No.772425 九番目の熾天使・外伝 ~vsショッカー残党編~竜神丸さん 2015-04-20 16:07:25 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1630 閲覧ユーザー数:922 |
「稲森真由、それがあなたの名前ね」
「はい…」
鳴海探偵事務所、スカルギャリー格納庫。そこでディアーリーズ、ハルカ、始の三人は、目覚めたばかりのメイジの少女―――稲森真由と対面していた。ちなみに荘吉や幸太郎はショッカーキャッスルに潜入する為の計画を練っている最中で、ハルトはレギオンを退治するべく外出中、刃は未だ意識を失ったまま。そしてディアーリーズが真由と正面から向き合っている中、ハルカは故障したロストドライバーの修復中で、始は自分で淹れたコーヒーを飲みながら話を聞いている。
「…本当にすみませんでした! 私が洗脳された所為で、皆さんにご迷惑を…」
「い、いえ、頭を上げて下さい! 真由さんは何も悪くありませんって! 悪いのは真由さんを洗脳して操っていたショッカーなんですから!」
「まぁ私達も別に、あなたが洗脳されてた件について強く言うつもりは無いわ…………私こそ、あなたを非難出来るような立場じゃないもの…」
「? ハルカ、何か言ったか?」
「いいえ、何でもないわ」
ハルカの小声に気付いた始だったが、ハルカが誤魔化した事でそれもうやむやになる。ハルカはパソコンを操作していた手を止め、ディアーリーズと同じように真由の方に顔を向ける。
「ねぇ。洗脳されている間の事も、覚えてはいるかしら?」
「あ、はい……操られてる間も、意識は残ったままでしたから…」
「なら、覚えてる範囲だけでも良いわ。ショッカーのアジトにいた時の事を話して貰える? 何かショッカーの情報が欲しいのよ」
「…分かりました」
始から渡されたコーヒー入りのカップを両手で持ち、苦みと砂糖の甘みが混ざったコーヒーを一口飲んでから語り始める。
「私は元いた世界では、ファントムを退治する為の活動をしていました。今日もいつものように、警察の協力を得ながらファントムと戦っていたんですが……その途中、いきなり変な空間の裂け目が現れて、私もファントムもそれに吸い込まれてしまって、気付いたらこの世界にいたんです」
「空間の裂け目……それを利用して、ショッカーはこの世界に色々な物を引き寄せているのね。自分達の手駒を増やす為かしら?」
「はい、恐らくは。その後、ショッカーの手先に襲われて戦ったんですが、結局は捕まってしまって……そのまま連れて来られたアジトで、オーマという人に会いました」
「オーマ……ソーサラーですか」
「そして、今のショッカーを率いている大首領…」
「オーマは私を洗脳する直前に、こう言っていました…」
『ッ……離してっ! この…!』
『えぇい、大人しくしろ!! 小娘の分際で!!』
『『イーッイーッ!』』
ショッカーキャッスルにまで連行された後、独房に連れ込まれた真由。ショッカー戦闘員達に立った状態のまま両腕を鎖で拘束され、それを見ていた蜂女は真由を見下しているかのような視線を向けている。
『あなた達は一体何者なんですか! 何が目的でこんな事を…』
『何が目的かだと? 決まっているだろう。我等ショッカーは世界を征服し、人間を管理する為の秩序ある世界を作り上げるのだ』
『ショッカー…?』
『ライダーを捕まえたようだな、蜂女よ』
『! はっ、大首領様!』
『『『イーッ!』』』
そんな時、独房にオーマが姿を現し、蜂女や戦闘員達は一斉に敬礼する。オーマは真由の腰のベルトに付いている手形のマークを見て「ほぉ」と興味深そうに近寄って行き、真由の顎を指でクイッと上げる。
『…!』
『なかなか肝の据わった目をしているな。面白い娘だ』
『ッ……あなたは一体…!』
『貴様、誰が発言して良いと言った!』
『構わん。蜂女、お前達は他のライダーの捕縛に向かえ』
『ハッ!』
『『『イィーッ!』』』
オーマは蜂女と戦闘員達を下がらせ、独房はオーマと真由の二人だけとなる。オーマは真由の周囲を歩きながら真由をじっくり観察する。
『まさか君も魔法使いだったとはね。私も純粋に驚いてるよ』
『魔法使い…? じゃあ、まさかあなたも…』
『そうとも。ただまぁ君にとっては……こちらの姿も馴染み深いだろうけどねぇ』
『!?』
オーマは竜の特徴を持ち合わせたファントム―――ドレイクに姿を変える。真由がその姿を見て驚愕し、ドレイクはそんな彼女の反応を見て面白そうに笑う。
『そんな……ファントムが魔法使いに…!?』
『だが、そう珍しい話でもないだろう? 何せ君は、既に私と同じような存在に出会っているのだからな……あの白い魔法使いに』
『ッ!!』
白い魔法使いの事も知っている?
真由は聞かされている話の内容からその反応が驚きの連続だったが、そんな事などお構いなしとでも言うかのようにドレイクは話を続ける。
『白い魔法使いが開いたサバト……それは内側に膨大な魔力を持った、賢者の石を使った儀式だ。それを調べ上げた私は賢者の石に目をつけ、実際に本人を誘拐した……笛木暦をね』
『!? コヨミさんを…!?』
『私は賢者の石が持つ魔力、そして白い魔法使いから盗んだドライバーと指輪を使う事で、ある一つの魔法の世界を作り上げたのだよ。その世界はいずれファントムだらけになる筈だった。全てがこの私の計画通りに進んでいく筈だったんだ…………それなのに』
ドレイクは右手拳をギリギリと握り締める。
『賢者の石―――笛木暦と一緒に紛れ込んだ、魔法使いウィザード!! あの男が全てを台無しにした!! この私が楽しむ為だけに作り上げた世界を!! たった一人の魔法使いなんぞの所為で、私の練りに練った計画は何もかもが崩壊してしまった!! これほど誰かを憎むような経験は過去にも無かった!!!』
ズガンと壁を殴りつけ、荒い口調で怒鳴り散らすドレイク。その迫力に思わず気圧されそうになる真由だったが何とか耐え、表情一つ変える様子を見せない。
『…だが、私は生き延びる事が出来た。そして生き延びた先で私は見つけたのだよ。このショッカーという組織の残党を』
ドレイクはオーマの姿に戻り、真由の前に立つ。
『ショッカーの残党を纏め上げた私は、まずショッカーの戦力を整える事にした。いずれ全ての世界を私が楽しむ世界に変える為に……そして何より、この私を倒したウィザードに復讐する為にだ!!!』
『…!!』
『既にある程度の人員は揃いつつある。“タナトスの器”自体はまだ未完成ではあるが……それさえ無事に完成してしまえば、一度にたくさんの戦力を集める事が可能になる』
『タナトスの、器…?』
聞いた事の無い名前ではあるが、何か碌でもない代物である事は直感で理解した真由。オーマは醜悪な笑みを浮かべながら真由の頭を掴み、自身の顔の前まで近付ける。
『その為には、君にも少しばかり手伝って貰いたいのだよ。我々ショッカーに入らないかね? 小娘よ』
『ッ…お断りします! 私の魔法は、そんな事の為に存在してるんじゃない……それに、あなたの計画が本当に成功するとは思えない』
『ほう、何故そう思うのかね?』
『あなたはかつてウィザード―――晴人さんに敗れた。挑んだところで、また同じように負けるだけです。何故なら魔法使いは……折れない強さ、覚悟を持っているから』
『…ふん、そうかね』
オーマの口元から笑みが消える。
『まぁ、断るだろうとは思っていたとも。しかし私からすれば、別に君からわざわざ許可を貰うような必要はまるで無い訳だ。何故か分かるかね?』
オーマは乱暴に真由の頭を離してから、パチンと指を鳴らす。すると独房内に一体のコンバットロイドが入り、手に持っていた台座をオーマの前に突き出す。台座の上には機械で出来た首輪のような物が置かれていた。
『それは私達の手で、強制的に従えてしまえば良いからなのだよ』
『ッ!? まさか…』
『さぁ、我々の役立って貰うぞ?』
『く、いや!!』
真由は必死に抵抗するが、両腕が封じられている所為で逃げられない。そうしている間にもコンバットロイドは首輪を真由の首に近付けていき、そして首輪をガチャリと取り付けた。その瞬間…
『…ッ!? あ、ぁあ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああっ!!!??』
『クハハハハハ……ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!』
真由の全身に紫色の電流が走り、悲鳴を上げながら悶え苦しみ始める。オーマが真由が苦しむ姿を見ながら高笑いした数秒後……そこには、ショッカーに従順な兵士が完成していたのだった…
そして、現在に至る。
「…なるほどな」
「オーマは、僕等の知らない世界でそんな事をしてたんですね。それにしてもタナトスの器か……名前からして悪そうな代物です、ね…」
ディアーリーズが言いかけたところで、彼は気付いた。自分や始と同じように真由の話を聞いていたハルカが、青ざめた表情になっていた事に。
「ハルカさん?」
「…悪そうなどころじゃないわよ、ウル……オーマの奴、またあんな物を作ろうとしてるの…!!」
「その台詞からして、何か知っているようだな。そのタナトスの器という物について」
「…これを見て頂戴」
ハルカはデバイスにある装置の画像を映し、それを三人に見せる。画面には、人間の骸骨が無数に集められたような装置が映し出されていた。
「うぇ、何ですかこのグロテスクな装置…」
「これがタナトスの器よ。集めた魔力を内部に貯蔵し、それを人間の体内に逆流させる装置。魔力を逆流させられた人間の内、魔力を持った人間は一度に流し込まれた魔力に肉体が耐え切れず、内部にいる魔力をファントムに変えて現実世界に放出しようとするの」
「内側の魔力をファントムに……!! ハルカさん、それってもしかして…」
「えぇ。ゲートがファントムに絶望させられるのと同じ……つまりオーマは、大量のファントムを一度に誕生させようとしてるのよ」
「「!?」」
「恐らく、オーマが作ったっていう魔法の世界でも同じ装置を使っていたんだと思うわ」
ハルカから聞かされた内容に、真由とディアーリーズは驚きを隠せなかった。オーマが完成させようとしているタナトスの器は、魔力を持つ人間にとっては非常にヤバい代物だ。もし完成したら魔力を持った人間が全てファントムに変えられてしまう。一度に大量のファントムが誕生させられる光景し、二人は思わず背筋に寒気が走る。
「そんな、そんな事が…!?」
「…つまり、オーマの目的はファントムの大量生産という事か?」
「たぶんね。一度に仲間のファントムが現れる上に、ショッカーの人員も大幅に増えるんだもの。オーマからすればやらない手は無いわ」
「…今はまだ未完成なのが、不幸中の幸いという事か」
「でも、これでおちおちと休んでいられるような余裕はなくなったわ。これでタナトスの器が完成したら、魔力持ちの人間は全滅よ」
「だが、まだこの場に全員は揃っていないぞ。レイはショッカーの連中を引き付けたまま、ハルトはレギオンを探してる最中、おまけに一城に至っては黙って姿を消すレベルだ」
「あぁもう、何でこんな時に限っていないのよアイツは……これじゃロストドライバーの修復も間に合わな…」
「代わりのドライバーならありますよ」
声が聞こえると同時に、ハルカの手元にロストドライバーが飛んで来た。慌ててそれを受け止めたハルカの視線の先には、既に目覚めて起きていた刃の姿があった。
「話は聞かせて貰いました。ハルカさんには私のロストドライバーをお貸ししましょう。ドライバーのアップデートも既に完了させていますので、本来のスペック以上のパワーを発揮出来る筈です。戦う際はそのドライバーを使うと良いでしょう」
「刃さん…」
「…えぇ、ありがとう。今はこれがあると非常に助かるわ」
「ッ……私も手伝います! ショッカーに洗脳されてたとはいえ、その所為で皆さんにご迷惑をおかけした事に変わりはありません……だから私も、私なりに皆さんの力になりたいんです!」
「安心しなさい。仮に嫌と言っていたとしても、あなたには元から手伝って貰うつもりでいたから……さて、早く自分の分を修理しなくちゃね」
ハルカは自分のロストドライバーの修復作業を再開し、刃も完全に起き上がってから寝起きの鍛錬を開始。その中でディアーリーズは改めて真由と向き合う。
「真由さん。この先、戦いは更に厳しい物になっていくのは間違いありません……正直は話、僕はあなたに戦って欲しくないと思っています」
「え…?」
「一度助けた人が戦場に出るのは、色々と複雑な感じがしますから……でも、そんな事を言ったってあなたは止まるつもりは無いのでしょう?」
「…そんな事はもう今更です。辛い思いなら、過去にもう充分味わいました。だからこそ、今を生きている人達にまでそんな思いはさせたくない。私は魔法を……そんな人達を守る為に使いたいんです。それから…」
「それから?」
「…まだもう一人、お礼を言えていない人がいますから」
「…!」
真由が告げた“もう一人”という言葉に、始がピクリと反応する。
「! …そうですか。そういえばまだ、一真さんがここにいませんしね」
「はい。だから…」
「…分かりました、僕からはもう何も言いません。一緒に勝ちましょう、この戦いに」
「はい」
真由の笑顔を見て、ディアーリーズも同じように笑顔を浮かべてみせる。そんな二人の事を、始は離れた位置からコーヒーを飲みながら見つめていた。
(本当に強いのは人の思い。お前もきっと、そう思っているんだろうな…………剣崎…)
一方、風都のとある道路…
「見つけた。剣崎一真、もう一人のジョーカー…」
突如姿を現した枯葉を見て、バイクに乗っていた青年―――剣崎一真はヘルメットを取り、バイクから降りる。その目は、明らかに枯葉の事を警戒している目だった。
「君は、アンデッドか……俺に何の用だ!」
「我、ずっと探していた。剣崎一真……あなたに、聞きたい事、あるから」
「俺に聞きたい事? どういう事だ!」
「…ジョーカー、どうして変わった?」
「…?」
枯葉の質問の内容に、剣崎は意味がよく分からず首を傾げる。
「ジョーカー、相川始…」
「!? お前、何で始の事を知って……いや、待てよ…上級アンデッドの中に君のような子はいなか……まさか、ハートのカテゴリーKか…!?」
「正解」
枯葉がカテゴリーKである事に気付き、剣崎は自身の肉体をブレイドジョーカーに変化させようとする。しかし枯葉はそんな彼の行動を手で制する。
「我、戦うつもりは無い」
「…へ?」
枯葉の告げた言葉に、剣崎は思わずブレイドジョーカーへの変化が止まる。
「我、知りたいだけ。相川始、どうやって人間の心を得たのか」
「え、あ……うぇ?」
「相川始の戦い、全てカードの中で見ていた。橘朔也、上城睦月、広瀬栞、白井虎太郎、栗原天音……皆が皆、彼を仲間として受け入れている。どうして?」
「…始が?」
相川始が、今も人間として生きている。
その事を理解した剣崎は、困惑していた表情から若干だが嬉しげな表情に変わる。その表情の変わり具合を見た枯葉は不思議そうな顔で首を傾げる。
「剣崎一真、どうして嬉しそう?」
「え? どうしてって……当たり前じゃないか。あの始が今も幸せに生きてるんだ。嬉しくない訳ないだろう」
「相川始が幸せ……剣崎一真、どうしてそれが嬉しい? 剣崎一真、人じゃなくなったのに」
「!」
枯葉に指摘された剣崎は言葉に詰まる。しかし…
「あぁ、嬉しいさ」
「…どうして?」
「皆が幸せに過ごせてるんだ。俺が選んだ道は、決して間違ってはいなかったんだって」
「…そう」
剣崎の言葉を聞いても、やはり枯葉はよく分からないといった表情だった。そんな彼女に、今度は剣崎の方から問いかける。
「それより、どうして君は俺のところに? アンデッド同士は戦うんじゃないのか?」
「我、バトルファイトに興味ない。我、知りたい事を知りたい。それだけ」
「あ、そうなの…」
一応、自分に対する敵意は存在していないらしい。それが分かって一安心する剣崎だったが、同時に自分が今も危惧している事を枯葉に告げる。
「だけど、俺はジョーカーだ。そんな俺に、どうして聞こうと思ったんだ?」
「それは……分からない」
「分からない…?」
「剣崎一真、相川始とは関係が深い。だから剣崎一真、あなたに聞くのが一番だと思った。それに…」
「それに?」
「この世界に、モノリスまでは取り込まれていない。あなたが暴走する可能性、低いと判断した」
「いや、だからって…」
「要は、お前等の輪に入りたいって事だろうよ」
「「!?」」
剣崎と枯葉の下に、上空から支配人の乗るダンデライナーが降りて来た。支配人は二人の間に着地してからダンデライナーを元の待機状態に戻し、懐にしまう。
「アンタは…」
「俺は暁零、まぁレイで良いさ。ようやく見つけたぜ、剣崎一真」
「…ショッカーの手先か?」
「おいおい、そりゃ違うっての。俺はただお前に協力して欲しいだけだ。ショッカーを倒す為にな」
「うぇ? じゃあ、アンタは…」
「安心しろ、俺はお前の味方だ。それにお前が味方になってくれれば、相川始も喜ぶだろうしな」
「!? どうしてアンタまで始の事を…」
「ん、俺か? どうしてかって言うと……まぁ理由は一つだ」
支配人はブレイバックルを取り出し、それを見た剣崎は驚愕する。
「ブレイバックル!? どうしてアンタがそれを…」
「答えは簡単。お前のいた世界ではなく、違う世界で手に入れたからだ。分かるだろ? 平行世界って」
「平行世界…?」
「世界ってのはいくつも存在してるんだ。アンデッドが存在しない世界、仮面ライダーが存在しない世界、それ以外にも色々な世界がある。まぁその辺の説明は置いといて……どうする? その娘が言うには、モノリスはこの世界に取り込まれてないらしいじゃないか。今なら相川始に会っても問題ないんじゃないか?」
「…俺は…」
-ズドドドドォンッ!!-
「「「ッ!!」」」
直後、三人の足元に銃撃が飛んで来た。三人が振り向いた先には、ジャガーマンとスイーツ・ドーパント率いる怪人部隊が姿を現していた。スイーツ・ドーパントの後ろにいるシュバリアンの右腕の砲門から煙が噴いている事から、今の銃撃もシュバリアンの仕業である事が伺える。
「ようやく見つけたぞ!! ジョーカー、カテゴリーK!! さぁ、我々と共にショッカーキャッスルまで同行して貰おうか!!」
「残ったお前は、このアタシが美味しく味わってあげるよ…アッハッハッハッハ!!」
「おうおう……これまた、面倒なタイミングで出て来やがったな」
「…話の邪魔」
枯葉は支配人と剣崎の前に立ち、その姿を一瞬にして変異させる。
カリスにも似たような外見。しかし体色は血のように赤く、そのハート型の目は緑色。そして幼さの残った少女から一瞬にしてグラマラスに変わった女性らしい体型。
ハートのカテゴリーK―――パラドキサアンデッドは、両太腿の鞘に収納されていた二本の小鎌―――サヴェッジ、ワイルダーを抜き取り、優雅に構えてみせる。その立ち振る舞いはカテゴリーKであるにも関わらず、まるで女王のような気品さを醸し出していた。
「ほぉ、やっぱこっちのカテゴリーKは姿が違うんだな」
「へ? 姿が違う?」
「あぁいや、こっちの話だ。さ~て、どうする剣崎? まずはアイツ等から先に潰すか?」
「…あぁ。力を貸して欲しい」
「OK、任せろ」
剣崎はブレイドジョーカーに変化し、支配人はブレイバックルにカテゴリーAのカードを差し込んでからそれを腰に装着。直後にブレイバックルのレバーを引く。
「変身」
≪TURN UP≫
放出された青いオリハルコンエレメントを通過し、支配人は仮面ライダーブレイドに変身。鞘に納まっているブレイラウザーを抜き取り、ブレイドジョーカーもオールオーバーを構える。
「行くぞ、剣崎」
「あぁ……ウェァァァァァァァァァッ!!」
ブレイドとブレイドジョーカーは同時に駆け出し、ジャガーマン率いる怪人部隊が二人を迎え撃つ。ブレイドは一番目の前にいたジャガーマンに攻撃を仕掛け、ブレイドジョーカーはその後ろにいたシュバリアンやムースファンガイア、ファルコンロードを擦れ違い様に斬りつけていく。二人が取りこぼした怪人の内、ウワンやワイルドボーダーがパラドキサアンデッドに向かって突撃し、パラドキサアンデッドはその場から動かないまま、接近して来たウワンとワイルドボーダーをサヴェッジで容赦なく斬りつける。
「おのれブレイド、邪魔をするな!!」
「悪いな。お前等の邪魔をするのが、俺達にとっての趣味なんだよ!!」
「ウェアッ!!」
「グワァ!?」
「フッ…」
「ギギギッ!?」
ブレイドのブレイラウザーとジャガーマンの振るう棍棒がぶつかり合う中、ブレイドジョーカーはシュバリアンを蹴り飛ばしてムースファンガイアごと転倒させ、その近くではパラドキサアンデッドが物静かな雰囲気を放ちながらもウワンを連続で斬りつけている。その中でブレイドはジャガーマンを蹴り飛ばしてから、二枚のラウズカードを取り出しブレイラウザーに読み込ませる。
≪SLASH≫
≪MAGNET≫
「!? グォオッ!?」
「ウェイ!!」
「ヌワァァァァァァァァァァァァッ!?」
するとブレイドジョーカーと戦っていたシュバリアンが、磁力によってブレイドの下まで引き寄せられる。ブレイドは引き寄せられたシュバリアンをブレイラウザーで横に一閃し、シュバリアンが爆散する。同時にスイーツ・ドーパントが飛びかかり、ブレイドと掴み合いになる。
「やるじゃないかい!! アンタ、ショッカーに加入する気は無いかい?」
「お断りだ……てか、その口調からして明らかに女だなお前? 何故ショッカーに従っている」
「決まってるじゃないか!! ショッカーに加入するだけで、風都の美味しいスイーツが食べられるんだ!! そんな好条件を出されて、加入しない馬鹿が何処にいるってんだい!!」
「へぇ、そういう事……全く。風都ってのはどうしてこう悪女が多いんだか…」
「はん、言ってくれるね!! 大人しく加入してくれれば、私がアンタを優しく味わってあげたのにさ!!」
「だからお断りだっつってんだろうがよ!!」
ブレイドはスイーツ・ドーパントを殴りつけ、横から飛びかかって来たコウモリインベスをブレイラウザーを突きつける形で吹き飛ばす。
「ウェェェェェェェイッ!!」
「シュァァァァァァァァァァァァ!?」
一方でブレイドジョーカーは、オールオーバーでメ・ギャリド・ギを斜めに斬り裂き撃破。そのままショッカー戦闘員やマスカレイド・ドーパント達も同じように斬り裂いて行く。しかし…
「―――ッ!? グゥ、ア…ァ……ァ、ガ…」
「! …剣崎一真?」
戦っている途中、ブレイドジョーカーは突然その場で苦しみ始めた。パラドキサアンデッドがそれに気付くが、ワイルドボーダーが突進して来た為、ひとまずはそちらに集中する。
「今だ、ジョーカーを捕縛しろぉ!!」
「「「「「イィーッ!!」」」」」
「マズい……剣崎!!」
蹲っているブレイドジョーカーに、ショッカー戦闘員達が一斉に飛びかかる。ブレイドジョーカーがショッカー戦闘員にどんどん囲まれていくのを見て、スイーツ・ドーパントとジャガーマンは勝ち誇ったかのような笑い声を上げる。
「アッハッハァ、ジョーカーも意外と大した事ないねぇ?」
「ハッハッハッハッハッ!! これでジョーカーも我等ショッカーの手の中にぃ!!」
しかし…………彼等の思惑は、一瞬にして崩れ去った。
-ズババババァンッ!!-
「「「「「イィィィィィィィィィッ!?」」」」」
「んな!?」
「な、何ィッ!?」
ブレイドジョーカーを囲っていた戦闘員達が、一人残らず一斉に爆散した。爆発が収まったそこには……血に飢えているかのように唸り声を上げる、ブレイドジョーカーの姿があった。
「グルルルルル…!!」
「!? アイツ、ジョーカーの本能が目覚めたのか…!!」
「…グルァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
「ギャァァァァァァァァァァァッ!?」
獣のように吼えながら、ファルコンロードを一撃で斬り倒すブレイドジョーカー。そのまま暴走は止まらず、近くにいたマスカレイド・ドーパントからコンバットロイドまで、手あたり次第に薙ぎ払って行く。
「な、何事だい!?」
「お前は邪魔だからどいてな!!」
≪BEAT≫
「アグァッ!?」
ブレイドはスイーツ・ドーパントをライオンビートで殴り飛ばしてから、左腕のラウズアブゾーバーからそれぞれカテゴリーQ、カテゴリーKのラウズカードを取り出す。
≪ABSORB QUEEN≫
まずはカテゴリーQのラウズカードをラウズアブゾーバーに装填する。
≪EVOLUTION KING≫
その次にカテゴリーKのラウズカードをラウズする。するとブレイドの周囲にスペードのアンデッド十三体が封印されたラウズカードが出現し、それぞれがブレイドの全身に黄金の鎧となって装着されていく。こうして変身が完了した黄金の皇帝―――仮面ライダーブレイド・キングフォームは、本能のままにコウモリインベスを斬りつけて爆散させたブレイドジョーカーと真正面から対峙する。
「どうした剣崎、お前はそんなに弱い男だったのか?」
「グゥゥゥゥゥゥゥゥ…!!」
「良いだろう。お前がそこまでして暴れたいなら、俺が相手になってやる」
口調ではそう言いつつも、支配人にとってはかなり危険な賭けでもあった。目の前にいるブレイドジョーカー……剣崎一真は戦闘力が非常に高い。その気になれば支配人が変身したキングフォームなどいとも容易く圧倒してしまう事だろう。しかし彼の暴走を止めるにはやるしかない。支配人―――ブレイドは既に覚悟を決めていた。
「さぁ……来い!!」
「ッ…グガァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」
ブレイドジョーカーは高らかに咆哮を上げ、振り上げたオールオーバーをブレイドに向かって振り下ろす。ブレイドはそれを重醒剣キングラウザーで受け止めようとした瞬間…
「…ッ……グ、ガ……ァ…!!」
オールオーバーの刃先は、ブレイドの頭の上でギリギリ止まっていた。オールオーバーの刃先がそこから下に降ろされる事は無く、オールオーバーを持っているブレイドジョーカーの両手も、まるで「これ以上は駄目だ」と言うかのような感じでプルプルと震えていた。
「…意識はあるようだな」
「グ、ゥ……ガ…!!」
その時だ。
-パシュッ!-
「ッ!?」
ブレイドジョーカーの腹部に、一本の針のような物が撃ち込まれた。
「ガァア、アァァァ…!? ガァ、ア……ァァ…ァ…………はぁ、はぁ…」
その直後にブレイドジョーカーはオールオーバーを足元に落とし、喉元を掻き毟るような動作をしながらその場で苦しみ……その数秒後、その姿が剣崎一真の姿へと戻った。膝を突いたまま呼吸を整える剣崎を見て、支配人は何が起こったのかすぐには理解出来なかった。
「何だ? 今の、何を撃ち込まれたんだ…?」
「対アンデッド用の抑制剤じゃよ」
「!」
ブレイドの目の前に、フワリと降り立った一人の男。その男の顔を見た支配人は目を見開くも、すぐに小さく笑みを浮かべる。
「やっと来たのか。遅いぜ、
「何を言うか。ここへ来るのにも時間がかかったんじゃぞ? 少しは儂の事を労わらんかい」
「はん、どうだか」
老齢の男―――ヴァニシュは手に持っていた拳銃を納め、ブレイドは変身を解除して支配人の姿に戻る。一方で剣崎は自分が人間の姿に戻った事に驚いていた。
「あれ……俺、何で元の姿に…」
「抑制剤を撃ってやった。これでしばらくはアンデッドの本能を抑えられよう……モノリスの支配下じゃと、どうなるかは分からんがのう」
「アンデッドの本能を…?」
「…さて」
支配人はブレイバックルを剣崎に差し出す。
「今のお前なら、むやみやたらに暴走する事は無いらしい。だから…………戦ってみろ。仮面ライダーとして」
「!」
支配人からの提案に剣崎も目を見開いたが、すぐに表情が真剣な物に変わる。この時点で支配人は確信した……彼がこの提案を断る事は無いだろう、と。
「…ありがとう、レイ。それから…」
「ヴァニシュじゃ」
「ありがとう、ヴァニシュさん」
剣崎は支配人からブレイバックルを受け取り、それをすぐさま自身の腰に装着。支配人とヴァニシュが横で見届けている中、剣崎は右手を左斜め前方にゆっくり突き出していき、右手首を後ろから前へ180°素早く回転させる。そして…
「―――変身ッ!!!」
≪TURN UP≫
「「グガァッ!?」」
左手を前に突き出し、右手でブレイバックルのレバーを引く。出現したオリハルコンエレメントがムースファンガイアとワイルドボーダーを弾き飛ばし、剣崎は自分に向かって移動して来るオリハルコンエレメント目掛けて思いきり走り通過する。
「ウェェェェェェェェェェェェェェェイッ!!!」
彼は復活した…
愛する人々を守る為に戦う、青いスペードの戦士…
仮面ライダーブレイドとして。
To be continued…
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