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新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第045話

今回は戦闘回を書いてみました。
上手く表現できたかわかりませんが、助言をいただけるなら反映したいと思います。
それでは皆さん。
ぬるっと楽しんでください。

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2015-05-17 11:45:15 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:851   閲覧ユーザー数:804

新・戦極†夢想 三国√・鬼善者を支える者達 第045話「重昌達の二年間・寄席(ヨセ)

「さて、そろそろ体を洗うとするか。葵、スマンが洗い場まで私を抱えてくれ。そして紅音。背中を流してくれ」

湯船から出る際、重昌は腰にタオルを巻いてから彼女達にそういうと、葵は重昌を抱え上げた。

両足を失っているからと言っても、流石西涼にて『暴れ馬』の異名を持つ馬寿成である。

大の大人の男性を軽々と持ち上げ、重昌を洗い場の椅子に下した。

余談であるが、重昌が風呂に入るのは必ず妻の誰かがいる時だけである。

いちいち風呂の度に介護老人の様に抱え上げて貰っては男が廃ると思っており、いつもは行水で済ませている。

だがそれぞれの良いとこ悪いとこ、カッコイイ所カッコ悪い所の全てを共有出来て初めて妻となりえる考えがあるために、重昌はこういった頼みごとを妻に限り頼むことが出来るのだ。

紅音が体を洗うためのタオルと石鹸を持ってき、それぞれを擦り合せて泡を出すと、重昌の背中を洗い出す。

ちなみにこの石鹸は重昌が発明したものであり、重昌が統括する領国内では庶民に親しまれている物で、他国では貴族の御用達物として高く取引されている。

「………私たちは葵の世話になりながらそれなりに暮らしてきた。それと同時に見定めもさせて貰った。葵の統制でこの戦乱の世が集結することが出来るだろうか」

「それで……重昌様の葵に対する評価はどうですか……?」

重昌の隣では葵も体を洗っており、自身が試されていたと聞いてもクスクス笑っているのみである。

「ハッキリ言えば、天下の政事を一人で背負える采(才)までは持ち合せていなかった。しかし、多くの優秀な人材に恵まれれば可能だと判断した。西涼という偏狭な土地に住む頭の固い部族をまとめ上げ、統率する。並みの統治者ではそれが不可能であり、また本人は政事を不得手と言っているが、もっと大陸の中心部で育っていれば、きっと違った存在になっていただろう。だが本人が西涼で生まれたことに誇りを感じているなら問題は無い。誇りとは大事な物だ。時には自身の自信に繋がり、時には誇りが力をくれるからな……話が逸れたな」

重昌は続けた。その時の葵はまさしく人材に恵まれていた。

口癖のように欲しいと呟き続けた頭のキレる人物。

それに加え武骨な考えの西涼人とは違う柔軟な考えの持ち主たちが一気に5人も集まり、あらゆることにおいて柔軟な対応が出来るという。

そんな自分に過ぎたる力を手に入れてなお彼女に足りないモノは、野心である。

彼女は根っからの漢王朝・引いては劉家に忠を尽くす忠臣であったのである。

時の皇帝が「死ね」と言われれば死ぬ程の忠君。まさに根っからの武人であり、武人の鏡の様な人物であった。

そんな葵の信念の為に事件が起きたのだ。

 

「な、何!?義弟(おとうと)が反乱を起こしたと!!」

その報は夜急に届けられ、馬騰陣営にて油の火を頼りに緊急の群議が開かれていた。

馬騰の義理の弟である韓遂が、涼州の部族を悉く味方につけて反乱を起こしたのだ。

「しかもその反乱軍の中には……銀の兄者……龐徳もいるそうです」

その事実は碧い服の女性によって告げられた。

彼女の名は司馬懿、真名は(ゆかり)で代々尚書などの高官を輩出した名門司馬氏の者である。

何故そんな者が西涼などという土地にいるのかというと、彼女の友人である賈駆が手紙にて「凄い人物がいる」とのことでわざわざ偏狭の西涼まで来たのだ。

そして龐徳のことを兄者と呼ぶのは、龐徳とは幼馴染な間柄であり、よく遊んだかららしい。

「……義弟だけではなく、銀も付いたとなると、かなり厳しいな」

龐徳は西涼にてその武勇を知らないと言われるほどの豪傑であり、漢とは別国で隣国の羌と戦を起こした際、敵方の将10人の首を挙げたらしく、馬超は7人で彼には及ばなかったようだ。

「敵の総数は3万。こちらの総数はどう見積もっても5千です。いくらなんでもそれだけの兵力を覆す程の才は、私は持ち合わせていません」

馬騰は考える。

相手の韓遂の事は義姉である自分がよく知っている。

兵法に良く精通し、平野に於ける戦闘で彼の負けを見たことなど見たことが無い。

常々敵に回すと恐ろしい人物であると考えていたが、本当に敵に回るとは予想もしていなかった。

自分の様な武骨者が何かを考えた所で何か出るわけでもなく、咄嗟に軍師志願でもある賈駆と陳宮に視線を向けるが、彼女達が視線を逸らすところを見ると何も策を立てられないのだろう。

それもそうだ、彼女達は客将であり、韓遂の事を知っていれば何か計画も考えられたであろうが、彼女達は何も知らないのだから。

「こうなったら母さん!!このまま突撃して義伯父を道連れにしようぜ!!」

「翠!!馬鹿なこと考えるんじゃないよ!!」

「だってそうだろ。何も手が無いのだから何をやっても――」

そんな時に重昌が判りやすく判りやすい大きなため息を吐いて周りの注目を集めた。

「……重昌。何か言いたいことがありげだな」

場の空気を乱した重昌に馬騰は睨みつけた。

「そりゃため息も吐きたくなるでしょうよ。皆誰もこの状況を諦めずに乗り切る気迫を感じられない」

その一言で皆がキレた。

「なんだと!?重昌、その首切られたくなければもう一度言ってみな!!」

「そうです!!お言葉ですが、先生にはこの戦力差を覆す策がおありなのですか!?」

「そうだぜ重昌さん。第一、誰も諦めるなんて言ってないぜ!!ただ手が無いだけだ!!」

馬騰・陳宮・馬超と続き、皆が節々で重昌に文句を放つが、重昌はそのまま庭へ向かうと、夜空の月に向けて指を指した。

「誰か。あの月をこの手の平に収める事が出来るか?」

彼が一体何を言っているのか判らなく、皆「出来ない」と答えた後、重昌は三葉に命じて月を掴む策の提示をした。

「こ、これは!?」

馬騰が驚く様に、周りの皆も唖然とした。

三葉は両手で池の水を掬うと、そこに映し出されたのは、両手の水面に写る月の形であった。

「この通り。軍師とは最後まであきらめない者です。お館様、私は韓遂将軍のことは知りません。ですが勝つ方法はあります。知らない者に勝つためには二つの方法があります。一つは圧倒的な力。どうにもならない物量差による勝利。もう一つは常識的逸脱」

「常識的逸脱?」

重昌の言葉を馬騰がオウム返しした時、彼はニヤリと笑って見せた。

「今より集められる限りの馬と縄と布と槍を用意してください。全兵力が揃える限りの五千人分。また木材と大工も集められるだけ。足りない分は蔵の金を使ってでも買い揃えて下さい。必ずや我が軍を勝利に導いて見せます」

その時の重昌の顔は、大層悪巧みが似合う程清々しいまでの悪人面だったという。

 

「………銀、あとどれぐらいで着く」

「はっ、韓遂将軍。明日には到着出来るかと」

「そうか。そのときこそ決戦なのだな」

韓遂が西涼騎馬隊を率いて、義姉馬騰を討ちに馬を走らせていた。

彼は常々彼女に忠言していた。今の漢王朝の腐敗。都での役人の汚職。漢王朝に忠節を尽くす者程消されていく現実。

実際彼の昔の顔なじみである孫景が汚職問題で都にて死刑されたという。

自身の知る限り彼は汚職に手を染める人物ではないことはよく知っていた。

答えは判り切っている。

都の皇帝の周りにいる宦官や腐った役人の権限であらぬ疑いをかけられ死罪にまで追い込まれたのだ。

韓遂は馬騰を説得した。

「今こそ立ち上がり、義姉が漢王朝を立ち直らせるべきだ」っと。

しかし馬騰は首を振った。

「私は皇帝陛下を信じている。いつの日か目を覚まし、再びこの大陸を太陽の様に照らしてくれる。だから待て。やまない雨、晴れない曇りはないのだから」っと。

だが韓遂は待てなかった。

いずれ腐った波はこの西涼にも押し寄せてくる。

彼女の父で自身の義父である馬平もかつては都に仕える役人の一人であったが、皇帝に諫言ことを切っ掛けにあらぬ疑いにて西涼に追いやられたのだ。

次に狙われるは恐らく馬騰の命。なればこそ腐った役人に斬られるくらいなら自身の手で。

そう思い彼は兵を挙げたのだ。

龐徳も同じ思いである。

彼も今の漢王朝に我慢ならなくなり韓遂の決起に参加したのだ。

やがて韓遂は隴西までに向かうまでの渓谷に差し掛かった。

隴西に向かうにはこの渓谷を通らなければならなく、もしこのような場所で落石にでもあえば一大事であるが、ここは西涼で韓遂にとっても庭みたいな場所だ。

細心の注意を払いこの近辺に兵が潜んでいないか。また潜ませない様に手は打ってあるので堂々とその道を通っていく。

すると渓谷を抜けそうになった時、目の前には赤の武具に身を包んだ集団が現れた。

恐らくは義姉馬騰の軍であろうが、五千程度であり、自軍は渓谷にいるとはいえ3万。

一気に渓谷より飛び出して捻りつぶせば訳も無かった。

彼は手を挙げ振り下ろし突撃命令を下し、3万の西涼騎馬軍団は赤い武具の軍団めがけて突撃を開始した。

それと同時に馬騰西涼騎馬隊も行動を開始したが、その進軍速度は明らかに韓遂の考える通常の馬の進軍速度を超えていたのだ。

敵は錐行の陣形で一気にこちらに突っ込んでくる。

錐行は縦一列に並ぶような、移動には最適な陣形であるが、しかし最も打たれ弱い陣形と考えられている。

こちらは未だ渓谷内にいるとはいえ、錐行に敗れるとも思っていないのか、韓遂はそのまま迎撃態勢で敵を迎えることにした。

先行部隊が渓谷から脱出し、外にて方円で迎撃の形を取ると、敵方は奇妙な行動を取りだした。

突如陣形を走りながら変えて魚輪の様な陣形を取り出すのを見て、敵は攻撃重視にてこちらの陣の一点突破でも考えるものかと思いきや、どうも様子がおかしい。

その陣形は魚輪のようであって魚輪ではない。

やがて相手と自軍がぶつかった時、敵の隊に目をやられてしまう。

その異様な赤い軍団はなんと馬の上に立っているのだ。

いや、正確には立ってはいない。

馬の背中に乗せられた紐の様な物でバランスと整えて立っているのだ。

また相手の武器は全員槍である。

上より降り注ぐ突きの雨に、先行している味方は次々と突き殺されていき、その攻撃の波が終わることはない。

相手も行軍であるからして、いつかその攻撃の終わりは行軍の切れ目かと思いきや、その切れ目が一向に来ないのだ。

そこで韓遂は一つの結論に達した。

遠目で良く観察すると、敵軍の隊は大将を中心に回る様にしてこちらに攻撃を加えている。

また、こちらの兵があちらの兵を仕留めると、直ぐに後方から体長が補充され、その動きはまるで馬車の車輪を思わせた。

「ば、馬鹿な!?こんなことが!!ありえん!!」

韓遂は一人でそう喚くが、もはや引くことも出来ない。

今引けば確実に追い打ちを駆けられて潰される。

ここは渓谷であるため、軍を大きく展開することは出来ない。

行軍速度は向こうが圧倒的に上。部下に殿を命じたとして、渓谷を抜けるのに少なくとも半数は失うであろう。

そうなれば三倍の数でこちらが勝っているとはいえ、完全に勢いづいた向こう側に敗れる。

なれば手は一つしかない。

何とか前方の軍を蹴散らし、野戦に持ち込むしかないのだ。

だが一つ先ほどから気がかりなことがある。

先程より前方の部下が相手の軍の事を「悪鬼羅刹」などと呟くのだ。

この時、韓遂西涼軍には赤い武具の騎馬隊が血飛沫を挙げて味方を屠っていっている。

その血飛沫が染まった色が前方の赤い武具だと思い、混乱が起きていたのだ。

その状況を悟った龐徳は、部下の頭を踏みつけながらもハルバードの様な大きな斧を二つ背中に背負ってそれを抜き取り、一気に前方に抜けて馬騰西涼軍を吹き飛ばした。

切れ目が出来たことにより、韓遂西涼軍は一気に切れ目に突入するが、敵は途端に撤退を開始し、信じられない速度でその場を去っていった。

韓遂軍の負傷・死亡者は6千まで達し、その日一日、彼は軍備の立て直しに力を注がされた。

翌日、行軍をしていくとまたもや赤き武具の軍団が待ち伏せていたのだ。

しかしいつまでたっても相手方から攻撃してくることはない。

周りにはどっからどう見ても綺麗な平野と敵軍の姿があるだけだ。

これは数で勝るこちらが好機と思い韓遂は敵の殲滅を命令し、西涼の騎馬軍団は敵を踏みつぶす勢いで進軍を開始した。

走り出したら止まらないのが騎馬民族と恐れられている西涼兵だが、その恐れが今度は仇となることが判る筈もなかった。

相手は途端に何か折の様に交差に結ばれた木の柱を立て始め、その柵は二重・三重と建てられた。

そして次の瞬間、敵軍の後方より放たれる「放て!!」の声。

韓遂騎馬軍団が敵陣近くに来た瞬間に大量の矢が放たれた。

柵の前には穴が掘られ、まるで城の堀の様になっており。

騎馬軍団の兵たちは穴に落ちて馬に潰され圧死する者。巧みな馬技術で柵を飛び越えていこうとするが、矢にて撃ち殺される者。たとえ飛び越えても二重目・三重目の柵に遮られて討(撃)ち死にする者っと次々死んでいく。

しかし矢にも放つ規則性がある。

矢込め・構え・放つっという一定の規則性が。

矢込めの時に敵の柵を崩して一気に突破し、そして相手を打ち破る戦法を考え付くが、一向に相手を打ち破ることが出来ない。

「えぇい!!何故だ!!何故敵の陣を破ることが出来ない!!」

「………将軍。ここは一度撤退して、再起を計るべきでは?」

龐徳の冷静な指摘に韓遂は憤慨した。

「馬鹿な!!敵はたったの5千だぞ!!それに引き替え今の我が軍は2万6千。圧倒的数の有利な戦に何故撤退出来る!?」

「しかし今我が軍は押されています。それにいくら突撃しても突破出来ないことは事実。また、既に半数以上の兵が討たれています。ここで撤退しなれば将軍の身も――」

「だまれだまれ!!義姉上に、義姉上などに負けてなるものか!!こうなったら儂も――」

「そいつは問屋が卸しませんよ。奴さん」

韓遂と龐徳が慌てて振り向くと、そこには黒い忍び装束に身を包んだ少女が立っていた。

「き、貴様!!何者だ!?」

「………影村隠密部隊、信廉」

「か、影村だと!?以前から義姉上が雇った何処の誰かも判らぬ奴だな。成敗してくれる!!」

韓遂は腰の剣を抜き取ると、三葉に襲い掛かり、彼女はその攻撃をクナイで受け止めた。

「韓遂将軍。援護を――」

「あら。貴方の相手は私です」

龐徳が振り向いた先には、両手でやっと掴める程太い槍も持った赤い袴に胸に金の刺繍の入った紫の着物、赤い甲冑の肩当と袴に合わせたひざ当てを着けた紫色の長髪の女性が立っていた。

「……何奴?」

「影村軍が将の一人。正木通綱」

「……見事な槍だな」

「お褒め頂き光栄。これは『槍大膳』。我が愛しの主より賜った物」

「それ程の大きな槍。使いこなせるか?」

「………」

すると柑奈は軽々と槍を振り回し、それで肩を叩きながら言った。

「この槍は、私の力。私の武力でしか振るえないと言われてお館様より賜った物。女だからと甘く見れば痛い目を見ますよ」

「……その様だ」

龐徳は背中の斧をそれぞれスラリと抜き取ると、二人は剣戟を鳴らすのであった。

 


 
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