然とするばかりだが、紫苑は……話を聞いているだけに、この様子に胸が痛んだ。

 

一刀「な、何があったんだ!? 俺はこうして……無事に!!」

 

赤城「私達は──心配していたんです! また、一刀提督が……私達を置いて一人残られたかと! あの前の世界で受けた戦いのように──!!」

 

こう言われて……一刀の頭に浮かぶのは、この世界に来る事になった切っ掛け! ○○鎮守府が深海棲艦の大群に襲撃され、一刀が一人残り、艦娘や妖精さん達を脱出させ、皆の楯となり……犠牲になる予定だった戦い。

 

しかも、一刀一人が犠牲になるつもりが……港湾棲姫を始めとする、数人の艦娘を巻き込む──大惨事になるところだった。

 

結局、左慈と于吉の活躍により──全員が救出され今に至る。

 

その時、素直に退去した艦娘達に残った心の傷……《自分達は、一刀提督を見捨てて逃げた卑怯者》……《愛される価値など無い──ただの兵器》

 

勿論、一刀も港湾棲姫達も……そんな事は考えていない。

 

一刀にして見れば、自分の為に多くの命が散る事こそ苦痛だし、港湾棲姫達は、逆に素直に退去してくれた赤城達へ罪悪感を持ち、感謝さえ抱いている。

 

だが、幾ら艦娘と言えど……心は人と同じ物。

 

提督、司令官より『大切にされたい』『役立ちたい』『必要とされたい』

 

 

─────『愛されたい』!

 

 

そう思うのは……自然の事。

 

だから──赤城達、前の世界より付いて来た艦娘は──恐れている!

 

…………………一刀の消失を!!

 

 

一刀から『すぐ戻る』と伝えられていたもの気が付けば……既に昼過ぎ。 流石に……何かあったのではないかと、心配して集まったという。

 

それを聞いた一刀は、自分の目の前で怒る赤城を……優しく抱き締めた。

 

赤城「ふえぇぇ───て、提督ぅ! な、何を!?!?」

 

一刀「そうか………ごめん。 心配させて悪かった。 大丈夫だよ、大丈夫! 俺は皆を置いて、勝手に消えないから。 必ず、必ず──戻ってくるから!!」

 

赤城「提督……提督ぅぅ……………うわぁあああんっ! 一刀提督──っ!!」

 

一刀に抱き締められて、頭を撫でられつつ謝罪を受けた赤城は、子供のようにその胸の中で泣いたという。

 

そして、その一刀の後ろへ……『次は私に──』と顔に書いてある加賀が、軍服の後ろをつまみ、二番目の順番を待っていたそうな。

 

 

★☆☆

 

 

一刀「ふうぅ………気は……済んだかい?」

 

「「「 ────コクリッ! 」」」

 

全員が全員……頷いた。

 

赤城達だけじゃなく、この大陸で建造された艦娘、紫苑や雛里までも。 一部の艦娘だけだと──不平不満になるのは分かりきった事だから。

 

皆が落ち着いた後で、一刀が理由を話し始めた。

 

一刀「──先程、司徒王允殿より命令があって受けてきたんだ。 洛外で騒ぎを起こす白波賊の討伐を……伝えられたんだよ!」

 

不知火「洛外の白波賊ですか? 確か、不知火達が来る少し前より噂されていた凶賊の事ですね……? 二度も数倍の官軍を撃ち破り、多少は天狗になっていると思われますが……今の不知火に負ける要素など──きゃあ!」

 

菊月「これしきの事で饒舌になるとは……若いな。 私は……姿こそ、この通りだが古強者……むっ、何だ司令官? だ、だからぁ頭を急に撫でるな!! ……別に撫でられるのは……嫌いではない。 時と場所を弁えて貰いたいものだ……!」

 

一刀は、少し興奮気味の駆逐艦を宥めるため……両手で頭を優しく撫でる。

 

一刀「自信を持つ事は良い事だけど、侮っては駄目だよ。 賊にしては……兵法を巧みに使ってくる。 俺達の味方は少ないんだ……必ず皆、無事に戻れる冷静に対応してくれ。 相手の策は──俺が破ってみせる!」

 

そんな様子を近くで見ていた艦娘は───

 

ーーー

 

如月「もうぅ~司令官ったら! 真面目な顔して、ほんと女の子の扱い上手なんだから。 如月が、何時も……どんな想いで眺めているか……全然知らないくせに、如月の気を引く事ばかりするんだもの。 司令官…………好きよ♪」

 

赤城「うふふふ………提督! どのような敵が来ても、一航戦の私にお任せ下さい! 必ず撃退してみせます! そうですねぇ……例えるなら、満開全席を急に出されても、全部綺麗に平らげ、更にお代わりまで要求できますよ!!」

 

夕立「提督さぁーん! 私も撫でてくれなきゃヤダっぽい!!!」

 

ーーー

 

中には──

 

ーーー

 

加賀「提督……私の提督成分が、少し足りなくました。 頭を撫でて頂きたいのですが。 ええ……菊月と同じように。ぅん……流石に気分が高揚しますね! 提督、私達は……貴方の為だけに戦い続けます! 貴方に──必ず勝利を!」

 

――

 

扶桑「提督、私は……貴方のお役に立ちたいと……何時も願っているんですよ? 私のような艦娘を……どんな時も大事に使って下さるから。 お願いです、提督……どのような事があろうとも、貴方だけは──生き残って下さい!」

 

山城「ああ……私は、やっぱり不幸だった。 姉さまと一緒に……こんな世界に降りて、出番も活躍も少ないんだもの。 せっかく改装して、此処まで来たのに……改装初の戦いが夜戦なんて……ほんとに不幸だわ…………」

 

扶桑「…………山城……」

 

山城「でも……姉さま。 提督がね、あの戦いで死んだと思った時……この世で受けた不幸の中で……もう二度と味わいたくないと思ったの。 提督が居た建物が崩れた時、頭が真っ白、胸が張り裂けそうで……轟沈するかと思ったの……」

 

扶桑「それは…………」

 

山城「今度も……同じだったの。 あの嫌な不幸を……また受けるのかと思ったら……! 姉さま……私は提督を失う事が怖い! 提督が居なくなった時、私に受ける不幸は、どんなに大きな不幸になるのか!!」

 

扶桑「大丈夫よ、山城。 西村艦隊の仲間は私だけだけど……他の仲間達と一緒に頑張りましょう! スリガオ海峡のような悲劇には、絶対させないわ!」

 

山城「姉さまぁぁぁぁ!!」

 

―――

 

いつもと……少々……様子が変わった艦娘が居た。

 

 

★★☆

 

 

艦娘達が、それぞれ納得して離れた後で……雛里が声を掛けた。

 

目が鋭く、言い方がきつい艦娘が多いため……一刀に近寄る事が難しく、今まで大人しく黙っていた雛里が──やっと動けたのだ。

 

雛里「ご、御主人様! 味方の友軍は誰なんですか? その者達との連係次第で勝敗は変わってきますよ!?」

 

一刀「誰も居ない。 俺達だけで………討伐するようにとの命令だ」

 

雛里と紫苑は、顔を見合わせて驚いた!

 

洛外で騒ぎを起こす白波賊と言えば、官軍を二度も壊滅に追いやった集団。

 

しかも、確認されている人数より、遥かに多い手勢を率いて攻めるのに、如何なる理由か不明のまま──味方が全滅に至る強敵である!

 

それを、幾ら天の御遣いとはいえ……こんな少人数で戦わせるなんて、何を考えているのか分からない。

 

雛里「あわわぁ───! ど、どういう事でしゅかぁぁぁ!?」

 

紫苑「それは……本当ですか!?」

 

一刀「嘘は付いてはいないよ……これが勅命だから拝見して貰いたい」

 

一刀より受け取った鞣し革には、細かい文字がビッシリと書き込まれている。

しかし、雛里はスラスラと読み解き、一刀の言葉が真実だと分かり……鞣し革を床に落としながら……唖然とするしかなかった。

 

雛里「そんな……そんなぁぁぁ───あり得ません! こんな無茶苦茶な命令、今まで見たことありましぇん!!」

 

紫苑「御主人様、この御命令、撤回する事は出来ないのですかっ!? 余りにも理不尽です! これでは、御主人様を見殺しにするような───」

 

一刀「その命令文書は──勅命だ。 即ち、劉辯皇帝の名で出されている。 ここで、俺が無理だと撤回させれば、天は皇帝を見放したと言い出され兼ねない。 そうなれば、劉辯皇帝は退位され、劉協皇女に即位させるだろう!」

 

「「────!?」」

 

一刀「これには……勝算があるから引き受けたんだけどね。 さっきの話は、雷華(何進の真名)から礼を言われて意味を教えて貰ったんだよ。 言われて始めて気付いた。 俺達を………どうしても戦わせたいようだ!」

 

雛里「そんな………御主人が、御主人が……何をしたんですか!? 成都の民を守り、皇帝陛下を無事に即位させ、洛陽の災いを退けた御主人様が、いったいどんな罪を犯したというんですかぁっ!?」

 

雛里は、頭脳明晰ゆえ、相手の行った策の有効性が理解できる。

 

しかし、その感情までは理解できない。 自分の大切な人を……執拗に狙う相手の理由が全く分からなかった。

 

泣き叫ぶ雛里を抱き締め、紫苑は……自分も白波賊討伐に出向くと伝えるが、一刀は許可しない。 雛里の様子を見ていて、此処で俺の帰りを待って欲しいと、逆に頼み込んだ。

 

紫苑「それは──私の力では足りないと……」

 

一刀「今度の敵は、どんな攻め方をして来るのか……判断が付かない。 だから……俺も、皆も『本気』で攻めるつもりだ! そうなれば、紫苑──君を守れる自信が無い!」

 

紫苑「ですが──軍に身を投じた時より、この身は既に死を覚悟しております! 御主人様、どうか私も御一緒させて下さい!!」

 

一刀「それでも駄目だ! 俺は、(命の恩人である)君の倒れるところを──見たくない!」

 

紫苑「─────!!」

 

一刀「それに……雛里が安心できる人は、紫苑しかいない。 頼む、此処に残ってくれ! さっき約束した筈だ! 俺は必ず生きて戻ると!!」

 

一刀が紫苑と雛里に、そう言うと敬礼をとる。

 

「「────あっ!?」」

 

一瞬──背後に……桜の花びらが舞った気がした。

 

一枚だけではなく、数えきれない桜の花びらが………一刀を護るかのように……様々な動きを見せて舞ったような───

 

そして、二人の心配を杞憂だと言うように、艦娘が集り声を掛けて行く。

 

ーー

 

川内「安心してよ! 今度の戦いは夜戦で間違いないんだから! 私はね……『 夜戦なら川内! 川内と言えば夜戦(バカ)!』と言われている程、夜戦に精通しているんだから! だから、大船に乗ってる気で居てね!!」

 

神通「私も……姉さん程ではありませんが……夜戦は得意です。 はい、頑張りますから。 提督も……皆さんも守り抜きます!」

 

那珂「ほらほらぁ! 女の子の泪は、嬉しい時に使わないと……ね? アイドルは、悲しい時は笑うんだ! ファンを哀しませたくないから! その分、嬉しい時には泣かないとね! 皆が慰めて……嬉しさを分けてくれるんだよ!」

 

島風「心配~? あははっ、大丈夫だよ!! 私には誰も追いつけないもん! 私に攻撃してきても、全部ぅ避けちゃうよぉだ──!!」

 

磯風「気持ちは分かる……だが、今言える事は……一つだけだ。 『私達を信じろ!』───意味は、戦いが終わった後にでも分かる筈だ!」

 

鳳翔「───お任せ下さい。 非力な私ですが、必ず全員無事で戻って来ますから。 帰ってきましたら……私が腕を奮い馳走させて貰いますからね!」

 

瑞穂「正直……瑞穂は怖いです。 このような合戦は初陣ですので……皆様の足手纏いにならなければと……。 でも、提督から勇気を頂きました。 『瑞穂、頑張れ』と頭まで優しく……だから、最後まで提督の為にお仕え致します!」

 

ーー

 

そこまで言われては、紫苑も雛里も……何一つ言えない。

 

紫苑「分かりましたわ。 御主人様、皆さん、必ず御無事でお帰り下さい!」

 

雛里「待ってますから! 絶対無事に帰って来るって──信じて待っています!!」

 

二人は、そう言って──待つ事を決めた。

 

また、一刀と頼もしき仲間達と再開できる事を信じて。

 

★★★

 

勿論、白波賊は──夜戦を絶対条件として現れる。

 

しかし、毎回現れる訳でもなく、報告が入る場合もあるし、入らない日もある。 執金吾が消えて、一刀達が洛陽に再度入った──この一ヶ月間。

 

その間、現れたのは……八回だけ。

 

しかも、最後に現れたのは………一週間前。 果たして、都合の言いように……白波賊は姿を現すものか?

 

一刀達は、準備を……今夜にでも現れてもいいように行う。

 

もし、今夜、現れなければ杞憂で済む。 他の準備を念入りにやれる利点もあるが、待たされれば……精神的体力的に削られ、戦で不利にる欠点もある。

 

この日の夜に現れるのかは、ある意味……賭けでもあった!

 

───────その日の夜。

 

『白波賊、発見』の一報が入り………一刀達が行く。

 

一刀を指揮官として、艤装を取り付けた艦娘達が複縦陣で進軍、目指すは明かりが一点見える原野!

 

果たして──どのような戦いになるかは、誰にも解らなかった。

 

 

 

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あとがき

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

 

81話を投稿した後から、直ぐに書き始めましたが……まさか、こんなに長くなるとは………。

 

次回からは、戦闘になりますが……どのような展開になるのやら。

 


 
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