No.801365

九番目の熾天使・外伝 ~短編㉒~

竜神丸さん

彼女が彼に惚れたワケ

2015-09-09 23:22:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5833   閲覧ユーザー数:1221

これはOTAKU旅団No.5の二百式―――榊一哉が、旅団に加入するよりずっと昔の話…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

夜の海鳴市。

 

一台のヘリコプターが巨大ビルのヘリポートに降り、一人の男性がヘリコプターの中から姿を現した。男性は自身の顎を指で触れながら「ふむ」と相槌を打ち、自身の右手を前に突き出す。

 

「行け」

 

男は右手の指先から、棘状の小さな端末を複数放出。放出された端末がバラバラに飛来する中、その内の一本は街の交差点にまで飛んで行き、停車していたタクシーに憑依する。

 

-ウィィィン、ガシャガシャガシャンッ!-

 

すると、端末に憑依されたタクシーが突如変形し、ゴリラのような姿をした大型ロボットに変形。ロボットは周囲を見渡して人がいないのを確認した後、すぐにタクシーの姿に戻り、その場から勝手に移動を開始した。その様子を見ていた男は愉快そうに笑う。

 

「さてさて。ここでは一体、何人集められるのでしょうねぇ? ホッホッホッホッホ…♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日…

 

 

 

 

 

 

 

 

「~♪」

 

ある茶髪の少年は、鼻歌を歌いながら街中をジョギングしていた。彼は上機嫌な様子である一軒家の前に到着し、インターホンを押してから玄関の前で待つ。その数秒後に玄関のドアが開き、黒髪の少年―――榊一哉(さかきかずや)がひょっこり顔を出した。

 

「…アンタか、ロラン」

 

「よ、一哉。トレーニングの方は順調か?」

 

「トレーニングはな……気分は果てしなく最悪だが」

 

「?」

 

一哉より年上である茶髪の少年―――ロランは一哉の言葉に首を傾げたが、一哉に家に上がらせて貰った後、リビングルームにいた金髪の少女―――アリス・トーレアリアを見て驚きの反応を見せる。

 

「あぁ、アリスちゃんもいたのか」

 

「…どうも」

 

「一体どうしたよ? アリスちゃんも一哉も、何かいつも以上に機嫌悪そうだが」

 

「許嫁にされた」

 

「あぁそう、許嫁に…………へ?」

 

たった一言。

 

アリスの告げたその一言に、ロランは一瞬だが目が点になってしまうのだった。

 

「…どういう事なのさ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロラン・アルティミット。

 

彼は時空管理局に所属する魔導師の一人で、一哉のパートナーである。

 

主に広域支援魔法によるサポート及び有事における戦闘要員を担当している彼は、一匹狼な一哉が気軽に話せる数少ない人物だ。それ故、一哉は管理局から下された任務を遂行する際、大抵の場合はロランと行動を共にする事が多い。

 

そのロランだが、彼は一哉のいる榊家、アリスのいるトーレアリア家とは親交が非常に深い。縁のある関係だからか、彼は普段から仲の悪い一哉とアリスに振り回されたりする事が多いのだが、彼だっていつも二人に振り回されてばかりでいる訳でもない。

 

ある時、一哉とアリスは掴み合いの大喧嘩をした事があった。二人の喧嘩を止めようとした子供すらも容赦なく突き飛ばしてしまうほど荒れていた二人だったが、泣いている子供を見つけたロランは、子供が泣いている原因は喧嘩している二人にあると分かり、喧嘩両成敗として二人を一方的に制裁した後、泣いている子供にしっかり謝罪させたのだった。

 

以降、二人はロランに対して一切頭が上がらなくなり、同時に多少だが彼に対して気を許すようになった。アリスの両親もロランを信用しており、彼に二人のお目付け役を任せているのだった。

 

しかし…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はっはっは、そんなに驚かなくても良いだろうに? ロラン君よ』

 

「いやいやいやいや驚きますって!! いくら何でも早過ぎでしょうよ!?」

 

受話器越しに聞こえて来るアリスの父親―――デイビット・トーレアリアの笑い声を聞いて、ロランは思わず頭を抱えたくなった。

 

話の内容はこうだ。

 

アリスの両親……トーレアリア夫妻は、彼女の許嫁に一哉を指名。若くして時空管理局の嘱託魔導師として活動している一哉になら、同年代である娘のアリスを任せられると判断したのだろう。しかしこの件について一哉とアリスは何も知らされていなかったらしく、二人は突然その事を知らされて猛反対したものの、トーレアリア夫妻はまるで聞く耳を持たなかった模様。

 

おかげで一哉とアリスは、元々悪かった仲が更に悪くなってしまったのである。

 

『今になってそう言われてもなぁ……アリスは異性に対して、まるで興味を持ってくれないんだ。我々トーレアリア家は、榊家とも縁は深いのでね。同年代である一哉君になら娘の事も頼めそうだと思い、こうして彼を許嫁に指名したのだよ』

 

「気が早過ぎでしょうよ……第一、それ本人達に真っ先に話しておくべき事だと思うんですが」

 

『言えば確実に嫌がられるだろうからね……まぁそういう訳だ。ロラン君、二人の仲裁はよろしくな☆』

 

「ちょ、待って下さ…おーい!? …切られたよ畜生」

 

電話を切られ、ロランは呆れた様子で溜め息をついてから後ろを振り返る。彼の後方では一哉とアリスが、互いにそっぽを向いたまま椅子に座っている姿があった。両者共に、視線を合わせようともしない。

 

「…で、嫌なら嫌で何で二人一緒なんだ?」

 

「…アリスのお母さんから、昼間は二人一緒に過ごすように言われたんだよ。最初は断ろうとしたんだが……プレッシャーが強過ぎて断れそうになかった」

 

(父が父なら母も母か…!!)

 

ロランの脳内に、プレッシャーを放ちながら一哉にお願い(という名の脅迫)をしているアリス母―――知理・トーレアリアの姿が思い浮かび、ロランは口元が引き攣りながら冷や汗を掻く。そんな中、アリスは不機嫌そうな表情のまま椅子から立ち上がる。

 

「もう嫌。何時までもこんな奴と一緒にいたくないわ」

 

「お、おいアリスちゃん、何処に行く気だ?」

 

「今の時間帯で帰ったら『一哉と仲良くしなさい!』な~んてお母さんが怒るから、適当に散歩でもするわ。少なくとも、そこのアホなんかと一緒にいたらアホが伝染る」

 

「ふん、そんな態度ばっか取るから学校でも苛めに遭うんだろうが」

 

「あんな奴等の苛めなんて可愛いものよ……というか、アンタにそんな風に思われてる事自体が屈辱だわ。アンタに同情されるくらいなら死んだ方がマシね、この自己中男」

 

「はん、ならばとっとと死に果ててしまえ性悪女」

 

「おいおいお前等、その辺にしとけって」

 

「「…ふん」」

 

「あ、ちょ、アリスちゃん待ちなって……あぁもう!」

 

ロランが宥めるも、一哉もアリスも鼻を鳴らして顔を逸らし、そのままアリスは家を出て行ってしまう。流石に女の子一人を歩かせる訳にはいかない為、ロランも彼女を追う形で同じように出て行く。家には一哉だけが残り、彼はソファに寝転がると、棚の上にある一つの額縁が目に入る。

 

「……」

 

数秒間だけ額縁を見た後、一哉はすぐに視線を逸らし、開いた本を顔に乗せて昼寝を開始するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、待てってアリスちゃん!」

 

一方で、アリスはイライラしながら街中を歩き、ロランはそんな彼女を早足で追いかけていた。ロランは何とか落ち着かせようとアリスに声をかけるも、アリスは止まらず歩き続ける。

 

「苛立ってるのは分かるけど、ちょっとは落ち着きなって。そんな喧嘩腰じゃ話せるものも話せないだろ? 二人一緒になって、両親に文句の一つや二つ言ってみりゃ良いじゃないか」

 

「何よ……ロランさん、あんな奴の味方する訳?」

 

「誰もそうだとは言ってないだろう、というか俺はどっちの味方でもないさ。これはお前達二人の話だ、お前達が話をつけなきゃならん」

 

「アイツと話す事なんて何も無いわ。私はあんな自己中男が許嫁なんて絶対認めない……父さんも母さんも、何であんな奴を許嫁に選んだのか分からないくらいだわ。ロランさんは何とも思わないの?」

 

「俺は別に、どうとも思っちゃいないさ。アイツもアイツで、そんなに悪い奴でもないし…」

 

「ほぉら、やっぱり味方するんだ……もう良い、私の事はしばらく放っといて!」

 

「そういう訳にもいかん、君にもしもの事があったら、俺がデイビットさんや知理さんに殺される」

 

「…分かった、じゃあしばらくあんな奴の話はしないで。あの自己中男だって、どうせ私の事なんかこれっぽっちも考えちゃいないわよ」

 

普段は少なからず気を許しているロランにすら、アリスはこれ以上耳を貸してくれそうにない。ロランは彼女の後ろを付いて行きながら、困った様子で自身の髪を掻き回す。

 

(どうしたもんかなぁ……一哉もアリスちゃんも、どうしてこう素直になれないんだか。知理さんの話じゃ、昔はそこまで険悪じゃなかったらしいが…)

 

何がどうしてこんなに仲が悪くなったのやら。そんな事を考えつつ、ロランは横断歩道を渡ろうとしているアリスに同行する。

 

その時…

 

「…ッ!? アリスちゃん!!」

 

「キャッ!?」

 

現在、横断歩道の信号は青だ。それにも関わらず、オートバイに乗ったフルフェイスの男は堂々と信号を無視し、アリスに向かって突っ込んで来たのだ。それに気付いたロランがアリスを傍に引き寄せた事で、アリスは何とか交通事故を免れる。

 

「ちょっとアンタ、危ないだろ!」

 

立ち止まったオートバイの男にロランが注意したが、オートバイの男は無言のまま振り返った後、ロランとアリスを右手で指差しながら、フルフェイスの下で赤い目をギラリと光らせる。これにはロランも眉を顰める。

 

「? アンタ…」

 

-ウィーン、ガシャガシャガシャ!-

 

「「!?」」

 

直後、指差していた右手が機械に変化。同時に男は乗っていたオートバイごと身体がどんどん変形し、瞬く間に鋭利な刃物を全身に生やした人型ロボットに変形した。それを見た周囲の人達が驚く中、ロランはゾクッとした何かを感じ取り、アリスを後ろに下がらせる。

 

「コイツ…!?」

 

『ギギ、ギギ、ギギ』

 

「ッ…危ない!!」

 

「キャア!?」

 

-ドガガガガガガガ!!-

 

「な…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

ロボットは右腕に付いていたタイヤ型ガトリングを構え、ロランがアリスと共に伏せると同時にその場でガトリングを乱射。放たれた弾丸は近くに停車してあった自動車に命中して爆発し、周囲の人達は悲鳴を上げて一斉にその場から逃げ出して行く。

 

「ひぃ!? な、何なのよアイツ…!?」

 

「アリスちゃん、こっちだ!!」

 

『ギギギギ…』

 

思わぬ襲撃にアリスは腰を抜かすも、ロランはそんな彼女を立たせて一緒にその場から駆け出す。ロボットはそんな二人にガトリングを向けて再び乱射するも、ロランとアリスが路地裏に飛び込んだ事で弾丸は大きく外れる。ロボットは二人を追いかけるべく、その場から走り出そうとしたが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チェーンジ、エレキハンド!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-バチバヂィッ!!-

 

『ギギ…!?』

 

そんなロボットの顔面に、青い電流の光線が命中。ロボットの動きが一時的に停止する中、ある一人の戦士が姿を現した。黒と銀色のボディ、赤く鋭い目、二本の触角、両腕に装着されているメーター付きの青い腕。スズメバチのような仮面を被った銀色の戦士―――仮面ライダースーパー1は、両腕を紐が付いた銀色の腕に戻してから改めてロボットと対峙する。

 

「一般人に向かって撃つとは、見過ごす訳にはいかないな」

 

『ギギギギギ…!!』

 

「やる気のようだな……良いだろう、来い!!」

 

ロボットは全身に電流が走りながらも右腕にブレードを出現させ、スーパー1に向かって突撃。スーパー1は一定の型を取りながらそれを迎え撃ち、ロボットの振り回すブレードを華麗に受け流し、隙を突いてはロボットに強烈なパンチやキックを命中させる。

 

「どうやら、そこまで知能が高い訳ではないようだな」

 

『ギ、ギギ…!!』

 

「これで終わりにする……とぉ!!」

 

スーパー1がしゃがむと同時にロボットがブレードを突き立て、ブレードの先端が建物の壁に深く刺さって抜けなくなってしまう。その間にスーパー1は跳躍し、ようやくブレードを抜く事が出来たロボットは、スーパー1に向かってガトリングを乱射する。

 

「スーパーライダー……閃光、キィィィィィィィィィィィック!!!」

 

空中に跳びながら一定の型を決め、ロボット目掛けて超高速の飛び蹴りを放つ。その一撃はガトリングの弾丸を物ともせず、見事ロボットのボディを貫いてみせた。

 

『ギ、ギィ…!!』

 

結果、ロボットは跡形も無く爆散。その場には一定のポーズを取るスーパー1だけが残るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、海鳴デパート付近…

 

 

 

 

 

「お待たせしました、バニラ、チョコ、イチゴの三段アイスです」

 

「うむ、ありがとう」

 

バニラ味、チョコ味、イチゴ味の三段アイスクリーム(コーン入り)を、アイス屋の女性店員から受け取っている女性がいた。

 

足の膝辺りまで伸びた、青い長髪。軍服に似た白い私服や、ブーツと帽子。スラリとした細い腰に、胸元から覗ける谷間。そんな容姿端麗の女性を見て、周囲は男女問わずその美貌に魅了されていた。女性はそんな周囲の視線など気にもせず、アイス屋の近くにあったベンチに座って膝を組む。

 

(さて、いざ地球にやって来てみたは良いが…………モディ・ブレッセン、大蛇(オロチ)の「牙」にして、ムースタウン誘拐事件の首謀者か…)

 

右手に三段アイスを持った女性は、左手で胸の谷間から取り出した一枚の手配書を眺める。

 

(この私の管轄内で事件を起こすとは、なかなか良い度胸をしている。捕まえた暁には、一体どんな声で鳴かせてやろうか…)

 

≪隊長、聞こえますか?≫

 

「んむ…≪ボルスか、どうした?≫」

 

念話で男性の声が脳内に聞こえ、女性は手配書を再び胸の谷間に納める(その行為を見て、一部の男性は盛大に鼻血を噴いて倒れた)。

 

≪先程、例のロボット兵士が現れたみたいです……と言っても、既に何者かに破壊されたみたいですが≫

 

≪ほぉ? あのモディのロボット兵士を破壊出来るような実力者が、この街にいるのか。面白い、ぜひこの目で拝んでみたいものだな。今度こそ、私の好みに合えば良いが≫

 

≪…あのぉ、もしかしてまだ続いてるんですか? 例の恋人探し≫

 

≪何を言っている、当然だろう? あぁ、いつか私の前に現れないものだろうか、私の理想の恋人…♪≫

 

≪…カンナ隊長、今はモディ・ブレッセンの捕縛が先です。恋人探しはそれからでも良いのでは…?≫

 

≪むぅ、仕方ないな…≫

 

念話はそこで一度切れる。女性―――カンナはベンチから立ち上がる。

 

「雑魚の分際で……この私から逃げられると思うなよ? フフフフフフ…」

 

 

 

三段アイスの一番上のバニラアイスをペロリと一舐めした後、カンナは冷淡な笑みを浮かべる。その瞳には鋭い狂気と、獲物を求める野獣のような獰猛性が露わになり、傍から見れば近寄り難い雰囲気を見せていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む、このアイス美味いな…」

 

…少々、抜けている部分もあるようだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

To be continued…

 


 
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