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ジョジョの奇妙な冒険、第?部『マジカル・オーシャン』

piguzam]さん

第44話~復讐を止めろだなんて『説得』は誰にもできやしな(ry

2015-08-07 00:49:20 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6902   閲覧ユーザー数:6199

 

 

 

前書き

 

 

ぶっちゃけますと実はこの話、前の話を投稿した時には書き上がっていましたwww

 

え?じゃあ何でこんなに遅れたかですって?

 

……テへ☆

 

いや、実はもう一つ並行してISのエロ話書いてたので、それと一緒に投稿しようと思ってたんですよ。

 

そしたら……そっちが書き上がるのにこんなに時間かかっちゃいました。

 

本当に申し訳ございません。

 

ハーメルンにISのエロは投稿してますので、良かったら見てちょwww

 

 

 

 

 

 

 

 

「んがあぁぁぁ……ぐごぉぉ…………ぐふっ……ヨーコちゅわぁん……」

 

「んん……うっせぇ……むにゃ……」

 

夜、凡そ12時半といった位の時間。

俺は同室のコナンと伯父さんのイビキや寝言を聞きながら、静かに準備を整える。

昼間の服は洗濯しているので、黒の長ズボンに黒いシャツという真っ黒な格好で、黒い腕時計。

夜、人目に着き難い衣装を選んだらこうなったんだが、まぁ良いか。

そして腰にジャイロのベルトを付け、上半身にサスペンダーにホルスターを通した鉄球ホルスターver1を装着。

ちなみにこのver1はジャイロが原作冒頭で使っていたベルトでもある。

しかしこっちにはウェカピポの衛星付き鉄球をブラ下げているという矛盾だが、まぁ問題ないだろ。

更に『スティッキィ・フィンガーズ』のジッパーで上着の中にエニグマの紙にファイルした武器や役立つアイテムを収納。

 

これで、俺自身の準備は完了――そして。

 

「良い子は家でおねんねしてなさいよっと」

 

昼間の様に『天国への扉(ヘブンズ・ドアー)』の能力を使用。

コナンと伯父さんに『朝の8時まで何があっても起きない』と書き込んでおく。

まっ、一応念には念を入れてって事だ。

更にそのまま抜き足差し足で部屋から出て、その隣の部屋の扉をゆっくり開ける。

 

「スゥ……んぅ……」

 

「……((|お邪魔しま~す))」

 

スヤスヤと寝息を立てる蘭さんに聞こえない様に小声で断りを入れながら、ベットに近づく。

いや、女子の部屋に無断で入ってるのが大罪だとは俺も思うぜ?

でもさすがにそんな常識に因われて蘭さんだけ何もせずにしておいたりしてみろ?

もしも何かの拍子に俺が居ないのがバレて、そんで伯父さん達を起こそうにも起きなかったらパニック必然だ。

さすがにそんなアホな展開は勘弁願いたいので、俺は常識とモラルを無視する。

 

少し心苦しいが、すまねえ蘭さん。

 

心の中で熟睡する蘭さんに謝罪を述べつつ、コナン達にしたのと同じ様に命令を書き込む事に成功。

そのまま足音を立てない様に部屋を出て、俺は玄関を開けて外に出る。

しかしこのままじゃ鍵が掛けられないが、スタンド使いの俺には問題にならない。

扉を閉めて直ぐ、部屋の中から”ガチャリ”という鍵を締める音が鳴り、鍵が自動的に施錠される。

そして、施錠を完了したスタンドの腕を戻す。

 

「――行くか」

 

これから相対するかもしれない――いや、何としても相対するつもりの相手が殺人犯だと心に刻み、俺はスケボーに乗って爆走する。

まずは、ベルツリー近くのビルへ向かおう。

犯人の通ったルートで『ムーディ・ブルース』の力を使うのは、さすがに夜中でも怪しまれちまう。

だが、さすがにこの時間なら、ビルにも誰も居ない筈だ。

 

「今夜中に見つけ出して、素敵なブレスレット(手錠)を両手に掛けてもらえるホテルにエスコートしてやんねーとな」

 

今夜中に片を付けて終わらせようと心に誓い、俺は闇夜を切り裂き続けていった。

やがて目標のビルに到達し、そのビルの側面を回って辺りを調べる。

何故、ビルの屋上じゃなくて周辺なのかと言えば、まずは警察や一般人の確認だ。

これに関しては、『エアロスミス』のCO2レーダーがとても役に立つ。

周囲の人間の数だけでなく、排気ガスに含まれるCO2を探知できるから、この周辺を見張ってる車がないかも確認できる。

確認した所、周囲に人影も車も無し。

更に監視カメラの類も無いから、これで遠慮なしに捜査できる。

 

「さぁ、『ムーディ・ブルース』。来い」

 

ズギュゥン。

 

俺の傍に現れたムーディ・ブルースを伴いながら、俺が地面を良く見て”ある痕跡”を探す。

さすがにあれから1日経ってるからもう消えちまったかもと思ったが……。

 

「……あった……オフロードタイヤの痕だ。しかも真新しい」

 

運良くそのタイヤ痕を見つけた俺はその後をライトで照らしながら追い進む。

こんな人気の無い場所に、しかも狙撃地点のビルの側に犯人の乗っていたオフロードバイクと同じタイヤの痕。

これなら逆に偶然の方が天文学的な確率だろうよ。

犯人に繋がる証拠を追い進み、遂にタイヤの痕が途切れる。

つまり、ここがバイクの発信場所って訳だ。

 

「場所は特定完了。時間もキッチリ覚えてるしよぉ……何処までも追跡するぜ」

 

カシャ。カシャカシャカシャ。

 

俺の言葉に従って動き始める、ムーディ・ブルースの額のタイマー。

タイマーの数字は、年数に月日にち、そして時間を秒単位で表している。

そして、昨日の狙撃があった時間から少し経ったぐらいの時間を示した時、ムーディ・ブルースは姿を変えていく。

夏場だというのに厚手のオリーブドライのジャケットに黒手袋。

そして強盗なんかで使われる目出し帽を被った犯人……等々会えたな。

 

「ムーディ・ブルース。一時停止(ポーズ)だ」

 

ピタリ。

 

俺の命令に従い、犯人に変身したムーディ・ブルースが動きをストップさせる。

これは間違いなく犯人の一人……そして、バイクに乗って逃げていた体格の良い方の奴だ。

俺の目の前でバイクに跨る様なポーズで停止した目出し帽を被る犯人の背中には大きなバックが背負われている。

 

「恐らく犯行に使用されたライフルだろうな……まぁ、それはどーでも良い」

 

俺はバッグの中身に検討を付けて直ぐに思考を切り替え、ムーディブルースが変身した犯人の目出し帽に手を掛ける。

 

「……いよいよ、感動の御対面って奴だな……その面、拝ませてもらうぜ」

 

目出し帽に手を掛けたまま軽く深呼吸を二、三回。

グッと腕に力を込めて、俺は犯人の被った目出し帽を勢い良く剥ぎ取り――。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

定明の居たビルから場所は変わり、ベルツリータワーの近辺を流れる隅田川付近。

その廃屋の様に古びたマンションの一室に、ポツンと小さな光が灯っていた。

まるで外界から切り離された様な暗闇に灯る小さな光は、そこに取り残された哀れな存在を思わせる。

 

「……」

 

その部屋の中で、やせ細った白人の男性は机に腰掛けて日記を綴っていた。

彼の名はティモシー・ハンター。

今世間を騒がせているベルツリータワー狙撃事件の重要参考人として、警察とFBIが血眼で探している人物である。

静寂が支配する世界にペンを動かす音のみを立てながら、彼は日記に”現実には無い出来事”を書き綴る。

 

ここで書き綴っている現実に無い出来事とは、妄想やファンタジーな出来事の事……という訳では当然ながら無い。

 

彼が書いているのは相方――つまり共犯者への捜査の目を別に向けさせる為のカモフラージュだ。

本来の彼等の計画通りなら、昨日の逃亡劇の最中に合流する手筈は無かった。

そうした所で彼等にメリットは殆ど無く、逆に単独犯と思わせた方が捜査妨害にもなると思っての事。

日本の警察は凶悪犯であろうと安々と銃を撃つ事が出来ない。

ましてや市内を走行中なら尚の事である。

撃てない相手など、邪魔する存在は”誰であろうと殺す”という覚悟を持った相方には者の数では無いと思っていた。

 

 

 

しかし、二人の目論見は第三者の介入によって悉く外れてしまう。

 

 

 

こちらの逃走経路を先回りし、まるで狩場に追い込まれるのを待っていたかの様に、逃走中だった相方を狙撃してみせた謎の敵。

その鮮やかな狙撃術と言ったら、走行中の相方が手榴弾のピンを抜こうとしていた指だけを吹き飛ばすだけに終わらず。

ハンドガンの側面を撃って手から弾き、トリガーのみを圧し折るという――嫉妬すら覚えさせない神業を披露してくれた。

これがショーパフォーマンスなら1万ドル払っても見たいと思わせる絶技ではあったが、誰も出張パフォーマンスは頼んでいない。

 

自分達の復讐劇をメチャクチャにしてくれたというのに、その技が金を払ってでも見たいと思わせられるとは。

 

半ば諦めの境地の様な心境に浸る自分を嘲笑うかの様に、ハンターは心中で自嘲し、口元に被虐的な笑みさえ浮かべてしまう。

だが、自分達は、いや自分はもう止まれない。止まる事は許されない。

既に自分の復讐とは関係の無い男を、この殺人劇の主役としてキャスティングしてしまっている。

スカウトしておきながら、劇を監督の独断で中止する事は出来ないのだ。

自分達の計画が狂い始めて漸く、戸惑いの心を持ったハンターだが、相方はそうはいかない。

既に先の狙撃で指を失うも、相方はこの殺人劇の幕を下ろすつもりは毛頭無いのだから。

なら、自分はそれに付き合う義務がある。

彼をこの薄暗い鬼の道へ引きずり込んでしまった責任がある己には――降りる資格は無い。

ハンターは頭に過ぎった考えを忘れようと頭を振り、日記の続きを書く。

 

『奴は……いや、この場合は”奴等”というべきだが、一体何者だろうか?何故、俺の獲物である藤波を殺したのか、考えられるのは俺に対する挑発。そうとしか思えない』

 

日記の冒頭にはそんな文面が英語で綴られている。

まるで、”自分は単独で行動している”と言わんばかりの文面。

 

『俺の獲物を横取りし、俺に罪を擦り付けて逃げたあの男達。一人は指を吹き飛ばして気が晴れたが、次は邪魔させない。次の獲物こそ、確実に俺が仕留めてやる』

 

そして、自分の相方である男を”自分が撃ったかの様に”書き綴られる日記の内容。

これこそが、ハンターが謎の狙撃手の存在を利用する事を思い付いた罠である。

今朝のニュースで既に自分の存在が露見している事を知ったハンターの行動は素早かった。

療養中の相方に連絡を取って計画を練り直し、次の段階へのシフトを早める為の打ち合わせ。

その決行の時間を決めたハンターは計画の時間まで息を潜め、今正にその罠を仕掛けている。

 

ニュースを見て、あの場で相方を狙撃した狙撃手の情報がメディアに流れていないという状況を利用したカバーストーリー。

 

その狙撃手の犯行をあたかも獲物を横取りされた自分の仕業に見せかけ、本当の犯人である自分達から目を逸らすブラフだ。

幸いにして、警察はまだ自分達は愚か、その謎めいた狙撃手の詳細すらも掴んでいない。

即ちこの3人の中で唯一存在が露見しているティモシーハンターの存在は”単独犯か複数犯かの違いすら判明していない”という事になる。

だからこそ、この日記を綴る事に意味があった。

 

少しばかり修正した計画では――”明日には警察がこの日記を発見する”のだから。

 

自分の相方が、自分の代わりに復讐を遂げてくれた後に、安全に暮らせる様にする為の細工。

その仕込みを9割終わらせたハンターはペンを置き、机の上に立てかけてあった写真立てに目を向ける。

まだ、自分が全てを失う前に撮った家族の写真には、今は居ない最愛の家族が微笑んでいた。

生涯を愛せる男性と出会って婚約を果たした、幸せいっぱいの微笑みを浮かべる妹。

戦場帰りの自分を優しく暖かい愛で包み込んでくれた生涯にただ一人の妻。

その二人の写真を見て、ハンターは口元に笑みを浮かべながらおもむろに立ち上がる。

 

「……二人共……もうすぐ……俺も、逝くよ」

 

天国に居るであろう家族に届かぬ言葉を呟き、ハンターはベットに乗せていた愛銃を手に取る。

ナイツアーマメントのユージン・ストーナーによって開発されたセミオート方式のスナイパーライフル、SR-25。

そのネイビー・シールズ採用のカスタムが施された、通称MK-11は、ハンターが戦場に居た頃から命を預けていた相棒だ。

月明かりを受けて鈍く黒光りする愛銃を握りしめながら、ハンターは写真から目を離す。

”最期の仕事”を完遂させる為に、自分はこれから――のだ。

 

 

 

そして、生涯を地獄で生き抜いてきた男、ティモシーハンターは”覚悟”を決める。

 

 

 

憎き男が刻んだ、自分を苦しめる呪縛から解き放たれる為に、彼は窓に背を向け――。

 

 

 

 

 

『オラァアッ!!!』

 

ドゴォォオッ!!

 

 

 

 

 

突如、”不可視の力”に殴り飛ばされ、背中から机に激突した。

 

「――ごぉはッ!?」

 

まるで、大リーガーの豪速球を腹に受けたかの様な重く、鈍い衝撃だと、彼は思った。

そして背中越しに感じる、激突した机の固い感触と、その机にめり込む自分の体。

一体、何が起こった?

唐突過ぎる衝撃を受けて腹の中身がシェイクされる不快感。

 

 

そして、全身に奔る激痛に目がチカチカする中、彼は確かに見た――。

 

 

 

「挨拶は刺激的に、そして唐突に、の方が良いよなぁ?ン~?……あんなにイカした挨拶カマしてくれやがったんだからよぉ」

 

 

 

┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛┣゛……

 

 

 

この狭い部屋の中で、息苦しい程の”スゴ味”を発しながら――。

 

 

 

何時の間にか自分の部屋に入り、闇夜に紛れていた少年の目に――気高くも美しい、”ダイヤモンドの様な輝き”を。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

ランプの明かり一つしかない薄暗がりの部屋の中。

無防備な腹部に『スタープラチナ』の一撃を受けたハンターは腰を下ろしながらも、侵入者である俺に鋭い視線を向けている。

どうやら俺の挨拶、気に入ってくれたみてーだな。結構だぜ。

静寂が支配するこの部屋の中でハンターの荒い呼吸を聞きながら、俺は奴を注意深く観察する。

 

「ハァ、ハァ……何故、ぐっ……ここが……」

 

「ん?こーいう場合の定番は、『お前は誰だッ!?』じゃねぇか?」

 

「ぐ、げほっ……そんな言葉は必要……ない……俺の前に立つなら……ハァ、ハァ……敵、だからな……ッ!!」

 

「……なるほど。そりゃそうか」

 

俺と同じく注意深く俺の動きを鋭い視線で観察するハンターの言葉に納得してしまう。

元が付くとはいえさすがは軍人。

相手が正体不明の子供でも、注意は怠らずって訳だ。

例え強く無くとも、こっちを舐めて油断しまくってた月村祐二よりも厄介かもな。

 

「まぁさっきの質問の答えだが……教える必要は無いだろ?……俺達は敵なんだから」

 

「…………違いないな」

 

俺の言葉に流暢な日本語で答えながら、ハンターはベットに投げ出されたライフルにチラリと視線を送る。

当然、それに気付いた俺は油断する事無く、奴を見据えて直ぐに動ける体勢をとる。

俺の意識が伝わったのか、傍に浮かぶスタープラチナも半身の状態で構えている。

 

数十分前、ビルの傍で狙撃犯の素顔を確認した俺は、次にハンターを探す事に決定していた。

 

何故なら『隠者の紫(ハーミット・パープル)』の念写で探したハンターのアジトが、割と近くだったからである。

狙撃犯の事も大事だが、近場に居るのなら先にハンターを倒した方が効率的だろ。

昼間を避けて夜に動いたのは、誰かに目撃される可能性を減らす為。

その狙いも当たったお陰で、俺は心置きなくこうして姿を晒せるって訳だ。

そして写真に映し出されたこのビルのこの部屋を探し当て、銃を持っていたハンターに先制攻撃を仕掛け、今に至る。

 

「……ハァ……ハァ」

 

と、ここまでの過程を思い返す俺の目の前で、ハンターは衝突した机からゆっくりと後ろ側に動いていた。

その動きはカタツムリの様にノロく、息も絶え絶えなハンターがもう派手に動けない事の現れでもある。

 

「オイ。妙な真似はするんじゃあないぜ……それ以上動いたら、さっきの倍を即座に叩き込む」

 

「ッ……」

 

「断っておくけどよぉ。俺は暴力大好きって訳じゃあねーんだ……でも、アンタが妙な動きをしたら止める為に、殴るしかねーんだよ」

 

だから動くな、と言葉にしつつ、ハンターを見つめる。

身体に残るダメージが、俺の言葉が偽りじゃないというリアリティを持たせたんだろう。

ハンターは苦しげに息を吐きながらも、体の動きを止めた。

正直な所、手加減したとはいえスタープラチナでブン殴られて意識を保っていられるとは思わなかった。

普通なら気絶するぐらいの威力で叩きこんだんだが――。

 

「ク、クク……クハハ」

 

「……何笑ってやがる?何かおかしいか?」

 

この緊迫した状況にはそぐわない、ハンターの楽しげな笑み。

俺は眉間に皺を寄せながら問いかけるが、ハンターそんな俺をニヤリと笑って見つめるだけ。

……まさか頭がイカれちまったのか?……いや、この笑い方は……違う……何かが違う。

諦めの自棄になった笑みでも、自嘲する笑みでもない。

そういった、負の感情の笑いとは決定的に違う。

 

 

 

そう、これは――。

 

 

 

「クク……どうやってここを嗅ぎ付けたかは知らないが……少し、遅かったな」

 

 

 

自分の勝利を確信した笑みだ。

 

 

 

「そりゃどういう意――」

 

 

 

ドォンッ!!!

 

 

 

奴に言葉の意味を問い掛ける寸前、不意に聞こえた刹那の銃声。

その銃声の発生源はこの部屋では無く、この部屋の唯一のベランダの向こうからで――。

 

ズドォッ!!

 

「っ――」

 

銃弾は――”ハンターの眉間を食い破り”、俺へと迫って来ていた。

 

「――なッ!?」

 

『オオォラァッ!!』

 

突然過ぎる攻撃に身体は硬直するが、スタープラチナの方は何とか動いてくれた。

これもプレシアさんと戦って得た、戦いの経験のお陰だろう。

硬直して動けない俺の体に迫る弾丸を見据え――。

 

ギュルウゥンッ!!

 

そのライフル弾を指で掴み、スタープラチナは攻撃から守ってくれたのだ。

そうして自分の体が生命の危機から脱した瞬間、俺はハッとなって正常な意識を取り戻す。

 

――目の前で頭部を打ち抜かれ、無残な死体となったハンターの姿。

 

普段の俺なら動揺して何も出来なかっただろう――だが、今は違う。

米花町に来た時に、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)を使って自分に掛けた暗示。

どんな状況でも冷静に行動できる様に死体を見ても平常心を失わなくなった俺は、直ぐに自分の使うべき能力を選ぶ。

撃たれてから、まだ凡そ”3~4秒しか経ってない”――まだ、間に合うッ!!

 

「『マンダム』ッ!!」

 

ほぼ叫び声で呼び出した俺の言葉に反応して、肩に覆い被さるタコのような姿をしたスタンドが現れる。

名は『マンダム』、スティール・ボール・ランにおいて、リンゴォ・ロードアゲインという人物が使っていたスタンドだ。

俺はマンダムの名を呼ぶとほぼ同時に触っていた”腕時計の秒針ツマミを戻し”、自分の中の能力発現のための精神的スイッチ(きっかけ)を入れる。

 

 

 

キュルル――カチッ。

 

 

 

秒針を戻すと”スイッチ”が発動、マンダムは能力を発現し――。

 

 

 

「クク……どうやってここを嗅ぎ付けたかは知らないが……少し、遅かっ――え?」

 

 

 

――今の出来事は全て、”6秒前に巻き戻る”。

 

 

 

目の前で呆然とする”ティモシー・ハンター”の言葉を聞かず、俺は直ぐに動いた。

自分の身体を射線の外にズラしつつ、再び弾丸が発射される前に――。

 

『オーーラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!

 

「ぐばがあぁぁッ!!?」

 

スタープラチナのラッシュで、ハンターをベランダから影になっているベット側に殴り飛ばす。

その直ぐ後に窓の向こうから通過する一発の弾丸。

しかしそこには既に獲物はおらず、スタンドであるスタープラチナを只の弾丸が捉える事も無い。

目標を見失った弾丸はベランダの窓を破り、部屋の壁に弾痕を刻むだけの結果となった。

 

「……~~~ッ!!フゥ……ッ!!タマげた……あんなの有りかよ……ッ!?まさか仲間を撃つとは……ッ!!」

 

一瞬でハンターが死んだ衝撃的な出来事だったが、それも何とか片付いて、俺は大きく息を吐く。

まさかこの場所で狙撃されて、しかもハンターの額越しに弾丸が襲ってくるなんて予想できる訳が無いっての。

天国への扉(ヘブンズ・ドアー)の効力のお陰でそこまでパニックになってはいないが、それでも予想外に過ぎる。

マンダムの能力が無かったらと思うとゾッとするぜ。

 

――マンダムの能力は、簡単に言うなら”6秒間だけ時間を巻き戻す”という能力だ。

 

しかも時間を巻き戻すという事はそれ即ち、射程距離内における全ての物体の状態も元に戻るという事。

肉体や物体の状態・動作も発動した6秒前の状態に戻り、限定的だがさっきの様な死者を蘇生させるなんて荒業も使える。

だが、記憶だけは巻き戻されずに6秒前に飛んでもそのまま残っている。

その特性を応用すれば、原作でリンゴォがした様に、果樹園なんかの目印が無ければ迷う様な場所を永遠に彷徨わせる事も可能だ。

本当はベルツリーでも使えれば良かったんだが、アリサの手伝いとすずか達を守るのに意識がいってて、藤波が死んでから6秒以上経っちまってたからなぁ。

っと、過去の事を振り返るのは後回しだ。

俺は殴り飛ばしたハンターの側に駆け寄り、壁にめり込んだハンターがしっかり気絶している事を確認。

いくら軍人とはいえ、さすがにスタープラチナのラッシュは堪えたらしい。

しかし、このハンターって野郎……まるで自分が撃たれる事が分かってた様な口ぶりだったが……。

 

ブォンッ!!ブオォオンッ!!

 

「あの音は……まさか――」

 

その時、外から聞こえてきたバイクの音を聞いて、俺は直ぐ様スタープラチナの超視力で外を見る。

この部屋のベランダから真っ直ぐの直線距離。

凡そ150メートル程の距離に浮かぶ作業用台船であるフロート船の傍の陸地に、それは居た。

 

ブォンブォンッ!!ギュアァアアアアァッ!!――コオオオオォォォォォォ……ッ。

 

しかしその場に止まっていたのも少しの事。

この部屋を外から狙撃したハンターの仲間は、バイクの甲高くも小気味良いサウンドを響かせて逃走を開始していた。

 

「くそっ。まさかこの部屋を狙ってる奴が居たとは……何でこんな都合良く、俺を狙えたんだ?」

 

俺はここまで誰にも正体を悟られずに行動してきたつもりだ。

証拠をなるべく残さず、俺に繋がらない様に。

だが、今の狙撃は明らかに外に待機していた別の仲間がこの部屋を狙っていた。

しかも逃走用のバイクまで準備した段取りの良さ。

どう考えても俺が来るのを予期していたとしか思えねえんだが――。

 

「ぐっ……うぅ……」

 

っと。今はそんな事を考えてる場合じゃねえな。

急いで奴の後を追って、倒しておかねえと。

ハンターの呻き声が聞こえて意識を切り換えた俺は、直ぐにハンターに駆け寄る。

 

「万が一、死なれちゃ困るからな……こいつの傷を治せ。『クレイジーダイヤモンド』」

 

ズギュウンッ!!

 

俺の呼びかけに応じて現れたクレイジーダイヤモンドが倒れたハンターに手を触れると、ハンターの傷が見る間に塞がっていく。

そのお陰か、気絶しているハンターの呼吸も安定してきた。

 

「そんで、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)。蘭さん達と同じ様に、”朝の8時まで何をしても何があっても起きない”と……これで良し」

 

傷を治したは良いが逃げられました、なんてオチじゃ洒落になんねえよ。

とりあえず朝8時まではこの部屋に身柄を確保できたのでOK。

俺は廊下に隠してあったスケボーを持ってベランダから飛び降り、スタンドの足で衝撃を和らげながら地面に降り立つ。

その際、割れたガラスはクレイジーダイヤモンドで治しておくのも忘れない。

これであの部屋は外から見ても異常は無い様に見えるだろう。

俺はスケボーを使ってもう一人の犯人がバイクで逃げた場所に向かい、手から紫の茨を生やす。

 

「逃がしゃしねえぞ――隠者の紫(ハーミット・パープル)ッ!!」

 

バシバシバシッ!!

 

地面に触れる俺の手から伸びた隠者の紫(ハーミット・パープル)が、砂を掻き集めて奴の居所を地面に念写していく。

 

奴は間違い無く、俺の顔を見てる筈だ。

ここで逃がしたら、俺が圧倒的に不利になっちまう。

 

「スナイパー相手に顔晒したまんまなんて、冗談じゃ無え。俺の平穏が遠のいちまうぜ」

 

人の考えが及ばない超常現象を起こすスタンド能力だが、全てのスタンド能力に共通する『弱点』というものがある。

それは偏に『スタンド使いはスタンド程強くない』という弱点に他ならない。

俺だって例に漏れず、24時間常に気を張って襲撃に備えるなんてタフな精神は持ちあわせて無え。

だからこそ、正体を知られた可能性がある今、絶対に奴を逃がす訳には行かねえんだ。

 

バシバシバシッ!!

 

隠者の紫(ハーミット・パープル)の描いた砂の地図上。

縦横無尽に奔る道を、犯人は車間を縫う様にして駆け抜けていく。

しかし、今も奴が走っているルートから、目的地を逆算する事は可能だ。

それに俺が何時まで経っても追ってこないからか、速度を目立たない様に落としてやがる。

このままのルートでこの程度しか離れてねえなら――どうにでも出来る。

俺はスケボーを抱えたまま走り、目の前の隅田川に飛び込む。

勿論、阿笠ハカセご自慢の機能である水上モードを起動したスケボーを先に着水させ、その上に乗り込んでアクセルを踏み込む。

後部ロケットの部分から吹き出した風がスケボーを進ませ、LEDフラッシュライトが行く先を照らす。

中々にリスキーなバランス感覚だが、一度慣れちまえば問題ねえぜ。

 

「さあて、奴はどこだぁ?」

 

河を猛スピードで爆走しながら、隠者の紫(ハーミット・パープル)で念写した奴の位置を思い出しつつ、周辺の橋を見渡す。

逃走する速度を上げる為か、犯人のバイクはマフラーが変えてあった。

あの独特な音ならそう聞き間違える事も無えが――。

 

コォォォォォォ……ッ。

 

「ん?」

 

と、目の前の橋の向こう側から微かに聞こえてきた音に耳を澄ませる。

音は段々と上がり、こちらに向かってきていた。

 

「……この甲高く耳に残るエキゾースト……追い着いたみてーだなぁ……ッ!!」

 

間違いない。奴のバイクの音だ。

標的に追い着いた俺はニヤリと笑みを浮かべつつ、スケボーを急旋回。

最大スピードで、対岸の岸へと向かう。

やがて、奴のバイクが橋の向こう側から現れ、水上の俺を追い抜いて橋の終わり際まで向かう。

そんな中俺はスピードを緩めずに橋の向こう側、つまり犯人の逃走経路を睨み――。

 

「飛ばせッ!!『ゲブ神』ッ!!」

 

ザパァアアアアッ!!

 

水を操るスタンド、ゲブ神の手の形をしたスタンド像にスケボーの真下の水面を持ち上げさせ、大ジャンプを敢行する。

そのまま橋の柵を飛び越えて、奴のバイクの真後ろにローラーを出して着地。

ここでやっと犯人は俺の事を視認した。

ヘルメットと目出し帽の所為でその顔は見えねえが……驚いてるってのは丸分かりだぜ。

 

「ッ!?ッ!!」

 

「逃がすかよぉッ!!待ちやがれッ!!」

 

俺の姿を認識した犯人は即座にバイクを加速させて俺を引き離しにかかる。

当然それを見逃す筈も無く、俺もスケボーを思いっ切り加速させ始めた。

体感的には多分85kmは出てるだろう。

 

「ッ!!」クオォオオオオオオッ!!

 

「ぐぅ……くそ……ッ!?やっぱノーヘルでこの速度はキツイか……ッ!?」

 

しかし向こうは腐ってもバイク。

更にフルフェイスヘルメットで顔を完全防備している犯人は風の抵抗なぞお構い無しに速度を上げていく。

一方で俺は顔を何も防御してねーからかなり息苦しいし、目を開けるのでやっとだ。

コレ以上はさすがに飛ばせねぇぞ。

 

「ちっ。完全防備だからってガンガン飛ばすんじゃねぇよ……ッ!!」

 

聞こえないとは分かっていても、悪態を吐かずにはいられない。

そうやって数十キロの差が如実に現れ、犯人のバイクはドンドンと離れていく。

このままじゃ何時かは振り切られてゲームオーバーだ。

いや、それか持久戦にでもなったら、スケボーの充電が先に尽きてしまう。

従ってこの脇道の無いストレートで引き離されたら終わりって事になる。

 

 

クソッタレ。これ以上はもう――なんて言うと思ったか?

 

 

 

「今夜の俺はしつこいぜ……脂ギットギトのとんこつラーメンよりなぁ――『ウェザー・リポート』ッ!!!」

 

ゴロゴロゴロゴロ……。

 

さっき以上に口元を吊り上げた笑みを浮かべて、俺はウェザー・リポートを喚び出す。

俺の目の前に突如現れたウェザー・リポートはゴロゴロと雷音を撒き散らしながら、目の前の空間に向かって拳を振るう。

すると、その拳を中心として”雲が唸りながら俺の周りに浮かんで”強風が受け流されていく。

さっきまで感じていた息苦しさを解消され、俺はポケットに手を突っ込んでミン○ィアHurdのケースから中身を2粒出した。

それをそのままポイと口に放り込み、ガリガリと噛み砕く。

 

「――~~~~ッ!?……かぁ……辛え……ッ!?」

 

ケースのロゴに使われている炎の如く、俺の口の中を燃やし尽くさんばかりの辛味。

その舌に奔る痛みに若干涙目になりながらも、俺は前を睨む事を止めない。

 

「こんな辛え眠気覚ましを飲む羽目になるたぁ……この怒り、あの野郎に叩き込んでやる」

 

距離にして凡そ50メートルは離れてしまった犯人の後ろ姿を睨みながら、アクセルを更に踏み込む。

そうする事でスケボーは俺の限界を超えた速度を出す――が、俺はさっきまでの様に苦しむ事は無かった。

そのままスケボーは加速を続け、遂に体感時速90kmをマーク。

さっきまで離れていた犯人の直ぐ側に到達した。

 

「ッ!?」

 

「YO!YO!YO!逃がさねぇっつたろぉがぁッ!!」

 

ミラー越しに俺の姿を確認した犯人は一度振り返って更にバイクを加速させるが、俺はそれに引き離されずに追い縋る。

風の抵抗を感じている犯人と違って、俺は殆ど風の力を感じていない。

ウェザー・リポートで周囲の空気の層を操り、『風圧のプロテクター』を作って風を鋭角の形で外向きに流しているからだ。

解りやすく形にするなら、俺の前方からソフトクリームのコーンの形をした空気のバリアがあるって感じだな。

奴のバイクよりも風の抵抗を受けなくなったお陰で、距離がグングンと縮んでいく。

 

「~~~ッ……ッ!!」

 

ドンドンドンッ!!

 

暫くそうやってケツに張り付いていると、どれだけ飛ばしても俺が離れないと思ったらしく銃を取り出す犯人。

尤も、右手の人差し指は俺が抉り取ってるので、左手で構えているんだがな。

それを間髪入れずに連続で発射する犯人。

 

ギュオォオオオンッ!!

 

しかし、発射された弾丸は俺の目の前に浮かぶ雲の層に阻まれ、俺から離れる様に見当違いの方向に向かってしまう。

 

「ッ!?」

 

「ハッ!!ン~な豆鉄砲が効くかぁッ!!貧弱貧弱ぅッ!!!」

 

弾丸が風のプロテクターに阻まれて不規則な弾道で逸れた事に驚愕する犯人を見ながら、俺は何時にも増して小馬鹿にした様な台詞を吐く。

俺やアリサ達の楽しい夏休みを台無しにした犯人を良い様にあしらう楽しさが、俺を何時もよりハイテンションにしちまってるんだ。

これは氷村達をボコボコにした時の高揚した感覚とも似ている。

すると、俺の笑みとさっきから起こる不可思議な状況に恐怖を覚えたのか、犯人は俺を振り切ろうと無理にバイクを横に倒す。

下手すると転けるかもしれねえってのに、犯人はバイクを起こさず無理な速度で横に見えた港のコンテナ置き場に逃げようとしている。

あぁ、分かるぜ?どんな人間でも見えないってのは怖えよなぁ。

そうまでして俺から逃げようとする哀れな犯人を――逃すつもりはこれっぽっちも無いがね。

大体、2メートルぽっちなんて少し離れたぐらいで”コイツ”の『射程距離』から逃げられると思ってんのか?

 

「そこんとこ、”お前”はどう思うよ?」

 

『フム、正ニ犬モ食ワネェ”クソオチ”ッテヤツジャナイデショーカ?』

 

「くくっ。違い無え」

 

俺の側に浮かぶ、俺よりちょっとだけ背が高いくらいの小さなスタンド。

”ソイツ”は俺の隣で空中に胡座をかきながら座りつつ、問いかけに答える。

衣服と呼べる物は腰巻きのみ。

顔を正中線に沿って配置されたランプの様な突起がデザインされたシンプルなヴィジョン。

 

 

 

――そして、”成長した己を示す腰巻きの『3』という数字”が唯一にして一番のアクセントになっている。

 

 

 

嘗て”杜王町での戦いの中で危機を乗り越える度に成長を遂げた”スタンド使い、『広瀬康一』のスタンド。

 

 

 

『所デ、定明サマ。ソロソロアノクソッタレナバイク野郎。”止メチマッテ”モ良イデショーカ?』

 

「あぁ、良いぜ――カマしてやれッ!!『エコーズ・ACT3』ッ!!!」

 

『OK!!MASTER!!LET'S KILL DA HO!! BEEETCH!!』

 

口汚さでは『スパイス・ガール』にも並ぶパワー型スタンド、『エコーズ・ACT3』だ。

ACT3は俺の命令に従い、口汚い罵りを犯人にぶつけながら”構え”を取る。

両方の手のひらをビシッと伸ばした貫手のまま、右手を顔より少し上に。

そのまま左手を突き出した構え。

その構えから右手を真っ直ぐに伸ばした左手の手の平と合わせ、水平に寝かせる。

更にその手を180度捻じり、対象に向かって照準を合わせ――。

 

『――必殺ッ!!『エコーズ・3FREEZE』!!!』

 

ドババババババババババッ!!!

 

その拳法の様な構えを維持したまま飛び上がり、”犯人のバイクの前輪”にラッシュを叩き込む。

そして、最後のラッシュが叩き込まれたと同時に――。

 

ズズンッ!!!!!

 

「ッ!!?」

 

犯人の乗ったバイクの前輪が中程まで地面にめり込み、急制動を掛けてしまう。

これがACT3の能力。

『3FREEZE』という、ACT3が殴った物を『重く』してしまう能力だ。

その重さは本体と対象の距離で変わり、本体が対象に近づけば近づくほど、対象に掛かる重みは増すという凶悪さを持つ。

今回はその能力で犯人のバイクのフロントホイールを重くして、地面にめり込ませたって訳だな。

いきなり働きかけた慣性の法則により、犯人はまたがっていたバイクから放り出され空高く飛び上がって……あ。

 

ドボーーーンッ!!

 

豪快な水飛沫と音を立てて海へと投げ出されてしまった。

飛び上がった犯人を追っかけていた俺は直ぐに犯人の落ちた付近の堤防に止まる。

 

「やれやれ。まさか水の中に落ちるとは……」

 

『スイマセン、定明サマ。野郎ノブッ飛ブ先ヲ考エテマセンデシタ。S・H・I・T』

 

「いや。地面に叩き付けられてミートソースになんなくて良かったぜ」

 

『ソレモソーデスネ。汚エモンブチ撒ケラレタラ、ソージノオバチャンモ堪ンナイデショーカラ』

 

水柱の立った海面を見ながらACT3と会話を続ける俺。

こんな事してたらまた犯人に泳いで逃げられるかも……なんて心配はご無用。

今は夜で、しかも監視カメラも無い場所なのは確認済み。

 

バッシャァアアアアンッ!!

 

「なら別に、ゲブ神で釣り上げても問題は無え」

 

「うわぁああああああああッ!!?」

 

『ナルホド。ゴ尤モデス』

 

ドシャアッ!!

 

「ぐはッ!?」

 

再び海面から出てきた水柱と、その水に押し飛ばされてコンテナ置き場に落ちる犯人を見ながら呑気な事を言う俺とACT3。

2メートル程の高さから落ちて変な悲鳴を挙げる犯人を正面に捉えて、俺は犯人と距離を詰める。

既にACT3は解除して、この場で対面しているのは実質俺と犯人だけだ。

俺はゴホゴホと咳き込む犯人を見下ろしていた。

 

「ゴ、ゴホッ!!ゴホッ!!うぅ……ッ……」

 

月明かりが雲で隠れて暗くなる中、両手をポケットに突っ込んで立つ俺と、四つん這いで俺を見上げる目出し帽を被った犯人。

どうやらヘルメットは海の中で脱いだらしいな。

辺りには遠くで走る車の音しか聞こえない、静かな空間。

その中で、俺は自分から犯人に話しかけた。

 

「こんな状況でも喋らねえのは凄えけど――もうアンタが誰かは知ってるぜ?」

 

「なッ!?」

 

「あぁ、先に断っとくけどハンターがバラしたんじゃねえからな?奴は何も言わなかったよ」

 

シュピンッ!!スパッ!!

 

「ッ!?」

 

「まぁ……初めまして。だな?」

 

俺は『銀の戦車(シルバーチャリオッツ)』で犯人の目出し帽を斬り、最後のヴェールを暴く。

突然顔を隠すマスクが切れて驚く犯人だが顔を隠す前に、雲がずれて差し込んだ月明かりの元に、今まで見えなかった”男”の顔が顕になる。

丸坊主の黒髪に、右の眉毛辺りを横断する小さな裂傷の傷痕。

暗い殺意を孕んだ灰色の鋭い瞳で俺を見つめる双眸に、歯を食い縛った怒りの表情の顔という出で立ち。

俺はその殺意を真っ向から浴びながら、真剣な目で”奴”を睨む。

 

「ケビン・吉野さん、よ」

 

「……」

 

名前を言い当てた俺に対して、依然変わらない殺意を叩きつける吉野。

まぁ、この状況でにこやかに応対されたらそれこそ異常な訳だが。

俺を睨む吉野の視線を受けながら、俺は調べあげたこの男のプロフィールを思い出す。

 

ケビン・吉野。

 

元海兵隊2等軍曹で、現在は32歳。

右眉の端に傷がある日系アメリカ人の男性で、現在は東京・福生で米軍払い下げ品のミリタリーショップを経営している。

かつて中東の戦闘でハンターに何度も命を救われたことがあり、彼を「ティム」と呼んで慕っている程に仲が良い。

警視庁のパソコンに保管されている『ベルツリータワー狙撃事件に於ける、ティモシーハンターが頼る可能性のある人物』のリストに載っていた人物。

吉野の顔をムーディ・ブルースのリプレイで見てから警視庁のパソコンにハッキングを掛けて知った事だがな。

事情聴取には横柄な態度で応じるも、ハンター犯人説については納得してない様子だったそうだ。

民間人に対する発砲もでっちあげだと怒りに燃えた様子で語っていたらしい。

まぁ、ハンターに対する恩はかなり感じてんだろう。

何度も自分の命を救ってくれた恩人の復讐の手伝い……積極的に協力したのは間違い無い。

どっちみち、この吉野って男がハンターに手を貸した理由なんてどーでも良いがな。

 

「……何故だ……」

 

「あ?」

 

「何故、お前は……”俺達”の復讐を邪魔しやがる……ッ!!」

 

と、吉野の人物像を思い返していた俺の耳に、その本人が発する殺意に満ちた声が飛び込んできた。

訝しい顔でそれを見る俺と、憎々しげに俺を睨む吉野。

しかし”俺達”の、とはどういう意味だろうか?

 

「お、お前が不思議な力を使う事は分かった……ハァ、ハァ……恐らく……HGS患者なんだろう?それもPケース級に強力な……多分、昨日俺の指を吹き飛ばしたのも……だが、何故邪魔をする……ッ!!俺達が誰を殺そうと、お前には関係な――」

 

ズドンッ!!

 

「うげあッ!?」

 

何やらグチャグチャ言い出した吉野の地面に着いた右手を、俺は力の限り踏んづける。

ボキボキとポッキーの様な音を立てて簡単に圧し折れる吉野の指。

痛みに呻く吉野を見下ろしながら、俺は無表情で言葉を紡いだ。

 

「アホ言ってんじゃねえ……確かに、テメェ等が復讐の為に誰かを殺そーとすんのは否定しねーぜ?」

 

「あ、あぁがぁ……ッ!?ぐっ、う、うぅ……な、なんだと……ッ!?」

 

「その事に関しては本当に、奴等とアンタ等の問題なんだろうなっつってんだ……俺だって、ハンターのおっさんみてーに、自分の家族を誰かの悪意で失って、ソイツが裁きも受けずにノウノウと生きてたなら……俺が裁くだろうさ」

 

吉野に話しながら思い浮かぶのは、あのクソDQNネームのオリ主の言葉だ。

テメーのハーレムという都合の為に俺の命を狙い、俺の家族すらも殺し、穢すと言い放った。

自分の私利私欲の為に父ちゃんを殺し、母ちゃんを犯すと……言いやがった。

その時に胸の中を駆け巡った気持ちを、俺は忘れない。

あの、ドロドロとしたコールタールの様な……しかし炎の如く容易く俺の心に燃え広がる、暗い闇を思わせる様な”漆黒”に染まりかけた感覚。

それと似ていて、でも決定的に違う別の感覚が、今のハンターや吉野が抱える思いなんだろう。

 

「そ……それが分かっていてッ!!何で俺達の邪魔をすると聞いてるんだぁッ!!」

 

俺自身の生きる根幹の思いを吐露すれば、吉野は手を抑えたまま俺を見上げ、血を吐き出さんばかりの勢いで怒鳴り散らす。

まるで、この世の中の全てを呪わんばかりの憎しみに染まった形相。

少なくとも、俺の目にはそう見えた。

 

「お前の言った通り、ティムは家族を失った……いや、奪われたんだッ!!奥さんは連日のしつこい取材でノイローゼになり、精神安定剤の過剰摂取で心乱になっちまったッ!!妹は婚約を破棄されて自殺ッ!!そして――ティムはウォルツとマーフィーに何もかも奪われたッ!!地位も名誉も財産も家族もッ!!……ティムは自分の功績が霞む事を恐れたウォルツに無実の罪で訴えられ、俺達が再調査を依頼したら、今度は戦場でマーフィーに命じてティムを殺そうとしやがったんだぞッ!!」

 

「……」

 

「証拠だってあるぜッ!?ティムは何とか一命を取り留めたけど、それで除隊。ウォルツ達の思い通りになったが、俺がティムに撃ち込まれた弾丸とマーフィーの銃を照合したらピッタリ一致したんだからなッ!!その銃弾と銃も何時の間にか揉み消されちまったけどよぉッ!!」

 

そう言って吉野は顔を下ろし、無事な右手の拳をギュウッと握り締める。

……どうやら、残りのターゲット候補の奴等も近年稀に見る程にクソヤローだったらしいな。

殺されて当然の輩で……ドが付く程に許し難い。

少なくとも、他人の人生を滅茶苦茶に狂わせる様なクソッタレって事だ。

だが、そうなると疑問が残る。

 

「じゃあ、何でテメーはそんだけ尊敬してるハンターを撃ちやがった?少なくとも、あの狙撃は――最初からハンターを狙って撃った様にしか思えねえ」

 

そう、さっきのアパートで俺諸共ハンターが撃たれた事がどうにもおかしい。

あれだけ即座に俺と一緒にハンターを撃てたのは、”俺が来たから”ではなく、”俺が射線上に居たから”だと感じた。

 

「何故尊敬する恩人を撃ち殺そうとしたのか?俺にはそこがどうにも引っ掛かって離れねぇ。まるで歯にこびりついたクラッカーの歯糞みてーに、ムカつく違和感だ……そーいうのはよぉ、スッキリさせときてぇのさ」

 

「……」

 

「言え。何であんな事をしたのか……アンタは本当に、ハンターを尊敬しているのかを、な」

 

黙りは許さない、と視線で脅しながら、俺は吉野に言葉を叩きつける。

俺が態々コイツと話してるのは、その奇妙な謎をスッキリハッキリさせておきてぇからだ。

そうじゃなきゃ、とっくに叩きのめしてる。

吉野は俺の言葉と視線をジッと受けていたが、再びあの怒りと殺意に染まった目で俺を睨む。

 

「…………尊敬しているさ……撃ったのは……その、尊敬するティムに頼まれたからだ……俺を……殺してくれって」

 

「なに?」

 

絞り出す様な掠れ声で紡がれた言葉に、俺は聞き返してしまう。

今、コイツは何て言った?……頼まれただと?それもハンター自身に?

 

「ティムは、戦場で受けたマーフィーの銃弾を、手術で摘出できて一命を取り留めた……でも、全てが取り除かれたんじゃ無かったのさ……銃弾の破片が、ティムの脳幹の近くに残っちまってたんだよ」

 

「……脳幹」

 

「そうだ……その破片が視神経や他の神経を圧迫して、ティムは普段から猛烈な頭痛に苦しんでいた……一番強い鎮痛剤を、まるでドリトスを齧るみたいにガリガリ食ってたけど……それでも、頭痛は収まらなかった……あいつらの所為で……ッ!!」

 

怒りに震える吉野を見ながら、俺は今回の事件で一番の衝撃を受けた。

脳という人間の一番デリケートな部分に金属の破片が残り、休む間も無く圧迫される苦しみ。

それがどれ程辛い事かなんて、俺には想像も出来ない。

確か、ハンターがその銃弾を受けたのが8年前……つまりハンターは、8年間もそうやって苦しみ続けてきたって訳か。

ひでぇ話だぜ……ハンターの狂わされた人生ってヤツには、同情しちまうよ――。

 

「――俺はティムに戦場で何度も命を救われ……ティムの為なら、誰であろうと殺す(・・・・・・・・)って誓ったんだ」

 

「……あ?」

 

「シールズに居た時から、あの人は仲間を助ける事に命を張ってきた……そんな本物の英雄が――何でこんな理不尽な目に遭わなきゃいけねぇんだよ……ッ!!」

 

「……」

 

「騙され、家族を滅茶苦茶にされて……生きてる限り苦しみから逃れられないなんて……そんなの許せる訳がねぇだろう……ッ!!……奴等に思い知らせてやるんだ……ッ!!ティムが味わった苦しみをッ!!あいつ等にも、家族を失う苦しみがどういう事かってのを、味わわせてやるッ!!ウォルツも、奴の娘も妻も皆殺しだッ!!」

 

ここで俺は吉野の様子が変わっていくのを、ジッと見つめていた。

ハンターが味わった苦悩を呟きながら、吉野は地面に突いていた膝を挙げて半立ちになっていく。

そしてその目に宿るドロドロとした殺意は微塵も消える事は無く――。

 

 

 

俺はそんなケビン・吉野を――我ながら、能面の様な表情で見ていたと思う。

 

 

 

「やっと、ティムに恩を返せる時が来たんだ……ッ!!――邪魔するんじゃねぇえええええええええッ!!!」

 

 

 

突如、吉野は俺に向かって叫んだかと思うと、背中に回していた右手にハンドガンを握り――俺に照準を合わせる。

人差し指は俺が吹き飛ばしてしまったので、引き金にかかっている指は中指になる。

そんな不安定な状態であっても……吉野は障害となる俺を殺すべく、引き金を引いていく。

その行動を2つの眼でしっかりと見つめつつ、俺は心の中で大きな溜息を吐いていた。

 

 

――ホント。

 

 

 

「うぉぉおおぉぉおぉぁあああああぁぁあああぁああッ!!死ねぇえぇえええッ!!」

 

 

 

ダダダダダダダダダッ!!

 

 

 

――ままならねぇよな。

 

 

 

「『キング・クリムゾン』」

 

吉野の拳銃はハンドガンだったが、どうやらフルオート機能が付いていたらしい。

鋭く、近距離で発射された複数の弾丸。

その弾丸の数々を、俺は『躱す事もせず棒立ちで迎え、”無傷”でその場に立ち続ける』だけ。

弾丸は一発として俺に当たらず”背後に飛んで行く”。

それが、この世に残った”結果”だ。

 

「――な、に?」

 

「……時間を0,5秒だけフッ飛ばした。その時間内のこの世のものは全て消し飛び、残るのは0,5秒後の『結果』だけだ。弾丸が全て外れるという『結果』だけが残る。途中は全て消し飛んだんだ」

 

「じ、時間、だと?…………そ、そんな……馬鹿な……」

 

全ての弾丸を撃ち尽くし、しかし掠りもしなかった結果に慄く無防備な吉野。

弾丸を再装填する事もせず、吉野は後ずさりして俺から距離を取ろうとするのみ。

……普通ならスタンドの能力をペラペラ他人に喋る、なんてのはNGだが……相手が常識人なら、混乱を誘うことも出来る。

そんな絶好の機会に畳み掛ける事も無く、俺はゆっくりとした速度で歩いて距離を詰めつつ、静かに口を開いた。

 

「あんたの気持ちは良く分かったぜ、吉野さんよ……そんな辛い目に遭ってきたハンターには同情するし、あんたが怒るのは正当な理由だ」

 

「あっ……う……」

 

「――けどよぉ」

 

吉野の抱く怒りと殺意の理由を『正しい』と断じる……が、”やってる事は正しくねぇ”。

奴に投げかけた言葉の直ぐ後に、俺は真剣な顔で奴を鋭く睨む。

 

「何の関係もねえ罪の無い人達を、相手の家族だからって理由だけで殺そうとした時点で――あんたも奴等と同じだよ」

 

「なっ――」

 

俺の言葉を聞いて、吉野は理解出来ないという顔をした。

だがなぁ、寧ろ俺の方が理解できねえよ。

ハンターを地獄に突き落とした奴等に復讐するってのは、まだ良い。

だが、奴等の家族だからって理由だけで何もしてねー人達も巻き込む。

それは、絶対に許しちゃいけねー事だ。

少なくとも、俺はそう思う。

そんな理由で無関係の人間を巻き込んで、自分の復讐という都合を制限無く他者に強要し続ける。

挙句の果てには自分達の行いが正しいと信じ、他者の事を考えてない。

 

 

 

最初の頃は、もしかしたら純粋に奴等が許せなかっただけかもしれない。

 

 

 

だが、何処かで吉野の目的はズレた。

 

 

 

自分の恩人を地獄に落とした奴等を何をしてでも殺す。

 

 

 

――誰を巻き込もうが関係なく、その家族も纏めて殺すという最悪のシナリオに。

 

 

 

そして、その目的のために、偶然巻き込まれたデビットさんは死に掛けた。

吉野とも、ハンターとも、そしてその復讐相手とも何の関係の無いアリサが……永遠に父親を失う所だったんだぞ。

集団の中に居るターゲットを狙って二次災害が起きる事なんてまるで考えちゃいねえんだろう。

善意からの行動や何らかのきっかけ(使命感、被害意識、怨讐など)があろうとも、それによって発生する周りへの影響を顧みない人間性。

それは、反社会的でありながら、どうしようもない輝きを放つ”漆黒の意志”を感じさせない――”ゲロ以下の匂い”がプンプンする邪悪さだ。

どれだけ『誰かの為に』なんて綺麗事を抜かしながらも、隠すことの出来ない醜悪なオーラ。

 

 

 

以上の全部引っ括めて、コイツは――どうしようもなく『吐き気を催す邪悪』で――。

 

 

 

「あんたは”堕ちちまった”のさ……自分の為に他の人間を顧みない――只の『ゲス野郎』の心に」

 

 

 

俺の『敵』だ。

 

 

 

「――う――ううぅぉおおおおおおおッ!!?」

 

自分を奮い立たせんが為の獣の様な雄叫びをあげ、吉野は銃を投げ捨てる。

或いは、自分が殺そうとしてた連中と同じだと言われて、違うと言いたいのかも知れない。

だが、その真意は俺に伝わる事は無く奴も伝えようとは思ってないだろう。

だから、銃を投げ捨ててコンバットナイフを構えながら俺に迫る吉野相手に……容赦はしねぇッ!!

 

 

 

俺は自分に迫る吉野を真っ直ぐに見つめ――星の痣に手を伸ばし、そこから浮き上がった”シャボン玉”を指先に挟む。

 

 

 

「――『ソフト&ウェット』」

 

 

 

フワフワ――パチィイイン。

 

そして、そのシャボン玉を生み出したスタンドの名を叫びながら、吉野に向かってシャボンを軽く投擲。

俺の左肩と同じ星のマークを内包したシャボン玉はフワフワと飛んで吉野に当たり、軽い音を立てて弾けた。

 

「うぉああああああああッ!!」

 

しかしそのシャボン玉が当たっても、吉野にこれといった変化は見られず、奴は雄叫びを上げて俄然突っ込んでくる。

……まぁ、外見的に変わる事は無えだろうな。

俺はこちらを殺す為の凶器を振り上げる吉野の姿をまるで他人事の様に眺める。

 

何故こんな無防備かと言えば、俺の攻撃はもう”決まってる”からだ。

 

だから俺はナイフを振り上げた吉野が目前に居ても、堂々としている。

そして、俺の体にナイフを突き立てようと吉野が一歩を踏み出し――。

 

ツルンッ

 

「――は?」

 

ドサッ

 

そのまま回転して地面に背中を打つ瞬間を目にしようと、これといって驚く事は無い。

 

「…………ッ!?」

 

まるで何が起こったのか理解出来ないって顔で固まる吉野だが、直ぐにハッと意識を戻して立ち上がろうとする。

さすがに元が付くとは言っても軍人だな。

……まぁ、例え相手が凄腕の軍人だろーと一度術中に嵌めちまえば――。

 

ツルンッ

 

「なッ!?ど、どうなってる……ッ!?」

 

もう抜け出す事は出来ねーよ。

 

「く、くそ……ッ!?――なんで、”立てねえんだ”……ッ!?」

 

手を地面について体を起こそうとして、何故か”地面についた手が滑って、起き上がる事が出来ない”事に、吉野は今までに無い焦りを浮かべる。

俺はそんな吉野の奇行を見下ろしながら、自らの隣にスタンド――ソフト&ウェットを喚び出す。

体の中央に碇のマークが描かれた人型のスタンドソフト&ウェットは、近距離パワー型に分類されるスタンドだ。

その能力は『星型の痣から飛び出した「しゃぼん玉」が触れて割れることで「何か」を一時的に奪う』という、一風変わった能力である。

奪えるものは「光」「水」「音」「摩擦」「毛」など多岐に渡り、奪う量は調節が可能。

また奪った対象をしゃぼん玉に封じて別の場所に移動させることも可能で、その場合はしゃぼん玉が割れた場所に奪ったモノが出現する。

 

今、俺が奪ったものはシンプルにして無くてはならないモノ、それは――。

 

「今、お前の体から”摩擦”を奪った」

 

「……は?……な、にを……言ってる?……ま、摩擦……?」

 

「摩擦だよ、摩擦……まぁ、簡単に言うとよぉ……今のお前の体は摩擦ゼロって訳」

 

『オラッ!!』

 

ドゴォッ!!

 

「ぼっ――」

 

何が何だかといった表情で怯える吉野に言葉を掛けながら、ソフト&ウェットに吉野の側頭部を殴らせる。

すると吉野の体はまるで扇風機のファンの如く、クルクルと回り始めた。

しかも普通なら抵抗で直ぐに止まる筈なのに、吉野の身体は全然スピードを落とさない。

面白いぐらいにクルクルと回る吉野に向かって、ソフト&ウェットは拳を下から繰り出し、アッパーを叩き込む。

 

ゴスッ!!

 

「ぐあっ……ッ!?」

 

「……もうイッペン言うぜ……今のお前はぁ――」

 

「ッ!!?」

 

そして、俺はソフト&ウェットのアッパーで空中に浮き上がった吉野と視線を合わせ――。

 

 

 

「ツルツルだぁッ!!」

 

 

 

俺の日常に手を出してくれた事に対する、ありったけの感謝を振舞う。

 

『オラオラオラアラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!!』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォッ!!

 

一体どれだけのパンチが撃ち込まれたのか、数えるのも馬鹿らしく感じる程の怒涛のラッシュ。

その拳の嵐を一身に受ける吉野は、最早悲鳴を発する暇も無く空中でボコボコにされていく。

だが、アリサがこの場に居たならコレぐらいやってもまだ気が晴れるかどうかってトコだろうよ。

しかしまぁ、もうそろそろ4時過ぎになる。

探偵事務所まで結構あるし……まだやる事は残ってるんだ。

こいつに何時迄も構ってる訳にはいかねえか。

 

天国への扉(ヘブンズ・ドアー)ッ!!」

 

ズババァーッ!!

 

『オラオラオラアラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――』

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!

 

まだラッシュを続けているソフト&ウェットを避ける様にして、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)が吉野の後頭部に回ってページを出現させる。

コイツをぶっ飛ばしちまう前に命令を書き込んでおこうという寸法だ。

 

1、警察に自首して今回の事件の全貌を話す。

 

2、俺のことを全て忘れる。

 

3、誰にも攻撃出来ない。

 

4、体の怪我は謎の男に叩きのめされたと嘘を言う。

 

と、以上で4つの項目を書き連ねて、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)にページを閉じさせる。

役目を終えた天国への扉(ヘブンズ・ドアー)が消え、もう何の邪魔も無くなったのを確認し――。

 

 

 

「滑って行きなッ!!」

 

『オラァーーーーーーーーーーッ!!!』

 

ドゴォオオオッ!!!

 

 

 

俺は、奴の膨れた顔に別れの|言葉《一撃》を叩きつけた。

 

「ぷっ……がひぇ……ッ!?」

 

ソフト&ウェットが放った締めの右ストレートで、奴の体は地面に叩き付けられる。

近距離パワー型のスタンドにブン殴られれば、普通は何バウンドかして、そのままぶっ飛ぶだろう。

しかし今の吉野の身体はソフト&ウェットのしゃぼん玉で摩擦を奪われた状態だ。

なので、吉野の体はバウンドせずに気絶した状態のまま、道路を豪快に回転しながら滑っていく。

っていうかなんか、こんな光景をテレビで見たよーな……あぁ、思い出した。

確か氷上でやるあのカービングってスポーツのストーンが、丁度今の吉野にそっくりだ。

回って滑る吉野を見てどうでも良い事を考えていると、奴の身体はコンテナにブチ当たって、やっと止まった。

 

 

 

「……仕返ししゅーりょー……後はお上に任せるぜ」

 

 

 

ボコボコにされて気絶した吉野を一瞥し、俺はスケボーを回収してコンテナ置き場を後にする。

 

 

 

そして、俺は再びハンターの家に戻って天国への扉(ヘブンズ・ドアー)で追加の命令を書き込んでいた。

内容はケビン・吉野に書いた命令と同じで、全てを警察に自白する事。

これで今回の狙撃事件は解決するだろう。

それに追加で吉野の居場所も教えた上で警察に吉野の身柄を確保させるよーに仕向けさせる命令も書き込んでおいた。

あれだけボコボコにしちまったから、自力で警察に行けるとは思えねーしな。

ちゃんと書き漏らしが無い事を確認して、俺はハンターの顔に作ったページを閉じる。

ページを閉じて現れたのは、天国への扉(ヘブンズ・ドアー)の効果で強制的に眠らせられながらも、何処か穏やかな表情を浮かべるハンターの寝顔だ。

 

「ったく、今回の事件の主犯の癖に、呑気に寝こけやがって……小学生の俺が頑張って起きてるってのによぉ」

 

寧ろ俺って全く関係無いよな?

だってのに、ここまでしなくちゃいけねえなんて……面倒くせぇ。

世の中の理不尽さに頭が下がる思いを覚えながら、俺は髪の毛をかき乱す。

そして、ハンターのブッ壊した机をクレイジーダイヤモンドで治したら――。

 

「ん?……これは……」

 

ハンターを中心に、左右を挟む形で幸せに満ちた笑顔を浮かべる二人の女性が写った写真を発見してしまった。

カメラ目線で笑顔を浮かべる若い女性と、薄く化粧を施して微笑む左手の薬指にリングをした女性。

恐らく若い女性はハンターの妹で、もう一人は奥さんだろう。

青く澄んだ空をバックに緑の綺麗な森の開けた場所で撮られたであろう、ハンターの幸せだった頃の写真。

……そして、もうハンターはこの幸せを永遠に得る事が出来ない。

 

「……ちっ」

 

俺は自分の中に湧き上がる不機嫌な感情を隠そうともせず、舌打ちを零した。

写真立てに入れられた写真を倒し、部屋を後にしようと扉に向かう。

 

ドギュウゥンッ!!

 

そして、俺は眠るハンターに背を向けたままに”あるスタンド”を呼び出し、ハンターの額に触れさせる。

前にも言ったけど、精神エネルギーのビジョンであるスタンドは物質を透過する事が可能だ。

俺のスタンドはハンターの”額を通り抜け、脳の目的の場所だけに能力を発動”した。

 

『……』

 

目的を終えたスタンドが俺の命令を終えて、無言で俺の側に立つ。

眩いばかりの”黄金の輝き”、そして”生命の象徴であるテントウ虫”のデザインが各所に施されたスタンドだ。

 

(『ゴールド・エクスペリエンス』……銃弾の破片を、傷付いた脳幹の一部として”創った”……)

 

こんな事をした所で、ハンターのコレから先は地獄なのは変わり無い。

……んな事は分かってる。

今やった行為は、俺の単なる自己満足でしかないんだからな。

心にちょっとした満足感と安心感を得て、俺はゴールドエクスペリエンスを戻し、部屋を後にする。

辺りが明るくなり始めている中、俺はスケボーを爆走させて探偵事務所へと向かう。

 

 

 

……今回の事件は考えさせられる事が沢山あったぜ。

 

 

 

ケビン・吉野とティモシーハンターの行った事は決して許しちゃいけねえ事で……でも、頭ごなしに否定は出来ない。

元々は愛する家族の敵討ちだったんだから。

俺自身同じ様な目に遭ってしまえば、アイツ等と同じ様に復讐に走っちまうだろう。

勿論、標的以外の何者も巻き込まない様にするだろうが、人を殺すという点では同じである。

 

 

 

――だから。

 

 

 

「あんた等のとった行動を許せなくても――そんな行動を取らせた奴等には、俺のスタンドで……然るべき報いを与えてやる」

 

それを止めたんならせめて、法の範囲だけでもあいつ等の仇は……俺がとってやんねえとな。

しかもハンター達が自首するのは今日の朝8時。

ハンターが逮捕されたと警察から聞いたら、”奴等”は悠々と観光を続けるか……もしかしたら直ぐに帰るかもしれねぇ。

って事は必然、タイムリミットは限られてるって訳だ。

やれやれ、まーた得にもならねえサービス残業か……今日は寝れるのか、俺?

再び襲ってきた眠気と面倒事を振り払うかのように、俺はまたミンテ○アを数粒取り出して、ガリゴリ齧るのであった。

 

 

 

……あー、くそっ。眠て――辛ぁッ!?

 

 

 

今日学んだ事。

 

 

 

二度とミンテ○アは二粒以上同時に食わねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――全てを失い、鬼となった男、ティモシー・ハンター。

 

――復讐という使命感に狂ったスナイパー、ケビン・吉野。

 

 

 

全身重度の打撲、並びに行動を制限され――。

 

 

 

 

 

  ()  ()  ()  ()

 

 

 

 

 

to be continued……

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 

 

はい、という訳で、異次元の狙撃手、速攻で解決してしまいました(泣)

 

やはり定明が本気出すと普通の人間である犯人相手じゃヌルゲー過ぎますよね(;・∀・)

 

しかも今回はコナン達の謎解きが無いままに終わってしまっていますwww

 

推理があってこその名探偵コナンですから(´;ω;`)ウッ…

 

やはり残り4日というタイムリミットが定明の遠慮を無くしてしまう訳です。

 

頑張って推理モノの良さを出さないと(小並感)

 

 

……映画第二弾、どうしようか(果てしない絶望)

 

 

 


 
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