「あれからもう10年か…」
学校の屋上でそう呟く男の名は北郷一刀、聖フランチェスカ学園の教師である。
一刀には他人には言えない過去を持っていた。
一刀はかつて自分が通っていた聖フランチェスカ学園の学生時代にある世界へと飛ばされた。
それは三国志の世界であった。しかもただの三国志の世界では無く、異世界……いや、外史と呼ばれる三国志の世界である。
その外史の三国志の世界は主要武将が何と女性であると言う異次元な世界であった。
一刀はその世界で天の御遣いとして舞い降り、劉備の代わりとして関羽、張飛、趙雲、黄忠、馬超の五虎将や諸葛亮と共に戦い曹操、孫権を打ち破り三国を統一したのであった。
しかしその外史を破壊しようとする者がいた、その名は左慈。
左慈は一刀をこの世界に送った原因を作り、そして今度は一刀を殺して、この外史を破壊しようと試みた。
そして左慈との戦いの最中に一刀をこの世界に送り込んだ銅鏡に一刀が触れた為、銅鏡は光り始め、一刀の姿が消えようとした。
そして一刀は光の中に呑み込まれ、意識が消えようとする中、愛しき女性の姿を思い出す。
薄れていく意識の中、一刀はその愛しき女性の名を叫ぶ。
「紫苑―――――――!!」
一刀の声が聞こえたのか紫苑もそれに応えながら
「ご主人様―――――!!」
紫苑は今までの想いを叫び、一刀の手に届けと自分の手を目一杯伸ばす。
そして二人の手が握りあったのを最後に一刀の意識が途絶えたのであった。
そんな一刀が昔の事を思い出していると背後から大きな声で
「お父さ――――ん!」
一刀の背中にしがみ付いてくる一人の少女が現れた。
「こら璃々!学校でしがみ付くのは禁止と言っただろう!!」
「ええ~いいでしょう、お父さん。もう学校の授業が終わったんだから♪」
一刀の背中にしがみ付いている少女は、あの外史ではまだ子供だった璃々であった。
璃々は現在高校生となり、剣道と弓道の全国大会優勝する実力を持ち、学業でも校内トップクラスの実力を持っているスーパー女子高生として有名であった。
そんな璃々に言い寄る同級生は当初居たものの、一刀大好きっ子になっていた璃々は同年代の男性に興味が無く、度々一刀の背中等にしがみ付く行為を処構わずしている光景を見て言い寄る同級生は自然と居なくなり、とうとう校内の名物化している状態であった。
普通なら危ない親子関係と見られるが、璃々はそれを気にしておらず、更に紫苑も恋愛については放任主義の姿勢を取っていた。
それは昔、
「大きくなったら、ご主人様に色んな事を教えてもらいなさい♪」
紫苑が璃々に言った事を覚えており、年頃になった璃々はこの言葉を漸く理解して積極果敢に色々と仕掛けているのであった。
「り、璃々。背中に当っている!」
「お父さん、何が当っているの♪」
璃々は母親譲りの胸部にある明らかに重そうな二つの大きな塊を一刀に押し当てている。
「璃々、俺に何を言わせる気だ!」
「えっ~~と、お母さんよりピチピチで張りがあるもので……」
すると突然、場の空気が瞬間冷凍された様な感覚になり、璃々の言葉は最後まで言うことできなかった。
「りり~~~誰より張りがあるって~~!」
璃々の背後にどす黒いオーラを纏った紫苑が立っていた。
(「いつの間にお母さん来てたの!」)
璃々は背後の紫苑の殺気を纏った気配を感じ恐ろしさの余りに振り向けずにいた。だが一刀が体を入れ替えて紫苑に正対して自然と璃々を庇う形を取る。
「紫苑、璃々の言ったこと気にする事ないよ」
「ご主人様は私より、あんな事を言った璃々の味方をするのですか」
紫苑は璃々を庇う姿勢を見せている一刀に拗ねた口調で反論する。
「そんな事ない。俺が一番大切にしているのは紫苑だよ」
「言葉だけでは信用できませんわ。態度を示して下さい」
紫苑の態度は先程より軟化しており、敢えて一刀を誘導する。そして一刀もそれを分かっていて話を合わせる。
「分かった。だけどここは場所が悪いので、今晩責任を持つということで一つ」
「フフフ、約束ですよ。ご主人様」
紫苑は一刀から夜の約束を取り付けると先程まで纏っていた負のオーラが見事に消えていた。すると
「ここはまだ学校ですよ。せ・ん・せ・い」
先程まで一刀にしがみ付いていた璃々が何時の間か降りて、今晩の約束を取り付けた紫苑にからかう様に指摘する。
「「璃々!」」
一刀と紫苑はからかう璃々に一言言おうとしたが
「ハハハ、お父さんとお母さんと愛し合っているのは分かっているから、早く家に帰ろう」
先程の誘惑からコロッと態度を変えた璃々の言葉に一刀と紫苑は、苦笑いしながら下校したのであった。
一刀と紫苑、そして左慈との戦いの場に居なかった璃々の三人はあの外史から生還し、絆の強い家族になっていた。
当時無事生還した一刀は、高校生の身分。流石に紫苑と璃々の二人を抱えて高校生活を送る事が困難であった為、一刀は紫苑と璃々を連れて祖父がいる実家に向った。
祖父に相談した理由については、丁度その頃一刀の両親は長期に渡る海外勤務で不在であり、このような事が相談できるのは祖父しかいなかったのであった。
そして一刀が事情を説明すると、祖父は璃々の姿を見て
「こんなに早く、一刀の子を見るとは思わなかったな…」
そう言いながら祖父は紫苑らの面倒を見ることを約束したが、まだ高校生の一刀は学業優先の為、高校に戻るように祖父から指示され、紫苑と璃々もこちらの生活を勉強するため、離れ離れの生活となった。
高校卒業後、一刀は故郷に帰り紫苑と結婚しそのまま実家に住みながら、近くの大学に進学、紫苑も一刀と離れている間に猛勉強して大検の資格を取り、一刀と同級生として入学、学生夫婦として大学では有名となった。そして2人とも在学中に教職の免許を取り、大学卒業後に二人とも地元の教師となった。
一刀はこちらに帰ってから勉学だけでなく、祖父や紫苑からの剣術等の訓練にも励み、そして大学在学中に北郷流の免許皆伝を取得し、弓も紫苑に及ばないものの一流の部類に入る腕を有する様になった。
同じく紫苑も一刀と共に剣術の訓練に励み、同じく免許皆伝を取得、弓と剣の両方使えるようになり、璃々も祖父と暮らして始めてから、修行を開始。祖父、一刀、紫苑の元で順調に成長し続け、中学生になると剣道と弓道において全国中学生大会で優勝を成し遂げ、この時点で既に中学生時代の一刀を上回る実力を持っていたのであった。
その結果、一刀の母校である聖フランチェスカ学園から一刀と紫苑を学園において教師としての採用並びに璃々を特待生として入学させたいという破格な話が出て
「三人共、もっと広い世界を見て勉強してくることじゃ」
祖父の一言で三人は上京して、学園で日々の充実した生活を過ごしていたのであった。
そして自宅に帰り、3人は食事など身の回りのことを終わらせた後、一刀と紫苑は「先程の約束」を果たす為、寝室にいた。
「璃々はもう寝た?」
「そろそろ試験が近いから部屋で勉強していますわ」
「そうか……」
「どうかなされましたご主人様?」
「いや、さっき10年前の事を思い出してね……」
「10年前ですか……もうあれから10年も経ったのですね……」
一刀の言葉に紫苑も10年前の事を思い出す。
「ご主人様、何故急にこの事を思い出したのですか?」
紫苑は一刀の言葉に疑問を覚えた、何故なら一刀と紫苑はこの世界に来た当初は外史での話をできるだけ控えていた。と言うのはここに来た時、璃々はまだ幼く不意に別れた愛紗たちと二度と会えない事を聞いて、最初は泣き叫んだが何とか紫苑がこれを宥めた。
そこで一刀と紫苑は、璃々が二度と帰れない場所への望郷の念を抱かない様にできるだけ璃々の前では外史の話を避ける形を取った。
そして璃々も時間が経つに連れ、自然と新しい生活の方が楽しくなり、外史の事は楽しい思い出として覚えているがそれは過去の話であり、自然と三人の間では外史の事はあまり話さない様になっていたのであった。
「正直分からないな…もしかして何かの前触れかな?」
「前触れですか…?」
「それは何か分からないけどね…ただ三人一緒なら、何処に行こうとも生きていける気がするよ」
「ご主人様、一つ間違っていますわ。「生きていける気」では無く、「生きていく」ですわ。それに私、まだ成し遂げていない事がありますから死ぬ気は更々ないですわよ」
「成し遂げていない事って?」
「ご主人様の子を産む事と、後は…内緒ですわ♪」
「え~教えてほしいな」
「あら、女にも秘密も必要ですわ。その代わりに今夜は目一杯サービスしますので、お覚悟を…」
スイッチが入った紫苑を見て一刀も覚悟を決めたのか、最後に一言
「こりゃあ、徹夜かな……」
一刀と紫苑はそう言いながら夜の営みを始めたのであった……。
一刀はそう言いながらも紫苑を満足させた結果、何とか徹夜とはならず情事を終え二人が深い眠りに付き、璃々も勉強を終え寝静まった頃、すると二人が居る部屋と璃々の部屋に強い光が放ち始め、光が収まった時には部屋には三人の姿が消えていた。
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真・恋姫無双 ~新外史伝~を「改訂版」として再スタート切ることとなりました。
今回は一部恋姫英雄譚のキャラを加え、話の幅を広げようと考えています。
前作同様、応援よろしくお願いします。