双子と命日和
【雪乃】
大学に入ってから知り合いや友達が増えて大勢で行動するようになっていたから
久しぶりに彩菜と一緒に二人だけでちょっと遠出をすることにした。
観光と呼べるものが何もない地域だけどただの息抜きに出てるのだから
それで問題はなかったのだけど・・・。
「彩菜…さっきから何キョロキョロしてるの」
「いやぁ、この辺の子かわいい子が多くて目移りしちゃうなって」
「私から見ると完全に不審者だけど…」
「あっ、もしかして私が他の子を見まくっていて嫉妬しちゃってるのかな!?」
「…、通報しようかしら」
「あ、マジでごめんなさいやめてくださいやめてください」
私が醒めた表情で携帯を取り出すと彩菜がものすごい怖がりながら
頭を下げ手を合わせて謝ってきた。
それから歩き出しながら私は周囲を見渡しながら思った。
今歩いている周辺は建物やお店はそれなりにあるのに
自然が多く感じられるのはとても好感を持てる。
心なしか空気もいつもより澄んでいるように感じられた。
「見て見て!雪乃、あそこにものすごい綺麗な金髪碧眼美人がいるよ!」
「言った傍から・・・」
半ば呆れながら興奮する彩菜の指す方へ視線を向けると
確かに見とれてしまうかのような輝いてる金髪に透き通った宝石のような
青い目をしていた。
服装はタートルネックの長袖服にロングスカートにブーツを履いていた。
全体的に服装は地味なんだけどそれもあるのか170cm後半あろうかと思える
高身長とその金髪と碧眼が目立って見えた。
「そこの人ー。そこの金髪美人さーん」
私がその人を分析している間に彩菜がものすごい勢いでナンパしにいっていた。
英語苦手なのに、あの人が外国人で英語で話かけてきたらどうするつもりなのか。
心配だから私も彩菜の後を追って二人の傍に寄ると見知らぬ人に声をかけられた
女性のほうは少し困惑気味の顔をしていた。それはそうだろうと私は彩菜に向けて
心の中で少し毒ついた。
「今暇ですか?」
「え、私ですか? ちょっと頼まれていて買い物をしていたのですが…」
「あ、ごめんなさい。この子バカなんで気にしないでください」
二人の間に割って入るようにして私は女性に向けて謝罪の言葉を述べた。
「なんだよう…。ちょっと遊びに誘おうとしただけじゃんか」
「用事があるって言ってるじゃないの・・・!」
「・・・」
しばらく私たちの様子を興味のありそうな眼差しで見つめていた後、女性は
笑顔で私たちの言い合いに待ったをかけた。
「少しなら付き合えますけど」
「ほんとに!?やったー!」
「ちょ、ちょっと。いいんですか、私たち初対面なのに、こいつに至っては不審者めいてるのに」
「雪乃、それはさすがにひどい・・・」
「ふふっ、私の周りにも似た人がいるので大丈夫です」
「似たような…貴女も苦労しているんですね…」
ちょっと困りつつもどこか嬉しそうにしている女性に少し共感を持ってしまった。
それから計画なんて一つも立てていないのに彩菜はまず最初に
カラオケに行こうなどと言い出した。
平凡な女子大生二人に特別綺麗な女性が混じっているとある意味目立つような
気がする。彩菜の持つスマートフォンで近場のカラオケ店まで少し歩いていくと
店内にいた男性の目線がすべて金髪の人に向かうのがすぐわかった。
けど本人はその視線を全く気にする様子は見受けられなかった。
というか、単に気づいていないだけ?
「私、カラオケはほとんど来たことないので色々教えてもらえるとありがたいのですが」
「大丈夫!私が手取り足取り教えてあげるから!」
「ここで使う言葉じゃないでしょ…」
私は力なく彩菜にツッコミを入れるが、最初から早々疲れてしまい今後が
心配になってきた。
時間を決めて先に支払をしてから指定された部屋に3人で向かって中に入ると
女性は物珍しそうに辺りを見回していた。本当にあまり来たことがないように見える。
それから適当につまめるものと飲み物を注文してから先に私たちが歌うことになった。
彩菜は最近流行りのアイドルグループの曲を。私はアニメやサブカルな曲を。
そしてその合間合間に女性が最近のドラマの曲を歌って彩菜が存分に盛り上げていた。
クールな視線や表情をすることもあるけど歌う内容は気持ちが暖かくなるような
歌詞が多くて不思議な雰囲気に浸れた。
少し休憩をとっている中で彩菜が女性から色々聞き出していることに気付いた。
余計なことを言わないかハラハラしながら見守っていると・・・。
「ねぇ、お姉さんの名前教えてよ。それと彼氏とか旦那さんとかいるの?」
「あ、私は命(みこと)、摩宮命と言います。後、大切な人ならいますね」
そう言って丁寧に彩菜の質問に答えた後、指に嵌めていた指輪を見せて
幸せそうに微笑んでいた。さらに子供が一人いると言って私たちを驚かせた。
私たちが言えたことでもないけど、子供がいてこの美しさはすごいと思えたから。
その後、私たちも名前を言ってちょっとした最近の情報交換に近い世間話をして
盛り上がった。そうこうしているうちにあっという間に指定した時間になって
私たちはカラオケ店を後にした。
それから命さんはもう少しだけ時間があると言うので近くの喫茶店で話の続きをした。
詳しいことを言わずぼやかしたように言っていたがずいぶん大変な人生を送ってきたのを
私は感じられた。それをこんな風に穏やかに育って成長して、途中から随分良い人と
出会えたのだろうと思えた。
私たちも波乱な道を歩んでいるけれど、大変な種類は違えど同じくらい、それ以上に
苦労しているのだろうと直感で感じ取っていた。
「それでうちの家族が~」
「へぇ、そうなんですか。命さんの家族に会ってみたいな~」
「また彩菜は迷惑なことばかり言って」
「また会えるようなことがあったら是非遊びに来てください」
そういう身内の話を交互に話しながら盛り上がっているうちに予定の時間になってしまい
命さんは立ち上がってレシートを持って一言私たちに向けて。
「ここの支払いはさせてください。あとは二人でゆっくりしていてくださいね」
「そ、そんな。悪いです」
私が言うと命さんは今日一番の優しい笑みを浮かべて言った。
「今日はずいぶん楽しませていただいたのでそのお礼ということで」
そう言って私たちが何か言おうとする前にレジに向かって歩きだしていた。
そして命さんがお代を払って姿が見えなくなったのを確認してから私は呟いた。
「ずいぶん綺麗で良い人だったよね~」
「さすが私の目に適った人だよね。けっこう私好みだったし」
「・・・そんなこと言うと春花に言いつけるわよ」
「ひえぇ、それだけは勘弁してください!」
顔色を変えて頭を下げながら手を合わせる彩菜に
浮気めいたことを言うからこういう目に合うのよ、と言いつつも
今回の良い出会いには少しだけ彩菜に感謝をしていた。
**
【命】
「ただいまもどりました~」
「おかえり、ずいぶん遅かったね」
「はい、今日道を歩いていたら可愛い子二人にナンパされちゃいまして」
「!?」
「萌黄?」
玄関について迎えにきた萌黄に今日のことを話すと急に固まってしまい
私はやや俯いている顔を覗き込むようにして萌黄がもとに戻るまで声をかけ続けていた。
その後、二人でお風呂に入っている時に。
「いきなりあんなこと言うものだからびっくりしちゃったよ」
「ふふっ、ごめんなさい」
「浮気されちゃうんじゃないかって心配しちゃったよ」
「そんなことあるわけないじゃないですか。私はずっとこれからも一生・・・。
萌黄のことを愛していますよ」
ちょっと狭いけど二人で湯船に浸かって話をした後、私は萌黄の額に軽く
口づけをした。それで機嫌をよくした萌黄は少し伸びをしてから
明るい口調で。
「命ちゃんが初対面の人とそうやって仲良くできるのは悪くないかもね。
すごい成長だよ。でも、誰彼かまわずついてっちゃダメだよ。危ないからね」
「はい、わかりました」
子供に言い聞かせるような言い方でちょっときつめの口調でシメたけれど
その言葉の奥には私に対する愛情を感じられたから謝りつつも幸せを感じられた。
こういう日も良いものだと、今日のことを振り返りながら思ったのだった。
お終い。
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二組の誕生日小説(SS)ということで。発音的に「二言三言」みたいな感じで言うとしっくりくる。語感似てませんかねw 初めてかもしれない二組の絡みですが、個人的に割と気に入ったのでたまに書くかもしれません
イラスト→http://www.tinami.com/view/788568