―――9話
「………」
先日から見る悪夢の続き。
何度も見てしまう憎しみの連鎖。
また昨日も見えた。
ただし、続いていた夢は最初へと戻り、夢の中にいたのはあの少女1人だけ。
夢の中ではまた雨が降っていた。
黒い雲。
黒い雨。
その中で金色の少女の髪だけが光彩を放っている。
以前はその口で、俺に言った。『お前のせいだ』と。
だが、今度は違っていた。
その溢れる瞳を俺に向けて…
「ごめんなさい………ごめんなさい……」
何度も…
何度も、繰り返す。
そして、最後に――
「助けて……」
そう、聞こえた。
夢から覚めた後、また華琳にたたき起こされ、俺は外へ出ていた。
眠っている間に夢を見るときは、頭痛もない。
実際には起きているのだろうが、それに気づかず眠ったままなのだろう。
それがわかるのは朝起きると、少し頭が痛むのと、ボーっとしてしまうことが多いからだ。
別に華琳の声のせいというわけではないのだと思う。
―――――。
今日はひどく湿気が多い。
空も曇っているため、雨が近いのだろう。
そのために時刻は昼前だと言うのに、その暗さは夜に近いものだった。
「はぁ…」
「ん?どうした、北郷」
「いやぁ、頭痛がひどくて…」
心配そうに近くにいた人が声をかけてくる。
こちらへ来る前から…正確には来る直前から続いていたもの。
夢の前には必ず訪れる頭痛。
それが最近では夢を見る前だけではなく、普段でも起きるようになっていた。
何かの前兆なのか、それともただの偶然か。
「………っ」
突然、頭に痛みが走る。
鈍器で殴られたような衝撃。
そしてそれの後にさすような痛みが続く。
「お、おい…大丈夫か?そんなにひどいなら、もう今日は休んでろよ」
「い、いや、でも…っ」
また、痛みの波が来る。
何度もひいては押してくる。
「いいから、もうもどれよ。ここはおれがやっとくから」
「………すみません」
その人の言葉に甘え、仕事をまかせて休むことにした。
明らかに無理をしているのが伝わっていたし、なによりやせ我慢を続けられる余裕もあまりなかった。
「…っ」
自分の部屋に戻る途中、また頭痛の波がくる。
意識が遠くなりそうになる。
また、夢が始まる―――。
「………。」
だが…
―――ドクン!
「ぐっ!…ぁぁぁ…っ」
夢が…こない。
それどころか、意識がはっきりとする。
遠くなりそうなところで、強引に戻される。
痛みが頭痛から、体全体に広がる。
なんだ、これは――。
視界がゆがむ。
気が遠くなりそうな痛みなのに、眠らせてもくれない。
夢は今朝も見た。
そして、また今も痛みが来る。
虚ろになる目で、それでも意識ははっきりとしていて、
そこで、目の前にある“それ”がみえた。
―痛いの?―
両腕を握り締めるようにして、痛みに耐える。
“その子”の言葉が頭の中に響き渡る。
―ごめんなさい…―
耐えるのが精一杯。
そんな状況の中でも、彼女の声は透き通るように聞こえてきた。
―これが…最後だから…―
「何…を…」
―もうすぐ、終るから…―
彼女がそういうと、一瞬、突風が吹いたような気がした。
思わず目を閉じてしまう。
だが、そこからなにかあるというわけではなく、
ポツポツ…
ザァァ…
降り注ぐ水滴の感触に現実であることを認識させられる。
目の前にいた少女の姿はもうなかった。
痛みも…引いていた。
雨が、地面の土を溶かして小さな川を作る。
足元に溜まっていく水。
それは自分の頭の中に溜まる黒い予感を表しているようで
気づけば、走り出していた。
/麗羽side
「れ、麗羽さま!どこにいくんですか…?」
麗羽に引きずられながらも、猪々子が疑問をぶつける。
「ですから、優雅に、そして華麗に目的のために前進すると言っているじゃありませんか」
相変わらず、質問を理解しているのかいないのか分からない様子で答える。
彼女なりに答えているつもりなのだろうが、この世に理解できるものがどれだけいるだろうか。
「だーかーらー、その目的ってなんなんですかぁ~」
「曹嵩さんを……いえ、そうではなくて……ええと……そう、華琳さん。彼女に恩を売っておくんですわ!」
「はい?……斗詩、どういうこと?」
「私に聞かれても…」
めちゃくちゃな麗羽の言動に困惑する二人。
そんな二人を引き連れ、陶謙の自室の前までやってきた麗羽。
「れ、麗羽さま?何するつもりなんです…?ここ、陶謙様の部屋ですよ?」
「お母様に聞いたところで話も聞いてもらえないんですから、ここは直接!陶謙さんに話をしに行くしかありませんわ!」
「え、ええ!?む、無茶ですよ~!ていうか、無茶通り越してもう無知無謀ですってば~」
唯一のまとも担当の斗詩が涙目になりながらも、いつも以上必死に止めに入る。
「そんなものは行ってみなければわかりませんわっ!」
「そんなぁ~…」
「????」
ひとり話についていけない猪々子。
そんな猪々子にかまわず、麗羽は斗詩を振り切り、陶謙の部屋の中へ。
―――ドン!!
「陶謙さん!」
/華琳side
ザァァ…
最近は雨が多い
今日も昼からずっと雨が続いている。
そういう時期なのだろうか。
一刀が、この雨になっても戻ってこない。
少しに心配になる。
近頃、暇ができれば一刀の事を考える。
春蘭や秋蘭が少し不機嫌になっているのだから、それはよほどなのだろう。
最初に会った時から、今まで出会った誰とも雰囲気が違っていた。
はっきりと自覚し始めたのは、やはりあの森での一日からだろう。
最初はかなり戸惑った。
なにせこんな感覚は初めてなんだから。
母様にもずいぶんからかわれた。かなり真剣に相談したつもりだったんだけど…
母に相談したのは失敗だったかもしれない。
最近はあのひとまで一刀にちょっかいを出し始めている。
娘の初恋を何だと思っているのか。
自分の親なだけに競争相手にもなれない。
やはり、そういうところで自分はまだ子供なんだと自覚させられる。
……。
………。
ほんとに、まだ戻ってこない。
もうすっかり居付いてしまった一刀の部屋で、その部屋の主を待つ。
落ち着かない気持ちの中、容赦なく振る雨の音だけが響く。
その音が不安を後押しするように、どんどん心配になってくる。
「迎え…いこうかしら」
/麗羽side
「陶謙さん!!」
勢いよく扉を開け放つ。
これから、何をどうやって問い詰めようか、思案しながら麗羽が叫んだ。
だが、
「あら…?」
「いないですねぇ」
その部屋には陶謙どころか誰もおらず、ただ机と寝台が置かれているだけだった。
ふむ。と何か考えるように麗羽が黙る。
「あの、麗羽様?」
「ん~…」
「麗羽様?」
「………。」
「麗羽さまっ!」
「きゃぁっ!な、なんですの!今考え事を…」
「さっきから兵の人がずいぶん慌ててるんですけど何かあったんでしょうか…」
斗詩がかなり心配そうな顔つきでそう告げた。
「あら、下々のものはいつも忙しいのではなくて?」
「そ、それはそうなんですけど…、なんだか普通じゃないっていうか…」
部屋の外を見ると、たしかに兵士達があわただしく走り回っていた。
その表情も尋常ではないもので、これから戦にでもでようかという面持ちだ。
「これは………」
「なんか、かなりやばい感じですねぇ」
「麗羽さま、これってひょっとして、前に言ってた曹嵩さんのところへ行く兵なんじゃ…」
「斗詩、猪々子、すぐにワタクシ達の兵のところへ向かいますわよ!」
「え?そんなとこ行ってどうするんです?」
「あ!麗羽さま!まってください~」
猪々子や斗詩の言葉を聞かず麗羽は袁家の兵達のいるの兵舎へ向かった。
ザワザワ……
袁家の兵舎。
そこには召集された兵が集まっていた。
血気にはやるもの。
不安そうにするもの。
納得のいかないもの。
さまざまな人間がそこに集まっていた。
そして、その先頭には今の袁家の長。袁成がいた。
「お母様っ!」
自分の母親に向かって、叫びかける。
「れ、麗羽?…あなたどこへ…」
「…お母様、お願いがありますの」
「…………あなたが何を考えているかはおおよそわかります。けれど、それがどういう意味かあなたは分かっているの?」
「わたくしは袁家の者として、こんなやり方はゆるせないだけですわ!」
「ならば、あなたは私に陶謙殿と戦をしろというのですね…」
「それは…」
「命を数で計ることなどしたくはありませんが、それでもせめて散っていく命を減らそうとするのは、いけない事かしら?麗羽」
「わたくしは……」
母親として、君主として、説き伏せられてしまう。
自分がどれほど、弱い存在なのかを上から押し付けられるように。
感情の波が瞳へと集まっていく。
溢れそうになるのをこらえながら、彼女は叫ぶ。
「でも…これは…っ…」
必死に自分の中にある言葉を選び、名家に生まれたというプライドの上に。
「こんなものは、名門袁家の者がやって許されることじゃありませんわっ!」
/一刀side
バシャバシャッ―――。
雨の中、水滴で服が濡れ、水溜りを踏むごとに汚れるのを気にすることもなく、俺は走っていた。
ひとつの予感を元に。
あの少女が言った言葉。
『もう終わりだから』
それがどういう意味か、ここまで見た夢を考えれば答えはひとつしかなかった。
夢の結末が、現実になろうとしている。
何をすれば、止められるのかわからない。
自分が刺客から彼女を守れるとも思えない。
あきらかに戦闘になれば足手まといになる。剣道をしていたとは言っても、それは戦争のない平和な現代の日本で培ったもの。
いつどこで戦が起こるかもわからない。戦でなくとも野に伏している賊などいくらでもいる。
そんな時代の人たちに、自分の剣などどれほど通じるだろう。
ましてや、相手は訓練された兵士だ。
普通に考えれば、自分だって殺される。
……でも、あの子は言ったんだ。
あの華琳と同じ顔で、『助けて』と。
それは、華琳を助けるのか、琳音を救うのか。
ずっと疑問だった曹操の親、曹嵩の存在。
彼女は曹操を戦乱から逃れさせようとしていたにもかかわらず、曹操は数年後に群雄として名を上げる。
だが、思い出した。
俺が曹操という人間について印象深く記憶した話。
『徐州での、虐殺』
それは、曹嵩が陶謙の手によって殺害されたという知らせを聞いた曹操が怒り狂い、その領地である徐州にて民を次々に虐殺していったという話。
ただのゲームや漫画のキャラだと思っていた曹操を一人の人間として考えてしまったきっかけ。
そして、それはこのまま俺がここへ来なければあの華琳がそれを行っていたということ。
そんなこと、させていいはずがない。
琳音さんだって、このまま死なせていいはずもない。
俺は…もう“あんな華琳”をみたくない。
琳音のところへ走り、もう目の前まできているというところで、足が止まった。
この雨で視界は利かない。
だけど、その分、水分を含んだ地面が普段より大きく地鳴りを伝えてくれた。
それを聞き、改めて彼女の言っていた言葉を思い出す。
『助けて…』
その意味は、琳音の命を…
それとも、華琳の宿命を…
そんなものは決まっている。
そして、兵たちが慌てだす。
誰かが叫んでいた。
陶謙の軍が来た、と。
その知らせと主に俺は琳音のところへ向かった。
「そんなもの…二人ともだろ?」
あとがき
9話でした!
今回は頑張って少しいいとこまで持っていけたんではないかと自画自賛全開でございます!
そして、この話に出てくる麗羽が綺麗すぎるとおもったあなた!
はい、たしかに彼女は馬鹿です。
馬鹿すぎるといっても言い切れないくらい馬鹿ですね。
でも、彼女にも思うところはあったんです。
彼女が乱世に介入するのは自分が出世したい、人の上に立ちたいからで、それからなんて考えてない、とても国を治められるような者ではないですが!
戦だって策もなく、ただ派手であればいいという馬鹿ですが!
それでも、名家として姑息な手だけは嫌なんです!
ド派手ならOKですが、陰険な殺し合いはNGなんです!
そして、馬鹿は悪い方へむけば原作の麗羽のようになりますが、いいほうへ向けば綺麗にもなれるはずなんです!
ただ、それを自分でそれを選べないだけなんです!馬鹿だから!
………とまぁ、長くなりましたが、こんな感じで思わず擁護してしまうほど小説かいてて麗羽が好きになりつつある和兎です。
これだけ連呼すると、誰かやるだろうと予測してしまうんですが、あえて何回馬鹿って言いましたかなんて聞きません!(ぁ
というわけで、ここからがアイムの山場となります(`・ω・´)
散々引っ張ってきた、夢に出てくる女の子。
琳音がこの先どうなるか等、僕も一番楽しみにしているところなんで、これからもヨロシクです!
では、この辺で!
Tweet |
|
|
81
|
3
|
追加するフォルダを選択
9話です。
ようやく自分の書きたかった場面まで近づいてきました。
てか、なんか麗羽ルートみたいになってきたけど、一応華琳メインのお話ですw
続きを表示