「たくさん買ったねー、沙和もう大満足なのー!」
と沙和が嬉々として言った。
「岩田屋さんの大売出しの日に みんなで お休みが取れてよかったねー。前から欲しかった服や、靴も、ぜーんぶ割引で買えたからスッゴイ節約できたのー!浮いたお金で余計に買っちゃったのー!」
支払ったのは俺なんだがな、と俺・北郷一刀。
ところでこの世界にもあるんだな、岩田屋。
「ねーねー凪ちゃん、凪ちゃんも欲しいの買えた?凪ちゃんは こういうところで控えめなんだから、他の人たちに横取りされちゃうんだよねー」
話を振られた凪は、苦々しそうな顔で、
「いいだろう別に、私は、動きやすければ服など どうでもかまわない。今日来たのは安売りだからで、家計のやりくりをするために………」
しかし支払ったのは俺なんだがな。
凪の沙和の喧騒は続く。
「またまた凪ちゃん、安売りだからってだけで、こんなに気合いの入った おぱんつをお買い上げになったのー?」
「うわぁぁぁーーーーッ!こんなところで梱包から出すなーーッ!」
凪は顔を真っ赤にして、沙和の取り出した黒いTバックを奪おうとするも、沙和もなかなか捕まらない。
「むふふふふ、ここは隊長にも意見を聞いてみましょうなのー。ねーねー隊長どう思う、この黒おパンツ凪ちゃんに似合いそうかなー?」
「んー、まあ似合うんじゃない?」
「隊長ぉーッ!」
「うんうん、そぉだよねー、次は真桜ちゃんの意見も伺ってみますなのー。真桜ちゃん真桜ちゃん、どう思う」
「あー、よの おとこどもを 悩殺 まちがいなしんちゃうー?」
「真桜ぅーーー!!」
昼下がりのカフェテラスに凪の絶叫がこだました。
さてさて、これまでの状況を解説すると、この日、珍しく全員揃って非番の俺たち北郷隊三人組+おまけは、町内にある服屋のバーゲンセールげなものに行ってきて、今帰りなのであった。
沙和も凪も好きな服を さんざっぱら買い漁り、そして何度も言うようだが支払いは なぜか俺。
この理不尽な即死攻撃によって俺のサイフは全部赤。たとえるならば篭城中、食糧庫がボヤッて中の兵糧が全部パー、アンド援軍の当てもなし、あとは城を枕に討死にするしかないといった状態だ。
グッバイフォーエバー俺のユキチ。ここでの通貨は円銭だけど。
「まぁ、元気出しぃな隊長。ここでの支払いはワリカンにしたるさかい」
隣に座っている李典=真桜が慰めてくれた。
ちなみに今俺たちは、岩田屋から屯所への帰りがけに あるカフェテラスげな茶屋によって茶など一杯しばきたおしている。バーゲンの激戦を無事勝ち抜いて、休憩ついでに多大な釣果への祝杯を、といったところだ。
真桜は、いつもと変わらぬワルガキっぽい笑顔で、沈み込んだ俺の顔を覗きこむ。
童顔で、ともれば少年と見間違えそうな真桜の顔には、こういう表情がよく似合った。
「………そういえば真桜は、何も買わなかったよな。よかったの?」
と俺は聞かでのことを尋ねてしまう。
バーゲンセールにおいて沙和は大量に、凪はそれなりに買い込んでいた衣服だが、真桜だけは何故か一着も買わなかった。何も買わず、ただ皆と一緒にいるだけで楽しいというかのように、バーゲンに特攻する沙和や凪の背中を見てケラケラ笑っていたのみだった。
…まあ、何故かといってもその理由はわかるのだが。
「当たり前やん、…ウチは そんなにおべべに こだわりもっとるわけやないし。そんなんに金掛けるんやったら、からくり道具にでも使ったほうがウチにとっては有意義や」
やっぱりな。
「岩田屋に工具売り場でもあれば隊長に奢ってもらったんやけどなぁ、ウチ今 螺子回しが ごっつほしいねん、ネジの頭潰さん高いヤツ」
いやいや待て待て、なんで俺が真桜の工具まで貢がにゃならんのだ。
出さんぞ俺は、自分の好きなことには ちゃんと自分の金を出しなさい。
「いけず言うなぁ隊長は、それやったら沙和のアレかて沙和の好みのことやんかぁ」
沙和の服はいいんだ。沙和自身の物欲が満たされるだけでなく俺の眼の保養にもなる。
「あぁ~、そゆことか。ええなぁ、男の助平心を こそぐる趣味は」
真桜は一人ぼやいていた。
………男のスケベ心をこそぐる趣味か。
「………………」
「アレ?どないしたん隊長?」
「いや、真桜は何か可愛い服は着ないのか?」
「ふぇっ?」
真桜は虚を突かれたのか妙ちくりんな声を出した。
しかし彼女も魏軍の一角を預かる宿将である、すぐにいつもの ふてぶてしい笑みを浮かべ、
「あかんな隊長はん、いくら隊長が見境ないからゆーても、ウチみたいなんは趣味悪いで。童顔でガキみたいな顔やし、そのクセ胸に こない大きなモンぶら下げて均等取れてないし。悪いこと言わへんから凪か沙和でも見てハァハァしとき」
「えぇ~、俺はイイと思うけどな、真桜みたいな子」
「なっ」
真桜は一瞬だけ頬を赤らめると すぐにソッポを向き、継いで尻のすわりでも悪いというかのように ずずずずっ、とプーアル茶をすすった。
「かなわんな隊長には、ホンマに見境なしの悪食や」
「そんなことは、…………お」
いいこと考えた。
俺は、沙和が注文したパフェげな デザートに突き刺さっていたウェハースげな菓子を無断で引っこ抜くと、その一方の端を咥える。
「…なにしとるんや隊長?」
「ん」
「ん、て、そないされても……」
「ん、ん」
「………まさか!」
そう、俺は細い長方形状のウェハースの端を咥え、もう一方の端を真桜に向けている。それは つまり……、
「ウチに反対側の端から齧ってけゆーことかいなッ?」
真桜は大いに うろたえた。
「アホ、何考えとんねんエロ隊長は!そんなことしたら、最終的にはウチと隊長の口が…ッ!」
「んっふっふっふ~……」
俺は思わず雛見沢に出没するベテラン刑事のような ねちっこい笑いを漏らした。
このカリカリチュッチュ ゲームにテレ戸惑う真桜のなんと可愛らしいことか。俺の目に狂いなし、今しばらくこの可愛い真桜を穴が開くほど観賞しようゾ。
「アホ!なんやそのヤラしい目付きは!………ったまきた、そっちがその気ならウチも受けて立とうやないか。李典将軍の肝っ玉 見したるわ!」
真桜は意を決し、俺の正面に来ると咥えられたウェハースの片一方を恐る恐る咥えた。
「い、行くでー」
真桜は慎重に歯を動かし始めた。
カリカリカリカリカリ……。
カリカリ……。
…………。
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ………。
真桜の進行具合は巣に帰る小動物のように慎重だ。
その慎重さで迫ること3センチ、…2センチ、ウェハースの長さが縮まるにつれ、真桜と俺の唇の距離も縮まっていく。
(うわ~、近い近い近いわぁ)
真桜は恐らく残り数ミリのところで切り上げるつもりだろう、そこまでやれば度胸がないなどと責められない。
絶妙の間合いで止めて、完全に接触する前に………。
ちゅ。
「………へ?」
真桜の素っ頓狂な声は俺の口に入って外に漏れなかった。
要するに そういうことだ。
「んにゃーーーーーーーーーーッ!」
真桜は椅子ごとひっくり返らんばかりの勢いで飛びのく。両手で唇を隠し、真っ赤な顔で俺のことを凝視しつつ、
「たたたたたたた…、隊長、隊長!アンタ自分の方から菓子齧りましたね!ズルイわ!ド汚いわ!」
そう、真桜がウェハースを残り数ミリまで齧った瞬間、俺がその残り数ミリを口に収めてしまったのだ。がために俺と真桜は正面衝突。いやホントにいい思いをしました。
「んっふっふっふ~、俺は自分からは齧らないとは一言も言ってないよ真桜君」
「ぐにゅぅぅぅぅぅ………」
赤面 真桜は下唇を噛んで俺のことを睨みつける。
「ウチの、ウチの唇がぁ~、こんなんでぇ~」
その仕草がまた満点近く可愛い、真桜がここまで萌えると返って不振にすらなってくるのだが……。
「イヤだって……、ウチ、ホンマはこーいう恋人恋人したのは苦手なんやもん、エロエロなら平気なんやけど………」
真桜は目線を伏せて呟く。
ナニこの真桜、俺はこのスーパーサイヤ人並に可愛さが急上昇した真桜にメロメロメロウだ、恋はいつでもハリケーン。
「真桜、結婚しよう」
「はぁーーーッ?」
俺は混乱してしまった。
「ナニ言っとんねん隊長、正気に戻ってーッ!」
真桜は、渾身の力を込めて、纏わりつこうとする俺を引き離す。
「ハァハァ、もーアカンわ、隊長、こんなことしてウチをいぢめて楽しもういう魂胆やな!ホンマいけずやわ この変態!」
俺は真桜に何か誤解を与えていたようだ。しかしあながち誤解でもない気が……。
「こうなったらウチかて黙っとかんで、キテレツ大百科 真桜さまが、そのへんの町娘みたく泣き寝入りのままで済ますかいな!」
「え?どうすんの?」
「こうやって仕返ししたるんやーッ!」
真桜は、またも沙和のパフェげな食い物から、今度はポッキーげなお菓子を引き抜くと、なんとそれを魏随一と名高い彼女の巨乳の谷間に差し込んだ。
「おおっ!」
俺は思わず声を上げる。
「……どや?隊長、この菓子を食べる勇気がありますん?めっちゃ恥ずかしいでしょー、これでウチの受けた屈辱を教えたるわ!」
ポッキーは真桜の胸の谷間に深々と刺さっている。このポッキーを上からカリカリと齧れば、俺の口は必然的に真桜の胸の谷間にゴールすることだろう。
しかし北郷一刀、何をためらう必要がある?
「アーイ キャーン フラーイッ!!」
俺は真桜の たわわに実る双丘目掛けて飛び込んだ。いや、真桜のお胸の たわわさを示すのに“たわわ”では足りまい。“たわわわわわわわわ”だ、もしくは“はわわ、あわわ、たわわ”だ。つまりそれぐらい たわわ なのだ。ビバ豊穣のしるし、今年も魏は豊作だ。
カリカリカリカリカリカリ………。
俺はドンドン ポッキーを齧り進んでいく。
「ふっふー、さすが魏の種馬、快調な滑り出しやなー」
真桜が余裕の表情で俺を見下ろす。
「でもその余裕もいつまで続くかな?ほぅら、近づけば近づくほど、照れ臭いやろう?」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ………。
「……あの、隊長?」
カリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリカリ…………。
「ちょ、隊長、そろそろここでギア落とさんとか………、ひゃうッ?待って!待って隊長もう菓子なくなった!隊長が今ベロベロ舐めとるんは!きゃあああッ!」
レロレロレロレロレロレロレロレロレロレロレロ………。
と花京院がチェリーを舐めるような擬音で俺が一体何をしているかは御想像にお任せする。
…フフッ、甘いな真桜。チキンレースとはゴールに断崖絶壁が待ち受けているからこそ成立するゲームなのだ。ゴールに待っているのが二つのスイカの桃源郷で、なぜブレーキを踏む必要がある!
「いやー!もう止めて隊長!ウチの負けやから!もう降参やから!もう仕事中に からくりイジって悪さもせんから許してーーッ!」
ええい、見苦しい!
凪が放った気弾によって俺は真桜もろとも吹っ飛ばされた。
「はれっ?俺は一体何を………?」
衝撃で俺は正気に戻った?
そんな俺たちを、今まですっかり存在を忘れ去られていた凪と沙和が非難がましい目線で睨んでいる。
「もーッ、隊長と真桜ちゃんてばー、こんな人目のあるところで何やってるのーッ?こーしゅーりょーぞくを守らなきゃダメなのーッ!」
「……隊長、真桜、猥褻です」
沙和と凪は、俺たちを許す一片の理解も持ち合わせていなかった。
「うう……、アカン、ウチ、もうお嫁に行かれへん……」
そして真桜は思った以上のダメージを負っていた。俺は彼女の方に優しく手を置く。
「安心しな真桜、もしお嫁にいけなかったら俺が貰ってあげるから」
「…グズ、そう言ってまた隊長はウチのこと誑かすつもりやーッ!もう騙されへんでスケコマシーッ!いつか隊長の後ろを貫通するからくり作って仕返ししたるーッ!」
と真桜はカフェテラスから走り去っていった。
「ああっ、待て真桜!」
「真桜ちゃん待つのーッ!」
それを追って凪と沙和も駆け出す。
そうしてカフェテラスに残ったのは俺一人だった。その最後の一人になった俺に、店主が背後から忍び寄る。
「(店主)……こちら、今飲み食いされた分の伝票です」
「(俺)……アレ?」
俺のサイフは もはや復活できそうになかった。
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李典=真桜。
魏の北郷三羽ガラスの一人で からくり好き。大阪弁、しかし霞とカブッている。
からくり好きという個性が他のキャラより突出しているように見せかけて、その実からくり以外には興味がないという一歩引いたスタンスを崩さず、迂闊に萌えキャラにはならない。
そんな彼女を表に引きずり出したら どう萌えるかなーと思って書いてみました。
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