西の空が赤みがかった頃、
「この辺りには拠点っちゅーとここしかあらへんから、居るとしたらやっぱここかなぁ~?」
噂の化け物がいると思われる古い砦に着いた。
「うぅ~~…お化けが出そうなの~」
鞠ちゃんの言うとおり、ボロボロのそれはお化け屋敷のような趣だ。
「野盗とかに悪用されないように、こういうのは完全に壊して回ってるんですけどね~。なかなか手が回らないのですよー」
そんな中の一つがこれ。
防御力は皆無そうだが、人が屯したり寝起きをするには充分な代物だ。
「どうしますか、隊長。踏み込みますか?」
「う~ん…天女の方の噂が本当なら、手荒な真似をするのもなぁ~…」
ポリポリと頭をかく。
「んな甘っちょろいこと言ってねぇで、ぶっこんで何か居たら居たでぶっ殺す。
いなけりゃいねぇで、ついでにあの砦をぶっ壊しゃあ、一石二鳥じゃねぇか」
全くもって物騒極まりないことを言い出す小夜叉。
俺の話は全く聞いてくれてないみたいだ。
「ちょ、ちょっと待って!噂通りなら相手は一人?一匹?…だからね?とりあえず所在だけでも確認しよ?ね?」
「所在の確認ってー?」
「いや、もし良い人なら呼びかければ出てくるんじゃないかなーと。たのもー!たのもー!!」
とりあえず大声で来訪を伝えてみる。
「ちょっ…ダァホ!!敵にこっちの存在気付かせてどないすんねんっ!!」
「――――剣丞かっ!?」
「「「えっ?」」」
霞のゴツッ!という拳骨が落ちる音と、中からの返答はほぼ同時だった。
チカチカする目で声の方を確認すると、現れたのは鬼のような化け物ではなく…
「……女の、人?」
女性にしては巨躯な方であり、服装や髪の色も確かに赤みがかってはいるが、紛れも無く人間の女性だった。
「壬月なのー!!」
鞠ちゃんが駆け出し、その女性に飛びついた。
「ま、鞠!?何故、お主がここに…」
驚いた顔をしながら鞠ちゃんを抱きとめるその女性。
どうやら、彼女も戦国時代の人間のようだ。
「小夜叉。彼女は?」
女性が出てきた途端、つまらなそうに足元の小石を蹴飛ばし始めた小夜叉に尋ねる。
「あ~ん?あぁ、あいつは殿の…織田上総介様の家臣で、柴田勝家ってんだ」
「あぁ~…うん、なるほど」
納得。『鬼』柴田ってわけだ。
確かに見た目から、いかにも猛将って感じだ。
……なんか呉に居そうだなぁ~
目の前に広がる想定外の平和な光景に、そんなどうでもいい考えを巡らす一刀だった。
…………
……
「ふむ…なるほどな」
ボロボロの砦の中でも比較的無事な一室に通された俺たち。
焚き火のゆらゆらとした光の中で柴田勝家、通称・壬月さんに、俺は一通りの事情を説明した。
「分かって頂けましたか」
「いや、さっぱり分からん」
ずこー、っとベタにずっこける俺。
「しかし、風俗の異なる民。日ノ本とは違う山並み。そして剣丞の話に度々出てきた一刀伯父と、その嫁御たちを目の当たりにすれば、
ここは過去の大陸で、私は時間を超えて異国の地へ飛ばされたという、この現実を受け入れなければなるまい」
竹を割ったように気持ちのいい考え方。
根っからの武人気質。これは…
「くぅ~~…気に入ったで、壬月!」
霞あたりと気が合いそうだな~
という俺の思考に被せ気味に食いついた霞。
「ウチはアンタみたいのがいっとう好っきゃねん!酒や!誰か酒持ってきてんか~!?ウチと盃酌み交わそうや!」
霞は壬月さんに馴れ馴れしく肩を組みながら、既に酔ったようなテンションだ。
「武名高き張文遠殿と盃を酌み交わすなど望外の喜びだが、生憎と酒のような良いものはここには無くてな」
苦笑いをしながら、手をひらひらと挙げる壬月さん。
簡単に話を聞く限り、獣を狩ったり魚を獲ったりと食べるに困ったことは無いらしいが、さすがにお酒はその辺に歩いてるわけじゃないからな…
「ほな、洛陽帰ったら絶対に呑もや?絶対やで!?約束やで!!」
なおも詰め寄る霞を、分かった分かったとあしらう壬月さん。
見た感じ、満更でもなさそうだ。
柴田勝家ということは織田家じゃ筆頭家老だろうから、あんまりこういう風に絡んでくる人もいなかったんだろうな。
「ところで、壬月さん~?あなたはどうしてこんな所にお一人でいたんですかー?」
そういえばそうだ。肝心なところを聞いてなかった。
「そうだな。話せば長くなるのだが…」
――――――
――――
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どうも、DTKです。
お目に留めて頂き、またご愛読頂き、ありがとうございますm(_ _)m
恋姫†無双と戦国†恋姫の世界観を合わせた恋姫OROCHI、52本目です。
凪が持ってきた化け物の噂を調査する組のお話です。
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