(午前0:00 中立地域のピーアプローの丘)
満月の夜、ルカに変身したソニカとテル、そして完成版魔法陣を詰めた杖を持ったアペンドの両陣営が、クリプトン王国とアフス帝国の中間に位置する中立地帯にある“ピーアプローの丘”で対峙してました。この3名がそれぞれ“見える”範囲には、この3名以外いないようでした。
テル「…アペンド、本当に一人で来たんだな。それも“本物の完成版魔法陣を詰めた杖”を持って…」
アペンド「そちらも約束通り、ルカさんをちゃんと連れてきたようだな。ただ1つお願いしたいことを言わねばならんが、いいか?」
テル「未完成版の魔法陣の事か?」
アペンド「そうだ。コピー可能とはいえ、あれは危険なものだ」フォーリナーの3人の件でわかったと思う。あれは、コピーしたものを含めて全部消して欲しい。この完成版があれば問題なかろう?」
テル「…ふっ、まぁいいだろう。完成版さえ入手できれば、あんな面倒な物は用済みだからな。無論、お前も消すのだな?」
アペンド「勿論、約束しよう」
テル「さて、そろそろ取引に移ろう。わかっていると思うが、私はルカさんを、お前はその完成版魔法陣を差し出して交換することで、今回の件は終わる。実にシンプルだ」
アペンド「・・・・・・シンプル故に、小細工も簡単にできる」
テル「…なるほど、まだ確認作業が必要だ、ということか。そう言うことなら、こちらも確認させてもらうぞ?」
アペンド「勿論だ」
お互いに探りを入れるのは、当然のことであり、テルもアペンドもここまでの展開は読んでいたのでした。しかし、ここから先、それぞれがどういう探りを入れてくるのかは、実はお互い、はっきり解らなかったのでした。
アペンドはお互いの中央付近に杖から魔法陣を投影させて、使える状態にし、テルはルカに変装させているソニカを前に出し、更に中央の魔法陣に、持っていたリンゴを置いたのでした」
テル「さて、魔法陣へ細工を入れるのは簡単だが、ルカさんに何かするのは一般的に難しいと判断できる故、私から確認させて貰うが、それで構わないな?」
アペンド「お互い、必ず確認作業をする約束を守るなら、構わないが?」
テル「したたかだな、まぁいい。約束しよう」
アペンド「なら、やるがいい」
テルは一歩前に出て、腕組みをし、魔法陣の上のリンゴに向かって、命令を下したのでした。
テル「魔法陣! そのリンゴをアキハバラに転送せよ!」
ギューーーーーン!
すると、リンゴの周りに、これまでと同じように金色の粒子が回転しながら取り囲み、リンゴを包み、下から消していき、そして完全にリンゴを転送してしまったのでした。
テル「さて、これからが重要だ。未完成版なら同時に、向こうのリンゴがこちらに転送してくるはずだが?」
シーン
テルの予想は意外にも裏切られたのだった。未完成版なら間違いなく転送されてくるはずの対応するリンゴが、現れなかったのでした」
テル(何!? まさかこいつ、本当に本物を持ってきたというのか? そんなはずはないのだが…)
アペンド「完成版であることは、わかったな? ではこちらも確認作業をさせて貰う」
テル「い、いいだろう(ソニカの変装は完璧、言葉遣いも注意しておいた」バレはしない…)」
アペンド「では、質問させてもらう。こちらに助けにすら来た、あなたの無二の友人の名前は?」
ルカに変装したソニカ「ミクさんです」
アペンド「…では、彼女と同居していた貴方なら知ってますよね? そのミクさんの大好物の料理の食材は、何?」
ルカに変装したソニカ(え!? そんなの知らないわよ!?)
アペンド「・・・・即答ではないのですか?」
ルカに変装したソニカ「え・・・えっと・・・・・み・・・ミカン?」
アペンド「・・・・・・テル、謀ったね? 答えは“葱”だ。そのルカは、おそらくフォーリナーの連中だな?」
シューーーン!!!
ルカに変装したソニカは、変装を解いてしまった!
ソニカ「テル! 見た目や立ち居振る舞いだけで大丈夫じゃなかったではないか!」
テル「くっ・・・・・・」
アペンド「私は本物を持ってきたが、お前は偽物を持ってきた。取引を成立させるなら、“本物のルカさん”の所に案内して貰おうか!」
しかし、ここでアペンドにも予想していなかった事態が発生してしまったのでした!
ザッ!
ミク「このやろーーー!!!!!」
バシュ!バシュ!バシュ!
茂みで隠れて取引を見ていたミクが、我慢できなくなって飛び出してしまったのでした! ミクの撃った“疾風弾”は、ミクが慌てていたため、ソニカが軽く回避してしまったのでした!」
テルはニヤリと笑って、アペンドに言葉を発したのでした。
テル「どうやら、お前も約束破りをしたようだな。ココへは“一人で来る”約束だ。これでお前の一方的な命令には、従う必要がなくなった。ルカはまだ我々が預かることにする。そして、その“完成版魔法陣の杖”は・・・・・我々が頂く! 行け! ソニカ!」
ソニカ「言わずもがな! お前らを斬り裂いて、杖を頂く! まずはその、ミクとやらからだ! それもこの姿でな!」
ギューーーーン!
ソニカはあろう事か、またルカに変身し、隠し持っていた短刀で、ミクに斬りかかろうとした!
ルカに変装したソニカ「この姿の人物には、銃口は向けられないだろ? どうだ?」
ミク「うっ・・・・撃てない・・・・撃てないよ・・・・」
ルカに変装したソニカ「死ね!」
ガキーーーーーン!
その音は、刃と刃がぶつかる音でした。ミクの近くで潜んでいた“学歩”が抜刀して、ルカに変装したソニカの短刀を受け止めたのでした。
学歩「おまえの相手は私でござる。それとそんなやっつけの変装、私にはきかん、さっさと元の姿に戻るでござる!」
シューーン!
ソニカ自身も動きづらい姿だったので、元に戻ってしまったのでした。
ソニカ「なら、100%の力でお前の相手をしてやる」
学歩「上等でござるよ。ミクさんはリンレンの所に行って、守って貰うでござる!」
ミク「は、はい!」
リンレンは、主にテルから攻撃が来るであろう事を予測して、結界を張っていた。そこにミクが合流しました。
リン「危なかったね」
レン「相手はあの軍政国家の兵士だから、ミクさんじゃ無理だよ」
ミク「はい、ごめんなさい…」
ところで、その問題のテルだが、アペンドと対峙していたのでした。
テル「その杖以外、全て約束破りだとはな」
アペンド「だが1つだけ役に立つ事もある」
テル「・・・・・・・私にルカの所まで案内させることだな?」
アペンド「言わずもがな。しかしお前が、ルカさんの場所に何かを仕掛けた事も考えられる。強引な方法は危険だ」
テル「さすがだな。しかし安心しろ、あのルカさんは、お前の国の姫と違って“有能”だ。こんな契約1つのために、殺すような仕掛けはしてない」
アペンド「それは安心した。で、『ルカさんの所に案内する』事を約束する条件はなんだ? お互い約束破りだ。どうせ一方的に命令しても、やらないだろ?」
テル「ご察知の通りだ。そうだな…では、あのソニカと剣士の勝負、こちらが勝ったら、杖を置いてお引き取り願おう」
アペンド「学歩が勝ったら、素直にルカの元に案内してもらう、そういうことか?」
テル「その通りだ。お互い、国に秘密で行動しているのだ、おおっぴらな国の取引にはしたくあるまい?」
アペンド「いいだろう。どっちにしろ、学歩には勝って貰わないといかんからな。ただ戦闘中に余計な心配をかけたくないのは、お互い様だ。これは私とお前の約束事にするべきだな」
テル「了解だ。では戦闘の様子を見ていることにしよう」
こうして取引は、学歩vsソニカの戦闘に変わることになったのでした。
二人は鍔迫り合いを起こして刃を交わして、がっぷりよつの状態でした。
ギギギギ…
学歩「ぬぅぅ、さすがフォーリナーの兵士、なかなかやるな?」
ギギギギ…
ソニカ「さすが異国の剣士、刀の使い方を知っている…」
ガキン!
二人はお互いに一度刃を倒してすれ違い、鍔迫り合いをやめ、間合いを取ることにしました。
ソニカ(う~む、剣術の腕はほぼ互角か…。まだ弱点がわからない故、こちらがアドバンテージを取るためには…そうか!)
ソニカはニヤリと笑い、学歩に話しかけました。
ソニカ「異国の剣士よ。腕が互角の状況で、私が勝つ方法を思いついたぞ」
学歩「何?」
ソニカ「私の能力を使えば良かったのだよ! 変身! 目の前の剣士!」
なんとソニカは、あろう事か、学歩に変身したのでした! 腕が互角なら変身する必要はないはずなのに…
ギューーーーン!
学歩に変身したソニカ「ふむ、鍛えているのに軽量を維持できるとは、さすが異国の剣士“サムライ”だな」
学歩「誉めても手は抜かんぞ?」
学歩に変身したソニカ「ふふふ、お前の肉体なら、お前が得意とする技を体で修得している状態だ」
学歩「…」
学歩に変身したソニカ「・・・・・・・なるほど、さすが色々な引き出しを持っているな」その中でもこれぞと言う物を繰り出してやる!」
学歩に変身したソニカは、刀身を下に向けて体の中心で構えた。
学歩に変身したソニカ「絶刀! 円月輪!」
そう叫ぶと、刀を下に構えた“学歩に変身したソニカ”は、束を中心にして、刃先を満月のように高速回転させながら、学歩に突進していった!
学歩「…拙者に変身して有利な技を知ることが出来ても…」
学歩に変身したソニカ「喰らえぇぇぇ!!!!!」
学歩「同時に、“技の弱点”も所持してしまう事になるのでござる!」
学歩に変身したソニカ「これでトドメだ!」
学歩に変身したソニカ「この技の弱点は!」
ガキン!!!!!
学歩の刃は、ある場所に突き立てられていました。学歩に変身したソニカの刀の回転は止まり、ソニカの変身は解け、刃は体から抜けて、バタッと倒れてしまいました。
学歩「回転軸、つまり“中心部分”が、がら空きになることでござる。心眼を持っている拙者自身には、全く効かない技でござるよ」
そこへ戦いの決着を見届けたアペンドとテルが歩いてきました。
学歩「! テルも相手でござるか!」
テル「いや。アペンドと勝負の取引をしていた。君が勝ったら、ルカさんの所に案内する約束になっている。もう君たちとは勝負はしない」
アペンド「テルの言っているとおりだ。これから全員でルカさんの捕まっている、アフス帝国の魔導研究室に向かう事になる」
そしてそこにリンレンミクもやってきました」ミクは魔導銃を倒れているソニカに向けましたが、アペンドに制止されました。
アペンド「ミクさん、負けた相手に追い打ちは良くない」気持ちは分かるけど、そういうのは、これから使うべき所で使うべきです」
ミク「…わかりました…」
学歩「ところでリン、回復呪文を倒れている彼女に使ってやってはくれまいか? 急所は外してある。これから少々彼女の力も借りないといけないのでござる」
リン「わかった。やってみる」
リンはほぼ気絶状態で倒れているソニカに、肉体治癒、精神正常化の魔法をかけました。するとソニカが、ゆっくりと腕で胸部を気にしながら立ち上がりました。
ソニカ「???? 急所をはずしたのか?」
学歩「無用な殺生はしない主義でござる」
ペコリ
ソニカは学歩に頭を下げました。
ソニカ「完敗です。私の名前はソニカ、フォーリナー国の兵士です」
学歩「ソニカさんでござるか、変身できる能力とはいえ、拙者の技を1回で使えるとは、なかなかでござったよ?」
ソニカ「有り難うございます。ところで私を助けたということは、私に何か用なのでしょうか?」
アペンド「学歩、その用というのは、なんなのだ?」
学歩「その前に、まぁ、聞いて欲しいでござる。テル殿、この取引、一度もアフス内部やフォーリナー国に漏れてはいないのでござったな?」
テル「そう、3人の失敗兵士を焼き払った程、情報の漏洩には気を付けていた」
学歩「しかし…」
ビュン!
学歩は居合い切りでソニカが持っていた“短刀の束の先”を斬り捨てたのでした。
カラン…コロコロ…
ソニカ「な! なんだ! この魔導装置は!」
学歩「先ほどのソニカとの戦闘の一番最初、その刀で鍔迫り合いをしているとき、“束の長さ”がおかしいのに気づいたのでござる。短刀にしては“長い”と」
アペンドは真っ二つに斬り捨てられた装置をつまみ上げて、じろじろ調べました。
アペンド「これは…魔導レーダー発信器と…魔導盗聴器?」
学歩「そんな所だろう。つまりソニカ殿、君はフォーリナー国を出るときから、既に位置情報の把握と盗聴をされていたことになるでござる」
ソニカ「!」
テル「そ…そんなばかな…情報の漏洩にはあれだけ気を付けていたはずなのに…」
アペンド「なるほど。君が国を眼中にしてないのと同様に、国も君を信用してなかったのか」そしてアフス上層部とフォーリナーとは裏で随分内通していた…と」
レン「そして、テルは動かされるだけ動かされて、こういうキリが良いところで、アフスの上層部は美味しい所を頂いていく、と」
学歩「うむ。そして装置が壊れたところでソニカにやって欲しい事を話すが、ミクさんには悪いが、ソニカにはアフスに戻る時に、もう一度ルカさんに変身して欲しいのでござる」
ミク「!!!!!! ちょっ!」
学歩「まだまだ、話は続くでござる。正確にはルカさんではなく、ルカ姫の方なのでござる。魔導関連はテル殿が一任されているはず故、ルカ姫の所在まではわからないはず。なので、我々の方で、『ルカ姫も来ていた』ということにして、ルカ姫も同行した事にするでござる。それから先はアペンドならわかるでござるね?」
アペンド「ああ。ソニカの変身したルカ姫から、ルカさんとの交換を志願するわけだな。当然アフスにとっては、ルカ姫の方が、政治的に有利。そして交換がすんだら、さっさとソニカさんは変身を解いて、逃げればいいわけだ」
テル「さ、さすがだ。うむ、その策でいこう」
学歩「快諾してくれて、助かるでござる」
アペンド「では、アフス帝国の魔導研究棟に急ぐとしよう」
こうして、更なる作戦を立てた一行は、ルカさんを救うため、月夜の道を進み始めたのでした。
(続く)
CAST
ルカ姫、巡音ルカ(ルカ):巡音ルカ
初音ミク(ミク):初音ミク
魔導師アペンド:初音ミクAppend
僧侶リン(リン):鏡音リン
勇者レン(レン):鏡音レン
インタネ共和国の神威学歩:神威がくぽ
アフス帝国の魔導師テル:氷山キヨテル
フォーリナー軍政国家のソニカ:SONiKA
その他:エキストラの皆さん
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