No.795719

【艦これ落語】「はてなの艦爆」

かやはさん

上方落語「はてなの茶碗」と、「例のあれ」をモチーフにした落語(みたいななにか)です。

2015-08-12 00:22:30 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1282   閲覧ユーザー数:1277

「瑞鳳がな」

「……?」

「どうしました、日向さん」

「ああ、いや、すまない。思い出したのでつい……、つまらない話だ」

「いいですよ、聞かせて下さい。午前中は非番ですから、榛名は大丈夫です」

「先輩空母のお話は雲龍も聞きたいです」

「そうか……。むかし、瑞鳳がな、明石の工房で九九艦爆をじっと見ていたことがあってな」

「九九式? ずいぶん旧式ですね」

「眉の間にこう、しわを寄せて、下からのぞき込み、プロペラを見て、翼をさわり、尾翼を見て、また下からのぞき込み、最後には腕を組んで、こう、はてな、と首をかしげて出て行ったんだ」

「確か、九九艦爆は足がいいって言ってましたね」

「足、なんですか?」

「それから五分もたたないうちにまた戻って来て、一通り見直して、はてな、と出て行く」

「不思議ですね」

「その様子を見ていた龍驤が、あの瑞鳳が目をつけたんやからこれは名機に違いない、と思ったんだろうな。うちが装備したい、と言い出した」

「旧式ですよ?」

「龍驤の気持ちはわかる。やはり、少しでもいい物を装備したい、試してみたいというのは、誰もが思うことだろう」

「ああ、わかります。特に艦載機は機体によって性能に差がありますから」

「でも、旧式ですよね」

「私もほしかった」

「はい?」

「提督に上申して装備させてもらおうとしたのだが……意見が通らなかった」

「いや先輩、装備出来ないじゃないですか」

「やはり、艦載機を放って突撃。これだろ?」

「そうかなぁ」

「そうですかね?」

「軽い旧式ならこの飛行甲板からでも飛びたてそうだと思ったのだが」

「うーん」

「どうでしょう」

「そうこうしているうちに、噂を聞きつけた正規空母の連中が私も私もと」

「先輩たち……暇だったんですね」

「まあ、あのころは……」

「明るい話題がなかったからなぁ……」

「それで日向さん。その機体は誰のものになったんです?」

「それが、わからなくなってな。龍驤は確か流星をあてがわれて、私の上申は沙汰止みに。みなも、まぁ旧式機だからと忘れてしまい……」

「長官のお耳に達して、是非見たい、なんて展開にはならなかったんですね」

「それだと、まだ鎮守府のどこかに残っているかもしれませんよ」

「どうだろうなぁ。難しいだろう」

「まぁ、ああなっちゃいましたしね」

「それで瑞鳳ちゃんは、何が気になったんです?」

「そりゃ、九九艦爆がいつの間にか航空戦艦でも装備できるようになっているわおかしいな、だ」

「えー」

「うわさの改造型、星付き艦爆だったのかもしれませんよ」

「卵の鮮度と艦載機のことは瑞鳳に聞けば間違いない、なんてお姉様は言ってましたが……。ほんとうに、気になりますね」

「そうだろ?」

「でもどうして、そんなことを?」

「ああ……」

「葛城さん、ですか?」

「……まあな。私たちには主砲があるが、艦載機がない今の状況は、空母には耐えられないだろう」

「それで、あの機体はどこに行ったんだ、と?」

「ああ」

「でももし見つかったら……装備しちゃうんでしょ?」

「もちろんだ」

 榛名と日向は同時に「ふふふ」と笑います。

「あ、私も装備したいです」

 ……と割り込むこともできず、雲龍は

「そろそろ葛城を呼んできますよ」

 と言い残し、部屋を出て行きます。

 

 鎮守府の建物はあちこちにガタがきておりまして、窓ガラスにテープを貼っているのですが、それでも割れてしまって窓枠にはりついたままぶらんぶらん。部屋のドアはいくつかなくなっていて、代わりにブルーシートがつり下げられています。廊下には砂が入ってきていて小さなつぶがキラキラ、キラキラ。

 玄関から正門へ続く並木道のあちこちにすり鉢状の穴が二つ三つ、三つ四つ。

 建物の表面には海からの塩分と削れた煉瓦の粉が混じり合ったものがはりついていて、赤錆が浮いたようになっています。舗装されていた道路の割れ目からセイタカアワダチソウが生えていて、黄色い花だけ残して真っ黒に枯れてしまっています。

 港に出ますと、沖に見える防波堤は真ん中が折れてしまっていて、赤と白の灯台がその穴をふさぐようにして倒れています。

 膝くらいまで雑草が伸びている使われていない敷地の向こう、埠頭の先の方に葛城がいました。

 両手を広げて「回せーっ!」と叫びながら、ぶうんと飛行機の真似をして駆けています。

 雲龍は

「葛城」

 と声をかけて近づこうとするのですが、なぜか、ちゃぷん、と水につかる音。

 足下を見ると、川が流れています。

 いつの間にか白い水の中にいます。

 川幅は広く、向こう岸は靄に紛れてしまっています。

 葛城の姿も、声も、すごく遠くて、わからなくなりそうです。

「そろそろみんながこっちに来ないかって言ってるよ。葛城?」

 雲龍はもう一度、「葛城」と声を掛けましたが、葛城は応えずに、そのまま向こうへ走り去って行きます。

 葛城の姿がすっかり見えなくなった後、雲龍は川を見渡して、はてな、と首をかしげます。

「穴なんてないのに、水が漏れているや」


 
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