企画書が完成してから一晩が過ぎた。
才人とミス・ロングヒルが二人で作った成果がここにある。
後は交渉をうまくこなせば東地区拡張計画はスタートする。
そして交渉の機会はいつ訪れるのか?
今日も朝から仕事だ、準備を整えて外に出る。
出かける前に郵便受けを確認するが特に手紙は無かった。
少し落胆しつつも、元気に現場にむかう才人だった。
午前中に全ての作業が終わり、まったり休憩を取っている才人たちだったがそこに親方が現れる。
「サイト、ちょっとこっち来な」
「うっす!なんすか?親方」
「いまから最終確認をするから、おめぇも来るんだ」
「えっ、俺も入るんっすか!?」
「そうだよ、やり方は俺が教えるからなしっかり覚えろよ」
連日の才人の活躍や全体のペースアップもあってか予定よりも大分早く工程が進んだ。
そして、午前中にすべての作業が終了してこれから落としが無いか最終確認作業に入る。
最終確認作業は親方以下ベテランの職人で行われるのだが、今回は才人もメンバーに入った。
「俺にはまだ、早えぇって思ってんだろ?」
「いや・・・だって、俺はまだ新人だし」
「おう、新人だがおめぇはたよりになるからな早いうちに覚えさせといて損はねぇから」
「本当にいいんすか?」
「誰も反対しねぇよ、むしろおめぇが覚えてくれればみんな楽できるんだからな!しっかり覚えろよ」
「うっす!サイト!しっかり覚えるんで、よろしくお願いします!」
三回目の現場で最終確認作業を教えてもらうことになった才人、今後の活躍を期待されている。
だが・・・才人は最終確認作業を教えてもらうことにはならなかった、なぜなら・・・。
「おとうさん!サイト!こっち来て!!」
幼い女の子の声が現場に響きわたる。
「あぁ!?アナか?どうしたんだ仕事場に来て、なんかあったのか!?」
親方が大きな声でアナに返事を返す。
「サイトを呼んでこいって言われて・・・怖い人に」
「あぁ!誰だよ、呼んでこいってテメーで来やがれよ!」
才人に最終確認作業を教える気まんまんの親方は、若干キレぎみにアナに返事を返すのだが・・・。
「あのね、おかあさんが貴族の人だって言ってた・・・早くサイトをつれて来なさいって」
「貴族って・・・おめぇ、まさかあの件か?」
「親方、すいませんが北の町まで行ってある人を呼んできてもらえませんか?」
どうやら、スポンサーの到着のようだ・・・ついに交渉に入る時がきた!!!
ルイズにアポイントを頼んでから三日目だった、実際は手紙が出されてから正味中二日での結果だ!
トントン拍子に事が進むとはこの事を言うのだろう、不安と期待を織り交ぜながら親方の家に向かう。
そして、才人はラ・ヴァリエール公爵との再会を果たすのである。
「あっ!サイト来てくれたんだね、その・・・貴族さまが用ってなんかしたのかい?」
「俺の仕事の交渉相手なんすよ、大親方たちと一緒にやっていたアレの件です」
「そうなのかい・・・サイト、悪いけどあたしは席を外すからね・・・その交渉がんばって」
「ご迷惑をおかけして、すんません」
親方の奥さんは、サイトにそう告げて家の外に出て行った。
この世界では平民にとって貴族というのは畏怖の対象なのだ、親方の奥さんが逃げる様に席を外したのも無理は無い。
それでも才人は正面から交渉する、もう列車は動いているのだ。
それに相手はルイズの知り合いだ、いざとなったらルイズになんとか取り持ってもらおうとその時の才人は考えていた。
そして、居間に入るとあの時二人を助けてくれた「厳つい貴族のおっさん」が席に座っていた。
「はじめまして、ルイズに紹介していただいた平賀才人です」
居間で、スポンサーである貴族と二人っきりになる才人。
まずは才人が先に挨拶をする、自分がルイズに紹介してもらった交渉相手だということを告げて。
「うむ、知っている」
「ありがとうございます、あの・・・あの時は助かりました・・・学院に追われていた時のことなんすけど」
「うむ、あの時の事はよく覚えているよ」
「おかげで二人とも無事に逃げることができたんで、改めて・・・ありがとうございました」
「そうか・・・それは良かったな、ルイズの使い魔」
「えっ!?えっと・・・俺がルイズの使い魔ってこと知っているんすか?」
「ルイズからの手紙に、書いてあったからな」
才人がルイズの使い魔だとを知っている、目の前の貴族はルイズとどういう関係なのだろうか?
「えっと・・・そうなんすか、ルイズが教えているんですか・・・俺たちのこと?」
「異世界から召喚されてきた使い魔ヒラガサイト、そういうふうに聞いている」
どうやら全てを知っているらしい、あの事件は口外出来ない出来事らしいのだがそれを知っている。
どうやら目の前の貴族が、魔法学院とあの事件で交渉した人物なのは間違いないらしい。
これはかなりの権力者なのだろう、当たりを引いたと内心よろこぶ才人。
それと同時に、この話をどうやって引き伸ばすか考えている。
交渉にはミス・ロングヒルも同席する予定だったのだ、サイトだけじゃ心もとないでしょと彼女が言い出したのだ。
才人も大人との交渉なんてまともにできる自信なんてなかったのだが、予想以上に早い接触となってしまった。
そういうわけでミス・ロングヒルが来るまで時間を繋がなくてはならない、最悪の場合は一人で交渉することも考えながら。
「あの・・・どうしてこの家に俺がいるって、分かったんすか?」
「うむ、ルイズの手紙にお前の住んでいる場所が書いてあってな」
「居なかったようなので、王宮の役人を呼んで調べさせたまでだ」
どうやら才人の家に先にいったらしい、不在なので王宮の役人に調べさせたと言っているが王宮を動かすことができる人物なのか?
「そんな事よりも、ワシに話があると聞いたのだが」
「えっと・・・ルイズの手紙に書いてあったんすよね、話したい内容って」
「そうだ、話さなくていいのかルイズの使い魔」
ミス・ロングヒルが来るまでの時間を持たせるつもりだったが、ここらへんが限界か・・・。
才人は一人で、目の前の貴族と交渉に臨むことになった。
「えっと、ルイズから聞いていると思うんすけ・・・思いますけど」
「・・・」
「俺たちに力を貸してほしいんです!」
「・・・」
「この町の問題を解決するための事業を立ち上げために、資金と後ろ盾が必要で・・・」
「・・・」
「その・・・俺たちに投資をしてもらいたいんです、お願いします!!」
「ふむ・・・」
「あの・・・企画書があるんで、それを取ってきますから」
そう言って才人は席を立った、大親方の部屋に用意してある企画書を取りに・・・。
才人の目の前に床が迫っていた。
緊張で転んだのか、急に目の前に床が迫ってくる。
才人の後ろには杖を構えた、ラ・ヴァリエール公爵。
何が起こったのかは最初はわからなかった。
それでも腹部から湧き上がる強烈な痛みと熱が現実を理解させる。
どうやらお腹を刺されたらしい。
刺さっているのは刃でも銃弾でもない、魔法の槍。
空気の槍を飛ばす魔法「エア・ニードル」
魔法はこの世界の支配者の象徴だ。
魔法はこの世界の貴族の象徴だ。
魔法はこの世界の暴力の象徴だ。
「この世界」が突き刺さった、目の前の床を見つめる才人の体に・・・。
....第25話 めざせ経済大(町)国 ⑧ 終
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執筆.小岩井トマト
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企画書が完成して後は交渉を残すだけ!
平賀才人は交渉の機会を待って今日も「この世界」で日常を過ごす。
そして「この世界」で才人が見たものは何だったのか・・・。
ここから第二章のラストに向かいます、急転直下の第25話をお楽しみください。