サカキ
「ソーマ君のラウザーシステムについて?」
十真
「はい」
十真は帰投後、自室には戻らずにサカキの研究室へと足を運んでいた。
目的は、ソーマについて聞くこと。
サカキ
「彼のラウザーシステムは、まぁ、なんだろうねぇ。一種のプロトタイプ、としか言えないねぇ」
十真
「プロトタイプ?それはどういう?」
サカキ
「今現在実用されている新旧ラウザーシステムには、私も開発に参加しているんだけど…ソーマ君の物には私は関わっていないからね。何とも説明し難い」
十真
「簡単なことでいいんです。何か、知りませんか?」
サカキ
「そうだね…ある意味、彼のラウザーシステムは、『ライダーシステム0号』とでも言うべきなのかな」
十真
「0号……だから、新型ラウザーシステムのプロトタイプ、と?」
サカキ
「そんな感じかな。それ以上は、私の口からは軽々しく言えない。ま、君も薄々勘付いていると思うけど、ソーマはそれのせいで孤立している」
十真
「(やっぱり…あのラウザーシステムとソーマには、何かが…)」
サカキ
「どうか彼と仲良くしてやってくれ、お願いだ」
十真
「…大丈夫です。最初から、そのつもりですから。では、これで」
十真が研究室を出て行くと、サカキは引き出しの中の1枚の写真を取り出し、顔をうつむかせて呟いた。
サカキ
「すまないアイーシャ…私には、こんなことくらいしか、できないようだ…」
十真
「リンドウさん…」
リンドウ
「よっ」
研究室を出ると、エレベーター前の小さな休憩所でリンドウが座っていた。
短くなった煙草を口から離して灰皿にグリグリと擦り付けると、テーブルの上に置いてあった二本の缶ジュースの内、一本を十真に投げ渡した。
十真
「あ、ありがとうございます」
リンドウ
「座れよ」
リンドウに言われ、十真はゆっくりと隣に腰を掛けた。
リンドウ
「あのー、あれだ、ウロヴォロスの件についてなんだが」
十真
「…はい…」
リンドウ
「…率直に言う。他のアラガミとの交戦中に出くわしたら、すぐに帰投しろ」
十真
「…任務中、対象外の『接触禁忌種』と遭遇した場合、任務を中断し、速やかに退避する。講習で何度も言われましたよ」
『接触禁忌種』
それは全アラガミの中で最も危険な部類に分類されている種であり、一定の階級や実績を持たない限り、任務遂行の許可は降りない。
また、接触禁忌種との戦闘資格を有している者でも、対象外の接触禁忌種と任務中に遭遇した場合は即刻退避の決まりとなっている。
ウロヴォロスもそれに分類されており、だからこそ、あれほど騒がれたのである。
リンドウ
「そうかい。わかってりゃいいんだが…お前さんの性格と事情だと、1人で喧嘩売りかねないと思ったからな」
十真
「……知ってるんですね。俺の昔のこと」
リンドウ
「一応は隊長だからな。隊員のメンタルケアのために、色々知っておかなくちゃいけないわけよ」
リンドウは残ったジュースを飲み干すと、立ち上がって空き缶をゴミ箱に投げ捨てた。
リンドウ
「こいつは命を護るためのルールだ。先走るな。自分の命も護れねぇ奴に、人の命なんか護れやしねぇ」
十真
「………」
リンドウ
「辛いかもしれんが、今は耐えろ」
リンドウは2本目の煙草に火をつけると、口に咥えて歩き去って行った。
十真
「…わかってる……今の俺じゃ、あいつは倒せない…」
十真なリンドウから受け取った缶ジュースの栓を開け、一口飲んだ。
十真
「ぶふぉっ⁉︎なんだこれ、酸っぱ!いや、甘い?甘酸っぱい、って言うのか?ってか、なんだよこのジュース⁉︎」
慌てて缶ジュースのラベルを見ると、『〜ペイラー・榊プロデュース〜 初恋ジュース』と表記されていた。
ツバキ
「よし、全員集まったな」
十真が入隊してから数ヶ月。
第一部隊のメンバーは急遽、ツバキの招集を受けた。
何でも、第一部隊に新メンバーが加わるらしい。
前々から噂は広まっており、支部長がロシアから新型の適合者を1人連れてきた、と十真は聞いている。
十真
「(俺と同じ新型か…)」
新たな仲間の訪れに、十真は少しだけ期待を寄せていた。
コウタ
「なぁ十真、女の子かな?」
しかし、隣の青年はてんで外れたことに期待していた。
十真
「橘さんじゃ不満なのか?」
現段階では、第一部隊の紅一点である橘 サクヤ。
普段は優しく、お淑やかに振る舞いつつ、任務になると表情を変え、勇敢に立ち向かう。
まさに戦うお姉さん…などと、以前コウタは絶賛していた。
コウタ
「それはそれ。これはこれ」
十真
「おいおい…」
ツバキ
「全員揃ったところで、早速新人を紹介する」
ツバキが合図を送ると、早速新人が現れた。
十真やコウタと歳の変わらなさそうな少女だった。
艶やかな白肌に、銀髪と蒼い瞳。
チェック調の赤いミニスカートと帽子、ヘソどころか胴回り全体を省かれた大胆な黒いノースリーブ。
十真
「(なんか…すげぇ派手だな…)」
ツバキ
「自己紹介をしろ」
新人の少女は第一部隊の面々の前に立っても、その顔に緊張や初々しさは滲み出ておらず、鋭い目つきや姿勢からは溢れんばかりの自信が見られる。
アリサ
「はじめまして。アリサ・イリーニチナ・アミエーラです。本日1200付けで、ロシア支部から極東支部へ配属となりました。よろしくお願いします」
コウタ
「女の子ならいつでも大歓迎だよ」
本音であり、コウタなりのコミュニケーションだったのだが、アリサは愛想笑い一つ浮かべずに、冷たい目でコウタを見つめた。
アリサ
「そんな浮ついた考えで…よくここまで生き延びてこれましたね」
コウタ
「へ?」
ツバキ
「彼女は実戦経験こそ無いものの、訓練では抜群の成果を発揮している。……追い抜かれぬよう、精進するんだな」
ツバキはコウタと十真を横目で見て、そう言った。
コウタ
「は、はい…」
十真
「(あ、俺もなの?)」
なんとなく穏やかでない空気を残しつつ、新人の紹介は終了した。
ツバキとリンドウは資料の引き継ぎと言ってすぐに退出し、ソーマはそそくさと自室へ。
コウタはと言うと、あれやこれやとアリサに話をするが、相手にしてもらえず、その様子を十真とサクヤが見守っていた。
十真
「さてと、訓練でもしてくるかな」
十真は更衣室に向かうと、手早く訓練用の戦闘着を着用し、模擬刀を手にした。
訓練場での訓練では、基本的に変身はしない。
ラウザーシステムの力に頼らず、自身の感覚を鍛えるために、戦闘着と模擬刀もしくは空気銃が使われる。
人工細胞で作られたダミーアラガミを相手に、より速く、より無傷で戦い抜く。
己を磨き上げるための場所なのだ。
十真
「…って、満席かよ」
訓練場前の廊下にかけられた大型液晶パネルを見ると、運悪く、全ての施設が使用中だった。
諦めてトレーニングルームにでも向かおうかと思っていた時、パネルに表示された使用中の文字が、一室消えた。
しめたと思い、足早に空いた場所へと向かうと、思いがけない面子に出くわした。
十真
「あ…」
アリサ
「…………」
出てきたのはアリサだった。
わずかに拭き残した汗を再びタオルで拭いながら、身なりを整えて出口であるこちらに歩いてくる。
まだアリサと馴染めていない十真はかける言葉を探していると、アリサは十真を小石のように気にも留めなかった。
十真
「…顔…覚えられてないのかな…?…」
無視された、と思うのはあまりに悲しすぎて、十真はそう思うことしかできなかった。
作者&十真より…
作者
「チョーイイネ!アリサ!サイコ〜〜〜〜!」
十真
「それ違うライダー」
作者
「まぁでも、やっぱりツンツンのアリサよりもツンデレのアリサの方が僕は好きです」
十真
「うーん、まぁ人それぞれだよな」
作者
「でもぶっちゃけると俺はリッカちゃん推しだぁっ!出番少ないけど、油まみれの顔を見ると『見えないところで頑張ってんだなぁ』って思うんだよ!あ、あとアニメ第1話でいきなり出て来たからもうサイコー!」
十真
「どんだけ推してんだよ!一人称『俺』になってるぞ!」
作者
「おっと、取り乱しました。ところで、本編中に『訓練では模擬刀を使用する』という描写がありましたが…」
十真
「おお、アニメ第1話にも似たようなシーンが出てきたな。あそこから来てるのか?」
作者
「いや、その…アニメ見る前に考えた設定だから、アニメ見た時ビックリしちゃって」
十真
「マジか。偶然ってあるもんだな」
作者
「今後もこういう事が起きないかとちょっと期待してみたり。というわけで、アニメ版もスタートしましたが、こちらのSSの方もお楽しみに!それではこの辺で…」
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ついにアリサ登場です。
※今回は少し短めです。
※2016/03/10 キャラクター表記に誤りがあったので修正しました。失礼いたしました。