SAO~黒を冠する戦士たち~番外編 IF~和人と明日奈の恋愛物語~
俺、桐ヶ谷和人は一般人である。
いや、この現代社会において古流武術の師範代であること、中学2年で全国模試の成績1位を取ったこと、
別学年の模試を受けて非公式だがそれでも1位を取ったこと、茅場晶彦さんら電子工学の権威と面識があるなど、
そういうことを除けば基本的には一般人だと思っている。
容姿や性格は気にしたことがなく、周囲からの評価も聞いたことはないから普通だと思う(作者「そんなわけがない」)。
一応、現在の家族との成り立ちは特殊なものだが、とにかく俺個人を指すのなら一般人だ。
そんな俺なのだが、去年の12月24日のクリスマス・イヴにかなりの美少女の婚約者ができた。
その女性の名前は結城明日奈さん、俺より1つ年上の中学3年生で女子校に通い、
成績も良ければ運動もある程度でき、性格も優しくて料理もできる、見事な女性で俺には勿体無いほどだと思う。
なお、彼女の父は電気機器メーカー『レクト』の
兄もレクトの社員であり、結城家という京都に本家を構える古い家柄の血筋でもある。
明日奈本人を示すものではないので俺はあまり触れないし、彼女もそれを望んでいる。
クリスマスパーティの翌日は大変だった。
前日は家族に隠していた左手の怪我だが朝には当然ながら気付かれ、さらには友人一同にも知られて大騒ぎになったものだ。
まぁ、直後に奈良へ帰る師匠が家に寄り、母さんと直葉、友人一同に説明したことで一応納得はしてもらえた。
しかし、俺に婚約者が出来たということも説明されたことでさらに騒がれた。
端末で撮影した明日奈の姿を見せ、どんな娘なのかを聞かれ、それでも細かい事情と関係を伝えれば落ち着いてもらえた。
どうやら俺を心配している一方、俺が相手ということで彼女のことも案じているらしい、なんとなく理解は出来るさ。
とはいえ、あくまでも明日奈が好きな人を見つけてその人と結婚が出来るようになるまでの暫定的な関係である。
いまの俺と彼女の関係を正しく表現するのならば友人というのが合っていると思う。
ただ、俺としては明日奈と居る時は心地が良いと感じている。
同時にもっと彼女と居てみたいとも思っているのは、もしかしたら…。
「こんにちは、和人君///」
連絡先を交換し、あの日から何度も連絡を交わした俺と明日奈。
連絡だけではなく、土日などの予定が合い易い日に関しては会うこともそれなり、というかほぼ毎回会った。
平日ではSAOで会うこともあり、彼女は俺の友人一同とも面識を重ねていった。
そして今日、2月14日は世間一般でいうところのバレンタインデーであり、明日奈の方から今日は直接会いたいという連絡を受けた。
日付が日付ということもあり、少々期待しながら東京都内のデパートで明日奈と会っている。
「こんにちは、明日奈」
「えっと、待たせちゃった?」
「少なくとも俺自身は待ったつもりはないよ」
待ち合わせ時間の10分前の10分前、つまり20分前に俺は来た。
デート、ということなので女性を待たせない方が良い、というのを公輝から聞いたから参考にさせてもらったわけだ。
なお、明日奈も真面目だからかほぼ俺より僅かに遅れて到着しただけである。
「それじゃあ、今日もよろしくお願いします///」
「あぁ、こちらこそ」
午後からのそれほど長い時間ではないが、気になっている女性とのデートだから楽しみだ。
バレンタインデーということもあってやはりカップルが多く、夫婦というのも見られる。
2月の寒い中でも街を歩いて衣料品店やペットショップ、本屋などを巡り、喫茶店で休憩を取った。
時間がそれほどあるわけでもなく、明日奈をしっかりと送り届けないといけない。
デートの後、彼女の自宅まで送り届けながら俺達は話をしていた。
「そういえば、明日奈は女子校に進学するのか?」
「最初はそのつもりだったんだけどね、共学の高校に進学することにしたの」
話しを聞くと女子校でも良いかもしれないと思っていたそうだが、自分の意思で決めた学校に進学することにしたそうだ。
成績も問題無く、来週には入試もあるそうで。
「そういえば、志郎も来週入試だって言っていたな……明日奈の学校は?」
「十六夜君もなんだね……私が受ける学校はね――学園の高等部だよ」
「……マジで?」
「う、うん、どうかしたの?」
どうかしたというか、なんというか…。
「志郎もな、そこの高等部を受けるんだよ。しかも公輝と雫さん、奏さんもそこの生徒」
「えっ…」
明日奈の反応からして雫さんがあの学園の生徒であることは知らなかったみたいだな。
見事な偶然だが、公輝が居るなら安心できる……って、なんの安心だよ…。
「あの、もしかして和人君も来年になったら受けるの?」
「うん、まぁ、そのつもりだ」
「そうなんだぁ、ふふ…///」
頬を僅かに赤く染めて嬉しそうにしている明日奈を見て、少しばかり見惚れてしまう。
俺が同じ学校に行くかもしれないから喜んでいるんだよな。くそ、なぜか照れる…///
そうこうしていると都内の明日奈の家まで着いた、無事に送り届けられて良かった。
「あ、あのね、和人君。その、これ、受け取ってもらえますか///?」
明日奈が恥ずかしげにバッグの中から、ピンクを基調とした包装紙と赤いリボンでラッピングされた箱を手渡してきた。
少しだけ頭を下げて顔を真っ赤にし、眼を瞑ったままでいる彼女の手は震えている。
「受け取らせてもらうよ、ありがとう」
「うん、ありがとう///」
礼を言うのは俺に立場なのに受け取ってもらえたことが嬉しかったのか明日奈の方が礼を言ってきた。
俺は箱を鞄にしまう、家に帰ってからゆっくり食べるとしよう。
「そ、それとね、良かったら、感想とか、聞かせてね///?」
「解った。必ず感想を伝えるから」
「うん///! それじゃあ、また今度ね!」
「ああ、また」
門を開いて敷地から家へと入っていった明日奈は最後に笑顔で手を振って、俺もそれに手を振って応えた。
その後、自宅に帰りついた俺は夕食後に明日奈からもらったバレンタインプレゼントを開けて、硬直した。
中身はハート型のチョコレート、そこにはデコレーションペンシルを使い、英語で『I LOVE YOU♥』と書かれていた。
「これ、本命、っぽいよな…///」
感想は、味だけじゃないみたいだ………美味しくいただいた上に、滅茶苦茶美味かった。
そのあと、端末で通話して大変美味かったことを伝え、文字に関してはぼかして応えたが。
バレンタインデーから1ヶ月が経った今日、3月14日は日本を含む東アジア特有のイベント、ホワイトデーである。
先月に明日奈から本命らしい、本命であろう……いや、本命のチョコレートをもらった。
愛の告白に違いないあの文字の返答は有耶無耶にしたのだが、本当ならばしっかりと応じなければいけない。
しかし、俺自身は未だに彼女への感情がはっきりと定まっていない。
友人への友愛や親愛なのか、それとも異性としての恋愛感情なのか、
いままでにこういった感情を持ったことがないから余計に分からない。
だが、明日奈の俺への想いが勘違いだとか、そういったことではないということは解ってしまう。
だからこそ、俺の想いがはっきりしない内には不誠実な返答はしたくない。
というわけで、ここで問題になってくるのはお返しをどうするかである。
別にお菓子でなくとも良いのだが、お菓子以外の物はしっくりとこないので定番通りでいくことにした。
よってお菓子はどれにするかということになる。お返しのマシュマロには『ごめんなさい、お付き合いできません』、
クッキーは『友達のままでいましょう』、キャンディは『あなたが大好きです』などの意味が込められているらしい。
気持ちがはっきりしない内にこれらのお菓子を渡すのはどうかと思うので、俺は苺と生クリームのケーキを作ることに決めた。
なお、製作協力は公輝と雫さんである…。
「お、おじゃまします…///」
「どうぞ」
現在、明日奈は俺の家へと来ている。
平日だが俺も今日の学校が終わり、明日奈は卒業式を終えて今はある程度の自由行動が出来るとのこと。
そういうわけでお誘いしたわけだが、母さんは仕事だし直葉も部活で居ないため、必然的に二人きりになるわけだ。
そうなると、いままで男の家などほとんど行ったことがない彼女は当然緊張している様子。
前に来たのは俺の怪我に対して結城家一同が謝罪に来た時だけだからなぁ。
「それにしても、俺の部屋で良かったのか? 別にリビングでも構わないが…」
「い、いいの。むしろ和人君の部屋の方が……男の子の部屋、初めてだから…///」
もじもじとする明日奈に俺は思わず頬の熱が上がるような感じがした。
綺麗で可愛い美少女、それらの言葉がそのまま当て嵌まる彼女の照れた姿はぐっとくるものがある。
こんな調子では流れに流されてしまいそうだ、気を付けないといけないな…。
ホットカーペットを敷き、その上に小さなテーブルを置いている俺の部屋。
内装はベッド、机と椅子、パソコンが3台、本棚とタンス、クーラー、以上であり割と簡素にも見えるかもしれない。
明日奈にはカーペットの上に座って待ってもらい、
俺は1階のキッチンの冷蔵庫から作っておいた苺のショートケーキと紅茶を持って行く。
部屋に戻ると明日奈はそわそわと落ち着かない様子で待っていた。
「やっぱり落ち着かないかな?」
「う、うん、でも平気だよ。あ、それ…」
「ホワイトデーのお返し。公輝と雫さんに教えてもらいながらだけど、一応手作り」
小さなホールケーキを切って持ってきたが、残りは箱詰めして持ち帰ってもらうつもりだ。
「ありがとう/// 食べても良い?」
「ああ、口にあえばいいけど」
フォークを使いケーキを小さく切って口に運ぶ彼女。
うん、家族に対して言うことではないかもしれないが、直葉と母さんとは大違いだな。
大きく切って食べるからなぁ、まぁ家族ということで遠慮していないということなら俺の立場上は嬉しいけど。
一方で明日奈はかなり自然に小さく切って、嬉しそうに食べていることからこれが普段通りなのだろう。
「おいしい……凄く美味しいよ!」
「そ、そうか? 普通だと思うんだが…」
「ううん、凄く美味しい…想いが篭っていて、温かいのが伝わってくる。こんなに温かくなるの、久しぶり…」
なんとなくだが、明日奈の言いたいことは理解できた。
温度の暖かさではなく想いの意味の温かさ、気持ちが篭っているかということ。
彼女の雰囲気と口ぶりからすると、相当にその温かさから離れていたのかもしれない。
前に明日奈から聞いた彼女の家族の話を考えれば、納得できるな…。
それなら、変にはぐらかすよりもちゃんと聞いた方がいいかな。
「あのさ、この前のバレンタインチョコの文字、あのままの意味で受け取っていいのか?」
「は、はい///! 一目惚れだと思うけど、その、少なくとも私は本気です///!」
俺と交わした視線を逸らすことなく、真正面から見つめて自身の胸の内を明かす明日奈。
その言葉を聞いて偽りがないということは感じ取れた、彼女自身の想いだということも。
「そっか……うん、分かった。それなら俺もちゃんと応えさせてもらうよ。
先に、俺の事について話させてもらってもいいか? 結構、重い話だけど…」
明日奈の想いに応える為にも俺のいまの思いを伝えるには、先に俺の事を知っておいてもらいたい。
余程真剣な話だと感じたのだろう、彼女が頷いてくれたので話を始めよう。
「俺は桐ヶ谷夫妻の実子じゃないんだ、直葉とも兄妹じゃない」
「え…」
「正確に言うと、親父と母さんは俺の叔父と叔母で直葉は従妹にあたる。
実の両親は俺が赤ん坊の頃に事故死したみたいでな、
1人になった俺を実母の妹であった
「そうだったの……でも、血縁じゃないわけじゃなかったのね」
明日奈の言う通り血縁ではあるのだ、それを考えれば俺よりも志郎の方が複雑だけどな。
しかし、それを知った時期がよくなかったんだよな…。
「本来、俺にそれを知らせるのは直葉が高校に上がる頃、17歳になる年のはずだった」
「待って、和人君はいま15歳だよね? なんで…」
「俺は昔から機械いじりとかが得意でね、6歳の頃には余剰パーツで自作のPCも組み上げたこともあった。
以降、趣味でPCとゲームをするようになったんだが、10歳の時に俺は住基ネットの抹消記録に気付いてしまった。
いまの家族との関係にね…」
「……和人君は、それをどう思っているの?」
「家族だよ。大変だった時に赤ん坊だった俺を引き取って育ててくれたんだ、感謝しているし家族であることに変わりはない。
それでも、家族との距離感とか考えてしまうし、まったく悩まないわけじゃないんだ…」
「和人君も、家族のことで悩んでいたんだね…」
明日奈もまた家族のことで悩んでいた、ほとんど諦めの状態だったそれは今ではほぼ改善し始めているといえる。
俺の悩みも正直に言えば大事ではなく、俺自身の心の問題だからこれも時間を掛ければ解決できる。
だからこそ俺は、この問題を解決せずに彼女に向き合うのは明日奈に失礼なんじゃないかと判断した。
問題に向き合わず、彼女へ逃げているという意味になるのも、彼女に失礼であると同時に俺がそうしたくないと思った。
「俺は、この問題を、悩みを解決できずに向き合うのはキミに対して失礼になると思っている。
だからといって明日奈の想いとまったく向き合わないつもりもない。同時進行になると思うけど、ちゃんと考えるよ…」
「うん、私は和人君の思いを尊重するよ……でもね…」
彼女は立ち上がるとベッドの前に座っていた俺の傍に腰を下ろした。
「桐ヶ谷和人君。私、結城明日奈は……貴方の事が好きです」
「明日奈…」
「和人君の言うように、それは自分で解決した方がいいのかもしれない。
でもね、誰かと一緒に、誰かの力を借りてもいいと思うの。
私は和人君の力になってあげたい、身勝手なことかもしれないけど…。だけど、これは私自身が決めたことだから」
何時になるかも分からない俺の悩みの解決、それを傍で共に解きたいっていうのか?
俺は彼女の想いを見誤っていたのかもしれない。いや、人の思いを計りきれるはずがない。
そう考えている内に明日奈は両手を俺の両頬に添えた、突然のことだが動く気はない……いや、動きたくないと思った。
「女の子の初めてと同じで男の子の初めても大切なのは知ってるよ。これは私の我儘で身勝手な行動。
それでも初めては好きな人が良いし、好きな人の初めては自分が良いの」
緊張しているのか声も手も震える彼女は身を乗り出して顔を近づけてくる。
顔は赤を通り越して真っ赤な状態だが、綺麗で可愛い明日奈のままだ……こんなの…、
「嫌なら、振り払って、んっ…//////!? んちゅ…//////」
我慢できるはずがない。流されるべきじゃない、そんなことは解っている。
なのに、体が、あるいは心が、明日奈を求めた。彼女が俺にキスをする前に俺から彼女にキスをした。
明日奈に抵抗はなく、身を委ねる。俺も、離したくないと思ってしまう。
「ん、はぁ…////// かずとくんの、ファーストキス、もらっちゃった…///」
やや蕩けるような表情と共に嬉しさや喜びを浮かべる彼女。
それは明日奈だけでなく、俺の心もそうだと感じていた。
「明日奈と、キスがしたいと思った。抗えなくて、衝動に身を任せた。
もしかしたら、いまの行動が本当は答えなのかもしれないし、違うかもしれない。
だから考えさせてほしい、少しだけ時間をくれないか?」
「はい/// でも、私は和人君が考えている間も、私の思うようにするからね///」
「それは、覚悟しておくよ…」
明日奈の回答に思わず笑いが零れ、彼女もそれにつられて笑い出した。
帰宅する明日奈を俺は彼女の家まで送り、自宅への帰り道や電車の中ではボーッとしていた。
だが、家に帰りついて自分の部屋に戻れば、ここでいままであったことを思い出してしまい、
顔が熱くなり力が抜けて扉を背もたれにして座り込む。
「なにが流されないように気を付ける、だ……思いきり流されているじゃないか…///
しかも、女の子のファーストキスまで奪って、その前も嫌じゃなかったし、不誠実なことはしたくなかったのに…///
なのに、嬉しくて喜んでいる自分がいる……矛盾し過ぎだろ、俺…///」
これは、早いところ問題にケリをつけた方がいいのかもしれない、というかそうしないと余裕ができそうにない///
結局、この日は他の事に考えや手が回らなかったのは言うまでもない…。
特に何事も無く進級して中学3年となり、小学校からの付き合いで武術の同門でもあり、
仲間で親友の1人でもある国本景一と同じクラスになった。
知っている者、知らない者がいて新しいクラスとなり、それでも既に中学校生活も3年目になるので騒ぐこともない。
俺はホワイトデーの時から今まで色々と考えて、俺の意識の問題の方はともかく彼女への答えは固まり出した。
みんなが落ち着き始めた4月下旬、今日も何事もなく終わった……はずだった…。
「おい、志郎、公輝……なんでここにいる?」
「俺達ここの卒業生だろ?」
「OBが恩師に高校の制服姿で会いに来てもおかしくないだろう」
景一と同じく小学校からの付き合いで同門、仲間で親友、1つ年上の十六夜志郎と2つ年上の未縞公輝。
この中学を卒業したのだから確かに来るのはおかしくない。
「その通りだな。じゃあ訂正させてもらおう、どうして明日奈と、その友達が一緒にいる?
内容次第ではSAOの中で5時間耐久の
そう、明日奈が一緒に居るのだ。加えて、2人と同じ学校の真新しい制服を着ている女子が3人と男子が2人、
さらには公輝の恋人である朝霧雫さんとその親友の井藤奏さんも居る。
随分な大所帯だな、おい…。
「話すからそれはやめてくれ、5時間とか無理!」
「同じく、精神的に無理! お前絶対に本気でやるし!」
「落ち着いてください、和人君。予め連絡をしなかったのはこちらの不手際ですが…」
「明日奈ちゃんが色々と困った事になっちゃったから、その解決に役立ってほしいのよ」
「気にしないでください、お前らもな。それにしても、困りごと?」
俺の軽い
一方で分からないのが女性2人の言う明日奈の困りごとだ。
彼女の方に視線を向ければ確かに困っているような表情でこの状況を招いたことに申し訳なさそうである。
しかし、顔を赤らめて恥ずかしそうにしているし、嬉しそうな感じも見受けられる。
それは俺に会えたからなのかと思うと、嬉しい。
「はぁ、少し待っていてくれ。先生に説明してくるから元生徒会長の未縞先輩、ご同行をお願いできますか?」
「わ、分かった。だからその敬語やめろ、お前に敬語使われると背筋が寒くなる…!」
失敬な。俺は公輝を連れて職員室へ向かい、先生達に軽く説明をしに向かった。
職員室に着くなり、俺と公輝は校長先生と教頭先生に事情説明を行った。
まずは卒業したばかりの志郎が来たことを伝え、
そのあと俺に困りごとの解決を頼みに来た高校の生徒がおり、そのために何処かの教室を一時借りたいと頼み込んだ。
卒業生にして元生徒会長の公輝、そして学年主席でそれなりに先生達に貸しのある俺、よって頼みはあっさりと承諾された。
「許可もらってきたから、視聴覚室に案内するよ。これ、人数分の入校許可証。首からかけておいてくれ」
滞りなく事が進んでいく為、明日奈とその友人達であろう生徒達はあまりの流れに流されるまま。
とにかく、時刻は午後5時を過ぎているので話を早めに終わらせた方がいい。
俺はみんなを引き連れて視聴覚室へと向かった。視聴覚室に到着後、椅子に座ってもらい話しをすることに。
「さてと、どういう状況なのか説明をしてくれるかな、明日奈」
「う、うん。実はね…」
明日奈の入学式後、最初はみんなが入学の喜びや新しい環境に浮ついただけの状態だったという。
しかし、それにも慣れ始めてくれば発生するのがグループの確立である。
特に高校生ともなると中学生よりも確固たるものになる。
そんな中、明日奈は特定のグループには属さない所謂中立の立場になった。
性格も成績も器量も家柄も良い、鼻にもかけないのでどんな男女からも万人受けする。
故に明日奈を自分達のところにと思う者が多数いる、学年クラス問わずに、だ。
しかも中には結城家という彼女のバックに取り入ろうという考えの者もいるわけである。
自分を見ない周囲の状況に明日奈は感情的になってしまい、婚約者(暫定)の存在…つまり、俺の存在を明かしてしまったそうだ。
そうなればどうなるか、本当に居るのか、どんな奴なのか、周囲が邪推するが明日奈としては俺を馬鹿にされるのが堪らないらしい。
嬉しいのだが、状況が状況だけに複雑である。
そんなこんなな状況の中、手助けをしたのが明日奈と同じクラスになった志郎と一番仲の良い篠崎里香さん。
いま共に来ている割と仲が良く中立な男女の2人、残る男女2人は引き込みたい組の代表者。
志郎は入学時から明日奈と行動することが多い、なんでも明日奈がガード役を頼んだとか。
俺と彼女の関係を知っているから志郎も喜んで受けたとのこと、そんなに俺が特定の女性と近くなることが嬉しいのか?
その志郎が周囲に俺のことを説明したのだが、当然ながら半信半疑となった。
それで、手っ取り早く解決するためにその婚約者である俺の元に来た、と…。
中立で圧倒的な
「はぁ~、なんていうか……仕様もない、くだらない、ばかばかしい…」
「同じ意味の三段活用ですね、解ります」
呆れとほんの僅かな怒りを込めた目で半信半疑な男女2人を睨みつければ、怯えたようにしている。
公輝達と同じ2年生なのに年下に怯えるとか、ショックだからやめてくれ。
公輝も同じくへらへらと笑っていることから怒りが混じっているのが解る。
公輝は怒るとへらへらとした笑みを浮かべることがある、ブチギレじゃない場合だが。
「ま、実際に半信半疑で同行する代表になったもののあっさりと婚約者の男に会わせられ、後戻りが出来なくなったってところか。
いまはお付き合いからという感じなんだけどな、デートを重ねて、キスもしたくらいだし」
「はいっ!? 和人、お前それマジ!?」
「デートをしているのは知っているけど、キスまで?」
「ああ。なぁ、明日奈?」
「そ、そうだけど、ひ、人前で言うのは…//////」
「あらあら、ふふ…」
「へぇ、やるじゃない和人君」
俺と明日奈が恋人同然の行為をしていることに驚いたのは志郎と公輝。
俺が人前で暴露したことで羞恥に真っ赤になる明日奈を見て微笑む雫さんと奏さん。
「明日奈。アンタの彼氏凄いわね~」
「ホントだよね。堂々としているけど、結城さんのこと大切にしてそうな感じだし」
「なんか男なのに憧れるな~、こういう人」
篠崎さんともう1人の女生徒と男子生徒が感心してくる、こういうのはくすぐったい。
逆に居心地が悪そうな2年生の男女、反省しているだろうしそろそろ解放するか。
要帰宅時刻も迫りつつあるし。
「まぁそういうわけだからさ、他の人達にちゃんと伝えてくれ。明日奈には俺、桐ヶ谷和人がいる。
彼女に迷惑をかけるのなら俺は許すつもりはないし、可能な限りの手段はやり尽くさせてもらう。
それに、これを見てもらえるか?」
ほとんど脅しにも取れるがそうしないと諦めてくれないだろう。
それに加えるように俺は左手の掌と甲を交互に見せる、あの傷跡だ。
「あの、これは…?」
「フォークで貫かれた傷跡だ。明日奈を助ける為に行動したら狂った男に襲われて、な。
少なくとも、明日奈を守るならこれくらいの覚悟は示してほしい、それも伝えてくれ」
「は、はい。分かりました…」
疑っていた男女もさすがにこの傷跡を引いた、少し傷つくなぁ…。とはいえ、利用しない手はないからな。
本当は俺自身の戒めでもある、怒りで己が傷つく行動を取ったことへの。
「さぁ、そろそろ帰った方がいい時間だ」
話しが終わったと判断した公輝が声を掛け、俺達は視聴覚室を後にした。
職員室で全員分の許可証を返し、校門の外まで出た。そこで俺は根本的な解決策を伝える。
「明日奈、志郎、それに篠崎さん達の5人で一緒にいればいいだろう」
「やっぱりそれが妥当か」
そう、明日奈が特定のところと行動しないのが問題になるなら彼女自身がそのグループを作ればいい。
婚約者の方は明日奈が話したから確認されにきたわけだし、もう1つの問題ならばこれで大丈夫だろう。
「あれ、お兄ちゃん?」
「志郎さんに公輝さんも居るっすね」
「雫さんと奏さんも来ているんですか」
「……見ない者もいるがな」
剣道部帰りである直葉と彼女を待っていた刻、同伴していた烈弥に剣道部の練習の手伝いに駆り出された景一がきた。
なんか勢揃いだな。
「色々とあってな、事情は明日にでも話すよ。俺は明日奈を送るから…刻、直葉を頼むぞ」
「了解です。景一さんと烈君も一緒っすから問題無いと思うっすけど」
「……任せろ。2人とも送り届ける」
「そうか。志郎は篠崎さん達を送れよ」
「解ってるって」
直葉には刻と景一が居るし、雫さんと奏さんには公輝が居る。
志郎には男子生徒と一緒に篠崎さん達を送ればこんな時間でも大丈夫だろう。
各自解散となり、俺は明日奈を送る。
「ごめんね、和人君。なんだか迷惑ばかりかけちゃって…」
「気にしないでいい。それに前にも言っただろ?ごめんよりも…」
「ありがとう、だったね」
「その通り。そしてどういたしまして」
穏やかに笑い合いながら帰り道を進む俺達。
そこで制服の裾部分を引っ張られていることに気付き、見てみれば明日奈が右手で掴んでいた。
顔を赤くしながら、それでも離そうとしない彼女が可愛い。
俺がその右手を左手で握れば、明日奈は驚いた表情を浮かべる。
周囲に人はいない、それならいまが一番いいかな。
「明日奈。俺、ホワイトデーの日からずっと考えていたんだ。
明日奈への想いがどんなものか、答えが固まり出していた……今日のこともあって、一気に答えが出た」
明日奈へ顔を向け、笑みを浮かべる。
「好きだよ、明日奈。1人の男として、1人の女性の明日奈が好きだ」
これが、俺の答えだ。
「和人君…///」
「本当は最初からなんとなく分かっていたんだ。でも結局は問題の先送りにしていた。
だけどさ、明日奈の告白とか言葉とか聞いて、考えて……明日奈と一緒に居る時が凄く安らげて、嬉しいっていうのが判った。
今日のことで明日奈が嫌な思いをしているのが嫌だと感じたし、
俺じゃない誰かが居るようになるかもしれないと思ったら嫉妬した///」
自分でも解るくらいには赤くなっていると思うが、それは明日奈も同じだ。
俺が嫉妬したと聞いた時、嬉しそうにしてくれて余計に赤みが増しているし。
「そういうのを全部考えて、俺は明日奈が好きなんだって思った。
だから、この前の明日奈からの告白の返事……結城明日奈さん、俺も貴方が好きです。
俺を本当に恋人にしてほしい」
「っ、はい///! 和人くん、大好き//////!」
俺の返事に明日奈が応えながら飛びついてきて、彼女を抱きとめる。
家族や親友達とは違った思いがある。愛おしい、只々彼女のことが愛おしい。
抱き締める明日奈の顔を離し、彼女の瑞々しい唇を奪い、影と共に1つに重なった。
END
あとがき
はい、遅くなって本当にすいませんです、ちょっと流れを考えるのが大変だったもので。
結果は「和人と明日奈のデート」→「明日奈のアプローチ」→「和人決意し、結ばれる」という感じ。
この話で纏めたのであまり和人が考えていないように見えますが、実際には明日奈と出会ってから3,4ヶ月ほども考えています。
そして『恋愛物語』なので互いを想うだけの恋から、行動まで出来るようになる愛の話にしました。
その後を書かなかったのは愛物語ではなく、あくまでも恋愛物語だからですよ。
というか、この2人の愛物語は本編で散々やらかしていますからねw
そういうわけで今回で三作に亘る和人と明日奈のお話は終わりです。
残る2つの番外編は10月中には投稿する予定、続編は11月中の投稿開始予定です、あくまでも予定。
特に続編は少し考え中、というかUWでの戦争を先に投稿しようかなとも考えています。
序盤から途中までは原作を参照にしつつ、オリジナルの展開を考えています。
まぁ少なくとも今年中にはUW戦争編か続編の投稿を開始しますのでその点はご安心を。
それではまた・・・。
Tweet |
|
|
14
|
5
|
追加するフォルダを選択
大変長らくお待たせいたしました、番外編の続きです。
物語から恋物語、そして恋愛物語になります。
では、どうぞ・・・。