ゆりモザ3~カレくぜ2
【久世橋朱里】
下校の時刻。生徒たちが家に帰った後、残った仕事を済ませると
疲れた体を引きずって自宅に戻ってベッドの上に体を預けた。
早く着替えないとスーツがシワになってしまうのだけど、そういうことに
気付けないほど今の私の中には九条さんのことでいっぱいだった。
他の生徒にもきつく言ってしまうこともあるが、なぜかいつも目につくのは
あの子のことが多い。
何でだろう、みんな同じように接しているはずなのに。
叱っているはずなのに私の中でずっと残ってるのはあの子のことばかり。
あの子と接しているとどこか嬉しさが湧いてくるように感じるのだ。
「ううん、そんなこと・・・」
私は一旦その気持ちを抑えるために首を強く横に振ってから立ち上がって
水を飲みに行って、その後はなるべく考えないようにして過ごした。
だけど次の日。
ピンポーン。
たまの休みの日、買ってたけど忙しくて読めなかったわんことにゃんこの本を
ほっこりしながら読んでいた時にインターホンの音が鳴って一瞬びくっとしてから
玄関へ向かった。
(今日は何も用事はなかったはずだけど誰かしら・・・?)
ガチャッ
ドアを開いた瞬間、忙しない動きをする小動物のように顔をひょこっと出して
上目遣いで私を見てきた。その相手は・・・。
「九条さん!?」
「ハーイ。クゼハシ先生、おっはよーデス!」
太陽の光のように眩しい笑顔を向けてくる九条さんを前に私の動きが一瞬固まって
しまうものの、すぐに正気を取り戻して疑問に思ったことを彼女に尋ねた。
「どうしてここにいるんですっ」
「わぁっ、そんな睨まないでくだサイ!」
「に、睨んでなんかいません!」
つい以前の癖がついていた表情が出てしまった。そのせいかすっかり怯えている
子犬のような表情でいる九条さんが可愛く見えてしまった。
「で、何でうちに来たんです?」
「せっかくの休日ですシ、楽しく遊ばないともったいないじゃないデスか!」
「・・・つまりアリスさんたちと遊ぶ都合がつかなかったから私のとこに来たと」
「その通りデス!」
思い切り親指を立てて嬉しそうにはしゃぐ九条さん。それから少ししてハッと
気付いてから私の顔を改めて伺うように覗いてから。
「け、決してそんなことないデス、私はクゼハシ先生に会いたくて来たんデス!」
「そんなに必死に取り繕わなくても・・・」
まぁ、生徒がうちに来るなんて滅多にないことなんだから少し嬉しいかもしれない。
「というわけで中にお邪魔しマース♪」
私がそういう風に思った刹那、まるで私の気持ちを察したかのように九条さんは
足取り軽く家の中へと入ってきた。
「ちょっと九条さん!?」
私が言うより早く私のくつろぎスペースに入った九条さんは私に手招きをして
呼んでいた。
「早く来るデース」
「ここ、私の家なんだけど・・・」
私の素の反応を見て九条さんが少し落ち込んだような表情を見せながら
さっきよりもだいぶ落ち着いたような声色で話を始めてきた。
そんな九条さんの姿を見て私もちゃんと聞こうと彼女の前に座った。
「前にクゼハシ先生の昔話聞いていた時からずっと気になっていてデスネ・・・」
「気になる?」
「ハイ、私もっと先生のこと知りたいなって思いマシテ!」
落ち着いたかと思うとまたいつもの元気な九条さんに戻っていて、コロコロ変わって
面白いと思っていると。
「先生、もっと色々お話聞かせてくだサイ!」
「え、え!?」
九条さんは積極的に私の手を握りながら興奮するような表情と眼差しを私に向けて
そう言ってきた。戸惑う私も返す言葉がなかなか見つからなくておろおろしていると。
「ダメデスか?」
「だ、ダメじゃないです・・・!」
思わず口に出た言葉が拒絶するものではなく受け入れるものであったことに
私自身も驚いていた。
心配そうな顔をして様子を見ていた九条さんの表情を見てしまったせいもあるのだろう。
私は可愛いものに弱いから・・・。
「良かったデース!」
「こほんっ・・・今回だけですよ」
「了解デス!」
「まったく・・・」
そんな綺麗な目で見つめられたら断れなくなるではないですか・・・。
その言葉は外には出さずにそっと胸の内に閉まって、どこから話したらいいものか。
だけど一番濃密に感じられた高校時代が一番いいだろうと思って
以前思い出していたことを前より多く、九条さんに話していた。
趣味のこと、新生活に不安だったこと、烏丸先生とのこと。
最後の方は絶対に烏丸先生には話さないと約束を交わして話したけど
その辺はあまり信用できなかった。
けれど一度話し出すと最初照れくさかったのがスラスラと口から出るように
なっていって何だか心地良く感じてきた。
相手が九条さんだからなのだろうか。
ある程度話して私が打ち切るように話し終えると九条さんはすごく輝くような
笑顔を私に向けてきた。
「これで満足かしら?」
「すごく、すごく良かったデス! そっか、可愛いもの好き・・・」
そう最後の方でぼやかすように呟いてやや俯きがちになるから
どうしたのかと声をかけようとしたらすごく嬉しそうに振り返って。
「だったらとても可愛い私にはもっと優しくなってくれるデスね!?」
「調子に乗るんじゃありません!」
「やっぱり怖いデスー!」
言葉とは裏腹に嬉しそうに立ち上がって逃げようとする九条さんは足を滑らせて
転びそうになるのを私が慌てて自分の方に引き寄せてバタンッと大きな音を立てて
盛大に転んでしまった。
どうやって縺れ転んだか覚えてないけれど、今の状況は非常に気まずかった。
「あいててて」
「・・・」
先に九条さんが立ち上がって腰の辺りをさすっていると、思い出したかのように
口元に手を当てた。私も倒れた体勢のまま同じように手を当てていておそらく同じように
二人共顔を赤くしているに違いなかった。
「ご、ごめんなさいデス・・・」
「い、いえ。無事そうでよかった・・・!」
「お、お邪魔しまシター! 失礼シマス!」
我に返った私は慌てて起き上がって九条さんの前で立ってそう言うと照れたように
可愛い反応をしてからそのまま帰っていった。
まるで嵐が去ったように家の中が静まり返っていた。
私の中には騒がしくて、大変で、楽しくて・・・そして・・・ちょっとの寂しさが残っていた。
***
【カレン】
「先生はどう思いマシタかね~」
先生の家から出て少し走ってから一度振り返ってからほどよく吹く風に
髪をなびかせながら歩き出した。
日が傾き始めるのを感じて意外にも先生の家に長く居たみたいだった。
もう一度口元を指で触れて思い出しては胸をドキドキさせていた。
あの時に私を助けてくれた時のあの温もりと感触は、紛れもないキスだったのだと
確信した。
「気付いてるでショウか・・・私のこの気持ち・・・」
苦しくなるようなこの気持ち。
先生と仲良くなるたびに強くなるこの気持ち。
「うん、考えても仕方ナイ。九条カレンは引きずらナイ!また明日も同じように
クゼハシ先生と楽しく過ごすデス!」
誰に言うことでもなく自分に言い聞かすように言って私は走り出した。
深く考えてもなるようにしかならない。
私は気ままにいつものようにしていればいい。そのスタイルでずっと貫くつもりで、
そうしていつか先生に振り向いてもらえるようにがんばるのデス。
そう心に決めて私は笑顔で天に向かって拳を突き出して走り出したのだった。
お終い
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うろ覚えでアパート的な場所でのやりとりとして書いていたのだけどあれはくっしーちゃんじゃなくて烏丸先生の家の方でしたー( ´゚д゚`)ふぇぇぇっ
かといって書き直すと辻褄合わなくなるので妥協しました(*´ڡ゜)テヘペロ←
それにしてもカレンの口調難しいよ!少しでも自然になってればとがんばったけどどうかな~・・・w
大体の人はカレほのとか久世烏とかでしょうけど個人的にこの組み合わせもグッとくるものがあります。一見タイプは逆ですが相性は良い気がします(*´﹃`*)
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