No.76993

愛紗という娘・中編

もけもけさん

初投稿の身で熱い応援ありがとうございます!

愛紗メインのつもりで書いたんですが朱里や翠に対するコメントもあってびっくりしました。

>Poussièreさんへ

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2009-06-03 01:17:19 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:5908   閲覧ユーザー数:4790

 

「・・・・・・・・・ん。」

部屋に戻って考えるはずがいつのまにか眠ってしまったようで、窓から漏れる太陽の日差しで目が覚めた。外はさぞ晴れ渡っている事だろうが、俺の心は全く逆だ。

 それからしばらくの間、愛紗と共に過ごしてきた時間を思い出していた。少しでも愛紗という女の子がどういう想いで自分と接していたのか思い出すためだ。その中に自分が抱いていた想いも見つかるかもしれない。そんな考えが俺にはあった。桃園の誓いを経て、戦場では常に自分の身を守ろうと前に立ち、執務においても不慣れな自分を手伝ってくれた。どんなに俺がまずい決断をしてもそれが一番と自分を立ててくれた。

 そう、家臣としては十分すぎるほどに愛紗は有能である。しかしこれは、愛紗であって愛紗ではなく、誰もが知ってる義に熱く、情け深い「関羽 雲長」その人。愛紗という女の子の想いとはまた別なのではないか、そう考えると俺に対する愛紗のビジョンが曖昧になってしまい一向に考えがまとまりそうになかった。

 あぁ、駄目だ、駄目だ。考えるだけ無駄だな。ちょっと外に出て気分転換だ。ちょっと視点を変えれば違ったことが見えてくるかもしれん。

 つーわけで、外出だ。昼も近いし、ちょっと市に出よう。そうと決まれば誰かいないかなっと。

 廊下に出てみれば、なんとたわわに実った果実が2玉、桃香に・・・、ゲェ!愛紗!気分転換と言えども流石に本人と接近遭遇は不味い。後ろに前進!後退じゃないぞ、前進だ。

 その後、どこをどうやって来たかは定かではないが気が付いたら市のど真ん中にいた。

 えーと・・・愛紗に見つかりそうで、いや見つかったほうが良かったのか?あ、でもわからないから部屋に篭って、あ、でもわかったから外に出て・・あれ、あーと、そのなんだ。あー、もうわけわかんねぇ!

「助けてください!助けてください!助けてください!」

「市の中心で何を叫ぶの?ご主人様。」

 そ、その声はもしや・・・!

「びっくりしたよ。ご主人様を見かけたと思ったら突然逃げ出すんだもん。」

「桃香!!」

「ふ、ふぇ。いきなり何?ご主人様。大胆すぎだよ、こんな所で・・・。」

「あ・・・。」

 歓喜のあまり、両手を胸に取って、これでもかというほど顔を近づけて見つめていたことに今気づいた俺である。

「ごごごごご、ごめん!!」

「んー、いやそれはいいんだけど、早く手を離してもらえると助かるかな、お互いにー、なんて。」

「ごめん、桃香。太守の2人がこんなところで何やってるのかとよくない噂が立ちそうだよな。」

「あ、えと、嫌とかそういうことじゃなくてね?どっちかというと嬉しいというか・・・。ああ、そうじゃない、あのね、その・・・ね、ご主人様。」

 相変わらず、桃香は可愛いなぁ!でも、なんか雲行きが妖しいな。

「なに?」

「わ、わたし、愛紗ちゃんと一緒に来てたりするんだけどなー・・・。」

 あー、そっかー。桃香と一緒に愛紗が来てたから、やっべーと思って撤退したんだったな。

「・・・・・・・・・ご主人様。」

 痛っ!今の愛紗の声が痛い!抉られるように痛い!

「・・・な、なんでしょうか、その愛紗・・・さん。」

「っ!」

 愛紗の体が震えてるのが目に見えてわかった。俺、終了のお知らせ?

「い、命ばかりはお助けを!」

「う・・・ああああああああああ。」

 逃げた・・・?って何故だ!

「お、追いかけて!ご主人様!」

「いや、しかし俺なんかが行ってももも。」

「ご主人様以外に誰が行くの!見てよ!愛紗ちゃんのいた足元!」

「あ・・・。」

 桃香が指差した先、そこには数滴の雫が落ちていた。

「くそっ!俺のバカ!バカ!バカ!」

 またやってしまった。これ以上傷つかないように考えようとしたのが結果的には女の子を泣かせてしまった。最低だ、ここで追っかけないと男の沽券に関わる。

「今、行くぞ、愛紗。」

「不器用な妹を宜しくね。ご主人様。」

「ああ。任せとけ!」

 

 

・・・どこ行ったんだろ愛紗、颯爽と飛び出したまでは良かったが見失ってしまった。

 まぁ、天下無双の武将が全力で逃げ出したら、一般人の俺なんかが追いつけるはずも無く、やみくもに走り回ったおかげで迷子になってしまった。周りと見渡してみると辺り一面が木々に覆われていて、陽の光も遮られるほどの深い森の中。

 枝かなにかで切ったんだろうか、体中もすり傷だらけで、服装も葉のくずやらなんやらで随分とみすぼらしくなってしまい、すごく情けなくなってきた。

「・・・はぁ。」

 愛紗は今頃何をしているだろうか。おそらくは城に帰ったとは思うけど、しかしこれからどするかな。後を追おうにも帰ろうにも道がわからん。

「待つしかないか。」

 森で遭難した身でやみくもに動くよりは、じっと助けを待ったほうが利口かもしれん。

 城の太守が帰らなかったとなれば、捜索隊も組織されるだろうしな・・・うん。

 女の子を傷つけただけじゃなく、他の皆にまで迷惑をかけてしまうなんて、太守失格だよな・・・男としても。こんな俺を見たら、愛紗や他の皆はどう思うだろうか。軽蔑する?怒る?それとも、呆れながらも笑ったりしてくれるんだろうか。きっと、愛紗も・・・いや、違うな。愛紗なら呆れはしても怒るんだろうな、一国の主がそれで務まりますか、そう言いながらもどこかで俺のことを気にかけてる節があって本気で怒れなくて、それを星や紫苑にからかわれたりなんかして、真っ赤な顔になってムキになって否定したりしていつのまにか俺の説教はうやむやになっちゃうんだよな。

 おかしいな、ついさっきまで愛紗という女の子が全く見えてなかったのに、今ならしっかり愛紗という女の子が見える、居なくなって、泣かせてしまったからか不思議と冷静になれたんだろうか、そんなことはどうでもいいか。今一度、愛紗のことを想い起こしてみよう。

 愛紗はずっと俺の目の前で一緒に居続けてくれた。それを見えなくしたのは自分自身、彼女が一途で真っ直ぐすぎるのがまぶしくてどこか逃げていたのかもしれない。そうでなければ怒った時や悲しそうな時にわかってあげられたのに、気づかせまいとする彼女に甘えて気づかないフリをした。そのほうが楽だった。愛紗だけじゃない他の娘だってそうだったかもしれない。皆の期待が、優しさが、大きすぎて、俺がそれに応えられるのか、愛想を尽かされるのが怖かったんだ。俺の優しさなんて、皆に嫌われたくないと思っただけで誰のことを思ってたわけじゃなかったんだな。そうであったとしても、皆優しいからな、それすらもある者は呆れ、笑い、怒るんだろうな・・・。

 寂しい、皆のことを思い浮かべていくとそんなことを想う。気づけば辺りは真っ暗だ。

 そろそろ、捜索隊の人が来ても良い頃だと思うんだが・・・。

「・・・あ・・・・で・・・ん。」

「おま・・・な・・・・。」

「はは・・・・や・・・。」

 話し声が聞こえる・・・?ぼんやりと松明の明りが見て取れた。しめた、旅人か誰かが通りがかったのかもしれない。道を教えてもらえれば城まで帰れるかも!

「ちょっとすいませーん。道に迷っちゃよろしければ城までどういけばいいのか教えてもらえますか?」

「あん?」

「だからですね、道に迷ったので城までの道をおしえていただけたらなーと・・・。」

 距離が近くなるに連れて相手の輪郭がはっきりしてきた。1人目、無精ひげが蓄えられたいかつい顔をしたお兄さん。2人目、これまたいかつい顔したお兄さん筋骨隆々な体つきで、赤子も泣き止みそうなおっかなさ具合、3人目、以下同文。この3人の共通点黄色いバンダナ、いい感じに動物すらも3枚おろせそうな刃物や、猪も楽々突き殺せそうな槍、つまりは・・・山賊。俺、やっちゃった?

 

 

「山賊に助けを求めるたあー、頭イカれてんじゃねぇか?」

「そういってやるなよ、頭がイカれてんでなきゃーこんなところにいるわけねーよ。」

「んだんだ。」

 言われたい放題だ。まぁ、無理もないか。こんなところに一人で何も持たずうろついてたら誰だってそう思うよな。

「ですよねー。では大変失礼いたしました。私はこれで。」

よし、即座に去ろう。何かされる前に一目散に!

「待ちな。」

「痛っ。」

1人目の男が俺の腕を取り、これでもかというほどきつく締め上げる。迂闊に動けばどうなるか、言うとおりにした方が良さそうだ。

「ほぉ。イカれた野郎だと思ったが、割と素直じゃねぇか。」

「いやいや、まともな野郎ならここは片腕もがれてでも逃げるって。何せここで大人しくしてたところでどの道くたばっちまうんだからよぉ!」

「んだんだ。」

 まぁ、そうだよな。しかし、戦おうにも武器はないどころかさっきまで散々歩き回ったおかげでへとへと、万全の体勢であったとしても3人同時に相手なんてできるとは到底思えないし、逃げ出そうにも身動きが取れない。

「というわけで、死んでくれや。」

「ひぃ!」

こ、殺される!

「フッフッフ、お前たちは詰めが甘いのぉ。」

「なんだと兄貴。いくら兄貴でも馬鹿にするとただじゃおかねぇぜ。」

「んだんだ。」

「おまえら、こいつが誰だか知らないだろ。こいつはなこの国の太守様なんだぜ。」

「嘘だろ、兄貴。俺たちを担ごうとしたってそうは行かねぇぜ。」

「んだんだ。」

「いーや、本物だね。こいつは城下の人の間では有名でな、よく市に出向いては買い物したり仕事を手伝ったりしてるって聞いてるぜ。」

「な、なるほど。そんなに変わった野郎ならこんなところにいるのも頷けるな。しかし、それだけでそいつが太守だと決め付けるのは早いんじゃないか?」

「いやいや、それだけじゃないぞ。見ろよこの服。こんな森の中でもすっげぇキラキラ輝いてるじゃねぇか。こんな服、今まで見たことねぇよ。きっと相当なお値打ち物に違いない、そんなものが着れるような輩は太守以外にねぇってことだ。」

「な、なるほど、流石兄貴だ。」

「んだんだ。」

「殺してから服を剥ぎ取ると、血がついて汚ねぇから先に脱がせろってことだな。」

「んだんだ。」

「バーカ、だからおまえ達は詰めが甘いっていうんだよ。いいか、こいつはこの国の太守だ。こいつを人質にして金品、食い物を要求を続ければ俺たちはずっと遊んで暮らせるってわけだ。」

「んだんだ。」

「おー。流石は兄貴だぜ・・・って、おまえもわかってなかったろうが!」

「ふがふが・・・。」

 人質だって!?俺1人だけくたばるならまだしもこれ以上迷惑をかけてたまるか。幸い、今はなんよくわからないが揉めてるみたいだし、チャンスかも・・・。

「っ!」

 腕を思いっきり揺らして暴れてみると、油断していたのか束縛から開放された。今しかない!

「あ、コラ!待ちやがれ!」

 待てるわきゃねぇっての。とりあえず逃げよう、どこでもいいから闇にさえまぎれてしまえば見つけることは困難だ。後は、助けさえ来てしまえばこっちのもの!

「この野郎!死ねえ!」

「あ、馬鹿!よさねぇか!」

 ん?なんだろう、様子がおかしいな・・っておい!槍が飛んできた、死ぬ!もう駄目だ!

「くっ!・・・・・・・・・あれ?」

 生きてる。ああ、そうか。またか、また助けられちゃったな。

 俺の窮地を救ってくれたのは、やはりあの少女だった。

 


 
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