趨凜「・・・・・という訳でして、皆さんも一刀さんと仲良くしてあげてくださいね♪」
一刀「北郷一刀です、暫くここに厄介になる事になります、皆さん、よろしくお願いします」
教室の中がざわめき始める
朝食の後、生徒の登校の時間となり女学院女子生徒達が教室のそれぞれの席に座っているなかで一刀の紹介が行われていた
基本的に男子禁制であるこの女学院に男子がいれば戸惑うのは当然であろう
しかし、その中で、「あの人恰好良いかも♪」やら、「素敵な人♥」やら、艶めいた声が聞こえるのは気のせいではないようだ
趨凜「それでは、一刀さんは後ろの方の席に座って下さい♪」
一刀「え!!?まさか、自分も一緒に学ぶんですか!!?」
趨凜「はい♪ただ見学するだけでは退屈でしょうし、どうせなら一緒に学んだ方が建設的でしょう♪・・・・・渚さん、一刀さんの隣に付いて分からない事があれば教えてあげて下さい♪」
渚「ええ!!?わ、私もですか!!?しかも隣だなんて!!////////」
趨凜「渚さん、貴方の人見知りを治す為にもこれは必要な事です・・・・・皆さんも渚さんの事はご理解していますでしょうし、どうか気を使ってあげて下さいね♪」
渚「~~~~~~っ!////////////」
師は、自分の事を気遣っていることは分かるが、いかんせんありがた迷惑と思えてきてしまう
しかし、その気遣いを無下にすることも出来ないので、渋々一刀と共に後ろの席に座る渚だった
「向朗先輩、この人は誰なんですか?」
「はい、凄く素敵な人ですけど♪」
そして、ヒソヒソ話で渚に質問してくる下級生達
渚「だ、駄目です、その質問は後にしてください、今は講義中です!」
「そんな固い事言わないで下さいよ~♪」
「そうですよ~♪それくらい・・・・・」
ヒュンッ!
「ひっ!!」
「きゃっ!!」
その時、彼女達の頬すれすれで何かが高速で通り過ぎる
飛んできた方向に振り向くと、そこにはにこやかな顔をしながら指の間に無数の墨を挟んでいる趨凜がいた
趨凜「そこ、私語は慎む様に♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「は、はい!!」
「申し訳ありませんでした!!」
そして、反射的に生徒達は真剣に机に向かい始める
どうやら飛来したのは墨汁を擦る為の墨のようだ
趨凜も墨を投げる時の心構えは出来ているみたいで、決して怪我をさせないように投げているようだが、その威圧感は半端ないものだった
渚「だから言ったじゃないですか、趨凜先生は怒るとすごく怖いのは分かっているでしょう・・・・・」
一刀「・・・・・・・・・・」
その正確無比な投擲術に一刀も舌を巻く
それと同時に、この人は怒らせるべきではないと肝に銘じたのだった
趨凜「では、孫子の兵法を紐解いていきましょうか・・・・・始めは処女の如くにして敵人戸を開き、後は脱兎の如くにして敵人拒ぐに及ばず、この意味を・・・・・はい、一刀さんは分かりますか♪」
一刀「はい、敵陣に隙間ができたら素早くそこから侵入し、最重要拠点に偽装攻撃をしかけ敵を誘い出し一気に勝利すべし、という意味です」
趨凜「なんと、大正解です♪では、勝者の民を戦わしむるや、積水の千仭の谿に決するが若き者は形なり、この意味は何でしょう♪」
一刀「主導権を握り、突破口が見つかったら一気に畳みかけて勝敗を決せよ、という意味です」
趨凜「お見事です♪良く知っていますね♪」
教科書も何も見ず、すらすらと答えていく一刀
まさに模範解答と言えるそれに、教室内はざわめく
渚「・・・・・・・・・・」
この予想外に知的な一刀に、渚も意外感を隠せずにいた
趨凜「それでは、第一時限はここまでです、各自予習復習を怠らないようにしてくださいね♪二時限は野外での講習となりますので、各自動きやすい服に着替えて下さいね♪」
そして、1刻に渡る講義が終了し休み時間に入り、趨凛は教室を退室する
「北郷さん、どうして孫子をそこまで知っているんですか!!?」
「はい、何処で習ったんですか!!?」
「先生の質問に全部正解しちゃうなんて凄いです♪」
休み時間に入ると同時に一刀の周りを一斉に女生徒達が取り囲む
この反応はおかしくないであろう、なにせこの水鏡女学院は大陸でも3本の指に入るほどの名門なのだ
このような難関学院にいきなり入ってきて、ほぼ100点の回答を出すほどの優秀さを見せられれば誰もが興味をひかれるというものである
渚「・・・・・・・・・・」
隣に座っている渚も一刀の回答に視線を逸らすも耳は傾けていた
彼女も気になっていた一刀の正体が分かるかもしれないからだ
一刀「まぁ、なんというか・・・・・俺が前居た所でこの学院の卒業生の雫がいて・・・・・」
「ええええ~~!!!??それって徐庶先輩のことですか~~!!!??」
「という事は北郷さんは、天角から来たという事ですか!!!??」
「あそこって、凄く優秀な人材が集まってるっていう、今大陸で一番繁栄していると言われている所ですよね!!」
彼女達の口からは、天の御遣いに関する言葉は一切出て来ない、どうやら彼女達も于吉によって一刀に関する記憶を消されているようだ
渚「皆さん、早くお昼ご飯を食べてしまいましょう、着替える時間が無くなってしまいますよ、午後からは野外に出なければならないんですから」
「そんなに焦らなくてもいいじゃないですか~♪」
「そうですよ~、2,3質問するだけなんですし、そんなに時間は掛かりませんよ~♪」
渚「ならいいですけど、きちんと時間を守って下さいね、先生は時間には厳しいんですから」
「は~~~い♪」
「分かりました~♪」
そして、午後
趨凜「遅刻組の皆さん~♪どうして遅れてしまったのでしょうね~♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ご、ごめんなさい・・・・・北郷さんに色々と質問していたら、遅くなってしまいまして・・・・・」
「三つぐらいで済ませるつもりだったんですけど、気が付いたら十くらいになってしまっていて・・・・・」
渚「だから言ったじゃないですか、質問し始めるときりが無くなるのに」
先に言っておいたのに結局遅刻してしまっていては、渚も同情の余地は無かった
一刀「すみません、自分が早く切り上げていれば良かったんです、責任は自分にあります」
「ち、違います!北郷さんは悪くありません!」
「そうです!私達が早く止めていれば、北郷さんは遅刻せずに済んだんです!」
「水鏡先生、どうか北郷さんだけは許してあげてください!」
趨凜「ふむ、まぁいろいろと事情はあると思いますが、遅刻は遅刻、遅刻組の方々には普段の倍の薬草を取ってきていただきましょう♪」
「ええええ~~~~!!!??」
「そんな~~~~!!!」
「普段の量でもなかなか見つからないのに、倍だなんてあんまりです~~~・・・・・」
趨凜「当然ながら、取ってこれなければ相応のお仕置きが待っていると思って下さい♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「ひえ~~~~・・・・・」
「終わった、なにもかも・・・・・」
「お仕置き確定・・・・・」
趨凜のお仕置きという言葉にすっかり意気消沈する遅刻組の女子生徒三人組
そんな中、一刀が口を開く
一刀「倍・・・・・どれくらいの量なんですか?」
趨凜「神農本草経の・・・・・この行に載っているもの全てです」
事前に持って来ておいた書物、神農本草経をめくり一刀に見せる趨凜
そこには五種類ほどの薬草が記されていた
一刀「ああ、これなら軽いものですよ」
「え、何を言っているんですか?」
「私達だって、普段この辺り一帯を探索してようやく見つけられてるんですよ!」
「そうです、それを倍持ってこないといけないんですよ!」
一刀「それは捜索範囲が狭いのと、薬草が生える場所をしっかり把握していないからだな・・・・・それで、時間はどれくらいですか?」
趨凜「ざっと1刻程です♪」
一刀「それじゃあ4人分を半刻で集めて来ます」
「は、半刻!!?」
「無謀ですよ、北郷さん!!」
「あとで先生に自我が崩壊するほどの仕置きを受けるんですよ~!!」
趨凜「人聞きが悪いですね~、まるで人を悪鬼羅刹のように言って~♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
一刀「大丈夫だよ、皆でやればすぐに終わるよっと!」
「きゃあっ!!////////」
「きゃっ!!///////」
「ああん♥///////」
そして、一刀は3人の女子生徒を抱え上げ、その場から駆け出した
「うわっ!!速いです!!」
「あの人、本当に怪我人なんですか!!?」
あっという間にその後ろ姿は見えなくなり生徒達はビックリ仰天していた
趨凜「まぁ、あの子達ったら、なんて羨ましいのでしょう♪///////」
渚「先生、子供じゃないんですから・・・・・」
趨凜「渚さん、女というものはですね、幾つになっても殿方の温もりが恋しい生き物なのです・・・・・渚さんだって、私の秘蔵の本を見て気持ちを持て余しているくせに♪」
渚「先生!!皆さんの前でそのような発言は止めて下さい!!////////////」
趨凜「ふふふふ♪何を今更♪・・・・・そして、その逆もしかり、殿方も私達女が居なければ何も出来ない、持ちつ持たれつ、それが男女の関係というものなのです」
渚「・・・・・・・・・・」
そして、半刻弱が経つ
一刀「お待たせしました」
「うわ!!?なんですかこの量は!!?」
「凄い、こんなに取ってこられるなんて・・・・・」
遅刻組4人の籠の中には山盛りになった薬草があった
趨凜「これはこれは、恐れ入りました♪・・・・・しかしこれだけの量をどうやって集めたんですか?」
「それが凄いんですよ!!」
「はい、北郷さんが行く所に悉く薬草が生い茂っていたんです!!」
「あんな穴場があるなんて、取り放題もいい所でしたよ~♪」
一刀「ただ単に、どの薬草がどんな所に生えるのかを知っていただけだよ」
渚「・・・・・・・・・・」
どうしてそんなものを知っているのか不思議でたまらない渚だった
趨凜「(なるほど、このお方は朱里さん、雛里さん、そして雫さんの・・・・・)」
そして、趨凜も口元に手を沿え何か納得をしたような顔をしていた
そして、二時限目が終わり生徒達の下校時間となった
渚「皆さん、今日もお疲れ様でした、また明日も共に学びましょう」
「はい、巨達先輩♪お疲れ様でした♪」
「明日もよろしくお願いします♪」
趨凜「皆さん、ちゃんと宿題をやって来るんですよ♪じゃないと酷いですよ♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
「うううう~~~、水鏡先生の宿題、どれも難しい上に量が鬼の様にあるんだもん~~・・・・・」
「うん、毎日が地獄だよ~~・・・・・」
山奥という事もあり水鏡塾の下校時間は割と早い
こんな愛らしい女子生徒達だけで山道を登下校させて大丈夫なのかと思うであろうが、ここ最近は荊州に山賊はほとんど見なくなったため趨凜も安心して生徒達を見送っていた
これも一刀が訓練した北郷隊による治安維持活動の成果であろう
「北郷さん、今日はありがとうございました♪」
「おかげで先生のお仕置きを受けずに済みました♪」
「北郷さんのお話を沢山聞きたいです♪明日もお願いします♪」
一刀「お疲れ様、また明日な」
どうやら殆どの生徒達は一刀と意気投合したようである
趨凜「好きかな好きかな♪一刀さん、皆さんと仲良くなれたようですね♪」
渚「・・・・・・・・・・」
この光景を趨凜は微笑ましく見るも、渚は少しだけ戸惑いの表情を見せていた
そして、生徒達が全員帰り終え、一刀達は夕飯の準備に明け暮れていた
趨凜と一刀は台所にて米を炊き、渚は山菜をきざむ
その時
趨凜「う~~~ん、薪が足りませんね・・・・・」
一刀「そうですね、これじゃあしっかり炊けません」
渚「それでは、私が持って来ます」
包丁を持つ手を止め、薪を拾いに行こうとする渚だったが
趨凜「待って下さい、私と一刀さんで取りに行ってきます」
渚「え、それくらいなら私が・・・・・」
趨凜「一刀さんにも、薪がどこに備蓄してあるのか教えておきたいですし、渚さんもまだきざみ終っていないでしょう」
渚「・・・・・分かりました、よろしくお願いします」
そして、やって来たのは南の外壁
そこには小振りな小屋があり、中に沢山の薪が保管されていた
一刀「こんなものでいいですかね」
趨凜「そうですね、大体それくらいですね」
幾つか薪を肩に背負い台所に戻ろうとする二人だったが
一刀「・・・・・そういえば、趨凜さん、前から気になっていたんですが」
趨凜「はい、なんでしょうか?」
一刀「この私塾なんですが、相当に傷んでますけど、大丈夫なんですか?」
この水鏡女学院は、全体的に見れば二つの庵が立ち並んでいる私塾で、一つは趨凜と渚が暮らす為の住居、一つは生徒達の学び舎として使われている
しかし、そのどちらもがボロボロで、天井を見ても雨漏りの跡が所々に点在し、苔が生えている箇所もある
庵を囲んでいる外壁も崩れ落ち、穴だらけの蜂の巣状態である
趨凜「・・・・・頭の痛い所ですね、なにせこの女学院は常に財政難ですから・・・・・生徒数もそれほど多くありませんし、雫さんの様な貧しい家庭の子達が大半を占めていますから、授業料も取れないのです」
一刀「それじゃあ、直したいとは思っているんですね?」
趨凜「はい、出来る事なら、あの子達にももっとしっかりした学び舎を提供してあげたいのですが、こればかりは・・・・・」
一刀「分かりました、自分が何とかしましょう」
趨凜「え?何とかするとはどういう事でしょう?」
一刀「この女学院の修理をします、三日ほどここに職人の人を呼んで・・・・・たぶん男を呼び寄せる事になると思いますけど構いませんか?」
趨凜「構いませんが、そのような予算を何処から持ってくるのですか?この女学院はそれほど広くはありませんが、それでも全体を修理しようと思うとかなりの額になりますよ」
一刀「大丈夫です、趨凜さんが許可してくれた時点で、すでに条件は満たしています・・・・・修理は明日から始めていいですか?」
趨凜「はい、構いません」
一刀「では、夕食を食べ終わったら自分は街に行きます、明日の朝ここに戻ってきますから、巨達にそう伝えて下さい」
趨凜「分かりました・・・・・」
そして、夕食後一刀は単身水鏡女学院を飛び出していった
そのあっけらかんと簡単に修理するという一刀の言葉に、説明を受けた趨凛も唖然としていた
そして、次の日の朝
一刀「よし、では始めて下さい」
「「「「「うっす!!!」」」」」
趨凜「・・・・・・・・・・」
渚「・・・・・・・・・・」
二人の前には、60人余りの職人大工の人達があらゆる工具や資材と共に並んでいた
一刀の合図と共に職人達はテキパキと動き庵の修理に取り掛かる
一刀「それではすみません、趨凜さん、今日の講義は屋外でお願いします、生徒達の勉強机は外に移動させてありますので」
趨凜「あ、はい・・・・・あの、一刀さん、どうやってこの人達を雇ったのですか?」
渚「ええ、何処からこの人達を雇う額を持って来たんですか?」
一刀「自分は、あちこちに貯蓄がありまして、それを幾つか持って来ただけですよ」
その貯蓄とは、山賊狩りをしていた頃の賞金である
その圧倒的にお釣りがくる額に職人達は二つ返事で了解した
おまけに、事前に一刀がこの学院の状況を細かく伝えていた為、必要な資材をすぐに用意できたのである
しかし、この大陸の全ての人間は于吉の道術によって一刀の事を忘れているはずである
なのに何故これだけの額を集めることが出来たのかというと、山賊狩りによって一刀が稼ぎ出した額は、城一つを建てられるほどの額にまで膨れ上がっているのである
何せ過去に五年もの間賊を討ち続けて来たのだから、それくらいの額には流石に達している
しかし、当然そのような巨大な資産を一人で持ち運ぶ事など出来る筈も無い、そこで賞金首を捕まえ賞金に換金し持ち運びが出来なくなると、それを大陸中の至る所、洞窟やら木の上やらに袋詰めにして隠してきたのである
一刀は、その隠した場所を全て把握しているのだ
銀行に預ければいいのではないかと思うが、この時代の中国にそのようなものなど存在しない、仮にあったとしても銀行制度が整備されていない為、預けるとそのまま雲隠れされてしまう恐れがあるので、このような原始的な手段を取る事にしたのだ
いずれにせよ、于吉によって大陸の全ての人間は一刀の事を忘れさせられてしまった為、結果的にはこれで良かったのであろう
「あ、あれ、水鏡先生、これは何ですか?」
「いったい、何があったんですか?」
「これから何が始まるんですか?」
そこに、生徒達が登校してくる
趨凜「皆さん、今日は学び舎の修理をしますので、野外での実習を主とします」
「え、うそ!?」
「そんなの聞いていませんよ!」
「何処にそんな修理費があったんですか?」
趨凜「ごめんなさいね、昨日急遽決定してしまいましたので、ご迷惑をお掛けするでしょうけど、今後皆さんが気持ちよく学問に専念できるようにする為にも、どうかご協力くださいませ」
渚「修理費は、北郷さんが出してくださいましたので」
「え~~~~!!!?北郷さんってそんなにお金持ちなんですか~~~~!!!?」
「本当に北郷さんって、何者なんですか!!?」
「何処からそんなお金を持って来たんですか!!?」
一刀「大丈夫だよ、盗んだお金じゃないから・・・・・あそうだ、趨凜さん」
趨凜「なんでしょう?」
一刀「修理は、自分も手伝いますので、今日の講義は欠席させてください」
趨凜「流石にそこまでしてもらう訳には・・・・・」
一刀「いえ、言い出したのは自分ですし、最後まで責任を取らせて下さい」
「え~~~~!話が違いますよ~~!」
「そうですよ、昨日約束したじゃないですか、お話してくれるって!」
「北郷さんも一緒に来てくれないと嫌です~~!」
一刀「ごめんな皆、なるべく早く済ませるから、講義が終わったら沢山話そうな」
ナデナデナデナデ
「あ、はい////////」
「わ、分かりました////////」
「あうう///////」
その眩し過ぎる笑顔で頭を撫でられては、生徒達は何も言えなかった
趨凜「(うふふふ♪なかなかに女殺しのようですね♪)///////」
渚「・・・・・//////」
その光景を見て、何故か渚の頬も薄赤くなっていた
そして、屋外での講義を終え、学院に戻ってくると
「うわ~~~~、綺麗になってますね~~~♪」
「見違えちゃったよ~~♪」
「うん、生まれ変わった感じ♪」
趨凜「まあまあまあまあ、こんな短時間でここまで出来るなんて、想像もしていませんでした♪」
渚「・・・・・凄いです」
そこには、以前と比べると圧倒的に清掃された庵が立ち並んでいた
外回りの外壁も修繕され、穴が開いている箇所は一つも無かった
趨凜「お疲れ様です、一刀さん♪」
一刀「趨凜さん、あと半刻程で出来ますので、もう暫く待って下さい」
渚「あと半刻って・・・・・半日で出来るものなんですか?」
僅か半日でここまで修繕した一刀達の手腕に女学院陣営は感嘆の声を上げる
精々三日はかかると予想していたのに何故これほど早く修繕できたのか
それは、事前に人数を揃える事が出来たのもそうだが、一刀が修理に参加したのが大きい
以前、天角がまだ村だった頃、戦乱によって傷ついた村を、真桜率いる李典隊と共に修繕したことがあるので、そのノウハウは持っていた
その要領の良さとテキパキとした仕事ぶりに職人達も息を飲み、自分の跡取りになってくれと頼み出す者までいた
ちなみに、趨凜と渚が愛着を持っている品があるかもしれないので生活家具には一切手を付けていない
修理したのは、あくまで建物だけである
「「「「「終わりました!!!」」」」」
そして、職人達が一斉に終了の合図を送る
終わってみると、そこには新築と見間違えてしまうくらいの立派な庵が立ち並んでいた
「凄い・・・・・」
「うん、こんな学院が見れるなんて思わなかった・・・・・」
「夢でも見てるのかな・・・・・」
趨凜「好きかな好きかな♪では、今日は大盤振舞いしちゃいましょう♪ご馳走を沢山作りますので、職人の皆さんもぜひ参加してください♪」
「おおおお~~~~♪」
「水鏡先生の手料理を食べられるなんて、夢みたいだ~~~~♪」
水鏡女学院の水鏡と言えば博識かつ教師としても有能で、多くの優秀な人材を世に送り出している事で有名なのだ
しかも特徴的ではあるが、かなりの美人で気立てが良いと評判である
そんな人の手料理が食べられると思うと、職人達は雇ってくれた一刀に感謝の念を惜しみなく注いだ
趨凜「皆さんも手伝って下さい、今日の宿題は免除しちゃいます♪」
「え!?やった~~~♪」
「本当に夢みたい♪」
「北郷さん、ありがとうございます~~~♪」
そして、夕方
山は茜色に染まり始め、虫達が鳴き声を上げ始める時間帯に入って来た
「ご馳走様でした、水鏡先生!!」
「修理が必要になりましたらまた呼んで下さい、北郷さん!!」
と、趨凜の手料理というプラスαにありつけた職人達は大満足の様子
「あ~~~、美味しかった~~~♪」
「うん、水鏡先生の料理なんて久しぶりだったね♪」
と、生徒達も満面の笑みだった
そして、職人と生徒達はお互いに今回の修理と一刀の事など、会話に花を咲かせながら帰途に付いたのだった
趨凜「はぁ~~~・・・・・なかなかどうして、中身の濃い充実した一日でしたね♪」
渚「あ、はい、学院もこんなに綺麗に修理されましたし、何もいう事はありません」
趨凜「本当にありがとうございます、一刀さん、なんとお礼を言ったらいいか」
一刀「いいえ、こっちは命を助けてもらった身ですから、これくらいの事はさせて下さい、この程度の事でご恩が返せるとは思いませんけど」
趨凜「うふふふ♪思っていた通り、損な性格のようですね♪」
一刀「え?」
趨凜「いいえ、なんでもありませんよ、うふふふ♪」
渚「・・・・・・・・・・」
そして、夜中になり、趨凜と渚は其々の部屋にて寝台に落ち着いていた
まるで人が道に迷わないようにと言いたげに、夜の闇を月明かりが照らし、女学院全体を幻想的な光景へと作り変える
そんな中
ジャラン
一刀は、寝台の下から大きな袋を引っ張り出しそれを机の上に置いた
一刀「・・・・・これでよし」
そして、その横に置手紙を置く
そこにはこうあった
「水鏡先生、巨達、短い間でしたけど、ありがとうございます。自分は、どうしても会わなければならない人がいますので行くことにします。何も言わないで出ていくことを、お許しください。ここにお金を置いていきますので、この学院の運営にお役立てください。生徒の皆にもよろしく言っておいてください。・・・・・北郷一刀」
なんとも不器用な文章が書かれていた
一刀「ごめんなさい、趨凜さん、巨達・・・・・」
そして、一刀は戦闘装束の帯を締め、女学院に向けて一礼し、去ろうとする
「どちらに行かれるのですか?一刀さん」
一刀「っ!!?・・・・・起こしてしまいましたか」
振り向くと、庵から月明かりを反射させた銀色に輝く流線が顔を覘かせる
そこには寝間着姿で、相変わらず細目過ぎて表情が判りづらい、いつも通りの趨凜がそこにいた
趨凜「こんな夜更けに、どちらに行こうというのですか?布団に入らないと風邪をひきますよ」
一刀「・・・・・・・・・・」
俯き気味に視線を趨凜の足元に移すが
趨凜「・・・・・行かれるのですか?」
一刀「・・・・・どうして、分かったんですか?」
趨凜「何となく、胸騒ぎがしたので」
一刀「・・・・・・・・・・」
趨凜「何故なのです?何故こんなにも早く、お暇をするのですか?」
一刀「・・・・・自分は、誰にも関わってはいけないんです、本当なら、ここで趨凜さんや巨達に会う筈の無い人間だったんです」
趨凜「それは、どういう意味なのですか?」
一刀「申し訳ありません、言う訳にはいきません」
趨凜「では、この学院を修理していただいたお礼もまだしていませんし、貴方を行かせるわけにまいりません」
一刀「それは、川で助けて頂いたこちらの御礼です、これで貸し借りは無しのはずです!」
趨凜「そういう訳にはまいりません、貴方を助けたのは、あくまでこの女学院の精神に則って行った事です、それとこの学院全体の修繕とではとてもつり合いは取れません、それに、雫さんの主をこのまま帰したとあっては、水鏡女学院の名折れです」
一刀「え!?自分は雫とそういった関係では「嘘ですね」・・・・・」
趨凜「貴方は、雫さんの仕える主、そして、雫さんと契りを交わした仲なのでしょう」
一刀「・・・・・趨凜さん、貴方は何者ですか?」
趨凜「別に、ただのしがない私塾の教師です♪」
一刀「そんな馬鹿な!この大陸の人間は、全員俺の事を忘れているはずです!趨凜さんが俺の事を知っているはずがない!」
趨凜「忘れている・・・・・そうですね、忘れているのですね」
一刀「・・・・・趨凜さん?」
今度は、趨凜の方が俯き、これも細目過ぎて判りづらいが、悲しそうな雰囲気を醸し出す
趨凜「そう、私は忘れている、貴方の事を・・・・・かつての雫さんと朱里さんと雛里さんの手紙が無ければ、私は貴方の正体に感付きもしなかったでしょう」
一刀「手紙?何の事を言っているんですか?」
趨凜「いえ、こちらの話です・・・・・それで、どうしても行くというのであれば、ここで大声を上げて大陸中に貴方の居場所を伝えますよ♪」
一刀「そんな芸当が出来るとは思えませんね、一体どれだけの広さだと思っているんですか?」
趨凜「お忘れですか?私は、妖術を使えるのですよ♪」
一刀「・・・・・・・・・・」
これまで地和の妖術を目の当たりにしてきたので、出来そうで怖い
本当にこのヘンテコ三国志演義の世界は訳が分からない
趨凜「とにかく、一刀さんをここで行かせる訳にはまいりません・・・・・私も天の寵愛というものを体験してみたいですしね♥(ぼそぼそ)」
一刀「は?」
趨凜「いいえ、なんでもありません♪うふふふ♪」ゴゴゴゴゴゴゴゴ
一刀「・・・・・・・・・・」
趨凜「さあ、今日は沢山働きましたし、疲れているでしょう、早く寝ないと明日が辛いですよ♪」
一刀「・・・・・はい」
本当に妖術で大陸に自分の存在を伝えられてはたまったものではないので、仕方なしに趨凜の指示に従い女学院に戻る一刀
趨凜の正体も気になるので、それを確かめてからでも遅くはないと高をくくり、寝間着に着替え寝台に戻るのだった
渚「・・・・・・・・・・」
その光景を、自分の部屋の扉から覗き見る渚の姿があった
どうも、Seigouです
GW中は一話も投稿出来なくてすみません、ちょっと疲れが溜まっていた事もありまして全く手が付けられませんでした
それと同時に、少々スランプが訪れたのかパソコンに向かっても書く気力が湧いてこず、悪戯に時間が過ぎるだけの期間が殆どでした
遅れを取り戻す為にも気合を入れ直さないといけませんね・・・・・待て!!!次回!!!
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戸惑いの御遣い