No.80192

真・恋姫無双~魏・外史伝18

だんだんとシリアスな展開になっていく魏・外史伝。これから物語はどうなっていくのか?まだまだ分かりません!前回、結局麗羽はどうなったのでしょうか?まぁ・・・、その辺はしばし皆さんのご想像に任せると言う事で・・・。(もちろん、後で書こうと思います。)では、真・恋姫無双~魏・外史伝~第九章・前編をどうぞ!
※投稿した後で、撫子の髪の量が多過ぎなのに、気が付いた。バランスが悪い感じがする・・・(涙)。

2009-06-21 03:08:12 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:5705   閲覧ユーザー数:4958

第九章~悪意の矛先・前編~

 

 

 

  「・・・何、この文字?」

  魏城・桂花の執務室にて、この時代ではとても貴重な紙で作られた一巻の巻物を

 机に広げ、見下ろしながら頭にはてなを浮かべながら、そう言い放った。

  「・・・そうか。お前でも読めないか?」

  桂花の言葉に、やはりという顔をする秋蘭。

  「所々、私達が使用している文字も使われているようだけど、その間の文字と組み合わせて

  使っていることは分かるけど・・・。これじゃあ、何が書かれているのかさっぱりね。」

  そう言って、桂花は椅子に座る。

 そして、秋蘭は広げられた巻物を再び丸めていく。

  「まぁ・・・、期待はしていなかったからあまり気にしないでくれ。」

  「・・・何か引っかかる言い方をするわね?」

  「気のせいだろ?」

  「ふん・・・、用が終わったならさっさと出て行ってくれる?私、戦の事後処理で

  忙しいんだから。」 

  不機嫌そうな顔をしながら、桂花は悪態をつく。

  「そうだな、邪魔して悪かったな・・・。」

  そう言い終えると、そのまま部屋から出ていく。

 

  「桂花ですら分からないとなると・・・、この大陸の文字ではないのか?だが、我々と

  同じ言語を使用しているのだから、羅馬(ローマ)や埃及(エジプト)のそれではなかろう・・・。

  となると、やはりこれは五胡の言葉なのだろうか?」

  魏城のとある廊下にて、歩きながら一人問答する秋蘭。

 彼女の手には、先の五胡の戦の際、兵士が持って来た巻物があった。

 しかし、それに書かれていた言葉が解読できず、桂花に聞いたのであったが、彼女ですら

 解読する事は出来なかった。

  「あら?秋蘭様、いかがなさいましたか?」

  「ん?」

  突然、呼びかけられ秋蘭は面を上げる。

 そこには、自分とさほど変わらない背で、すらっと長い髪と垂れ目が特徴の、まったりとした

 雰囲気を出す女性が立っていた。その手には、自分の背ほどの変わった棒を持っていた。

  「おや、撫子(なでしこ)ではないか。西方からいつ帰って来ていたのだ?」

  「今し方、着いたばかりなのです。これから華琳様に報告をしに向かう所で、秋蘭様を

  たまたま見かけたもので。」

  「そうか、御苦労であったな。」

  「いえ~、秋蘭様からそのようなお言葉をいただいては他の頑張ってくださっている方々に悪いです。」

  「いや、お前は華琳様のため、この国のためによくやってくれているのだ。当然の事だ。」

  「・・・ありがとうございます。ならばわたくしも秋蘭様の期待に応えられますよう、ちゃんと

  報告しなくてはいけませんね~。」

  「ふふ・・・。では、頼んだぞ。」

  そして、二人はすれ違って行った。

  「あ、待て撫子。」

  「はい?」

  何かに気が付いたように足を止め、秋蘭は後ろを振り返る。

 呼び止めれらた撫子も足を止め、後ろを振り返る。

  「宮殿はこっちだ。」

  そう言って、宮殿のある方角を指で示す。撫子が向かう先と、全くの反対であった。

  「え?あらあらまぁ・・・、これは失礼しました。」 

  顔を赤らめながら、頭を軽く下げる。

  「うむ、では改めて頼んだぞ。」

  そう言うと、秋蘭は再び歩き出した。

  「・・・・・・。」

  撫子は頭を下げたまま、視線を秋蘭に、そして彼女の右手へとずらす。その右手には

 あの巻物が握られていた。

 

  「北郷一刀が見つかったのか?」

  「ええ、五胡の侵攻の際に紛れこませておいた者達が、魏領の山陽付近の村で見つけたのを

  確認しましたよ。」

  「老仙の爺も一緒なのか?」

  「はい。しかも、彼の中に埋め込まれた玉の力が少しずつですが、彼の中で解放されつつある

  ようです。」

  「クソッ!北郷をこの世界に連れて来た所までは、上手くいってたのによ!」

  「そうですね。その後の彼等の妨害がなければ北郷を我等の手中に収められたはずなのですが、

  北郷一刀に玉が埋め込めれてしまった時点で我等の計画は半分頓挫したも同然・・・。」

  「止めろよ・・・。気が滅入るじゃねぇか!てめぇはそんな事を話すために俺を呼んだのかよ。

  って言うか、女渦はどうしたよ!?」

  「彼は・・・、どうやら新しい玩具を見つけたとかで。」

  「はぁ?」

  「今、そっちに夢中だからこっちに顔は出せない、との事です。」

  「・・・・・・。まぁ、別にあいつが居なくてもいいけどよ。」

  「それはともかく、実際の所・・・、玉の力を彼はまだ制御できてはいないようです。

  その上彼は、それが自分の体に埋め込まれた事すら知らない。南華老仙は順を追って、

  彼に教えていくつもりなのでしょう。」

  「・・・って事は、今のうちに始末出来れば問題無しってことだな?」

  「乱暴に言えば、そうなります。そこで、あなたをここに呼んだのは・・・。」

  「俺に行けって、そういう事だろ?分かったよ、お前もここから離れられないのは知っているし、

  女渦も使えねぇんじゃ・・・、俺が行くしかないだろうよ。」

  「気遣い感謝します。」

  「ただ、その前にやらなきゃいけない事があるんだ。」

  「正和党ですか・・・?」

  「ああ・・・。そっちを速効片付けてから、北郷を血祭りにしてやるからよ。」

  「頼もしいですね、期待しましょう。」

  「へへっ・・・。・・・それより、お前の方はどうなんだよ、何だか妙な事になってんだろ?」

  「ええ・・・、まぁ大丈夫だとは思いますが、念のために彼女に頼んでおきました。」

  「へぇ~、女を使うか・・・。お前もやるもんだね~・・・。可愛い顔して、実は裏では・・・?」

  「伏義(ふっき)・・・。」

  「冗談だよ、全く・・・。お前ももう少しその硬い頭を、女渦・・・までとはいわねぇがよ。

  もう少し柔らかくした方がいいぜ?」

  「あなたに言われなくても、私の頭は軟らかいですよ。ほら・・・!」

  「・・・いや、そういう意味じゃなくてだな・・・その、何と言うか・・・。

  いや、もういい。じゃあ、俺は行くぜ・・・。」

  「・・・ふう。では頼みます。」

 

  「ふぅ・・・。」

  「桃香様、だいぶお疲れのようですね。」

  「あ・・・、朱里ちゃん!そ、そんな事ないよ!ほら、見ての通り!元気元気っ!」

  朱里に心配をかけまいと、椅子から立ち、自分が元気である事を示すべく体をてきぱきと動かす。

  「・・・すごく、カラ元気な感じがします・・・。」

  そんな桃香を見ていた蜀の軍師・鳳統こと雛里が小さな声で言う。

  「うぐ・・・、雛里ちゃん。厳しいな~・・・。」

  桃香は雛里の言葉に、肩が下がる。そしてそのまま椅子に座りなおす。

  

  ここ、蜀の成都の城・桃香の執務室にて、桃香、朱里、雛里は業務の書類の処理を

 こなしていた時の事であった。すでに日は沈み、綺麗な満月が地上を優しく照らす。

 外では、虫達の鳴き声がかすかに聞こえてくる。

  

  「北郷さんは未だに見つからないし、正和党の人達とも上手くいかない。その上、書類の山に

  押し潰されたら・・・さすがに、私の体も持たないよ~・・・。はぁ~・・・。」

  深い溜息をつく桃香。そんな時、外から声がかけられた。

  「桃香様、いらっしいますかな?」

  「桔梗さん・・・?はい、どうぞお入りください。」

  「失礼する。」

  執務室に入って来たのは、大きな酒瓶を片手に、頬を少し赤くした厳顔こと、桔梗であった。

  「桔梗さん、酔ってますよね?」

  「いえいえ、この程度酔ったうちには入りませんぞ!」

  そう言う人に限って酔っているですよ、と桃香達は口にはしなかったものの、心の中でツッコミを入れる。

  「そんな事はどうでもよいでしょう!桃香様、今日市で良い酒を手に入れて来たので

  御裾分けしようと来た次第で。」

  そう言って、その酒が入った陶器を桃香の机にガタンッとやや乱暴に置いた。

  「気持ちは嬉しいんですけど、私達・・・業務の処理でそれどころじゃないんですけど。」

  申し訳そうに桃香は言うが、

  「そのようなものは明日にでもやればいい事。今宵は仕事なぞ止めて、酒の酔いしれましょうぞ!」

  聞く耳を持たない桔梗であった。

  「・・・・・・。」

  「桃香様、今の桔梗さんに何言っても無駄だと思います・・・。」

  「あわわ・・・。」

  二人の軍師が言っては桃香も諦めざるを得なかった。

  「分かりました。では桔梗さんのお言葉に甘えて・・・。」

  そう言って、桃香は机に置かれたお猪口一つを手に取る。

 それを見た桔梗は、酒瓶を傾け、お猪口から酒が溢れる寸前まで注ぐ。

 お猪口を自分の前に持って来ると、酒の表面に自分の顔が映っていた。

  そして桔梗も自分のお猪口に酒を注ぐ。

  「桃香様・・・。」

  「はい・・・?」

  黙っていた桔梗が急に話しかけてくる。

  「あなた様は・・・、決して一人ではないのですぞ。」

  「え?」

  「一人で何もかも背負いこむな、と言っているのです。ここ最近、あなたが元気がない事は

  自分も・・・他の皆も、口にはしないものの心から気にかけております。まぁ、蜀の王として

  の立場が故もありましょうが、あなたも所詮人間、神仏ではありませぬ。」

  「・・・・・・。」

  「ですから桃香様。我々にもっと頼って頂きたい。あなたには、常に笑顔であって欲しいのです。

  その笑顔がために、わしらはあなたの剣となり、盾となりましょうぞ。」

  「桔梗さん・・・。」

  「・・・少し、長く喋りすぎましたかのう。さぁ、気を取り直して!」

  「はい!では、頂きます!」

  そう言って、ゆっくりとお猪口に口を近づけた、その時であった。

  「桃香様!」

  執務室に、問答なしに翠が慌てて入って来た。そのせいで、桃香はお猪口の酒を少しこぼしてしまった。

  「ど、どうしたの、翠ちゃん!?」

  「どうしたのだ翠よ。お前も酒の宴に混ざりたいのかのう?」

  「さ、さっき・・・見張りの奴から、む、村が・・・村が・・・。」

  桔梗の言葉に答える事なく、翠は何か重要な事を伝えるが、噛み噛みのため上手く話が理解できない。

  「落ち着け翠よ。それでは何が言いたいのか、まるで分からんぞ。」

  桔梗に言われ、翠は深呼吸を数回繰り返す。

  「・・・、今、見張りの奴からの報告で南の山の向こうで火が上がっているって報告が!」

  「え!?」

  「何だと!?」

  「さっき、愛紗達が急いで向かったから、あたしはそれを桃香様にって・・・。」

  「そっか・・・、愛紗ちゃん達はもう行ったんだ。」

  「桃香様!」

  朱里の言葉に、桃香はうなずく。手に持っていたお猪口を机に置く。

  「朱里ちゃんと雛里ちゃんは急いで情報の整理をして。翠ちゃんは、他の皆に宮殿に

  来るように伝えて来て頂戴。」

  「お、おう・・・!」

  翠はまた慌てて執務室から出ていく。

  「やれやれ・・・、折角の宴が水泡と化してしまいましたのう・・・。」

  桔梗は残念そうに言う。それを見て桃香は苦笑いで対応した。

  

  この時、桃香はこの事件が後に起こる事になるであろう、悲劇の連鎖の序章である事に

 まだ気付いていなかった。

  

 

  別の頃、成都から南に位置する林道にて・・・。

  「おい!向こうの空が赤いぞ!」

  一人の男が、指をさす。その先に見えるのは、山の向こうで満月や星達の輝きをかき消し、

 確かに夜空は赤く染まっていた。

  「本当だ!何だ、ありゃあ?!」

  「・・・あれは村が誰かに襲われているんだ!!」

  一人の少年が、断言するように言う。周りの男達は少年に意識が向く。

  「な、何でそんな事が分かるんだ!?」

  「前にも、こんな空が赤くなっているのを見た事があるんだ!あの時も、村が・・・!」

  嫌な事を思い出しているか、少年の顔は怒りに歪んでいた。

  「よ、よし!誰か、この事を廖化さんに報告しに行ってくれ!!」

  「はい!!」

  一人の男が馬に乗って、来た道を全速力で戻っていった。

  「行くぞ、皆!姜維の言う通りならば、一刻も争う事になるぞ!」

  「「「「おおーーー!!!」」」」

  男達は、急ぎその夜空を赤く染めている所へと、馬を駆けていく。

 

  『廖化さん、あなたのその想い・・・私にもよく分かります!私も同じ思いなんです!

  私もこの大陸で悲しんでいる人達を守るために戦ってきました。なら、一緒に歩む事は

  出来るはずです。ですから・・・。』

  

  「・・・同じ思い・・・か。」

  とある村の一軒の小屋、そこは正和党・頭領こと廖化が生活の場として利用していた。

 廖化は椅子に座りながら、以前ここにやって来た桃香の言葉を思い返していた。

  「確かに・・・、目指そうとするものは彼女達と俺達に違いは無い・・・。」

  この大陸の平和のため、そしてその未来のため、自分は正和党を建てた。

 そして、この大陸に住む人達のために賊とも戦ってきた。それは向こうも同じ事・・・。

  「だが、共に歩む事は出来ない・・・。」

  一方で、自分達が相容れぬ者同士である事もまた事実・・・。

 いや、自分がただ勝手にそう思っているだけなのかもしれない。

  「俺は・・・迷っているのか?」

  自問自答する。

 すると、あの時の男の言葉を思い出す。

 

  『あんたはいいのかい?こんな女がこの国を統べている事に・・・納得しているのか?

  そんなはずは無い・・・だろ?それに、あの女が王として相応しい存在ではない事は、

  お前だって分かっているだろうよ。』

 

  あの時、俺は奴の言葉を否定せず、ただ黙って聞いていた。

 それは・・自分も何処かでそれに納得していたのかもしれない。

  「しかし、それとこれとでは話は別だ・・・。」

  自分が代わって国を治める気など毛頭ない。それに、今の彼女の政治方針に何の不満も無い。

 そして何より、民達の幸せを誰よりも考えているのは、彼女のはずなのだから・・・。

  「ならば、ならば何故・・・、奴の言葉が頭から離れない?」

  

  『お前の正義の鉄鎚で、愚王・劉備玄徳を粛清するんだ!』

  

  「・・・俺に、それだけの力があるのか・・・?」

  ふと、自分の手を見る。彼女よりは大きいであろう、その手を。

 自分に、劉備玄徳を粛清する資格があるというのか・・・?

  「俺は・・・一体何がしたいのだ・・・?」

  そんな事を考えていた、そんな時であった。

  「大変だ!大変だ、廖化さん!」

  正和党の党員の男が、慌てて廖化の家に入っていく。

  「どうした・・・?」

  廖化は慌てる党員を落ち着かせると、何が大変なのかを問いただした。

  「村が・・・、村が何者かに襲われているって今、見回りをしていた奴が!」

  「確かか!」

  「はい!!今、姜維達がその村に向かっています!」

  「よし!ならば、動ける者達で急ぎ襲われている村に向かうぞ!」

  「はい!!」

  そう言って、廖化は椅子にかけてあった上着を着直した。

 

  この時、廖化はこの事件が後に起こる事になるであろう、悲劇の連鎖の序章である事に

 まだ気付いていなかった。  


 
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