No.787833

ハイスクールV×D ライド002

龍牙さん

此れは異世界惑星クレイの聖域の王国を守る守護竜と、王の傍に立ち王と国を守った光の英雄と栄光を与えられず影ながら王国を守った影の英雄の持つ光と影の二つの剣を宿した少年の物語。

「オレは彼女を守る! 力を貸してくれ、ライド・ザ・ヴァンガード!!!」

なお、カードゲームはしません。

2015-07-06 03:29:33 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1766   閲覧ユーザー数:1713

「五峰君、すまないけど……ぼくと戦ってもらえないかな」

 

 オカルト研究部の部室。顔面に殴られた痕を付けられて壁にもたれ掛かって倒れている一誠と、一誠に駆け寄っているアーシア。リアスは一誠を殴り飛ばした四季を睨みながら、朱乃と小猫の二人は警戒しながらも、臨戦態勢に入っている。

 

 そんな中で黒い超兵装……ブラスター・ダークの使っていた剣を持った四季へと己の神器、|魔剣創造《ソードバース》で作り出した魔剣を四季へと突きつけている木場。

 

「良いだろう。受けて立ってやる……と言いたいトコだけど、こっちには受けるメリットが無いな」

 

 敵意は向けられているが木場の意識が向いているのは、四季ではなく彼の持っている剣。纏っているのは闇の力……魔剣と呼んでも良い代物では有るが、木場の目には影の英雄の使っていた漆黒の剣は魅力的に映っていた。

 

 あの魔剣以上の剣は|魔剣創造《ソードバース》では作れない。あの剣が有れば憎い聖剣を超えられる。

 

 奈落龍の血肉により鍛えられた漆黒の剣は木場の中に有る闇を魅了していた。

 

(忘れていたつもりだった……。だけど、あの剣があればぼくは超えられる……エクスカリバーを破壊する事が出来る。欲しい……コロシテデモ)

 

 影の英雄の剣と魔剣を持つ二人が互いに殺気を交わしながら睨みあう。

 

「分かったわ。貴方が勝ったら私達は悪魔として貴方に関わらないわ。祐斗が勝ったら「その剣を貰う」ちょっと、祐斗!」

 

 リアスの言葉を遮って木場の言葉が響く。所有者である四季が力に呑まれずに、対峙している木場が漆黒の剣の力に魅了されているのは……かつて堕天使が持っていた頃の逸話を知ってしまったからだろうか?

 

 影の超兵装……魔法と科学の融合によって誕生したその剣は、木場の神器であっても作り出す事はできない。……神秘に属する力だけでは、科学との融合によって誕生した超兵装を生み出す事は出来なかった、と言う事だろう。

 

 

 

 時は遡る……。

 

 

 

「五峰くん、ちょっと着いて来てくれないかな? 部長、リアス・グレモリー先輩が君を呼んでるんだ」

 

(昨日の今日で呼び出しか。必要以上に挑発しすぎたかな)

 

 四季へと視線を向けている木場を探るような視線を向けているが、その意図は……大体だが推測できる。先日からこっちを探っている様子があったから、それだろう。

 ……何処が原因で気付かれたかと改めて考えてみるが、恐らく剣道の時だろう。自然に素人……精々が剣道経験者程度の実力に見せるなどと言う器用な真似が出来るほど四季の剣士としての力量は高くない。

 

「本当は朝田さんも呼ぶように言われたんだけど」

 

「ああ、今日は別々に帰る予定だったからな」

 

「それで、来てくれるかい」

 

「別にどうでも良いが……無理矢理にでも連れて行くって顔してるぞ」

 

 はっきり言って着いて行く義理は無いが元々想定の範囲内、予定通りだ。観念したと言う表情で着いて行くと言うように見せかける。

 

「ナンだよ、折角部長、リアス・グレモリー先輩が呼んでるって言うのに、その態度は無いだろう!?」

 

 四季の態度に噛み付いてきたのは木場との会話を聞いていた一誠だった。

 

「この学校の全員が全員先輩に憧れてるとか思うなよ。オレは例外の部類なんでな」

 

 心の中で『オレには詩乃が居るし』と呟きつつ、一誠の睨みつけてくるような視線を受け流しながら木場の先導に従って歩いていくと、一誠とアーシアの二人も後ろから着いてくる。

 

 そのまま後ろから一誠に敵意を向けられるまま、木場の先導に従って歩いた結果、辿り着いたのは四季の予想通り旧校舎……オカルト研究部の部室の前だった。

 打ち合わせどおり、詩乃には最悪の場合の逃走時の援護の為にオカルト研の部室が狙える位置に有る狙撃ポイントについてもらっている。

 

「部長、連れてきました」

 

「入って良いわ」

 

(……そう言えば、平行世界の詩乃ってどう言う状況にあるんだ?)

 

 木場とリアスの会話の後に入って行く一同だが、ふと彼女の神器の能力で得た平行世界の彼女の能力について考えてしまう。

 弓使いにスナイパーはまだ良いとして……彼女自身恥ずかしがって滅多に使わないが、弓使いのケットシーらしい猫耳姿については、そう言う世界も有るんだと無理矢理納得した。

 

(あー、でもあの姿は可愛かったな……普段の詩乃も良いけど青い髪も似合ってるな)

 

「ちょっと、聞いてるの!?」

 

「え? 何か言いました?」

 

 目の前で#マークを頭に貼り付けながら、テーブルを《バンッ!》と叩いていてたが、塔の四季は詩乃の事を考えていて何も聞いちゃいなかった。

 

「言ってたわよ! か・な・り、大事な事を!」

 

「すみません、どうでも良いんで聞き流しました」

 

「あ・な・た・ねぇ!!!」

 

 怒りに震えているリアスを、あらあらと言った表情で楽しげに長めている朱乃。

 

「もう前置きは良いわ! 単刀直入に聞くわよ、これは貴方ね!」

 

 そう言ってテーブルの上に叩き付ける様に置かれた写真に映っていたのは、愛用の白い仮面と白い剣……超兵装ブラスター・ブレードを持って駒王学園の制服を着た四季の姿が映っていた。

 

「そうですけど。まあ、昨日から散々付回しておいて、此処でオレが『違います』なんて言っても納得しないでしょ?」

 

「そうね。祐斗の見た印象だけだったけど……無意識での動きが明らかに他の人は違うそうよ」

 

 深呼吸して心を落ち着かせながらリアスは言葉を返す。

 

「それで、態々呼び出して何の用なんでしょうかね?」

 

「ええ、単刀直入に言うわ。五峰四季くん……貴方、私の眷属にならない?」

 

「……先輩達の性癖については特に言う事は無いですけど……学校でそんな物を研究するのは、モラルの問題が有ると思いますが」

 

 激しく『眷属』の意味を変な方向に勘違いした風に言ってみる。

 

『違う!!!』

 

 即座に一同……と言うよりもアーシア以外の全員から否定された。一人アーシアだけが何かよく分かっていない様子だった。

 

「いや、変態と同性愛者が居るからそうなんじゃないかと」

 

「変態と同性愛者って誰だよ!?」

 

 四季の言葉に怒鳴ってくる一誠と木場を指差す。

 

「お前が変態で、木場が同性愛者」

 

「違うからね!!!」

 

「そして、部長がそう言う性癖……と」

 

「だから違うわよ!」

 

「後の三人もどんな変態的な性癖なんだか? オカルトが隠れ蓑で……」

 

『だから違うって言ってるだろう(でしょう)が!!!』

 

 散々と叫んだ後深々と深呼吸して呼吸を整えると、リアスは四季へと向き直り言葉を放つ。

 

「単刀直入に言うわ、私達は“悪魔”なの」

 

「へー」

 

 まあ、知っている事なので気のない返事を返しておく四季君。目の前では四季以外の全員がコウモリの様な翼を広げていた。確かに仮想とも思えないそれは、十分に悪魔だと言う事の証明になるだろう。

 

「それで、貴方は何者なの?」

 

「純度100%の人間。|神器《セイクリッド・ギア》持ちですが」

 

「そう、貴方の持っている神器は……」

 

「剣じゃ無いですよ」

 

 聖剣を作り出す|聖剣創造《ソード・ブラックスミス》と魔剣を作り出す|魔剣創造《ソードバース》。光と闇の剣を持っている姿から誤解されていると思ったので捕捉しておく。

 本来の神器や二つの超兵装と言う手の内を隠すという意味では、それを黙っているのも手だが他者を殺して神器を奪ったり、|聖剣創造《ソード・ブラックスミス》と|魔剣創造《ソードバース》等と言う弱い神器の所持者と思われたくない。

 二つの超兵装は正しくは神器に封印された守護竜の守っていた代物を借りているだけであり、本来の四季の神器はまったくの別物である。

 四季の剣士としてのプライドと拘りの為に滅多な事では使わないが。剣技は全て純粋な努力により学んだ物だ。

 

 四季にとって|聖剣創造《ソード・ブラックスミス》と|魔剣創造《ソードバース》の二つの神器は価値は龍の手以下の代物である。

 剣を作り出すその二つの神器は剣士を弱くさせる神器と考えている。己の命だけでなく守るべき物も預ける事のできる剣と共に有ってこそ|真《まこと》の剣士と考えている故に、そんな物に頼っている内は剣士としては未熟だと、思っている。

 

「眷属にならない、って言うのは簡単に言えば私たちの仲間、悪魔にならないか? って事なのよ」

 

「なるほど、人間辞めますか、と言うお誘いと」

 

「……人聞きの悪い言い方だけど、それで間違ってないわ」

 

「お断りします」

 

 そう言って周囲に居る眷族達を見回した後、リアスへと視線を止める。

 

「そもそも、貴女達の仲間になるメリットがない」

 

「あら、メリットなら有るわよ」

 

「長く生きられるとか、ハーレムとかなら興味ないですけど。オレにとって手放したくない相手は一人だけですし、彼女の居ない人生なんて……単なるロスタイム、何の価値も無い」

 

 ならば、そのロスタイムでする事は、死後に再会した時に喜んで貰えるように最大限彼女の最後の願いを叶えるだけだ。と心の中で付け加えておく。

 

 それ以前に長く生きた所でダラダラと長く生きた10年よりも、より密度の濃い1年、いや一日にこそ価値があると考えている。そんな四季にとって価値のある生とは詩乃と共に生きる生だけだ。

 

「それに……忌々しいと言う理由で自分の力も満足に使わないハンパな女王」

 

 そう言って朱乃を一瞥すると、言っている意味を理解したのだろう……ニコニコとしていた彼女の表情が凍りつく。

 

「自分の力を恐れ、逃げている戦車」

 

 羊羹を食べていた手が止まり小猫の表情が強張って四季へと驚きに満ちた視線を向ける。

 

「八つ当たりしか出来ない、心も含めて全てにおいて半端な剣士として三流の騎士」

 

 木場の表情に浮かぶのは暗い怒りの感情。

 

「優しいのだけは認めてやるが、考え無しの行動……。同じ場所に居た仲間の命を踏みにじる行為をした僧侶」

 

 驚きの感情が浮かぶアーシア。そして、四季は最後にリアスへと向き直る。

 

「そんな奴等の仲間になりたがるとでも思ったか?」

 

「貴方……何処まで知ってるの?」

 

「さあ、姫島先輩のご両親とか、小猫ちゃんのお姉さんの事とか、そこの同性愛者の過去とか、アルジェントさんの転校前の事とか……ですかね」

 

 彼の言葉を聞いて表情が険しくなるリアスを他所に四季は笑みを浮かべながら、

 

「あとは……貴方が扱えない、もう一人の僧侶の事とか。自分の手持ちの駒も満足に使えない王の元に好き好んで着きたがる奴は居ないと思いますが」

 

 嘲笑を浮べて告げる四季の言葉、それに対して平静を装いながらも、リアスは内心で憤っていた。

 そんな彼女の心情を予想しているが、己の内に在る守護竜の記憶と、光の超兵装の記憶……ブラスター・ブレードが側に立つ聖騎士達の王の姿。詩乃を守る為に彼女に剣を預けた身の上だが、少なくとも……惑星クレイの聖騎士達を統べる騎士王と比べるとリアスは王として圧倒的に見劣っている。

 二つの意味で四季が彼女の眷属になる理由は無い。

 

「はっきり言おう、オレは既にオレの一番大切な人に剣を預けているし、貴女はオレが剣を預けるべき相手じゃない」

 

 そう言ってソファーから立ち上がり、

 

「貴女はオレが仕えるべき主君じゃない」

 

「テメェ!!!」

 

(……そう言えば、結局コイツだったな……最弱の赤龍帝)

 

 四季の言葉に真っ先に激怒したのは一誠だった。先ほどの他の眷属達に対する言葉……理由こそ分からないが、その言葉に今までに無い態度を見せていた事は理解し、その上でリアスに対する暴言に対して怒りが爆発していた。

 

「就くべき主を見定めるのは必用なことだと思うぞ、変態」

 

「テメェ! 部長の何が不満なんだよ!?」

 

「……全部言って良いのか? リアス・グレモリーの王として至らない点を」

 

 あの後、誰が赤龍帝なのか調べたが、一誠で有った事は頭を抱えたくなった。

 

「自分の領地に堕天使やハグレ悪魔の進入を許す管理能力の低さと、敵から舐められている能力」

 

 四季の言葉に一誠の顔に怒りが浮かぶ。はっきり言って短期間に堕天使やハグレ悪魔に進入された上に禄に対応も出来て居ない。四季にしてみれば能力に対して疑いを持たずに入られない。

 ……はっきり言って、其処まで舐められている以上一番大切な人の安全を託すに値しない。

 

「第二に先日の婚約破棄の件」

 

「なっ!? それの何処が悪いって言うんだ!?」

 

「少なくとも、自由に結婚相手を選べないのは貴族と言う者の……恵まれた人生に対する対価だ。加えて、その為の合宿に対しては家の力で施設を用意して、学校を公欠扱いにするとか……家が決めた事に反抗するのに、家の権力に頼ってどうする?」

 

 そう言いながら四季はリアスへと視線を向けて溜息を吐く。メリットが有る以上、デメリットも受容れるべきだ。

 

「義務はイヤだけど家の権力は好き勝手に使う……随分と甘えた考え方だな」

 

 怒りの表情を浮べている一誠を無視しつつ、四季は更に言葉を続ける。

 

「理解しているかどうかは疑問だけど、貴族同士の結婚なんて色々は思惑が重なる物……身内以外にも色々とな。結果的にゲームに勝った上での婚約破棄なら兎も角、ゲームには負け……っと」

 

 尚も言葉を続けようとした四季の言葉を遮るように振るわれた一誠の拳をバックステップで避ける。

 

「やれやれ、随分と沸点が低いな……」

 

「テメェ、部長を馬鹿にするのもいい加減にしろよな!!!」

 

「馬鹿にしたつもりは無い。オレが王として仕えるには足る相手じゃない、その理由を言わせて貰っただけだ。大体、お前が言わせたんだろうが?」

 

 尚も殴りかかってくる一誠の拳を避けながら、そう言葉を続ける。

 

「それに、お前もお前だ。どうやったかは知らないけど、勝つ方法が有るなら最初から使え。相手との間に実力差が有る事は分かりきっていた筈だ。……そんな相手にちょっと特訓しただけで何のリスクも無く勝とうなんて考えている時点で、王としての采配にも問題が有る」

 

 四季にとって己の敗北は自分の命よりも大切な人である詩乃の身の危険に晒すと言う事に繋がる。

 ……だからこそ、試合とは言え自分の人生の掛かった戦いでそんな采配ミスをしたリアスを王として頂く事は出来ないのだ。

 

「うるせぇ、オレ達だって10日間必死で努力したんだよ!」

 

「決められた数字をか? 普段の十倍努力したって、そんなのは意味は無い。本気で努力するって事は目標を達成するまで続けるって事だ」

 

「テメェ!」

 

「アンタの采配ミスでの敗北でオレまで大切な者を失うのはゴメンだ。……だから、リアス・グレモリー先輩……アンタの為に振るう力は無い。以上だ」

 

 更に殴りかかってきた一誠を避けると同時に足払いを掛けて転ばせると、リアスに向かってそう言い切り、部室から退出しようとする。

 

「ふざけるな! 大体お前がさっきから言ってる大切な奴なんて、あの“人殺し”の事……っ!?」

 

「イッセー!?」

 

「イッセーさん!」

 

 立ち去ろうとする四季の背中に向かって罵倒の言葉を続けようとした一誠の視界一杯に広がったのは四季の拳。顔面を殴り飛ばされた一誠はそのまま壁にぶつかるまで殴り飛ばされる。そんな一誠に駆け寄るアーシアとリアス。

 

「……オレへの侮辱だったら幾らでも言えば良いさ……。だけどな……」

 

 静かに告げられる憤怒の言葉……横に伸ばした手に現れるのは、先端が二股に分かれた漆黒の剣……惑星クレイにて影の英雄と謡われたブラスター・ダークの振るった漆黒の超兵装。

 

「あいつの事を何も知らないで、あの時の事を持ち出して詩乃を侮辱するなら……殺すぞ、駄龍」

 

 怒りの言葉と共に奈落龍の血肉にて鍛え上げられた漆黒の剣を一誠へと突きつける。

 

 

 

 それが四季と一誠達の決闘が始まった経緯である。

 

 

 

 四季が木場と黒い超兵装を掛けて戦う事が決まった結果、校庭のど真ん中で木場と対峙する事になった四季だが、外や校舎内からの注目が無い事からその手の結界が用意されている事が容易く理解できる。

 

 本来なら一騎打ちだった筈なのだが、

 

「部長!!! オレにもやらせてください! こいつだけは、こいつだけはぶん殴らないと気がすまないんです!!!」

 

 四季のパンチのダメージから早々に回復した一誠がそんな事を叫んでいた。それを受容れたリアスによって急遽二対一の対決になってしまった。

 ……内心では対戦相手に了承を取れとも思うが……まあ、先ほどのやり取りから分かるように、今の一誠では四季に一人で勝てないのは明白……木場との二人ならば勝ち目が有るのではとの判断だが……。

 

(不可視、人払い……どっちにしても、撤退する時に詩乃からの援護が有れば楽なんだろうけどな……)

 

 最悪は結界事態を破壊してしまえば良いのだが、超兵装の最大出力を使う為、それはなるべく獲りたくない手段だ。流石に此方の様子が向こうから把握できていないと援護も期待できないだろう。

 

「……それじゃあ、行かせて貰うよ!」

 

 その言葉と共に木場は四季へと肉薄する。騎士の駒で転生した転生悪魔である木場のスピードは眷属の中でもトップだ。そして、その突き出した手には何時の間にか西洋剣が握られている。

 自分の最大の武器であるスピードを最大限に活かしたその一撃は確実に四季を殺りに行くものになるだろう。

 

「ふっ!」

 

 その突きに合わせて漆黒の剣を一閃すると木場の持っていた剣が半ばから切り裂かれていた。それと同時に四季は地面を蹴って木場の既に突進にしかならない一撃を回避する。

 

「くっ! まだだ!」

 

 続け様に繰り出されるのは上段斬り。だが、同じ様に漆黒の剣による一撃で刃を砕かれる。四季はそのまま振り上げた剣を振り下ろす。同時に四季の動きに合わせて斬られた剣を投げ捨て木場も新たな剣を作り出して楯にする。木場が新たに生み出したのは大剣、振り回すには向かないが純粋に楯にする為に作り出した物だろう。

 

「ぐぅ!」

 

「やっぱり、三流剣士だよ……お前は」

 

 剣やソウルセイバー・ドラゴンの記憶の中の|至高の剣士《ブラスター・ブレード》の姿を目標に……己の全てとも言うべき少女を守る為に技を磨いた。

 主さえも支配する武器……超兵装《ブラスター・シリーズ》。いや、それは言い方を変えれば武器が戦う為に戦士を利用すると言う事が出来るだろう。だが、そんなブラスターの名を冠した武具を持った戦士達の中で唯一力に呑まれることのなかったその姿は、

 

「剣と心と体、全て揃ってこそ真の剣士だ」

 

 四季にとっての理想とも言える姿だ。

 横凪に放たれた斬撃を上に飛んで避け、そのまま木場へと踵落としを放ちながら着地する。

 

「心技体が揃うのは一流であって、剣と共にあってこその《真の剣士》だ」

 

 最後の踵落としが決まってそのまま地面に倒れた木場を見下ろしながら宣言する四季に今度は一誠が殴りかかってくる。

 

「ッテメェ!」

 

 追撃するでもなく、一誠へと視線を向けるでもなく剣を持った手を下げている四季に激昂した一誠が殴りかかってくる。だが、一誠の名誉の為に言っておくと別に四季は一誠の事を舐めている訳では無い。一誠の持つ神器|赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》の力は長期戦になれば脅威としか良い様が無い代物だ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!! |赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》ァァァァァァア!!!」

 

 素人同然の拳で我武者羅に四季を殴ろうとしてくるが、四季はそれを紙一重で避けていく。

 

「ふっ!」

 

「ガハッ!」

 

 その中の一発に合わせて剣の柄の部分で一誠の鳩尾へとカウンターとなる一撃を入れる。熱された金属でも呑んだかのような痛みを覚える一誠だが、当の四季は追撃するでもなく背中を向けて下がって距離を取る。

 

「こ、こいつ……」

 

「ほら、回復するまで待っててやるからゆっくり休んだらどうだ?」

 

「オレは悪魔だぜ……人間なんかに……神器だって……」

 

「はぁ。何か勘違いしてる様だから教えてやる」

 

 自分が悪魔だから、|神滅具《ロンギヌス》の一つを持っているからと言って未だに何処か四季の事を舐めている様子の一誠を一瞥し、

 

「化け物を倒す英雄は……常に人間だぜ。好きなだけ休んでからかかって来いよ、最弱の龍帝。序でに倍加も出来て便利だろ?」

 

「このォ野郎!!!」

 

 四季の挑発に激昂した一誠が殴りかかってくるが、怒りで我を忘れた拳は大降りになり単調さも増す。避けるのも容易い。

 

(こんな挑発に簡単に乗ってくるなんてな)

 

 そもそも、倍加の能力はそれなりに警戒している。……長期戦になればなるほど、偶然の当たりでさえ決定打になりかねない。……それに、味方を持っている時ほど警戒しなければならない《譲渡》の方も有るのだ。

 あんな風に挑発すれば直ぐに攻撃を仕掛けてくるだろうと予想していたが、予想以上に狙い通りに動いてくれている。

 

「せーの!」

 

「て、うぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

 その中の一発をしゃがむ形で避けて一度剣を地面に刺し、開いた両手で一誠の腕を捕獲、そのまま一本背負いの要領で投げ飛ばす。当然受け身が取れる様な投げ方はしない、一誠を投げ飛ばした直後に彼の腕を放している。

 

「ぼくもまだやれるよ!」

 

「ああ、知ってる」

 

 横から切りかかってきた木場の魔剣を素早く引き抜いた剣で受け止める。二つの剣がぶつかり合った時、力負けてして折れたのは木場の持つ魔剣の方だった。

 

「木場、譲渡すっぞ!」

 

「やるしかないね!」

 

「っ!?」

 

 一誠の声を聞いて距離を取る。警戒していた力なので、相手の動きに対応し易い位置を取った訳だが、

 

「行くぜ、|赤龍帝の贈り物《ブーステッドギア・ギフト》!」

 

「|魔剣創造《ソードバース》!」

 

 一誠の倍化された力を得た木場が四季の足元に剣の森を作り出す。足元と言う位置からの不意打ちに近い攻撃、対応できたとしても確実に隙は出来るだろうと予測していた。それを予期して木場は両手に魔剣を作り出す。だが、

 

「甘い!」

 

 四季は足元から次々に出現する剣を次々に足場にして|跳躍《ジャンプ》しながら上空へと逃れる。

 

「嘘だろ……?」

 

「でも、空中なら逃げられない!」

 

 四季の動きに唖然としている一誠とは対照的に、木場は四季を……否、四季の持つ漆黒の超兵装の剣を見据えながら両手に作り出した魔剣を持って四季を居って跳躍する。

 

「人間の知恵と努力を舐めるな!」

 

 漫画を読んでいて出来るかと思って試した結果、上手く形になった技術だがそれによって戦闘での自由度は増した。

 

 

 ―|虚空瞬動《エアダッシュ》―

 

 

 足場に一時的に用意した気弾を足場にしての加速と気弾を爆発させる事によって得られる加速を使っての空中移動。自分を吹き飛ばすと言う一点のみに特化させ、破壊力を抑えているが当然ダメージは受ける。その為になるべく使いたくは無いが。

 

(その内完全再現してみるか)

 

「なっ!?」

 

 四季の行なった芸当を知らない為に重力に任せて自由落下するしかない四季が空中で軌道を変えた事に驚く木場だが、それが逆に隙を生む事になる。

 

「ガハッ!?」

 

 

「祐斗!!!」

 

 

 咄嗟に楯にした二本の魔剣を容易く粉砕し、四季の剣は木場の体を切り裂く。致命傷にはなりえない浅い一撃だが、そのまま木場は力なく校庭へと落下する。その姿にリアスは悲鳴に近い叫び声を挙げる。

 

「負けられない……その剣が……その剣があれば、聖剣を超えられるんだ!」

 

 両手持ちの巨大な大剣を作り出して持ち振るう木場。避ける事は簡単だが、

 

「自分の最大の武器や技まで見失ったか。バカな奴だ。今のお前は三流以下だぞ」

 

 避けてトドメを刺す事も出来るが、これ以上長々と戦う気は無いため、確実に終りにする為の一撃を選択する。今の四季ではリスクが有る可能性が有るが……それでも、使えない技ではない。

 

「引導を渡してやる。兵装展開」

 

 漆黒の剣の刃が展開し、そこから光の刃が伸びる。漆黒の光によって作り出されたエネルギーの大剣。

 

「一閃、バーストスラッシュ!」

 

 四季の閃光の刃が木場の魔剣とぶつかり合った瞬間、それを粉砕し、そのまま木場の体が吹飛ばされていく。

 

 

―ウシナウノガツライカ―

 

 

「っ!?」

 

 展開した刃が元の形に戻ると同時に剣から伸びる漆黒の靄が四季の腕を包む。

 

「しまっ!?」

 

 ブラスターシリーズの力への誘惑……最大出力とまで行かなくても有る程度の力を発揮するとこうして襲われる事がある。それは、まだブラスターシリーズの主として認められていないからだろう。

 

「四季!」

 

「っ!?」

 

 力に呑まれそうになる中、自分を呼ぶ声が聞こえる。此処には居ないはずの四季にとってすべてと言うべき少女の声が……。

 

「……詩……乃……?」

 

 四季は力に飲まれそうになる四季を引き止めるように抱きとめてくれた彼女の名を呼ぶ。

 

 

 

(危なかった……)

 

 剣の記憶と言うよりもブラスター・ブレード……彼が剣を手にする前、アーメスと名乗っていた頃の記憶だろうが、彼の仲間だった男がブラスターシリーズの槍に飲み込まれていく様を見ていた。

 故に一度乗り越えることが出来ても、出力を上げる度に同じ様な事が起こる状況は、四季自身を剣が拒絶しているとしか思えない。

 理解している。二振りの剣は真の主と言うべき光と影の英雄が居る。ならば、自分が使っているのは剣達にとっても不本意なものだろう。

 その度にこうして詩乃の声に引き戻して貰っている。

 

「……ごめん……それとありがとう。さっきは危なかった」

 

 肉体は疲労していないが精神はかなり消耗してしまっている。それでも戦えないことは無いだろうが、流石に長期戦は無理だろう。

 

「祐斗、祐斗!」

 

「木場、しっかりしろ! アーシア早く治してやってくれ!」

 

「は、はい!」

 

 グレモリー眷属は四季の一撃に吹飛ばされた木場に駆け寄って彼の治療を行なっていた。……内心、やりすぎたとは思うが、決闘の最中と言うのを忘れては居ないだろうか。流石にこれで治療した木場の再投入は幾らなんでも反則だろう。とは言え、先ほどの四季の一撃は下手をすれば致命傷にもなりかねない一撃だった。

 

「そんな!?」

 

 僧侶の駒の転生悪魔であるアーシアの|神器《セイクリッド・ギア》は回復型の神器である|聖女の微笑み《トワイライトヒーリング》。だが、その回復型神器の力でも四季の一撃で負った木場の傷は中々癒え様としない。

 

(今の内に退くべきか?)

 

 流石に不意打ちで一誠を叩き伏せる気は無いが、それでも態々決闘の最中に木場の回復を待ってやる道理は無い。

 

「それで、どうしてこうなったの?」

 

「色々有って変態を殴ったら、今度は木場に剣寄越せって絡まれた」

 

 そう聞いてくる詩乃に対して必要最小限な部分だけで端的に説明する。特に一誠を四季が殴った理由とか。

 

「それを?」

 

 詩乃の視線が四季の持っている漆黒の剣へと向かう。超兵装ブラスターシリーズの危険性は彼女も良く知っている。……と言うよりも四季が力に飲み込まれそうになった時に引き戻した事が有る。特に超兵器ブラスターシリーズの危険性については。

 

 |神聖国家《ユナイテッドサンクチェアリ》を影より守る|影の騎士達《シャドウ・パラディン》。だが、その前身となったのは聖域と言う光より生まれし影、聖域の暗部。

 その前身となったシャドウ・パラディンに所属する者にブラスターの名を冠する武具を持った者が所属する事からも、その危険性が理解できるだろう。

 

 だが、ブラスターシリーズは危険であると同時に強力な武器でも有る。後にブラスター・ジャベリンと呼ばれる事となる男は、初めて手にした時その武器の桁違いの違いの力に驚愕するほどだ。

 

「帰るか?」

 

「そうね。今日は買い物に付き合って貰おうと思ったのに」

 

「んー、詩乃の買い物になら何時でも付き合うさ。オレにとって詩乃と一緒に居る時間が一番大事なんだからな」

 

 

「待ちやがれ!」

「待ちなさい!」

 

 

 二人がそんなグリモリー眷属に背中を向けて帰ろうとした時、一誠とリアスが二人を呼び止める。

 

「木場は負けたけど、まだオレは負けてねえぞ!」

 

「……それじゃ、木場はリタイアって事で良いのか?」

 

「ええ、アーシアの神器でも治療に時間が掛かるみたいだしね」

 

 険しい表情で四季を睨みつけながら木場のリタイアを認めるリアス。一歩間違えれば木場は死んでいた危険性もある。彼女としても自分の眷属を此処まで傷つけた四季をただで済ませる気は無いが、元々は此方から持ちかけた賭けと決闘。

 同時に一誠の『兵士』の駒の能力であるプロモーションも、自陣である駒王学園では使えない。一誠一人では四季に勝てないのは分かっているから、悔しく思いながらもこう決断するしかない。

 

「認めるわ。今回は私達の負けよ」

 

「部長!? なんでですか!? オレはまだやれます!」

 

「そりゃ、お前には攻撃してなかったからな」

 

「殴ったんじゃなかったの?」

 

「それは別」

 

 実際先ほどの決闘では一誠よりも殺す気で四季に向かってきた木場の相手に集中していたので、一誠の事は殆ど無視に近い状況だった。

 

(迂闊だったわ)

 

 悔しげに心の中でリアスはそう呟く。S級はぐれ悪魔を討伐したと言う情報は前もって得ていた。……だと言うのに油断していた。完全に四季の実力を甘く見ていた。……人間だと言う理由で、だ。

 リアス自身、パートナー……今四季と合流している詩乃の存在も端的な情報から聞いていたことで、S級の討伐も二人で行なった物だろう考えていた。加えて聖剣……悪魔にとって毒となる聖剣を持って当たればそれだけで勝率も上がる。勝手にS級ハグレ悪魔討伐の功績は聖剣を使って二人がかりだったから討伐できたと思い込んでいた。

 光の剣では無く影の剣を使ったこと、パートナーが不在で単独での戦闘。一誠と木場の二人ならば十分に勝てると思ってしまっていた。

 結果、一誠の譲渡を使ってさえかすり傷一つ負わせる事無く、木場が大怪我を負う事となった。

 

 リアスとしてもライザーを倒した時のように彼の神器である|赤龍帝の籠手《ブーステッド・ギア》が|禁手化《バランスブレイク》すれば勝てるとは思っているが、今の一誠ではそれは無理だ。

 

「それじゃあ、約束は守ってくれ、先輩」

 

「ええ、分かってるわ」

 

 そう言って手を振って立ち去って行く四季と詩乃の二人。

 

「部長!?」

 

「今は祐斗の治療をするのが先よ」

 

 一誠の言葉にそう応えながら一つの答えに行き着く。

 

(彼の剣が神器じゃなかったなら、彼の持っているって言う剣は、|聖域の守護竜《サンクチュアリ・ドラゴン》が持ち去ったって言うあの……。もしそうだとしたら、下手に彼を刺激しない方が良いわね)

 

 魔王である兄への報告もしつつ、今後の四季への対応は改めて考える必要がある。

 

(取り合えず、イッセーに失言を謝らせる所から始めないと)

 

 まだ怒っている一誠をどうやって説得するべきかと言う所に頭を悩ませるリアスだった。

 


 
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