No.798992

「真・恋姫無双  君の隣に」 第47話

小次郎さん

迫る毒矢に何も出来ない雪蓮。
だが雪蓮を護りたい者たちはそれを許さない。

2015-08-29 02:11:32 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:10886   閲覧ユーザー数:7363

振り返る、それこそ致命的な行動で、異変を感じたなら横にでも飛ぶべきだった。

何故か迫ってくる矢はゆっくりに感じるけど、私の体はそれ以上に遅い。

ああ、私はここまでなのね、ごめん、皆。

諦めて目を閉じる。

「雪蓮様!!!」

キン、キン、シュッ!

えっ、

「雪蓮様っ、おさがり下さい、刺客ですっ!」

目を開けたら、思春が矢を払い私の盾になっていた。

「ピ---------------!!」

思春が口笛を吹いて、矢が飛んできた方向から動揺を感じた。

「直ぐに兵が参ります、それまで雪蓮様は私の後ろに」

その必要は無いわ、私の意識は切り替わって戦場のものとなっている。

でも次矢は飛んでこなくて、探ってみたら気配も消えていた。

「・・逃げたわね。ありがとう、思春。でもどうして貴女が此処にいるの?」

此処に来るのに付き添いは断ってたのに。

ドサッ!!

音を立てて思春が倒れた。

「思春、どうしたの!?」

「・・申し訳・ありません。矢に・毒が塗ってあった・・ようです。雪蓮・様、刺客は・逃げた・ようですが急いで・お戻り・に・・・」

気を失った思春の傷口から急いで毒を吸い出す。

駆けつけて来た兵達に急ぎ城への言伝と、医師を呼ぶように命令して私は思春を背負う。

動かすべきじゃないとは思うけど、此処にいたら助からない。

全力で森を抜け城が見えて来たところで、馬に乗って駆け寄って来る蓮華達を視認する。

「思春、蓮華達が来たわ。もう少し頑張って、必ず助けるわ!」

「・は・い」

「意識を取り戻したの?無理に話さなくていいから」

「雪蓮・様、お怪我は・ありま・せんか」

「私は大丈夫、もう話さないでっ!」

「・・・よかった」

「姉様!思春!」

 

「げ・ん・き・に・なれえええええええええええええええっ!」

室内中に響く大きな声を張り上げて鍼をうつ、神医と謳われる青年。

「華陀、思春は大丈夫なの?」

此処にいる皆を代弁するように蓮華が華陀に詰め寄る。

期待する言葉が返ってくるように、でも、

「厳しい状態だ。今晩がヤマだろう。それに・・」

「それに?どういう事?」

「命は助かっても、このまま目覚めないかもしれない」

「そんな!!」

「すまない、俺の力が足りないばかりに」

このまま居ても何も出来ない私達は蓮華と華陀を残して退室する。

兵から刺客を捕えた報告が来た、刺客の正体は許貢の配下だった呉敦。

呉敦は既に自害していて、部下が白状したらしい。

「冥琳、思春があそこで現れたのは貴女の指示?」

「そうだ。お前は一人にしてくれと言っていたが、思春に陰から護るように言っていた」

「・・また、一刀に助けられたのね」

以前にあった一刀から冥琳への言伝は、私に護衛をつけてないのを考慮すべきとの忠告だった。

私が強い事を分かってるなら相手だって考える、馬鹿正直に襲ったりしない。

個人の武を過信するのは駄目だって。

私には言っても聞かないだろうから、周りが考えないといけないと。

その時は不貞腐れて却下したけど、結果はこの始末。

「・・いっそ死んでた方が、この国にとっては良かったのにね」

「馬っ「馬鹿な事を言わないで下さい!!」

冥琳の声を掻き消す声をあげたのは亞莎だった。

「取り消して下さい!今の御言葉は私たち臣を侮辱する御言葉です!」

こんな亞莎、見た事ない。

私も冥琳も言葉が出せないでいると、

「私達は孫家を御護りする為に集まった者です。考えに違いはありましても、根にある物は同じです。例え相手が一刀様でも雪蓮様が戦うと決められたのなら、私達は躊躇うことなく武器を取ります!」

涙を流しながら諌めてくれる亞莎に、私は無神経な言葉を吐いた事を後悔する。

・・ああ、本当に私は王として失格ね。

こんなにも家臣に恵まれてるのに、まだ誤った道を進もうとしていた。

私の命は、私だけのものじゃないのに。

「ごめんなさい、亞莎。私が間違っていたわ」

私の言葉で更に泣いた亞莎を、冥琳が優しく慰める。

「冥琳、亞莎、皆を集めてちょうだい。・・孫家の王として、断を下すわ」

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第47話

 

 

物見から朗報が届きました、袁紹軍が撤退の準備を始めているとの事です。

「やったね、朱里ちゃん。謀略が成功したようだよ」

「うん。替わりの軍の総大将は袁一族の人らしいけど、左慈って人よりは絶対に劣るから雛里ちゃんも楽になるよ」

左慈って人の直属軍が予想以上に手強くて、兵の被害が多かった。

きっと次はもっと強くなってる、対策を考えておかないといけない。

「でも、雛里ちゃん、分かってるよね?」

「勿論だよ。苦戦してるフリをしながら戦って、出来るだけ長く新しい総大将に指揮を執って貰うようにするよ」

防衛するにはそれが最善だから。

七割位の力で戦って、囮の部隊や砦を活用しよう。

兵には損害を与えつつ無能の将は故意に討ち取らないようにして、敵戦力の低下を図る。

時には罠に掛かった素振りも見せて相手の油断を増長させたり。

他にも色々仕掛けよう。

「全く、軍師というのは恐ろしいな。戦や敵を掌の上で転がすか」

「すっごく性質が悪いのだ。体は小っちゃいのに考えてる事はでっかい悪巧みなのだ」

し、心外です、愛紗さんと鈴々ちゃんが好き勝手言われてます。

「ひどいです。私達軍師は勝つ為の方法を考えてるだけなのに」

「わ、悪巧みでなくて策略です、戦術です。戦を合理的に効率的に行おうとしてるだけです」

そ、それに小っちゃいのは鈴々ちゃんもです。

これからまだまだ成長して、いつかは愛紗さんや桃香様みたいになるんです。

「分かった分かった、私達が悪かった。それではこのまま袁紹軍が撤退するのを放置しておけばよいのだな」

あっさり流さないでください、大事な事なのに。

不満ですが、お願いする事がありますので話を進めます。

「いえ、しなくてはいけない事が一つあります」

 

夜間の山中を進み、兵に物音を立てないように徹底させる。

もう少しだ、ここを抜ければ劉備軍本陣の裏に出られる。

袁紹め、ふざけた命令を出しやがって。

もう少しで陥ちるのに交代だと?

左慈殿も左慈殿だ、何故こんな馬鹿な命令を了承するのだ。

これまでの戦いを無にされてたまるものか、今晩中に陥としてやる。

益州出身である私は山にそれなりの馴染みがあり、敵本陣の裏に抜ける道があると踏んでいたのだが、探ってみれば大正解だった。

裏から突入し火を放てば本軍も気付いて攻め込むだろう、華雄殿を捕縛するのに使おうと思っていたが、止むを得ん。

馬鹿共が来る前に戦を終わらしておいてやる。

・・見えた!

劉の牙門旗、本陣は静まり返ってる。

目論見通りだ、隊列を整え直して私は兵と共に突入する。

ザァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

何!?大量の矢が降ってきた。

必死に振り払うが、共に来た兵達が次々と倒れてゆく。

矢が止まった時には、殆んどの兵がやられていた。

突然の出来事で混乱している私に、声を掛けてくる者が現れた。

「雛里の言うとおりだったな。撤退に納得せず独断行動に出る者がいると、聞いた時は半信半疑だったのだがな」

「貴様、関羽!」

「愚かな、感情に任せて戦うのが此れ程愚かな事とは。改めて我が身を恥じるな」

「何を一人で喋っている。どうして奇襲が分かった」

「我等の軍師は全てお見通しだ。武しかない者が慣れない小細工などすべきではないという事だ」

くそっ、ならばせめて関羽の首だけでも。

だが私の渾身の一撃はいとも容易く弾かれる。

「無駄だ。貴様の実力は既に見切っている。そして貴様には実力以上のものは出せぬ。独り善がりの武など底が知れている」

「なめるなあああああああああああ!!」

屈辱を晴らす為に、どれだけの血反吐を吐きながら鍛練したか。

怠った日など無い、私は強くなったんだ。

「大人しく投降しろ、華雄殿に免じて命は獲らぬ」

それなのに、何故通用しない!

私に何が足りないのですか、桔梗様、華雄殿。

今晩の事で私が覚えているのは、再度鈍砕骨を振り下ろした時までだった。

 

 

ようやく出陣しましたわね、やれやれですわ。

無能の癖に見栄だけは強い親族など持つものではありませんわね。

左慈さん達には申し訳ありませんけど、王ともなりますと少しは下々に気を遣わねばなりませんのよ。

わたくしのように有能な者しか居る訳ではありませんから、無能な者でも出来る事をさせなければなりませんわ。

反董卓連合の時には無能な者達に辟易させられましたけど、あれも天からのわたくしへの試練だったのですわね。

劉備さんのお相手なら無能の高幹さん達でもなんとかなりますでしょ。

わたくしは有能な臣下を率いて華琳さんのお相手をする事にしますわ。

華琳さんを跪かせてる頃には、他を一刀さんが平定してるでしょう。

そしてわたくし達は戦いますの、全てを賭けて。

戦い終わったわたくし達は、千年の王国を築きましょう。

一刀さん、それがわたくし達に天より与えられた使命ですわ。

 

 

雪蓮様が冥琳様を伴って建業に向かわれます。

一刀様に降服を告げる為に。

私は一兵士として孫家の戦に従軍し、冥琳様に御目を掛けて頂き過分な地位に就きました。

温かく迎え入れてくれました雪蓮様に、御恩に報いるどころか降服を進言した私は本当に不忠者です。

私には雪蓮様と蓮華様が傷付かずに済む方法が思いつかず、一刀様に縋るしか出来ませんでした。

ですから、降服が成立しましたら役目を辞して故郷に帰るつもりでした。

こんな役立たずの不忠者が、一刀様や蓮華様のお傍にいていい筈がないと。

それなのに、こんな私に雪蓮様は感謝の言葉を掛けて下さったのです。

「亞莎、貴女の忠義に心から感謝するわ。これからも蓮華をお願いね」と過分な御言葉を。

私は雪蓮様の御姿が見えなくなっても礼を捧げています。

同じように礼を捧げる多くの方達と共に。

雪蓮様、私は孫家に、偉大なる王に御仕えできました事を、生涯誇りに思います。


 
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