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真・恋姫†無双 外史 ~天の御遣い伝説(side呂布軍)~ 第六十四回 第四章:潼関攻防編⑦・益州の天龍

stsさん

みなさんどうもお久しぶりです!初めましてな方はどうも初めまして!

今回は益州の天龍。各戦場での戦闘が激化していきます。

地を這う龍は今、天の傍に控えし天龍に昇華せり

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2015-05-10 00:00:48 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3631   閲覧ユーザー数:3080

 

<げんじゅう?いったいどのようなものなのですか?>

 

<そうだな・・・ななは連弩って知ってるか?バリスタ・・・えーと、攻城兵器のバカでかいやつじゃない方な>

 

 

<ばり・・・ええ、もちろん知っています。弩に連射機能を備えたものですよね?もしかして天の国では連弩のことを幻獣?

 

と呼ぶのですか?ですが、それと私の仕込み弩と何の関係があるのですか?>

 

 

<まぁ慌てるなって。順番に説明するから。まず元戎(ゲンジュウ)ってのは簡単に言えば多発式連弩砲ってとこかな。要するに、一度に

 

発射できる矢の数がものすごく多いんだ。確か一射につき十本くらいだよ>

 

 

<なるほど、つまり、普通の連弩に多発機能を備え付けたものというわけですね。十本ですか・・・二本くらいなら聞いた

 

ことはありますが、想像もつきませんね・・・確かに、そのような武器が存在するのなら心強いことこの上ありませんが、

 

果たしてそのようなものを作ることが可能なのですか?>

 

 

<ああ、そこでだ。オレのうる覚えの知識を総動員して、あと、豪天砲とかいうオーパーツ使ってる桔梗とか、弓の名手の

 

張任とかにも協力してもらって元戒を完成させてみせる。もし実現すればななの仕込み弩の性能が上がるってわけさ。あ、

 

ちなみに漢字で書くと―――>

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、涼州連合本陣】

 

 

惇兵長「早く衝車を持ってこい!戦場が混乱している今が好機!我ら夏候惇隊が潼関を破り、将軍の手柄とするのだ!日頃

 

戦場では将軍の活躍であまり役に立てていない我らが将軍に恩返しできる時は今だぞ!」

 

 

惇兵「おぉおおおおおおおおおっ!」

 

 

 

ここ涼州連合の本陣である潼関の門前では、馬超を追っていった夏候惇に残された兵士たちが、

 

侯選、楊秋らを敗走させ、今まさに門を破ろうと衝車の準備にかかっているところであった。

 

彼ら夏候惇隊の兵士たちは、普段夏候惇個人があまりに強すぎ、また最前線を突っ走るものだから、

 

これといった役に立つ間もなく戦闘に勝利というパターンが多く、

 

しかし一方で戦功としては夏候惇隊全体のものになるものだから、兵士たちはたびたび負い目を感じ、

 

いつかは夏候惇に恩義を返さんと胸に抱き続けていただけに、今回まさに絶好の機会と隊の士気は最高潮となっていた。

 

そのような士気のもと、侯選、楊秋といった名のある涼州の群雄を退けることに成功し、

 

現在文字通り最後の砦となる潼関を破ろうと兵長の号令に兵士たちが気勢を発したのだが、

 

しかし、彼らにとっての誤算は、潼関の守将が、一筋縄ではいかない人物であったことであった。

 

 

 

鳳徳「阻止っ!」

 

 

 

黒の外套を羽織った白銀のツインテールの少女、鳳徳は、無表情に物見台から外の様子を見ていたが、

 

やがて衝車が準備されているのを確認すると、短く発しそのまま外へと飛び降り、

 

黒の外套をはためかせながら衝車の上に躍り出た。

 

 

 

惇兵1「ひっ、なんだコイツ!急に上から降って来―――」

 

鳳徳「邪魔っ!」

 

 

 

そして、突然現れた鳳徳に対して、驚く間も与えることなく、鳳徳は背負った黒い棺を無造作に両手でつかむと、

 

そのまま無造作にスイングし、何人かの兵士をホームラン。

 

その瞬間、夏候惇隊の時間が止まった。

 

 

 

惇兵2「な、なんなんだコイツ―――」

 

鳳徳「沈黙っ!」

 

 

 

固まった思考を何とか無理やり動かそうと取り敢えず思ったことを口に出そうとした兵士であったが、

 

鳳徳のトロンとした表情にもかかわらず他を圧する一睨みと共に一喝され、再び時間停止に追い込まれる。

 

 

 

惇兵3「ひっ、こ、怖ぇーよ無表情だけど鬼の形相だよすごく睨んでくるんですけ―――!」

 

鳳徳「沈黙っ!」

 

惇兵3「ふごぉぉぉおっぉお!!」

 

 

 

そして、そのような鳳徳の不思議な一睨みに訳も分からず恐怖に支配された兵士は、混乱の中わめき散らそうとするが、

 

それを不快と感じた鳳徳に、棺で今度は鉄槌を食らわすかのごとく脳天から重たい一撃を喰らい、その場に沈んだ。

 

 

 

惇兵長「こ、この独特の言い回しに棺を振り回す女は鳳徳に間違いない!皆、コイツを討ち取れば潼関は落ちたも同然だ!

 

気勢をあげろ!数で当たれ!個人の能力を数で補うのだ!」

 

 

惇兵「応っ!」

 

 

 

兵長の号令と共に気勢を上げた兵士たちは、十数人規模で次々と鳳徳に向かって攻撃を開始した。

 

 

 

鳳徳「無駄っ!」

 

 

 

そして、向かってくる兵士に対して、鳳徳は表情を変えないまま短く発すると、

 

手にした棺を振り回して次々と兵士たちをなぎ倒していくのだが、倒しても倒しても兵士が尽きる気配はなかった。

 

 

 

惇兵長「あんな馬鹿でかい棺なんてずっと振り回せられるはずがない!時期握力に限界が来る!それまで攻め続けるのだ!」

 

 

 

これぞまさに人海戦術。

 

夏候惇隊の兵士たちは、個人の技量では到底鳳徳には敵わないことを理解していたため、

 

数の暴力で鳳徳が疲労する時を待ち、強引に押し切ろうとしたのである。

 

 

 

鳳徳「面倒っ!」

 

 

 

さすがの鳳徳も、夏候惇隊の狙いを悟り無表情を険しくするという器用な表情をした。

 

兵長が指摘するように、やはりどうしても棺のような持ち手もない、

 

到底武器とはいいがたいものを振り回し続けることなどできるはずはないのである。

 

 

 

惇兵4「皆どいてくれ!予備の衝車でコイツごと扉をぶち破ってやんよ!」

 

 

 

すると、隊の後方から何人かの兵士たちが別の衝車を押しながら駆けてきた。

 

そして、スピードを緩めることなく、そのまま城門にぶちかます勢いで鳳徳めがけて突進した。

 

 

 

鳳徳「豪快っ!」

 

 

 

これには堪らず、鳳徳は完全に防御の体勢に入り棺で衝車による攻撃を防いだ。

 

ガキンンッという鈍い音が鳴り響くと共に、しかし鳳徳はこれ以上は防ぎきれないと判断し、

 

棺を捨てるとそのまま跳び上がって攻撃を回避した。

 

 

 

惇兵4「チッ、避けたか化け物め。だが棺を手放したぞ!」

 

 

 

鳳徳に渾身の攻撃を避けられ、兵士は舌を打ったが、得物を手放させることに成功し、結果オーライと興奮気味に叫んだ。

 

 

 

惇兵5「っていうかこの棺全然へこんでねぇじゃねーかいったいどんだけ丈夫―――」

 

 

 

しかし・・・

 

 

 

鳳徳「油断っ!」

 

 

 

跳び上がった鳳徳が再び地上に降り立った時、ズサンッという、

 

人がジャンプした程度では到底鳴らないような音が響き渡った。

 

兵士たちの目に映っているのは、黒の外套を羽織ったトロンとした表情の白銀ツインテール娘の姿であるが、

 

しかし、その手には先ほどは持っていないものが握られていた。

 

銀色に輝くそれは、鍔の部分が異様に長い、自身の身長ほどもある細長い巨大な西洋風の宝剣。

 

鳳徳は、その剣を衝車に突き立てており、杭の連結部分が断ち切られ使い物にならないようになっていた。

 

 

 

鳳徳「大敵っ!」

 

惇兵5「ギャ」

 

 

 

そして、鳳徳は剣を衝車から引き抜くと、返す刀で目の前にいた兵士の首を飛ばした。

 

 

惇兵長「な・・・どこからあんな馬鹿でかい剣を―――まさか、あの棺の中か・・・!あれの鞘だったとでも言うのか!?」

 

 

 

兵長は驚きながら鳳徳の姿を確認し、到底剣など隠し持ちようがないと思いながらふと棺に目をやったその時、

 

そのような考えに至ったのだが、棺の扉が若干開いており、兵長の想像が事実であることを物語っていた。

 

 

惇兵2「ヤバいぞ、あのデカい棺であの振りの速さだったんだ。あの剣だといくら人数がいようが近づけないぞ・・・!」

 

 

 

仲間の首が軽々と斬り飛ばされた光景を目の当たりにし、兵士たちはジリジリと鳳徳から距離をとった。

 

今となっては最初の頃にあった士気など見る影もなくなってきていた。

 

 

 

惇兵6「おい、夏侯淵隊が合流したぞ!」

 

 

 

しかしその時、戦意を喪失しつつあった夏候惇隊に朗報が入った。

 

心強い味方である夏侯淵隊が合流を果たしたのであった。

 

夏侯淵の計らいで、隊を二分にし、一方は夏侯淵と共に呂布を追いかけ、

 

もう一方は抜けた夏候惇の穴を埋めるべく、向かわせたのであった。

 

 

 

惇兵4「本当か!?・・・っていうかなんであいつ等身ぐるみはがされてんだ?」

 

 

 

夏侯淵隊の合流で再び息を吹き返した夏候惇隊の面々であったが、

 

兵士の一人が告げたように、なぜか合流を果たした夏侯淵隊は全員鎧兜を引っぺがされ、

 

肌着に下着姿という残念な姿になっていたのだが、これは高順らが犯人なのは言うまでもない。

 

 

 

惇兵長「だが、弓はちゃんと持っているみたいだな。皆、ここからが踏ん張りどころだ!双狼の力はなにも将軍たちだけの

 

ものじゃないのだ!我々の連携で、鳳徳を打ち崩す!攻め切れるのも時間の問題だぞ!」

 

 

兵士「応っ!!!」

 

 

 

兵長の激励を機に、夏候惇隊が前衛で槍矛類を、夏侯淵隊が後衛に移動し弓をそれぞれ構えた。

 

 

 

鳳徳「厄介っ!」

 

 

 

ただむやみに突っ込んでくるスタイルから戦列を組み連携を絡めた攻撃に出ようとする夏候姉妹隊を前に、

 

鳳徳はトロンとした瞳を歪ませ、改めて銀の宝剣を強く握り直し、使い物にならなくなった衝車の上で姿勢を低くし、

 

顔の右前で剣先を相手に向けるように構えた。

 

一応鳳徳隊の兵士たちも、鳳徳のように城壁から飛び降りて戦うといった芸当はできないため、

 

城壁の上から弓で攻撃はしているのだが、如何せん鳳徳に当たっては元も子もないため、

 

いまいち効果的な一手にはなっていなかった。

 

 

 

鳳徳兵「将軍!侯選様、楊秋様間もなく戦線に復帰されます!今しばらく耐えてくれとのことです!」

 

 

 

そのような絶体絶命の状況に陥ったしかしその時、城内の物見台から、

 

先ほど敗走した主力の侯選、楊秋隊が間もなく再出陣するという報告がとんだ。

 

 

 

鳳徳「死守っ!」

 

 

 

その刹那、鳳徳のトロンとした瞳に鋭い光が灯り、体中から静かな闘志が迸った。

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、side呂布】

 

 

曹操に呂布討伐を命じられた夏候惇・夏侯淵は、ちょうど呂布の間合いの外ギリギリの位置で睨み合いを繰り広げていた。

 

 

 

夏侯淵「呂布・・・先ほどといい下邳のときといい、お前にはやられてばかりだな」

 

 

 

夏侯淵はこれまでの呂布との戦いを思い出しながら、苦々しい表情を作って見せた。

 

 

 

呂布「・・・今回も同じ」

 

 

 

対して呂布は一切無表情を崩さない。

 

 

 

夏侯淵「確かに、私だけならばそうかもしれない。だが、今回は私だけではないぞ。姉者、今回ばかりは、ニ対一でも卑怯

 

とは言わせないぞ?」

 

 

 

これまでの戦いでは、下邳でも先ほども、いづれも隣には誰もいなかった。

 

だが、今回はその条件に当てはまらない。

 

隣には魏武の大剣と謳われる曹操軍最強の将であり、最も信頼のおける仲間であり、姉である夏候惇がいる。

 

今の夏侯淵に臆する要素など何もなかった。

 

あとは曹操に言われたように二人の連携を見せつけるだけ。

 

しかし、

 

 

 

夏候惇「・・・・・・」

 

 

 

夏候惇から返事はなかった。

 

 

 

夏侯淵「姉者?」

 

夏候惇「・・・ああ、すまん秋蘭」

 

 

 

普段と様子の違う夏候惇に、心配そうに声をかけた夏侯淵であったが、

 

やがて我に返ったかのようにハッとなった夏候惇は一言夏侯淵に謝罪の言葉を口にした。

 

 

 

夏侯淵「どうしたのだ?ボーっとするなんて姉者らしくもない」

 

 

夏候惇「いや、これからあの呂布と剣を交えるのだと思うとだな、その、何というか、血沸き肉躍るというか、とにかく、

 

ワタシはいまゾクゾクしている!」

 

 

 

実は夏侯淵と違い、意外にも夏候惇と呂布が戦うのは今回が初めてであった。

 

そのせいか、三国一と称される武将との戦いが実現し、夏候惇にとって何か思うところがあったのであろう。

 

夏候惇は自身の得物、七星餓狼を見つめながら武者震いをしていた。

 

そして、徐々に闘気のような未知のオーラが体中からあふれ出て、陽炎の如く景色を歪ませた。

 

 

 

夏候惇「いくぞ秋蘭!天下無双の飛将軍、上等ではないか!瞬く間に我ら双狼の餌食にしてくれよう!」

 

夏侯淵「了解だ、姉者!」

 

呂布「・・・かかってこい」

 

 

 

夏候惇が叫ぶと同時に七星餓狼を構えると、夏侯淵も同じく愛弓 “餓狼爪” を構えた。

 

そして時を同じくして呂布も方天画戟を構える。

 

すると、呂布もまた夏候惇同様か、或はそれ以上のすさまじい勢いで体中から未知のオーラが漲り、

 

プレッシャーとなって夏候姉妹に襲い掛かる。

 

 

 

夏候惇「夏候元譲、参る!はぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

まず初めに動いたのは夏候惇であった。

 

夏候惇は地面を強く蹴ると呂布との距離を一気に縮め、七星餓狼で呂布を袈裟懸けに斬りつけた。

 

鈍い風鳴りと共に放たれた超重量級の一撃は、物凄い加速を見せて呂布に襲い掛かったが、

 

呂布はその一撃を軽々と受け止めてみせた。

 

甲高い金属のぶつかる音が響き渡り、わずかに遅れて衝撃波にも似た何かが同心円状に広がる。

 

しかし、そこへ間髪おかずに夏侯淵が夏候惇のことなど構わず呂布目掛けて正確に矢を放っていく。

 

普通であれば夏候惇に当たってしまうはずなのだが、しかし、夏候惇は背中に眼でもついているのかというぐらいの、

 

絶妙のタイミングで夏侯淵の矢を避けつつ、呂布に猛攻を仕掛ける。

 

そこに加えて、夏侯淵は呂布が攻撃を回避した時に移動するであろう位置に矢を放つことで、

 

呂布の回避スペースを削っていった。

 

それはさながら、自身の矢と夏候惇までも利用した、詰将棋が如き華麗な戦いぶり。

 

当然夏候姉妹の絶対的信頼と連携があってこそなし得る神業であったが、しかし、

 

 

 

呂布「・・・こんなものか」

 

夏候惇「何ッ――――――くっ・・・ぐわぁッ!」

 

夏侯淵「なっ・・・姉じ―――くっ!」

 

 

 

呂布は無表情を崩さないまま夏侯淵の矢を弾き飛ばすと、夏候惇に向けて方天画戟を横薙ぎに振るった。

 

すると、それを七星餓狼で受けとめた夏候惇であったが、その瞬間、

 

呂布が珍しく目を瞋し、無言の気迫と共に方天画戟を振りぬくと、

 

夏候惇はその想像以上に重たく鋭い一撃を受けきれず、夏侯淵の方に吹き飛ばされてしまった。

 

突然自分の方に吹き飛んできた姉を、夏侯淵は辛うじて受け止めるが、

 

あまりの勢いに数メートル後ろに押し出されてしまった。

 

 

 

夏侯惇「くそっ・・・すまん秋蘭!大事ないか!?」

 

夏侯淵「あぁ・・・だが、これほどとは・・・!」

 

 

 

夏侯淵に受け止めてもらった夏侯惇は礼を述べ、

 

夏侯淵は余裕の無表情である呂布を睨み付けると悔しそうに歯をかみしめた。

 

 

 

呂布「・・・恋は天龍・・・天の傍に控える龍・・・天が恋の傍にいる限り、恋は天下無双・・・」

 

 

 

かつて、虎牢関で呂布は己を龍と称した。

 

しかし、今は枕に天がつく。

 

かつて董卓軍の下で猛威を振るっていたときとはまた違う、並々ならぬ揺るぎない自信と信念。

 

董卓が描いた天下統一の先にある太平の世を目指す夢は、今は北郷が継いでいる。

 

董卓とはまた違う意味で大切な存在。

 

そしてその夢を実現するために、傍らでその武を振るう。

 

董卓のためであり、北郷のためでもある。

 

もちろん陳宮や高順ほか仲間たちのためでもあり、成都ほか益州の民たちのためでもある。

 

今の呂布は、かつて以上に大切なものがたくさんできていた。

 

 

 

呂布「・・・龍は狼の餌食にはならない・・・逆にお前らが恋の餌食になれ・・・」

 

 

 

今の呂布は、まさに文字通り天下無双の龍そのものであった。

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、side高順】

 

 

張郃「きゃははは、アンタ面白い戦い方するネ!」

 

高順「あなたは、随分戦闘に心酔しているようですね」

 

 

 

高順は荒い息を吐きながらうんざりした様子で告げた。

 

高順は手数の多い張郃の鉤爪による攻撃に対応するために、すでに槍を三節棍に変形させ、

 

右手で1節をクナイのように逆手で持ちながら、残りの2節をクルクルと回し、左手には3本もの小刀を持っている。

 

着物のいたるところには鉤爪で斬りつけられたであろう切り傷が残っており、きれいな黒色に赤黒い染みを作っていた。

 

 

 

張郃「きゃははは、戦いこそアタシのすべてネ!肉切る感触!心地イイ悲鳴!痛みデ歪み、恐怖ニ支配された絶望ノ表情!

 

相手ノ命奪う優越感!切り刻まれテ感じる刺激!死ト隣り合わせノ命ノ危機!その全て味わえる戦いニ心酔しないノ理解

 

できないネ!!」

 

 

 

張郃は耳をふさぎたくなるような甲高い笑い声を響かせながら、ドロドロに濁った淡いブラウンの瞳に一層の狂気を滲ませ、

 

口元を弓張月のように歪ませて自身の戦闘観を熱弁している。

 

張郃の体にはすでに2,3本の小刀が刺さっており、黒のゴスロリ風衣装を赤黒く染め上げているが、

 

全く気にすることなく、抜き取ることさえしない。

 

 

 

張郃「きゃははは、さぁ、もっとアタシ楽しませるネ!」

 

 

 

そして、そのまま張郃は再び猛攻を開始した。

 

張郃が放つ不規則な鉤爪による斬りつけを、高順は上手に三節棍で弾きながら、

 

もう片方の手で持った小刀を張郃に投げ込んでいく。

 

しかし、その小刀が張郃に何度刺さろうと、やはり張郃は全く意に介さず猛攻を続ける。

 

そのような隙のない張郃は、終わることのない不規則な攻撃を続けるため、

 

高順はその全てを弾き切ることができず、着物に残る斬られた痕が着実に増えていく。

 

そして、

 

 

 

高順「しまっ―――!」

 

張郃「きゃははは!」

 

 

 

張郃の不規則な猛攻によってできたほんのわずかな高順のスキを見逃さなかった張郃は、

 

三節棍の接合部を的確に強打することで叩き斬り、そのままの勢いで、

 

高順が捲し上げている無駄に長い袖の袂を切り落とした。

 

とっさに後ろに飛んで距離をとった高順であったが、斬り落とされた袖の袂から、

 

大量の武器や小道具がバラバラと転がり落ちていく。

 

 

 

張郃「きゃははは、確かにアンタ面白いネ。けど、その袖ないト何モできないネ」

 

高順「・・・・・・・・・」

 

 

 

張郃の指摘に、高順は反論できなかった。

 

地面に散らばった数々の武器類は、当然拾えば再び使えるのだが、そのようなスキを張郃が見逃すはずはない。

 

余計な動きは死を意味する。

 

その結果が無言の回答であった。

 

 

 

張郃「きゃははは、それじゃアタシ殺せないネ!もうアンタ飽きたネ!後ハアタシガアンタ切り刻むノ楽しんデ終わりネ!」

 

 

 

張郃は鉤爪から滴る赤い液体を舌で舐めとりながら、狂気に満ちた瞳に若干の恍惚の色を滲ませ、高順目掛けて突撃した。

 

三節棍はすでに破壊されてしまっている。

 

あとは張郃の言う通りぼろ雑巾のように切り刻まれるのをただ待つだけである。

 

しかし・・・

 

 

 

高順「はぁ、仕方がありませんね。これはまだ試作段階ですが、そのようなことを言っている場合ではありませんね・・・」

 

 

 

この追い詰められた状況で、高順は俯きながら軽いため息をつくと、未だ諦めていないと思われる言葉をつぶやいた。

 

 

 

張郃「きゃははは、何ダ負け惜しみカ?アンタ面白いこと言うネ!!」

 

 

 

そのような高順の態度に、張郃はむしろ一層興奮しているようであった。

 

普段このような状況になれば、涙ながらに命乞いするか、地べたを這いつくばってでも逃げ延びようとするか、

 

 

潔く諦めて死を待つか、大抵はその三つのパターンの反応が見られたのだが、高順の反応はそのどれにも当てはまらない。

 

経験のない未知との遭遇。

 

そのことが、張郃の琴線に触れたのか、つまり、張郃の異常な戦闘欲を掻き立てる何かがあったのか。

 

張郃は身悶えしながら内腿をすり合わせ、プルプルと震えながらその狂気で濁った瞳で真っ直ぐに高順を見つめている。

 

やがて、そのドロドロした視線は、高順のある一点を注目するようになる。

 

正確には、先ほどまで袖で隠れていた細い二の腕。

 

ちょうど先ほど張郃が袂を切り落とした側の袖が、肩のあたりまで捲し上げられており、

 

そこには何かが取り付けられているようだったが、高順が少しいじると、

 

その物体はまるで鳥が翼を広げるかのように広がり、見事に弩の形を成した。

 

というより、弩そのものであった。

 

ただ、普通の弩とは少し様子が違うようで、ちょうど矢を装填する場所から何かが垂れ下がっている。

 

さらに高順はもう片方の袖も肩のあたりまでまくり上げた。

 

すると、そちらの腕にも同様の装備が施されていた。

 

 

 

張郃「きゃははは、何ダ、何か面白いことする思ったラただノ仕込み弩ネ」

 

 

 

何か想像もできないことをしてくれるものと期待を膨らませていただけに、

 

少し変わった弩というのは、張郃を落胆させるには十分であった。

 

 

 

高順「・・・・・・」

 

 

 

そして、高順は張郃の言葉を無視したまま、無言で両腕を張郃に向けたかと思うと、無造作に矢を発射した。

 

 

 

張郃「きゃははは、今更そんなもの、避けテしまえバ、痛くモ痒くモ――――――ァれ?」

 

 

 

しかし、そこで張郃の言葉は途切れた。

 

違和感。

 

何かよくわからないことが自身の体を襲った。

 

確かに高順が放った矢は避けたはずである。

 

普段であれば矢の1,2本程度刺さろうが問題ないが、それでもたまたま気まぐれに避けたのである。

 

矢は直線的な軌道を描くため、あらかじめその軌道を読み、

 

かつ放たれた矢に反射できるだけの身体能力があれば問題なく避けられる。

 

そして、張郃はその両方を可能にするだけの能力は備えている。

 

にもかかわらず体を襲う違和感。

 

その正体を知るべく、張郃はカクカクとした動きでゆっくりと自身の体を確認した。

 

そして張郃の濁った瞳に映ったのは、十数本もの矢をまともに受け、針の筵と化した自身の体であった。

 

張郃は高順の放った矢の軌道を避けるように接近していた。

 

そのはずであった。

 

しかし、それは一つの弩に対して一本の矢の軌道を想定してのこと。

 

一方、実際高順が放った弩からは、片腕から十本ずつ、計ニ十本もの矢が同時に射出されていたのであった。

 

結果、張郃は十数本の矢をまともに受ける形となっていた。

 

さらにガチャガチャという音と共に、弩から垂れ下がっていた何かの一部が機械的に矢の装填位置に吸い込まれていく。

 

そして、自身の身に起きた出来事が理解できず動きの止まってしまった張郃の一瞬のスキをついて、

 

高順はためらうことなく、滑らかな動作で再び両腕に装着された弩を張郃に向けると、そのまま矢を放った。

 

ズガガガッという風を切る音と共に放たれた二十本の矢は、今度は全弾張郃の全身に命中した。

 

 

 

張郃「ゴボェァッ・・・きャハ・・・キャは・・・ァれ?」

 

 

 

その瞬間、張郃は口中から不気味なほど真赤な液体を大量に吐き出した。

 

鼻からも真っ赤なものが流れ出ている。

 

自身の体に起きた出来事を視認してもなお、今の自身に起きている状況が呑み込めない。

 

理解できない。

 

 

 

高順「存在するはずのない幻の軌道から複数同時に射出される矢は、あたかも、獣が集団で獲物を狩るが如くの集中砲火。

 

それらの特徴を称して名付けた我が新たな得物の名は “幻獣” 。天の知識の髄を結集させて完成させた、多発式連弩です」

 

 

 

やや北郷の説明した名前とズレが生じているようであったが、

 

高順は北郷監修の元、パイルバンカーという特殊な武器を扱う厳顔や、

 

弓の名手である張任の協力の得、見事に多発式の連弩を実現させたのであった。

 

 

 

張郃「・・・きャはハは・・・アンタ・・・やッパり・・・面白イ・・・ネ・・・キャハ――――――」

 

 

 

張郃はそのまま甲高い笑い声を最後まで響かせることなく、そして、

 

弦月のような不気味な笑みを崩さないまま、その場に崩れ落ちた。

 

 

 

高順「ふぅ、さすがに桔梗の豪天砲のような連射機能を備えるのは難しいですね。あとはどれだけ矢をつがえる時間を短縮

 

できるかというところでしょうか。それに、そもそも最初の腕の袖をまくる動作に隙がありすぎますね・・・幻獣、威力は

 

十分ですが、まだまだ改良の余地ありです」

 

 

 

張郃が倒れ動かなくなる様を静観していた高順は、腕に取り付けられた使い慣れない得物に目をやりながら、

 

そのようなことをつぶやいていた。

 

 

 

 

 

 

【司隷、潼関、side馬超】

 

 

馬超「(韓遂さんに謝った方がいい?まさか、本当に韓遂さんは無実で、あの手紙は曹操軍の策略だったっていうのか・・・?

 

いや、今はそのことは後だ。まずは目の前の敵をブッ倒す・・・!)」

 

 

 

馬超の表情からは、さきほどの韓遂とのやり取りの末に生まれた不安や焦燥や戸惑いといった負の要素が若干薄れていた。

 

後に色濃く残っているのは、曹操軍に対する怒りと闘争心のみ。

 

 

 

馬超「だらっしゃぁああぁぁ!あたしの白銀の豪撃、その身に受けやがれっ!」

 

 

 

そして、雄叫びと共に馬超は自慢の十文字槍で許緒に向かって激しい突きを繰り出し、最後には思いっきり横薙ぎを加えた。

 

しかし・・・

 

 

 

許緒「へへーん、豪撃?そんな軽い攻撃、全然痛くもかゆくもないもんねーだ!」

 

 

 

許緒は涼しい顔で自慢の得物、巨大な鉄球・岩打武反魔で馬超の猛撃を受けきると、悪戯っぽくニヤリとしながら挑発した。

 

 

 

馬超「くっそー!生意気なちびっ子だな!」

 

 

 

自身の攻撃があまりにも効いていないことに、馬超はイライラしながら悪態をついたが、しかし、その時馬超に電流走る。

 

 

 

馬超「あ、そーか、やけに馬鹿でかい得物だと思ったら、お前ちびっ子だから、そんな馬鹿でかい得物でも振り回さないと、

 

相手と渡り合っていけないのか、そーかそーか」

 

 

 

それはあまりにも幼稚な挑発。

 

傍から聞いていたら恥ずかしくすら思える馬超渾身の閃き。

 

その挑発が、馬超の知能指数を物語っているのだが、しかし・・・

 

 

 

許緒「なんだとー!ボクはちびっこじゃないやい!ボクの得物が大きいのは、鍛えるためなんだからな!見てろー」

 

 

 

こうかはばつぐんだ。

 

 

 

許緒「これを持ってると動きがほんの、ほーんの少しだけ悪くなるからね。お前なんて素手で十分だもんねーだ!」

 

 

 

そのように得意げに語った許緒は、馬超の挑発にまんまとかかり、手にした巨大な鉄球を横へと投げ捨ててしまった。

 

鉄球が地面に着地したその瞬間、ズドンッという轟音と共に土煙が巻き起こった。

 

 

 

馬超(かかった・・・!)

 

 

 

許緒が武器を手放したその瞬間、馬超はニヤリとしたり顔を作って見せると、

 

すぐさま馬に乗り直し、そのまま許緒に突撃を開始した。

 

 

 

馬超「今更言い訳なんて聞かないからな!今度こそあたしの白銀の一撃、大人しくくらいやがれ!」

 

 

 

馬超は素手の許緒に向かって馬上から銀閃による渾身の突きを放った。

 

ヒュッという鋭い風鳴りと共に放たれた一撃は、人の体に風穴を開けることなど、

 

あたかも豆腐に箸で穴を開けるかのごとく容易なことであり、それはつまり、許緒を討ち取ることを意味していた。

 

しかし・・・

 

 

 

許緒「ふん!!!」

 

 

 

許緒に素手で馬超の銀閃をつかんだかと思うと、なんとそのまま馬をも受け止められてしまったのだった。

 

 

 

馬超「なっ・・・!?」

 

許緒「ちょうりゃーーーーーー!」

 

 

 

そして、そのまま馬を持ち上げたかと思うと、馬超もろとも投げ飛ばしてしまった。

 

 

 

馬超「がはッ――――――!?」

 

 

 

数メートル飛ばされた馬超はあまりの不測の出来事に受け身をとるのが遅れ、まともに地面に叩き付けられてしまった。

 

 

 

許緒「なーんだ、錦馬超ってそんなにたいしたことないんだ」

 

馬超「かはっ・・・げほっげほっ・・・くっ・・・これが・・・虎痴・・・!」

 

 

 

虎痴。

 

虎のような猛々しさと、少し抜けたところを併せ持つもの。

 

息を整え直そうと必死の馬超の目に映ったのは、自身の目の前で堂々と仁王立ちするそんな小さな怪物の姿であった。

 

 

 

【第六十四回 第四章:潼関攻防編⑦・益州の天龍 終】

 

 

 

 

 

 

あとがき

 

 

第六十四回終了しましたがいかがだったでしょうか?

 

今回は大きく分けて鳳徳、恋、なな、季衣回といったところでしょうか。

 

 

鳳徳ちゃんはそんなに前面に出すつもりはなかったんですけど、

 

折角特徴的なキャラを与えてしまったので、今回見せ場を作ってあげました。

 

戦闘スタイルとしては一応初めは棺による殴打からの、握力低下で銀の剣といった流れが基本。

 

あとややこしいですが無表情キャラですが二語の単語に込められた感情は豊かという変わった子です。

 

 

そして、虎牢関の龍は今や天を冠する天龍に。そして文字通りの天下無双。

 

あの怪物姉妹を軽くあしらう恋はやはりチートキャラといえるでしょう。

 

 

一方、天の知識によりフライングで誕生した多発式連弩「元戎(ゲンジュウ)」。

 

本物は諸葛亮配下の技術者が作ったとされる連弩です。

 

その能力は8寸(周代の計算で約18.4cm)ほどの鉄の箭を十本同時射出、或は連射できたと言われている

 

幻の武器なのですが、当然マシンガンの弾倉宜しく自動で矢が弾倉に吸い込まれるなんてことはフィクションです。

 

せめて図解だけでも現存していたらよかったのですが、、、(元戎を参考に明代に作られた諸葛弩ならあるのですが、、、)

 

那々那さんは折り畳み式のを両腕に装着していたようです。じゃあ垂れ下がっていた弾倉はどこから?

 

きっと暗器使いの袖の中は四次元空間になっているに違いないのです、、、汗

 

 

そして演義でも有名な馬超と許緒の対決。正直これがやりたくて潼関を持ち出してきたようなものなのですが、

 

これをやると大好きな翠がピンチになるというジレンマ。ぐぬぬ、、、

 

 

では、今回もまたまたオリキャラ恋姫が速攻退場となってしま―――そういえば彼女の二つ名は・・・?

 

 

それでは次回またお会いしましょう!

 

 

 

次で潼関の戦いもクライマックスです!

 


 
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