No.78079

Song for you~君へ捧げる~

Haru0321さん

こんなにも集中して書いた作品は初めてです。
サクっと読めるのに内容が深くて頭をフル回転しないと理解できない、そんな感じの小説を目指します。
まだ完結していませんのでご注意を。

2009-06-09 01:29:54 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:378   閲覧ユーザー数:356

少女は無表情のまま、道を歩いた

顔色も少し悪いだろう

色白い少女の肌は、雨で濡れていた

 

傘も差さず、ただ歩く

行先が定かではないかのように、俯いて歩いた

 

そして、大きな屋敷の前で

 

少女は倒れた

 

 

 

 

 

 

「・・・ん」

 

 

ざあざあと降る雨の音で目を覚ました

少年は手探りで時計を手にとる

 

時計の針は、既に九時を指していた

 

少年は眉をハの字にしてから、起き上った

黒のジーンズと紺色のシャツ

その上に白のパーカーを着て、少年は部屋を出た

 

 

 

 

 

パンパンパン

 

三度、少年は手を叩いた

 

ソファにそれぞれ座っていた人々は、少年に注目した

 

「みんな、おはよう。」

 

少年がそう言い、微笑むと

皆は微笑み、おはようございますと丁寧に返した

 

 

「今日は、ゼット以外任務は無しね。」

 

ゼットと呼ばれた少年は肩を少し竦めると、周りの皆はゼットを励ました

任務を少年から貰えることが、彼らの喜びであり、誇りなのである

 

 

「ああ、そうだ。ゼット、雨が降っているから、車を地下に入れておいてくれないか。」

 

 

少年はそういうと、ポケットから数個、鍵を取り出した

それを頷いたゼットに放り投げた

ゼットはそれを上手くキャッチして、広間を出て行った

 

 

雨が降っていると、外に駐車してある車が濡れる

 

「エイが綺麗に、綺麗にしてくれたのに、汚れちゃダメだもんな。」

 

窓を見ながら少年は呟いた。

 

少年の隣に立っていた少女は少し驚いた顔をして、「ありがとうございます」と言った

彼女がエイなのだろう

 

 

少年は黙った

彼が次に口を開くのを、皆が待った

 

当然、広間は静かだ

 

少年はポケットに手を入れた

 

 

「あれ、一つ鍵を渡しそびれたみたいだね。僕、行ってくるよ。ゼット、待っててね。」

 

 

少年は笑った

そこに居た全員が、固まった

 

少年の微笑みは、何とも言えない笑みだ

 

表情のない、笑みなのだ

 

そして少年が笑うことは珍しい

微笑むことは、何度でもあろう

 

 

「なあ・・・どうして俺達ってシックスに付いて行くんだろうな」

 

 

二十代後半、いや三十代前半の容姿をした男が問うた

その場にいた皆が皆、首を傾げた

 

そして一人が呟いた

 

 

「何故かしらね・・・。この人ならって思えるのよ」

 

 

すると全員が首を縦に振った

 

 

 

 

 

「ゼーット、」

 

少年は人差し指で鍵を回しながら、ゼットを探した

彼を見つけると、車を運転中だった

 

地下にその一台を入れ終わると、駆け足で少年の元へ行った

 

 

「ひとつ、鍵渡すの忘れちゃっててさ」

 

大事そうにそれをゼットに渡すと、ゼットは目を大きくさせた

 

「そんな、シックス様自ら!ありがとうございます!」

 

シックスと呼ばれた少年は、微笑むだけで何も言わず

屋敷へと戻って行った

 

ゼットはジャージの袖を捲りあげ、自分に喝を入れた

よし頑張るぞ、そう言って

 

 

 

 

 

 

失うことは、僕の運命

君の運命を変えることが

僕の使命だというのなら

僕のすべてが消えるまで

君の願いがかなうまで

僕は君を支えるだろう

たとえ君が僕を必要としていなくても

僕の願いは君の幸せ

すべてが偽りだったとしても

君のすべてが嘘だったとしても

僕のすべては消えてなくなるのだ

そう、

君には関係ないことだから

 

 

 

「・・・シックス・・・」

 

「シックス様・・・」

 

「シック、スさんっ」

 

シックスが未だ屋敷に踏み入れていないのにもかかわらず、

彼の歌声は全員に届いた

 

風を通して

心を通して

 

ゼットは目から流れ落ちる涙を拭い、また車に乗った

 

エイは泣きたいのを我慢して、下を向いた

 

 

「シックス以上に辛い人間はいないのよ」

 

また、女が呟いた

ハンカチで涙を拭いている

 

最初に問うた男がそれを聞いて頷いた

 

 

「あいつぁ、哀しいよ」

 

 

 

 

 

シックスは歌い終えると、シックスはちゃぷちゃぷと音を鳴らして歩いた

まるで小さい子供が跳ねながら水たまりで遊ぶかのように

 

悪戯をするかのように

 

シックスの顔に張り付いていたのは、悪魔のような笑顔だけ

 

 

「・・・あれ?」

 

シックスは自分の足もとの異変に気付いた

 

「えー、この子誰だろう。」

 

 

シックスが危うく踏みそうになったのは、綺麗な黒髪の少女だった

見たこともない、少女

 

黒い髪に、黒いジャケット

黒いスカートに、黒い靴下

おまけに黒い靴

 

全身を黒で纏った少女は、倒れているようだ

 

 

「あら、熱があるのかな」

 

シックスは少女の額に触れると、少女を抱えて屋敷に戻った

少女の体は、雨のせいでびしょびしょだった

熱があるはずなのに、手先の体温は感じられなかった

 

 

 

 

 

少女を一旦ソファに寝かせると、シックスはエイに氷を取ってくるように言った

エイは元気よく頷くと、キッチンへ向かう

 

 

「あん?こいつぁ誰だ」

 

またあの男が言った

とても疑い深く、少女を睨みながら言った

 

 

「大丈夫、ただ倒れてただけだよ。」

 

 

シックスが一言そういうと、男は酷く安心した

シックスはそれを可笑しそうに微笑んだ

 

 

「オウ、君は人を疑いすぎだよ。」

 

 

そう言われた男、オウは苦笑いを向けた

 

 

「トラウマってやつでさぁ」

 

そう言って机の上のグラスを取った

グラスには赤茶色の液体と、三つの氷が入っていた

 

氷同士がぶつかって、カランコロンと音が響く

 

 

「あんた朝から飲みすぎよ!」

 

 

それを横にいた女は怒りながら奪い取った

 

「ふは、ユウは心配性だね。まあ、オウは昨日から飲みすぎだねえ。」

 

なんだと、とユウに言い返そうとしていたオウも、

シックスにそう言われて思い止まった

 

グラスをキッチンに戻しに、立ち上がった

 

同時に、エイが沢山の氷が入った袋を持って戻ってきた

 

 

「この子、どうして此処の前で倒れてたんですかね」

 

エイが不思議そうに言いながら、氷を額にのせた

 

シックスはそれを聞いて、微笑んだ

そこに居た皆がそれに興味を持っていた、

だから、シックスの言葉に耳を傾けた

 

 

「この子はあれだよ。僕を殺しにきたスパイ。」

 

 

ふふふ、と微笑みを浮かべてシックスは言いのけた

 

周りはザワザワし始める

エイは目を大きくして、叫んだ

 

「何を言ってるんですか!!それが事実だとすれば、シックス様は何故こいつを屋敷に入れたのですか!」

 

エイは完全に取り乱している

”この子”から”こいつ”に変わっている

 

 

「エイ、汚い言葉は使っちゃだめだよ。」

 

シックスが子供でも叱るようにそう言うと、エイは我に返った

 

「す、すいませんっ。でも、どうして!」

 

「だって僕より小さいくらいの女の子だよ?雨の中倒れてたんだよ?」

 

シックスが穏やかにそういうと、皆は不安な顔をしたまま俯いた

皆は彼のそういったところが好きで、付いてきているのだ

 

だがしかし、シックスの命が危ないとなると話は別のようだ

 

「それにね、エイ、皆。こんな女の子に僕が殺せるわけがない。」

 

それを言ったときだけ、ほんの一瞬、

シックスの目が光った

 

 

「・・・ははっ!そうですよね!」

 

一人の少年が笑った

すると周りの空気をどんどん柔らかくなっていった

 

 

「シックスさんの歌に敵うヤツなんていないッスもんね!」

 

少年がそう続けると、皆”そうだそうだ!”と言い始める

 

 

「ジェイ、ありがと。信じてくれて。」

「いえ、とんでもない!事実ッスから!」

 

 

少年ジェイが照れ笑いを浮かべると、エイもまた笑った

そしてまた氷の袋を変える

 

 

その時だった

 

 

「・・・うっ」

 

 

少女が、ぴくり、と動いた

 

 

 

 

 

 

「やあ、大丈夫?」

 

シックスが少女の顔を覗き込んで尋ねると、

少女は酷く困った顔をした

 

 

「・・・はい。

 

 

貴方が、

 

【噂】のシックスですか」

 

 

 

少女が尋ねかえすと、シックスもまた、困った顔をしてみせた

 

 

「どうだろうねー?なーんてね。そう、僕がシックスだよ」

 

 

シックスは手を少女に差し出した

少女は戸惑いつつも手を取った

 

それを見ていた全員は、ヒヤヒヤして仕方がなかった

 

仮にも、一度も勘を外したことのないシックスが告げたことだ

この小さな黒ずくめの少女が、スパイだと

 

彼女が何をしでかすか、次にどんな行動を起こすのか

ぴりぴりと緊張感が漂う

 

 

「君は?君の名前は?」

 

シックスが微笑むと、少女は驚いた

 

「・・・名前、」

 

それだけ呟くと、少女は息を深く吸った

 

その瞬間、何が起こるのだろうと未だ冷や汗を掻いている全員は

懐から銃を取り出した

 

もちろん、見せてはいないが

 

緊急事態にすぐに少女を撃ち殺せるように――、だ

 

 

 

 

失うことは、私の運命

君の運命を変えることが

私の使命だというのなら

私のすべてが消えるまで

君の願いがかなうまで

私は君を支えるだろう

たとえ君が私を必要としていなくても

私の願いは君の幸せ

すべてが偽りだったとしても

君のすべてが嘘だったとしても

私のすべては消えてなくなるのだ

そう、

君には関係ないことだから

 

 

 

聞き覚えのある歌を、少女は綺麗なソプラノで歌って見せた

そこに居た誰もが、それを美しいと感じただろう

シックスがよく歌う歌だ

だが、歌詞が少しだけ違うようにも思える

 

 

「ふうん・・・そういうこ、と」

 

シックスは嫌そうな顔をして、少女の手を放した

少女はシックスを見つめたまま、視線をとらえたまま、離さない

 

 

「シックスさん!!どういうことなんスか?」

 

耐え切れず、ジェイはシックスに問いかける

 

少女はジェイの方を見る

シックスは少女を見たままだ

 

 

「彼女の名前はね、エイトなんだってさあ」

 

つまらなそうな顔をして、シックスは全員に少女を紹介するように言った

また、ザワザワと広間が波立つ

 

 

「それって・・・」

 

ジェイがそれを代表して、ごくりと息を飲んだ

 

 

「エイトは僕を殺さない。何故ならエイトは僕のカゾクだから。」

 

 

不思議がっている皆に、シックスはそれだけを告げて、自室へと戻った

 

暗闇に消えていったシックスの背中を、心配そうな目でエイトは見送った

ジェイやエイ、そしてユウとオウ――四人を代表として殺気が漂う

 

もちろんそれは、エイトへ向けたものだ

 

 

「ご迷惑をお掛けしました、さようなら」

 

 

エイトはそれだけ言って、起き上った

そして屋敷の扉に手を伸ばした

 

 

全員がほっとした

敵、がいなくなるのだから

 

そう全員が―――エイ以外の全員が

 

 

「待って!」

 

エイトの手を掴み、優しい顔をしてエイは彼女を止めた

 

 

「・・・何でしょうか」

 

 

どういう風に返したらいいのか分からず、エイトは戸惑った

そっけなく返すと、エイはまた微笑んだ

 

そしてエイトに向ってこう言った

 

 

「あなた、まだ熱があるのよ?そんな体で、また傘もないのに、この大雨の中を彷徨うというの?」

 

 

エイトは驚いた

心の底から驚いたのは、初めてだった

 

 

「それは、どういう・・・っ」

 

 

「それにあなた、シックス様の家族なんでしょう?それに、

 

 

ほら」

 

 

 

愛しい我が子

眠りにつくのなら

わたしにもう一度

愛しい我が子

消えてしまうのなら

わたしに挨拶を

愛しい我が子

わたしに微笑んで

犠牲をださぬよう

もう一度

ほら、もう一度

わたしに微笑んで

愛しい我が子

眠りについて

 

 

 

 

確かに、シックスの部屋から声が聞こえた

綺麗な声

声変わりした、しっかりした声

男性なのにもかかわらず、高いキーで歌った

 

歌の意味を知れるのは、エイとジェイ、そしてユウとオウだけだ

そしてもし、エイトが本当に家族だというのならば

彼女も意味が分かるのだろう

 

 

「・・・ありがとうございます、シックス」

 

 

ドアに手を掛けていた腕を下ろして、エイを見上げた

エイトはまだ小さく、エイを見上げないと顔が見れないようだ

 

 

「・・・ありがとう、エイさん」

 

 

そういうとエイは頷いて、エイトの背中を押した

優しく、ソファにもう一度寝かせた

 

 

「あのっ、今の歌の意味、何なんですか!」

 

いつの間にか戻ってきていたゼットは四人に問う

すごく知りたいらしく、そわそわしている

 

それと同感なのか、五人以外の全員が二回ほど頷いた

 

 

「この屋敷は僕の家族のものだ。

もし君がここにいたいのならば、

もし君の居場所がないのならば、

そしてもし君に帰る場所がないのならば、

此処にいればいい。」

 

 

オウは目を閉じて、大きな声でそう言った

 

そしてエイトを見た

 

「そうだな?」

 

「はい」

 

確認するようにエイトに訊くと、エイトは感心したように肯定した

 

 

「貴方達は、シックスの家族なのですか?」

 

そうエイトが訊くと、全員が顔を見合わせた

どうやら、皆分からないらしい

 

 

「いや、俺とユウ、あとジェイとエイ以外はただの仲間だ。俺達は家族でも仲間でもねえんだなコレが。」

 

ふはは、と大胆に笑うと、オウはユウに目を向けた

バトンタッチだ

 

 

「アタシ達は、シックスの意思を受け継いだ四人なのよ。だからシックスの歌う”本当の意味”を感じ取ることができるワケ。」

 

シックスの意思を受け継いだ、と聞いてエイトは心底分からないという顔を見せた

だが少しの間があって、エイトは呟いた

 

 

「それは・・・シックスの声のカケラを受け取ったということでしょうか」

 

そう言った途端、四人は頷いた

 

「よく知ってるんスね。俺達はシックスさんの声のカケラを少しずつ分けてもらったんス」

 

ジェイが続ける

そして最後にエイが言った

 

 

「シックス様は言ったの。”僕が万が一、死んだ時は、君たちが僕の仲間の為に歌ってくれ”と、ね。」

 

 

過去を思い出し、嬉しそうに、だけど少し寂しそうに笑うエイに、エイトは胸が痛んだ

四人がエイトに視線を向けた

 

 

「エイト、お前はシックスの家族ってわけだが・・・家族ってなんなんだ?」

 

家族―――それは、想像以上に難しい単語だ

いろんな意味にとれるから

 

 

「これから、ご迷惑をかけますし・・・話しておくしかなさそうですね」

 

苦笑いを浮かべたエイトに対して、全員が全力で耳を傾ける

エイはエイトに座らせて、話を続けさせた

 

その内容は、そこに居た誰もが想像できないような、

 

残酷なお話だった

 

 

 

 

 

 


 
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