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模型戦士ガンプラビルダーズI・B 第35話

コマネチさん

第35話「サポーターとフーリガン」(後編)

違法ビルダー、ガンプラを使わずデータのみで戦うビルダーが表に表れ始め、ガンプラバトルは波紋を呼んだ。
そんな中、少年ケンはガンダムAGE-1を操る少女に出会う。そして彼女に改造の指導を依頼するのだった。

2015-08-16 22:32:54 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:725   閲覧ユーザー数:696

 

 

「さあいつでも来い!」

 

「行ってやるよ!」

 

 飛びながら啖呵を切るケンに、ヤスは三機のビギニングで挑む。近づきつつビギニング達は遠距離射撃でビルドスペリオルに撃ってくる。

 

「っ!」

 

 ケンは横にスペリオルを移動。さっきのバトルとは違った滑らかな操縦感触にケンは内心驚く。

 

「感じが違う!これなら!」

 

 ケンはスペリオルの背中、ユニバースブースターのビーム砲を前面に展開、腋の下からせり出した大型ビーム砲を放つ。ビームの濁流は、回避行動を取ろうとした無人機の一体を飲み込む。

 

 

「なっ!」

 

 スペリオルの力に驚くヤス、反面ケンは「これならやれる」と確信した。

 

「こ!懲りずに!!」

 

 尚も距離を取り射撃を撃ってくるビギニング二体、だがビームライフル。これが不味かった。スペリオル左肩にぶら下げた赤いシールドを展開、シールドはビームを吸収、スペリオルのエネルギーが増す。

 

 

 

「お前の許しをこうつもりなんて無い!」

 

 ケンがそう叫ぶと同時にスペリオルの背中から巨大なクリアブルーの翼が出現する。これこそがとりつけたユニバースブースターの最大の特徴。『プラフスキーウイング』、これにより驚異的なスピードを実現する。

 一気に迫るスペリオル。細かい機動はまだ出来ないが、直線なら問題はない。凄まじい速度だ。慌てたヤスは、無人機をその場に盾代わりに置き一斉射撃を行わせようとする。そして自分は後退、

 

「逃げるな!卑怯だぞ!」

 

 ケンのスペリオルは射撃を撃つ前のビギニングにあっという間に迫り右手のガンブレードで斬り裂く、「う!嘘だ!」と叫ぶヤス、だが舌の根の乾かぬうちにケンのスペリオルはヤスのビギニングに迫る「うわぁぁ!!」と叫ぶヤス、ガンブレードを振り上げ勝利を確信するケン。しかし……

 

『挑戦者が乱入しました!』というアナウンス。と同時に上空から泡の様なエフェクトをまとった大型ビームがスペリオルを薙ぎ払った。

 

「なっ!」

 

 吹っ飛ぶスペリオル、倒れたスペリオルは上空を見る。巨大な下半身と、巨大なクローと小さい上半身を持った四本腕の機体が見えた。違法ビルダーの高性能機『マステマガンダム』だ。

「相手は一人だろう?何をやってるんだヤス」

 

「おお先生!遅いじゃないですか!」

 

 

 マステマに乗ったビルダーが言う。ヤスが乱入者に根回しをしていたらしい。

 

「あ・新手……」

 

「俺だけじゃない」

 

 マステマに乗ったビルダーが言った瞬間、空にヤスの乗っていた量産型ビギニング、それの同型が次々と現れる。1体、2体、それどころの数ではない。空を埋め尽くしかねない数だ。

 

「なんだあの数!」

 

「驚いたかぁ?!あの女が乱入しても安心な様に用心棒を頼みまくってたのよ!1人につき無人機含めて3体、それが33人で俺込みで100体のモビルスーツよぉ!!」

 

「ヤス!ここまで下種な行為を!」

 

「下種?違うね。ガンダムは戦争だぜ!勝者が絶対となる。それが戦場の掟だ!お前の好きなガンプラアニメとは違うんだよ!!」

 

「所詮はジャンルの違いだ!そんな勝手な理屈をリアルで持ち込むな!」

 

「俺が言ってんだから受け入れろ。かの偉い先生も言ってたぜぇ。『公表された作品は見る人全部が自由に批評する権利を持つ。それを妨げることはできない』ってなぁ!言論の自由って奴だなぁ!」

 

 

 観戦モニターを通じて、バトルの様子はチトセと少女にもよく見えた。

 

「サイッテー!あいつら、なんであんな事平気でするの?!ムッカツクわ!!」

 

「……フェアどころの話じゃない。ケン君助けなきゃ」

 

 少女は、ケンのバトルに乱入しようとGポッドに向かう。

 

「お姉さん?でもあいつら100人もいるのよ!勝てるわけないよ」

 

 チトセに対し、少女は当然とばかりの顔で言った。

 

「?勝てるよ。だって私は……」

 

 そして再びバトル内、全ビギニングが武器を構えスペリオルを狙う。

 

「フン、つまらんな。初心者にこうもいじめまがいの事をするとは」

 

 マステマに乗ったビルダーが吐き捨てる。

 

「おや?先生は不満ですか?」

 

「強い女のビルダーと聞いて『ヤタテ・アイ』を倒すチャンスになると思っていたが、出ないじゃないか。このマステマも奴と戦う為に用意したというのに」

 

「ヤタテ・アイ?誰ですかそれ」

 

「それは……」

 

 その時、乱入者のアナウンスが違法ビルダー達に流れた。『来るか!』と身構える。直後巨大な衝撃波がビギニングの群れに突っ込む。回避行動をとったビギニング達、だがその所為でスペリオルへの攻撃は中断される。遠くから四本の刀を構えたAGE-1が高速で飛んでくる。

 

「ケン君、動ける?」

 

「お姉さん……はい!」

 

「下がってて!後は私がやる!」

 

「え?!無理ですよ!」

 

 相手は100体だ。とてもじゃないがあの女の人でも100体相手には出来ないとケンは思った。

 

「まぁ見てなよ!」

 

「へ!何言ってやがる!」

 

 と、一体のビギニングがビームサーベルで突っ込んでくる。勝手に彼女を弱いと判断したのだろう。「ま!待て!」とヤスの制止も聞かずに違法ビルダーはAGE-1を突き刺そうと両手でビームサーベルを構え突っ込んでくる。

 

「……」

 

 無言で少女は刀を振るう。直後、ビギニングは真っ二つになりその場に落下した。

 

「へ?あれ?あぁぁぁぁっっ!!!!!」

 

 間抜けな断末魔を残し違法ビルダーは落とされた。

 

「……だから粘着のフーリガンとは関わりたくないんだよ。一部声が大きいのがいるだけで、大人しくしてる人まで変な目で見られる」

 

 少女はうんざりした口調で呟く。こうした相手は慣れているらしい。

 

「!い!一斉攻撃だ!数で圧倒してください!!」

 

 ヤスが用心棒達に命令を下す。一斉に量産型ビギニングがAGE-1めがけて撃ってきた。

 

「……」

 

 少女は無言でAGE-1を飛行、ビギニングの射撃を軽くかわしながら群れの中に突っ込む。凄まじいスピードだ。群れの中に突っ込むと四本の刀を前進しながら振るう。一度振るう度に量産型ビギニングの体が真っ二つに裂ける。その度に違法ビルダーの悲鳴が聞こえた。半分は無人機の為無言だったが、

 

「……フフ」

 

 仏頂面だった少女の顔が綻ぶ、嫌な暴言ばかり吐いてた連中の悲鳴が聞こえる。自分でも不思議だがゾクゾクしてくる。

 

「この!」

 

「っ!」

 

 と、左右からビームサーベルを構えたビギニングが襲ってくる。接近戦に持ち込むつもりだ。AGE-1は左右肩アームの刀でサーベルを受け止める。と、上下前後からもビギニングは同じようにサーベルで襲ってくる。

 

「所詮は一体!この数に勝てるはずがねぇ!」

 

「あっそ」

 

 少女はAGE-1の力を込める。刀は簡単にビームサーベルを貫通、ビギニングを真っ二つにする。

 

「何んだとぉぉっ!」

 

 驚く別の違法ビルダー。直後AGE-1は上下前後に衝撃波を飛ばす。全てビギニングに当たり撃破。

 

「な!なんなんだあの刀の切れ味は!」

 

「……私の刀の刃の塗装は黒を下地に塗って、その上にシルバーで塗装してるの。だから貴方程度は簡単にナマスに出来るよ」

 

「な!なんだそりゃぁぁ!」

 

 塗装の専門的な知識のないビルダーの様だ。少女の言った事は理解できなかった。そして少女は再び群れの中に突入する。もうビギニング達は恐れ慄いていた。

 

 

「凄い……刀だけしかないのに……」

 

 離れた場所に移動したケンは少女の戦い方をまたも茫然と見ていた。

 

 

 AGE-1はあっという間に100体いたビギニングをほぼ破壊、残ったのは2体だけだった。ヤスのビギニングとマステマだ。

 

「手ごたえ無いね。もう終わり?」

 

「いや!まだだ!」

 

 と、マステマガンダムがクローを使いAGE-1に襲いかかる。刀を交差させクローを受け止めるAGE-1

 

「へぇ、少しは腕の立ちそうなのが出てきたね。でも味方は見殺し同然とはね」

 

「面識なんてない奴ばかりさ!お前を疲弊させるならそれで十分な連中だったって事だ」

 

「無駄だねそれ」

 

 少女はそう言うとクローを簡単にX字に斬り裂く。「なんだと!」と驚愕する違法ビルダーそのまま少女はマステマを斬り裂こうと四本の剣を連続で振るった。あっという間に手足を切り裂かれマステマは地に伏す。

 

「この場で最低限の礼儀もわきまえない人に私は負けないよ」

 

「そ!そうか!お前は!この模型店『ガリア大陸』最強のチーム『I・B』そのリーダーにしてチーム最強のビルダー『ヤタテ・アイ』!」

 

 マステマのビルダーが言い終わらないうちに、少女……アイはトドメとしてマステマを一刀両断。縦に斬り裂かれたマステマはそのまま爆散した。

 

「さ・最強のビルダー?あのAGE女が?」

 

 ヤスはへたれこみアイのAGE-1を茫然と見た。「残ったのはあなた一人だよ」とAGE-1がこちらに向き、悠然と歩いてくる。

 

「く!来るな!」

 

 コウタはビームライフルでAGE-1を撃つ。しかしAGE-1は日本刀を軽く振るいビームを弾いた。

 

「な!なんでそんなにマジになってんだよ!ただこっちは批評しただけだろうが!」

 

「さっき君が言ってた『批評する権利』だけど、あれはね『言われた側は怒る権利がある。それでその権はおしまい』って続きがあるんだよ。私にだってあなたの態度は怒る権利があるんだから。言っていい場所と悪い場所すら解らないの?」

 

「き!綺麗事ばかりぬかして!!どうせお前みたいな奴は全部のガンダム作品を愛せとか抜かすんだろうが!」

 

 言葉を交わす度にビギニングは撃ち、AGE-1は軽く刀でそれをいなし悠然と歩いてくる。何度もそうしてる内にエネルギー切れとなる。

カチカチとライフルは無意味な音を出すだけだった。

 

「……別にかまやしないよ。気にいらないなら叩いても、不満なら文句言っても、場所もわきまえない。ファンも作品もこきおろすのが目的みたいな行動、それで何が『違いの分かる男』?だから同じ『ガノタ』として『フーリガン』には関わりたくないんだよ」

 

「フ?フーリガン?!」

 

「態度選ぶ権利はさぁ、こっちにもあるんだよ?」

 

 フーリガン、意味はごろつき、サッカー用語で破壊や妨害、選手やファンに暴力を振るう過激なファン達の事を言う。中には暴れるのが目的だから便乗して叩く。

という連中も多い為、ガンプラビルダー達の用語でも使われていた。(あくまでこの世界の設定です)こんな血の気の多い過激なファンはどんなジャンルにだっている。

 

「お姉さん!いやアイさん待って!」

 

『?!』

 

 ケンの声がした。スペリオルが姿を現しヤスのビギニングに向かってくる。

 

「そいつは俺が!」

 

「ケン!お前だけはぁ!!」

 

 ヤスは絶叫するとビームサーベルを抜きスペリオルに向かう。もはやヤケだった。しかし相手のスペリオルは素手だ。勝てるかもしれない。

 

「くだらない遊びでやってる奴らなんかにぃ!」

 

「くだらない遊び?そう遊びさ!だがな!」

 

 突如スペリオルの右手が青く輝く、ユニバースブースターを取り付けたことにより装備できた拳『ビルドナックル』だ。

 

「それに夢中になる楽しさ!お前にも分けてやりたいくらいだ!!」

 

「俺を見下すんじゃねぇぇ!!俺の方が格上なんだよぉぉ!!」

 

 ビギニングはビームサーベルを振るう。迎え撃つはビルドナックル。拳は剣に勝てないとヤスは判断、俺の勝ちだと一瞬確信する。だがビルドナックルはビームの刀身を飴細工の様に砕き、その後ろにあるビギニングの胸、コクピットを貫通した。

 

「な・なんで……嘘だぁぁ!!」

 

 叫びと共に爆発するヤスとビギニング、これにより勝者はアイとケンの二人となった。

 

「また助けられちゃいましたね!いやぁかっこ良かったですよアイさん!」

 

「ねー!まるで子供と大人の喧嘩みたい!」

 

「気にしなくていいよ。向うが勝手に約束破っただけだもの」

 

 バトルが終わった後、ケンとチトセはアイに駆け寄る。ヤスは泣きながら逃げ帰ったらしい。

 

「でもどうやってあそこまで強くなったんですか?」

 

「経験、積んだだけ、かな?結構いつも挑戦者とか来るし」

 

「挑戦者、ですか、それは丁度いい」

 

 ケンの顔が妖しく微笑む。

 

「え?」

 

「だったら俺の挑戦!受けて下さい!さっきのバトル見てたら俺の方もスイッチはいっちゃいましたよ!」

 

「ケン君……OK!受けて立つ!」

 

 アイの方も笑顔でそれに答えた。さっきまでの冷たいアイとはまるで違った。温もりある笑顔だった。お互いの笑顔にもう辛気臭さはなかった。

 

 

 

「なんスか。ヤタテさん一人で100人も相手に出来るかと思いましたがどうって事なかったっスね」

 

 それを見ていた少年がはすっぱな口調でアイを心配した。他にも数人の男女がいた。三人の男と三人の女が、ちなみにさっきの言葉を言ったのはその中で一番年下の少年『アサダ・ソウイチ』だ。

 

「当然だよソウイチ君。アイちゃんは僕達のリーダーなんだからさ」

 

 短髪でややゴツめの青年『ハガネ・ヒロ』がソウイチに告げる。

 

「それにしても最近はやっぱり違法ビルダーが増えたな。来月の選手権予選でも多く出てきそうって話だし、大会はどうなることやら……」

 

 眼鏡をかけた長身の青年、『ツチヤ・サブロウタ』が大会を心配する。

 

「今はまだ違法ビルダーに懐疑的な人達が多いからいいですよ……。でも増えてしまったらもっと状況は悪くなっていく事でしょうね……」

 

 仏頂面の女の子、『ミヨ・ムツミ』は今後を憂う。呟くような声が特徴だ。

 

「違法だけにマナーの悪い子も増えるだろうね~。悪ガキは撮ってても面白くないからやんなっちゃうよ。もうせ新規ならもっといい男の子入ってほしいもんだよ~」

 

 デジカメを持ったセミロングの少女、『フジ・タカコ』が言う。ムツミと彼女はガンプラを作らずあくまで付添いみたいなものだ。

 

「でも大丈夫だとアタシは思うな。色んな所の強豪ビルダーはアイみたいに違法連中と戦ってるっていうし」

 

 ポニーテールの快活そうな少女『ハジメ・ナナ』は皆にそう告げた。彼女はアイの親友。そしてムツミとタカコ以外、全員がアイのチーム『I・B』のメンバーだ。

 

「それにさ、見てよ」

 

 ナナが観戦モニターを指さすとアイとケンが楽しそうにバトルしてるのが見えた。

 

『楽しいですよ!アイさん!これが本当のガンプラバトルなんですね!』

 

『そう!自分が好きだって気持ちを表現すれば何だって楽しいはずだよ!』

 

『わかります!燃えあがれぇぇ!!』

 

「アイやああいう子を見てると何とかなるって、なんかそう思えてくるのよね」

 

 

――この夏、ガンプラバトルは変わりつつあった。ガンプラバトルというホビーを破壊しかねない変化が、だがその中でも変化を拒み、戦う者達がいた。

これはその戦う者達のうちの一かけらの物語、そして好きな物に魂を込める者達の物語――

 

 

※今回友達がジオラマを作ってくれたので使わせて頂きました。この場を借りて有難う!!


 
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